2013年4月5日金曜日

開発経済学 2013-01

開発経済学 予習と復習のために

 今回から始まった開発経済学ですが,例年に比べ受講者数が多いので驚いています.時間割の関係もあるのかもしれませんね.

【授業の内容】
 開発経済学は専門科目であり,内容もつっこんだ話が多いので,関心がない人はなるべく受講しないことを勧めます.

 今回このように脅した(×)覚悟を決めてもらった(◯)理由はもう1つあります.それはこの授業は通常の講義形式ではなく,アクティブ・ラーニング(学生参加型授業)であるからです.そのため,開発経済学に関心のない学生には受講を控えてもらいたいと思っています.

 学生参加型授業とは,いわゆる講義とは違い,学生自らに考え,意見を発表してもらい,それを基に授業を進めるスタイルを採ります.もちろんいきなり「考えろ」と言っても難しいので,授業の前半は講義を行い基礎的な知識を伝え,後半に各自で,あるいは複数人で考え,意見を交換し,それをみんなに発表してもらいます.それらを僕が整理し,また新たな質問を投げかけます.このスタイルを採ることにより講義する時間が減ってしまうため,皆さんには事前に予習をしてもらうことでカバーするつもりです.3年生は授業数も減るので,ある程度時間の余裕があるでしょうしね.

 単位認定を含めた評価は,毎回の小レポートと3~4回のレポートが中心です.レポートを提出しない場合には単位を放棄したものとみなします.レポートの書き方についてはかなり厳しく指導します.特に盗用(いわゆるコピペ)は即,評価外です.

 さて,今回の授業の内容ですが,まず「開発経済学とは何か?」を説明しました.単に経済成長が目的であれば,皆さんはすでにマクロ経済学で学んだはずですね.マクロ経済学との違いは,開発経済学ではマクロ経済学では想定しないような状況の国がどうすれば成長するのかを考察します.トルストイは『アンナ・カレーニナ』の中で,「幸福な家庭はどれも似たものだが,不幸な家庭はそれぞれ(異なった)不幸を抱えている」という意味のことを語っています.これは国についても言えることではないでしょうか.つまり(幸福と思われる)先進国はどこも似た様なものだが,(不幸と思われる)貧困国はそれぞれその国ならではの問題点を抱えているということです.実際に1980年代には,貧困国に画一的な経済成長のための処方箋を与えたために,大きな副作用が出たことがあります.開発経済学ではその国独自の要因に目を向けることが必要です.例えばボツワナでは成人の1/3がHIVに感染しています.このような国では人々は長期的な視点から行動することは難しくなるのは当然でしょう.

 続いて,途上国の現状をデータで見ていきました.所得,栄養不足,教育,健康など,皆さんの予想通りでしたか.

 平均化されたデータではなく,個別の国を知ってもらうために,今回はジンバブエの現代史を紹介しました.約30年前に「世界で最も恵まれた独立」を果たした国は,現在どうなっているのでしょう.もはやかつての面影はありません.しかも状況が好転するような兆しも見えません.なぜジンバブエは理想的なスタートを成し遂げながら,その後つまずいたのでしょうか.今回僕が紹介したのはその原因の一端でしょう.

 授業の後半は「学生参加型授業」とはどういうものかを知ってもらうために,各自に「貧困とは何か?」について考えてもらいました.
 
 さて,来週のディスカッションのために次の動画を見てください.ダイジェスト版だからか非常に一面的ではありますが,参考になる部分もあると思います.
ドキュメンタリー映画『幸せの経済学』ダイジェスト版

次回も貧困についての話をします.

【課題】
 配布した小レポートの提出.
 締め切り:4/9(火)9:00

2011年12月17日土曜日

経済学A 第11回(12/6)

今回は貿易とグローバル化です.


【授業の内容】
 まずパワーポイントを使って,パレート改善,絶対優位と比較優位について説明しました.
 パレート改善とは,他の人の幸せを犠牲にすることなく,ある人は幸せになれるような変化のことです.もちろんみんな幸せになることもパレート改善です.この話をしたのは,貿易が良い変化をもたらすのかどうかを理解するためです.
 まず結果が予想しやすい例として,互いに絶対優位がある場合を考えました.例として挙げたのは,魚釣りが得意だけど米作りが苦手な漁師と,魚釣りは下手だけど米作りが得意な農家の取引です.このような相手より得意に生産できることを絶対優位と呼びます.漁師は魚釣りに絶対優位があり,農家は米作りに絶対優位があると言います.漁師と農家がそれぞれ自給自足で生活するよりも(国際貿易で言えば鎖国状態),それぞれが得意な魚釣りと米作りに専念し(これを特化と呼ぶ),作ったものを交換することで両者ともより豊かになれることが確認できました.
 さて,では何でも得意な国(A国)と,何でも苦手な国(B国)があったとすると,さすがにこの両国の間には貿易は起こらないのでしょうか.具体的に数値例を使って,この両国の貿易を考えてみました.両国は2種類の財を作っているとします(XとY).
 A国はB国よりもXとYどちらの財についても効率的に生産できます.しかし,より得意な財があるとします.これをXであるとしましょう.するとB国はどちらも苦手だけど,まだマシなのはYということになります.A国にとってのX,B国にとってのYは,比較優位があると言います.A国はXに比較優位があり,B国はYに比較優位があるのです.
 この場合,両国がそれぞれ比較優位にある財の生産に特化して輸出し合うとどうなるでしょう.この場合も先程の例と同じく両国が豊かになれる可能性があることがわかりました.みなさんに事前に結果を予想してもらいましたが,この結果を予想した人はほとんどいませんでしたね.僕としては狙い通りで,ワクワクしてしまいました.

 後半はTPPやグローバル化する未来についての話です.
 TPPは簡単に言うと,多国間で自由な貿易を進めようという取り組みのことです.ただし,自由な貿易を進めるためには関税の撤廃だけでなく,関税以外の障壁も取り除く必要があり,加盟国間で様々なルールを共通させようというものであるため,幅広い影響が予想されます.
 グローバル化とはヒト・モノ・カネが国境を越えて移動することと定義することができます.ITの普及に伴い,グローバル化は急速に進展しています.グローバル化すると起こり得ることの1つに,同じ仕事を巡って世界中の人々が争うことがあります.少し前までは日本で働く看護師は日本人がほとんどだったわけですが,今ではインドネシアなどからの看護師を受け入れるようになりました(条件は非常に厳しいですけどね).今後もこの傾向は強まるでしょう.特にプログロマーなどの話す言語に関係なく同じ条件で働ける仕事では,すでに国際的な競争は激しく行われていますね.

 というわけで,皆さんも将来,世界市場で外国人と仕事を争うことになるでしょう.その時により有利な条件で働けるよう,専門的な能力を在学中にしっかり身に付けましょうね.

経済学A 第12回(12/13)

今回は少子化と結婚の経済学です.
【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.
 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.
 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.
 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 現在の将来予測によると,皆さんの世代では1/3~1/4程度の人は生涯に渡って結婚をしないだろうとされています.たかだか数十年前までは(男女で大きく異なるものの),ほとんどの人が結婚していたのですが,現在,そして今後は結婚する人もいれば,結婚しない人もいるのが自然になってくるのでしょうね.
 さて,結婚している割合(有配偶率)をその他の指標(学歴や収入)と比較してみました.もちろんこれが全てではありませんが,ある傾向が見て取れたはずです.そのうち,なぜ収入と有配偶率に相関関係(あるいは因果関係)があるのかを説明する仮説はいくつもありますが,たくさんありすぎてすべてを紹介することはできないので,今回は,その中からイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?