週末に学会に出張していたため更新が遅れました.今回は少子化と結婚の経済学でした.
【授業の内容】
これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.
「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.
さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.
なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.
なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
授業ではイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?
2010年7月12日月曜日
経済学A 第13回(7/6)
2010年7月3日土曜日
開発経済学 第12回(7/2)
今回は疾病・保健と貧困との関係についてマクロ,ミクロの両面から説明しました.
【授業の内容】
HIV/AIDSについては知ってるような気になっているけれど,意外と知らないことが多いのではないでしょうか.まず,HIVについて説明しました.その感染方法,症状,世界中に蔓延した経緯などです.1980年代になって謎の怖ろしい病気として,先進国では大きな問題とされましたが,現在では日本という例外を除き,先進国のほとんどではHIVについての理解もすすみ,感染者数も減少しています.むしろ現在ではアフリカ,南アジアなど貧困国での感染者数の増大が大きな問題となっており,また中国やロシアでの感染者数も増えています.
続いてAIDSですが,AIDSはHIVの感染後に発症します.あくまでHIVは原因であり,AIDSは結果です.
HIV/AIDSが問題となっているのはなぜでしょう.まず第一に,健康な生活を営めないという問題があります.サハラ以南のアフリカ諸国のいくつかではHIVにより平均寿命が10年以上短くなっています.
次に,健康を損なうため,貧困を招くという問題もあります.患者の多くは10代後半以降の労働者として働き盛りであるため,働き手の1人を失うことで,家計収入は減少します.また,AIDS患者が家族内にいることで,介護する人も必要になります.結果として,AIDS患者を抱えた家庭では収入が減る一方で医療費は増大し,食費,教育費が減少します.医療費については,かつて感染したら死を待つだけと思われていたHIV/AIDSですが,現在ではAIDSの発症を抑える抗レトロウィルス剤があり,年間300~400ドルのようです.しかし,1日約1ドルという我々からすれば安価なこの薬も,1日の所得が2ドル以下の人々の多いサブサハラでは,大きな負担になります.
続いて,偏見による社会的孤立,母子感染,AIDS孤児など日本にいる我々にはなかなか想像しにくい問題があります.また,授業では言い忘れましたが,HIV/AIDSにより,家計が教育を通じて人的資本蓄積を行っても,それが収入を生まない可能性があるため,結果として国レベルでは教育水準が下がる可能性もありそうです.
さて,HIV/AIDSはなぜアフリカで猛威を振るっているのでしょうか.かつては,「アフリカでは不特定多数との性的交渉が多いから」,「割礼を受ける男性が多いから」などの仮説がありましたが,前者はデータから仮定そのものが否定され(多いわけではない),後者は逆に「割礼を受けた男性の方がHIV感染率が低い」ということがわかりました.やはり一見非合理的に見えても,その地域で長期的に継続してきた風習・慣習にはなんらかの合理性があるのでしょうね.
では,本題に戻ると,原因としていくつか考えられます.「教育水準の低さ,HIVについての基礎的知識が広まっていない」,「先進国とHIVのサブタイプが異なる」,「ジェンダー格差により女性が予防しにくい」,「売春」,「内戦」,「性に関する慣習」などについて説明しました.どれが決定的な原因なのかは判断しづらいところですが,それぞれそれなりの説得力があると思います.
このような問題に対し,どのような対策が立てられているのでしょう.成功した例としてウガンダ,失敗した例として南アフリカを紹介しました.
アフリカで問題となっているHIV/AIDS以外の疾病について,マラリア,下痢,眠り病などを紹介しました.我々にはなじみがない病気が多いために,新しい発見も多かったのではないでしょうか.いずれも,私たちからみて,ほんのわずかなお金で,これらの病気で死ぬことを防ぐことがわかったと思います.
ミクロ経済学ベイシックⅠ 第12回(7/2)
今回も引き続き生産者理論を説明し,余剰分析も少し説明しました.
【授業の内容】
生産者理論については,前回の内容の理解を深める形で,損益分岐点,操業停止点などを説明しましたね.また,そこから,操業停止点の右上部分の限界費用曲線が,企業の短期供給曲線であることがわかりました.また,企業の様々な規模の限界費用曲線から,長期の供給曲線も導出できました.
後半は余剰分析でした.余剰分析を行うためには,消費者理論から導かれた需要曲線,生産者理論から導かれた供給曲線が必要です.また,以前に学んだ価格理論を思い出してみると,需要と供給が等しくなる点(均衡点)で価格や生産量(取引量)が決まるんでしたね.
需要曲線と価格とのギャップ(出しても良いと思っていた金額と,実際に払ったお金との差額)が消費者余剰(CS)です.CSが大きいほど,消費者にとっては望ましい状況です.また,供給曲線と価格とのギャップ(限界費用と販売価格との差額)が生産者余剰(PS)です.PSが大きいほど生産者にとって利潤が増えることを意味します.
またこのCSとPSの合計を社会的余剰(SS)と呼びます.この社会的余剰が大きいほど,社会全体にとって望ましい状況であると考え,様々な政策を評価することが余剰分析です.
ちなみに基本的にはSS=CS+PSで良いのですが,税や補助金が出てきた時は次のように扱います.
SS=CS+PS+税収-補助金
なぜ税収の増加が社会全体にとって望ましいのかというと,税収は必ず社会全体のために使われるからです.逆に補助金は税収から出されるので,税収の減少と同じことなので,マイナスがついています.
次週は具体的な数値例を用いて余剰分析をやります.
ラベル: 2010, ミクロ経済学ベイシックⅠ