2010年12月22日水曜日

経済学A 第13回(12/21)

 今回は少子化と結婚の経済学という,まあ息抜きのようなテーマでした.

【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.

 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.

 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.

 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 まず結婚している割合(有配偶率)をその他の指標(学歴や収入)と比較してみました.もちろんこれが全てではありませんが,ある傾向が見て取れたはずです.そのうち,なぜ収入と有配偶率に相関関係(あるいは因果関係)があるのかを説明する仮説はいくつもありますが,たくさんありすぎてすべてを紹介することはできないので,今回は,その中からイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?

 次回はこれまでほとんど扱ってこなかった金融の話をしたいと思います.

経済数学入門 第12回(12/20)

 今回も数列です.等比数列を説明しました.

【授業の内容】
 今回説明したのは,3,6,12,24,48,・・・のように,ある数と次の数の比が一定になっている数列です.このような数列は,初項と公比(ある項は直前の項の何倍になっているか)で表現できます.この場合は初項a=3で公比r=2の等比数列と呼びます.このような数列の一般項はどのように表現できるでしょう.それを考えるため,上記の数列を次のように表現してみます.
a1=3
a2=6=3×2
a3=12=3×2×2
a4=24=3×2×2×2
 すると,このように,どの項も初項に公比を何回かけたかで表現できることがわかります.ここから予想するに,第50項は3に2を49回かけたものだろうとわかりますし,第n項(一般項)は初項に公比をn-1回かけたもの(つまり公比のn-1乗)であるとわかります.
 まとめとして一般項は次のようになります.
an=a×r^(n-1)
(注)r^(n-1)はrのn-1乗を示しています.
 このような等比数列は金利の計算に必要なので,金融を学ぶ上ではよく出てくるでしょう.

 後半は等比数列の和の導出です.授業では最後に説明しましたが,等比数列の和の計算はマクロ経済学においてはケインズの乗数効果の計算に出てきます.2年の前期の割と早い時期だと思います.
 さて,その等比数列の和の計算ですが,なぜそのようになるのかは,「こうすると上手く計算できるから」としか言えませんが,とりあえず手を動かして計算しました.やりかたは,まず,等比数列の和Snから,それに公比をかけたものr×Snを差し引きます.それによりほとんどの項が相殺されて消え,2つの項のみが残ります.そこからあとは一次方程式のように計算することで等比数列の和を導けました.公式として結論を覚えても問題ないのですが,それよりはやり方自体を覚えたほうが忘れにくいと思います.今回は有限の等比数列の計算でしたが無限数列にも応用できますしね.

 さて,そろそろこの講義も終わりに近づきました.期末試験対策をしっかりしておきましょうね.

2010年12月17日金曜日

総合政策演習C 第12回(12/16)

 今回も引き続き企業プレゼンです.

【授業の内容】
 まず玉有先生のHRと竹村先生からの就職活動についてのアドバイスがありました.

 その後,前回に引き続き企業プレゼンを行いました.前回のプレゼンを見て,そこから学んで良いプレゼンをしたな,という人もいますが,前回何を見てたんだろう,という発表もありました.もう就職シーズンに入っているのに,他人に何かを伝えるということについての意識が低いのかなと心配になりました.

 次回も引き続き企業プレゼンです.

総合政策演習BⅠ 第13回(12/15)

 今回は前回に説明が不十分だった点を説明し,その後前回配った問題を解きました.

【授業の内容】
 まず,前回,ラーナーの独占度がなぜ需要の価格弾力性の逆数に等しいのかという質問について,全微分ができないと説明できないから,と後回しにしましたので,全微分の直感的な理解と具体的計算方法についての資料を用意してきました.それを用いて証明をしたのですが,まあ知らなきゃ知らないで全然問題ありません.全国の経済学部でも学部生が全微分まで使うことはあまりないと思いますし,少なくとも公務員試験では必要ありません.
 続いて,独占の共謀のパターンですが,前回は僕がやや混乱していたため,新しい問題を用意し,それを使って説明しました.

 テストについては主にくもの巣理論の確認をしましたね.右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線という通常の需要と供給ではないケースでは,いかにくもの巣理論を使うかを説明しましたね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第13回(12/15)

 今回と次回に渡ってミクロ貿易理論の説明です.

【授業の内容】
 今回はまずリカードの比較生産費説の説明をしました.両国がそれぞれ絶対優位にある財を持つ場合は,両国とも絶対優位にある財の生産に特化し,それを輸出し合うことで,両国とも豊かになれることがわかりました.これは直感的な予想と合致することでしょうから,あまり驚きはないでしょう.
 続いて,一方の国(A国)があらゆる財の生産に絶対優位を持ち,他方の国(B国)はあらゆる財の生産で絶対劣位にある場合を想定しました.この場合,A国はすべての財について他国より効率的に生産できますが,その中でもより効率的に生産できる財もあれば,B国より少し効率的なだけの財もあるでしょう.A国はこの場合,B国と比較して最も効率的(比較優位)な生産が可能な財の生産に特化し,B国は,A国と比べて劣っている中でも,最も効率性が近い(まだマシな)財の生産に特化します.それぞれが比較優位にある財の生産に特化して,輸出し合うことで,この場合でも両国とも豊かになれることがわかりました.
 つまり両国とも貿易によりパレート改善できるのです.唯一パレート改善できない場合は,両国がどんな財の生産に関しても,双子のようにまったく同じ効率性を持つ場合です.

 ただし,上記の比較生産費説は輸送費の問題や,技術進歩の可能性を排除しています.それらを導入すると結論はどんなふうに変わってくるでしょうか?

 最後に比較生産費説の中身をグラフで表現する貿易三角形を説明しましたが,わかりにくかった気がするので,次回の講義で改めて説明します.

経済学A 第12回(12/14)

 今回は日本の財政と税について説明しました.ちょうど今,税制が大きく変わったところなので,これから税についてのニュースを聞く機会は多いでしょうね.

【授業の内容】
 最初に「消費税を上げるべきか?」と質問してみました.上げることに「反対」という人の方が多いようでしたが,「賛成」という人も結構いましたね.さて,授業が終わって,意見は変化したでしょうか.
 復習として,大きな政府と小さな政府を思い出してみました.どちらが正しい,というものではなく,私たち1人ひとりがどちらの方が理想的だと思うかです.

 皆さんに現在の日本の財政状況を紹介しました.政府は収入をはるかに超える支出をしており,巨額の赤字をしています.その内訳も円グラフで確認しましたね.歳出(お金の使い途)で重要なのは社会保障費です.その他の歳出の多くは減少傾向にありますが,少子高齢化により社会保障費(年金,健康保険など)は年々増加していますし,これからも増え続けることは間違いないでしょう.借金による収入や,借金の利子の返済などを除いた収入と支出をプライマリーバランスと呼びます.現政権もプライマリーバランスの黒字化を将来的には目指しているようですが,そのためには(当たり前のことながら)支出を減らすか(年金の減額,子ども手当の減額など),収入を増やす(増税)のどちらか,もしくは両方をしなければなりません.「税金は払いたくないけど,年金はしっかりもらいたい」などは不可能です.しっかりした社会保障制度を望むのなら増税が,減税を望むのなら社会保障の規模縮小をせざるを得ないのです.

 後半は税について説明しました.皆さん,所得税と消費税がどう違うか,普段の生活ではあまり意識しないでしょう.所得税を減税して消費税を上げようと,所得税を上げて消費税を下げることとでは,同じように見えますが,どちらを選ぶかで国のかたちを大きく変わります.
 さて,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.
 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.

 最後に,日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.日本は低負担高福祉だから財政赤字が多いんでしょうかね?

経済数学入門 第11回(12/13)

 今回と次回は数列です.今回は等差数列の説明です.

【授業の内容】
 まず等差数列とはどのようなものかを説明しました.等比数列とは,その名のとおり差が一定,つまりある数から次の数を引いた時の値が一定であるような数の並びです.例えば,1,4,7,10,13・・・という数列は等差数列です.1から始まり,以降は3ずつ増加しています.この最初の数を初項と呼び,aで表現します.またその後の変化である3のことを公差と呼び,dで示します.つまりこの数列はa=1,d=3の等差数列と言えます.また記号の使い方ですが,第1項(初項)はa1(上手く表現できないけど,"1"は小さな添字です)とも表現します.第2項以降も,a2,a3,・・・で表され,特に一般項として第n項をanで表現します.

 この一般項,第n項であるanの求め方ですが,初項に公差をn-1回足したものなので,an=a+(n-1)dで表現できます.具体的な数値例を見て,先の式にaとdをそれぞれ代入すれば良いだけです.

 さて後半はガウス少年の話をしましたね.幼い頃,先生から1,2,3,・・・,50をすべて足しなさいと言われたガウス少年は一瞬で答えを出してしまいます.個別に教えるならともかく,こんな天才が教室にいると先生も教えにくいでしょうね….
 ガウス少年の考えでは,1,2,3,・・・,50を,50,49,48,・・・,1と逆から並べ,それぞれ初項と初項,第2項と第2項というように同じ項を足し合わせると,51が50個並ぶことになります.51×50=2550ですね.1,2,3,・・・,50を2回数えると2550になるので,1,2,3,・・・,50が1つだと,それを2で割った1275が答えになりますね.
 まさにこのやり方で等差数列の和(Sn)を計算することができます.先程のやり方を言い換えれば,初項と末項(最後の項)を足して2で割ります.これにより各項の数字の平均が出せます.平均の数字が項数分だけあるので,平均値と項数をかければ等差数列の和がわかります.記号で表記すれば,
 Sn=(a1+an)n/2
となります.

 最後に,1,3,9,27,81,・・・と並ぶ数列,等比数列を紹介して終りました.次週は等比数列からです.

2010年12月11日土曜日

総合政策演習C 第11回(12/9)

 今回は皆さんに企業プレゼンをしてもらいました.

【授業の内容】
 1人が1社をプレゼンするわけですが,その企業を選ぶ上での条件が4つありました.以下のとおりです.
①国内に株式市場に上場している
②業界研究,企業研究を始める前は,その企業の存在を知らなかった
③将来性や魅力があり,その企業に就職したいと思える
④就活サイトを通じてエントリーしている

 時間がある限りやろうと思ったのですが,今回できたのは10人でした.発表を聴く人にはプレゼンした人に対してコメントを記入してもらい,10人のうち上位3人の名前を書いてもらいました.コメントはコピーして,発表者に次回の演習で渡したいと思います.
 今回わかったと思いますが,良いプレゼンとそうでもないプレゼンははっきりしています.
魅力的でないプレゼンの特徴
①事前に準備した文章を読み上げてしまう
 皆さんは教員がテキストをずっと読み上げる講義を寝ないで聴き通す自信はありますか?僕はあまりありません.語りかける講義の方が(中身が同じなら)確実に聴き手を惹きつけることができるはずです.
②相手の反応を見ない
 話すペースが適当かどうかは相手の反応をみればわかります.相手の反応を見てるだけで,ペースが適切かどうかだけでなく,相手が関心を持っているか,など様々な情報が手に入ります.
③1枚のシートに文字が多すぎる
 口頭で伝える内容とシートの文章が同じ場合,おそらく聴衆は文章を読むことに集中し,話を聴かないでしょう.シートには重要なキーワードだけを示し,後は口頭で補足するようにすれば,話に耳を傾けてくれるでしょう.
④発表する練習が不十分
 このようなパワーポイントでのプレゼンの場合,多くの学生はファイル作成にほとんどの時間を費やし,ファイルが完成したら準備ができた気になります.そのため発表する練習をほとんどしないので,本番であたふたすることになります.この最後のポイントは非常に重要です.

 次週はHRやアンケートもしますが,余った時間で今回の続きをします.またランダムに当てるので,いつ当たっても良いように準備しておきましょう.今回当たったのに発表できなかった人は,次回5分以上発表するように.

総合政策演習BⅠ 第12回(12/8)

 今回は不完全競争市場と市場の理論の問題を解説しました.

【授業の内容】
 色々質問してもらって,それに答えるという形でやったので,特に統一性はなかったですね.

 共謀の問題が分かりにくかったでしょうから,改めて次回もやります.またラーナーの独占度が需要の価格弾力性の逆数になる証明ですが,わかりやすい説明ができるかどうかが僕の課題として残りました.

 来週はテキストの全範囲の質問&解説ですね.今回配布した問題は一応テストなのでやってきてください.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第12回(12/11)

 今回は費用逓減産業について説明しました.

【授業の内容】
 費用逓減産業とは,財の生産の増加に伴って平均総費用が低下するような産業です.このような形状の費用関数を持つ産業の特徴としては,初期投資として膨大な固定費用が必要であることがあります.例としては,電力業界やテレビ局などがあるでしょうね.またコンテンツ産業もそうだと思います.

 さて,資源配分の効率性について理想的な状況である完全競争市場では,企業は価格と限界費用が等しくなるように生産しました.今回の費用逓減産業でそのように生産すると何が起きるでしょう.限界費用よりも平均総費用の方が高いため,価格と限界費用が等しくなるように生産すると(限界費用価格形成原理),赤字が発生してしまいます.そのため,自立経営ができないので,政府から補助金をもらう必要があるかもしれませんね.
 この赤字の問題を解決するためには,価格と平均総費用が等しくなるように生産する(平均費用価格形成原理)必要があります.この場合赤字はなくなりますが,効率的な資源配分の場合と比べ,生産量が過小となり価格が過大になってしまいます.

 ちなみに限界費用価格形成原理でも赤字をなくす方法として二部料金制があります.携帯電話や電力などは,使用料に応じて加算される料金の他に,基本料金を設定する場合が多いようです.赤字を加入者の数で割り,それを基本料金とすれば赤字はなくなりますね.

経済学A 第11回(12/7)

 今回は貿易とグローバリゼーションについての説明でした.

【授業の内容】
 今回は珍しくパワーポイントを使いました.今回は表を描くのが大変なのです.まず,パレート改善という良い変化の定義を説明しました.パレート改善とは,他の人の幸せを損なうことなく,誰かが幸せになれるような変化のことです.では貿易をするとパレート改善になるのでしょうか?
 貿易について理解するため,リカードの比較生産費説を紹介しました.まずは絶対優位の説明です.例として,漁師と農家で考えました.漁師は魚釣りに絶対優位があり(農家より効率よくできる),農家はお米作りに絶対優位がある(漁師より効率よくできる)というように,互いに相手より得意なものがある場合の説明です.この場合,それぞれが自分の得意な物に特化し(集中して生産すること),それを相手と交換することで,両者とも豊かになれる,つまりパレート改善できます.
 続いて,なんにも得意なものがない国と,その国に比べてなんでも得意な国との貿易を考えました.事前に皆さんに予想してもらうと,ほとんどの人は貿易により両国とも不幸せに,もしくはどちらかの国が不幸せになると考えたようです.しかし,具体的に数値を入れて見てみると,わずかではありましたが,両国とも貿易をする前よりも豊かになれ,またしてもパレート改善できています.ただし,何に特化して輸出するかと言えば,なんでも得意な国はその中でも他国と比べより効率的に生産できるものを,そして何でも苦手な国は,他国と比べ,まだマシな物の生産に特化します.

 後半はグローバル化について説明しました.グローバル化は貿易のようにモノが自由に移動するだけではありません.それ以外に,ヒトやカネ,そして情報が国境を越えて移動することを指します.ヒト,つまり労働力が国境を越えて自由に移動できるようになると何が起こるでしょう?日本人が外国人と同じ仕事をめぐって競争をするようになるでしょうね.EUではずいぶん前から,比較的貧しい東欧から西欧に向かって労働者が流入し,西欧の労働者の失業率が上がり社会問題化しましたが,日本でも現在積極的に移民を受け入れようという動きがあります.ただ,実際に外国人労働者が日本にこなくても,企業が日本を捨て,海外に会社の機能や工場を移すことになれば,日本人が国内で働く機会は減りますね.つまり,今後は皆さんは同じ日本人だけでなく,外国人とも競争をすることになるのです.その競争を勝ち抜くためには,労働力の「差別化」が必要です.わかりやすく言うと,他の人が持っていない能力(専門的能力)を身に付けることが必要です.誰でも持っている能力しか持っていなければ,安い賃金で働くしかありません.

2010年12月8日水曜日

経済数学入門 第10回(12/6)

 今回は平行移動と傾きの変化でした.おまけに円もやりました.

【授業の内容】
 経済学ではグラフの経済学的意味を読み取ることが求められます.ただの直線にも,その裏には様々な背景が意図されています.今回はその例として,ミクロ経済学でよく用いられる予算線というものを色々変化させてみました.予算線とは,限られた予算(所得やバイト代など)の下で,2つの商品をどのような組み合わせで買うことができるかを示したものです.その予算線が,商品の価格が変化すると,また予算が変化すると,それぞれどのような変化をするかを確認しました.もちろん現在の皆さんは直線を描くのに悩むことはないでしょうが,グラフを見て,そこから価格や予算にどんな変化があったかを想像するのは初めての経験でしょう.

 上記のような具体例に続いて,直線や放物線の一般的なシフトの方法を説明しました.かなりワンパターンなので,それほど難しくないはずです.
 また,直線の傾きの変化についても説明しましたが,「今さら…」という感じかもしれませんね.

 最後に円の描き方を説明しました.方程式を見て,それを変化させ,円として読み取る作業です.久々に出てきた平方完成を使いました.

 「おまけ」プリントの答えは近々HP上にアップしておきます.

2010年12月1日水曜日

総合政策演習BⅠ 第11回

 今回は主に消費者理論の復習でした.

【授業の内容】
 質問がなければテストをしようと思っていたのですが,せっかく質問があったので,まずは損益分岐点と操業停止点の説明をしました.それらについては,平均総費用,平均可変費用,限界費用それぞれの曲線を描いた図についてはベイシックで説明したのですが,今回説明したのは,総費用曲線だけが描かれたケースだったので,戸惑ったと思います.しかし,基本に忠実に要点を押さえていけば,実はそれほど難しくはありません.

 また,期待効用についての質問もあったので,そちらも説明しました.ベイシックでは最後の方で,リスクの説明の所で出てきた内容です.効用の期待値,リスクプレミアムの概念がわかれば大丈夫です.大体ワンパターンな問題ばかりだと思いますし.

 さて,来週は第3,4章について予習(復習?)しておいてください.もし質問がなければ今回の範囲のテストをしましょう.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第11回(12/1)

 今回もリスクの続きです.

【授業の内容】
 前回少し説明したリスクに対する選好の分類(リスク回避者,リスク中立的,リスク愛好家)から始めました.

 多くの人は(多くの場合)リスク回避者であると考えられます.だからこそ自動車に乗るほとんどの人は強制保険だけでなく任意保険にも入っているのでしょう.
 リスク回避者を前提に,A(50%の確率で年収が1000万円だが,50%の確率で年収0円)という仕事と,B(確実に年収500万円)という仕事について考えました.
 どちらも年収の期待値は同じく500万円です.違いはリスクが存在するかどうかです.リスク回避者の効用曲線からは,Aの仕事から得られる効用の期待値(年収の期待値ではない)が,Bの仕事から得られる効用よりも低いことがわかりました.逆にリスク愛好家の効用曲線は,Aの仕事から得られる効用の期待値が,Bの仕事から得られる効用よりも高いことを示しています.
 リスク回避者の効用曲線についてもっと考えてみると,Aの仕事と同じ効用を持つのは,確実に何万円をもらえる仕事なのか,ということもわかってきます.言い換えれば,リスクを避けるために年収をどれぐらい下げられるかです.この金額はリスク・プレミアムと呼ばれます.逆にリスク愛好家が,リスクを背負うために犠牲にできる金額は負のリスク・プレミアムと呼ばれます.

 我々,リスク回避者は,リスクを避けるために様々な保険に入ることがあります.先ほどの自動車保険もその例ですね.これも確率的に考えれば平均的な個人は,保険に入ってももとがとれません.つまり平均的には受け取る金額より支払う金額の方が大きいのです.ではなぜそのような保険に入るかというとリスクを避けるためです.リスクプレミアムより安い金額であれば,人は保険に入ることで効用を高めることができます.その理由を図を使って説明しました.また,保険に入ることは,保険会社にとっても利潤が増えるので,加入者,企業どちらにとっても喜ばしいことです.保険の発明はまさにパレート改善ですね.

 ただし,前回も少し触れたように,問題は我々が確率をきちんと把握できていない点です.我々はめったに起きない事象の確率を過剰に高くとらえる傾向があるようです.事故を起こすことも確率から考えると,必要以上に高い保険に入っているのかもしれません.
 怖がりすぎるのではなく,また怖がらなさすぎるのでもなく,確率通りに適切に怖がるというのはなかなか難しいものです.

経済学A 第10回(11/30)

 今回は為替です.来週(場合によっては再来週も)まで連続したテーマです.

【授業の内容】
 為替というのはある通貨と他の通貨との交換比率のことです.円高,円安というのはよく聞く言葉ですし,円高不況という言葉があるように,円高は悪いことのようですが,なぜ?誰にとって?悪いのでしょうか.

 まず確認として円とドルを例に,円高,円安の例を説明しました.1ドル=80円が1ドル=100円になると,「円が増えたから円高?」というように混乱しがちですが,80円,100円というのは1ドルの値段なので,ドルが80円から100円へと値上がり,つまりドル高になったということです.またドルが値上がりしたのは,その比較対象である円と比べてのことなので,この場合はドル高は円安と同じことです.

 円高不況という言葉を聞いたことがあるかもしれません.どうして我々が持っているお金の価値が高まることが不況(景気悪化)につながるのでしょう.実は私たち家計にとっては円高は(直接的には)それほど悪いことではなく,むしろ海外の商品を安く買えるため,メリットの方が大きいようです.海外旅行に行くときには,特に円高のありがたみがわかるでしょう.
 しかし日本経済の屋台骨とも言える自動車や家電などの輸出企業にとってみれば,円高は恐ろしいものです.なぜなら1ドル=100円の時,日本で3万円のデジカメはドルに直すと300ドルです.つまりアメリカでは300ドルで販売されているとしましょう.ここで円高になり,1ドル=80円になれば,このデジカメは375ドルです.25%も値上がりしてしまいました.すると,アメリカでは日本製のデジカメは割高となり,売上も落ちてしまうでしょう.
 また,少し見方を変えて,アメリカに進出し,現地で生産し,現地で販売している日本企業のことを考えてみましょう.ある年には現地で300万ドルを稼いだとします.このお金は,1ドル=100円の時(円安)には日本円に直すと3億円ですが,1ドル=80円の時(円高)には2億4000万円になります.つまり円高になったせいで,海外で稼いだお金が日本円に直すと減少してしまうのです.

 このように円高は我々消費者にはメリットがありますが,輸出企業にとってはデメリットになります.ただし,企業の利益が減ると,我々家計の所得も減るでしょうから,間接的には消費者にとっても望ましくないことかもしれません.

 さて,この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.

 最後に為替制度について説明しました.今回説明したように,日本円は,為替レートが刻々と変化する変動相場制なのですが,中には為替レートを固定している通貨もあります.かつては日本も1ドル=360円の時代がありました(僕は生まれてませんが).また,固定相場制を基本として,上下数%の変動を認めるペッグ制を採る通貨もあります.

 来週はこの関連で,貿易について説明したいと思います.

経済数学入門 第9回(11/29)

 今回は微分の締めくくりとして,最大化・最小化問題を解き,また偏微分について説明しました.

【授業の内容】
 最大化・最小化問題というと大げさですが,基本は2次関数のグラフをきちんと描けるかどうかです.ただし,その前になんらかの制約がある場合を考えました.
 皆さんが服を買えば買うほど幸せになれる人間だったとします.その場合,もし何も制約がなければ,幸せを最大にするため(目的)には服を無限に買うことが合理的な答えです.しかし皆さんが服を無限に買うことはありません.なぜなら様々な制約が存在するからです.制約の代表例はお金です.皆さんが持っている,あるいは服に使うことができるお金は限られているので,無限に買えません(予算制約).また,お金があってもクローゼットが一杯なら買うことができないかもしれません(空間的制約).また,1日は24時間しかないので服を無限に買う時間もないでしょう(時間的制約).
 このように制約がある場合には,それらを無視して単純に最大化・最小化することはできません.では数学的にはどうやって制約を守りながら目的を達成するのでしょう?他のやり方もありますが,今回説明したのは制約の式を目的の式に代入した上で最大化・最小化問題を解くやりかたです.

 最大化・最小化問題は経済学で非常によく出てくるので,必ず期末試験でも出題します.配布した課題をしっかりやってください.(そしてできることなら来年まで覚えておいて欲しい…)

2010年11月25日木曜日

総合政策演習BⅠ 第10回(10/24)

 今回はミクロ貿易理論の続きで,いわゆる国際経済学を説明しました.

【授業の内容】
 僕は国際経済学が専門でなく疎いのですが,公務員試験で出題される範囲で言えば,基礎的なことだけ覚えておけば問題ないと思います.(どうせ,といってはなんだけど)厳密な前提条件などすっ飛ばした問題文が多いのですから.
 ということで,テキストを参考に「ヘクシャー=オリーンの定理」,「ストルパー=サミュエルソンの定理」,「リプチンスキーの定理」,「要素価格均等化定理」,「マーシャル=ラーナーの安定条件」,「Jカーブ効果」などを一気に説明しました.覚えることが多い割にあまり出題されないようです.本番のテスト前にざっと見返しておくぐらいで良いと思います.

 さて,これでひと通りの範囲を説明し終えたので,次週からは少しテストっぽいこともやりましょう.というわけで,第1,2章の復習をしてきてください.そこから出題します.もちろん質問があればそちらを優先しますが.

2010年11月24日水曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第10回(11/24)

 今回はリスクと不確実性です.来週も同じテーマです.

【授業の内容】
 その前に,前回の内容で一部,時間不足のため説明できなかった所があるので説明しました.それは,情報の非対称性の解決方法です.前回の授業中に少し説明したのですが,今回は特にシグナリングの例として学歴,また評判の例として年功序列型賃金の話をしました.どちらも「非合理的だ」と考える人もいるかもしれませんが,経済学からは情報の非対称性を解決する方法として合理的な説明が可能です.

 さて,リスクと不確実性ですが,まず,期待値の復習をしました.経済数学入門で説明済みですね.また,それを使ってサンクトペテルスベルグのパラドックスを説明しました.確かに期待値が無限大になりますが,こんなゲームを誰もやりませんよね.この背景には,次回説明する効用の形状があります.

 続いてリスクの説明です.リスクとは世間一般では「危険度のこと」だと理解されているかもしれませんが,厳密には「結果のバラつきのおおきさ」つまり「分散(標準偏差)の大きさ」のことです.そのため,確実に悪いことが起きる場合にはリスクはないと言えます.
 多くの人にとってリスクは好ましいとは言えません(後に見るように,例外もいます).ではどうすればリスクを減らすことができるのでしょうか.授業では株を例にリスクヘッジの基本を考えました.

 ここで気分転換として,モンティホール問題を紹介しました.直感的な確率と理論的な確率が違う例ですね.この問題にはいくつかのバリエーションがありますので,興味があればWikipediaで調べてみてください.また,モンティホール問題のシミュレーションが見つかりました.何度かやってみると,確かに変更したほうが確率が高いことが実感できます.
http://gascon.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/flash_c2ac.html

 続いて不確実性の説明です.しばしばリスクと混同されてしまいがちです.どちらも未来に何が起きるかわからないことは同じですが,リスクの場合は未来に起こる選択肢とそれが起きる確率がわかっていますが,不確実性の場合はどんなことが起こりうるのか,またそれがどんな確率で起こるのかもわからない場合です.現実には,リスクよりも不確実性に直面するケースの方が多そうですね.

 最後にリスクに対する選好を少し説明しました.リスクそのものをどのように評価するかで,リスク愛好家,リスク中立的,リスク回避者の3つに分類しました.次週はこの話から再開します.

2010年11月22日月曜日

経済数学入門 第8回(11/22)

 今日は中間試験でした.
 なるべく早めに採点し,12点未満だった人には,今週末を目安にポータルサイトを通じて通知します.通知を受けた人は年内に全学共通教育センターに通い,担当者から「これまでの範囲をきちんと理解している」という認定を受けるように.

【授業の内容】
 今日は授業はしていません.以前,中間試験後に「じゃあ授業に入りましょう」と言ったら一斉にブーイングをくらったので….

2010年11月19日金曜日

総合政策演習BⅠ 第9回(11/17)

 今回はミクロ貿易理論でした.

【授業の内容】
 比較生産費説についてはベイシックでやったのですが,貿易三角形などはやっていなかったため,ほとんど説明になりました.
 比較生産費説について理解しておくべきことは,絶対優位と比較優位との違い,そして貿易により国が豊かになるケースとならないケースの違いぐらいでしょうか.
 貿易三角形では,生産可能性フロンティア,相対価格,無差別曲線と,これまで学んできたことを駆使して,貿易により効用がどれだけ変化するか,輸出入をグラフでどう表現するかを押さえておかなければなりません.生産可能性フロンティアが直角三角形の場合と円の弧のような形の凸集合であるケースがあります.前者は特化する場合は必ず完全特化(一方の財しか生産しない)になりますが,後者の場合は不完全特化(一方の財を多く作るが,他方の財も少し作る)のケースが多いです.
 図がメインなので文章では説明しづらいですね….

 次週も貿易理論の続きを説明します.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第9回(11/17)

 今回は市場の失敗の4つ目の例として,情報の非対称性を説明しました.

【授業の内容】
 完全競争市場の条件の1つに「完全な情報」というものがありましたね.今回はその仮定が崩れたら市場はどうなるのかを見ていきました.

 まず消費者が財の質に関する情報をどれだけ入手可能かという視点から,財を3種に分類しました.
探索財:購入前に財の質に関する情報を入手可能である財.例:視聴できる音楽ファイル,試着できる手袋など.
経験財:購入後に財の質に関する情報を入手可能である財.例:ネットで買った服,新商品のお菓子など.
信用財:購入後も財の質に関する情報を入手不可能である財.例:医療サービスなど.大学教育も?

 さて経験財のように事前に品質に関する情報を入手不可能な財と取引する場合,どんな問題が起きるのでしょう?まずは,中古車市場(レモン市場)を例に説明しました.
 中古車市場では情報の非対称性が発生します.つまり買い手である消費者は中古車の品質についての情報を(相対的に)少ししか持っていませんが,売り手である中古車販売店はたくさん持っているはずです.この中古車市場には,品質の良い車と悪い車という2種類があるとします.売り手はある中古車が良い車か悪い車のどちらなのかを知っていますが,買い手はそのどちらなのかがわからないとします.とはいえ,買い手も市場にはどのぐらいの割合で,品質の良い車と悪い車が流通しているかを知っているとします.
 すると売り手は品質の良い車を高く,悪い車を安く販売しますが,買い手は目の前の1台の価値を正確に判別できないので,確率を使って期待値を求めます.その期待値より売値が安ければ購入し,高ければ購入しません.この両者の行動をグラフに描いて見ると,需給が均衡するところがあることがわかります.
 その均衡点では,品質の悪い車(レモン)ばかりが取引されることがわかりました.まさに「悪貨は良貨を駆逐する」ですね.金貨の流通にも上記の考えは応用可能だと思います.

 続いて,逆に買い手が情報を多く握り,売り手があまり情報を持っていないケースも説明しました.それが生命保険市場です.買い手である契約者(被保険者)は自身の健康に関する情報を多く持っていますが,保険の売り手である保険会社はあまり持っていません.
 この場合には,均衡では,保険に加入する人は自身の健康に自身がない人ばかりとなることがわかりました.保険会社としては大赤字です.この原因は情報の非対称性にあるため,赤字を解消するには保険会社が被保険者の情報をより多く獲得することが必要です.現実には,年齢,過去の病歴や喫煙習慣についての情報により保険料を変更したり,あるいは保険への加入を断ったりすることがあるようです.

 これまで見てきたように,情報の非対称性が存在すると,特定の買い手or売り手ばかりが集まってしまうことがわかりました.経済学ではこの現象を逆選択と呼んでいます.

 逆選択と紛らわしい例としてモラルハザードというものがあります.モラルハザードという言葉自体は,ニュースなどで使われることもあるのですが,そのほとんどは誤用です.
 さて,本来モラルハザードとは情報の非対称性を伴う契約により,行動が変化してしまうことを指します.例としてはこちらも保険業界が良いでしょう.例として損害保険(自動車保険)を考えてみましょう.保険に入る前は,もし事故を起こせばそれを自身で弁償しなければなりません.そのため事故を起こさないよう安全に運転しようというインセンティブが働きます.しかし,一旦自動車保険に加入すると,もし事故を起こしても保険が下りるため事故負担はわずかで済みそうです.そのため安全に運転しようというインセンティブは低下するはずです.以前は安全運転をしていた人もスピードを出しがちになったり,周囲をあまり確認せずに運転したりするかもしれません.この変化をモラルハザードと呼びます.

経済学A 第9回(11/16)

 今回はガラリと雰囲気が変わってゲーム理論です.

【授業の内容】
 前回のアンケートで,「大学の近くに回転寿司ができたが,なぜライバル店の前に出店するのか?」という質問がありました.まるで仕込んでるんじゃないかと僕が疑われそうなぐらい,今回のテーマにピッタリの質問で,非常にありがたいです.この質問にはゲーム理論におけるナッシュ均衡を立地ゲームに適用することで,なかなか説得力のある回答ができます.

 ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.
 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.この定義ではジャンケンもゲームですね.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.他のプレイヤーの利得は無視してください.相手よりどうすれば利得を高くできるか,という勝ち負けではないのです.

 最初のゲームとして,有名な「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.
 ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,利得表を用いないホテリングゲームも解いてみました.これが回転寿司の出店のなぞに対する回答でした.もちろんホテリングゲームは物事をかなりしていますが,それでもそのエッセンスは現実の謎に対しても十分応用可能だと思います.

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

経済数学入門 第7回(11/15)

 今回も微分です.高次関数の図形を描きました.

【授業の内容】
 前回は微分を使って2次関数のグラフを描きましたね.今回はそれを3次以上の関数でも試しました.
 やり方は2次関数の場合とほぼ同じです.例としてf(x)=・・・と表記される3次関数で説明します.
①関数を微分して0とおく.ここで注意して欲しいのは,傾きが0である極値が知りたいから0とおくだけであり,微分したものは必ず0となるわけではありません.0と「おく」というのはそういう意味です.
 いずれにせよ,式が表現するのは「傾きが0となる点」です.この方程式を解くことで極値のx座標が出てきます.2次関数の場合との違いは,2次関数は微分して0とおくと1次方程式になりますが,3次関数の場合は2次方程式になります.なぜなら微分をすると次数が1つ下がるからです.2次方程式の解き方は以前に確認しましたね.因数分解できそうならそれで,できなさそうなら解の公式を使います.
②出てきたxを元の関数に代入する.これにより極値のy座標が求められます.3次関数では多くの場合,①でxが2つ出てきますが,その時はこの作業を当然2回やります.これにより極値のx座標とy座標の組み合わせがわかりますね.
③増減表を描く.何次関数であろうと極値以外では傾きの符号が変わることはありません(正→負,負→正).そのため,極値を基準とし,その前後の傾きを求めます.例えば極値のx座標が-3と6だとすれば,まず,x<-3の地点では傾きが正負のどちらなのかを確かめましょう.そのためには具体的なx<-3となる地点の傾きを調べる必要があります.x<-3の例としてはx=-5がありますね(なんでも良いです).これを元の関数を微分した式に代入します.それによりx=-5の時の傾きがわかります.以下同じように,他の極値の前後でもやってみましょう.
④増減表を基にグラフを描く.

 授業では,3次関数の例外として極値が1つしかないものの説明もしました.このように例外もあるので,慣れないうちは面倒でもきちんと増減表を描くようにしましょう.

 さて来週は中間試験です.きっちり準備しましょうね.

2010年11月12日金曜日

総合政策演習B1 第8回(11/10)

 今回は費用逓減産業,情報の非対称性,公共財の問題を解きました.

【授業の内容】
 費用逓減産業はミクロ経済学ベイシックでやっていないのですが,まあそれほど難しい話ではないと思います.限界費用が逓減する場合の生産量および価格の決定方法は,限界費用価格形成原理と平均費用価格形成原理の2つがあります.限界費用価格形成原理は,完全競争市場と同様に価格と限界費用が等しくなる点で価格と生産量を決定します.利点は効率的な資源配分が実現できる点です.欠点としては必ず赤字となるため,政府などがその赤字を補助金等で補填する必要があります.平均費用価格形成原理は,価格と平均費用が等しくなる点で価格と生産量を決定します.利点は独立採算,つまり赤字が出ない点です.欠点は最適な生産量に比べ過小となり,効率的な資源配分が実現できない点です.

 情報の非対称性については,逆選択とモラルハザードの違いを理解しているかどうか.公共財は非競合性と非排除性を理解しているかどうかですね.まぁそれほど難しくないので,どんどん問題を解きました.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第8回

 今回は市場の失敗の例として公共財を説明しました.

【授業の内容】
 我々が普段必要とするものは(技術的に不可能なものは別として),だいたい売っています.需要さえあれば,民間企業はその財を生産して儲けようというインセンティブが働くからです.しかし例外もあります.それが公共財です.公共財の多くは,民間企業によって生産されません.民間企業は公共財を生産しようというインセンティブを持っていません.なぜなのか?それは公共財の定義を理解するとわかってきます.

 公共財とは「非競合性」と「非排除性」という2つの性質を兼ね備えた財のことです.   
 非競合性とは,複数の人が同時にそれを利用(消費)することが可能であり,また複数で利用しても価値が落ちない財のことです.例えばライブなどがそれにあたります.100人で聴こうが1000人で聴こうが,ライブから得られる効用は(ほとんど)変わらないでしょう.
 非排除性とは,特定の人の利用を妨げることができない財です.つまり誰でも無条件で利用できる財のことです.例えば我々は誰でも一般道を利用することができます.税金を滞納していても,外国人であっても,利用を拒まれることはありません.非排除性を持つ財は,無条件で消費される,つまりお金を払っていない人にも利用されてしまうので,民間企業は採算がとれません.そのためわずかな例外を除けば,ほとんど民間企業は生産しません.

 このような非競合性と非排除性という性質を持つ財の例としては,灯台,法律,ラジオ放送などが挙げられます.繰り返しますが,これらの多くは,儲からないので民間企業は供給しません.しかし,灯台,法律,ラジオ放送がないと我々の生活は不便になるでしょう.そのため,民間企業の代わりに営利目的外の活動もできるプレイヤーである政府が供給するのです.
 しかしそこには問題がないわけではありません.民間企業が生産し,市場で取引される場合には,非効率的な生産など(少なくとも長期的には)起こりません.企業は全然売れない(需要のない)財を生産しないからです.生産してしまうと利潤が減るため,利潤の最大化を目的とする企業はそのような行動をとらないでしょう.また常に売り切れてしまい在庫が空っぽになるようなことも長期的にはあり得ません.作れば作るほど売れるのであれば,生産能力を徐々に拡大して,利潤を増やそうとするでしょう.このように市場では企業は消費者との取引を通じて,消費者の需要を鋭く感じ取り,本当に必要とされている財を,必要とされているだけ生産するのです.
 一方,政府が生産する公共財の場合は,市場メカニズムは働きません.警察を例にとると,警察の治安維持サービスは我々に必要な財ですが,我々は1回のパトロールに何円を支払う,というような取引はしていません.そのため,警察にとっては,我々住民がどれぐらいの水準の治安を求めていて,その需要はどれぐらい大きいのか(金銭的評価はどれぐらいか)ということがわからないので,自分たちのルールでパトロールするしかないでしょう.結果として,私たちは「パトロールに全然来てくれないせいで不安だ」,あるいは「しょっちゅうパトロールしてるけど無意味だ」などと感じることになります.
 ダムが必要なのかどうか,橋は必要か,道路は,とよく問題になるのは,いずれも政府が供給している財だからです.政府は時として必要のない財を供給してしまうことがありますが,その理由の1つはそれらが公共財の性質を持っていることにあるようです.

 最後に,公共財のようにタダの財を4つに分類してみました.
1.公共財
 公共財は非排除性を持つためにフリーライドされてしまうから無料です.
2.供給過剰
 空気や海水のように需要と比較して供給が多すぎる財にも値段はつきません.
3.広告
(自社もしくは他社の)広告が付いている場合もありますね.民放のテレビやラジオ,あるいはホットペッパーなどの情報誌もそれにあたります.またタダで多くのサービスを利用できるGoogleが黒字なのも広告のためですね.またいくつかのミュージシャンがアルバムを無料で公開し,ライブ集客やグッズ販売のための宣伝としているケースも紹介しました.最近の例としては,次のような記事がありました.
http://www.cdjournal.com/main/news/phoenix/30022
4.一部の消費者が払う場合
 モバゲーなどには,タダのゲームもあります.もちろんゲームには開発費がかかり,維持にはサーバー代などかかりそうですが,タダだからといって慈善事業ではありません.一部のアイテム,機能を有料とすることで,ライトユーザーは無料でも,ヘビーユーザーからしっかりお金を取ることができます.

経済学A 第8回(11/9)

 前回に引き続き資産運用の基礎です.

【授業の内容】
 今回は,期待値,リスク,現在価値という前回学んだ内容を前提として,実践的な株価の分析方法,およびリスクへの対策を説明しました.

 まず株価の分析方法ですが,講義では2つの有名な分析方法を説明しました.最初はファンダメンタル分析です.これはある株を持ち続けていれば将来得られるお金の合計がその株の価値である,とするものです.ただし,10年後にもらえるお金はそのままの金額で評価するのではなく,現在の価値に直して(割り引いて)考える必要があります.いずれにせよファンダメンタル分析とは,その企業が将来どれだけ成長するか,どれだけ利益を出し,どれだけ配当を出すか,に着目します.そのため,現在ではなく,将来発展すると予想される株は高く評価されます.この分析方法を信頼して株を買うのであれば,その企業がいる業界に将来性があるか,その企業はその業界の中で勝ち残っていけるかをあなた自身で考える必要がありますね.
 もう1つの分析方法はテクニカル分析方法です.テクニカル分析とは,その株のこれまでの株価推移や取引高の情報から,今後の株価を予測するものです.名前もかっこいいし,なんとなく信頼できそうな気がしますが,その理論的裏付けはあまり強固なものではなく,テクニカル分析が有効であるかどうかを様々な研究者が調べていますが,適当に買うのと比べて儲かるというはっきりとした研究はあまりないようです.

 さて,株というのはリスクのあるものですが,そのリスクを減らすこともできます.リスクヘッジの例として,暖冬になるか厳冬になるかという気象リスクを考えてみました.暖冬になったら,自分が持っているすべての株が下がってしまった,というのではリスク対処になりません.暖冬の時,ある株は下がったが,あの株は上がった,となるような組合せをする必要があります.最大のリスクヘッジは分散投資です.ケインズは「卵は分けて持て」と言いました.ただし,分散投資をするとリスクが減る代わりにリターンも下がります.

 結論としては,リスクとリターンは比例します.様々な金融商品を紹介しましたが,リスクの低い金融商品はリターンも低く,リターンが高い金融商品はリスクが高い,というのが一般的な(どんな場合でも成立するという意味の)結論なのです.そのため,リスクが低くリターンが高い商品(「確実に儲かりますよ!」という商品)はありません.甘い話には騙されないように.もしあったら僕にも紹介してください.

経済数学入門 第6回(11/8)

 今回は,前回に引き続き微分です.非常に重要なところなので,必ず自分のものにしましょうね.

【授業の内容】
 微分の計算方法自体は前回説明しましたね.今回は微分の意味を活用方法を説明しました.この講義で,皆さんに最も理解して欲しいことは,「微分すると傾きが得られる」ことです.「微分」と聞いたら「傾き」,「傾き」と聞いたら「微分」が反射的に出てくるよう,頭に叩き込んでください.なぜなら,経済学では,利潤の最大化や費用の最小化などに関連して,傾き(つまり増加率)をよく利用するからです.

 なぜ最大化や最小化と傾きが関連しているかと言えば,最大化(や最小化)の点では,その関数の傾きが0となるからです(厳密に言うと関数の形状,変数の種類にもよりますが…).2次関数(縦軸:y,横軸:xとする)を例に取れば,2次関数は山型(上に凸)かU字型(下に凸)の形状をとりますが,その頂点や底はそれぞれ最大値や最小値を示しています.そのため,まずは2次関数のグラフをきちんと描けるようになりましょう.もちろん平方完成でも2次関数のグラフを描くことはできますが,平方完成は計算ミスが多いので,今後は微分を使いましょう.
 さて,その具体的なやり方ですが,2次関数を微分すると,放物線の傾きが出てきます.頂点や底は傾きが0となっているため,頂点や底が知りたければ,微分したものを0と置きましょう.すると頂点や底のx座標が出てきます.さらにそのxを元の2次関数に代入すれば頂点のy座標も得られます.ここで間違えて微分したものに代入してしまうと当然0になります.なぜなら,傾きが0になるようなxを求めたわけですから,傾きを示す微分の式に代入すれば0になるからです.

 このグラフを描く方法は,3次関数以降でも利用できます.ただし,3次以上の関数では傾きが0となる点が必ずしも最大値(や最小値)となるわけではないので,傾きが0の点を今後は極値と呼びます.
 来週は3次関数のグラフを描きます.そして,その翌週は中間テストです.きっちり準備しましょうね.

2010年11月7日日曜日

経済学A 第7回(11/2)

 今回は資産運用入門です.

【授業の内容】
 資産運用とは言え,株をどこで買うかとか,そんな話は自分で調べればわかるものなので,ここでは,資産運用の理論的な部分を説明しました.

 まず,利子と現在価値の関係を説明しました.現在,手元にある100万円を銀行に預ければ(利子率1%とする),1年後には101万円になります(税金や手数料は無視しておく).つまり,この場合,現在の100万円と1年後の101万円が同じ価値であると言えます.お金は時間が経つと増えると考えても良いかもしれません.
 さて,では逆に考えることも可能です.つまり1年後の101万円を現在の価値に直すと100万円です.このような考え方を,現在価値(現在割引価値)と言います.将来受け取るお金を現在の価値に直すときには利子率で割り引かねばなりません.きちっとした計算式は講義中に書きました.

 期待値の説明です.株が確実に値上がりすれば良いのですが,未来のことは誰にもわかりません.そのため,まだ起きていない未来のことについての平均値である期待値のことを説明しました.期待値は高校の数学でも学んだかもしれませんが,起こり得る結果とそれが起こる確率とをかけ合わせ,出てきたものをすべて足しあわせたものが期待値です.例として,サイコロを振って,5か6がでれば300円がもらえ,それ以外の目がでれば100円がもらえるゲームがあったとすると,サイコロを1回振ったときの期待値は次のようになります.
E=300×(2/6)+100×(4/6)

 続いてリスクの説明もしました.経済学の世界で言うリスクは,世間で使われているリスクの意味とは少し違います.リスクとは,起こる結果のばらつきの大きさのことを指します.正確に言えば分散(あるいは標準偏差)のことですが,わからなくても大丈夫です.
 そのため,良いことが起こるかどうか,悪いことが起こるかどうかがリスクではないのです.

 最後に株を買うメリットを考えました.株についてあまり知識がないと,「株を買うのは,安く買って高く売り,差額で儲けるためだ」と考えてしまうのではないでしょうか.この売買による儲けはキャピタル・ゲインと呼びます.しかし株を買うメリットはそれだけではありません.それに加えて,株を保有していると配当が得られます.この儲けをインカム・ゲインと呼びます.配当はそれほど大きな金額ではありませんが,長い目でみれば大きな金額になりますし,株価を予想する上でも重要です.
 続きはまた来週です.

経済数学入門 第5回(11/1)

 今回は指数の続きと,微分の説明をしました.

【授業の内容】
 まず,前回の続きとして,指数によるn乗根の表現を説明しました.ルートを使ったままよりも,指数の形に変換した方がなにかと便利です.なんといっても指数法則がすべて利用できるのです.指数が分数の形になるn乗根と,指数がマイナスになる分数は,よく間違うところです.テスト前にはしっかり確認しましょう.

 続いて,n進法(n進数)を説明しました.我々が通常,計算などに使っている数の数え方は10進法です.これは10種類の記号を使って数を表現する方法です.そのため,0~9まではその記号で表現できますが,それ以降の数字は記号1つで表現できないため,位を上げるという工夫がなされています.
 この「位上げ」という工夫のおかげで,572というたった3つ数字で,100が5つ,10が7つ,1が2つあるんだということを表現できます.10進法の位は10が基準となっています.位が1つ上がると単位は10倍になります.つまり,先程の例では100は10の2乗,10は10の1乗,1は10の0乗です.
 これらを2進法に応用してみると,2進法は2種類の記号を使い,位が1つ上げる毎に単位が2倍になる表記方法であると想像できます.授業では,n進法を10進法に変換する方法と,10進法をn進法に変換する方法を説明しました.このn進法は経済学では使いませんが,就活の筆記試験では出ることがあるようです.

 さて,後半は微分の説明ですが,今回はその意味までは説明できず,とりあえず微分のやり方だけ説明しました.基本的には,変数の右肩についている指数を前の係数にかけ(乗じて),指数から1を引くだけです.微分ができないと経済学では非常に不便なので,必ずできるようにしましょうね.

中間試験
 経済数学入門の中間試験を以下のとおり行ないます.特別な事情があり事前に連絡があった場合を除き,中間試験を受験していない学生は期末試験の受験資格を失います.
日時:11月22日(月)第8回講義時間内
範囲:第1~7回講義の内容
まずはこれまでに配布した課題をすべて解くところから始めましょう.問題のレベルは課題と同程度です.
評価における中間試験の取り扱いについては第1回の講義で説明した通りです.

2010年10月28日木曜日

総合政策演習D 第5回(10/28)

 今回はテキストの最後までがテスト範囲でした.

【授業の内容】
 これで前期後期含めてテキストを2回やり終えたのですが,今回の出来は非常に悪かったです.もう筆記試験もかなり近くに迫ってきたにも関わらず,この点数ではかなり不安になってきました.僕はともかく,皆さんは心配ではないのでしょうか?世間では内定がもらえない学生が多いと,全国の学生が危機感を持って動いているので,有名・無名を問わず,企業には学生が殺到してきます.そんな中,企業は多くの学生を一人一人時間をかけて面接できないので,急増した学生を筆記試験でかなりふるい落としてきますよ.今のままだと,ふるい落とされそうな人が多いように思え,非常に心配です.周りを見て安心しないように.

 後半は演習Cで皆さん全員にやってもらう企業プレゼンの例として,僕が宇部興産株式会社の3分間企業プレゼンをしてみました.企業プレゼンをする意図は次の2つです.まず企業研究になります.そして,人前で時間を指定されてわかりやすく話すトレーニングにもなります.僕もプレゼンが得意なわけではありませんが,いくらか参考になるところもあったと思います.

総合政策演習B1 第7回(10/20)

 今回はエッジワースボックスの確認と外部性の説明でした.

【授業の内容】
 エッジワースボックスで最も難しいのは予算線が出てくるケースです.予算線の傾きが相対価格を意味していることは頭ではわかっていても,どっちに傾くと,どちらの財の相対価格が上がるのかは落ち着いて考えなければ混乱してしまいそうです.しかし,これでエッジワースボックス関連して出てくるであろう最も難しいケースも十分に理解してくれたようなので,一安心です.

 後半は外部性の説明をしました.外部性の私的収益率(私的限界費用)と社会的収益率(社会的限界費用)のところはなかなかややこしいと思います.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第7回(10/27)

 前回で独占市場は終り,今回から市場の失敗の例の2つ目,外部性について説明しました.

【授業の内容】
  外部性とはある経済主体による経済活動が,それとは無関係の第3者に与えるなんらかの影響のことです.このような市場の失敗が起こると,最適な資源配分が実現されません.そのため何らかの対策が必要になります.外部性の典型例としては公害や環境破壊が存在します.例えば,先進国がこれまでに100年以上に渡って消費してきた石油燃料のせいで地球温暖化,そして海面の上昇が進んだとすると(この説が本当かどうかは僕の専門外なのでわかりません.あくまで例です),海面上昇により国土が小さくなってしまい,大きな被害を受けているツバル共和国のような国にとってはまさにとばっちりです.これが外部性です.

 さて,外部性は第3者に悪い影響を与える場合だけでなく,良い影響を与える場合もあります.前者は外部不経済(あるいは負の外部性),後者は外部経済(あるいは正の外部性)と呼ばれます.
 また第3者に与える影響が市場を通じたものか,そうでないのか,によって金銭的外部性,技術外部性,というように区別されることもあります.

 良い外部性,つまり外部経済の例としては教育があります.例えば皆さんが受けている大学教育について考えてみると,大学教育は学生(というより学生の保護者?)と大学法人との間の取引です.保護者は学費を支払い,大学は教育サービスを提供します.
 さて保護者(と学生)と大学は取引の関係者なので内部ですが,この取引は外部にも影響を与えています.例えば総合政策学部の卒業生はある程度の法律や経済などの知識を持っているでしょうから,卒業生を雇う企業にとってはそれらの知識を教える必要がありません.企業にとっては人材育成コストがかからないので,大学教育は企業に外部経済を与えていると捉えることができます.
 余談ですが,大学などの高等教育が上記のような効果,つまり労働者としての価値を高めているかどうかについては経済学者の中でもコンセンサスはありません.「高等教育が人的資本(労働者としての能力)を高めるんだ!」という人もいますし,「企業は学歴を能力のシグナルとして使っているだけで,大学で学ぶことに期待などしていないよ」という人もいます.どっちでしょうね?大学関係者としては前者であると期待したいところですが….

 さて,このような教育は学生自身にとって有益であるだけでなく(大卒は給料が高い),企業にとっても有益なので,社会全体から見るとより有益です.そのため,政府がお金を出して教育費を安くして,より多くの人が大学で教育を受けられるようにすることが合理的です.また実際にそれは実現されています.旧国公立大学(現在は独立行政法人ですが)には国からの援助があるので学費は安く設定されていますし,私立大学にも私学助成金という形で(旧国公立大ほどではないにしても)援助されているので,実際にかかっているコストよりも学費は低いはずです.
 まとめると,外部経済がある場合は,社会的収益率の方が私的収益率よりも高いので,社会的に見て最適な水準よりも少なく(過小に)生産されます.そのため政府などが援助する必要があります.
 また逆に外部不経済がある場合は,社会的限界費用の方が私的収益率よりも高いので,社会的に見て最適な水準よりも多く(過剰に)生産されます.そのため政府によるなんらかの規制が必要です.

 さてこのような外部性への対処ですが,3つの方法があります.
1.課税・補助金(ピグー税)
 まず課税や補助金により最適な生産量を実現するという方法があります.導入が検討される炭素税もこれにあたります.またタバコ税もそうなのかもしれませんね.
2.内部化
 外部に効果が漏れるのが問題なら,漏らさないようにしようというのが,この内部化です.授業では駅ビルの建設によって,駅の集客能力を外に漏らさないようにすることを説明しました.
3.交渉
 内部と外部で交渉することでも,最適な資源配分が達成できることもあります.ただしその条件は「取引コストがほとんどかからないこと」です.これはコースの定理と呼ばれています.これについてはテキストに詳しい説明もあります.

 また,消費における外部性として,スノッブ効果とバンドワゴン効果を説明しました.スノッブは他者の消費が関係ない第三者の効用を下げる効果のことであり,周りと同じことが嫌な人なのでしょうね.周りが同じような商品を持っていると自分の持っている商品が色褪せたように感じることです.逆にバンドワゴン効果とは,他者の消費が第三者の効用を上げる効果のことです.流行りもの好きな人なのでしょう.あるいは,子供がよく言う「友達がみんな持っているから自分も欲しい」という気持ちもバンドワゴン効果と言えそうです.

経済学A 第6回(10/26)

 今回のテーマは年金です.皆さんの人生で避けて通れない話題なので,きちんと理解しておきましょう.

【授業の内容】
 まず言っておきますが,この授業の目的は年金の具体的な話ではありません.「どんな年金に加入するのか?」,「いくら払うのか?」,「いつからもらえるか?」,「どれぐらいもらえるか?」という話は,社会に出ると知る機会はいくらでもあります.
 この授業ではむしろ大枠を理解してもらうことを目的としています.つまり「社会保障とは何か?」,「年金とはどのような制度なのか?」,「賦課方式と積立方式はどのように違うのか?」を理解することです.もちろん,20歳になると強制的に加入するシステムなので,直近の話として「在学中はどうするべきか?」については具体的に説明しましたね.

 まず社会保障とは何かですが,大雑把に言うと,困っている人を社会全体で助けるシステムと思って良いでしょう.年金もかつては存在しませんでした(全国民が年金に加入することになったのは1961年のことです).「それまでは老人は生きていけなかったのか?」というと,もちろんそんなことはなく,家族あるいは所属する共同体が老人を養っていました.しかし,近代になり核家族化が進み,一人暮らしの老人も増えてきました.そのため,年金などの公的な社会保障システムにより経済的・社会的弱者を救済する必要が出てきたのです.
 社会保障のやり方は2種類あります.保険的方法と扶助的方法です.年金は前者です.というのも,我々は「年金」と呼んでいますが,正確には「国民年金保険」と言います.この他,保険的方法による社会保障の例としては,健康保険,介護保険,失業保険などがあります.いずれも,保険料を支払った人だけが利用できます.つまり受益者負担なのです.一方の扶助的方法の例としては,児童福祉,生活保護,災害援助などがあります.こちらは保険料を支払う必要はなく,(救済すべき人であると認定されれば)誰もが利用できます.年金も社会保障の1つであると考えれば,扶助的方法,つまり保険料収入に頼らず,すべて税金から賄うべきであると考えることもできます.実際,消費税率を上げて社会保障のための目的税にすべきだという意見は以前からあります.

 このように年金保険とは,保険料(+国庫負担)として集めたお金を,高齢者に年金として給付する仕組みになっています.ただ,この保険料の徴収と給付のやり方は,2つのパターンに分けられます.1つは積立方式,もう1つは賦課方式です.
 積立方式とは,積立貯金のように,各自が保険料を将来の自分のために積み立て,老後に給付を受けるというものです.一方の賦課方式は,現役世代が払った保険料をその時代の高齢者にそのまま給付するというものです.
 前者は少子高齢化の影響を受けませんが,デメリットとしてインフレに弱いという特徴があります.わずかなインフレも年金のように,納付から給付まで長期に渡る場合では大きな影響を受けます.そのため積立方式はあまり年金向けとは言えません.また積立方式なら,政府に頼らずとも民間の金融機関で同じサービスを受けることができるので,わざわざ政府がやる必要性は少ないでしょう.
 後者の賦課方式は,インフレの影響を受けませんが,デメリットとして少子高齢化に弱いという特徴があります.そのため,現在の日本のように急速な少子高齢化が進む状況では,現役世代の負担を大きく,もしくは給付を少なくせざるをえません.

 後半は少しですが,具体的な話もしました.まず,年金は2階建てになっていることから説明しました.1階部分には誰もが加入しなければならない国民基礎年金部分があり,その上に,職業によって異なる2階部分の年金(厚生年金,共済年金,国民年金基金など)があります.
 1階部分は全国民が共通した条件ですが,2階部分は収入などにより保険料および受け取ることができる年金額も様々です.まぁこの辺りは就職してからしっかり聞いてください.

 最後に世代間不公平の話もしました,またその背景には,政治家にとって若者よりも高齢者向けの政策をしたほうが合理的であることも説明しました.高齢者に嫌われてでも若者向けの政策(あるいは世代間で公平な政策)を選ぶインセンティブが政治家にはありません.なぜなら若い人は人数としても比較的少ない上に,選挙にもあまり行かないからです.

 このように年金の仕組みを理解した上で,年金に入るべきかどうかを考えてみましょう.まだ判断できない,という人も,とりあえずは20歳になったら学生納付特例制度を使って,払う意思があることを示しておきましょう.実際に払うかどうかは,就職してからでも考えましょうね.

2010年10月22日金曜日

経済数学入門 第4回(10/21)

 翌日に学祭が控えていることもあり,設営などの準備で結構公欠の人が多かったですね….まぁ,それほど難しいところじゃなかったから大丈夫かな?

【授業の内容】
 まず不等式のグラフを描きました.1次不等式と2次不等式のグラフでしたが,どちらもまずイコール(=)で結んだ場合,つまり普通の1次関数や2次関数であるとして直線,放物線を描き,その上で,どちらが範囲なのかを確認しました.皆さん1次関数と2次関数のグラフには不自由しないので,不等式も大丈夫でしょうね.
 この不等式の問題は,実は民間企業の筆記試験でもしばしば出てきます.なぜ不等式なのかはよくわかりませんが.

 後半は指数法則の説明です.
 まずは素数の説明と素因数分解,そして最大公約数と最小公倍数の復習です.子供の頃にやったから知っているとは思いますが,久々にやってみるのも良いでしょうね.
 そして指数法則です.指数法則は慣れると別に難しくはないのですが,簡単そうに見えるから,みんな雰囲気で計算してしまいがちなところが落とし穴です.雰囲気で計算せず,きっちりと「今,この指数法則を使っているんだ」と意識しながらやれば,そんなに難しくありません.でもいつもマイナス乗や0乗の所で間違える人が多いんですよ.気をつけてくださいね.

 今回配布した課題は翌々週(11/1)に提出してください.

【重要なお知らせ】
 第8回の授業(11/22)に中間試験を予定しています.日程は多少前後するかもしれませんが,また授業で通知します.

総合政策演習B1 第6回(10/20)

 今回は余剰分析と,エッジワース・ボックスについてでした.

【授業の内容】
 余剰分析も3回目ですが,今回は貿易の余剰を分析しました.学部の経済学で学ぶミクロ貿易理論では「小国の仮定」という前提条件に基づいて考えることがほとんどです.
 小国の仮定とは,その国の経済規模が世界市場から見ると非常に小さく,その国の需要や供給の変動が世界市場に及ぼす影響がないという仮定です.そのため,余剰分析では,ある国は財を同じ価格でいくらでも輸入することが可能です.もしこれが大国であれば,その国の需要が大きくなれば世界市場における需要も高まり,結果としてその財の世界市場での価格も上がるはずです.しかしそこまで考えるとやや煩雑になるので,話をシンプルにするため小国の仮定を置いています.

 演習として,閉鎖経済の場合,自由な貿易が可能な場合と,輸入品に関税をかけた場合の3つのパターンを比較しました.自由な貿易の場合が最も社会的余剰が大きく,関税ありの場合,閉鎖経済の場合と続きます.

 後半はエッジワース・ボックスでした.エッジワース・ボックスの見方を確認した後,パレート改善とパレート最適が図でどのように表現されるか,また相対価格の変化についても復習しました.最後の相対価格の変化がちょっとわかりにくいと思うので,次週改めて説明します.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第6回(10/20)

 今回は独占市場の残りの形態である寡占と独占的競争です.

【授業の内容】
 まず簡単に前回やった複占の復習をしました.売り手が2社である市場に,ゲーム理論のナッシュ均衡の概念を応用しました.

 寡占とは売り手が少数である市場であり,現実的にもよくあるケースと言えます.ビール市場はその典型でしょうね.さて,売り手が少数だと各企業はどのような行動を取るのでしょうか.ここでは全企業が同質的な財を同じ価格で販売している状況を想定しました.そのうちの1社がもし値上げをしたら,ライバルたちはどのような反応を見せるでしょうか.おそらくライバルたちは値上げをしません.なぜなら今まで通りの価格で販売すれば,値上げした1社の販売量だけが少なくなり,その分,他の企業の商品はより多く売れるからです.結果,値上げした1社の販売量はガタ落ちとなるでしょう.
 逆に値下げをするとどうでしょう.ライバルたちが値下げをしなかったら,値下げをした1社にお客さんをほとんど奪われてしまうことになりそうです.そのためライバルたちは必ず値下げに反応して値下げをしてきます.そのため,最初に値下げした1社はせっかく値下げしたのに,あまり需要は増えないでしょう.このように値上げと値下げについて,ライバルたちは非対称的な動きをすることがわかります.
 結果として,企業の個別需要曲線は現在の価格を分岐点として屈折した形を取ります.また限界収入曲線もグラフに描くことができます.この限界収入と限界費用が等しくなる点で生産量が決まるのですが,限界収入曲線の形状の特徴から,寡占市場では,少しぐらい限界費用が増減しても生産量や価格が変化しないことがわかります.値上げも値下げもそれほど魅力的な選択でないため,余程コストが大きく変動しない限り,積極的に価格を変更しないのです.
 ライバルの値下げに追随する動きは,最近では牛丼業界で見ることができそうです.

 独占的競争とは売り手の数が多数の場合に,各企業がいかにして利潤を得るかを説明するものです.売り手が多数の場合,同質的な財を生産していては利潤は出ません.なぜなら似た様な財を多数の企業が売っていれば,消費者は価格が最も低い企業の財を選ぶため,結果として価格の値下げ合戦になってしまうからです.それは前期に学んだ内容ですね.そのため,利潤の最大化を目的とする企業は財を差別化し,一時的な独占状態を築こうとします.缶コーヒーのノベルティグッズなども差別化の一例でしょう.またユニクロが暖かい下着(?)などを販売するのも差別化ですね.
 しかしこの独占状態は永遠ではありません.なぜなら新規参入が可能なので,1社が儲けているとわかれば,どんどん他の企業が参入して同じような財を販売し始めるからです.これにより長期的には完全競争市場となり,どの企業も利潤を得られません.ユニクロの下着も1年も経たないうちに,似た様な商品が他の企業から販売されました.
 このように独占的競争においては利潤をだすためには常に新たな差別化をしなければなりません.ファッション業界で毎年新たな流行が生まれ,あっという間に廃れていくのは,上記のような企業の論理が背景にあるのかもしれませんね.

経済学A 第5回(10/19)

 今回は名目値と実質値について説明しました.名目値と実質値の違いは短期的にみるとそれほど重要ではありませんが,皆さんの人生のように長期的な視点でお金のことを考えるためには,非常に重要です.目先のお金に騙されず,その本当の値打ちを考えてみましょう.

【授業の内容】
 まず事前準備として物価の話をしました.「物価」は世間でよく使われる言葉ですが,果たして物価とはなんでしょう?最近野菜の値段は高いようですが,服や家電はどんどん値下がりしているような気がします.このような状況はインフレ(物価が持続的に上がること)なのでしょうか,それともデフレ(物価が持続的に下がること)なのでしょうか.
 物価を計る目安はいくつかありますが,今回は特にCPI(消費者物価指数)を詳しく説明しました.CPIは平均的な家計が一定水準の生活を続けていく上で必要となるお金の変化に着目したものです.つまり野菜が値上がりしたから物価上昇とか,家電が下がったからデフレとかいうものではなく,様々な財の総体的な価格を使って計算したものです.総務省のCPIのサイトから,どのような品目の価格を計算に用いているかがわかります.実に様々な財の価格を調べているようですね.
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001015979&cycode=0

 さて,この物価ですが,皆さんはあまり意識したことがないかもしれませんが,長期的に見てみるとずいぶん変動しており,特にインフレ傾向があることがわかります.物価が上昇すると,同じお金で買うことができる量が少なくなります.このような物価の変動に着目した視点が名目値と実質値です.授業ではその例として,名目所得と実質所得,名目GDPと実質GDPの簡単な計算をしてみました.我々が普段の生活で目にするのは名目値ばかりですが,名目値と同時に実質値のことも意識してみると,働き出してからの資産運用で騙されにくくなるはずです.
 今後はこの名目値と実質値の概念を使って,年金や資産運用の話もするつもりです.

 また今回は携帯電話を使ったアンケートをしました.結果は次回の授業でお知らせします.

2010年10月21日木曜日

経済数学入門 第3回(10/18)

 今回も関数でした.2次関数のグラフの描き方をやりました.

【授業の内容】
 2次関数が出てきた時に主にする計算は,放物線の頂点(あるいは底)を導くものと,横軸との交点を求めるもの,の2つです.前者は平方完成を使い,後者は2次方程式の解を因数分解もしくは解の公式により導出します.
 この2つはどちらも経済学で非常によく出てくる計算なので,必ずできるようにしましょう.平方完成はちょっと面倒くさいですが,実は第5回に出てくる微分を使えば不必要になるので,ちょっとしたつなぎ役に過ぎません.しかし,とりあえず今は平方完成でやります.

 授業の最後に小テストを行い,上記2種類の計算ができたかどうか確認しました.ちょっと不安だな,という人には呼び出しをかけました.早めに来て,苦手なところをつぶしましょう.

2010年10月16日土曜日

総合政策演習D 第4回(10/14)

 今回もテスト&解説です.あんまり書くことないですね….

【授業の内容】
 今回中心となったのは,損益算や分割払いなどお金に関係した問題ばかりです.損益算はよく出るらしいのですが,パターンがそんなにあるわけではないので,得意分野にしておきましょう.
 今回は比較的高得点の人が多かったですね.問題自体は難しくなかったと思いますが,計算は結構ややこしかったので,もう少し低いかと思いましたが.

 次週の予習範囲は非言語問題の最後までです.そして来週で僕の担当は終りです.

総合政策演習B1 第5回(10/13)

 今回も余剰分析でした.

【授業の内容】
 まずは質問があったので弾力性の説明をしました.需要の価格弾力性の定義を覚えて,それを変形させ,需要曲線の傾きを代入することができるようになる必要があります.また,定義の需要と価格がゴチャゴチャになりがちなので注意しましょう.

 さて,本題は余剰分析で,税金や補助金を導入した際の余剰を計算しました.従価税や補助金のパターンはミクロ経済学ベイシックでやってなかったのですが,一回話を聞けば十分理解できると思います.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第5回(10/13)

 今回も独占市場です.前半は完全独占の復習,後半は複占の説明をしました.

【授業の内容】
 前回は完全独占が生まれる原因や,完全独占市場における最適な生産の意味などを説明しました.詳しく説明しましたが,その分だけややこしかったかもしれません.計算問題の解法も2種類(数学的な中身は同じですが)説明しました.
 今回はややこしい話はおいといて,とりあえず計算問題をどんどん解いていきました.とにかくMR=MCを作り,最適な生産量を導出し,さらにそれを需要曲線に代入し,価格を求めることが基本です.また,前期に学んだ余剰分析も行ないましたね.条件が同じであれば,完全競争市場に比べ,完全独占市場では社会的余剰が減少してしまうため,独占は経済的にみて良くないことがわかります.独占禁止法があるのも納得ですね.

 後半は2社のみが市場を支配している複占を学びました.ゲーム論の言葉で表現すれば,1回限りの,同時手番,完備情報,非協力ゲームです.ここではナッシュ均衡の概念を,複占に応用します.それをクールノー均衡(クールノー・ナッシュ均衡)と呼びます.
 ライバル関係にある2社はそれぞれ他社の生産量を一定であると仮定して,自らの利潤が最大となるように最適な生産量を決定します.この「他社の生産量(=変数)を一定であると仮定して」というところは,経済数学入門で学んだ偏微分が利用できます.他社の生産量がもう決まっている(いくらであるかは関係なく)ものとして,自らの利潤が最大となるよう微分をし,それを0と置くことで,相手の生産量さえわかれば,自らの最適反応(最適な生産量をどのように決定するか)がわかります.
 計算する上では,両企業とも自らのMRとMCが等しくなるように式を置けば,最適反応の方程式が出てきます.その両企業の最適反応を連立方程式として解くことで,両企業の最適な生産量が導けます.また得られた両企業の生産量を需要曲線に代入することで価格もわかります.

経済学A 第4回(10/12)

 今回は前回に引き続き経済学の歴史の説明とともに,マクロ経済学の基礎を紹介しました.

【授業の内容】
 授業の冒頭では,前回の続きではなく,少し経済学の本流から離れ,マルクス経済学(通称:マル経)の話をしました.日本に住む私たち,特に皆さんのようにソ連崩壊後に生まれた人たちにとっては,社会主義や共産主義といっても,なかなかピンと来ないと思います.
 日本を始め,現在の先進国は市場経済です.市場経済とは市場において,財(モノやサービスのこと)の生産量や価格が決められる経済です.一方,計画経済とは,国家が財の種類や生産量を決定し,人々に配分する経済システムです.計画経済が上手くいかなかった理由は主に2つあると考えられます.1つ目は,情報の流れが一方的で,計画立案に必要な情報が十分に入手できなかったことです.どんなに優れた人々であっても,少数の人々が経済全体を把握しようというのは困難です.市場経済では,無数のプレイヤーが市場を通じて互いに情報を交換しあうことができます.もう1つの理由は,インセンティブです.計画経済ではより優れた商品を,より効率的に生産しようというインセンティブがあまりありません.一方,市場経済では,優れた財を生産,また優れたアイディアを発明すれば,それが市場を通じて報われるため,人々は常に創意工夫します.これが新たなイノベーション(革新)を生み出し,経済に活力をもたらします.計画経済のもとでは人々が平等となり,ある意味で理想的な社会と言えるかもしれませんが,その実現が困難であることは,その後の歴史が証明しました.

 さて,本題に戻りましょう.1929年に起こった世界大恐慌を機に,経済学の表舞台に現れたのがケインズ派です.ケインズ派の代表格は,名前の通りケインズです.
 古典派とケインズ派は,経済の根本の理解が大きく異なります.古典派は供給(総生産)の大きさが需要(総支出)を決める「セイ法則」を信じていましたが,一方のケインズ派は需要の大きさが供給を決めるという「有効需要の原理」を信じていました.この違いは現実の政策に大きな違いをもたらします.セイ法則によれば,需要は供給の結果として生まれるので,重要ではありません.経済を成長させるためには,とにかく生産能力を高めれば良いのです.一方,有効需要の原理によれば,供給の大きさ(つまりGDP)を決めるためには需要の大きさこそが重要です.つまり,経済成長(や景気回復)させるためには需要を大きくしないといけないわけです.この考えの下,アメリカではルーズベルト大統領がニューディール政策を実施し,大不況から抜け出すことに成功します.
 もう1つ,古典派とケインズ派の大きな違いがあります.それは「市場に対する信頼」です.古典派は「神の見えざる手」に象徴されるように,市場の機能を信頼しています.そのため,政府は最小限の介入しかしないことになります.一方のケインズ派は市場を信頼していません.市場は不完全なもの(市場の失敗)であるため,政府が積極的に介入すべきだと考えています.このように積極的に市場に関与する政府は,大きな政府と呼ばれています.大きな政府では,積極的に介入するため,自動的にその財源となる税率も高めです.
 大恐慌以来,ケインズ派は経済の主役であったと言っても良いかもしれませんが,一部の国ではその座から引きずりおろされることになります.その国とはケインズを生んだイギリス,そしてアメリカや日本などです.

 ケインズ派の積極的な介入は,経済の下支えの役割を果たすことに成功しましたが,長期的に見ると弊害ももたらします.短期的には有効な薬なのですが,長期的に薬を飲み続けることによって,その薬の副作用である,財政赤字が蓄積され,巨額なものになってしまいました.政府が積極的にお金を使うと景気は回復するかもしれませんが,その財源は税収です.税金が足りない場合には国債を発行して(国の借金)賄います.借金である以上,時期がくれば返済しなければなりませんね.あまりに返済額が多くなると,税金を集めてもその多くは返済に充てられることになり,有効に活用することができなくなります.
 このように巨額の財政赤字を抱えた国々はケインズ派を捨て,改めて古典派(新古典派)に回帰します.つまり,政府の役割を最低限にし,民間の活力に期待するのです.このような政府は小さな政府と呼ばれます.その考えの下,日本でも1980年代には,国鉄,電電,専売の3公社が民営化されました.また規制緩和により,民間同士の競争が促進された時代でもあります.
 新古典派は,市場における競争を重視します.ただし,競争は勝者だけでなく敗者も生み出します.そのため,新古典派的な政策を良しとする小泉政権下で貧困や格差が社会問題として顕在化したのも当然かもしれません.

 さて,結論としてケインズ派と新古典派,言い換えれば大きな政府と小さな政府,これらのどちらが良いのでしょうか?その答えは「何を目的とするか?」によって異なるでしょう.おそらく「あまり経済成長しなくても,とにかく平等な社会が理想的だ」と考える人は大きな政府が良いと考えるでしょうし,「少しぐらい格差が生まれても,自由な競争により経済が成長することが理想的だ」と考えれば小さな政府が良いのかもしれません.
 僕個人としては,大きすぎる政府には反対です.やはり新しい技術やサービスは,自由で公正な競争があってこそ生まれるだろうと考えるからです.結果として貧困が生まれること,格差ができてしまうこと,これらは望ましいことではありませんが許容されると思います(ここは意見が分かれると思いますが).許容してはいけないのは,格差が生まれることではなく,格差や社会階層が固定してしまうことです.つまり,一度貧困層になってしまうと努力しても抜け出すチャンスがない社会,貧しい家庭に生まれると十分な教育を受けられない社会,このような社会であってはいけません.それは思想の問題ではありません.そのような社会は,全体として効率の悪い,劣った社会であるからです.ただ,残念ながら日本は少しずつ,そのような社会になってしまうのではと危惧しています.

2010年10月11日月曜日

総合政策演習D 第3回(10/7)

 今回は表の読み取り,順列・組み合わせ,確率です.

【授業の内容】
 後期は前期の復習がメインなので,特に説明することもありませんね.しっかり時間をかけて予習・復習するだけです.年末には忙しくなるので,その頃には筆記試験に十分な時間を割くことはできないと思いますよ.今の間にやっておきましょう.

 次週は今回の内容に加え,代金の精算,料金の割引,分割払い,損益算を出題します.この辺りはよく出題されるらしいので,苦手だと困りますね.

総合政策演習B1 第4回(10/6)

 今回は価格メカニズムと余剰分析でした.

【授業の内容】
 今回出てくるワルラス型,マーシャル型,クモの巣理論のいずれもベイシックでやりましたが,そこでは常識的な右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線でしか説明をしていませんでした.そのようなケースではワルラス型,マーシャル型ともに理解しやすいのですが,現実にはありえなさそうな右上がりの需要曲線や右下がりの供給曲線で考えるとややもすると混乱しそうになります.どちらも原則をきっちり理解して適用しましょう.
 クモの巣理論は通常の需要曲線と供給曲線で考え,そこからどちらの傾きが急だと収束するのか発散するのかを図を描いて逐一答えをだしましょう.暗記するのはちょっと怖い気がします.

 今回やった余剰分析は完全にベイシックでやった内容なので特に難しくなかったはずです.そのため,せっかくの機会なので,税金の種類(一括固定税,従量税,従価税)の表現について説明しました.

 次週は余剰分析の発展問題です.

2010年10月9日土曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第4回(10/6)

 今回から独占市場です.今回はその中でも基礎となる完全独占の説明と,具体的な数値例を用いた計算をしました.

【授業の内容】
 独占市場とは売り手の数が少数である市場のことです(買い手の数が少ない場合も独占市場と言いますが,この授業では取り上げません).また,特に売り手が1社のみである場合を完全独占と呼びます.売り手の数がどれだけかによって,独占の名前は変わってきますが,それはおいおい説明します.

 今回は売り手の数が1社だけの完全独占なのですが,前期は対照的に売り手の数が多数であった完全競争市場について学びました.後期は前期の内容をベースとして,少しずつ条件を変えていきます.結果として,企業の行動も変わってきます.
 完全競争市場における企業は,価格決定権を持たず,市場で決まる価格を前提として行動していました.このような企業は価格受容者と呼ばれます.また価格と限界費用が等しくなるように(P=MC),生産量を決定していました.
 一方,独占市場における企業は当然ながら価格を自身で決定できます.価格決定者です.そのため,もっとも利潤が大きくなるように生産量および価格を決定することができます.ではどうすれば利潤が最大になるかなのですが,授業では2つの切り口で考えてみました.

 1つ目は,これまでも使ってきた限界費用(MC)に加え,限界収入(MR)という概念を導入し,新たに生産した場合の限界費用と限界収入のどちらが大きいか,またその時には生産をすべきなのかを考えます.もちろん限界費用より限界収入の方が大きければ利潤は増加するので生産量を増加させるべきです.そのため,限界収入と限界費用が等しくなるように生産量を決定すると利潤が最大になることをグラフを使って説明しました.結果としてMR=MCという式を作れば,自動的に最適な生産量がわかり,またその生産量を需要曲線に代入することで最適な価格もわかりました.

 2つ目のやり方は,利潤の最大化を直接出す方法です.利潤は収入から総費用を引いたものです.授業の数値例では利潤は生産量(x)の2次関数となったため,利潤が最大となる生産量を導くためには,この式(利潤関数)を微分して0とおけば良いのです.
 ここでこの作業を元の式のまま行えば,利潤の微分は,収入の微分から総費用の微分を引いたものであり,それを0とする.つまり限界収入から限界費用を引いたものを0としているのです.これはMR-MC=0なので,直ちにMR=MCと同じ式であるとわかります.
 どちらでやっても数学的には同じものなので,直感的に理解しやすい方でやりましょう.

 ここは今後も必要となる計算なので,次回,改めて説明しますね.

経済学A 第3回(10/5)

 今回はマクロ経済学の入門編として,経済の仕組みの全体像を説明しました.

【授業の内容】
 まず前提条件として,経済学の目的は何かを説明しました.経済学は人々を幸せにすること,貧困を削減することを目的として誕生し,そのための目標値として,GDP成長率や,1人あたり所得などを用いることを説明しました.ポイントは「お金があることが幸せ」だと考えているのではなく,「幸せを測定するモノサシとして,(とりあえず)お金を使っている」点です.似たようなもんだ,と思うかもしれませんが,そこには大きな違いがあると,僕は考えています.
 というわけで,目標値であるGDPを説明しなければなりません.GDPとは,国民総生産のことですが,どれだけ商品を作ったかを示すものではなく,どれだけ付加価値を発生させたか,を示すものです.また,GDPとGNPの違いについても説明しましたね.

 ここから,経済学(と経済)の歴史について説明しました.大きな政府と小さな政府って何か?なぜ規制緩和するのか?政府が道路を造るとどんな効果があるのか?など様々な知識を,歴史と一緒に説明します.
 今回は経済学の誕生として,古典派の人たちが何を考えていたかを主に説明しました.古典派の人たちの主張を簡単にまとめると,「市場の働きを信頼しており,政府が市場に介入すると,そのメカニズムが乱されてしまう.そのため,政府は何もしない方が良い」というものでした.民間に任せておいても,まるで神の見えざる手が存在するかのように,うまく物事を治まるというものです.政府は最低限だけの役割(警察,国防,消防など)を行い,後は民間に任せるというものです.これはレッセ・フェールと呼ばれます.
 古典派のもう1つの特徴として,セイ法則があります.これは,供給の大きさが需要の大きさを決めるというものです.ある経済を,生産(供給),支出(需要),所得の3つの側面から測っても大きさが同じであると言うことを三面等価の原則と言いますが,古典派はこのうちの生産を重視します.なぜなら生産が大きければ需要は勝手についてくると考えたからです.

 このような古典派経済学は,1920年代後半に起きた世界大恐慌に際して無力でした.大不況であることがわかっても,有効な解決策がないからです.そこで,このような非常時に有効な薬をケインズたちが提示します.
 ということで,次回はケインズの登場から話します.

経済数学入門 第2回(10/4)

 今回も関数の続きです.

【授業の内容】
 前回は関数の大まかなイメージを説明しましたね.今回は具体的に1次関数と2次関数の確認をしました.

 まず1次関数ですが,ここでは経済学的には特に「傾き」が重要です.経済学では様々な機会で「傾き」を使うことがあります.そのため,「傾き」とは何か,しっかり定義しておきます.xによりyが決定されるy=f(x)という関数を例にすれば,xが1単位増えたときに,yがどちらにどれだけ変化するかが「傾き」です.
 前回使った「箸の関数」で言えば,食事をする人が1人増えると(xが1単位増加),必要となる箸の本数が2つ増えます(yが2単位増加).この場合の傾きは2です.1次関数は,この傾きが常に一定であるケースなんです.
 授業では1次関数のグラフを描けるように例題をやってもらいましたね.

 続いて2次関数ですが,2次関数が出てくる時によくやる計算は2種類あります.数学が苦手な人はこの2つを混同してしまって,意味のない計算をしていることが少なくありません.ここではっきり区別しておきましょう.2次関数のグラフはU字型もしくは逆U字型(山型)の放物線です.よくある計算の1つ目は,この放物線と横軸との交点を求める計算であり,もう1つは放物線の底もしくは頂点を求める計算です.
 今回は前者の交点の計算をしました.このやり方は2種類あり,1つは因数分解,もう1つは2次関数の解の公式を使います.因数分解ができれば簡単なのですが,問題によってはできないことがあるので,その場合は解の公式を使います.今回はここまでやったところで時間切れでした.次週は底(もしくは頂点)の計算から始めます.

 とまあ,このように文章で振り返ってもよくわかりませんよね.現在やっている所は基礎であり,非常に重要です!ここが苦手だとこの後の経済数学入門だけでなく,経済学系科目でも困ります.よくわからなかったらその週のうちに全学共通教育センターを活用しましょうね.

2010年10月1日金曜日

総合政策演習D 第2回(9/30)

 今回から通常通りの演習です.

【授業の内容】
 というわけで,早速テストをしました.前回やった,テキストに載ってないタイプの問題と,テキストの問題種1と2についてのテストです.平均はおよそ6点ぐらいでした.あまり難しいタイプの問題ではないので,まだ十分とは言えなさそうです.10月になり,いよいよ就活シーズンです.早い人は年内にも筆記試験を受けることになります.それまでに十分な対策ができそうですか?こちらから見ると,どうもそうではなさそうですよ.

 また,年内の主な合同企業説明会やセミナーの情報も紹介しました.その気になれば5分もあれば集められる情報ですが,皆さんは調べていましたか?就活は情報戦の一面もあります.もしあなたがその情報を持っていなければ,そもそもエントリーすらできないということもありえるのです.

 次週の試験範囲はテキストの問題種1~5です.しっかり予習・復習しましょうね.

総合政策演習B1② 第3回

 今回は3種類の複占でした.

【授業の内容】
 まずゲーム理論の混合戦略ナッシュ均衡を解きました.ベイシックでもやりましたが,公務員試験に出てくるのは,このタイプの問題がゲーム理論で最も難しいところでしょう.純粋戦略と同じく,ナッシュ均衡なので,両プレイヤーの最適反応が交差する点が答えです.計算も,期待値を出して,連立方程式を解くだけなので,それほど難しくはありませんね.

 続いて,複占の問題を,クールノー,シュタッケルベルグ,共謀の3種のやり方で解きました.特徴をまとめると,
クールノー均衡
 両企業が同時に(同時手番)生産量を決定する.それにより価格が決まる.両企業は自社の利潤の最大化のみを目的としており,相手企業とは敵対的に行動する.共謀時に比べ生産量は多く,利潤は少ない.

シュタッケルベルグ均衡
 ある企業(先導者)が先に生産量を決定し,それを見たライバル企業(追随者)が生産量を決定する(逐次手番).先導者は,自社が行動した後の追随者の生産量を合理的に求め,それを織り込んだ上で自社の生産量を決定する(後ろ向き帰納法).条件が同じであれば先導者の方が追随者より利潤は多い.

共謀
 両企業が共謀し(協力ゲーム)両企業の利潤が最大となるように生産量を決定する.

 いずれの解法でもMR=MCに従って生産量を決定すること自体は同じです.

 公務員試験のミクロでは,おそらくここが最難関です.1つ1つの問題は理解出来ていると思いますが,しばらく復習しないとゴチャゴチャになってしまいますよ.

 次週は独占的競争と寡占です.

2010年9月30日木曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ(9/29)

 今回でゲーム理論は終了です.混合戦略はなかなか難しかったでしょうね.

【授業の内容】
 まず前回の復習として(純粋戦略の)ナッシュ均衡を思い出してみました.「支配される戦略の逐次消去」よりパワフルなナッシュ均衡ですが,このナッシュ均衡でも解けないゲームもあるようです.そこで出てきたのが,混合戦略のナッシュ均衡です.混合戦略とは,複数の選択肢のうちからどれか1つだけを選ぶのではなく(これは純粋戦略),複数の選択肢を確率的に選ぶというものです.この考えを導入することであらゆる問題が解けるようになりました.
 授業ではテニスのサーブを例にしました.サーバーは左か右のどちらかに打つことができますが,レシーバーもそれを予想します.サーバーが左に打つならレシーバーは左に備えますし,右に打つなら右に備えます.サーバーは狙いを読まれては不利なので,相手の裏をかこうとします.結果としてサーバー,レシーバーともにどちらを狙えば良いかが確定しません.当たり前ですが,右ばかり狙っていれば相手に読まれますしね.
 というわけで,サーバーは左と右に両方にある割合で打つべきでしょう.その割合を導くため,まずは左と右,それぞれを選んだ時の期待値を計算し,左に打っても右に打っても期待値が同じになる水準を導きました.それによれば,相手がどれぐらいの割合で左,あるいは右に備えるかによって,どちらに打つべきかが変わってきます.また同じくレシーバーについても同様の計算をし,サーバー,レシーバーそれぞれの最適反応を見つけ出し,それらが重なる点(ナッシュ均衡)を計算しました.
 文章で書いてもやはりわかりづらいですね….

 続いては,ミニマックス戦略を説明しました.これまでの戦略が利得の最大化であったのに対し,ミニマックス戦略は被害の最小化を目的とする戦略と考えるとわかりやすいでしょう.最悪なケースが起きるものとして,その中で最もマシな戦略を選ぶというものです.これまでと考え方が違うので混乱するかもしれませんが,問題を解くことは非常に簡単でしたね.

 最後に,逐次手番ゲームを後ろ向き帰納法で解きました.逐次手番ゲームとは,ババ抜きや麻雀のように,あるプレイヤーが戦略を決定し,それを見てから次のプレイヤーが戦略を決定するゲームです.こちらでは,ゲームツリーを使って,最後に行動するプレイヤーの戦略から(後ろ向きに)決定していくことで,合理的に戦略を決定できます.

 今回は練習問題を用意していなかったので,次回配布しますね.

経済学A 第2回(9/28)

 今回は「大学進学は合理的か?」,「ダイヤモンドはなぜ高い?」,「どういう企業で働くと賃金が高いか?」をテーマに説明しました.

【授業の内容】
 まず「大学進学は合理的か?」ですが,ここでは前回に引き続き経済学的思考を養うため,2つの選択肢(大学進学と高卒として就職)のメリットとデメリットを比較しました.また重要な概念である機会費用を紹介しました.機会費用という考え方は話を聞けば「そりゃそうだな」と思ったと思いますが,普段なかなか厳密に意識することは少ないのではないでしょうか.機会費用の定義は「ある選択肢を選んだ際の,次善の選択肢から得られたであろうもの」です.例えば,経済学Aの講義を受講することを選んだことによって,あなたはそれ以外の選択肢を捨てることになります.例えば「朝からバイトする」,「昼間で寝る」,「他の講義を受講する」などです.これらのうち,あなたにとって最も良いものを選んだときに得られたものが機会費用です.もしそれが「他の講義(法学A)を受講する」であれば,あなたは経済学Aを選んだことによって,法学の考え方,法律の知識を学ぶ機会を失いました.これが機会費用という概念です.

 続いて「ダイヤモンドはなぜ高い?」のかを説明しました.ここではダイヤモンドを題材に,需要と供給という考え方を学びました.価格は需要だけ,あるいは供給だけで決まるものではなく,需要と供給のバランスによって決まります.例えば,人間にとって必要不可欠(つまり需要が高い)水や空気は,需要を上回るだけの供給量があるので非常に安価(もしくはタダ)です.僕が教室で「空気1リットルを100円で売ってあげる」と言っても100円を出す人はいませんね.しかし富士山の頂上付近や深海でなら話は変わるでしょう.そこでは平地に比べ空気は希少なので,高い値段で売れるかもしれませんね.
 この需要と供給という考え方は,実は最後の問いである「どういう企業で働くと賃金が高いのか?」にも応用可能です.

 どんな企業で働いている人,あるいは職業は給料が高いのでしょう.皆さんに聞くと,弁護士という答えが最初にでました.なぜ弁護士は給料が高いのでしょうか.
 そもそも給料とは何でしょう?給料とは人の労働につけられた価格です.そのため,どんな人の給料が高いのかは,どんな商品が価格が高いのか,と同じ枠組みで分析できそうです.ダイヤは供給に比べ需要が高いからこそ,高い値段で販売されています.では弁護士の給料が高いのも,(弁護士の労働時間の)供給よりも需要の方が高いからなのではないでしょうか.弁護士に対する需要がどれぐらいあるのか見当がつきませんが,少なくとも供給は少なそうです.司法試験という高いハードルを越えないと弁護士にはなれないので,どこにでもいるわけではありません.逆にコンビニ店員(バイト)の時給が安いのはなぜでしょう?弁護士に1時間相談にのってもらうには1万円ぐらいはかかると思いますが(時給1万円!),コンビニのバイトでは時給800円ぐらいしかもらえません.これはコンビニでバイトできる能力を持った人(供給)がたくさんいるからです.特に技能を身に付けていなくても,普通の高校生や大学生でも十分できます.
 このように考えれば,皆さんが将来高い給料を得たいと考えれば,需要が高いけれど供給が少ない仕事を選べば,あるいはそんな能力を身につければよいわけです.というわけで,大学在学中に,周りの人が持っていない希少な能力を身につけましょうね.そのための1つの道は,専門科目をしっかりがんばることだと思いますよ.

経済数学入門 第1回(9/27)

 休日の関係でようやく第1回の講義です.経済数学入門は,2年次以降の主に経済学系科目で必要となる数学の知識を身に付けることを目的としています.また,その内容は公務員試験や民間企業の筆記試験でも役に立つと思います.

【授業の内容】
 今回は初回なので,まず授業の進め方について時間を割いて説明しました.通常の講義と異なり,この講義では,僕からの説明の後,チーム内で互いに教えあう形を取ります.そのため,今回はチームの核となるリーダーを選出しました.リーダーには入学直後の数学試験(MET)で成績優秀であった人にお願いしました.リーダーは,今後,チーム内の数学が苦手な人が理解出来ているかチェックしてください.

 今回説明した内容は,関数の考え方についてです.高校までに数学が得意だった人も「関数って何?」,「方程式とどこが違うの?」と聞かれると戸惑うかもしれませんね.計算ができても,果たして関数をどのように使うのかということはあまり意識することはなかったと思います.
 経済学では非常によく関数を使います.例えば,ある家庭の所得が増えれば,その家庭の消費も増えるかもしれません.そこには,所得(原因)→消費(結果)という因果関係があります.所得をinputすると消費がoutputとして出てくる,この関係が関数です.この場合は消費を決めるので消費関数と呼びます.方程式はどちらが原因でどちらが結果という関係は特にありません.
 上記の例のように経済学では関数をよく使うので,皆さんにも関数に親しんでもらう必要があります.今回は,確認として,一次関数を取り上げました.

 今回の内容の確認として最後に小テストを行ないました.今回のテストは成績には関係ありませんが,だれが数学が苦手で(理解していないか),誰が得意なのか(理解しているか)を把握するためにやりました.苦手な人にはポータルサイトを通じて全学共通教育センターへのお誘いをしています.苦手なものは早めに解決してしまいましょうね.
 また課題を配布しました.課題は次週回収します.

2010年9月22日水曜日

総合政策演習B1② 第2回(9/22)

 今回は独占の復習およびゲーム理論,複占です.

【授業の内容】
 ゲーム理論には複雑な問題はいくらでもありますが,公務員試験に出てくる問題はかなり基礎的なものしかでないので非常に簡単です.でたらラッキーですね.しかし,その含意は,複占を考える上で非常に重要なもので,複占における企業行動についての理解を深めてくれます.

 複占の問題はいろいろありますが,今回は主に最も基礎的なクールノー均衡を解きました.みんな解けていましたが,問題は時間がかかり過ぎていることです.何度も繰り返し解いて,時間を短縮しましょう.

 最後に少しだけシュタッケルベルグ均衡の説明をして終わりました.シュタッケルベルグは,展開型ゲームの後ろ向き帰納法(バックワード・インダクション)の考え方を応用したものです.それがわかっていれば,どちらの最適反応をどちらに代入するか混乱しなくてすみますね.

 次週はシュタッケルベルグおよび共謀を解説します.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第2回(9/22)

 今回はゲーム理論のつづきです.利得表の見方には慣れましたか?

【授業の内容】
 まず前回の復習として,利得表の見方,および「支配される戦略の逐次消去」という解法を紹介しました.また次のような専門用語の確認をしました.
 プレイヤー:ゲームのプレイヤー(そのままか),経済主体
 利得:ゲームの結果得られるポイントのこと.利得の最大化がゲームの目的です(しばらくは).
 戦略:プレイヤーが持つ選択肢

 続いて,しばらく行うゲームのルールを確認しました.
・1回限り
・同時手番
・完備情報(利得表の中身を全プレイヤーが知っており,また他のプレイヤーが知っていることも知っている)
・非協力(他のプレイヤーと相談することができない)

 上記ルールのもと,「支配される戦略の逐次消去」のゲームをした後,この解法では解けないゲームを紹介しました.「支配される戦略の逐次消去」は万能ではなく,解けるゲームもあれば,解けないゲームもあります.しかし,次に紹介するナッシュ均衡という概念はより強力な武器となります.
 ナッシュ均衡で答えを出すこと自体は非常に簡単なのですが,その含意はなかなか複雑です.簡単にいうと,相手の裏をかくことができない安定した状態とでも言えるかもしれません.厳密に言えば,あるプレイヤー(A)の戦略は他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,プレイヤーBの戦略はプレイヤーAの戦略に対する最適反応となっている状態です.定義を聞いてもよくわからないかもしれませんが,ホテリングゲームをすることで,なんとなくその意図するところが実感できたのではないでしょうか.
 幸い,ホテリングゲームおよびナッシュ均衡が机上の空論ではないことを示すかのように,大学の近くには既存の回転寿司屋さんのすぐ隣に回転寿司のお店ができましたね.皆さんの直感では非合理的に思える立地かもしれませんが,ホテリングゲームのセッティングでは考えれば非常に合理的ですね.さてさて,このお店の経営陣はゲーム理論を知っていたのでしょうか?誰かバイトしたら社員さんに聞いてみてください.

 次回は展開型ゲームをやります.

基礎総合演習B 第1回(9/21)

 この授業では「はてな」のウェブサービスを活用しているので,内容については「はてな」に書きます.

経済学A 第1回(9/21)

 今回から始まった経済学Aですが,人が多いですね.

【授業の内容】
 今回は初回ということもあり,経済学とはどういうものかを大雑把に説明しました.

 まず,皆さんがイメージする経済学と実際の経済学が異なることを説明しました.経済学が分析する対象は皆さんの予想以上に広いと思います.株やお金儲けだけが経済学ではないのです.
 経済学には2本の柱があります.それがマクロ経済学とミクロ経済学です.マクロ経済学は望遠鏡に例えられます.大きなモノの全体像を遠くから観察します.一方,ミクロ経済学は顕微鏡に例えられます.大きなモノを構成する要素を細かく観察します.経済学は,マクロとミクロの2つが両輪として,複雑な経済をなんとかとらえようと挑戦しています.

 今回は経済学的なモノの考え方を身に付けるため,インセンティブという概念を紹介しました.インセンティブは日本語では誘因と訳されますが,日本語にしてもやっぱりわかりにくいですね.簡単にいうと,人々の行動を変化させるアメとムチです.世の中が上手く機能していない時,経済学は人々に説教して問題解決するのではなく,「こっちを選んだほうが得だ!」と思わせるシステムを作ることで問題を解決しようとします.経済学は人々の善意を信頼するのではないのです.
 授業では,このインセンティブという考え方を使ってどのように問題を解決するか,いくつかの具体例を紹介しました.とりあえずこの講義では,インセンティブを取り入れ,「全15回の講義終了までに僕が10回以上『静かにしなさい』と注意したら,期末試験は持ち込みなし」ということにしました.みんなに「なぜ静かにすべきか」とじっくりと説くよりも,はるかに手っ取り早く,かつ効果的であることが,過去の実験から明らかになっています.インセンティブは偉大ですね.

 さて,これ以外のこの講義のルールは以下の通りです.
・出席は学生証によりチェックする.学生証を忘れたり,時間内にチェックしなかった場合は欠席したものとする.
・私語さえしなければ(周りに迷惑をかけなければ)基本的に自由です.寝たければ寝てください.
・評価は基本的には期末試験のみです.ただしプラスαとして発表点を加点します.発表点は最大で20点です.発表しなくても期末試験が満点なら成績も満点です.出席回数が少ないからといって点を引いたりしません.
・ただし,学則により1/3を超えて欠席した場合は期末試験の受験資格を失うため,当然単位はもらえません.

 次回は,「ダイヤはなぜ高い?」,「大学進学は合理的か?」,「どんな職業は給料が高いか?」を解説します.

2010年9月18日土曜日

総合政策演習D 第1回(9/16)

 後期になり演習Dも再開ですが,いきなりテストもなんなので,今回は現時点でのチェックと,テキストにないタイプの問題を紹介しました.

【授業の内容】
 皆さんの多くはインターンシップを経験してきたと思いますが,行っただけで満足していませんか?そこから何を得ることができたかもう一度考えてみましょう.何度も言いますが,近年の就活では周りの人と同じことをやって満足してはいけません.むしろ周りと同じことをしてるようではダメです.周りの人がやっていないことをやりましょう.振り返ってチェックしてもらいたいのは,
・他大学(できれば県外)の意欲的な人と知り合うことができたか?
・インターンシップ先で今後も個人的に相談できる人はできたか?
・インターンシップに行かなければ得られない情報をつかんできたか?
この3点です.まだワンデーなどのインターンシップは受付しているものもあります.やり残したことがあるのなら今からでもやりましょう.

 就活のネタや自己分析についてはある程度できている人もいると思いますが,実社会・経済についての意識・関心は高くなってきていますか?授業では為替レート,日経平均株価という経済に関心がある人ならある程度注視していてしかるべきことについて尋ねましたが,ちょっと物足りない答えでした.特に為替介入があった直後だったので,ニュースでも繰り返し取り上げられていたはずのタイミングだったんですけどね.
 
 来週からはいつも通りの形式で授業をします.冒頭にテストするので遅刻しないようにね.

総合政策演習B1② 第1回(9/15)

 ようやく演習B1で僕の番が回ってきました.後期は不完全競争市場ですね.人数が少ないので,形に捕らわれず,積極的にどんどん質問して,わからない所をなくしてくださいね.

【授業の内容】
 今回は,計算の基礎を確認した後,様々な独占を分類・整理し,基本となる完全独占の問題を早速解いていきました.

 独占の問題を解くのもほぼ1年ぶりなので忘れているかもしれません.完全競争と完全独占の違いをはっきりしておきましょう.
 完全競争の場合,1つ1つの個別企業には価格決定権はありません.周りの企業と同じ財を作っているので(財の同質性の仮定),他社より高い値段をつけてしまうと誰も買ってくれません.逆に1社が他社より低い値段をつけると,ライバルたちも一斉に値下げしてくるでしょう.そのためどの企業も利潤が減ってしまいます.利潤がどんどん減っていき,そのうち赤字になる企業も出てくるでしょう.ただ「自由な参入と退出」という仮定があるので,赤字になったら退出していくかもしれません.いずれにせよ,利潤がある間は新規参入が起こり,常に極限まで厳しい競争が行われているため,どの企業も利潤はありません.それが完全競争市場です.
 完全独占では企業に価格決定権があります.なぜなら自社しか存在しないからです.当たり前ですね.また,その価格は自社の利潤が最大となるように決められます.その時の生産量は定義より,MR=MCにて求められます.今回はなぜMR=MCとなるのかも証明(というほどのものでもありませんが)しましたね.

 次週までにテキストの完全独占の問題すべてに挑戦しましょう.難易度は低いものから高いものまであります.解説を読んでもわかりにくいものは僕が解説するので,しっかりやってきましょう.時間があれば複占の説明をします.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第1回(9/15)

 後期開始一発目がミクロでした.前期試験の難しさで,多くの学生が敬遠するかとも思ったのですが,あんまり変わっていないようでしたね.

【授業の内容】
 今回は,前期と後期の違い(完全競争市場と不完全競争市場)を説明した後,ゲーム理論の基礎を説明しました.

 前期のベイシックⅠでは一貫して完全競争市場を舞台に家計や企業といったプレイヤーがどのように行動するのかを学びましたが,後期ではその前提となった完全競争市場の条件を崩します.言い換えれば,非現実的な仮定の話ではなく,より現実的なシチュエーションにおける各プレイヤーの行動を理解していきます.
 例えば,前期においては「多数の売り手と買い手」を想定していましたが,現実では必ずしも多数の売り手が存在するとは限りません.皆さんがパソコンのOSを選ぼうと思えば,ほぼ自動的にMicrosoftのOSを選ぶことになっているのではないでしょうか.また家庭で電力会社と解約しようと思うと,その地域の電力会社以外に選択肢はないと言ってよいでしょう(四国内から四国電力ですね).前期で想定した多数の売り手のケースと,売り手が少数しかいない(あるいは1社のみの)ケースではどのように違うのでしょう?また我々買い手にとってはどちらが良いのでしょう?企業にとっては?社会全体にとっては?

 ベイシックⅡの前半部分は主にこのような独占について多くの時間を割く予定です.独占のうち,2社が市場を独占しているケースを特に,複占と呼びます.この場合,企業はライバル企業の行動に注目するはずです.相手の裏をかいて儲けるかもしれませんし,相手と手を結ぶのかもしれません.
 まずはこのような利害関係のある相手との駆け引きを学びましょう.それがゲーム理論です.授業ではゲーム理論の入門として,いくつかのゲームを実際にやってみます.今回はゲーム理論におけるゲームの中でも(たぶん)最も有名な囚人のジレンマゲームを行ないました.
 利得表の見方,ゲームの目的など,慣れないところもあるでしょうが,今回配った例題プリントを使って復習してみてください.例題を順に解くことで,次回に説明する「支配される戦略の逐次消去」という考え方が自然と身に付くと思います.

 今回の課題は,テキストのpp.150-154を読んでくることです.次回ランダムに当てて内容を聞くので,必ず読んでくるように!

2010年8月9日月曜日

開発経済学 第15回(7/23)

 最終回は「仕事としての開発」を取り上げることが多いのですが,今年度はそちらの方向に興味がある人がいないようなので,国際社会からの援助についての講義にしました.

【授業の内容】
 ODAとは政府開発援助です.ODAについては悪いイメージが先行しているかもしれませんが,実際はどういうもので,どういう目的のために行われているのか見てみましょう.
 ODAとは次の3条件を満たしたものです.
•政府ないしは政府の実施機関によって供与されたもの
•途上国の経済開発や福祉向上への寄付を目的として供与される資金
•借款はグラントエレメント比が25%以上のもの

(斜体部分は外務省ウェブサイトよりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/nyumon/oda.html)

 簡単に言うと政府が他国に対して行う援助のことと考えて良いでしょう.しかし,なぜ援助をするのでしょうか?日本も財政的にはかなり厳しいはずですし,実際に近年かなりの割合は減らされています.援助を行う理由を利他的と利己的の2つに大別してみましょう.

 まず利他的な理由ですが,地球に住む人間に課せられた所得税のようなものと考えれば良いでしょう.豊かな人が所得の一部を提供することで,貧しい人々の生活を大きく改善することができます.また,人道的な立場からも,貧困に苦しんでいる人を助けるべきだと言う人もいるでしょう.僕もどちらかというとこの立場です.ちょっとしたきっかけで貧しい人々の生活が大きく変わる様子はマイクロファイナンスの講義でもわかったと思います.しかし,政府関係者はこういった主張をあまりしません.「皆さんのお金で見返りを求めず援助しました」とはやっぱり言いにくいと思います.「そんな金があるなら税金安くしろ!」という人もいるでしょうからね.

 というわけで,もう1つの理由が必要となるわけです.利己的な理由としては,ODAで恩を売っておけば何らかの見返りが期待できる,というものがあります.特に日本は原油という天然資源を持たない国なので,安定的なエネルギー供給のために,ODAが間接的に役立っていると言えるでしょう.また,国際舞台での発言力が増すということも考えられます.軍事力を行使して紛争解決することができない日本にとってODAは国際的な存在感を高めるために必要と言えるかもしれません.

 この他,グラントエレメント比,ODAの内訳,日本のODAの特徴などを説明しました.

 MDGsを達成するために必要な金額は約2000億ドルとも言われますが,モントレー合意に基づきDACドナー諸国がGNPの0.7%をODAとして拠出するという約束を守れば平均して2350億ドルが拠出できます.つまりMDGsは決して実現不可能ではない,と主張されています.(その試算が正しいとすれば)後は0.7%を拠出するだけですが,日本のODAは0.7%にはほど遠いのが現状です.政府はODAの額を増やすことができるでしょうか?

 さて,国別の援助以外にも,さまざまな機関・団体が援助を行っています.まず国際援助の実施機関の区分からです.国連(とそのグループ)を始めとする国際機関,二国間援助,そしてNGOです.それぞれ,異なる長所と短所を持っており,互いに補完する性質を持っていると言えるでしょう.

 援助の現場にいるのは国際機関だけではありません.NGO(NPO)の存在感は年々大きくなっています.NGOは資金・人材が限定されるという欠点もありますが,柔軟できめ細かい援助ができるという利点もあります.

 さて,援助の方法ですが,授業では,次の2つに分類しました.
・資金,物資の援助
・指導
 前者はすぐにイメージできますが,後者はなかなかイメージしにくいでしょう.授業では1980年代にIMFや世銀が行った構造調整を採り上げ,その結果について照会しました.
 それも含め,援助についての理論として,マクロ・ミクロの両面から説明しました.マクロとしてはTwo-Gapモデルの説明と,その評価について,そして構造調整に関して途上国に突きつけられた条件(Conditionality)を具体的にみていきました.

 対するミクロ面として,参加型開発について説明しました.参加型開発は,調査にかかるコストの増加や受益者による利益誘導の恐れというデメリットがありますが,それをカバーする様々なメリットを持っています.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第15回(7/23)

 最後の回は,前半はエッジワースボックスのつづきを,そして後半は総復習をしました.

【授業の内容】
 エッジワースボックスの見方は簡単に前回紹介しましたが,今回はそれを使って,初期賦存量から市場メカニズムを通じてどのようにパレート改善が行われるか,またその過程でいかに価格が変化するか,そして超過供給や超過需要が解消されるかを説明したのですが,ここはなかなか理解が難しいところでしょうね.
 またパレート最適(これ以上パレート改善ができない状態)となる点を集めた曲線を契約曲線と呼ぶことを説明しました.

 一応,これで完全競争市場という条件で,消費者と生産者がどのように行動するか,その結果,市場がどのように働くかを説明し終えたわけですが,みなさんが全体像を理解できたかどうかわかりません.なかなか学んですぐにはわからないかもしれませんね.

 後期のベイシックⅡでは完全競争市場という非現実的な条件を1つ1つ開放していきます.つまりより現実的な想定の経済を学んでいくわけです.

経済学A 第15回(7/27)

 しばらくほっといてしまい,今さらですが第15回です.最終回はこれまであまり話ができなかった金融について少しふれた後,開発経済学を紹介しました.

【授業の内容】
 前半の金融については,中央銀行と市中銀行の役割,金融政策,直接金融と間接金融などを中心に説明しました.中央銀行とは,貨幣の発行や,貨幣の流通量を調節する(結果として物価や金利も調節する)役割を持つ銀行です.日本の中央銀行は日本銀行です.
 この日本銀行は貨幣の流通量を調節することで,日本の物価,および景気を調節しています.貨幣の流通量を増やせば,みんなの手元にお金が届くため,投資にまわるでしょう.より正確に言えば,貨幣が増えれば利子が下がるためお金が借りやすくなり,投資が増えるのです.ただし,貨幣が増えれば物価が上がる(インフレ)という弊害もついてきます.逆に貨幣の流通量を減らせば,貨幣が貴重になるため利子率は上がってしまい,結果として投資が減ります.またモノに対して貨幣が貴重になるため物価は下がります(デフレ).
 市中銀行の役割は,お金の貸し手である家計からお金を預かり,それらをまとめて大きな金額にして企業に貸し付けるという間接金融が主です.対して,企業が直接的に家計からお金を借りることもあります.そのような直接金融の例が株式です.

 後半は開発経済学について説明しました.短い時間でしたが,主に途上国の現実をデータで紹介しました.平均寿命,HIV感染率,非識字率,飢餓にあえぐ人の割合,地域ごとの経済成長率など様々な側面から途上国,あるいは貧困について見てみましたが,どうでしたか?我々の目や耳に届きやすいのは,中国やインドなど,急成長しているアジア諸国が多いでしょうから,アフリカの国々の実態には新たな発見もあったのではないでしょうか?

 これで経済学Aの授業は終りです.経済学Bの授業はないので,ほとんどの人は大学で経済学について学ぶことはもうないでしょう.しかし,経済はみなさんの生活におそらく一生ついてくると思います.今後もちょっと関心を持ち続けると役に立つこともあるかもしれませんね.

2010年7月17日土曜日

開発経済学 第14回(7/16)

 今回はガバナンスでした。

【授業の内容】
 ガバナンスとは何かについて,UNDP,世界銀行の定義を紹介しましたが,それらをまとめて僕は,「資源配分の効率性」と「意思決定のシステム」という2点に集約できるのではないかと考えます.また,ガバナンスに関連する様々な指標がありますが,そのうち世銀のガバナンス指標,トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の実感汚職指数などを紹介しました.授業では紹介しませんでしたが,国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」もガバナンスに関連する指標と言えるでしょう.
世銀:http://info.worldbank.org/governance/wgi/sc_country.asp
TI:http://www.ti-j.org/TI/CPI/index.htm
国境なき記者団:http://www.rsf.org/Only-peace-protects-freedoms-in.html

 さて,ガバナンスが悪いと何が問題なのでしょう?ガバナンスは上記の通り,資源配分の効率性と意思決定のシステムを意味しています.これらに問題があると,政府の政策や公共サービスが非効率であったり,特定のグループだけを優遇したり,汚職が横行したりと,様々な問題を引き起こしますし,それは結果として社会的厚生を下げてしまいます.
 ガバナンスが所得や乳幼児の死亡率に影響を与える,汚職が経済成長率を鈍化させるなど,様々な研究がガバナンスと社会的厚生との関係を指摘しています.

 後半は移行経済について解説しました.学生の皆さんにとって,社会主義国が資本主義の現実的なオルタナティブであった時代を想像しにくいでしょうね.僕も経済学を学び始めた時にはすでにソ連はロシアになっていましたし,ベルリンの壁も崩壊後でしたし,言わば歴史によって,経済システムとしては大きな欠陥があるという審判が下されていたので,学びたいと思える環境にはありませんでした.
 さて,社会主義経済にはどんな欠陥があるのでしょう.いくつかありますが,1つは市場経済とは異なり,情報の流れが上から下へと一方通行であり,効率的な資源配分が実現できないことがあります.もう1つは,物事を改善したり,新たな商品・技術を発明したりしようというインセンティブを持ちにくい点です.シュンペーターは経済成長における重要なファクターとして,創造的破壊を指摘しています.社会主義経済では,既製品を大量生産することには向いているかもしれませんが,このような創造的破壊が起きにくいのではないでしょうか.
 それらが原因となるのかどうかはわかりませんが,中国の実質GDP成長率を見ると,開放改革路線以後,成長のばらつきが明らかに小さくなっているようでしたね.UNDPが指摘するように,市場経済は最高の経済パフォーマンスを保証しないとしても,成長のばらつきを小さくするのかもしれませんね.もちろんタダの偶然で,他国のデータを見ると違う結果なのかもしれません.このように仮説を立て検証するとより良いレポートになります.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第14回(7/16)

 今回は一般均衡の前半です.これまでの復習も兼ねています.

【授業の内容】
 まず,消費者理論と生産者理論の復習です.消費者理論では,個人は相対価格と限界代替率が等しい点で効用を最大化していました.また生産者理論では,企業は相対価格と限界変形率が等しい点で利潤を最大化していました.これらは来週の内容に関連しているので,頭の中に入れておいてください.

 経済学は人々,あるいは社会全体の幸せを実現するために効率性を追求する学問です.そのため,ここでは,「より良い変化とは何か?」を定義するパレート改善という概念を紹介しました.パレート改善とは,他の人の効用を下げることなく,ある人の効用を増加させるような変化のことでした.また,パレート改善がこれ以上できない状態をパレート最適と呼びます.

 具体的なパレート改善の例を説明するため,エッジワースボックスという,2人のプレイヤーの無差別曲線をくっつけたような図を用いました.エッジワースボックスは,図中のある点が,2人のプレイヤーで2つの財をどのように分配するかを示してくれる便利な図です.
 エッジワースボックス上のある点からある点への移動がパレート改善になっているか,実際に確かめました.

 次週は一般均衡のつづきと,プリントを用いてこれまでの総復習をしたいと思います.

2010年7月14日水曜日

経済学A 第14回(7/13)

 今回はこれまでに皆さんから受け付けた質問に答えました.

【授業の内容】
 いろいろ話そうと思って準備をしていたのですが,ほとんど価格の話ばかりになってしまいました.
 「ブランド品はなぜ高いのか?」,「ガソリンは高くなるだけで安くならないのか?」,「バナナは高い時期があるのか?」,「作りすぎた野菜を廃棄するニュースを見たことがあるけど,(出荷せず廃棄する)理由がわかりません」などなど,もっとも多かったのが価格に関する質問です.
 これらをまとめて考えるための道具として,ワルラス型価格調整メカニズムというものを紹介しました.ワルラスという経済学者は,生産者(企業)が商品の価格を設定し,その時,需要より供給の方が大きく売れ残り(超過供給)が発生すると,企業は値下げをし,逆に供給より需要の方が大きく品不足(超過需要)が発生すると企業は価格を上げると考えました.これを何度か繰り返すと,需要と供給が等しくなる点(均衡)が見つかると考えたのです.
 このように需要と供給のバランスで価格が決まるという考えは,以前にもダイヤモンドの価格の所で出てきましたね.

 また,ブランド品の価格に関連して,独占についても話をしました.独占市場と競争市場を比較し,どちらが価格が高くなるか,どちらがより儲けやすいか,などについて説明しました.独占市場であれば,ライバルがいないので,好きな値段をつけることができます.もしライバルが多い競争市場では,みんなが売っている値段より高い値段をつけると,消費者に見向きされないため,事実上,価格を自分で決めることはできず,周りの企業に合わせなければなりません.
 独占企業はこのような強みを活かし,商品の生産量を減らして,価格をつり上げます.それにより高い利潤が得られるのです.授業では話せませんでしたが,なぜ独占市場と競争市場があるのでしょう?それについてもまた機会があれば考えてみてください.
 皆さんも就職活動の際には,この企業が販売している商品の市場は競争的か,独占的か,という視点をちょっと意識してみてください.なんらかの役に立つかもしれませんよ.

 さて,授業の最後に「テストは持ち込みありか,なしか」についてアンケートをとりました.持ち込みありだと,少し考えなければならない問題が多めなのに対して,持ち込みなしなら暗記中心の問題多めです.アンケートの結果は,わずか2票差で持ち込みありになりました.また来週の授業で説明します.

2010年7月12日月曜日

開発経済学 第13回(7/9)

 今回は内戦を取り上げました.前回に引き続き,我々にはなかなか想像しにくい現実です.

【授業の内容】
 授業では,内戦を含めた戦争はなぜ起きるのか.内戦はその国にどのようなダメージを与えるかを中心的なテーマとして話をしました.

 さて,人(国?)はなぜ戦争を行うのでしょう.経済学的にシンプルな答えは,「戦争したら得をすると考えるから」です.ただし,国が得をするという意味ではありません.国全体としては損をするけれど,一部には得をする人がいる場合にも戦争は起こるかもしれません.特にその得をする人が開戦を決定できる場合,もしくは決定できる人に影響力を持つ場合に戦争は起こりえます.逆に言えば,得をする人がだれもいなければ戦争なんてなかなか起こらないでしょう.
 戦争して国が得をすることがあるでしょうか.答えは「ある」です.正確に言えば「あった」です.20世紀の戦争については,朝鮮戦争までは開戦国にとってメリットの方が多かったようです.ただし,開戦時に低成長であり,資源の利用状況が低く,短期間,かつ本土以外が舞台となった場合に限られます.しかしベトナム戦争以降は経済的にペイしなくなったとされています.そのため,戦争に経済浮揚効果があると考える経済学者は現在ではほとんどいないでしょう.
 情報が比較的入手しやすい近年の戦争(イラク戦争)の収支については,スティグリッツとビルムズ(2008)が詳しい試算を行っています.それによると戦争の総コストは3兆ドルにものぼり,将来のアメリカの財政にも大きな傷跡として残り続けるとされています.

 内戦の収支を考える前に,内戦とイラク戦争のような国際戦争(紛争)との違いを理解しましょう.国際戦争の多くは短期間で,戦闘員同士の限定的な戦争です.逆に内戦は長期間にわたり,戦闘員と非戦闘員の区別もあまりないことが多いです.むしろ犠牲者の多くは一般人です.そのため,国にもたらす被害は圧倒的に内戦の方が大きいでしょう.

 内戦のデメリットには次のようなものが想定できます.
・社会資本の損失
・軍事支出の機会費用
・社会的コスト
・資本の海外逃避
・精神的被害

 逆にメリットしては,
(指導者側)
・資産,資源の収奪
・外国からの援助
(兵士側)
・賃金,食糧
・資産,資源の収奪
・安全の確保
・復讐の機会
などが考えられます.

 これらから内戦が起こりやすい条件として次のことがわかってきます.
・天然資源を持つ国では内戦が起こりやすい
・アイデンティティの違いは原因ではなく,対立構図にすぎない
・貧困,格差が内戦を引き起こしやすい
・人口圧力が内戦を引き起こしやすい
・ガバナンスの悪さ(軍部の独裁,シビリアンコントロール)
・過去に内戦があった

 最後にまとめとして,内戦を防ぐためにはということも考えました.経済学では「内戦を起こさない方が得」という状況を作ることが答になるでしょう.

【参考文献】
世界銀行(2003)「戦乱下の開発政策」シュプリンガーフェアクラーク
スティグリッツ,ビルムズ(2008)「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」徳間書店
ポール・ポースト(2006)「戦争の経済学」バジリコ

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第13回(7/9)

 今回も余剰分析です.ただし,具体的な数値例を使った計算を行ないました.

【授業の内容】
 前回の復習をした後,厚生経済学の第一基本定理を紹介しました.財の価格と量が競争市場で決められた時,社会的余剰は最大となるというものです.つまり現在やっているような完全競争市場がもっとも理想的だということです.このような話はマクロ経済学でも出てきますね.

 では完全競争市場で価格(や量)が決定されない場合とはどんな場合でしょう.それは政策によるものと,市場によるものがあります.
 政策によるものとしては,政府により価格統制,(取引)数量制限,課税,補助金などが採られた場合です.
 また市場によるものとしては,独占がありますが,こちらは後期の内容なので飛ばします.

 今回はこの中でも特に課税(従量税)のケースの説明に時間をさきました.
 従量税とは,売買される量の多さによって税額が変わってくるものです.例えば酒税やタバコ税などがこれにあたります.取引される酒やタバコの量に応じて,1単位あたり何円かの税金が課せられます.これは需要関数と供給関数にどのような形で表現できるのでしょう.
 課税は企業にとってはコストです.1単位あたり100円の従量税は,限界費用を100円分引き上げます.また総費用関数では,100円×量だけ総費用が増加すると表現できます.
 このような課税は消費者余剰,生産者余剰をともに減少させますが,税収は増加します.税収は社会的余剰に含まれますが,税収の増加分より,消費者余剰と生産者余剰の減少分の方が大きいため,社会的余剰は減少し,死荷重が発生します.

 さて,ここで問題ですが,
1.社会的余剰が減少するにもかかわらず,なぜ政府は課税を行うのでしょう?
2.従量税が100円課せられたにもかかわらず,取引価格は100円も上がりませんでした.なぜでしょう?
 テストも近いし,考えてみましょうね.

経済学A 第13回(7/6)

 週末に学会に出張していたため更新が遅れました.今回は少子化と結婚の経済学でした.

【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.

 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.

 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.

 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 授業ではイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?

2010年7月3日土曜日

開発経済学 第12回(7/2)

 今回は疾病・保健と貧困との関係についてマクロ,ミクロの両面から説明しました.

【授業の内容】
 HIV/AIDSについては知ってるような気になっているけれど,意外と知らないことが多いのではないでしょうか.まず,HIVについて説明しました.その感染方法,症状,世界中に蔓延した経緯などです.1980年代になって謎の怖ろしい病気として,先進国では大きな問題とされましたが,現在では日本という例外を除き,先進国のほとんどではHIVについての理解もすすみ,感染者数も減少しています.むしろ現在ではアフリカ,南アジアなど貧困国での感染者数の増大が大きな問題となっており,また中国やロシアでの感染者数も増えています.
 続いてAIDSですが,AIDSはHIVの感染後に発症します.あくまでHIVは原因であり,AIDSは結果です.

 HIV/AIDSが問題となっているのはなぜでしょう.まず第一に,健康な生活を営めないという問題があります.サハラ以南のアフリカ諸国のいくつかではHIVにより平均寿命が10年以上短くなっています.
 次に,健康を損なうため,貧困を招くという問題もあります.患者の多くは10代後半以降の労働者として働き盛りであるため,働き手の1人を失うことで,家計収入は減少します.また,AIDS患者が家族内にいることで,介護する人も必要になります.結果として,AIDS患者を抱えた家庭では収入が減る一方で医療費は増大し,食費,教育費が減少します.医療費については,かつて感染したら死を待つだけと思われていたHIV/AIDSですが,現在ではAIDSの発症を抑える抗レトロウィルス剤があり,年間300~400ドルのようです.しかし,1日約1ドルという我々からすれば安価なこの薬も,1日の所得が2ドル以下の人々の多いサブサハラでは,大きな負担になります.
 続いて,偏見による社会的孤立,母子感染,AIDS孤児など日本にいる我々にはなかなか想像しにくい問題があります.また,授業では言い忘れましたが,HIV/AIDSにより,家計が教育を通じて人的資本蓄積を行っても,それが収入を生まない可能性があるため,結果として国レベルでは教育水準が下がる可能性もありそうです.

 さて,HIV/AIDSはなぜアフリカで猛威を振るっているのでしょうか.かつては,「アフリカでは不特定多数との性的交渉が多いから」,「割礼を受ける男性が多いから」などの仮説がありましたが,前者はデータから仮定そのものが否定され(多いわけではない),後者は逆に「割礼を受けた男性の方がHIV感染率が低い」ということがわかりました.やはり一見非合理的に見えても,その地域で長期的に継続してきた風習・慣習にはなんらかの合理性があるのでしょうね.
 では,本題に戻ると,原因としていくつか考えられます.「教育水準の低さ,HIVについての基礎的知識が広まっていない」,「先進国とHIVのサブタイプが異なる」,「ジェンダー格差により女性が予防しにくい」,「売春」,「内戦」,「性に関する慣習」などについて説明しました.どれが決定的な原因なのかは判断しづらいところですが,それぞれそれなりの説得力があると思います.

 このような問題に対し,どのような対策が立てられているのでしょう.成功した例としてウガンダ,失敗した例として南アフリカを紹介しました.

 アフリカで問題となっているHIV/AIDS以外の疾病について,マラリア,下痢,眠り病などを紹介しました.我々にはなじみがない病気が多いために,新しい発見も多かったのではないでしょうか.いずれも,私たちからみて,ほんのわずかなお金で,これらの病気で死ぬことを防ぐことがわかったと思います.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第12回(7/2)

 今回も引き続き生産者理論を説明し,余剰分析も少し説明しました.

【授業の内容】
 生産者理論については,前回の内容の理解を深める形で,損益分岐点,操業停止点などを説明しましたね.また,そこから,操業停止点の右上部分の限界費用曲線が,企業の短期供給曲線であることがわかりました.また,企業の様々な規模の限界費用曲線から,長期の供給曲線も導出できました.

 後半は余剰分析でした.余剰分析を行うためには,消費者理論から導かれた需要曲線,生産者理論から導かれた供給曲線が必要です.また,以前に学んだ価格理論を思い出してみると,需要と供給が等しくなる点(均衡点)で価格や生産量(取引量)が決まるんでしたね.
 需要曲線と価格とのギャップ(出しても良いと思っていた金額と,実際に払ったお金との差額)が消費者余剰(CS)です.CSが大きいほど,消費者にとっては望ましい状況です.また,供給曲線と価格とのギャップ(限界費用と販売価格との差額)が生産者余剰(PS)です.PSが大きいほど生産者にとって利潤が増えることを意味します.
 またこのCSとPSの合計を社会的余剰(SS)と呼びます.この社会的余剰が大きいほど,社会全体にとって望ましい状況であると考え,様々な政策を評価することが余剰分析です.
 ちなみに基本的にはSS=CS+PSで良いのですが,税や補助金が出てきた時は次のように扱います.
SS=CS+PS+税収-補助金
なぜ税収の増加が社会全体にとって望ましいのかというと,税収は必ず社会全体のために使われるからです.逆に補助金は税収から出されるので,税収の減少と同じことなので,マイナスがついています.

 次週は具体的な数値例を用いて余剰分析をやります.

2010年6月29日火曜日

経済学A 第12回(6/29)

 今回は財政と税について説明しました.伝えたいことがたくさんあるので,もう少し時間が欲しかったなぁ.

【授業の内容】
 まず,復習として,大きな政府と小さな政府を思い出してみました.どちらが正しい,というものではなく,私たち1人ひとりがどちらの方が理想的だと思うかです.

 皆さんに現在の日本の財政状況を紹介しました.政府は収入をはるかに超える支出をしており,巨額の赤字をしています.その内訳も円グラフで確認しましたね.歳出(お金の使い途)で重要なのは社会保障費です.その他の歳出の多くは減少傾向にありますが,少子高齢化により社会保障費(年金,健康保険など)は年々増加していますし,これからも増え続けることは間違いないでしょう.借金による収入や,借金の利子の返済などを除いた収入と支出をプライマリーバランスと呼びます.現政権もプライマリーバランスの黒字化を目指しているようですが,そのためには(当たり前のことながら)支出を減らすか(年金の減額,子ども手当の減額など),収入を増やす(増税)のどちらか,もしくは両方をしなければなりません.「税金は払いたくないけど,年金はしっかりもらいたい」などは不可能です.しっかりした社会保障制度を望むのなら増税が,減税を望むのなら社会保障の規模縮小をせざるを得ないのです.

 後半は税について説明しました.皆さん,所得税と消費税がどう違うか,普段の生活ではあまり意識しないでしょう.所得税を減税して消費税を上げようと,所得税を上げて消費税を下げることとでは,同じように見えますが,どちらを選ぶかで国のかたちを大きく変わります.
 さて,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.
 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.
 現在,参院選を控えて,消費税率を上げるかどうかが争点の1つとなっていますね.ちなみに皆さんへのアンケート結果は,
 「消費税率を上げるべき」86.3%
 「上げるべきではない」9.8%
と圧倒的に増税を選ぶ人の方が多いようです.しかし,これまでの日本の政治の歴史では,消費税率を上げた政党は選挙で負けるようですよ.なぜでしょう?

 最後に,日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.

アンケートのアドレス
http://enq-maker.com/1PPIKRi

2010年6月27日日曜日

総合政策演習C 第10回(6/25)

 今回は企業・業界研究2です.

【授業の内容】
 皆さんが書いた企業研究シートを返却し,企業研究のやり方を紹介しました.
 まず基本中の基本として企業名を正確に書くよう注意しました.今回の例ではグリー株式会社を選んだ人が多かったのですが,企業名を「GREE」や「グリー」などと書いた人が目立ちました.前者がサービス名であり企業名ではありませんね.よく間違えやすい例では,×「キャノン」→◯「キヤノン」,×「ブリジストン」→◯「ブリヂストン」などがあります.
 また,「5年後の自分」の欄では特に空白が目立ちました.イメージしづらいのでしょうが,まずは企業のウェブサイトをしっかり利用しつくしましょう.グリー株式会社の場合には,採用情報のページから,先輩社員が具体的にどのような仕事をしているか知ることができます.上場企業の多くは同様の情報を公開しているので,具体的な仕事のイメージができない人はチェックしましょう.
 これらを始めとして,学生の多くは企業研究が十分とは言えません.自分が働きたい会社のことをあまり知らないのでは,相手(人事)にその熱意は伝わらないでしょう.まず知りうる限りの情報を集めましょう.ウェブサイトでの情報収集は当然のこととして,それに平行して,次のような情報源から,情報収集が可能です.
・日本経済新聞や業界専門紙
・経済誌(東洋経済やダイヤモンドなど)
・OB,OG訪問や店舗見学
 特に一番下のOB,OG訪問がおすすめです.なぜなら,自分が知りたいことを聴けるだけでなく,自分しか知らない情報を入手できる可能性があるからです.ライバルと差をつけるにはライバルと同じ情報ではダメでしょう.ライバルが知らない情報を得てこそ,より深い企業研究が可能になるはずです.
 しかし,ほとんどの学生はOB,OG訪問をしません.なぜなら「周りもしないから」なのでしょうが,その考えが決定的に間違っています.「周りがしないから」すのです.就活のため,早めに意識を改革しましょう.

開発経済学 第11回

今回は貧困と教育でした.

【授業の内容】
 途上国における教育の現状をデータで見ると,世界の15-24歳の識字率は,男性で91%,女性で85%です.これをサハラ以南のアフリカに限れば,男性76%,女性64%に過ぎません(UNICEF).
 今回は教育の拡充をメインのテーマにしましたが,その理由は以下の通りです.
1.そもそも子供には教育を受ける権利がある
 これは子供の権利条約(児童の権利に関する条約)に基づくもので,ソマリアとアメリカ(!)を除くほとんどの国が締約しています.またMDGsでもすべての子供に初等教育を受けさせることが目標とされています.
2.貧困削減の手段として
 以前にヌルクセの貧困の悪循環を説明しましたが,悪循環は一国全体としても捉えることができますし,家計単位でも教育を通じて貧困が連鎖してしまうと捉えることも可能です.つまり貧しい家庭では子供に与える教育の水準が低くなり,その子供も人的資本蓄積が少ないために高い収入を得ることができず,まさに教育を通じて貧困が子々孫々と遺伝してしまうのです.
 その連鎖を断ち切るためには,政府が十分な教育を供給することが大きな役割を果たすはずです.また,各家計単位で見ても,教育は収益率の高い投資先であることがわかっています(私的収益率).また教育は正の外部性を持つため,社会的収益率はさらに高くなります.
 しかし,現実には資金制約(就学させる余裕がなく,かつお金を借り入れできない),機会費用(児童労働),物理的制約(通学が困難),ジェンダー格差など様々な原因により,必ずしも初等教育が普及しているとは言えない状況です.

 貧困を削減するためにも教育が重要であることはわかりますが,現実には様々な,途上国に特有の問題もあるために教育は十分に普及していません.より多くの人に,より質の高い教育を目指して,世界中で様々な取り組みが存在します.授業ではその中から,バングラデシュのFFE(Food for Education)と,ニコラス・ネグロポンテのOLPCプロジェクトを紹介しました.

【参考文献】
UNICEF(2008)「世界子供白書」
OLPCウェブサイト
http://laptop.org/en/

【第3回レポート】
提出期限7月23日12:00
テーマ:1~13回の授業で取り上げたテーマ1つを選んで論述
文量などはこれまでと同様です.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第11回(6/25)

 今回は生産者理論の山場として,損益停止点と操業停止点を説明しました.

【授業の内容】
 前回わかったこととして,(限界費用が逓増する場合には,つまり費用逓減産業では)価格と限界費用が等しくなるように生産すると利潤を最大化できることがわかりました(最適な生産).
 ただし最適な生産をしたとしても黒字になるかどうかはわかりません.また場合によっては生産自体を止めたほうが赤字が少なく済む場合もあります.それを今回は具体的な例を使って説明しました.その説明のために,新たに平均総費用(ATC)平均可変費用(AVC)という2つの費用を取り入れました.
 平均総費用とは,総費用を生産量で割ったものであり,生産量1単位あたりにどれだけ総費用がかかっているかを示すものです.そのため,価格と平均総費用を比較することで利潤が黒字なのか赤字なのかがわかります.なぜなら,価格とはその財を1単位生産したときに入ってくるお金であり,平均総費用は財1単位を生産するのに出て行ったお金だからです.財を1単位生産して入ってくるお金より出て行くお金の方が大きければ赤字になりますよね.逆なら黒字です.このことから,価格と平均総費用が等しくなる点を損益分岐点と呼びます.この点よりも高い値段で販売できるなら黒字になり,安いと赤字になります.
 平均可変費用とは,可変費用を生産量で割ったものであり,生産量1単位あたりにどれだけ可変費用がかかっているかを示すものです.この平均可変費用を価格と比べることで企業が生産すべきかどうかがわかります.そのために,まず可変費用と固定費用を復習しましょう.例として,皆さんが移動販売のメロンパン屋を始めたとしましょう.この場合の総費用を可変費用と固定費用に分類しましょう.生産を開始する前にまず固定費用がかかります.これは生産量に関係なく発生する費用であり,この例では,移動販売に必要な車の取得や,メロンパンを焼くためのオーブン,開業に必要な事務手続きなどの費用がこれにあたります.これらに100万円がかかったとしましょう.この時点での利潤は-100万円です.ここから生産を開始します.メロンパンを生産すれば1個あたり150円のお金が入ってきます.ただし,それがすべて儲けになるわけではなく,メロンパンを生産することで新たに発生する費用があります.それが可変費用です.この例では小麦粉などの材料費や燃料代がそれにあたります.1ヶ月経って,パンが1000個売れたとします.収入は1000×150=15万円です.その間の可変費用が10万円(平均可変費用が100円)であれば,利潤は15万円-(100万円+10万円)=-95万円となり赤字です.ではこの企業は生産を止めたほうが良いのでしょうか?そうではありません.固定費用は仕方ないものとして,生産することによって赤字が減少したからです.価格が150円に対して平均可変費用が100円と,平均可変費用が価格を下回るため,生産すればするほど赤字は少なくなるので,この企業は生産すべきです(ただし,この儲けでは生活できない,あるいは機会費用と比べて割りに合わないという意味で言えば生産すべきではないのでしょうが…).

 このような関係は図示することもできました.配布した問題をやって理解を深めましょう.

2010年6月23日水曜日

経済学A 第11回

 今回は前回の為替に関連して,貿易とグローバル化について説明しました.貿易はともかくグローバル化は,皆さんの将来にとって重要なテーマです.

【授業の内容】
 前回も少しふれた貿易ですが,貿易は国全体としてみると非常に良いものです.それを絶対優位,比較優位の説明と共に紹介しました.
 絶対優位の例として,漁師と農家を挙げました.魚釣りの得意な漁師,米作りの上手い農家は,それぞれ魚,米の生産に関して絶対優位を持っています.魚釣りについては漁師に絶対優位があり,米作りについては農家に絶対優位があるといいます.逆に漁師は米作りに絶対劣位にあり,農家は魚釣りに絶対劣位にあります.このようなケースでは,両者は絶対優位にある財(モノやサービスのこと)の生産に集中し(特化),それを相手と交換することで,自給自足の場合より,両者とも豊かになれます.それを数値例で確認しました.つまり分業は効率的なのです.
 また,経済学的に良い状態の目安として,パレート最適(パレート改善)という概念を紹介しました.やや消極的な判断ですが,パレート改善が良い変化であることには多くの人が賛成するでしょう.それぞれが絶対優位を持つ場合,分業・交換することでパレート改善が可能でした.

 続いて,上のケースと異なり,一方の国はなんでも得意だけど,もう一方の国はすべて苦手,というケースを考えました.それぞれ得意な分野があればよいのですが,それがない場合です.
 この場合,一方の国に絶対優位がなくても,(クローンのような国同士でない限り)必ず比較優位はあります.比較優位とは,どちらの財の生産も得意だけど,より得意なもの,あるいは,どちらも苦手だけど,まだましなものを示しています.絶対優位がない場合でも,それぞれの国が比較優位にある財の生産に特化して,それを輸出しあうことで,両国とも豊かになれます.パレート改善が可能なのです.これが貿易の持つ素晴らしい力です.戦争とは違い,勝者と敗者は生まれません.貿易に関与した両国がともに勝者になれる(Win-Win関係)のです.
 僕は大学時代,この話(リカードの比較生産費説と言います)を聞いて,目から鱗が落ちるように驚いたのですが,皆さんも少しは驚いてくれましたか?

 このように自由な貿易は素晴らしいものですが,なぜか世の中には自由な貿易に反対する人たちがいます.遠い世界のことではなく,日本も完全に自由な貿易をしているわけではなく,特に農作物については強固な輸入障壁(海外から商品が入ってこないような仕組み,関税など)を築いています.なぜなら,上記で説明したように,自由貿易が行われるとすべての国は国際競争力がある産業に特化します.言い換えれば,国際競争力を持たない産業は縮小してしまうのです.そのため,その国の中で国際競争力が弱い産業にある業界の人々は自由貿易に反対します.そのような人たちは少数派ですが,一丸となって行動するため政治的には強い影響力を持つこともあるようです.多くの人々は関税にあまり関心がありませんしね.

 さて,このようなグローバル化(ヒト,モノ,情報の自由な国際間移動)が進んでいくと何が起きるのでしょう?皆さんにとって重要なことは,労働の国際競争が激しくなることがあります.これまでは日本の企業は日本で労働者を雇い,日本で生産し,海外に輸出するというパターンが多かったかもしれませんが,企業は急速に多国籍化(無国籍化)しています.必ずしも日本人を雇わなければならないわけではありません.利潤の最大化を目的とする企業は,より優秀な人材がより安い賃金で雇えるなら,別に日本人にはこだわらないでしょう.皆さんは中国,インド,アメリカなどなど世界中の労働者と仕事を奪い合うようになる可能性があります.つい最近のニュースでも,パナソニックの新卒採用の8割が外国人になるというニュースが流れました.ファーストリテイリングなどでも外国人の採用を増やすということも聞きます.外国人と仕事を奪い合うというのは決して夢物語ではないようです.
http://www.j-cast.com/2010/06/20069022.html?p=2
 ではどうすれば国際的な競争を勝ち抜けるのでしょう?皆さんも外国に行ってみるとわかりますが,日本の学生の基礎学力は世界的に見て低くありません.むしろ優秀な方だと思います.後は大学時代にどれだけ専門的な能力を身に付けられるが勝負でしょう.グローバル化は世界と競争しなければいけないという困難でもありますが,世界中を相手に商売ができるチャンスでもあります.学生時代にしっかりと10年,20年先の世界について考えてみてください.
 そのための参考文献を紹介します.図書館にもあるのでぜひどうぞ.本当にオススメです.
トーマス・フリードマン(2006)「フラット化する世界」日本経済新聞社

総合政策演習C 第9回(6/18)

 今回は自己分析の第2回目です.

【授業の内容】
 以前にも自己分析を行い,自分,そして周りから見た自分の長所と短所をまとめました.今回は就活のネタである「大学時代にがんばったこと」を考えてみましょう.面接までに各自に考えてもらいましたが,それを実用的(企業から見て魅力的)になるよう磨き上げましょう.
 同時に企業分析が必要だと言いましたが,それは志望動機に一貫性を持たせるためです.「コミュニケーション能力に自信があり,初対面の人とすぐに打ち解けられる」ことを長所と言っておきながら,企業でやりたいことが経理というのは,どこかちぐはぐです.もちろん経理をする上でもコミュニケーション能力は役立つでしょうが,経理をしたいのならそのためのアピールをすべきでしょう.
 志望動機に一貫性を持たせるためにも,「企業選びの軸」という考え方を紹介しました.どんな企業で働きたいのか,仕事に何を求めているのか自分の内面を探ってみましょう.

 今回説明したことで,多くの場合に応用可能なものとして「なぜ?を繰り返す」というのがあります.自己分析や志望動機を薄っぺらいもので終わらせず,より深いものにするために有効です.自分が根源的に何を求めているのかを探りましょう.

 今回の課題は,次の2つです.
1.日経キーワード重要500のトレンド⑤金融⑧労働を熟読してくる
2.就活ネタ,企業選びの軸を言語化してくる

開発経済学 第10回(6\18)

 今回は人口と教育についてでした.

【授業の内容】
 以前にもマルサスの罠については説明しました.農業は収穫逓減産業であるため,農地が一定なら,子どもの数が増えれば,1人あたりの収穫量はどんどん減少してしまいます.つまり子沢山ゆえに貧乏になってしまいます.では,彼らはどうして子どもをたくさん産むのでしょう?

 長期と超長期における人口推移を見てみました.50年という長期でみても,人口はおよそ倍にまで増えています.しかし,過去数千年という時間軸で見てみると,人口はこのわずか数世紀の間に,まさに爆発的に増加していることがわかります.ここ数十年の人口増加については,前回学んだように緑の革命による食糧増加が実現できたので,飢餓に苦しむ割合は少なくなってきました.しかしこれからはどうなのでしょう?緑の革命がもう一度起きて,人口増加を上回るように食糧生産が増加するのでしょうか…?それとも人類は食糧をめぐって争いを始めるのでしょうか?
 そもそも人口爆発はなぜ起きたのか,講義では人口転換というものを紹介しました.人類誕生からつい最近まで,子どもがたくさん生まれるけれど,幼い内にたくさん亡くなってしまうという,高出生・高死亡の状況が続いてきましたが,16Cあたりから,食糧生産の増加に従って,国によっては高死亡から低死亡へと変わってきました.それにもかかわらず高出生であれば人口爆発が起きます.たくさん産まれた子供の多くが成人になり,次世代の親となりたくさん子どもを産むからです.途上国の中には,このような高出生・低死亡の状況にある国もありますが,現在の先進国の多くは,低出生・低死亡という新たなフェイズに入っています.日本,韓国,イタリアなどがその典型ですが,もはや超低出生というべき状況ですね.

 さて,出生率はどうやって決まるのでしょう.どんな場合に女性はたくさん子供を産み,どんな場合にはあまり産まないのでしょう.人口学の祖であるマルサスは2つの原理を唱えました.1つは増殖原理で,人間は大きな妨げがない限り子供を増やすものだ,と考えています.もう1つは規制原理,人口規模は生存資料(食糧など)によって制限されるというものです.つまり特に妨げさえなければ人間はどんどん増え続けると考えたのでした.しかし現実には,食糧に苦しむ貧困国で人口成長率が高い反面,食糧にあまり困らない先進国では出生率は低くなっています.マルサスはこのような未来を想像していなかったかもしれません.
 なぜ先進国では出生率が低いのか,説明する仮説をいくつか紹介しました.まずライベンシュタインの費用―便益仮説,つづいてベッカーの質・量モデルです.

 人口増加にはメリットがないわけではありませんが(クズネッツの才能原則,ボズラップの人口圧力),途上国にとってはデメリットの方が大きいと考えられがちです.そのため,中国は一人っ子政策という,究極の政策を実現しました.日本やアメリカと言った民主主義国ではとても実現できない政策です.中央集権的でトップダウンな中国ならではでしょう.一人っ子政策は人口増加を食い止めるという意味では大きな役割を果たしているのでしょうが,子供を何人産むかという完全にプライベートな決定に政府が介入することの弊害も大きいです.短期的には,「失われた女性」の問題があり,長期的には急速な高齢化により社会保障制度が揺らぐという問題があります.どちらも非常に深刻な問題である一方,一人っ子政策を採らなかった場合の中国は,今のような経済成長を達成できていなかったかもしれません.

 さて,途上国ではどうして子供が多いのかについて,かつては貧しい人々は非計画的に子どもをつくるからという偏見もありましたが,現在は様々な研究から,子供の数を増やすことが合理的な選択であることがわかってきました.そのため政府には,強制的に子供の数を制限する政策ではなく,人々が子供の数を増やしすぎないようなインセンティブを高める政策が望ましいと考えられます.

2010年6月21日月曜日

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第10回(6/18)

 今回も生産者理論です.いろんな費用が出てきてわかりにくいから,1つ1つをよく確認しましょう.

【授業の内容】
 前回に引き続き,企業の目的である利潤や,収入,そして費用の内訳などを確認しました.
 前回との違いは,新たな概念である限界費用を説明したこと,そして利潤や費用などの計算を,具体的な関数を使って行ったことです.
 限界費用とは,新たに財をもう1単位生産するときに,追加的に発生する費用のことです.可変費用と紛らわしいですね.可変費用も同じく生産を増加したときに発生する費用です.例えば生産していない時と比べ,10個生産したときに発生する費用の総額は可変費用です.対して10個生産したときの限界費用とは,10個目,その1つを生産したことで,これまでより余分にかかったコストのことです.「限界」という言葉がついたら,新たに1個を何かしたときに発生する何かを意味します.限界費用は,新たにもう1単位消費したときに発生する効用の増加分でしたね.
 さて,計算についてはここで文章で説明するのは難しいのでエッセンスだけ確認しておきましょう.まず,限界費用を出すときには,もとの総費用(もしくは可変費用)を微分することで導出されます.また,企業が利潤を最大化する時には,価格と限界費用が等しくなるように生産すべきでした.ただしこれは,限界費用が逓増する(収穫逓減)企業の場合です.そうでない場合,つまり収穫逓増産業については後期で説明します.

経済学A 第10回(6/15)

 今回は為替と貿易について説明しました.円高・円安というのは結構紛らわしいかもしれませんね.最近はギリシャの財政悪化で,ユーロがよく話題になっていますね.

【授業の内容】
 まず,為替レートの見方を説明しました.円高・円安というのはわかっているようで間違えやすいですからね.ポイントは1ドル=100円が意味する100円は,1ドルを買うために必要な金額である,ということです.だから1ドル=80円になれば,1ドルの値段が安くなった(ドル安)ことであるし,80円で買えるようになったということは円の価値が上がった(円高)ことでもあります.
 つまり円高とは(通常はドルと比べ)円の価値が高まったことであり,相対的に他国の通貨が安くなったことを意味しています.

 さて,円高不況という言葉を聞いたことがあるかもしれません.どうして我々が持っているお金の価値が高まることが不況(景気悪化)につながるのでしょう.実は私たち家計にとっては円高は(直接的には)それほど悪いことではなく,むしろ海外の商品を安く買えるため,メリットの方が大きいようです.海外旅行に行くときには,特に円高のありがたみがわかるでしょう.
 しかし日本経済の屋台骨とも言える自動車や家電などの輸出企業にとってみれば,円高は恐ろしいものです.なぜなら1ドル=100円の時,日本で3万円のデジカメはドルに直すと300ドルです.つまりアメリカでは300ドルで販売されているとしましょう.ここで円高になり,1ドル=80円になれば,このデジカメは375ドルです.25%も値上がりしてしまいました.すると,アメリカでは日本製のデジカメは割高となり,売上も落ちてしまうでしょう.
 また,少し見方を変えて,アメリカに進出し,現地で生産し,現地で販売している日本企業のことを考えてみましょう.ある年には現地で300万ドルを稼いだとします.このお金は,1ドル=100円の時(円安)には日本円に直すと3億円ですが,1ドル=80円の時(円高)には2億4000万円になります.つまり円高になったせいで,海外で稼いだお金が日本円に直すと減少してしまうのです.

 このように円高は我々消費者にはメリットがありますが,輸出企業にとってはデメリットになります.ただし,企業の利益が減ると,我々家計の所得も減るでしょうから,間接的には消費者にとっても望ましくないことかもしれません.

 さて,この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.

 来週はこの関連で,貿易について説明したいと思います.

2010年6月12日土曜日

総合政策演習C 第8回(6/11)

 今回は企業研究について説明しました.

【授業の内容】
 まず前回提出してもらった履歴書を返却し,多い間違いや,改善点を紹介しました.僕が言うことが絶対正しいわけではありません.自身の頭で判断しましょう.

 続いて企業研究するためのステップを説明しました.学生が知っている企業は限られます.特に最終消費財の生産企業や小売はある程度知っているかもしれませんが,それ以外の業界・企業についての知識は少ないことが多いです.まずは自分が知らないどんな企業があるのかを考えましょう.その手段の1つとして,いくつかのテレビ番組を紹介しました.僕が知らない企業もしばしば出てきます.番組をきっかけにその企業を知り,同じ業界にはどんな企業があるのか,とどんどん知識を広げていきましょう.
 次のステップとしては,サイトを調べることです.上場会社であれば,企業のサイトを見ることで主な情報を入手することができます.ただし消費者目線でサイトを見ても得られるものは少ないので,投資家目線で見てみましょう.注目すべきはIR情報(投資家向け情報)です.ここには企業の現状と将来像がわかります.財務内容はそこの企業のものだけを見ても強みや弱みがわかりにくいので,同業他社のものと比較すると良いでしょうね.
 最後のステップは,自分しか知らない情報を入手することです.その手段はインターンシップ,OB・OG訪問,企業訪問,店舗見学などがあります.この情報は他の人は持っていないことが多いので,自分を他の学生と差別化するために重要な情報です.そのためにもインターンシップはぜひ行っておくべきです.

 さて,授業で言い忘れましたが,先輩による就職指導ですが,今月末ぐらいから開始予定だそうです.また来週の授業で詳しく説明しますね.

開発経済学 第9回(6/11)

 今回はマイクロファイナンスを取りあげました.

【授業の内容】
 主にマイクロファイナンスとは何なのか,既存の金融機関とは何が違うのかを説明しました.ユヌス氏は海外留学から帰国し,母国バングラデシュで貧困層が貧しさから抜け出せない原因を探ります.その過程で,ほんのわずかなお金がないために,高利貸しから借りざるを得ず,商売の利益のほとんどが利子の支払いになってしまうケースに出くわします.それがきっかけとなり,グラミン銀行が設立されます.マイクロファイナンスは今では世界中に普及し,貧困撲滅の一助となっています.

  グラミン銀行の特徴として,融資額が小さい,金利が(我々が考えるほど)低くない,返済率が高い,などがあります.グラミン銀行が成功した背景には,いかに返済させるか,どうやって(貧しい人々に)お金を稼がせるか,についての数々の工夫が存在します.単なる無担保融資では,返済するつもりのない人に貸すことになりかねません.グラミン銀行が拡大した一番のポイントは,返済しようというインセンティブを持たせる仕組みづくりができていることなのかもしれません.

 一部にはグラミン銀行に対する批判もあります.中には明らかな誤解や言いがかりのようなものもあります.連帯保証制に対する批判(最貧層が排除されている)もありましたが,連帯保証制は必ずしも高い返済率の必要条件ではないということがわかってきたため,最近は廃止になったという話も聞いています.

 また,我々先進国にいる人も簡単に途上国のマイクロファイナンスに関わることができる仕組みとして,KIVAを紹介しました.2~3000円程度の小額から,目に見える形で世界の誰かに融資することができます.
KIVAウェブサイト http://www.kiva.org/

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第9回(6/11)

 今回はスルツキー分解を利用して,労働供給と,異時点間での消費最適化を説明し,その後,生産者理論の基礎知識を説明しました.

【授業の内容】
 前回までスルツキー分解を,2財の消費に適用していましたが,今回はそれを労働供給や,異時点間の消費に適用しました.

 まず,所得と余暇から効用を得る個人を想定することで,個人がどれだけ働くか(労働供給)を理解しました.賃金というのは労働者が労働力を売る際の値段であり,1単位の余暇を持つために失うお金(機会費用)でもあります.そのため,賃金率(例:時給)の上昇は,余暇時間を増やす際のコストの増加と捉えることができます.そのため,余暇を減らし,労働時間を増やして所得を増やそうという代替効果が生まれます.また,賃金率の上昇は個人を豊かにするため,所得効果も発生します.所得の増加により,余暇を増やそうという気持ちが生まれてくるでしょう.
 余暇について注目すると,代替効果では減少しますが,所得効果では増加します.これのどちらが大きいかは断言できません.みなさんに手を上げてもらったときも,「時給が上がるとバイト時間を増やす」,「減らす」,「変えない」というように実際に意見がわかれましたよね.

 さて,続いてスルツキー分解を異時点間の消費にも応用しましょう.こちらは今期の消費と来期の消費をどのような組み合わせで選ぶかを考えました.ただし,そこに貯蓄というシステムを入れたのでやや複雑になりました.今期に貯蓄したお金には利子がつくため,来期には貯蓄額より多くのお金を使えます.今期の消費と来期の消費の組み合わせを予算線として図示することが可能です.この場合も利子率の変化は相対価格の変化と同様に予算線の傾きを変化させます.

 最後に,来週への予告編として,生産者理論の前提条件や基礎的な記号や概念を紹介しました.これまでは消費者の立場(普段の我々ですね)でモノを考えましたが,これからは企業(あるいは経営者)の立場で考えなければなりません.
 企業の目的はなんでしょうか.異論はあるかもしれませんが,とりあえず利潤の最大化であると定義しました.つまり今後は利潤を最大化するためにどうすべきかを考えるのです.さて,利潤(π:profit)とは?ここでは単純に収入(R:Revenue)から総費用(TC:Total Cost)を引いたものとします.

 π=R-TC

 続いて収入(R)も考えてみましょう.企業はなんらかの財を生産し,それを販売することで収入を得るため,財の価格(P:Price)に生産量(x:quantity)をかけたものが収入になります.

 R=P×x

 また総費用ですが,こちらを可変費用(VC:Variable Cost)と固定費用(FC:Fixed Cost)に分解しました.

 TC=VC+FC

 可変費用とは生産量が変化すると増減する費用です.例としてお弁当屋さんを想定しましょう.お弁当屋さんは当然ながらお弁当を生産します.お弁当を普段は1日50食作っているとして,翌日が運動会のためお弁当の生産を倍の100食に増やすとします.すると材料費は普段よりも多くかかるでしょう.そのため材料費は可変費用だと考えられます.逆に,店舗のテナント代はお弁当をたくさん作るかどうかに(短期的には)関係ありません.お弁当を作らなくてもたくさん作っても家賃は一定です.そのためテナント代は固定費用だと言えます.
 ここで「短期的には」と言いましたが,経済学では「短期」とは多くの場合,生産設備を変更できないぐらいの期間であり,「長期」は生産設備を変更できるぐらいの期間のことです.もしこのお弁当屋さんが一気に規模を拡大し,1日10万食のお弁当を作ろうと思うと,現在の店舗ではとても無理で,工場を建設したりする必要がありそうです.このような工場建設まで考えれば,テナント代も可変費用と言えなくもありませんが,短期的には固定費用と考えてよいでしょうね.

2010年6月9日水曜日

経済学A 第9回(6/8)

 今回はゲーム理論入門です.

【授業の内容】
 これまでの話とはちょっと変わってますが,ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.

 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.この定義ではジャンケンもゲームですね.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.最初のゲームではちょっと説明不足でしたが,他のプレイヤーの利得は無視してください.相手よりどうすれば利得を高くできるか,という勝ち負けではないのです.

 最初のゲームとして,有名な「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.
 ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,ホテリングゲームも解いてみました.中には答えが分かっていた人もいたのではないでしょうか?

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2010年6月5日土曜日

総合政策演習C 第7回(6/4)

 今回は自己分析について少し説明しました.

【授業の内容】
 小テストをした後,前回の復習をしました.初めてのグループディスカッションでの失敗を踏まえ,「どうすれば上手なGDができるのか?」,「GDの基本的な流れとは?」という点を説明しました.
 GDは暗黙のルールがあります.自己紹介をして,役割分担,ここまではみんなすぐできるのですが,ここからがGDの成否が分かれるところです.今後は,配布した資料のチェックポイントを意識してやりましょう.

 続いて,自己分析のやり方を少しだけ説明しました.しかし,自己分析の正しいやり方などありません.あくまでも参考だと思ってください.紹介したのは,
・企業の視点から見てその人物は魅力的か?
・志望動機との一貫性があるか?
といった点です.前回,「主体性があり」,「コミュニケーション能力がある」人材を企業は欲しがると皆さんは結論づけたので,もちろんそれを意識すべきでしょうね.

 今回の課題は以下の通り.
・自己分析シートを埋めてくる.
・テキストのトレンド①,②を熟読してくる.

 来週6/10にはキャリアガイダンス「インターンシップへいこう」が開催されます.インターンシップの重要性は前回説明した通りです.今回もぜひ参加しましょう.

開発経済学 第8回(6/4)

 今回は農業です.途上国の貧困を考えるなら,農業についても知る必要があります.

【授業の内容】
 まずマルサスの予言を紹介しました.食糧生産は算術級数的にしか増えないのに対して,人口は幾何級数的に爆発的に増える,というものです.これにより近い将来,食糧不足,飢餓が訪れる(マルサス的悪夢)と,マルサスは考えたのですが….

 なぜ開発経済学として農業を学ぶのかというと,途上国の多くは農業国であり,途上国の貧困層の多くは農業に従事しているためです.貧困を無くすためには,農業に取り組まなければならないのです.
 とはいえ,我々にはなかなか農業は身近ではありませんので,まず農法と同じ面積での扶養可能人数を紹介しました.焼畑農業,陸稲に比べ,灌漑施設を整備した水稲は,桁違いの収量を得られることがわかりました.しかし今でも東南アジアなどでは焼畑農業は少なくありません.なぜでしょう.

 続いて農業の経済学的側面を紹介しました.まず農業は他の産業とどこが違うのか紹介しました.また,農業をマクロ,ミクロの両面から考察しました.
 マクロ的には,プレビッシュ=シンガー命題を改めて紹介しました.これは一次産品の工業製品に対する交易条件は長期的に悪化の傾向を辿る,というものでした.つまり農業を中心とした経済発展は不可能だという悲観的な結論です.
 ミクロ的には,二重経済のところでも紹介した,労働の限界生産力が逓減することから,どうすれば農家が豊かになるか(貧しくなるか)を説明しました.

 さて,マルサスの予言ですが,幸いにも(今のところ)外れました.なぜなら1960~1980年代にかけて,緑の革命と呼ばれる,食糧生産の急増が起きたからです.
 緑の革命が起きた理由は,次の3つです.
1.高収量品種(品種改良)
2.灌漑設備の普及
3.化学肥料

 結果として,人口爆発に負けないペースで食糧生産も増加したため,世界規模での飢餓は起きませんでした.しかしこれからも人口はまだまだ増加するようです.第二の緑の革命は起きるのでしょうか?それは遺伝子組換え作物により起きるのでしょうか?

 さて,授業で紹介したように,農業はリスクのある産業です.天候などの一時的ショックにより,貧しい農家はいともたやすく,更なる貧困へと転げ落ちてしまいます.一時的ショックが起きた場合,誰かがちょっとした援助をしてくれれば助かるのかもしれません.
 ということで,次回はこれに関連してマイクロファイナンスを紹介します.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第8回(6/4)

 今回もスルツキー分解の続きです.またギッフェン財についての説明もしました.

【授業の内容】
 前回小テストをしてわかったことは,予想通りスルツキー分解は理解しづらいということでした.そのため,今回も改めてスルツキー分解をゆっくり説明しました.それでもなかなかわかりづらかったと思います.特にグラフの意味はなかなか理解するのは困難でしょう.まぁそういうものだと思ってください.テキストや,図書館にあるミクロの入門書を読んでみてください.どこかに自分にとってわかりやすいものがあるでしょう(たぶん).

 また,ギッフェン財についても説明しました.ギッフェン財とは,下級財の仲間ですが,下級財の中でも所得効果が非常に強い財のことです.このような財は,価格が上がると消費が増える,という非常に奇妙な特徴を持っています.スルツキー分解してみると,なぜこのようなことになるのかわかるはずです.また,ギッフェン財の具体例も説明しましたが,設定が強引ですよね.まぁそれぐらいなかなか存在しない財なんですよ.

 さて,ギッフェン財の場合,需要の価格弾力性はどんなものになると思いますか?考えてみてください.

 次回は労働供給の理論を説明します.

経済学A 第8回(6/1)

 前回に引き続き,資産運用の知識として株式について説明です.

【授業の内容】
 前回の復習として,ギャンブルを期待値で考えてみました.期待値からすると,宝くじは非常に割りの悪いギャンブルです.宝くじするぐらいなら,公営ギャンブルをした方がまだマシだと思いますが,なぜか宝くじは人気があります.僕の自宅の近くにも宝くじ売り場がありますが,いつも賑わっているような気がします.なぜ人は宝くじを好むのでしょう?
 僕の推測では,人々は宝くじが当たる確率を過大に評価しているからだと思います.宝くじの1等が当たる確率はおよそ1000万分の1だそうです.1年間に交通事故に遭う確率が0.9%(国交省),1年間に窃盗の被害に遭う確率が約1.4%(警察庁)ですから,それぞれ3年連続で被害に遭うよりも低い確率ですね.わかりにくいか…?9つのサイコロを一斉に振って,すべて1が出る確率がだいたい1000万分の1です.ありえませんね.しかし多くの人は,自分に1等が当たる確率を(頭ではもっと低いとわかっていても)なんとなく1000分の1ぐらいの確率で当たると思っているんじゃないですかね.
 というわけで,金儲けの手段として宝くじを選ぶことは実に馬鹿馬鹿しいのですが,「ひょっとしたらお金持ちになれるかも?」という夢を買っているのだと思えば300円は妥当かもしれません.「じゃあパチンコの方が得だ!」と思う人は,機会費用も考えてください.宝くじと違ってパチンコの機会費用は高いですよね?合理的に考えるとギャンブルはしないのが正解でしょうね.ちなみに違法なのでやってはいけませんが,仲間内での麻雀は期待値が100%なので,平均的には損でも得でもありません.(仲間内でお金が移動しているだけなので当たり前ですね)

 今回はやや実践的な内容として,「毎年1万円もらえる魔法のカード」をいくらで買うかを考えてもらいました.実はこれを考えてもらったのは株価の分析方法の1つであるファンダメンタル分析を理解するためです.ファンダメンタル分析とは,将来受け取れるであろう配当の現在価値の合計が株価であるという考えです.そのため将来受け取れる配当が多くなると予想されれば株価は高くなります(魔法のカードで言えば,毎年もらえる額が増えれば,このカードの購入希望価格も上がるでしょう).また配当の現在価値であるので,利子率が関係することもわかります.
 結論としては,このファンダメンタル分析が重視するのは,その企業の将来の配当,そしてそれを決めるであろう,将来の利潤,売上げ,今後の新商品,研究開発など多岐にわたります.このため,ファンダメンタル分析で株価を予想しようと思えば,その企業について詳しくなることが第一条件です.
 一方,テクニカル分析という分析方法もあります.こちらはファンダメンタル分析とは異なり企業業績は重視せず,その企業の株価の過去の推移であるチャート図から,将来の値動きを予測するというものです.過去を見れば将来がわかる,というとなんとなくそれらしいですが,特に理論的な裏付けはありません.むしろ「こういう動きをした後は,こうなることが多かった」という経験則の集合体と言うべき分析方法です.この分析法のメリットとしては,なんと言っても「わかりやすく,とっつきやすい」ということでしょう.デメリットとしては,「テクニカル分析に従えば儲けられるという実証結果が得られていない」という点です.分かりやすく言うと,テクニカル分析の言うとおりに売買するのも,サイコロの出た目で適当に売買するのも似たようなもんだ,ということです.致命的ですね….つまり将来の予測には使い物がならないということです.しかし「テクニカル分析で儲けた」という人は後を絶ちません.実際,「テクニカル分析 万円稼いだ」というキーワードで検索するとたくさんヒットします.それもそのはず,株というものは全体の株価の平均が下がっているのでなければ,適当に買っても半分ぐらいの人は儲かるからです.そのためテクニカル分析で儲かった一握りの人が「テクニカル分析は正しい」というのでしょう.

 さて,株というのはリスクのあるものですが,そのリスクを減らすこともできます.リスクヘッジの例として,猛暑になるか冷夏になるかという気象リスクを考えてみました.猛暑になったら,自分が持っているすべての株が下がってしまった,というのではリスク対処になりません.猛暑の時,ある株は下がったが,あの株は上がった,となるような組合せをする必要があります.最大のリスクヘッジは分散投資です.ケインズは「卵は分けて持て」と言いました.ただし,分散投資をするとリスクが減る代わりにリターンも下がります.

 結論としては,リスクとリターンは比例します.リスクの低い金融商品はリターンも低く,リターンが高い金融商品はリスクが高い,というのが一般的な結論なのです.そのため,リスクが低くリターンが高い商品(「確実に儲かりますよ!」という商品)はありません.甘い話には騙されないように.

総合政策演習C 第6回(5/28)

 今回から演習Cの担当が僕になりました.

【授業の内容】
 竹村先生から引き継いで初回ですが,今回は「エントリーシートと履歴書の違い」,「インターンシップ」について説明し,「グループディスカッション(以後,GD)」を実際にやってみました.

 今回の課題として履歴書を書いてくるよう指示しました.エントリーシートと違い,履歴書で問われる内容は今からわかっているので,就活シーズンに自信を持って履歴書を書けるようにこれから書く内容を実行していきましょう.つまり適当にこれから過ごして,慌てて履歴書のネタを探すのではなく,書くことを決めておき,それに合わせて日々の生活を目標を持って送ろうということです.

 続いてインターンシップについて説明しました.大学からの推薦でインターンシップに行くこともできますが,僕が勧めたいのは,公募型のインターンシップに自ら応募し,選考を受けることです.結果として落ちても構いません.なぜなら,選考を受け,企業は学生に何を求めているか,自分には何が足りないかを確認することも重要な目的だからです.6/12に大阪で早速,インターンシップについてのイベントがあります.意識を就活モードにするために重要です.ぜひ行きましょう.

 最後にGDをやってみました.やり方も説明せずやってもらいました.テーマは「人事担当者の立場から考えた学生の採用ポイント3つとその理由」です.これはGDの練習であるとともに,人事担当者は皆さんに何を求めているかを考えるトレーニングでもあります.学生の視点と企業人の視点は異なります.自分が伝えたいこと,アピールしたいことは,必ずしも人事が聴きたいこととは限りません.
 8チームに分かれて行いましたが,結果としては「積極性」,「コミュニケーション能力」などは多くのチームが共通していましたね.まさにその通りでしょう(おそらく).また多くの学生に欠けているのが,この「積極性」だと思います.

開発経済学 第7回(5/28)

 今回は講師として稲井由美様をお迎えし,「多民族社会グァテマラのくらしと貧困・開発」という論題で講演をしていただきました.普段は理論的なことばかりなので,馴染みのない途上国の暮らしについてなかなか実感が抱けないと思いますが,今回の稲井さんのお話で,途上国で生きるということがどんなものなのか,イメージが膨らんだのではないでしょうか.

 グァテマラという国の話でしたが,これまでに講義してきた内容と関連があることに気づいたと思います.二重経済,余剰労働力と都市への移住,リスクへの脆弱性,プレビッシュ=シンガー命題などです.
 また今後のテーマとして扱う予定の農業,疾病・保健などの話もありました.

 せっかくグァテマラについての基礎知識を得たので,次回のレポートにグァテマラを取り上げるのもおもしろいと思いますよ.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第7回(5/28)

 今回はスルツキー分解です.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,ある財の価格が変化したときに,消費がどのように変化するかを,代替効果と所得効果に分解するものです.このミクロの内容でもっとも抽象的で理解しづらい(説明しづらい)ところです.

 まずは復習として,予算線の傾き,そしてシフトがそれぞれ,相対価格の変化,(実質)所得の変化を表すことを確認しました.特に実質所得という概念は今回初めて出てきました.実質所得に対する言葉として名目所得があります.名目所得とは,我々が普段の生活で認識する所得のことだと思って良いです.それに対して,実は,所得が何万円というのは豊かさとあまり意味がありません.本当の豊かさとは,そのお金でどれだけ財を購入できるかで判断できるはずです.そのため,所得だけでなく,物価にも注目して,そのお金がどれだけ購買力を持っているかを示すのが実質所得と考えてください.
 例として,もしあなたがチョコレートしか買わない人だとします.その時,一ヶ月のおこづかいが30000円で,チョコレートは300円としましょう.するとあなたの所得はチョコレート100枚分の豊かさです.数年後,もしおこづかいが60000円に増えたとするとあなたは豊かになったのでしょうか?2倍に豊かになったと考えがちですが,本当の豊かさ(実質所得)は,チョコレートの物価も考慮しなければなりません.もしその時チョコレートが600円にまで値上がりしていたとすれば,実質所得はチョコレート100枚分であり,まったく豊かさに変化はありません.

 スルツキー分解に行く前に,上級財と下級財についても説明しましょう.上級財とは,所得が上がると(下がると)消費が増える(減る)財のことです.例として,高級料理があるかもしれません.僕ももっと給料が増えれば,もっと高級な料理を食べる回数が増えるはずです.これだけでなく,我々の周りのかなり多くの財は上級財でしょうね.そのため,上級財は普通財と呼ばれることもあります.
 一方,所得が上がると(下がると)消費が減る(増える)財もあります.例えばインスタントラーメンです.僕が職を失い失業保険で暮らすようになれば,今よりきっとカップラーメンを食べる回数は増えるでしょう.つまり下級財とは廉価品(やすもの)のことですね.下級財は劣等財とも呼ばれます.

 さて,ようやく難関のスルツキー分解です.授業ではバーベキューを想定しました.限られた予算のもと,牛肉と豚肉を買うことにします.ここでは牛肉は上級財,豚肉は下級財だと仮定します.つまり予算がたくさんあれば牛肉が多くなりますが,あまり予算がなければ豚肉ばかりのバーベキューになるということです.
 ここでもし牛肉の値段が上がったら牛肉と豚肉の消費はどうなるでしょう.まず値上がりした牛肉を買わなくなるでしょうね.それだけでなく,牛肉が高くなったことで相対的に豚肉がまずます割安に感じられるようになるため(相対価格の変化),豚肉を買おうという気持ちが出てきます.この変化を代替効果と呼びます.代替効果とは,相対価格の変化による消費の変化のことです.
 また上記のような変化以外にも,牛肉が値上がりしたことで,実質所得が下がります.牛肉が値上がりしたので,買うことができる牛と豚の組み合わせが減ってしまい,少し残念なバーベキューになりそうです.このように実質所得が下がることで,牛肉と豚肉の消費はどうなるでしょう.牛肉は上級財であると仮定しているので実質所得の減少により消費が下がるはずです.逆に豚肉は下級財なので消費は増えそうです.この効果を所得効果と呼びます.
 最終的な消費は,この代替効果と所得効果を合わせたものになります.

 以上がスルツキー分解なのですが,わかりにくいですよね….

経済学A 第7回(5/25)

 またまたしばらく更新していませんでした….今回は資産運用のための基礎知識として,リスクと期待値の説明でした.

【授業の内容】
まず,利子と現在価値の関係を説明しました.現在,手元にある100万円を銀行に預ければ(利子率1%とする),1年後には101万円になります(税金や手数料は無視しておく).つまり,この場合,現在の100万円と1年後の101万円が同じ価値であると言えます.お金は時間が経つと増えると考えても良いかもしれません.
 さて,では逆に考えることも可能です.つまり1年後の101万円を現在の価値に直すと100万円です.このような考え方を,現在価値(現在割引価値)と言います.将来受け取るお金を現在の価値に直すときには利子率で割り引かねばなりません.きちっとした計算式は講義中に書きました.

 つづいて,期待値とリスクの説明をしました.期待値とは,(すでに起きたことではなく)これから起こるであろう事の確率的な平均値です.つまり未来の平均値ですかね.期待値の計算は,結果として起きること(事象と言います)とそれが起きる確率をかけ合わせたものを,すべての事象について足しあわせたものです.期末試験でも確実にこの計算を出すのでできるようにしておきましょう.

 さて,リスクですが,これは世間の人が使っている意味と,経済学の世界で使う意味が異なるので要注意です.世間では「リスク=危険性」と考えられがちですが,経済学では「リスク=結果のバラツキ」です.そのため,確実に大損をする挑戦にはリスクはありません.なぜなら結果が決まっているからです.

 最後に,「もし株を売ってはいけないとしたら,株を買うか?」という質問をして終りました.

2010年5月29日土曜日

開発経済学 第6回(5/21)

 今回は工業化と貿易,特に輸入代替工業化政策と輸出指向工業化政策の違いについて説明しました.

【授業の内容】
 意識しなければなかなか気づきませんが,近年,各国はFTA呼ばれる自由貿易協定を競うように結んでいます.なぜ自由な貿易を目指すのでしょう?ミクロ経済学ベイシックではリカードの比較生産費説を学びましたが,どうやら理由はそれだけではないようです.

 第二次世界大戦後,独立したてのアジア諸国の多くはモノカルチャー経済というスタート地点から経済成長を目指しました.かつてはモノカルチャー経済から経済成長を進め,先進国へと仲間入りした国々もありましたが(アメリカやカナダなど),その当時と異なり合成品・代替品の発明により必ずしも特産品が国際市場で高く取引されるとは言えません.また先進国の保護貿易主義もあり,モノカルチャー経済を押し進めての経済成長は困難でした.
 いくつかの国々は保護貿易主義的な工業化である輸入代替工業化政策を採ることで,経済成長を目指しましたが,輸入代替工業化政策には思わぬデメリットがありました.保護貿易を採ることにより幼稚産業の育成を目指したのですが,為替を自国通貨高に誘導したことで輸出条件は悪化したため,国内で生産した財の販売先が国内市場に限定されます.ある程度の中流階層がおり,購買力のある国ならそれでも良いのかもしれませんが(現在の日本の携帯電話のように),当時のアジア諸国は貧しく,さらに貧富の差もあったため,国内市場だけを相手にして生産していたのではスケールメリットが生まれません.また輸入品をシャットアウトしていたため,海外の優れた財との競争も生まれませんでした.そのため,なかなか輸入代替工業化は進みませんでした.
 一方,シンガポール,韓国,台湾,香港などは,自由な貿易による輸出指向工業化政策を採りました.これらの国々が高い経済成長を成し遂げたことにより,その他の国々も多くは1980年代には輸出指向工業化政策へと転換しました.
 輸出指向工業化政策はどこが良かったのでしょうか?輸入代替とは逆に競争が促進されたことに加え,技術伝播による学習効果もあったと考えられます.
 技術移転に関連しては,ヴァーノンのプロダクト・ライフ・サイクル論も紹介しました.これは様々な財で実現していますね.日本もかつては繊維産業が隆盛を極めましたが,日本の前はイギリスでした.しかしイギリスが豊かになり労働者の賃金が高くなると,より賃金の低い日本へと生産の中心が移ってしまいました.しかし,日本も経済成長するに従って,安い賃金を売りにできなくなりました.より賃金の安い国(中国など)へと仕事を奪われました.そして中国の労働者の賃金が高くなると,さらに賃金の安い周辺国へと移っていくのは必然とも言えます.ちょうど前回の二重経済の所で,中国の余剰労働が枯渇してきて賃金が上昇してきた,という話と関係がありますね。

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第6回(5/21)

 今回は代替財・補完財と、弾力性の説明をしました。

【授業の内容】
 まず無差別曲線の形状が持つ意味を少し深く調べてみました.無差別曲線がL字型になるときと,直線になるとき,2つの財はそれぞれどのような関係にあるのかを考えてもらいました.L字型になるのは,左足の靴と右足の靴のように,両者が揃って始めて効用を生み出す財(と財)であり,補完財と呼ばれます.一方が固定されたままだと,もう一方がどんなに増えても効用を高めることはありません.また直線になる時は,お茶と水のペットボトルのように,ある財がもう一方の財の代わりになるような組合せであり,代替財と呼ばれます.このように無差別曲線の形状はそれぞれの財がどのような特徴を持っているかを物語ってくれます.

 さて,需要曲線の形状(傾き)にも意味があります.需要曲線が急である場合,価格が変化してもあまり需要が変化せず,逆に緩やかな場合,価格が変化すると需要は大きく変化します.
 皆さんの普段の生活でも,「価格が安くなればたくさん買うんだけどな」という財と,「安くなったけどそんなにたくさんいらないな」という財があると思います.前者のように価格の変化に対して敏感に需要が変化することを需要の価格弾力性が高い,後者のように価格の変化に対して需要が鈍感なことを需要の価格弾力性が低い,と言います.需要の価格弾力性は計算によって求めることができます.計算式はここでは書きにくいので省略しますが,その中身は,価格が1%変化したら需要は何%変化するかを示しています.弾力性が1より大きい場合は需要の価格弾力性が高いと言い,この場合は値下げをすることで企業は収入を増やすことができます.逆に1より小さい場合は弾力性が低いと言い,値上げすることで収入を増やすことができます(値上げしても買ってくれるので).

 さて,この弾力性の考えを応用すると,なぜ学割が存在するのかがわかってきます.弾力性の異なるグループを区別できれば,それぞれに異なる価格を設定することで,合計の収入を増やすことができるからです.その他の例として,ディズニーワールドの近隣住民割引などを説明しました.ホットペッパーなどで手に入る飲食店の割引券や,本のハードカバーと文庫の違いもそうですね.割引券を導入することで「こまめに切り抜いて使う価格に敏感な層」と「面倒だから使わない価格に鈍感な層」のそれぞれに事実上異なる価格を設定することに成功しています.この他にどんな例があるか考えてみてください.

経済学A 第6回

 ちょっと締め切りのある仕事をしていたため、丸々2週間もほったらかしにしてました。ごめんなさい。
 今回は年金について説明しました。

【授業の内容】
 みなさんにとって「年金はずいぶん先のもの」という印象なのではないでしょうか。しかし、国民年金は20歳になれば強制的に加入することになるため、年金保険料を支払う義務がでてきます。また、おじいさんやおばあさんがもらっている年金は、老齢年金と呼ばれるもので、国民年金の一種です。言い換えれば、国民年金は、老齢年金以外の年金もあります。それが障害年金や遺族基礎年金です。そのため(縁がないほうがもちろん良いのですが)比較的早く年金を受給する可能性はあります。

 さて、年金は、国の社会保障制度の一貫です。社会保障とは何でしょう?平安時代には(おそらく)公的な社会保障制度はなかったと思います。ある人が年を取ったり、怪我をしたりして働けなくなってしまったすると、その人の家族、あるいは近所の人たちが助けてくれたのでしょう。当時はそうでなければ人が生きていくのは困難だったので、自然と共同体の結びつきは強かったのだと思います。現在の社会保障制度とは、そのような助け合いを全国規模で行うものだとイメージすると良いでしょう。みんなで税、あるいは保険料を負担し、そのお金で困っている人を助ける仕組みが社会保障です。年金以外にも、生活保護、健康保険、児童福祉、災害援助、介護保険、労働災害保険など様々な社会保障があります。

 その中の年金ですが、ここ10年ぐらい、よく問題になっていますね。年金システムのどこに問題があるのでしょう?それを理解するために、年金の積み立て方式と賦課方式それぞれの仕組みを簡単に説明しました。日本の年金制度は、インフレにより受給する金額が価値を失ってしまわないよう積み立て方式ではなく賦課方式を(実質的に)採っています。しかし賦課方式は少子高齢化に対応していません。現在の年金制度ができた頃には出生率も高く、まさかこれほどまでに急速に少子高齢化が進むとは、誰も想像していなかったのでしょう。

 年金がややこしい理由の1つは、様々な年金があることです。年金は2階建てになっており、国民みんなが共通して加入する1階部分の国民基礎年金と、職業によって加入する年金に違いがある2階部分があります。2階部分では、会社員は厚生年金、公務員は共済年金、自営業者は国民年金基金といった具合に職業によって様々です。

 さて、このような年金システムですが、加入するのもしないのも自由です。と言いたいところですが、年々徴収体制が厳しくなっているので、そのうち入りたくなくても給料を差し押さえられるかもしれませんし、そもそも年金保険料自体がなくなって、すべて税金でまかなうようになるかもしれません。
 僕から勧めておきたいのは、卒業後は自分で考えるとして、20歳になったらとりあえず在学中は学生納付特例制度を利用することです。すでに年金を支払うと決めている人はそれで良いですが、払いたくない、もしくは迷っているという人も学生納付特例制度だけは申込みましょう。理由は講義で話した通りです。

2010年5月17日月曜日

開発経済学 第5回

 開発経済学もしばらく間が空いてしまいましたね.前回は貿易ゲームをやりましたが,そこで実感したことも少し意識しておきましょうね.

【授業の内容】
 今回は都市と農村の二重構造についてです.主に2つのモデルについて説明しましたが,どちらも現実のある側面を見事に描き出しています.

 まず,産業構造についての基礎知識として,Petty-Clarkの法則を紹介しました.おそらく聞いたことはあったのではないでしょうか.経済発展に連れて,その主力となる産業が第1次,第2次,第3次へとシフトしていくことです.例外として,インドは第2次を飛ばしたという話を以前にしたと思います.
 また,こちらも基礎知識兼新たな視点として,産業を労働集約的産業と資本集約的産業に分類しました.この分類から,先進国では資本集約的産業が,途上国では労働集約的産業に強みを持つであろうことが推測できましたね.ミクロ経済学で学んだ比較生産費説が活用できそうです.

 さて今回のメインである2つの仮説のうち1つ目,ルイスの2部門モデルです.
 2部門とは,伝統部門と近代部門です.伝統部門とは,主に農業従事者を中心とした慣習経済です.一方の近代部門は都市労働者を中心とする市場経済です.途上国は,すべて伝統部門というわけではなく,一部には先進国と変わらぬ近代部門を持っていることが珍しくありません(もちろん規模は異なりますが).
 伝統部門の農家は一見,みんな働いているように見えますが,そこには偽装失業が隠れています.偽装失業とは,生産にほとんど貢献していない(限界生産性がゼロ)が,一応従事している労働者のことです.農村部は,このように余剰労働を抱えています.
 一方の近代部門は,農村部から非常に安い賃金で労働者を雇うことができます.なぜなら彼らは余剰な労働力であり,農村部にいてもほとんど価値を生み出すことができないからです.近代部門は余剰労働力がある限り,どんどん生産規模を拡大し,成長することが可能です.人件費が安いため,労働集約的産業では,他国(主に先進国)に比べ市場競争力があるからです.
 しかし,永遠に成長することはできません.人口は有限であり,余剰労働力もいつかは枯渇するからです.余剰労働力の枯渇はどのような影響を与えるのでしょう.まず,農村部での賃金(あるいは限界生産性)が上がります.そのため,農作物の価格は上昇するため,農村部で作られる農作物を消費している都市労働者にとっては,実質所得の減少につながります(所得で買うことができる農作物の減少).そのため,なかには都市部での生活が苦しくなり,農村部へと帰る(帰農)労働者も出始めます.これにより都市で労働力不足となり,都市労働者の賃金が上がります.賃金の上昇は,企業にとってみれば人件費の増加なので,企業家の投資意欲を減少させるでしょう.このような過程を経て,その国の工業化がストップしてしまいます.

 このルイスの2部門モデルは近代部門における完全雇用を前提としていましたが,現実には,急成長している途上国の都市部には多くの失業者と偽装失業が存在します.これを上手く説明するものはハリス=トダロモデルです.

 ハリス=トダロモデルの特徴は,都市部において最低賃金を設定したことです.これにより,都市部では,本来なら賃金率=限界生産性となるまで雇用が増加するべきところが,賃金が下がらないため,雇用が限られてしまうのです.いわば賃金の高止まりです.そのため,農村部では一攫千金(都市部での雇用)を求めて,労働者が都市へと流出します.しかし都市では流入してきた労働者に見合うだけの雇用がありません.そのため,失業が発生します.

 授業では所々,このような問題をいかに解決すべきかをコメントしました.またミニレポートとして,なぜ中国やインドは急成長しているかを,今日の内容を踏まえて論述してもらいました.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第5回

 今回は予算制約下の効用最大化問題と,その結果から個別需要曲線を導出するところまでやりました.

【授業の内容】
 しばらく間が空いてしまったので,無差別曲線の復習からやりました.無差別曲線とは,同じ水準の効用が得られるような,財と財との組み合わせを集めたものでした.

 さて,誰でも幸せになりたい(効用を高めたい)はずですが,無限に効用を高めることはできません.なぜなら様々な制約があるからです.僕は本が好きなのですが,無限に本を買うことはありません.僕の所得にも限りがありますし(予算制約),読書に費やすことができる時間にも限りがあります(時間制約),置き場所にも困るでしょうし(空間的制約),妻の怒りを買うことでしょう(政治的制約?).
 このように様々な制約がありますが,まずは予算制約に限って話を進めます.授業では,予算内でx財とy財を消費することを考えました.まず,グラフに予算線を描き,その予算制約下で最も効用が高まるような無差別曲線を選びました.
 ちなみに予算線の傾きは相対価格を意味しており,無差別曲線の傾きは限界代替率と呼ぶことから,効用が最大となる点は,相対価格と限界代替率が等しくなる点である,ということができます.

 予算線についてもう少し付け加えると,予算線の傾きが相対価格である(A財とB財の価格の割合)ことの他に,予算線のシフトが(実質)所得の変化であることも覚えておきましょう.ここで実質とつけた理由は授業では説明していませんが,A財とB財の価格が同じ割合で変化した時には,所得は変わっていなくても予算線がシフトします.これは所得そのもの(名目所得と言います)は変化していなくても,その所得で買うことができる財の量(実質的な豊かさ,実質所得)が変化したからです.これについては,次回また確認します.

 さて,予算制約下の効用最大化ですが,一方の財の価格だけを変化させていくと,財の価格が安くなると,その財の消費が増え,逆に高くなると消費が減るようです.この価格と消費の関係だけを抜き出して図にすると,個別需要曲線が描けました.

 次回はこの個別需要曲線の傾きが何を意味しているのかを説明します.