2010年7月17日土曜日

開発経済学 第14回(7/16)

 今回はガバナンスでした。

【授業の内容】
 ガバナンスとは何かについて,UNDP,世界銀行の定義を紹介しましたが,それらをまとめて僕は,「資源配分の効率性」と「意思決定のシステム」という2点に集約できるのではないかと考えます.また,ガバナンスに関連する様々な指標がありますが,そのうち世銀のガバナンス指標,トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の実感汚職指数などを紹介しました.授業では紹介しませんでしたが,国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」もガバナンスに関連する指標と言えるでしょう.
世銀:http://info.worldbank.org/governance/wgi/sc_country.asp
TI:http://www.ti-j.org/TI/CPI/index.htm
国境なき記者団:http://www.rsf.org/Only-peace-protects-freedoms-in.html

 さて,ガバナンスが悪いと何が問題なのでしょう?ガバナンスは上記の通り,資源配分の効率性と意思決定のシステムを意味しています.これらに問題があると,政府の政策や公共サービスが非効率であったり,特定のグループだけを優遇したり,汚職が横行したりと,様々な問題を引き起こしますし,それは結果として社会的厚生を下げてしまいます.
 ガバナンスが所得や乳幼児の死亡率に影響を与える,汚職が経済成長率を鈍化させるなど,様々な研究がガバナンスと社会的厚生との関係を指摘しています.

 後半は移行経済について解説しました.学生の皆さんにとって,社会主義国が資本主義の現実的なオルタナティブであった時代を想像しにくいでしょうね.僕も経済学を学び始めた時にはすでにソ連はロシアになっていましたし,ベルリンの壁も崩壊後でしたし,言わば歴史によって,経済システムとしては大きな欠陥があるという審判が下されていたので,学びたいと思える環境にはありませんでした.
 さて,社会主義経済にはどんな欠陥があるのでしょう.いくつかありますが,1つは市場経済とは異なり,情報の流れが上から下へと一方通行であり,効率的な資源配分が実現できないことがあります.もう1つは,物事を改善したり,新たな商品・技術を発明したりしようというインセンティブを持ちにくい点です.シュンペーターは経済成長における重要なファクターとして,創造的破壊を指摘しています.社会主義経済では,既製品を大量生産することには向いているかもしれませんが,このような創造的破壊が起きにくいのではないでしょうか.
 それらが原因となるのかどうかはわかりませんが,中国の実質GDP成長率を見ると,開放改革路線以後,成長のばらつきが明らかに小さくなっているようでしたね.UNDPが指摘するように,市場経済は最高の経済パフォーマンスを保証しないとしても,成長のばらつきを小さくするのかもしれませんね.もちろんタダの偶然で,他国のデータを見ると違う結果なのかもしれません.このように仮説を立て検証するとより良いレポートになります.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第14回(7/16)

 今回は一般均衡の前半です.これまでの復習も兼ねています.

【授業の内容】
 まず,消費者理論と生産者理論の復習です.消費者理論では,個人は相対価格と限界代替率が等しい点で効用を最大化していました.また生産者理論では,企業は相対価格と限界変形率が等しい点で利潤を最大化していました.これらは来週の内容に関連しているので,頭の中に入れておいてください.

 経済学は人々,あるいは社会全体の幸せを実現するために効率性を追求する学問です.そのため,ここでは,「より良い変化とは何か?」を定義するパレート改善という概念を紹介しました.パレート改善とは,他の人の効用を下げることなく,ある人の効用を増加させるような変化のことでした.また,パレート改善がこれ以上できない状態をパレート最適と呼びます.

 具体的なパレート改善の例を説明するため,エッジワースボックスという,2人のプレイヤーの無差別曲線をくっつけたような図を用いました.エッジワースボックスは,図中のある点が,2人のプレイヤーで2つの財をどのように分配するかを示してくれる便利な図です.
 エッジワースボックス上のある点からある点への移動がパレート改善になっているか,実際に確かめました.

 次週は一般均衡のつづきと,プリントを用いてこれまでの総復習をしたいと思います.

2010年7月14日水曜日

経済学A 第14回(7/13)

 今回はこれまでに皆さんから受け付けた質問に答えました.

【授業の内容】
 いろいろ話そうと思って準備をしていたのですが,ほとんど価格の話ばかりになってしまいました.
 「ブランド品はなぜ高いのか?」,「ガソリンは高くなるだけで安くならないのか?」,「バナナは高い時期があるのか?」,「作りすぎた野菜を廃棄するニュースを見たことがあるけど,(出荷せず廃棄する)理由がわかりません」などなど,もっとも多かったのが価格に関する質問です.
 これらをまとめて考えるための道具として,ワルラス型価格調整メカニズムというものを紹介しました.ワルラスという経済学者は,生産者(企業)が商品の価格を設定し,その時,需要より供給の方が大きく売れ残り(超過供給)が発生すると,企業は値下げをし,逆に供給より需要の方が大きく品不足(超過需要)が発生すると企業は価格を上げると考えました.これを何度か繰り返すと,需要と供給が等しくなる点(均衡)が見つかると考えたのです.
 このように需要と供給のバランスで価格が決まるという考えは,以前にもダイヤモンドの価格の所で出てきましたね.

 また,ブランド品の価格に関連して,独占についても話をしました.独占市場と競争市場を比較し,どちらが価格が高くなるか,どちらがより儲けやすいか,などについて説明しました.独占市場であれば,ライバルがいないので,好きな値段をつけることができます.もしライバルが多い競争市場では,みんなが売っている値段より高い値段をつけると,消費者に見向きされないため,事実上,価格を自分で決めることはできず,周りの企業に合わせなければなりません.
 独占企業はこのような強みを活かし,商品の生産量を減らして,価格をつり上げます.それにより高い利潤が得られるのです.授業では話せませんでしたが,なぜ独占市場と競争市場があるのでしょう?それについてもまた機会があれば考えてみてください.
 皆さんも就職活動の際には,この企業が販売している商品の市場は競争的か,独占的か,という視点をちょっと意識してみてください.なんらかの役に立つかもしれませんよ.

 さて,授業の最後に「テストは持ち込みありか,なしか」についてアンケートをとりました.持ち込みありだと,少し考えなければならない問題が多めなのに対して,持ち込みなしなら暗記中心の問題多めです.アンケートの結果は,わずか2票差で持ち込みありになりました.また来週の授業で説明します.

2010年7月12日月曜日

開発経済学 第13回(7/9)

 今回は内戦を取り上げました.前回に引き続き,我々にはなかなか想像しにくい現実です.

【授業の内容】
 授業では,内戦を含めた戦争はなぜ起きるのか.内戦はその国にどのようなダメージを与えるかを中心的なテーマとして話をしました.

 さて,人(国?)はなぜ戦争を行うのでしょう.経済学的にシンプルな答えは,「戦争したら得をすると考えるから」です.ただし,国が得をするという意味ではありません.国全体としては損をするけれど,一部には得をする人がいる場合にも戦争は起こるかもしれません.特にその得をする人が開戦を決定できる場合,もしくは決定できる人に影響力を持つ場合に戦争は起こりえます.逆に言えば,得をする人がだれもいなければ戦争なんてなかなか起こらないでしょう.
 戦争して国が得をすることがあるでしょうか.答えは「ある」です.正確に言えば「あった」です.20世紀の戦争については,朝鮮戦争までは開戦国にとってメリットの方が多かったようです.ただし,開戦時に低成長であり,資源の利用状況が低く,短期間,かつ本土以外が舞台となった場合に限られます.しかしベトナム戦争以降は経済的にペイしなくなったとされています.そのため,戦争に経済浮揚効果があると考える経済学者は現在ではほとんどいないでしょう.
 情報が比較的入手しやすい近年の戦争(イラク戦争)の収支については,スティグリッツとビルムズ(2008)が詳しい試算を行っています.それによると戦争の総コストは3兆ドルにものぼり,将来のアメリカの財政にも大きな傷跡として残り続けるとされています.

 内戦の収支を考える前に,内戦とイラク戦争のような国際戦争(紛争)との違いを理解しましょう.国際戦争の多くは短期間で,戦闘員同士の限定的な戦争です.逆に内戦は長期間にわたり,戦闘員と非戦闘員の区別もあまりないことが多いです.むしろ犠牲者の多くは一般人です.そのため,国にもたらす被害は圧倒的に内戦の方が大きいでしょう.

 内戦のデメリットには次のようなものが想定できます.
・社会資本の損失
・軍事支出の機会費用
・社会的コスト
・資本の海外逃避
・精神的被害

 逆にメリットしては,
(指導者側)
・資産,資源の収奪
・外国からの援助
(兵士側)
・賃金,食糧
・資産,資源の収奪
・安全の確保
・復讐の機会
などが考えられます.

 これらから内戦が起こりやすい条件として次のことがわかってきます.
・天然資源を持つ国では内戦が起こりやすい
・アイデンティティの違いは原因ではなく,対立構図にすぎない
・貧困,格差が内戦を引き起こしやすい
・人口圧力が内戦を引き起こしやすい
・ガバナンスの悪さ(軍部の独裁,シビリアンコントロール)
・過去に内戦があった

 最後にまとめとして,内戦を防ぐためにはということも考えました.経済学では「内戦を起こさない方が得」という状況を作ることが答になるでしょう.

【参考文献】
世界銀行(2003)「戦乱下の開発政策」シュプリンガーフェアクラーク
スティグリッツ,ビルムズ(2008)「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」徳間書店
ポール・ポースト(2006)「戦争の経済学」バジリコ

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第13回(7/9)

 今回も余剰分析です.ただし,具体的な数値例を使った計算を行ないました.

【授業の内容】
 前回の復習をした後,厚生経済学の第一基本定理を紹介しました.財の価格と量が競争市場で決められた時,社会的余剰は最大となるというものです.つまり現在やっているような完全競争市場がもっとも理想的だということです.このような話はマクロ経済学でも出てきますね.

 では完全競争市場で価格(や量)が決定されない場合とはどんな場合でしょう.それは政策によるものと,市場によるものがあります.
 政策によるものとしては,政府により価格統制,(取引)数量制限,課税,補助金などが採られた場合です.
 また市場によるものとしては,独占がありますが,こちらは後期の内容なので飛ばします.

 今回はこの中でも特に課税(従量税)のケースの説明に時間をさきました.
 従量税とは,売買される量の多さによって税額が変わってくるものです.例えば酒税やタバコ税などがこれにあたります.取引される酒やタバコの量に応じて,1単位あたり何円かの税金が課せられます.これは需要関数と供給関数にどのような形で表現できるのでしょう.
 課税は企業にとってはコストです.1単位あたり100円の従量税は,限界費用を100円分引き上げます.また総費用関数では,100円×量だけ総費用が増加すると表現できます.
 このような課税は消費者余剰,生産者余剰をともに減少させますが,税収は増加します.税収は社会的余剰に含まれますが,税収の増加分より,消費者余剰と生産者余剰の減少分の方が大きいため,社会的余剰は減少し,死荷重が発生します.

 さて,ここで問題ですが,
1.社会的余剰が減少するにもかかわらず,なぜ政府は課税を行うのでしょう?
2.従量税が100円課せられたにもかかわらず,取引価格は100円も上がりませんでした.なぜでしょう?
 テストも近いし,考えてみましょうね.

経済学A 第13回(7/6)

 週末に学会に出張していたため更新が遅れました.今回は少子化と結婚の経済学でした.

【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.

 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.

 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.

 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 授業ではイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?

2010年7月3日土曜日

開発経済学 第12回(7/2)

 今回は疾病・保健と貧困との関係についてマクロ,ミクロの両面から説明しました.

【授業の内容】
 HIV/AIDSについては知ってるような気になっているけれど,意外と知らないことが多いのではないでしょうか.まず,HIVについて説明しました.その感染方法,症状,世界中に蔓延した経緯などです.1980年代になって謎の怖ろしい病気として,先進国では大きな問題とされましたが,現在では日本という例外を除き,先進国のほとんどではHIVについての理解もすすみ,感染者数も減少しています.むしろ現在ではアフリカ,南アジアなど貧困国での感染者数の増大が大きな問題となっており,また中国やロシアでの感染者数も増えています.
 続いてAIDSですが,AIDSはHIVの感染後に発症します.あくまでHIVは原因であり,AIDSは結果です.

 HIV/AIDSが問題となっているのはなぜでしょう.まず第一に,健康な生活を営めないという問題があります.サハラ以南のアフリカ諸国のいくつかではHIVにより平均寿命が10年以上短くなっています.
 次に,健康を損なうため,貧困を招くという問題もあります.患者の多くは10代後半以降の労働者として働き盛りであるため,働き手の1人を失うことで,家計収入は減少します.また,AIDS患者が家族内にいることで,介護する人も必要になります.結果として,AIDS患者を抱えた家庭では収入が減る一方で医療費は増大し,食費,教育費が減少します.医療費については,かつて感染したら死を待つだけと思われていたHIV/AIDSですが,現在ではAIDSの発症を抑える抗レトロウィルス剤があり,年間300~400ドルのようです.しかし,1日約1ドルという我々からすれば安価なこの薬も,1日の所得が2ドル以下の人々の多いサブサハラでは,大きな負担になります.
 続いて,偏見による社会的孤立,母子感染,AIDS孤児など日本にいる我々にはなかなか想像しにくい問題があります.また,授業では言い忘れましたが,HIV/AIDSにより,家計が教育を通じて人的資本蓄積を行っても,それが収入を生まない可能性があるため,結果として国レベルでは教育水準が下がる可能性もありそうです.

 さて,HIV/AIDSはなぜアフリカで猛威を振るっているのでしょうか.かつては,「アフリカでは不特定多数との性的交渉が多いから」,「割礼を受ける男性が多いから」などの仮説がありましたが,前者はデータから仮定そのものが否定され(多いわけではない),後者は逆に「割礼を受けた男性の方がHIV感染率が低い」ということがわかりました.やはり一見非合理的に見えても,その地域で長期的に継続してきた風習・慣習にはなんらかの合理性があるのでしょうね.
 では,本題に戻ると,原因としていくつか考えられます.「教育水準の低さ,HIVについての基礎的知識が広まっていない」,「先進国とHIVのサブタイプが異なる」,「ジェンダー格差により女性が予防しにくい」,「売春」,「内戦」,「性に関する慣習」などについて説明しました.どれが決定的な原因なのかは判断しづらいところですが,それぞれそれなりの説得力があると思います.

 このような問題に対し,どのような対策が立てられているのでしょう.成功した例としてウガンダ,失敗した例として南アフリカを紹介しました.

 アフリカで問題となっているHIV/AIDS以外の疾病について,マラリア,下痢,眠り病などを紹介しました.我々にはなじみがない病気が多いために,新しい発見も多かったのではないでしょうか.いずれも,私たちからみて,ほんのわずかなお金で,これらの病気で死ぬことを防ぐことがわかったと思います.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第12回(7/2)

 今回も引き続き生産者理論を説明し,余剰分析も少し説明しました.

【授業の内容】
 生産者理論については,前回の内容の理解を深める形で,損益分岐点,操業停止点などを説明しましたね.また,そこから,操業停止点の右上部分の限界費用曲線が,企業の短期供給曲線であることがわかりました.また,企業の様々な規模の限界費用曲線から,長期の供給曲線も導出できました.

 後半は余剰分析でした.余剰分析を行うためには,消費者理論から導かれた需要曲線,生産者理論から導かれた供給曲線が必要です.また,以前に学んだ価格理論を思い出してみると,需要と供給が等しくなる点(均衡点)で価格や生産量(取引量)が決まるんでしたね.
 需要曲線と価格とのギャップ(出しても良いと思っていた金額と,実際に払ったお金との差額)が消費者余剰(CS)です.CSが大きいほど,消費者にとっては望ましい状況です.また,供給曲線と価格とのギャップ(限界費用と販売価格との差額)が生産者余剰(PS)です.PSが大きいほど生産者にとって利潤が増えることを意味します.
 またこのCSとPSの合計を社会的余剰(SS)と呼びます.この社会的余剰が大きいほど,社会全体にとって望ましい状況であると考え,様々な政策を評価することが余剰分析です.
 ちなみに基本的にはSS=CS+PSで良いのですが,税や補助金が出てきた時は次のように扱います.
SS=CS+PS+税収-補助金
なぜ税収の増加が社会全体にとって望ましいのかというと,税収は必ず社会全体のために使われるからです.逆に補助金は税収から出されるので,税収の減少と同じことなので,マイナスがついています.

 次週は具体的な数値例を用いて余剰分析をやります.