2011年6月25日土曜日

開発経済学 第11回(6/24)

 今回は援助についてです.皆さんにとって新たな発見が多かったのではないでしょうか.

【授業の内容】
 まずLive AidとLive8の画像を見てもらいました.どちらも世界的な貧困救済イベントであり,Live8については知っている人もいるでしょう.これらのイベントは貧困を減らすことに繋がったのでしょうか.

 さて援助ですが,今回はドナーの中でも特に国際機関を中心に取り上げました.国際機関が果たしてきた役割や成果を歴史を追って見ていきました.
 1940年代,ブレトン・ウッズ体制の誕生です.中心人物には皆さんがマクロで学んだケインズもいます.ブレトン・ウッズ体制で欧州は戦争の傷跡から復興しますが,その後,そこでの成功体験をそのままアフリカに期待するという失敗もしています.また当時,アフリカは2大大国のヘゲモニー争いの場にもなっています.
 1960年代,アフリカの時代と呼ばれたこの時期,アフリカの多くの国が独立を果たしますが,独立後も旧宗主国との結びつきは切れておらず,旧宗主国からの援助(特にインフラ等の大規模産業プロジェクト)が特徴的です.
 1970年代,アフリカへの援助は大きな転換を迎えます.これまでのインフラ重視の援助の行き詰まりから,貧困対策が大きなウェイトを占めるようになります.
 1980年代,累積債務問題が深刻化し,IMFや世銀による構造調整政策が行われます.構造調整とは,条件(コンディショナリティー)つきの融資であり,その条件とは,経済の自由化,開放化であり,新古典派的な市場の競争力に重きを置いた政策を理想としています.この構造調整を受け入れたアフリカや東欧の多くの国が経済にブレーキを掛けてしまった一方で,構造調整を受け入れなかった東アジアの諸国は後に「東アジアの奇跡」と呼ばれる急成長を遂げます.

 この構造調整政策が失敗した理由はいくつか指摘されています.スティグリッツは途上国それぞれの発展段階を無視し,画一的な条件を課してしまったためであると批判しています.それ以外にも,ファンジビリティ(資金の流用可能性),コンディショナリティーが破られた場合にも融資が続けられたためにインセンティブが働かなかった等の原因が指摘されています.

 1990年代にはレシピエント側のガバナンスが注目を集めました.Burnside and Dollar (2000)は受入国のガバナンスが良好な場合に限り援助は有効に働くという研究を発表しました.この研究によりガバナンスの重要性がより一層注目されることになりました.

 最後に1990年代以降注目を集める参加型開発についても触れました.これは,ドナーからの一方的な援助ではなく,レシピエント,特に現地住民の意見を開発政策に採り入れるべきであるという考え方です.

 皆さんにはこれまでの知識を踏まえ,「どんな援助は貧困を削減できるのだろうか?」という問いを考えてもらいました.

 

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第11回(6/24)

 今回も引き続き生産者理論です.

【授業の内容】
 前回,価格と限界費用が等しくなるように生産することで利潤が最大となるような生産量がわかることを確認しました.今回はこれを用いて,どのような価格だと利潤が出るかを図で確認しました.

 それを理解するために,平均総費用(ATC)と平均可変費用(AVC)という新たな費用を紹介しました.ATCは生産量1単位当たりにかかる総費用であり,総費用を生産量で割ったものです.式ではATC=TC/xで表されます.ここから,TC=ATC×xも導くことができます.またAVCは生産量1単位当たりにかかる可変費用のことで,可変費用を生産量で割ったものです.こちらも式ではAVC=VC/xで表され,VC=ATC×xが導かれます.

 このATCとMCが交差する点を損益分岐点と呼びます.この点の価格よりも高く売れれば利潤はプラス,つまり黒字になり,この点より価格が低ければ赤字となります.

 ただし,この授業で確認したとおり,赤字だからと言って生産しないわけではありません.赤字でも生産したほうがマシな場合があります.なぜなら生産する前に固定費用(サンクコスト)がかかっているからです.そのため,生産前ですでに赤字は発生しており,生産することによってこの赤字が減るのであれば生産します.逆に生産すると赤字が増えてしまう場合もあるでしょう.この場合には生産自体を止めたほうが良いですね.これを見分けるポイントを操業停止点と呼びますが,その話はまた来週です.
 配布した練習問題をしっかりしておきましょうね.

【今回出てきた重要語句】
平均総費用(ATC):総費用を生産量で割ったもの.生産量1単位当たりの総費用.
平均可変費用(AVC):可変費用を生産量で割ったもの.生産量1単位当たりの可変費用.

経済学A 第10回(6/21)

 今回は為替と貿易についてです.

【授業の内容】
 まず円高と円安の説明です.よく考えれば当たり前なのですが,いきなり言われると間違えそうですね.現在はおよそ1ドル=80円ですが,これは1ドルを購入するために80円かかることを示すので,1ドル=100円になると1ドルを購入するために100円かかるようになります.つまりこの変化は,1ドルの価値が上がったことであり(ドル高),もちろんそれは円と比べてのことなので,円の価値が下がったこと(円安)でもあります.つまりこの変化は円安ドル高です.逆に1ドル=60円になれば円高ドル安です.

 さて,一般に,円高は日本経済にとって良くないと言われます.なぜ日本円の価値が上がる円高が悪いことなのでしょう.結論から言うと,私たち消費者にとっては円高は悪いことではありません.むしろメリットの方が多いです.私たちが持っているお金(円)の価値が上がるので,外国の製品を安く買えることになるし,海外旅行も安く行けます.
 しかし,日本経済を支える輸出企業にとっては円高はありがたくないものです.なぜなら円高はドル安であり,ドルの価値が下がることなので,アメリカ人にとっては日本製品を買う時にたくさんのドルが必要になるため,なかなか買いづらくなります.日本の企業の輸出品が売れなくなるのです.日本の企業の国際競争力が落ちると言っても良いでしょう.

 このように為替は企業にとって大きなリスクでもあるのですが,為替はどうやって決まるのでしょう.為替は外貨の価格ですので,これまでも何度も説明してきたように需要と供給のバランスによって決まります.みんなが円を欲しがりドルを売りたがれば円高ドル安になります.
 この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.

 最後に為替制度について説明しました.今回説明したように,日本円は,為替レートが刻々と変化する変動相場制なのですが,中には為替レートを固定している通貨もあります.かつては日本も1ドル=360円の時代がありました(僕は生まれてませんが).また,固定相場制を基本として,上下数%の変動を認めるペッグ制を採る通貨もあります.

 次週はアンケートでみなさんの要望が多かった少子化と結婚の経済学を説明します.

2011年6月20日月曜日

開発経済学 第10回(6/17)

 今回は研究授業ということで70分に短縮して,貧困と教育について説明しました.

【授業の内容】
 途上国における教育の現状をデータで見ると,世界の15-24歳の識字率は,男性で91%,女性で85%です.これをサハラ以南のアフリカに限れば,男性76%,女性64%に過ぎません(UNICEF).
 今回は教育の拡充をメインのテーマにしましたが,その理由は以下の通りです.
1.そもそも子供には教育を受ける権利がある
 これは子供の権利条約(児童の権利に関する条約)に基づくもので,ソマリアとアメリカ(!)を除くほとんどの国が締約しています.またMDGsでもすべての子供に初等教育を受けさせることが目標とされています.
2.貧困削減の手段として
 以前にヌルクセの貧困の悪循環を説明しましたが,悪循環は一国全体としても捉えることができますし,家計単位でも教育を通じて貧困が連鎖してしまうと捉えることも可能です.つまり貧しい家庭では子供に与える教育の水準が低くなり,その子供も人的資本蓄積が少ないために高い収入を得ることができず,まさに教育を通じて貧困が子々孫々と遺伝してしまうのです.
 その連鎖を断ち切るためには,政府が十分な教育を供給することが大きな役割を果たすはずです.また,各家計単位で見ても,教育は収益率の高い投資先であることがわかっています(私的収益率).また教育は正の外部性を持つため,社会的収益率はさらに高くなります.
 しかし,現実には資金制約(就学させる余裕がなく,かつお金を借り入れできない),機会費用(児童労働),物理的制約(通学が困難),ジェンダー格差など様々な原因により,必ずしも初等教育が普及しているとは言えない状況です.

 貧困を削減するためにも教育が重要であることはわかりますが,現実には様々な,途上国に特有の問題もあるために教育は十分に普及していません.より多くの人に,より質の高い教育を目指して,世界中で様々な取り組みが存在します.授業ではその中から,バングラデシュのFFE(Food for Education)と,ニコラス・ネグロポンテのOLPCプロジェクトを紹介しました.

 皆さんには,World Bankの2009年のデータで初等教育の就学率が世界で最も低いエリトリアの教育政策についてディスカッションをしてもらいました.初等教育と高等教育のどちらを重視すべきか,普通教育か職業教育か,政府予算の少なさをどうカバーするか,教育需要の向上と供給の拡充のどちらを優先すべきか,などの論点に今回も様々な意見が出ましたね.

【参考文献】
UNICEF(2008)「世界子供白書」
OLPCウェブサイト
http://laptop.org/en/

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第10回(6/17)

 今回も生産者理論です.計算が入ってきました.

【授業の内容】
 前回,小規模な企業のことを考えましたが,今回は大規模な工場を考えてみました.その工場は労働者を投入すると,何かしらの財が生産されて出てくるとしましょう.その場合,きっと最適な生産規模があるのではないかという話をしました.労働者が誰もいなければ何も生産されません.そこで労働者を1人投入してもあまり生産量は増加しません.なぜなら工場が大規模なので様々な役割があるのに,労働者が1人しかいなければ,その人がすべてをすることになりますが,それだと効率が悪そうですね.そこでもう1人を投入すれば,少しは役割分担もでき,先程よりは効率がよくなりそうです.ではもう1人,もう1人と投入していけば,どんどん効率が良くなりそうです.しかしそれは無限に効率が良くなるということではありません.工場には最適な労働者の数があり,それに到るまではどんどん効率が良くなりますが,それを超えると少しずつ人が余ることになり,効率性は落ちて行くのでしょう.

 さて,このような場合,労働者の数をどうやって決めたら良いのでしょう.それはその労働者を投入することにより新たに増加した生産量(労働力の限界生産性)と,その労働者を投入するためのコスト(賃金)のどちらが大きいかで決まります.30万円で雇った労働者が50万円分の財を生み出してくれれば雇ったほうが良いでしょうし(材料費などは無視しています),その労働者が20万円分しか生み出さないのであれば雇うと損をしますね.

 続いて最適な生産量について考えてみましょう.上述のとおり,大規模な企業の生産効率は最初は悪く,(労働者を増加して)生産を増やすに従って効率は上がりますが,過剰に生産しようとすると効率は下がっていきます.
 最適な生産規模を考えるためには限界費用(MC)という概念を取り入れる必要があります.これは生産量を1単位増加させることで新たに費用がどれだけ発生するかを示すものです.この限界費用を使うと最適な生産規模がわかります.例えばこの財が100円で売れるとすれば,財を1個生産すると収入が100円分増えます.その際の限界費用が80円だとすれば,80円で作り,100円で売ることになるので,差額の20円が利益になります.つまり限界費用が価格よりも低い限りは生産量を増加すべきなのです.しかし,価格と限界費用が等しくなれば生産をストップしなければなりません.なぜならそれ以上生産すると,限界費用が価格を上回るため,次の1つの生産からの利益はマイナス,赤字なのです.ただし,これは余分に1個作ると今までの利益が消え,突然赤字になるということではなく,その1個だけについて見てみると赤字だということです.そのためこの1個を仮に作ったとしても今までの黒字が少し減るだけで赤字になるわけではありませんが,利益が減るので作るべきではありませんね.
 結論は,限界費用と価格が等しくなるようい生産すれば最適な生産量がわかります.P=MCです.

 さて,この限界費用ですが,何かを少し変化させるとそれによりもう一方がどれだけ変化するかを計るものですね.これは経済数学入門で繰り返しやった微分と同じ意味ですよね.というわけで,限界費用を導き出すためには微分が必要です.総費用(あるいは可変費用)を微分することで限界費用が導出されます.これは簡単だし,非常に重要なので誰もができなければなりません.期末試験でもこれができなければ確実に単位は取れません.
 授業では実際の数値例で最適な生産量,さらにその時の収入,総費用,利潤についても計算してみました.

【今回出てきた重要語句】
限界費用:Marginal cost(MC).生産量を1単位増加させた時に新たに発生する費用のこと.総費用を微分することで得ることが可能.

経済学A 第9回(6/13)

 前回に引続き資産運用の話です.今回でようやく株の話になりました.

【授業の内容】
 前回は利子,割引現在価値,期待値の計算やリスクについて説明しました.今回はそれらを使って株式について理解を深めました.

 まず,株を買うメリットを皆さんに聞きました.多くの人は「株というものは安く買って高く売ることで儲けるものだ」と考えがちです.もちろんそのような目的でも買うわけですが,それ以外のメリットもあります.「安く買って高く売る」ことで利益を出す取引を裁定(さいてい)取引と呼びます.またそれによる利益はキャピタルゲインと呼びます.日本語で言えば「資本利益」と言ったところでしょうか.
 それ以外のメリットは配当です.ある株を保有することはその企業の一部を所有することになるので,持っている株の数に応じて企業の利益の一部を受け取れるのですが,それが配当です.こちらはキャピタルゲインに対してインカムゲインと呼ばれます.所得利益とでもいうのかな?あまり日本語で言うことはありません.

 さて,今回説明した株価の予測方法のうち1つめのファンダメンタル分析は,この配当こそが株の価値なのだとする考え方に基づきます.ある会社の株を持っていると,この企業が倒産することなく毎年毎年利益を出し続ければ,永遠に配当をもらえます(例外あり,黒字でも配当を出さない場合や,赤字でも配当をだす場合もあります).前回の割引現在価値でわかったように,未来のお金を現在の価値に直すときには割り引かなければなりません.ファンダメンタル分析では,今後受け取れるすべての配当を現在の価値に直したものが株価であるとします.確かに,その株を持っていても配当が貰えそうにない,あるいは近々潰れてしまいそうな企業の株はあまり欲しくありませんね.みんながそう考えれば,みんながその株を売ることになるので,株価は低いでしょうね.実際,東京電力の株価は震災以来ガクンと下がっています.

 ファンダメンタル分析に対してテクニカル分析というものがあります.これはその株の過去の株価推移を見て将来の株価を予測するものです.言うなれば経験則の集合のようなもので,なぜそうなるのかという理論的な裏付けは弱いです.学術的にはあまり信頼されていませんが,株式入門のような本ではよく取り上げられます.

 さて,後半は株以外の資産運用方法について説明しました.なぜなら,株は資産運用の手段の1つであるため,株を始める前に,株以外に自分に合った金融商品があるとわかればそちらを選べば良いのです.
 今回取り上げたのは以下の金融商品です.
・銀行預金,貯金
 皆さんにもっとも身近な金融商品ですね.リスクはほとんどない代わりに,現在の金利は非常に低いです.年に一度でも引き出し手数料を取られたら逆にお金は減りそうなぐらいです.
・投資信託
 投信やファンドとも呼ばれます.信託銀行,証券会社以外にも普通の銀行でも買うことができます.1万円程度から購入できるので,比較的敷居の低い商品です.これは,多くの投資家から集めたお金をプロのファンドマネージャーが運用し,その運用益を投資家に配分するというものです.ファンドによって,リスクの低さ重視,リスク高めで運用益重視など,特徴があります.個人で買うよりも多くの投資先に資金を分散できるので,株を個人で運用するよりはリスクは低いことが多いです.ただし,毎年手数料がかかるため,リターンもやや低めになります.
・債券(国債,地方債,社債)
 (国債を例に取ると)国からの借用証書のようなものです.国にお金を貸し,その利子を毎年払ってもらえます.お金を貸す期間は様々で3,5,10年あたりが多いでしょう.なかには50年というものもあります.最近は個人でも国債を買うことができます.10年物であれば10年は元本を返してもらえないという制約があるため,銀行の普通預金に比べれば金利は多少高めです.個人向け国債は身近な金融機関でも売ってます.
・金(gold)
 こちらは金融商品というより実物商品への投資ですが,金に投資する人もいます.金は価値が比較的安定しているため,どの国の貨幣も信頼できないときには特に人気が高まります.
・外貨預金,FX
 これらについては次回の為替の話の時に説明します.

 さて,ここまでの内容をまとめると,様々な金融商品がありますが,リスクとリターンが比例しています.ローリスクのものはローリターンだし,ハイリターンのものはハイリスクです.例外はありません.ローリスク・ハイリターンのものは存在しません.いえ,正確に言えば,存在はするでしょうが,我々の所にそんな上手い話が来ることはありません.なぜならそんな貴重な情報があれば,人に教えずに自分でお金を借りて投資するでしょうからね.つまり美味い話には気をつけよう,ということです.

2011年6月13日月曜日

開発経済学 第9回(6/10)

 今回は疾病・保健と貧困との関係についてマクロ,ミクロの両面から説明しました.特にHIV/AIDSとマラリアを中心に説明しました.

【授業の内容】
 HIV/AIDSについては知ってるような気になっているけれど,意外と知らないことが多いのではないでしょうか.まず,HIVについて説明しました.その感染方法,症状,世界中に蔓延した経緯などです.1980年代になって謎の怖ろしい病気として,先進国では大きな問題とされましたが,現在では日本という例外を除き,先進国のほとんどではHIVについての理解もすすみ,感染者数も減少しています.むしろ現在ではアフリカ,南アジアなど貧困国での感染者数の増大が大きな問題となっており,また中国やロシアでの感染者数も増えています.
 続いてAIDSですが,AIDSはHIVの感染後に発症します.HIVが原因であり,AIDSは結果です.混同しないようにしましょうね.また,AIDSという病気があるわけではなく,カリニ肺炎など,健康な人なら免疫機能のおかげで発症しないようないくつかの病気にかかるとAIDSが発症したとされます.

 HIV/AIDSが問題となっているのはなぜでしょう.まず第一に,健康な生活を営めないという問題があります.サハラ以南のアフリカ諸国のいくつかではHIVにより平均寿命が10年以上短くなっています.
 次に,健康を損なうため,貧困を招くという問題もあります.患者の多くは10代後半以上の労働者として働き盛りであるため,働き手の1人を失うことで,家計収入は減少します.また,AIDS患者が家族内にいることで,介護する人も必要になります.結果として,AIDS患者を抱えた家庭では収入が減る一方で医療費は増大し,食費,教育費が減少します.医療費については,かつて感染したら死を待つだけと思われていたHIV/AIDSですが,現在ではAIDSの発症を抑える抗レトロウィルス剤があり,年間300~400ドルのようです.しかし,1日約1ドルという我々からすれば安価なこの薬も,1日の所得が2ドル以下の人々の多いサブサハラでは,大きな負担になります.
 続いて,偏見による社会的孤立,母子感染,AIDS孤児など日本にいる我々にはなかなか想像しにくい問題があります.また,授業では言い忘れましたが,HIV/AIDSにより,家計が教育を通じて人的資本蓄積を行っても,それが収入を生まない可能性があるため,結果として国レベルでは教育水準が下がる可能性もありそうです.

 さて,HIV/AIDSはなぜアフリカで猛威を振るっているのでしょうか.かつては,「アフリカでは不特定多数との性的交渉が多いから」,「割礼を受ける男性が多いから」などの仮説がありましたが,前者はデータから仮定そのものが否定され(多いわけではない),後者は逆に「割礼を受けた男性の方がHIV感染率が低い」ということがわかりました.やはり一見非合理的に見えても,その地域で長期的に継続してきた風習・慣習にはなんらかの合理性があるのでしょうね.
 では,本題に戻ると,原因としていくつか考えられます.「教育水準の低さ,HIVについての基礎的知識が広まっていない」,「先進国とHIVのサブタイプが異なる」,「ジェンダー格差により女性が予防しにくい」,「売春」,「内戦」,「性に関する慣習」などについて説明しました.どれが決定的な原因なのかは判断しづらいところですが,それぞれそれなりの説得力があると思います.

 このような問題に対し,どのような対策が立てられているのでしょう.成功した例としてウガンダ,失敗した例として南アフリカを紹介しました.

 続いてマラリアについて説明しました.マラリアは我々にはなかなか縁のない病気ですが,世界的に見ると,世界人口の約半数がマラリアのリスク下で生活しています.マラリアはハマダラカにより媒介されるマラリア原虫による感染症です.つまり蚊に刺されるとうつる可能性のある病気です.日本人は蚊に刺されることに慣れてしまっているので,外国に行った場合は注意が必要です.
 皆さんには,自分がサブサハラのある国の大統領であるとして,マラリア対策を考えてもらいました.様々な意見がありましたが,蚊帳を配布するというものが多かったですね.しかし援助は一時的には効果を発揮するかも知れませんが,その弊害があることも今後学んでいきます.
 
 その他にも下痢,肺炎,眠り病などを紹介しました.我々にはなじみがない病気が多いために,新しい発見も多かったのではないでしょうか.いずれも,私たちからみて,ほんのわずかなお金で,これらの病気で死ぬことを防ぐことがわかったと思います.

【第2回レポート】
提出期限:6月23日20:00
文量:3ページ+α(表紙,図表や資料,参考文献を除く)
テーマ:次のうちから1つ選択.
・マイクロファイナンスは貧困を削減しているか?
・(2部門モデルで考えると)中国の成長速度はいつ鈍化するか?
・途上国は人口政策を採るべきか?
・内戦はなぜ起こるのか?
制約:次の2つを満たすこと.
・グラフか表を1つ以上掲載する.
・理論(アイデア)と具体例のどちらも示す.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第9回(6/10)

 今回は労働市場についてと,生産者理論の基礎を説明しました.

【授業の内容】
 まず,労働市場における労働供給について説明しました.これまで財の消費の分析のために用いていた道具(無差別曲線と予算線)を用いて,賃金率が変化したときの労働供給の変化について分析しました.
前提条件
①人々は余暇(L)と所得(I)により効用(U)を得る.
②人々は自分が持っている時間を余暇と労働(l)に割り振る.ここでは1日の労働を考えるため,所有時間は24(h)とする.
③所得は労働時間に賃金率(w)をかけ合わせたものになる.
①を数式で表せば,U=U(L,I)
②を数式で表せば,l=24-L
③を数式で表せば,I=w×l
とそれぞれなります.この他にも余暇や所得が増えると効用が増えるが,その増加率は逓減するなどいくつかの細かい前提条件がありますが省略.

 このような場合,賃金率が変化すると労働時間はどう変化するのでしょう.バイトの時給が上がると労働時間は増えますか?一見増えるように思えますが,どんどん時給を上げていけば余暇を0にするまで労働時間は増えていくのでしょうか.そんなことはありませんよね.ある程度まで時給が上がれば所得は十分多くなるので,余暇の方が重要になってくることでしょう.これもスルツキー分解で考えれば,なぜバイト代が増えると労働時間も増えると単純に言い切れないのかがわかります.皆さん,テキストを参考にスルツキー分解で考えてみましょう.

 後半は次回からしばらくのテーマとなる生産者理論です.今回は生産者(企業)の目的,利潤と収入・費用の関係,そして企業の生産活動のイメージを伝えました.
 まず企業の目的ですが,単純に利潤の最大化です.実際の企業も(短期的にはともかく長期的には)利潤を出せなければ潰れてしまいますもんね.では利潤とはどのように定義されるのでしょう.その説明のために,まず記号を確認しておきましょう.
P:価格
x:量(ここでは生産量)
π(パイ):利潤
R:収入
TC:総費用
VC:可変費用
FC:固定費用

 さて利潤ですが,次のように収入から総費用を引いたものとして定義されます.
π=R-TC
 この収入(R)は,
R=P×x
 で表されます.いくらで何個が売れたか,つまり価格と量をかけたものが収入です.今は基礎なので,税などは無視します.また総費用は,
TC=VC+FC
 で表されます.ここは説明が必要ですね.可変費用(VC)とは生産量が増加することにより増えていく費用のことです.具体的には材料費などが適当ですね.一方,固定費用(FC)は生産量に関係なくかかる費用のことで,埋没費用(サンクコスト)とも呼ばれます.テナント代など,起業のための初期投資はこれに当てはまりますね.

 最後に,これから分析する企業のイメージを持ってもらいました.まずは,個人経営のパン屋さんを想定してみました.職人さん1人で起業し,パン焼きはもちろん,接客や経理もやっています.1人でもなんとかこなすことはできますが,レジを任せられるバイトがいれば,もっとパンの生産量を増やせるはずです.とはいえ,パンを焼くオーブンは1台しかないので,バイトが入ったからといって生産量は2倍までは増えません.ここからバイトを1人,また1人と増やすとどうなるでしょう.もちろん人手が増えれば生産量は増えるでしょうが,重要なのはその増加量です.おそらくバイトを雇えば雇うほど,その人が生産増加に貢献できる量は減っていくのでしょうね.これを労働の限界生産力逓減と呼びます.
 次回は大規模な工場を想像してみましょう.

【今回出てきた重要語句】
利潤,収入,総費用,可変費用,固定費用(上で説明したため,説明は省略)

2011年6月12日日曜日

経済学A 第8回(6/7)

 今回と次回は株式を含めた資産運用の基礎について説明します.とはいえ,今回は僕が説明した内容がどのように株とつながるのかわかりにくかったかもしれませんね.

【授業の内容】
 まず,今のお金と未来のお金の関係を考えました.時間がずれるとお金をどのように評価して良いのかわからなくなりそうですね.しかし,利子率で考えてみるとはっきりわかるようになります.
 今現在の100万円は銀行などに預けておけば未来(例えば1年後)には増えますね.それを105万円であるとすれば,現在の100万円と1年後の105万円が同じ価値ということになりますね.現在の100万円が未来になるに従って増えていくというのはみんなイメージしやすいでしょう.でもその逆はなかなか考えた機会はないでしょうね.現在の100万円と1年後の105万円が同じ価値なら,1年後の105万円の現在の価値は100万円ということになりますね.つまり未来のお金を現在の価値に直す場合は,少し減ってしまうのです.これを割引現在価値と呼びます.
 利子をつける,そして割り引く,それぞれの計算をしてみましたね.

 続いて,期待値の説明をしました.期待値は未来の平均値と考えるとよいでしょうね.確率的にどれぐらいの結果になるのかを計算したものです.計算方法は,結果とそれが起こる確率をかけ合わせたものを,すべての結果について足しあわせたものです.例としてサイコロを1回振った時に出る目の期待値は,1×(1/6)+2×(1/6)+…+6×(1/6)=7/2=3.5となります.
 さらにリスクの説明をしました.リスクとは,皆さんがイメージする「危険」とはあまり関係ありません.正確には結果のばらつきの大きさのことです.統計学の言葉で言えば「分散」あるいは「標準偏差」の大きさのことです.
 この期待値とリスクは次回の内容に大きく関わってきます.

 最後にリスクへの対処を説明しました.
 リスクへの対処の王道は「卵は分けて持て」.つまり資産を分散させることです.皆さんがすべての資産をある1種類の株に投資すると,その企業に不祥事やトラブルが発生して倒産の危機が訪れたら,皆さんは無一文になってしまうかもしれません.そのため,その企業の株価が下落したら,逆に株価が上昇する企業の株も持つべきでしょう.これをリスクヘッジと呼びます.

 次回はアンケートも取るので,きちんと出席しましょうね.

2011年6月4日土曜日

開発経済学 第8回(6/3)

 今回は農業でした.

【授業の内容】
 まず,前回の課題であった「先進国と途上国の農業の違い」を話しあってもらい,発表してもらいました.それらをまとめたものを紹介しましたが,皆さんの意見の集合に僕が新たに付け加えるものはあまりありません.よく考えられていたと思います.

 続いてマルサスの罠の復習をしました.今回の中心となる話は,急増する人口を賄うだけの農業生産が実現できるかという話です.マルサスの予言によれば,人々はそのうち食糧危機に陥ることになりそうですが….ただしこの懸念は最近になってでてきたものではありません.50年前にも食糧危機が発生するのではと考えられていました.しかし,「緑の革命」のおかげで地球全体が飢餓に苦しむという事態にはなりませんでした.

 さて,なぜ開発経済学にとって農業が重要であるかなのですが,まず途上国の人口の大半は農家であることがあります.また貧困に苦しむ人の多くは農家です.つまり途上国の貧困を減らすことは,農家の貧困を減らすことでもあります.さて,農業はほかの産業と比べどんな特徴があるのでしょう.ここでは次の特徴を紹介しました.
・気象リスクの存在
・季節性(季節的失業)
・生産資源の移動が不可能
・土地が有限
です.特にリスクが大きい点は注意すべきですね.

 続いて,農業をマクロ・ミクロの視点から考察しました.マクロ的にはヌルクセ,プレビッシュ,シンガーらの農業ペシミズム論,プレビッシュ=シンガー命題などを紹介しました.ミクロ的視点からは,労働の限界生産力が逓減すること,そのため,貧困から抜け出すためには出生数の減少,都市への人口流出,農業の生産性向上などがあります.

 農業の生産性はこの数十年で大きく向上しました.それは緑の革命と呼ばれています.
 緑の革命とは,高収量品種の開発,灌漑設備と化学肥料の普及による農業生産性の飛躍的向上のことを指します.これに関連してネリカ米,灌漑設備の種類などを紹介しました.授業では紹介し忘れましたが,品種改良により「奇跡の小麦」と呼ばれる小麦を生み出したノーマン・ボーローグはこの貢献で数億人の命を救ったと言われています.後にボーローグはノーベル平和賞も受賞しました.彼の伝記は図書館にも(たぶん)あります.

 さて,最後に「自国の農家保護と途上国の貧困削減の両立」を実現できる政策を考えてもらいました.結構時間をとりました.各チームに具体的な政策を発表してもらいましたが,なかなか面白い案もでましたね.

 次週は疾病についてです.

【レポート再提出】
 第1回の評価がB以下だった人が再提出することができます.Eの人は強制です.提出期限は6月9日(木)20:00です.提出方法は前回と同じくメールで添付です.

2011年6月3日金曜日

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第8回(6/3)

 今回もスルツキー分解です.ただし,前回の内容をグラフで表現しました.まあ,なかなか難しいとこですね.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,ある財の価格が変化した時に,その財とそれ以外の財の消費量の変化を,相対価格の変化による効果と,実質所得の変化による効果に分解するものです.前者を代替効果,後者を所得効果と呼びます.代替効果は所得効果を差し引いた相対価格の変化による影響だけを示すもので,所得効果は代替効果を差し引いた実質所得の変化による影響だけを示すものです.

 グラフ上では,代替効果は元々の最適な消費点(効用最大化となる消費点)を通る無差別曲線上で,元々の消費点(点A)から,価格が変化した後の相対価格を示す補助線と無差別曲線が接する点(点B)への移動として表されます.
 一方,所得効果は点Bから,価格が変化した後の予算線と無差別曲線が接する点(点C)への移動として表されます.
 最終的な消費点は点Cです.つまり価格が変化すると消費点は,点Aから点Cへと変化するのですが,その内訳を相対価格の変化によるもの(点A→点B)と,実質所得の変化によるもの(点B→点C)へと分解しました.
 なかなか文章で説明するのは難しいですねえ.言葉でも難しいですけどね.今回はかなりゆっくり説明しましたが,わからないという人も当然いると思います.後は個別に僕の所に質問に来てください.個人的に説明したほうがわかりやすいと思います.

 最後に異時点間の消費についてのスルツキー分解も説明しました.こちらも中身は同じです.分かりにくいという人はテキストで復習しておきましょう.

【課題】
 前回に配布した練習問題を次回提出してもらいます.