2009年6月30日火曜日

経済学A 第12回

 今回はゲーム理論入門です.

【授業の内容】
 これまでの話とはちょっと変わってますが,ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.

 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.そのためジャンケンもゲームであると言えます.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.

 最初のゲームとして,有名な囚人のジレンマと呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.
 ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,ホテリングゲームも解いてみました.中には答えが分かっていた人もいたのではないでしょうか?

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2009年6月28日日曜日

開発経済学 第11回

 今回はガバナンスです.

【授業の内容】
 前回,援助が有効に働くか否かはガバナンスによって決まるという研究を紹介しました.これまでもガバナンスという言葉は度々出てきましたが,ガバナンスとは何でしょう?

 ガバナンスとは何かについて,UNDP,世界銀行の定義を紹介しましたが,それらをまとめて僕は,「資源配分の効率性」と「意思決定のシステム」という2点に集約できるのではないかと考えます.また,ガバナンスに関連する様々な指標がありますが,そのうち世銀のガバナンス指標,トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の実感汚職指数などを紹介しました.授業では紹介しませんでしたが,国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」もガバナンスに関連する指標と言えるでしょう.
世銀:http://info.worldbank.org/governance/wgi/sc_country.asp
TI:http://www.ti-j.org/TI/CPI/index.htm
国境なき記者団:http://www.rsf.org/Only-peace-protects-freedoms-in.html

 さて,ガバナンスが悪いと何が問題なのでしょう?ガバナンスは上記の通り,資源配分の効率性と意思決定のシステムを意味しています.これらに問題があると,政府の政策や公共サービスが非効率であったり,特定のグループだけを優遇したり,汚職が横行したりと,様々な問題を引き起こしますし,それは結果として社会的厚生を下げてしまいます.
 ガバナンスが所得や乳幼児の死亡率に影響を与える,汚職が経済成長率を鈍化させるなど,様々な研究がガバナンスと社会的厚生との関係を指摘しています.

 後半は移行経済について解説しました.学生の皆さんにとって,社会主義国が資本主義の現実的なオルタナティブであった時代は想像しにくいかもしれません.僕も経済学を学び始めた時にはすでにソ連はロシアになっていましたし,ベルリンの壁も崩壊後でしたし,言わば歴史によって,経済システムとしては大きな欠陥があるという審判が下されていたので,学びたいと思える環境にはありませんでした.
 さて,社会主義経済にはどんな欠陥があるのでしょう.いくつかありますが,1つは市場経済とは異なり,情報の流れが上から下へと一方通行であり,効率的な資源配分が実現できないことがあります.もう1つは,物事を改善したり,新たな商品・技術を発明したりしようというインセンティブを持ちにくい点です.シュンペーターは経済成長における重要なファクターとして,創造的破壊を指摘しています.社会主義経済では,既製品を大量生産することには向いているかもしれませんが,このような創造的破壊が起きにくいのではないでしょうか.

 来週は教育と貧困削減について考えます.ぜひOLPCについて調べてみてください.

第3回レポート
 締め切り:8月6日20:00
 分量:図表などを除いてA4で3枚以上
 テーマは次のうちから1つを選ぶ(ただし選択肢は増える可能性あり).

  • 援助は経済開発に有効か?
  • ガバナンスと経済成長
  • 教育と貧困

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第11回

 今回は余剰分析でした.次週も余剰分析をします.

【授業の内容】
 余剰分析は,ある変化が国全体にとって望ましいものであるかどうかについて判断するための材料を与えてくれます.
 まず消費者余剰と生産者余剰から説明しました.消費者余剰は,消費者が払っても良いと思っている価格と実際の価格とのギャップ,生産者余剰は,生産者が売りたいと思っている最低価格と実際の価格のギャップで表されます.それぞれが大きくなればなるほど,消費者にとって,生産者にとって望ましい状況です.またその2つを合わせたものを社会的余剰と呼びました.この大きさで,社会全体にとって望ましい変化であるかどうかを判断します.(注:今回の講義の範囲では,社会的余剰=消費者余剰+生産者余剰,として良いのですが,厳密に言うと,社会的余剰=消費者余剰+生産者余剰+税収-補助金,です.)
 これらの消費者余剰,生産者余剰,社会的余剰は,需要と供給が直線で表されるときには,簡単な計算で求めることができました.

 厚生経済学の第一基本定理より,競争的な市場で価格と生産量が決まれば,社会的余剰が最大になることがわかりました.では,そうじゃない場合(社会的に望ましくない場合)とはどんな状況なのでしょう?

 今回は数量制限と価格制限によって社会的余剰がどれだけ減るか(=死荷重がどれだけ発生するか)を考えました.

 次回は税金を課すケースを考えます.

経済政策論 第11回

 前回に引き続き少子化問題です.

【授業の内容】
 まず前回の課題である「晩婚化対策の現状」について説明してもらいました.徳島では,県による「とくしま出会いきらめきセンター」というものがあるようです.こういった結婚相談所的なものの一番の問題点は,参加するための心理的なハードルが高いことだと思います.特に若い人にその傾向が強いように思われます.富山国際大学の樋口康彦氏の「崖っぷち高齢独身者 30代・40代の結婚活動入門」光文社新書を読んでみると,年齢が上になるほど結婚相手を見つけづらくなる現状がわかります.若い間は「そのうちなんとかなる」,「自分で探せる」と思っていて,そのままずるずると年齢を重ねるケースが多いようです.
 その点,上記センターは,企業単位で登録する点が興味深いです.独身の男女が上司に勧められ,顔を立てるため,という理由で参加できるからです.言わば上司が(昔で言う)お見合いおばさん的役割を果たしているのでしょう(ひょっとしたら僕の勘違いで,そのような動きはないかもしれませんが…).実際にやっていることは民間のお見合いパーティーと大差はないと思いますが,参加のための心理的ハードルに目をつけているのだとするとなかなか鋭いなぁと思います(本当の所はどうなのでしょう?).

 少子化の原因の1つは晩婚化・非婚化によるものであり,その対策は上記のように細々と各自治体によって始まっているようです.もう1つの原因は,結婚した男女の出産・子育て環境にありそうです.ということで,続いて「出産・子育て環境の現状」について発表してもらいました.
 こちらについては僕があまりメモを取れていなかったのですが,一定規模以上の企業には,仕事と子育ての両立を促進するための行動計画を策定することが義務づけられているようです.また徳島県には,徳島県子育て総合支援センターというものがあることもわかりました.

 解決策として,企業内託児所の設置などの案が出ました.実際には企業はどのような子育て支援をしているのでしょう.
 というわけで,次回の課題は次の3つです.
・企業の子育て支援
・保育所による延長保育の現状
・徳島の若年層の失業率や所得の推移

経済学Ⅱ 第11回

 今回から市場の失敗です.そのうち公共財について説明しました.

【授業の内容】
 これまでの授業はすべて完全競争市場という空想上の世界でのお話でした.今回からはそれを少しずつ現実に修正していきます.
 これまでの結論として,前回,厚生経済学の第一基本定理を説明しました.完全競争市場では市場に価格と量の決定を任せておけば,社会的にもっとも望ましい資源配分が実現できるということでした.

 ただしそのように市場は上手く働くばかりではありません.異なった条件では必要なものが生産されない(過剰に生産される),価格が高すぎる(安すぎる)という不具合を引き起こしてしまいます.
 今回の公共財は,市場に任せておいても生産されない財です.

 通常の財(私的財)は市場において,つまり民間側で生産されます.政府などから命令されなくても,利益の追求を目指す企業が自動的に生産します.ただし,企業は,今回採りあげる公共財を作ることはありません.なぜなら公共財はタダで消費されてしまう(ただ乗りされる,フリーライドされる)ため,儲からないからです.
 さて,公共財とはどのような財なのでしょう.公共財は次の2つの特徴を兼ね備えています(どちらか一方だけではダメ).

  1. 非競合性:複数の人が同時に消費しても,その財の価値が低下しないような性質を持つこと.(例:講義,ラジオの放送,国道など)
  2. 非排除性:特定の個人の利用を排除できないこと.つまりどんな人でも利用できること(しかもタダで).(例:公園,灯台の光,警察など)

 公共財はこのような特徴を備えています.逆にこの2つの特徴をどちらも備えていない財(つまり競合性と排除性を持つ財)は私的財と呼ばれ,どちらか一方だけ持つ財は準公共財と呼ばれます.

 これまで説明してきたように公共財はタダ乗りされてしまうため,営利目的である企業によって生産されることはまずありません.しかし道路や公園,警察などは我々の生活に必要不可欠です.そのため,私企業に代わって政府がこれらの財を供給します.そのため公共財と呼ばれるのです.

 公共財についてのもう1つの問題は,どれだけ生産するべきかわからない点です.私的財であれば,市場により自動的に生産すべき量や価格が決まってくるので問題ありませんが,公共財は市場で取引されないため,生産者である政府には,消費者がどれだけ必要としているか,またどれだけお金を負担して良いと考えているかがわかりません.そのため不必要な道路などの公共工事が行われることになる(あるいは必要な道路が建設されない)という問題を引き起こします.

 じゃあどうすればよいか,という話もしましたが,現実にできるかと言うとなかなか難しそうですね….

2009年6月27日土曜日

経済学A 第11回

 今回はグローバリゼーションでした.個人的には,皆さんが将来を考える上で非常に重要なテーマだと思っていますが,それが伝わったでしょうか?

【授業の内容】
 まず前回の補足として,比較生産費説で考えると世界中の国が自由貿易をするべきのように思えるのに,どうして自由貿易が実現しないのかを考えました.自由貿易は,比較劣位にある産業を縮小させます.縮小とは現実経済では,倒産,解雇など様々な痛みを伴うので,当然ながら反対する勢力が出てきます.
 また,かつての日本の自動車産業のように,今は比較劣位にあっても今後は成長が見込める産業を政府が保護することで,比較優位を持つまでに育つ場合もあります.つまり比較優位・比較劣位は固定したものではなく,政策,あるいは民間企業の創意工夫,世界的潮流の変化など様々な要因により変化しうるのです.
 保護貿易をするための手段としては,輸入品に対する関税や,保護したい産業への補助金の交付という例が多いですが,その他にも輸入数量制限などもあります.

 しかし,自由貿易が(個別の産業はともかく)国全体にとって良い影響を持つことは明らかなので,現在では各国が自由貿易に関する協定を他国と結ぼうと積極的に動いています.自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)はしばしばニュースでも採りあげられます.最近は日本とインドネシアのEPAの結果としてインドネシア人の看護師,介護士を受け入れたことは話題になりました.これも言い換えれば,看護サービスや介護サービスの分野において,日本はインドネシアに比べ比較劣位にあるからこそ,日本は看護・介護サービスを輸入することになりました(逆に日本人がインドネシアで介護・看護をするケースはほとんどないでしょう).
 
 さて,本題のグローバル化ですが,授業ではいくつかの具体例を紹介しました.ここではそれらの具体例から見えてくる,一般的な法則を考えてみます.
仕事(産業)は,それを実現できる国のうち,より賃金の安い国へと移動する.
 かつてイギリスでは繊維産業を中心とする産業革命が起きました.イギリスは繊維産業においてもっとも効率良く生産できる国でした.しかし,繊維産業の中心は,イギリスから(当時は)賃金の安かった日本へと移り,さらに賃金の安い中国へ,そして(今後はおそらく)ベトナムやカンボジアなどの低所得国へと移動します.自動車についてもかつてはイギリス,アメリカが中心で,現在は日本が比較優位を持っているようですが,今後は中国やインドなどのより賃金の安い国へと移りそうです.
 このことは結果として,
どこでも,だれでもできる仕事の賃金は下がり続ける.
 ということが推測できます.言い換えれば,今後も高い賃金を得ようと思えば,少数の人しかできない,もしくはできる場所が限定される仕事を選ばなければならないことがわかります.
 世界的に見ると大卒の人口というのは少数派です.そう考えると,大学で専門的な知識を身につけることは,グローバル化する世界では重要です.
・グローバル化は止められない.
 まず間違いなくグローバル化の流れは止められません.皆さんは様々な側面で外国の人々と交流する場面はふえるでしょうし,また競争する場面も増えるでしょう.
・グローバル化は必ずしも先進国(日本)にとって悪いことではない.
 授業では日本人の賃金はこれから途上国と比べると相対的に安くなると言いました.途上国の人々が日本人と同じ仕事を安くできるのであれば,企業は必ずしも日本人を雇うとは限りません.
 しかし,グローバル化は外国人の流入・仕事の流出を引き起こすだけでなく,日本人・日本の企業が外国に進出するためのハードルを下げてくれます.今後人口が減少していくと予測される日本だけで満足するのではなく,世界に打って出ようという企業は沢山あります.先日(2009/6/25)の日経新聞の第一面にも,ユニクロやファミリーマートなど生活関連の大手企業がアジアへの出店を増やし,近い将来,国内よりも国外の売上や店舗数を増やす予定であることが紹介されていました.
 世界に出て挑戦しようという意欲のある人にとっては,グローバル化はチャンスを増やしてくれます.

 以下は,ぜひ今のうちに読んでほしい本のリストです.
トーマス・フリードマン(2006)「フラット化する世界」日本経済新聞社
ドン・タプスコット,アンソニー・ウィリアムズ(2007)「ウィキノミクス」日経BP社

2009年6月21日日曜日

開発経済学 第10回

 今回は国際的な援助についてでした.といっても前回,ODAのうち主に二国間援助を説明したので,それを除く国際的な援助について説明しました.

【授業の内容】
 まず国際援助の実施機関の区分からです.国連(とそのグループ)を始めとする国際機関,二国間援助,そしてNGOです.それぞれ,異なる長所と短所を持っており,互いに補完する性質を持っていると言えるでしょう.
 機関の名前だけ聞いていてもイメージがわかないので,実際にUNHCRで働く日本人の映像をみてもらいました.過酷な現場ですが,笑顔が印象的でしたね.

 援助の現場にいるのは国際機関だけではありません.NGO(NPO)の存在感は年々大きくなっています.NGOは資金・人材が限定されるという欠点もありますが,柔軟できめ細かい援助ができるという利点もあります.

 さて,援助の方法ですが,授業では,次の2つに分類しました.
・資金,物資の援助
・指導
 前者はすぐにイメージできますが,後者はなかなかイメージしにくいでしょう.授業では1980年代にIMFや世銀が行った構造調整を採り上げ,その結果について照会しました.
 それも含め,援助についての理論として,マクロ・ミクロの両面から説明しました.マクロとしてはTwo-Gapモデルの説明と,その評価について,そして構造調整に関して途上国に突きつけられた条件(Conditionality)を具体的にみていきました.

 対するミクロ面として,参加型開発について説明しました.参加型開発は,調査にかかるコストの増加や受益者による利益誘導の恐れというデメリットがありますが,それをカバーする様々なメリットを持っています.

 さて,援助について2回に渡ってみてきましたが,BurnsideとDollarは「受け入れ国のガバナンスが良好である場合にのみ,援助は有効に働き,経済成長に寄与する」という研究を発表しました.これまでもガバナンスという言葉がちょこちょこでてきていたのですが,次週はガバナンスとは何かについて講義したいと思います.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第10回

 今回は価格決定理論です.今回から,ここまでの知識を使って経済全体を見ていきます.

【授業の内容】

 価格決定理論とは,どのようにして財の価格が決定するのかを説明するモノです. まずワルラス型価格調整メカニズムを説明しました.ワルラス型は,まず価格ありき,です.企業が価格を決定し,それに応じて需要あるいは供給が決定するというものです.その際,需要より供給の方が多い場合(超過供給)は価格が下がり,逆に需要の方が多ければ(超過需要)価格は上がります.需要曲線と供給曲線が具体的な関数として与えられれば(授業では直線にしました),ある価格の下で,どれだけ超過需要,もしくは超過供給が発生しているかを計算できます.また,均衡において価格と量がそれぞれいくらになるかも計算できます.授業ではこの計算はちょっと説明を省いてしまいましたので,授業の後に質問も出ました.たしかに経済学として考えると,均衡はどこかはわかりづらかったかもしれませんが,数学的に見ると直線と直線の交点に過ぎないことに気づくと思います.今後も数学的な表現を経済学的に解釈すること,そして経済学的表現を数学的に理解すること,この両方が必要となってきますし,その作業は理解を助けてくれるはずです.

 通常の右上がりの供給曲線と右下がりの需要曲線であれば,価格の初期値がどこであっても,試行錯誤を繰り返して,最終的には必ず需要と供給が等しい点(均衡)に行き着きます.このような動きは安定的である(あるいは収束する)と言います.

 ワルラス型に対して,マーシャル型価格調整メカニズムというものもあります.こちらは,まず生産量ありき,です.企業が生産量を決め,それに対応する供給価格(売りたいと思う値段)と需要価格(買いたいと思う価格)が決まります.供給価格より需要価格の方が高ければ(超過需要価格),企業は生産量を増やします.逆に供給価格の方が高ければ生産量は減少します.

 マーシャル型の場合も最終的には需要価格と供給価格が等しい均衡に無かって安定的に収束します. 皆さんが普段目にする値段で,おそらく一番値動きが激しい財は野菜ではないでしょうか.特に葉物(キャベツや白菜など)は安いときと高いときの差が激しいような気がしませんか?

 このように価格が安定的に収束せず,乱高下を繰り返す財の価格を説明する理論として,クモの巣理論があります.これは,完成までに時間がかかり,かつ保存ができない財(まさに野菜ですね)の価格を説明するものです.図を使って説明しましたが,ポイントは,その財の価格が提示されてから生産者は生産量を決定しますが,生産までに時間がかかるため,できあがったときの価格は想定した価格とは異なるという点です.クモの巣理論は需要・供給価格のほんのわずかな傾きの違いにより収束したり,発散したりとなかなか微妙な代物です.結論としては,需要曲線の傾きの絶対値が,供給曲線の傾きの絶対値よりも小さければ収束しますが,逆であれば発散しました.

 なお,最後に発展的な内容として,ギッフェン財の需要曲線を考えてみました.通常の需要曲線とは異なりギッフェン財の場合は右上がりの需要曲線になります.このように需要も右上がり,供給も右上がりという珍しいケースでは,ワルラス型とマーシャル型で結果に差が出てきます.

2009年6月20日土曜日

経済政策論 第10回

 今回から新しいトピック「少子化」です.

【授業の内容】
 まず少子化とは何かを理解するため,合計特殊出生率の定義を説明し,様々なデータを紹介しました.時系列から見ると日本の出生率がずいぶん下がってきたことがわかりました.また横断面で見ると,同じ日本でも都道府県によってずいぶん出生率に違いがあることがわかりました.
 続いて,少子化のメリットとデメリットを説明しました.デメリットは以前に健康保険の回に確認しましたが,なんと言っても社会保障制度に悪影響があるからです.

 さあ,ではなぜ日本は少子化しているのでしょう.突然の質問でしたが,晩婚化と核家族化を少子化の原因として答えてくれました.晩婚化(非婚化)は,結婚がほぼ出産の前提条件となっている日本では重要な要因です.また核家族化は子育て環境の悪化を示すものととらえることができます.
 さらに,晩婚化(非婚化)と核家族化が進んだ原因について考えてみました.前者については高学歴化による女性の社会進出,結婚相手に求める条件が高くなった,周りからのプレッシャーが小さくなったなどが挙げられ,後者については社会保障制度の充実,職業選択の多様化などが挙げられました.

 今回すでに,かなり少子化の原因について突っ込んだ話ができました.次回は,晩婚化対策の現状,子育て・出産環境の現状について調べてきてもらい,できればオリジナルの解決策を発表してもらおうと思います.

経済学Ⅱ 第10回

 今回は余剰分析でした.

【授業の内容】
 余剰分析は,ある変化が国全体にとって望ましいものであるかどうかについて判断するための材料を与えてくれます.
 まず消費者余剰と生産者余剰から説明しました.それぞれが大きくなればなるほど,消費者にとって,生産者にとって望ましい状況です.またその2つを合わせたものを社会的余剰と呼びました.この大きさで,社会全体にとって望ましい変化であるかどうかを判断します.

 厚生経済学の第一基本定理より,競争的な市場で価格と生産量が決まれば,社会的余剰が最大になることがわかりました.では,そうじゃない場合(社会的に望ましくない場合)とはどんな状況なのでしょう?

 例として,数量制限をした場合,価格制限をした場合,課税をした場合を考えました.それぞれ,競争的な市場で価格が決まる場合に比べ,社会的余剰が小さくなることが図から理解できました.
 タバコやお酒などには税金が課せられていますが,余剰分析からすると望ましいことではありません.しかし,税金を課すことでそれぞれの消費が減少するため,社会的余剰以外の何らかのメリットがあると考えられます.

経済学A 第10回

 今回は貿易とグローバリゼーションの予定でしたが,ほとんど貿易の話になりました.

【授業の内容】
 今回考えてもらったのは,グローバル化は悪いのか?貿易は何をもたらすのか?ということです.先進国が集まる国際的な会議で反グローバルを主張するデモが起きるのは珍しいことではありません.グローバル化に反対している人々はなぜ反対しているのでしょうか?

 まず,貿易とはどんな性質の取引なのか,絶対優位,比較優位という言葉と共に学びました.リカードの比較生産費説からわかることは,どんな国であっても,比較優位にある財に特化し,それを輸出することで豊かになれる可能性があるということです.つまり貿易は他の国を打ち負かしてその富を奪い取るものではなく,他国と自国が共に豊かになれるものなのです.
 皆さんの直感的な予想とは異なり,貿易することで両国とも豊かになれるというこの結論は非常に力強いものです.貿易を通じてWin-Win関係が築けるのであれば,どの国もどんどん貿易をすれば良いはずですが,現実には自由な貿易を妨げる様々な障壁があります.その理由は何なのでしょう?次週はそこからスタートして,グローバル化についてもっと深く学びましょう.

2009年6月13日土曜日

開発経済学 第9回

 今回はODAでした.

【授業の内容】
 ODAとは政府開発援助です.ODAについては悪いイメージが先行しているかもしれませんが,実際はどういうもので,どういう目的のために行われているのか見てみましょう.

 ODAとは次の3条件を満たしたものです.

  • 政府ないしは政府の実施機関によって供与されたもの
  • 途上国の経済開発や福祉向上への寄付を目的として供与される資金
  • 借款はグラントエレメント比が25%以上のもの

(斜線部分は外務省ウェブサイトよりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/nyumon/oda.html

 簡単に言うと政府が他国に対して行う援助のことと考えて良いでしょう.しかし,なぜ援助をするのでしょうか?日本も財政的にはかなり厳しいはずですが….その理由は利他的と利己的の2つに大別できます.

 まず利他的な理由ですが,地球に住む人間に課せられた所得税のようなものと考えれば良いでしょう.豊かな人が所得の一部を提供することで,貧しい人々の生活を大きく改善することができます.また,人道的な立場からも,貧困に苦しんでいる人を助けるべきだと言う人もいるでしょう.僕もどちらかというとこの立場です.ちょっとしたきっかけで貧しい人々の生活が大きく変わる様子は前回のマイクロファイナンスの講義でもわかったと思います.しかし,政府関係者はこういった主張をあまりしません.「皆さんのお金で見返りを求めず援助しました」とはやっぱり言いにくいと思います.「そんな金があるなら税金安くしろ!」という人もいるでしょうからね.

 というわけで,もう1つの理由が必要となるわけです.利己的な理由としては,ODAで恩を売っておけば何らかの見返りが期待できる,というものがあります.特に日本は原油という天然資源を持たない国なので,安定的なエネルギー供給のために,ODAが間接的に役立っていると言えるでしょう.また,国際舞台での発言力が増すということも考えられます.軍事力を行使して紛争解決することができない日本にとってODAは国際的な存在感を高めるために必要と言えるかもしれません.

 この他,グラントエレメント比,ODAの内訳,日本のODAの特徴などを説明しました.

 MDGsを達成するために必要な金額は約2000億ドルとも言われますが,モントレー合意に基づきDACドナー諸国がGNPの0.7%をODAとして拠出するという約束を守れば平均して2350億ドルが拠出できます.つまりMDGsは決して実現不可能ではない,と主張されています.(その試算が正しいとすれば)後は0.7%を拠出するだけですが,日本のODAは0.7%にはほど遠いのが現状です.政府はODAの額を増やすことができるでしょうか?

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第9回

 今回は企業行動のまとめです.

【授業の内容】
 前回に引き続き,企業行動,特に費用に注目しています.今回新しく,平均総費用(ATC)と平均可変費用(AVC)という2つの費用が出てきました.この2つは,限界費用と共に図示することで,様々なことが直感的に理解できるようになります.
 平均総費用は,生産には様々な費用がかかりますが,それらをトータルして,生産量1個あたりにはどれだけの費用がかかっているかを示すものです.そのため,これより価格が高ければ最終的に黒字になるし,逆であれば赤字になる,という目安になるものです.企業は(当たり前ですが)財が高く売れれば儲かるし,安くしか売れないのであれば赤字になるでしょう.そしてそこには,ここより高く売れれば黒字,そうでなければ赤字という境界線があるはずです.それは損益分岐点と呼ばれ,限界費用と平均総費用が交わる点の価格です.
 平均可変費用は,生産量1個あたりにどれだけの可変費用がかかっているかを示すものです.つまり生産したことで発生した費用(これが可変費用ですね)を生産量で割ったものです.平均可変費用が価格よりも低ければ,生産した財1個当たりから得られるお金(価格)の方が,財1個あたりの,生産したことにより発生した費用より高いので,生産しないよりした方が良いことがわかります.ここでも,これ以上の価格で売れるなら生産した方が良いが,そうでなければ生産を停止すべきという境界となる価格があり,それは操業停止点と呼ばれます.図では,限界費用と平均可変費用の交わる点の価格として表されました.
 操業停止点についてはちょっとわかりにくいので,異なる説明をしましょう.総費用は可変費用と固定費用からなります.固定費用は生産しようとしまいと,最初から固定です.親の残した借金のようなものと考えれば良いでしょう(ただし相続放棄はできない).その借金(費用)は仕方ないものとして,ではこれから生産すべきか生産すべきでないかを考えましょう.生産すると,その財を販売することで収入が得られます.これが生産のメリットです.一方で生産することで様々なコストが発生します.これが可変費用です.まとめてみましょう.

生産するメリット:収入(R)が生まれる
生産するデメリット:可変費用(VC)が生まれる

 このメリットとデメリットのどちらが大きいかで生産するかどうかを決定します.収入の方が可変費用より大きいのであれば(R>VC)生産します.この式を両辺ともに生産量(x)で割ってみましょう.左辺のRはR=P×xなのでxで割ればPが残ります.右辺をxで割ってみるとAVCが出てきます.つまりR>VCとはP>AVCと同じものなのです.
 そのため価格が平均可変費用よりも高ければ生産すべきだし,逆であれば生産を停止します.このように,操業停止点というものがあり,その右上の限界費用曲線を見れば,価格がいくらであればどれだけ生産すべきかがわかります.これは企業の供給曲線そのものです.
 この範囲の例題はたくさん配ったのできっちりとやっておきましょう.ワンパターンだから覚えることはそんなに多くありません.

 これまでの範囲はすべて短期における企業について見てきました.最後に,長期の場合の生産についても確認しました.

経済政策論 第9回

 今回は観光の3回目です.

【授業の内容】
 前回の課題として,徳島県によるネットでの広報活動の改善点,観光客の視点で徳島2泊3日のプランを考える,軽井沢の魅力とは何か,の3つを発表してもらいました.

 県のサイトとして阿波ナビがありました.これについては,写真や説明が少ない,動画があるが目玉になっていない,などの意見がありました.僕としては,実際に観光した人の口コミが書き込めるようなシステムになっていれば,情報が常にアップデートされるし,情報量も増えるし,もっと魅力的になると感じました.またグルメ情報が少ないこともマイナス点です.じゃらんやるるぶといった民間企業の観光客向けサイトではグルメ情報が充実しています.民間企業のように,もっと観光客の視点に立つことが必要でしょう.

 2泊3日のプランは魅力的で,実際に行ってみたいと思わせるものでした.しかし,マイカーを利用したものであり,公共交通機関を使うと,このプランの半分ぐらいしか実現できないんだろうなと感じました.

 最後の課題は,軽井沢の魅力の秘密を探ろうというものでした.たくさん挙がりましたが,真似できるものもあればできないものもありました.

 さて,次週は実際に知事宛ての提言にできるように,徳島の観光の問題点・解決策について文章をまとめてきてもらいます.県のサイトを見てみると1000字までの投稿ができるようですね.

経済学Ⅱ 第9回

 今回は価格決定理論です.今回から,ここまでの知識を使って経済全体を見ていきます.

【授業の内容】
 価格決定理論とは,どのようにして財の価格が決定するのかを説明するモノです.

 まずワルラス型価格調整メカニズムを説明しました.ワルラス型は,まず価格ありき,です.企業が価格を決定し,それに応じて需要あるいは供給が決定するというものです.その際,需要より供給の方が多い場合(超過供給)は価格が下がり,逆に需要の方が多ければ(超過需要)価格は上がります.
 通常の右上がりの供給曲線と右下がりの需要曲線であれば,価格の初期値がどこであっても,試行錯誤を繰り返して,最終的には必ず需要と供給が等しい点(均衡)に行き着きます.このような動きは安定的である(あるいは収束する)と言います.

 ワルラス型に対して,マーシャル型価格調整メカニズムというものもあります.こちらは,まず生産量ありき,です.企業が生産量を決め,それに対応する供給価格(売りたいと思う値段)と需要価格(買いたいと思う価格)が決まります.供給価格より需要価格の方が高ければ(超過需要価格),企業は生産量を増やします.逆に供給価格の方が高ければ生産量は減少します.
 マーシャル型の場合も最終的には需要価格と供給価格が等しい均衡に無かって安定的に収束します.

 皆さんが普段目にする値段で,おそらく一番値動きが激しい財は野菜ではないでしょうか.特に葉物(キャベツや白菜など)は安いときと高いときの差が激しいような気がしませんか?
 このように価格が安定的に収束せず,乱高下を繰り返す財の価格を説明する理論として,クモの巣理論があります.これは,完成までに時間がかかり,かつ保存ができない財(まさに野菜ですね)の価格を説明するものです.図を使って説明しましたが,ポイントは,その財の価格が提示されてから生産者は生産量を決定しますが,生産までに時間がかかるため,できあがったときの価格は想定した価格とは異なるという点です.クモの巣理論は需要・供給価格のほんのわずかな傾きの違いにより収束したり,発散したりとなかなか微妙な代物です.

経済学A 第9回

 今回は為替について説明しました.

【授業の内容】
 円高・円安という言葉はよく聞きますが,直感的に分かりづらいので,あやふやに理解している人もいると思います.今回は為替についてじっくり説明しました.
 円高・円安という言葉は,他の通貨(米ドルやユーロなど)と比較して円の価値が高くなった・安くなったという意味です.そのため円高とは(米ドルで言えば)ドル安を意味しており,円安はドル高を意味します.1ドル=100円という交換比率は1ドルというモノを買うために何円が必要なのか,と考えれば,1ドル=80円がドル安(つまり円高)を意味しており,1ドル=120円がドル高(円安)を意味しているとわかると思います.

 さて,世間では「円高=悪いこと」のような風潮がありますが,果たしてなぜ悪いのでしょう?そもそも本当に悪いことなのでしょうか?授業では具体的な商品(財)を想定して,日米での貿易の数値例を見てみました.そこから,円高になるとアメリカでは日本からの輸入品が高くなるので,日本の輸出企業にとっては困ったことになります.実際に大企業の多くは想定為替レートを設定しており,1円の円高・円安がどれだけ利益に影響を与えるかを事前に計算しています.海外依存度が高い企業にとって円高というのは非常に大きな問題です.
 このように輸出企業にとって円高は迷惑ですが,日本全体にとっても困ったことかと言うと一概には言えません.逆に,海外から輸入して,それを国内で販売する輸入企業にとっては円高は,海外の商品を安く買うことができるため有利です.例えば日本マクドナルドのように世界中から材料を買い付けている企業にとっては円高になればなるほどありがたいでしょう.また我々消費者にとっても円高はメリットの方が多いはずです.例えばガソリンの日本国内での価格は(世界市場の相場が一定であるとすれば)円高になれば安くなるはずです.その他,我々は海外からの輸入品に囲まれているので,生活はしやすくなるでしょうね.

 為替相場は変動するために,(我々もそうですが)企業は大きく影響されてしまいます.この為替相場は一体どこで決まっているのでしょう?株価は株式市場で決まっていますが,為替はどこで取引されているのでしょうか?我々には馴染みがありませんが,主に短資会社の仲介により銀行間で取引されているようです.そこで円を売りたい人より買いたい人の方が多ければ円高になりますし,逆であれば円安になります.以前に学んだように,価格は(為替の場合も)需要と供給のバランスにより決まります.このように為替が変動することに目をつけ,安く買って高く売る(裁定取引と言います)ことで儲けようという人もいます.近年,日本では普通の人がFXという外貨取引にお金をつぎ込むケースが増えているようです.FXは少ない元手で大金を手に入れられるというイメージですが,大金を手に入れられる(ハイ・リターン)であるということは,大金を失う可能性もある(ハイ・リスク)であるということです.普通の金融商品(銀行預金,国債,株式,投資信託)と違って怖いところは,元本が保証されないだけでなく,元本をすべて失って,さらに借金まで背負う可能性がある点です.一般の人が巨額の脱税をしたり,またとんでもない借金を背負うケースが出てきたために,現在,政府はレバレッジの規制を健闘しているところです.
 FXよりはリスクの少ない金融商品として,外貨預金も説明しました.預金というと安全なイメージですが,実際には外貨預金は元本は保証されず,預金と言うより株式投資に近いと考えて良いでしょう.

 最後に様々な為替制度を紹介しました.普段は為替と言えば,変動相場制度(為替レートが刻々と変わる)が当たり前と考えがちですが,実は変動相場制以外の制度を採る国の方が多いのです.特に(経済力が)小さな通貨は固定相場制やペッグ制により,為替の変動を防いでいます.

2009年6月5日金曜日

開発経済学 第8回

 今日はマイクロファイナンスについてでした.

【授業の内容】
 ちょうど昨日NHKでムハマド・ユヌス氏によるソーシャル・ビジネスについての番組を放送していたので,その一部を見ました.グラミン銀行についてだけでなく,グラミン・ダノンやグラミン病院などの事業について紹介していました.
 それを参考に,マイクロファイナンスとは何なのか,既存の金融機関とは何が違うのかを説明しました.ユヌス氏は海外留学から帰国し,母国バングラデシュで貧困層が貧しさから抜け出せない原因を探ります.その過程で,ほんのわずかなお金がないために,高利貸しから借りざるを得ず,商売の利益のほとんどが利子の支払いになってしまうケースに出くわします.それがきっかけとなり,グラミン銀行が設立されます.マイクロファイナンスは今では世界中に普及し,貧困撲滅の一助となっています.

  グラミン銀行の特徴として,融資額が小さい,金利が(我々が考えるほど)低くない,返済率が高い,などがあります.グラミン銀行が成功した背景には,いかに返済させるか,どうやって(貧しい人々に)お金を稼がせるか,についての数々の工夫が存在します.単なる無担保融資では,返済するつもりのない人に貸すことになりかねませんもんね(実際に日本でもそんなケースがありますよね…).

 一部にはグラミン銀行に対する批判もあります.中には明らかな誤解や言いがかりのようなものもあります.連帯保証制に対する批判(最貧層が排除されている)もありましたが,連帯保証制は必ずしも高い返済率の必要条件ではないということがわかってきたため,最近は廃止になったという話も聞いています.

 グラミン銀行は興味を持ってくれるかなぁと思ったのですが,そうでもないみたいですねぇ….

 なお,第2回レポートの提出期限は6月25日20:00へと1週間延びました.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第8回

 今回も企業行動です.

【授業の内容】
 前回から引き続き企業の費用,収入,利潤などを見ています.今回は大企業において,生産量の変化と収入,費用,利潤の変化を中心に見ていきました.

 具体的な数値を基にわかったことは,価格と限界費用の大小関係により利潤が変化するということです.価格より限界費用の方が低ければ,その財を追加生産することで,価格と限界費用の差額が利潤として加算されます.逆に価格より限界費用の方が高ければ,追加生産により利潤は減ってしまいます.
 つまり価格と限界費用が等しくなるように生産することで利潤を最大化できることがわかりました.

 また,それを数式を用いて計算しました.総費用関数と財の価格が与えられたとき,次のことがわかるはずです.
・固定費用と可変費用
・最適な生産量
・その時の収入と総費用
・利潤
 これらの計算は必ず期末試験に出てくるので,来週までに必ず復習しましょう.

経済政策論 第8回

 今回も観光についてです.その中でも徳島の観光に焦点を合わせました.

【授業の内容】
 前回確認したとおり,徳島は観光客の少ない県です.いろいろ見所はあると思うのですがなぜなんでしょう?

・阿波踊り以外の目玉は?
 徳島の観光と言えば阿波踊りですが,阿波踊りは時期が限定されるため,観光客の増加はこれ以上望めません.その時期だけ客が多いからといって客室数を増やすことができないからです.やり方によっては日帰り客を増やせるかもしれませんが,日帰り客は相対的にあまり消費しないので,経済規模は小さいです.
 というわけで,阿波踊り以外の観光の目玉を考えてもらいました.すでに観光客が多いものとしては,渦の道やかずら橋が,またそれ以外にも,うだつの町並み,モラスコむぎ,三好ほたる館などが挙がりました.

・海外からの観光客をどうやって増やすか?
 日本に来る海外からの観光客の0.3%しか徳島に来ない,というデータがありましたが,逆に言えば,まだまだ増やせる余地がありそうです.徳島に来る観光客の国籍別では他の四国3県と異なり,もっとも多いのがアメリカ人でした.調べてみると,Alex Kerr氏の影響かも,ということでした.Chi-Ioriを目的に来る人もいるそうですが,徳島県民のどれだけが篪庵を知っているでしょうか?徳島県外(あるいは日本国外)から徳島がどのように見えるかは,徳島で生まれ育った人だけで考えてもわかりづらそうです.
 観光客を増やす案として,交通網の改善とネットによる情報発信が挙げられましたが,交通網の改善は厳しそうです.一方,ネットによる情報発信はコストパフォーマンスが良さそうです.英語で徳島について検索してもあまり便利な情報は出てきませんでした.

3.徳島のエコツアー
 これについては,吉野川のラフティングと日和佐のシーカヤックぐらいしか出てきませんでした.

4.長野県の観光客はなぜ多いのか?
 長野県のことを知らない我々から見ると,失礼ながらどうして長野県にそんなに多くの観光客が訪れるのかわかりませんでした.徳島にとってのヒントになるかと思い,その謎を調べました.
 意見として挙がったのは,3大都市圏のいずれからもそれなりに近い,山岳・温泉・スキーなどの観光資源があるということでした.また長野県の観光統計を見ると,軽井沢高原の宿泊客が多いこともわかりました.僕は軽井沢に行ったことがありませんが,どんな魅力があるのでしょうか?

 今回はいろいろなことがわかりました.次週は次のことについて調べてきてもらいます.
・徳島県によるネットでの広報活動の改善点
・観光客の視点で徳島2泊3日のプランを考える(公共交通機関を使う)
・軽井沢の魅力とは何か
 また,それらを通じて,どうすれば徳島の観光客が増えるか考えてください.

経済学Ⅱ 第8回

 今回は生産者理論のまとめでした.

【授業の内容】
 これまで,企業の費用について調べることで,最適な生産量などがわかりました.今回も図を使って,最適な生産量,利潤や様々な費用を説明し,損益分岐点や操業停止点についても確認しました.
 また,そこから操業停止点を上回る限界費用曲線が,短期における企業の供給曲線であることがわかりました.

 これまで企業の短期(生産設備が一定である)における行動を学んできましたが,今回は長期についても説明しました.生産設備が変化すると(工場が大きくなったり,縮小したり),企業の費用曲線も変わってきます.講義では,生産設備の大きさを変えて,いくつかの限界費用を描き,それらのもっとも低いところを集めたものを長期における限界費用であると説明しました.

 今回は前回駆け足で説明したところの確認が中心だったので,新しく学んだことは少ないですが,重要な部分なので(当然テストも出します),きっちり確認しましょう.

 来週からは消費者と企業,双方の行動を考えます.

2009年6月4日木曜日

経済学A 第8回

 今回は,前回に引き続き株の話でした.

【授業の内容】
 前回は株について考えるための理論的基礎を説明し,今回はやや実践的な内容でした.まず,前回の講義の最後で話した,「毎年1万円もらえる魔法のカード」をいくらで買うかを考えてもらいました.実はこれを考えてもらったのは株価の分析方法の1つであるファンダメンタル分析を理解するためです.ファンダメンタル分析とは,将来受け取れるであろう配当の現在価値の合計が株価であるという考えです.そのため将来受け取れる配当が多くなると予想されれば株価は高くなります(魔法のカードで言えば,毎年もらえる額が増えれば,このカードの購入希望価格も上がるでしょう).また配当の現在価値であるので,利子率が関係することもわかります.
 結論としては,このファンダメンタル分析が重視するのは,その企業の将来の配当,そしてそれを決めるであろう,将来の利潤,売上げ,今後の新商品,研究開発など多岐にわたります.このため,ファンダメンタル分析で株価を予想しようと思えば,その企業について詳しくなることが第一条件です.
 一方,テクニカル分析という分析方法もあります.こちらはファンダメンタル分析とは異なり企業業績は重視せず,その企業の株価の過去の推移であるチャート図から,将来の値動きを予測するというものです.過去を見れば将来がわかる,というとなんとなくそれらしいですが,特に理論的な裏付けはありません.むしろ「こういう動きをした後は,こうなることが多かった」という経験則の集合体と言うべき分析方法です.この分析法のメリットとしては,なんと言っても「わかりやすく,とっつきやすい」ということでしょう.デメリットとしては,「テクニカル分析に従えば儲けられるという実証結果が得られていない」という点です.分かりやすく言うと,テクニカル分析の言うとおりに売買するのも,サイコロの出た目で適当に売買するのも似たようなもんだ,ということです.致命的ですね….つまり将来の予測には使い物がならないということです.しかし「テクニカル分析で儲けた」という人は後を絶ちません.実際,「テクニカル分析 万円稼いだ」というキーワードで検索するとたくさんヒットします.それもそのはず,株というものは全体の株価の平均が下がっているのでなければ,適当に買っても半分ぐらいの人は儲かるからです.そのためテクニカル分析で儲かった一握りの人が「テクニカル分析は正しい」というのでしょう.

 さて,株というのはリスクのあるものですが,そのリスクを減らすこともできます.リスクヘッジの例として,猛暑になるか冷夏になるかという気象リスクを考えてみました.猛暑になったら,自分が持っているすべての株が下がってしまった,というのではリスク対処になりません.猛暑の時,ある株は下がったが,あの株は上がった,となるような組合せをする必要があります.最大のリスクヘッジは分散投資です.ケインズは「卵は分けて持て」と言いました.ただし,分散投資をするとリスクが減る代わりにリターンも下がります.

 後半は,資産運用について説明しました.株を買うかどうかは,あくまで「(目的達成のために)他の手段に比べて優れているか?」を考えなければなりません.株より良い手段があれば株を買う必要はありません.他の資産運用手段にはどのようなものがあるのでしょう.授業で説明したのは次の通りです.

  • 銀行預金:リスクは低いが,リターンもかなり低い
  • 債券(国債,地方債など):国債はリスクはかなり低く,リターンは低いが銀行よりはマシ.定期預金のようなもの.
  • 投資信託:リスクは中程度,リターンも中程度.プロが運用するのでやや安心?ローリスク・ローリターンを目指すものから,ミドルリスク・ミドルリターンを目指すものなど様々.
  • FX(外国為替証拠金取引):かなりハイリスク・ハイリターン.普通の人は手を出すべきじゃないと(僕は)思います.
  • その他:金,RIET,様々なファンド

 上記のような金融商品の説明をしました.この中から自分の目的に合ったものを選びましょう.ただし,どんなに探しても「ローリスク・ハイリターン」な商品はありません.あるとすれば詐欺か,インサイダー取引(犯罪)でしょう.美味い話はなかなかありませんし,あったとしても普通の人である我々には回ってきません.あまり知らない人から「あなただけに教えるけど…」と言われても信じてはいけません.美味い話があれば,誰かが既に独り占めしているはずです.