2011年5月31日火曜日

経済学A 第7回(5/31)

今回のテーマは年金です.皆さんの人生で避けて通れない話題なので,きちんと理解しておきましょう.

【授業の内容】
 まず言っておきますが,この授業の目的は年金の具体的な話ではありません.「どんな年金に加入するのか?」,「いくら払うのか?」,「いつからもらえるか?」,「どれぐらいもらえるか?」という話は,社会に出ると知る機会はいくらでもあります.
 この授業ではむしろ大枠を理解してもらうことを目的としています.つまり「社会保障とは何か?」,「年金とはどのような制度なのか?」,「賦課方式と積立方式はどのように違うのか?」を理解することです.もちろん,20歳になると強制的に加入するシステムなので,直近の話として「在学中はどうするべきか?」については具体的に説明しましたね.

 まず社会保障とは何かですが,大雑把に言うと,困っている人を社会全体で助けるシステムと思って良いでしょう.年金もかつては存在しませんでした(全国民が年金に加入することになったのは1961年のことです).「それまでは老人は生きていけなかったのか?」というと,もちろんそんなことはなく,家族あるいは所属する共同体が老人を養っていました.しかし,近代になり核家族化が進み,一人暮らしの老人も増えてきました.そのため,年金などの公的な社会保障システムにより経済的・社会的弱者を救済する必要が出てきたのです.
 社会保障のやり方は2種類あります.保険的方法と扶助的方法です.年金は前者です.というのも,我々は「年金」と呼んでいますが,正確には「国民年金保険」と言います.この他,保険的方法による社会保障の例としては,健康保険,介護保険,失業保険などがあります.いずれも,保険料を支払った人だけが利用できます.つまり受益者負担なのです.一方の扶助的方法の例としては,児童福祉,生活保護,災害援助などがあります.こちらは保険料を支払う必要はなく,(救済すべき人であると認定されれば)誰もが利用できます.年金も社会保障の1つであると考えれば,扶助的方法,つまり保険料収入に頼らず,すべて税金から賄うべきであると考えることもできます.実際,消費税率を上げて社会保障のための目的税にすべきだという意見は以前からあります.

 このように年金保険とは,保険料(+国庫負担)として集めたお金を,高齢者に年金として給付する仕組みになっています.ただ,この保険料の徴収と給付のやり方は,2つのパターンに分けられます.1つは積立方式,もう1つは賦課方式です.
 積立方式とは,積立貯金のように,各自が保険料を将来の自分のために積み立て,老後に給付を受けるというものです.一方の賦課方式は,現役世代が払った保険料をその時代の高齢者にそのまま給付するというものです.
 前者は少子高齢化の影響を受けませんが,デメリットとしてインフレに弱いという特徴があります.わずかなインフレも年金のように,納付から給付まで長期に渡る場合では大きな影響を受けます.そのため積立方式はあまり年金向けとは言えません.また積立方式なら,政府に頼らずとも民間の金融機関で同じサービスを受けることができるので,わざわざ政府がやる必要性は少ないでしょう.
 後者の賦課方式は,インフレの影響を受けませんが,デメリットとして少子高齢化に弱いという特徴があります.そのため,現在の日本のように急速な少子高齢化が進む状況では,現役世代の負担を大きく,もしくは給付を少なくせざるをえません.

 後半は少しですが,具体的な話もしました.まず,年金は2階建てになっていることから説明しました.1階部分には誰もが加入しなければならない国民基礎年金部分があり,その上に,職業によって異なる2階部分の年金(厚生年金,共済年金,国民年金基金など)があります.
 1階部分は全国民が共通した条件ですが,2階部分は収入などにより保険料および受け取ることができる年金額も様々です.まぁこの辺りは就職してからしっかり聞いてください.

 最後に世代間不公平の話もしました,またその背景には,政治家にとって若者よりも高齢者向けの政策をしたほうが合理的であることも説明しました.高齢者に嫌われてでも若者向けの政策(あるいは世代間で公平な政策)を選ぶインセンティブが政治家にはありません.なぜなら若い人は人数としても比較的少ない上に,選挙にもあまり行かないからです.

 このように年金の仕組みを理解した上で,年金に入るべきかどうかを考えてみましょう.まだ判断できない,という人も,とりあえずは20歳になったら学生納付特例制度を使って,払う意思があることを示しておきましょう.実際に払うかどうかは,就職してからでも考えましょうね.

2011年5月29日日曜日

開発経済学 第7回(5/27)

 今回は人口の話でした.教室を変更してマイクが使えなくなったので僕はしんどいですが,グループディスカッションはしやすくなりましたね.来週以降もこちらでやりましょう.

【授業の内容】
 まず,みなさんに「なぜ途上国では出生率が高いのか?」を考えてもらいました.8チームそれぞれ様々な意見を出してくれましたね.

 続いて,課題で調べてきてもらった「マルサスの罠」と,マルサスの考えた人口増加についての理論を説明しました.マルサスの罠とは,食糧生産は算術級数的にしか増加しないが,人口は幾何級数的に増加するので,どんどん貧しくなるというものです.農業は収穫逓減産業であるため,農地が一定なら,子どもの数が増えれば,1人あたりの収穫量はどんどん減少してしまいます.

 長期と超長期における人口推移を見てみました.50年という長期でみても,人口はおよそ倍にまで増えています.しかし,過去数千年という時間軸で見てみると,人口はこのわずか数世紀の間に,まさに爆発的に増加していることがわかります.ここ数十年の人口増加については,前回学んだように緑の革命による食糧増加が実現できたので,飢餓に苦しむ割合は少なくなってきました.しかしこれからはどうなのでしょう?緑の革命がもう一度起きて,人口増加を上回るように食糧生産が増加するのでしょうか…?それとも人類は食糧をめぐって争いを始めるのでしょうか?
 そもそも人口爆発はなぜ起きたのか,講義では人口転換というものを紹介しました.人類誕生からつい最近まで,子どもがたくさん生まれるけれど,幼い内にたくさん亡くなってしまうという,高出生・高死亡の状況が続いてきましたが,16Cあたりから,食糧生産の増加に従って,国によっては高死亡から低死亡へと変わってきました.それにもかかわらず高出生であれば人口爆発が起きます.たくさん産まれた子供の多くが成人になり,次世代の親となりたくさん子どもを産むからです.途上国の中には,このような高出生・低死亡の状況にある国もありますが,現在の先進国の多くは,低出生・低死亡という新たなフェイズに入っています.日本,韓国,イタリアなどがその典型ですが,もはや超低出生というべき状況ですね.

 さて,出生率はどうやって決まるのでしょう.どんな場合に女性はたくさん子供を産み,どんな場合にはあまり産まないのでしょう.人口学の祖であるマルサスは2つの原理を唱えました.1つは増殖原理で,人間は大きな妨げがない限り子供を増やすものだ,と考えています.もう1つは規制原理,人口規模は生存資料(食糧など)によって制限されるというものです.つまり特に妨げさえなければ人間はどんどん増え続けると考えたのでした.しかし現実には,食糧に苦しむ貧困国で人口成長率が高い反面,食糧にあまり困らない先進国では出生率は低くなっています.マルサスはこのような未来を想像していなかったかもしれません.
 なぜ先進国では出生率が低いのか,説明する仮説をいくつか紹介しました.まずライベンシュタインの費用―便益仮説,つづいてベッカーの質・量モデルです.

 人口増加にはメリットがないわけではありませんが(クズネッツの才能原則,ボズラップの人口圧力),途上国にとってはデメリットの方が大きいと考えられがちです.そのため,中国は一人っ子政策という,究極の政策を実現しました.日本やアメリカと言った民主主義国ではとても実現できない政策ですね.中央集権的でトップダウンな中国ならではでしょう.一人っ子政策は人口増加を食い止めるという意味では大きな役割を果たしているのでしょうが,子供を何人産むかという完全にプライベートな決定に政府が介入することの弊害も大きいです.短期的には,「失われた女性」の問題があり,長期的には急速な高齢化により社会保障制度が揺らぐという問題があります.どちらも非常に深刻な問題である一方,一人っ子政策を採らなかった場合の中国は,今のような経済成長を達成できていなかったかもしれません.皆さんには,「自分が1979年時点で中国の全人代代表であるとすれば一人っ子政策を採るか?」ということをかなり時間を割いて話し合ってもらいました.

 さて,途上国ではどうして子供が多いのかについて,かつては貧しい人々は非計画的に子どもをつくるからという偏見もありましたが,現在は様々な研究から,子供の数を増やすことが合理的な選択であることがわかってきました.そのため政府には,強制的に子供の数を制限する政策ではなく,人々が子供の数を増やしすぎないようなインセンティブを高める政策が望ましいと考えられます.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第7回(5/27)

 今回はスルツキー分解です.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,ある財の価格が変化した時に,その財とそれ以外の財の消費量の変化を,相対価格の変化による効果と,実質所得の変化による効果に分解するものです.なかなかわかりにくいですね.

 具体的な話をしましょう.皆さんは毎月,バイトで稼いだお金で,ラーメン(1食700円)とお弁当(1食500円)を食べているとします.さて,このラーメンですが,6月から値上がりすることがわかりました.バイト代はいつもと同じだとすると,ラーメンとお弁当の消費量はどのように変化するでしょうか?
 まず,値上げのせいでラーメンの消費を減らし,相対的に安く感じるようになったお弁当の消費を増やそうという気持ちがあるはずです.この相対価格の変化による消費の変化を代替効果と呼びます.これだけだとお弁当の消費は増えることになりますね.しかし必ずしも増えるとは言えませんよね.なぜなら,ラーメンとお弁当がどんなタイプの財なのかわからないからです.

 ここで上級財と下級財,そして下級財の一種であるギッフェン財のことを復習しておきましょう.上級財とは,所得が増えることで消費が増える財のことで,贅沢品と考えて良いでしょう.一方,下級財は,所得が増えることで消費が減る財のことです.廉価品(安物)をイメージすると良いでしょう.
 さて,世の中にあるほとんどすべての財は価格が上がると消費が下がります.値上がりすれば買わなくなりますよね.対して,ギッフェン財は,価格が上がるとなぜか消費が増える財です.
 ここではラーメン,お弁当,ともに上級財であるとしておきましょう.

 話を戻します.来月もバイト代は変わりませんが,ラーメンが値上がりすることによって,皆さんの生活は厳しくなります.好きなラーメンをあまり食べられなくなるためです.また以前と同じようにラーメンを食べようとするとお弁当を以前ほど食べられなくなりますね.つまり,ラーメンの値上げによって,皆さんの実質的な所得は下がっているのです.
 この実質所得の減少により,上級財であるラーメン,お弁当をあまり買えなくなります.どちらの消費も下げなければ,という気持ちになるはずです.この気持ちを所得効果と呼びます.

 最終的な消費は,この代替効果と所得効果を合計したものになります.確認すると,ラーメンの消費は代替効果で下がり,所得効果でも下がるので,最終的に(実際の消費量は)下がることになります.一方,お弁当の消費は代替効果では上がりますが,所得効果ではラーメン同様に下がるので,実際の消費量はどうなるかわかりません.

 来週はこの話を予算線と無差別曲線を用いて再度説明します.こっちが理解しにくい(説明しにくい)んですよね.皆さんはしっかりテキストで復習してきてくださいね.

【今回出てきた重要語句】
スルツキー分解:価格の変化による消費の変化を,代替効果と所得効果に分解すること.

経済学A 第6回(5/24)

今回はガラリと雰囲気が変わってゲーム理論です.前回のアンケートでもっとも皆さんからの要望が多かったテーマです.もっと後でやろうかと思っていたのですが,最近真面目な話が続いていたし,一番人気だからどうせやるだろうから今回やりました.

【授業の内容】
 ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.
 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.この定義ではジャンケンもゲームですね.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.他のプレイヤーの利得は無視してください.相手よりどうすれば利得を高くできるか,という勝ち負けではないのです.

 最初のゲームとして,有名な「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,利得表を用いないホテリングゲームも解いてみました.これが回転寿司の出店のなぞに対する回答でした.もちろんホテリングゲームは物事をかなりしていますが,それでもそのエッセンスは現実の謎に対しても十分応用可能だと思います.

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2011年5月28日土曜日

開発経済学 第6回(5/20)

今回は工業化と貿易,特に輸入代替工業化政策と輸出指向工業化政策の違いについて説明しました.

【授業の内容】
 意識しなければなかなか気づきませんが,近年,各国はFTA呼ばれる自由貿易協定を競うように結んでいます.なぜ自由な貿易を目指すのでしょう?ミクロ経済学ベイシックではリカードの比較生産費説を学びましたが,どうやら理由はそれだけではないようです.

 第二次世界大戦後,独立したてのアジア諸国の多くはモノカルチャー経済というスタート地点から経済成長を目指しました.かつてはモノカルチャー経済から経済成長を進め,先進国へと仲間入りした国々もありましたが(アメリカやカナダなど),その当時と異なり合成品・代替品の発明により必ずしも特産品が国際市場で高く取引されるとは言えません.また先進国の保護貿易主義もあり,モノカルチャー経済を押し進めての経済成長は困難でした.
 いくつかの国々は保護貿易主義的な工業化である輸入代替工業化政策を採ることで,経済成長を目指しましたが,輸入代替工業化政策には思わぬデメリットがありました.保護貿易を採ることにより幼稚産業の育成を目指したのですが,為替を自国通貨高に誘導したことで輸出条件は悪化したため,国内で生産した財の販売先が国内市場に限定されます.ある程度の中流階層がおり,購買力のある国ならそれでも良いのかもしれませんが(現在の日本の携帯電話のように),当時のアジア諸国は貧しく,さらに貧富の差もあったため,国内市場だけを相手にして生産していたのではスケールメリットが生まれません.また輸入品をシャットアウトしていたため,海外の優れた財との競争も生まれませんでした.そのため,なかなか輸入代替工業化は進みませんでした.
 一方,シンガポール,韓国,台湾,香港などは,自由な貿易による輸出指向工業化政策を採りました.これらの国々が高い経済成長を成し遂げたことにより,その他の国々も多くは1980年代には輸出指向工業化政策へと転換しました.
 輸出指向工業化政策はどこが良かったのでしょうか?輸入代替とは逆に競争が促進されたことに加え,技術伝播による学習効果もあったと考えられます.
 技術移転に関連しては,ヴァーノンのプロダクト・ライフ・サイクル論も紹介しました.これは様々な財で実現していますね.日本もかつては繊維産業が隆盛を極めましたが,日本の前はイギリスでした.しかしイギリスが豊かになり労働者の賃金が高くなると,より賃金の低い日本へと生産の中心が移ってしまいました.しかし,日本も経済成長するに従って,安い賃金を売りにできなくなりました.より賃金の安い国(中国など)へと仕事を奪われました.そして中国の労働者の賃金が高くなると,さらに賃金の安い周辺国へと移っていくのは必然とも言えます.ちょうど前回の二重経済の所で,中国の余剰労働が枯渇してきて賃金が上昇してきた,という話と関係がありますね。

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第6回(5/20)

 今回は弾力性の説明が中心です.

【授業の内容】
 前回需要曲線の導出までやりました.この需要曲線の形状(傾き)にも意味があります.需要曲線が急である場合,価格が変化してもあまり需要が変化せず,逆に緩やかな場合,価格が変化すると需要は大きく変化します.
 皆さんの普段の生活でも,「価格が安くなればたくさん買うんだけどな」という財と,「安くなったけどそんなにたくさんいらないな」という財があると思います.前者のように価格の変化に対して敏感に需要が変化することを需要の価格弾力性が高い,後者のように価格の変化に対して需要が鈍感なことを需要の価格弾力性が低い,と言います.需要の価格弾力性は計算によって求めることができます.計算式はここでは書きにくいので省略しますが,その中身は,価格が1%変化したら需要は何%変化するかを示しています.弾力性が1より大きい場合は需要の価格弾力性が高いと言い,この場合は値下げをすることで企業は収入を増やすことができます.逆に1より小さい場合は弾力性が低いと言い,値上げすることで収入を増やすことができます(値上げしても買ってくれるので).

 さて,この弾力性の考えを応用すると,なぜ学割が存在するのかがわかってきます.弾力性の異なるグループを区別できれば,それぞれに異なる価格を設定することで,合計の収入を増やすことができるからです.その他の例として,ディズニーワールドの近隣住民割引などを説明しました.ホットペッパーなどで手に入る飲食店の割引券や,本のハードカバーと文庫の違いもそうですね.割引券を導入することで「こまめに切り抜いて使う価格に敏感な層」と「面倒だから使わない価格に鈍感な層」のそれぞれに事実上異なる価格を設定することに成功しています.この他にどんな例があるか考えてみてください.

 全く話は変わりますが,代替財と補完財の説明もしました.代替財は以前に説明したのですが,2財(AとB)を考えたとき,A財がB財の代わりになりうる場合,この組み合わせを代替財と呼びます.このような組み合わせの場合,無差別曲線は直線になります.
 一方,補完財とはA財とB財がそろって初めて効用を生み出すような組み合わせのことです.例えばブラックコーヒーが飲めない人にとってのコーヒーと砂糖がそうです.このような場合,無差別曲線はL字型になります.

【今回出てきた重要語句】
需要の価格弾力性:財の価格が1%変化したことで,その財の需要が何%変化するのかを示したもの.

経済学A 第5回(5/17)

 しばらく全然更新してませんでした.レポートの採点が忙しかったもので・・・.

【授業の内容】
 今回は名目値と実質値の違いです.まずはその前提となる物価について説明しました.

 「物価」とはよく聞く言葉ですが,厳密に言うと物価とは何でしょうか.物の価格が物価なのかもしれませんね.物の例として本を考えてみると,同じ本でも出版社が問屋に卸すときの値段,問屋が本屋に売るときの値段,そして私たちが本屋で買うときの値段と,同じ本に3つの異なる価格があります.物価の指標として最もよく使われる消費者物価指数(CPI)は最後の価格,つまり我々消費者が最終的に買うときの値段に注目しています.
 また,最近ガソリンが高いので物価は上がっていると言って良いのでしょうか.しかし薄型テレビは値下がりし続けていますね.我々が買う財(商品やサービス)はたくさん種類があるので,1つの財の価格だけを見ていてもわかりません.そのため,消費者物価指数では,平均的な家計が1ヶ月生活するのに必要な金額を計算することで,様々な財の価格を総合的に示しています.

 この物価ですが,横断面でも違いがあるし,時系列でも変化します.横断面とは,ある財の価格が,ある一時点に異なる地点でどのような違いがあるかをみたものです.時系列とは同じ財が同じ場所でどのように変化するのかをみるものです.授業では具体例をいくつか示しましたね.

 授業の後半は名目値と実質値の説明をしました.その例として所得,GDP,利子率などを取り上げました.
 所得については,皆さんがもらうバイト代,あるいは僕がもらう給与明細に書いてある金額は名目所得です.つまり名目所得とは世間一般でいう所得のことです.対して実質所得とは,名目所得から物価の変化を差し引いたものです.例えば,皆さんがもらうバイト代が一定なのに,そのバイト代で買う服が値下がりすれば実質的にはバイト代が増えたのと同じですね(より沢山の服が買えるようになったから).逆に値上がりすれば実質所得は下がることになります.
 GDPについては,以前にGDPの回に説明したものは正確には名目GDPです.ただし,名目GDPは必ずしもその国の生産力を示すものとは限りません.なぜなら生産力が同じでも物価が上がれば名目GDPは上がってしまうからです.そのため,物価が一定であるとしてGDPを計算したものが実質GDPです.
 最後の利子率ですが,利子率が3%なら預金の価値が1年間に3%上昇するとは限りません.なぜならその間に物価が上昇するかもしれないからです.例えば100万円が103万円に増えたとしても,その間に物価も3%増えれば預金の価値はまったく変化しません.物価がそれ以上に上がれば逆に預金の価値が下がることになってしまいます.そのため,銀行で提示される利子率(名目利子率)だけにとらわれるのではなく,それから物価の変化を差し引いた実質利子率に注意する必要があります.

 今回は最後にケータイを使ってアンケートをとりました.質問には今後の授業で答えていく予定です.

2011年5月15日日曜日

学生参加型授業についてのメモ その2:第2回

学生参加型授業についてのメモ その2:第2回

学生参加型授業についてのメモ その1の続きです.

 前回,「かなり厳しいレポートを課すので興味がなければ受講を取り消すように」ということを伝えた結果,当初登録していた学生の約2割が受講を取りやめ,残る約8割の42名が受講することになりました.
 今回は,前回の課題である小レポートを基に「貧困とは何か?」についての理解を深めました.

授業の概要
1.学生の意見の集約・グルーピング
2.レクチャー
3.グループ・ディスカッション①
4.レクチャー
5.グループ・ディスカッション②
6.レクチャー
7.グループ・ディスカッション③


1.学生の意見の集約・グルーピング
 まず,事前に学生が提出した課題の設問のうち,「貧困とは何か?」に記述されていた意見を,こちらでグルーピングしました.

 学生からの意見のうち,前回の授業で出た意見を黒字で,新たに出た意見を赤字で表しました.これにより,前回の内容を復習し,授業にスムースに集中することができたような気がします.

2.レクチャー
 「貧困とは何か?」について学生からは出なかった側面(ショックへの脆弱性)を指摘しました.ここでの結論として,「貧困は多面的なものである」ということを確認しました.

3.グループ・ディスカッション①「貧困を表す指標とは?」
 貧困が多面的なものであるということを踏まえた上で,「幅広い貧困をカバーできる指標を1つ選ぶなら何にするべきか?」について配布したプリントに記述させ,それを基に周りの学生と意見を集約させるように,そして約5分後にグループの意見を発表するように指示しました.ディスカッションに参加する学生としない学生に別れないよう,「前回発表していない人が発表してください」と伝えました.様々な意見を期待していたのではなく「結局,所得で測定することになるよね」という確認をしたかっただけなのであっさり終えました.実際,すべてのグループが所得やGDPなどを答えました.ここへの伏線として,第1回で「貧困状態にあるかどうかを所得で判断して良いか?」という質問をしておくと面白かったかも.

4.レクチャー
 GDPや所得を貧困の指標とすることが良いのか,ミュシャンのピストロジーの紹介や,実際に測定する時の問題点などを説明しました.さらに,貧困についての新たな視点として,センの潜在能力アプローチを紹介しました.

5.グループ・ディスカッション②「機能を示す指標とは?」
 ここで潜在能力アプローチにおける様々な「機能」を示す指標にはどのようなものがあるのか,話しあってもらいました.今回のディスカッションはすべてそれほど時間がかかるものではありません.10分弱話しあって,各グループに発表してもらいました.そこで発表された指標と,センが実際に挙げた機能のリストを比較しました.

6.グループ・ディスカッション③「どこからが貧困なのか?」
 便宜的に貧困を測る指標を所得とした上で,どこからが貧困なのかについて話し合ってもらいました.今度も10分程度は時間を掛けたかったのですが時間が足りなくなってしまいそうだったので,ちょっと早めに切り上げてしまいました.学生からの意見をまとめると,
・生活に必要最低限の金額
・他者との比較
に集約できました.

7.レクチャー
 こちらが期待した通りの意見が学生から出たので,Basic Human Needsや,絶対的貧困と相対的貧困の話にスムースにつなげることができました.
 最後に人間開発指数などの様々な指標を紹介して終りました.今回も課題として小レポートを提出するよう指示しました.

今回の結果
 「学生の満足度」と「議論の深さ」については,ほとんどの学生が積極的に議論に参加していましたが,グループ・ディスカッションが3つ,しかもそれぞれの時間が短かったため,学生にとっては不完全燃焼だったかもしれません.議論の深さについても,時間が長ければもっと良い議論になったはずです.
 反省点としては,昨年度と授業形式が違うにも関わらず講義内容をほぼ同じにしてしまったため,必然的に議論にかける時間が短くなってしまった点です.もっと思い切って講義内容を減らすべきでした.

2011年5月14日土曜日

開発経済学 第5回(5/13)

 最近は理論の話ばかりしてたので,今回はマイクロ・ファイナンスの話をしました.

【授業の内容】
 2006年にグラミン銀行とムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したので,今となっては割と有名となったマイクロ・ファイナンスの話です.

 前回の小レポートで「貧困がなくならない原因は何か?」という問いをだしたところ,何人かの人は貧困の悪循環について記述していました.今回のマイクロ・ファイナンスは貧困の悪循環を打破するための小さなお金を貧しい人に貸す仕組みです.岡本他(1999)によれば,マイクロ・ファイナンスは「貧困層や低所得層を対象とする小規模な金融」と定義されています.
 マイクロ・ファイナンスを行う機関はたくさんありますが,今回はその中でも最も有名なグラミン銀行とその創設者ムハマド・ユヌス氏を取り上げました.ユヌス氏は母国バングラデシュに帰国し,母国に貧困にあえいでいる人が多いことに胸を痛め,どうすれば人々を豊かにできるか考え,近隣の村に住む人々を調査しました.その結果,人々が大金ではなく,ちょっとしたお金に困っているために豊かになれないでいる(貧困の悪循環に捕らわれている)ことを突き止めました.そのため,まずは僅かな自己資金を人々に貸し付けたところ,人々の生活は大きく変化しました.この試みは徐々に規模を拡大し,グラミン銀行の設立へとつながります.

 「貧しい人に小さなお金を貸す」.たったこれだけで人々の生活は目に見えて向上するのです.さて,ではなぜそれまでにこのような仕組みは存在しなかったのでしょうか?まずは皆さんにこの問題を考えてもらいました.前回同様,学籍番号でグループを作り,グループ毎に意見を集約してもらいました.
 すべてのグループに共通する回答は「きちんと返済すると思えないから」というものでしたね.まさにこの常識(?)こそがマイクロ・ファイナンスがなかなか生まれなかった理由でしょうね.しかし,この常識は誤解でした.きちんと返すインセンティブを意識させることで,返済率は高くなりました.

 グラミン銀行の成功した理由は他にもあり,単なる金貸しではなく,人々にお金を稼ぐ手段を教え,生活そのものを改善しようとしたことも理由の1つです.その例としてグラミンフォンや,ユニクロ=グラミンを紹介しました.

 さて,ここでマイクロ・ファイナンスの問題点を考えてもらいました.皆さんからは,(16の決意のために)稼いだお金が消費や教育に消えてしまって貯蓄に回らない,金利が高いのでなかなか元本を返済できずグラミン銀行に依存してしまう,連帯保証制度,国民所得が上がることによるインフレ,マイクロ・ファイナンスの普及により貧困層が減少するので(借り手が減るため)ビジネスとしての将来性がない,など非常に興味深い意見がありました.

 最後に皆さんにもできるマイクロ・ファイナンスとして,KIVAを紹介しました.いつの間にか日本語のページもできていたので,ますます身近になっています.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第5回(5/13)

 今回も消費者理論の続きです.

【授業の内容】
 まず無差別曲線の復習からしました.また,無差別曲線の傾きを限界代替率と呼ぶことを説明しました.消費者理論において消費者の目的は効用を最大にすること,つまりより右上の無差別曲線上の点で消費することなのですが,実際には無限に大きい効用を得ることはできません.なぜなら様々な制約があるからです.
 皆さんが直面する様々な制約のうち,もっとも関心があるのは予算制約でしょう.欲しい物がたくさんあっても,お金がないから買えないことを予算制約と呼びます.さて,2財のケースで,この予算制約を図にしてみました.予算制約は直線で描かれ,これを予算線と呼びます.具体的な数値例を使って,予算線の傾きが相対価格を示しており,予算線のシフトが実質所得の変化を示していることを確認しました.
 続いて,予算制約下での効用最大化を図で確認しました.消費者は予算線と無差別曲線が接する点で消費をします.これは,消費者は相対価格が限界代替率と等しい点で消費すると言い換えることもできます.

 この予算線と無差別曲線を使って個別需要曲線を導き出しました.2財のうち1つの価格を様々に変化させると,その財の消費量がどのように変化するのかをプロットし,それを図示すると個別需要曲線が得られます.また,多くの人の個別需要曲線を足し合わせることで(経済全体の)需要曲線が得られます.
 次週はこの需要曲線の傾きが何を意味しているのかを確認します.というわけで,次回は弾力性について予習しておきましょう.

【今回出てきた重要語句】
限界代替率:無差別曲線の傾き.効用を一定に保つには,一方の財の消費を1単位減らしたことによる効用の減少を,他方の財の消費をどれだけ増やすことで埋め合わせるか,という割合.
予算線:予算をすべて使うことで消費できる財と財の組み合わせの集合.

総合政策演習D 第5回(5/11)

 今回もSPI2です.僕の担当は今回まで.次回からは南先生が言語問題を担当します.非言語問題の続きは,南先生の次の古家先生が担当します.

【授業の内容】
 今回は「代金の精算」,「料金の割引」,「分割払い」について解説しました.こういうお金に関係した計算は社会に出てからもよく使うでしょうから,きっちり理解しましょうね.

 さてパワポでは,「皆さんは情報感度が鈍いのでは?」という話をしました.まず,先日「マイクロソフトが85億ドルで買収すると発表した企業はどこか?」というクイズを出しました.ちょっとニュースに敏感な人であればskypeであるとわかりますね.また,「skypeってどんなことしている企業?」と尋ねました.skypeをまったく知らないという人は,自分がネットに疎いのではないかと心配してください.まぁ,結構多くの人がこのニュースを知っていましたね.
 今回紹介したサイトの1つがみんなの就職活動日記,通称「みん就」です.まともに就活している大学生は誰もが利用するサイトです.今から登録していても損はないでしょう.そこには,6月に開催されるインターンシップフォーラムの情報もありました.チェックしておきましょう.
 また,下記の本も紹介しました.
三田紀房・関達也「銀のアンカー」集英社
AERAムック「就活の新常識2011」朝日新聞出版
石渡嶺司・大沢仁「就活のバカヤロー」光文社
岩崎夏海「もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」ダイヤモンド社
福島文二郎「9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方」中経出版
カーマイン・ガロ「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」日経BP社

 学生と社会人の話が合わない原因の1つは共通の関心事が少ないからです.話が合うように社会人が読んでいる本も読みましょうね.

経済学A 第4回(5/10)

 前回に引き続き,経済学の歴史と同時にマクロ経済学について説明します.

【授業の内容】
 前回,世界大恐慌の際,古典派経済学が有効な打開策を提示できなかった,という所まで話しましたね.この時に古典派に代わって檜舞台に立ったのがケインズ派経済学です.ケインズ派経済学は古典派とは異なり,市場(の機能)を信頼していません.市場は完璧なものではなく,機能が上手く働かない場合(市場の失敗)がしばしばあると考えています.そのため,政府が積極的に市場に介入すべきだと考えています.さて,その介入の仕方を説明する前に,ケインズ経済学が需要と供給の関係をどのようにとらえていたかを確認しましょう.
 古典派はセイ法則を信じていました.つまり供給の大きさが需要を決めると考えていました.しかし,ケインズは逆に需要の大きさが供給の大きさを決めると唱えました.これは有効需要の原理と呼ばれます.この考えに立てば,供給(GDP)を大きくすること,つまり経済成長するためには需要を大きくしなければなりません.不況の場合は需要が小さすぎる(需要不足)のが原因だと考えます.ちなみに需要の内訳は,民間消費,民間投資,政府支出,純輸出(輸出-輸入)です.
 そのため,不景気に対する政府の介入方法は,民間に代わって政府がお金を使うこと,つまり政府支出をすることです.需要が足りないので政府がその不足分を支出します.これにより需要が増加し,有効需要の原理によりGDPが増加し,三面等価の原則により所得も同額だけ増加します.所得が増加すると,その何割かの量だけ民間消費が増加します.民間消費の増加は需要の増加を意味しているので,先程と同様にGDP,所得を増加させ,またも民間消費が増えることになります.このループを繰り返すことで,当初,政府が使ったお金以上にGDPが増えることになり,景気回復します.この流れは,政府支出の乗数効果と呼ばれます.
 実際に大恐慌の際にはアメリカでは民主党のルーズベルト大統領が中心となり,大規模な公共事業を始めとするニューディール政策を採りました.世界史?の授業で習ったのではないでしょうか.

 ケインズ派が主導する政府は国民の負担が大きい代わりに福祉も大きい大きな政府です.積極的に市場に介入するため,結果として慢性的に政府が赤字(財政赤字)となりがちです.1980年代には財政赤字の解消が大きな課題となったため,ケインズ派ではなく,市場の機能を重視する新古典派経済学が力を持つことになります.
 新"古典派"というだけあり,古典派と基本的な考え方は似ています.市場の機能,特に競争による成長を重視しています.そのため新古典派が採る政策は,民営化,規制緩和といった競争を促す政策が軸となります.福祉に関する考え方も,国民の負担が低い代わりに福祉水準が低い,いわゆる小さな政府となります.
 さて日本は小さな政府でしょうか大きな政府でしょうか.今後紹介する国民負担率で評価すると,日本は国際的には国民の負担が低い,小さな政府です.しかしその割には政府の使うお金(歳出)が大きいです.だから財政赤字が膨らんでいくのでしょうね.

2011年5月6日金曜日

開発経済学 第4回(5/6)

 今回は都市と農村でした.

【授業の内容】
 今回で4回目となり,皆さんのグループ・ディスカッションもややマンネリ化してきたかと思ったので,グループをこちらで決めました.普段と違うメンバーだと刺激もあるでしょうね.

 さて,まず日本の戦後から現在に至るまでの産業構造の変化を見てみました.戦後まもなくは第1次産業への従事者が最も多かったのですが,第2次産業,第3次産業への従事者が増加するのに対して第1次産業への従事者数・比率は一貫して減少し続けます.このように,経済発展の過程で,産業の中心が第1次産業から2次,3次へと推移していくことをペティ=クラークの法則と呼びます.
 また,産業の分類に関連して,労働集約的産業と資本集約的産業という分類についても紹介しておきました.

 ここで,高所得国,中所得国,低所得国をいくつかピックアップし,それらの実質GDP成長率の2005-2010年の平均値を紹介しました.高所得国になるに連れて成長率が低くなるように見えます.皆さんには,この原因を考えてもらいました.
 各グループの意見をまとめると次の3つになりました.
・人口の多い国は経済成長率が高いため(ここでは中国とインドのデータを紹介した).
・低所得国には成長の余地があるため.
・低所得国は援助を受けているため.
 さらに,「成長の余地とは何か?」と問いかけた所,新たに出てきたのは以下の意見です.
・教育:貧困国では十分な教育を受けていない子供が多いため
・空間:先進国ではすでに土地などが有効利用されているため
・分業:先進国では産業がすでに発展しており,国際的分業体制が出来上がっているため
・向上心:貧困国の人々はハングリー精神があるため
・模倣:貧困国には模倣すべきロールモデルが存在するため
 どれも説得力のある良い意見ですね.僕が予想しないものも出るのがグループ・ディスカッションの良いところですね.

 さて,今回は所得水準が高まるに従って成長率が下がる原因(「中所得国の罠」と言います)を,ルイスの2部門モデルにより説明しました.ルイスの2部門モデルは経済を伝統部門と近代部門に分けて考えます.議論のスタートは伝統部門に偽装失業が存在することからです.偽装失業とは開発経済学の用語で,途上国では一見して失業率が低いのですが,その内情を調べてみると,実際には仕事がないのに家業に従事する隠れた失業者が多いことがわかります.この余剰労働力を偽装失業と呼びます.
 この余剰労働力が存在するため,近代部門は安価に労働者を雇うことが可能です.近代部門は伝統部門からどんどん労働者を吸収して急激に成長します.しかしこの急成長は,余剰労働力の枯渇とともにストップします.余剰労働力が枯渇すると農村部で賃金が上がり,それは農作物価格を上昇させます.すると,都市の労働者にとって実質賃金が下がることになり,中には都市での生活ができなくなる人もでてきます.その人々は伝統部門へとUターンします.このように農村から都市への流入がストップすることで,経済成長率は低下します.
 この罠から抜け出すためには農業における技術革新が必要となりそうです.これに関連して,また後日,緑の革命について説明します.
 また,ハリス=トダロモデルについても説明しました.しかし時間がなかったのでかなり説明を省いてしまいました.気になる人は開発経済学の入門書を図書館で探してください.

 最後にレポートの書き方についてくわしく説明しました.まぁとにかく「レポート作成マニュアル」を一度は読んでくださいね.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第4回(5/6)

 今回は消費者理論です.

【授業の内容】
 前回(といっても2週間前ですが),少しだけ説明した消費者理論です.まず効用と限界効用の違いを復習しました.また,限界効用逓減の法則も説明しました.限界効用逓減の法則は,簡単に言うと,消費を続ければ飽きるということです.
 限界効用をより理解するために,極端な例として,最初の限界効用は高くても次から限界効用がほぼ0になる財(情報財など)や,消費するに連れて限界効用が増加する財(中毒性のあるもの)を紹介しました.

 この限界効用の図の縦軸,限界効用を金銭表示にすると,需要曲線になります.この需要曲線を用いて,消費者余剰の説明をしました.需要曲線と価格とのギャップが消費者余剰です.例えば,150円分の効用を持つジュースを100円で買うことができれば,50円分得した気持ちがありますね.これが消費者余剰です.

 さらに,この需要曲線を用いて,同一需要曲線上の移動と,需要曲線自体のシフトの違いを説明をしました.値下げしたので需要が増えたのは同一需要曲線上の移動ですが,価格が変化していないのに需要が増減するのは需要曲線自体がシフトしたことを示しています.

 上記の話はすべて1財のケースでしたが,次に2財のケースを説明をしました.
 まず,無差別曲線を説明をしました.無差別曲線とは,2つの財(AとBとします)について,効用の水準が同じになるようなA財とB財の組み合わせを集めたものです.通常は,右下がりで,原点に向かって凸の形になります.しかし例外が多いので要注意です.今回はその例外の1つとして,代替材と呼ばれる財と財の組み合わせや,一方が全く興味がない財の場合,一方の消費により負の効用を得る場合(消費すると嫌な思いをする財)の場合を見てみました.

 最後に無差別曲線を理解しているか小テストをしました.答えはA→B,C→D,Eの順です.

【今回出てきた重要語句】
効用:幸せのこと.
限界効用:消費が1単位変化したときの効用の変化のこと.効用曲線の傾き.
無差別曲線:効用水準が一定となるような財と財との組み合わせの集合.
 

2011年5月4日水曜日

学生参加型授業についてのメモ その1:第1回

「学生参加型授業についてのメモ その0:バックグラウンド」のつづきです.

授業の概要
1.授業の説明
2.レクチャー
3.グループ・ディスカッション


1.授業の説明:講義内容・形式,評価方法など
 開発経済学の第1回です.今回は授業の内容や形式についての説明が中心です.
【振るい落とし】
 予想を上回る50人程が出席していました.授業の前半で,関心のない学生を振るい落としました.最初の20分程度を使って開発経済学とはどのような学問であるかを説明し,理解させた上で,課題であるレポートに求められるハードルがかなり高く,単位を取りやすい授業を探している学生には不向きであることを伝えました.その上で,「ここまで聞いて『取るのをやめよう』と思った人は退室して構いません」と伝えると10人程が退出しました.
【振るい落としの狙い】
 関心のない学生を振るい落とした理由は,この授業が学生参加型(アクティブ・ラーニング)という形式であるためです.授業では学生数人が1グループとなり話し合うことがしばしばあるため,授業の内容に関心が持てず積極的に取り組めない学生が同じグループにいると,真剣にやっている学生のやる気を削ぐのではないかという懸念があったためです.

 後半は,途上国についての基礎知識をレクチャーし,各学生が問題について考える土台を築き,その後,あるテーマについて考え,話しあってもらいました.レクチャーを始める前に,レクチャーの後,それを基礎知識としてグループ・ディスカッションをしてもらうことを伝えておきました.これが講義内容に集中するインセンティブになると考えました.

2.レクチャー:途上国の現状
 まず途上国の所得,栄養不足,教育,健康など様々なデータを紹介しました.これにより途上国について,ある程度イメージさせます.さらに平均化されたデータに加えて具体的な事例も紹介しました.今回はジンバブエが独立以降の約30年でどのような道を辿ったのかを説明しました.

3.グループ・ディスカッション:貧困とはなにか?
 今回は,「貧困とは何か?」について考えさせました.いきなり「さあ,みんなで話し合いましょう!」では上手くいかないとわかっていたので,いくつかの仕掛けをしました.
①授業開始時にプリントを配布しました(配布資料1).そこには「貧困とはどのような状態のことか?」を箇条書きで複数記述するよう指示しました.長文だと時間がかかるため箇条書きにします.また定義付けではなく状態を複数記述させることでより問題に取り掛かりやすくなると考えました.
 このプリントを使って,まずは自分で考えます.この作業に5分ぐらいをかけました.ある程度時間が経過し,ちょっと手が止まったところを見計らって,「幸福な状態とはどのような状態なのか?」も考えてみるように声をかけました.見回してみて,だいたい書き終わったなと感じるぐらいの時間でストップをかけます.
②次にこのプリントを周りの学生と交換させます.これにより直接話し合わせるよりもハードルが下がります.こちらはおおよそ3分程度です.この手順は,学内のFDの一環として,愛媛大学の小林直人先生の講演で学んだことを活用しました.小林先生によれば双方向のアクティブ・ラーニングのために"Think, Pair, Share"が有効であるとのことです.つまり「1人で考え」→「2人で考え」→「複数で考え、意見を集約させる」という手順を踏むわけです.というわけで,①でThinkさせ,②でPairを組ませました.
③座っていた位置で分け,8~10人程度を1グループとしました.グループ毎に意見を集約させ,発表してもらいました.意見の集約に5分程度時間をとりました.また同時に発表者を決定するように伝えました.学生にとってあまり経験のない作業であるので,真剣に議論できるか不安もあったのですが,前半の振るい落としの効果もあってか,また比較的話しやすいテーマであったためか,どのグループも熱心に話し合っているように見えました.
 学生が発表した意見は以下の通りです.
・教育を受けられない状態
・食糧(栄養)不足
・低所得
・粗末な住居,住居がないこと
・モノがないこと
・失業
・医療を受けられない状態
・内戦
・治安が悪い状態
・衣料がないこと
・子供が働かされること
・孤立していること
 後に提出させたプリントを見てみると,これらに含まれないものもいくつかったので,自分の意見をグループ内での議論で伝えられないケースがあったのかもしれません. 

今回の結果
 結果は「学生の満足度」と「議論の深さ」の2点について評価することができると思います.自己評価ではどちらについてもほぼ成功だと思います.修正が必要な点は特に感じませんでした.グループ・ディスカッションに時間を割くため,これまでより説明できる内容がかなり減ると予想していましたが,意外にもさほど変わりませんでした.学生が授業に集中しているため,具体例の提示が少なくて済んだのかもしれません.
「学生の満足度」
 他の講義では積極的に講義に取り組んでいない学生も,意外と楽しそうに議論に参加していました.現時点では,聞き取り調査やアンケート調査を行っていませんが(今後,複数回やる予定です),あくまで実感ではかなり満足度は高いと感じました.
「議論の深さ」
 貧困とは何かへの答えは,衣食住や所得など物質的な要因を挙げる学生が多いのではと予想しましたが,精神的充足に関連した意見も多く,十分に深い議論になっていたと感じました.特に孤立については次週の講義内容でもあったので(学生から出てこないと思っていた),驚きました.

 配布したプリントには,次回の講義内容も含んでおり,それらに記入して後日提出するよう指示しました.次回の学習内容にスムースに移行できる狙いがあります.

学生参加型授業についてのメモ その2 へ続く.

学生参加型授業についてのメモ その0:バックグラウンド

 これは,大学での学生参加型授業導入についてのメモです.同業の方の参考になれば,またアドバイスをいただければ,と思い公開しました.

授業について
 総合政策学部の専門科目として開講しており,期間は半期(15回)です.同学部の3年生以上を対象としていますが,履修するのはほとんどが3年生です.僕はこの科目を2007年から担当しており,今年で5年目です.これまではいわゆる講義形式が中心でしたが,後述の問題点により,今年度から試験的に学生参加型授業を行うことにしました.学生の成績は3~4回提出のレポートにより評価しています(今年度も).
 受講者数は例年20名程度ですがが,今年度は約40名と多め.受講者数が例年より多い原因は授業形式が学生参加型授業になったためではなく,それ以外の影響が大きいと思います(重要ではないので割愛).

なぜ学生参加型授業を導入したのか?
 これまで開発経済学を担当してきて,学生の学習意欲・熱意が低いと感じていたためです.同学部で複数の科目を担当していますが,この科目が飛び抜けて学生の意欲が低く感じます.当然ながら学生の熱意が感じられないとこちらも楽しくないので,より良い方法を模索する中で,学生参加型授業を試すことにしました.

これまでにやってみたこと
1.ゲストスピーカーの講演
 講義の内容が理論中心であるため,せっかく開発経済学を学んでも,それが現実を反映していることが感じられなければ学ぶ意欲も薄れるだろうと考えました.そのため,半期に1人ですが開発の現場にいた経験のある方をゲストスピーカーとして招き,講演をしてもらいました.
結果:ゲストスピーカーの話には真剣に耳を傾ける.しかし,翌週からは元通り.実体験には興味があるが,それを理論と照らし合わせるという意欲は引き出せなかった.

2.ワークショップ(貿易ゲーム)
 ある国際交流イベントのワークショップで,貿易ゲームを体験したところ,非常に面白かったので,
こちらも学習意欲を喚起できると期待し,やってみました.(貿易ゲームとは,イギリスのNGO「クリスチャン・エイド」が開発した,開発教育用の教材です.)
結果:ゲームには非常に積極的に取り組んでいた.ゲーム後の「振り返り」でも有益なコメントが多かった.しかし,翌週からは元通り.

3.動画の視聴
 貧困国の現状を知るため,いくつかの動画を見せました.
結果:真剣に視聴する学生は約半数.残りは睡魔に襲われる.

 次回から,実際の授業の内容について説明します.授業中にメモを取っていないため,数値はあまり正確ではないことをお断りしておきます.

続き
学生参加型授業についてのメモ その1