2011年7月24日日曜日

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第15回(7/22)

 今回で最終回です.一般均衡の続きを説明しました.

【授業の内容】
 ややこしい話なので,まず前回説明したエッジワース・ボックス(ボックス・ダイアグラム)の復習から始めました.

 さて,まず2人のプレイヤーが財を配分された状態から話を始めます.エッジワース・ボックス上に1つの点を打ちます.これで両者の資源の配分を示すことができます.この初期状態の資源配分を初期賦存(ふそん)量と呼びます.プレイヤーがこの資源配分に満足してくれれば,話はこれで終わるのですが,このエッジワース・ボックスに相対価格という情報を加えましょう.相対価格は以前の消費者理論のところで予算線の傾きとして出てきましたね.この予算線は,プレイヤーが市場で売買した時に得ることができる財の組み合わせを示しています.つまり市場で売買することにより,初期賦存量から予算線上の他の点へと移ることができるのです.ではどこが予算線上で最も効用が高い点なのでしょうか.この問題はすでに消費者理論で学んだとおり,予算線と無差別曲線が接する点です.
 この時点では,両者が効用を最大化する点に,思うように移動できるかどうかはわかりません.なぜなら,資源の量は有限かつ一定なので,両者が欲しいと思う量(需要量)の合計が供給量を上回る(超過需要)かもしれないからです.一方,両者の需要量より供給量が多い場合(超過供給)もありえるでしょう.
 しかし,市場は良くできており,この超過需要,超過供給を解消することができます.その手段が価格の変化です.以前に学んだワルラス型メカニズムによれば,超過供給があれば価格は下落,超過需要があれば価格は上昇します.これにより需給は均衡するのです.

 ここでは消費者の話ばかりをしましたが,背景にはもちろん生産者もいます.相対価格の変化が起これば,相対価格と限界変形率が等しくなるように(予算線と生産可能性フロンティアが接するように)生産する財の組み合わせを変化させるのです.これはエッジワース・ボックスの形の変化として現れます.

 さて,次週はテストですね.問題はそれほど簡単ではないでしょうから,しっかり準備してください.説明どおり,試験ではこれまでに皆さんに提出してもらったメモを持ち込みできます(というか,用意しておきます).また,電卓を持ち込んでも構いません.ただし,通信や記憶機能など,計算以外の機能を持った電卓は持ち込み不可です.普通の電卓のみ持ち込み可です.

2011年7月17日日曜日

開発経済学 第14回(7/14)

 今回はODAの話を少しして,次週のプレゼンのためにタンザニアの基礎知識を紹介し,その後,各チームでプレゼンのための話し合いをしてもらいました.

【授業の内容】
 途上国への支援の回では国際機関とNGOの話はしましたが,二国間協力の話はできなかったので,今回はODA,特に日本のODAの現状などを話しました.

 皆さんに事前に調べてもらいましたが,援助がODAであるかどうかを決める条件にグラントエレメント比というものがあります.世間ではODAというと,無償でお金をあげることだと思っている人も多いようですが,必ずしもそうではありません.お金を有利な条件で貸すこともODAです.

 さて,タンザニアの貧困削減のためのプレゼンですが,各チームが15分で発表してもらいます.必ずしもPowerpointを使う必要はありませんが,使わない場合は紙の配布資料を用意してもらいます.その場合は20日までに僕に提出してください.
 内容は,皆さんの立場を明確にした上で,1億ドルを使ってタンザニアの貧困を削減するためのプランを発表してもらいます.立場はタンザニアの大統領でも,日本の首相でも,学生でも何でも構いません.プレゼンの仕方については,これまでの開発経済学の授業を参考にしてください.実は結構気を使っているのだけど,伝わっているかな…?

 こちらからは,どのチームにもムダにはならないであろうタンザニア全般のデータを紹介しました.僕が使ったのは主に世界銀行のデータです.紹介したもの以外にも実に多くのデータがあるので,参考にしてください.
http://data.worldbank.org/country/tanzania
 右上の"DOWNLOAD DATA"をクリックするとExcel形式でダウンロードできます.

 試験前で忙しい時期ということもあり,大変だと思いますが,皆さんのプレゼンに期待しています.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第14回(7/15)

 今週は一般均衡です.とりあえずこれまでの復習と,パレート改善,エッジワース・ボックスの説明をしました.

【授業の内容】
  まず,消費者理論と生産者理論の復習です.消費者理論では,個人は相対価格と限界代替率が等しい点で効用を最大化していました.また生産者理論では,企業は相対価格と限界変形率が等しい点で利潤を最大化していました.これらは来週の内容に関連しているので,頭の中に入れておいてください.

 経済学は人々,あるいは社会全体の幸せを実現するために効率性を追求する学問です.そのため,ここでは,「より良い変化とは何か?」を定義するパレート改善という概念を紹介しました.パレート改善とは,他の人の効用を下げることなく,ある人の効用を増加させるような変化のことでした.また,パレート改善がこれ以上できない状態をパレート最適と呼びます.

 具体的なパレート改善の例を説明するため,エッジワースボックスという,2人のプレイヤーの無差別曲線をくっつけたような図を用いました.エッジワースボックスは,図中のある点が,2人のプレイヤーで2つの財をどのように分配するかを示してくれる便利な図です.
 エッジワースボックス上のある点からある点への移動がパレート改善になっているか,実際に確かめました.

経済学A 第14回(7/12)

今回は日本の財政と税について説明しました.これまでに大きくなった国債残高に加え,未曾有の震災からの復興のためにも,これまで以上に消費税の増税が現実味を増してきました.

【授業の内容】
 最初に「消費税を上げるべきか?」と質問してみました.例年聞いてみるのですが,例年に比べ「賛成」という人が多いように思いました.さて,授業が終わって,意見は変化したでしょうか.
 復習として,大きな政府と小さな政府を思い出してみました.どちらが正しい,というものではなく,私たち1人ひとりがどちらの方が理想的だと思うかです.

 皆さんに現在の日本の財政状況を紹介しました.政府は収入をはるかに超える支出をしており,巨額の赤字をしています.その内訳も円グラフで確認しましたね.歳出(お金の使い途)で重要なのは社会保障費です.その他の歳出の多くは減少傾向にありますが,少子高齢化により社会保障費(年金,健康保険など)は年々増加していますし,これからも増え続けることは間違いないでしょう.財政赤字を減らすためには(当たり前のことながら)支出を減らすか(年金の減額,子ども手当の減額など),収入を増やす(増税)のどちらか,もしくは両方をしなければなりません.「税金は払いたくないけど,年金はしっかりもらいたい」などは不可能です.しっかりした社会保障制度を望むのなら増税が,減税を望むのなら社会保障の規模縮小をせざるを得ないのです.

 後半は税について説明しました.皆さん,所得税と消費税がどう違うか,普段の生活ではあまり意識しないでしょう.所得税を減税して消費税を上げようと,所得税を上げて消費税を下げることとでは,同じように見えますが,どちらを選ぶかで国のかたちを大きく変わります.
 さて,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.
 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.

 日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.日本は低負担高福祉だから財政赤字が多いのかもしれませんね.

 最後に政府による財政再建の取り組みをいくつか紹介しました.市場化テストの話をしたのですが,よく考えたら,皆さんが一番覚えているのは事業仕分けでしょうね.

 さて,テストも間近に迫ってきました.アンケートの結果,持ち込みなし,ということになりました.

2011年7月10日日曜日

開発経済学 第13回(7/8)

 今回はガバナンスについてでした.これまでも所々出てきた言葉ですが,きちんと説明したのは今回が初めてですね.

【授業の内容】
 ガバナンスとは何かについて,UNDP,世界銀行の定義を紹介しましたが,それらをまとめて僕は,「資源配分の効率性」と「意思決定のシステム」という2点に集約できるのではないかと考えます.また,ガバナンスに関連する様々な指標がありますが,まずは皆さんにガバナンスを示す指標としてどのようなものが考え得るかを話しあってもらいました.その上で,世銀のガバナンス指標,トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の実感汚職指数などを紹介しました.授業では紹介しませんでしたが,国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」もガバナンスに関連する指標と言えるでしょう.
世銀:http://info.worldbank.org/governance/wgi/sc_country.asp
TI:http://www.ti-j.org/TI/CPI/index.htm
国境なき記者団:http://www.rsf.org/Only-peace-protects-freedoms-in.html

 さて,ガバナンスが悪いと何が問題なのでしょう?ガバナンスは上記の通り,資源配分の効率性と意思決定のシステムを意味しています.これらに問題があると,政府の政策や公共サービスが非効率であったり,特定のグループだけを優遇したり,汚職が横行したりと,様々な問題を引き起こしますし,それは結果として社会的厚生を下げてしまいます.
 ガバナンスが所得や乳幼児の死亡率に影響を与える,汚職が経済成長率を鈍化させるなど,様々な研究がガバナンスと社会的厚生との関係を指摘しています.
 続いて汚職がなぜ成長を鈍化させるのか,その経路を話しあってもらいました.

 後半は移行経済について解説しました.学生の皆さんにとって,社会主義国が資本主義の現実的なオルタナティブであった時代を想像しにくいでしょうね.僕も経済学を学び始めた時にはすでにソ連はロシアになっていましたし,ベルリンの壁も崩壊後でしたし,言わば歴史によって,経済システムとしては大きな欠陥があるという審判が下されていたので,学びたいと思える環境にはありませんでした.
 さて,社会主義経済にはどんな欠陥があるのでしょう.いくつかありますが,1つは市場経済とは異なり,情報の流れが上から下へと一方通行であり,効率的な資源配分が実現できないことがあります.もう1つは,物事を改善したり,新たな商品・技術を発明したりしようというインセンティブを持ちにくい点です.シュンペーターは経済成長における重要なファクターとして,創造的破壊を指摘しています.社会主義経済では,既製品を大量生産することには向いているかもしれませんが,このような創造的破壊が起きにくいのではないでしょうか.
 それらが原因となるのかどうかはわかりませんが,中国の実質GDP成長率を見ると,開放改革路線以後,成長のばらつきが明らかに小さくなっているようでしたね.UNDPが指摘するように,市場経済は最高の経済パフォーマンスを保証しないとしても,成長のばらつきを小さくするのかもしれませんね.もちろんタダの偶然で,他国のデータを見ると違う結果なのかもしれません.このように仮説を立て検証するとより良いレポートになります.

【第3回レポートについて】
提出期限:8月4日20:00厳守
分量:3枚+α(表紙,図表,参考文献を除く)
テーマ:各テーブルのメンバー内で重複しないように以下のテーマから選択.
A:貧困にあえぐ人を救うために,ジンバブエ政府は何をすべきか?国際社会は何をすべきか?
B:自国の農家保護と途上国の貧困撲滅を両立するためには?
C:(あなたが大統領であるとして)マラリア感染者を減らすための政策は?
D:途上国ではなぜ教育水準が低いのか?どうすれば就学率が上がるのか?
E:途上国にとって望ましい援助とは?最悪の援助とは?どんな援助は貧困を削減できるのだろうか?
F:自由課題

【第15回の授業について】
テーマ:タンザニアの貧困削減プランを立案しよう(予算:1億ドル)
・3チームによるプレゼン
・チーム毎にプレゼン(各15分)
・プレゼン後に質疑応答
・プレゼン方法は自由(Powerpointの場合は2003で保存・作成)

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第13回(7/8)

 今回は余剰分析です.

【授業の内容】
 まず厚生経済学の第1基本定理を紹介しました.これは完全競争市場で財の価格と量が決定された時に,社会的余剰が最大になるというものです.つまり完全競争市場で政府などからの介入もなく,自由に競争した場合に最も社会全体にとって望ましい結果になるということです.

 社会的余剰(SS)は消費者余剰(CS),生産者余剰(PS),税収(T),補助金(S)からなり,次のように与えられます.
SS=CS+PS(+T-S)
 税収や補助金は場合によって出てきます.

 消費者余剰とは,その財に対する評価額から価格を差し引いたものの合計です.分かりやすく言うと私たち消費者にとっての儲けのようなものですね.生産者余剰は,価格から限界費用を引いたものの合計であり,これは利潤の源泉なので,やはり大きければ大きいほど企業にとっては良いことです.(税収や補助金がないとすれば)この2つを合計したものが社会的余剰となります.

 授業では完全競争市場で決まった場合と,①政府が価格統制をした場合,②同じく生産量を限定した場合,最後に③従量税を課した場合を,数値例を使って計算しました.
 いずれの場合も完全競争市場で決まった場合に比べ社会的余剰は小さくなります.この社会的余剰の減少分を死荷重(デッド・ウェイト・ロス)と呼びます.

 今回は従量税を用いましたが,これはその名の通り,取引される財の量に応じて課税するタイプの税です.現実の例では,酒税,たばこ税,揮発油税(ガソリン税)などが従量税にあたります.数式では税額に量を掛け合わせたもので表現されていますね.
 対して従価税というものもあります.従価税とは価格に応じて課税するタイプの税,現実の例では,消費税ですね.消費税はパンを何個買ったかで決まるわけではなく,パンの値段がいくらなのかによって決まりますね.

 次回は一般均衡についてです.ベイシックⅠも総まとめです.

経済学A 第11回(7/5)

 今回は貿易とグローバル化です.

【授業の内容】
 まずパワーポイントを使って,パレート改善,絶対優位と比較優位について説明しました.

 パレート改善とは,他の人の幸せを犠牲にすることなく,ある人は幸せになれるような変化のことです.もちろんみんな幸せになることもパレート改善です.この話をしたのは,貿易が良い変化をもたらすのかどうかを理解するためです.
 まず結果が予想しやすい例として,互いに絶対優位がある場合を考えました.例として挙げたのは,魚釣りが得意だけど米作りが苦手な漁師と,魚釣りは下手だけど米作りが得意な農家の取引です.このような相手より得意に生産できることを絶対優位と呼びます.漁師は魚釣りに絶対優位があり,農家は米作りに絶対優位があると言います.漁師と農家がそれぞれ自給自足で生活するよりも(国際貿易で言えば鎖国状態),それぞれが得意な魚釣りと米作りに専念し(これを特化と呼ぶ),作ったものを交換することで両者ともより豊かになれることが確認できました.

 さて,では何でも得意な国(A国)と,何でも苦手な国(B国)があったとすると,さすがにこの両国の間には貿易は起こらないのでしょうか.具体的に数値例を使って,この両国の貿易を考えてみました.両国は2種類の財を作っているとします(XとY).
 A国はB国よりもXとYどちらの財についても効率的に生産できます.しかし,より得意な財があるとします.これをXであるとしましょう.するとB国はどちらも苦手だけど,まだマシなのはYということになります.A国にとってのX,B国にとってのYは,比較優位があると言います.A国はXに比較優位があり,B国はYに比較優位があるのです.
 この場合,両国がそれぞれ比較優位にある財の生産に特化して輸出し合うとどうなるでしょう.この場合も先程の例と同じく両国が豊かになれる可能性があることがわかりました.

 後半はグローバル化する未来についての話です.グローバル化とはヒト・モノ・カネが国境を越えて移動することと定義することができます.ITの普及に伴い,グローバル化は急速に進展しています.グローバル化すると起こり得ることの1つに,同じ仕事を巡って世界中の人々が争うことがあります.少し前までは日本で働く看護師は日本人がほとんどだったわけですが,今ではインドネシアなどからの看護師を受け入れるようになりました(条件は非常に厳しいですけどね).今後もこの傾向は強まるでしょう.特にプログロマーなどの話す言語に関係なく同じ条件で働ける仕事では,すでに国際的な競争は激しく行われていますね.
 というわけで,皆さんも将来,世界市場で外国人と仕事を争うことになるでしょう.その時により有利な条件で働けるよう,専門的な能力を在学中にしっかり身に付けましょうね.

開発経済学 第12回(7/1)

 今回は内戦についてです.すでに第2回のレポートで内戦について取り上げた人もいますが,新たな発見はあったでしょうか.

【授業の内容】
 授業では,内戦はなぜ起きるのか,内戦を防ぐためには何ができるかを話し合ってもらいました.

 さて,人(国?)はなぜ戦争を行うのでしょう.経済学的にシンプルな答えは,「戦争したら得をすると考えるから」です.ただし,国が得をするという意味ではありません.国全体としては損をするけれど,一部には得をする人がいる場合にも戦争は起こるかもしれません.特にその得をする人が開戦を決定できる場合,もしくは決定できる人に影響力を持つ場合に戦争は起こりえます.逆に言えば,得をする人がだれもいなければ戦争なんてなかなか起こらないでしょう.
 戦争して国が得をすることがあるでしょうか.答えは「ある」,正確に言えば「あった」のです.20世紀の戦争については,朝鮮戦争までは開戦国にとってメリットの方が多かったようです.ただし,開戦時に低成長であり,資源の利用状況が低く,短期間,かつ本土以外が舞台となった場合に限られます.しかしベトナム戦争以降は経済的にペイしなくなったとされています.そのため,戦争に経済浮揚効果があると考える経済学者は現在ではほとんどいないでしょう.
 情報が比較的入手しやすい近年の戦争(イラク戦争)の収支については,スティグリッツとビルムズ(2008)が詳しい試算を行っています.それによると戦争の総コストは3兆ドルにものぼり,将来のアメリカの財政にも大きな傷跡として残り続けるとされています.

 内戦の収支を考える前に,内戦とイラク戦争のような国際戦争(紛争)との違いを理解しましょう.国際戦争の多くは短期間で,戦闘員同士の限定的な戦争です.逆に内戦は長期間にわたり,戦闘員と非戦闘員の区別もあまりないことが多いです.むしろ犠牲者の多くは一般人です.そのため,国にもたらす被害は圧倒的に内戦の方が大きいでしょう.

 内戦のデメリットには次のようなものが想定できます.
・社会資本の損失
・軍事支出の機会費用
・社会的コスト
・資本の海外逃避
・精神的被害

 逆にメリットしては,
(指導者側)
・資産,資源の収奪
・外国からの援助
(兵士側)
・賃金,食糧
・資産,資源の収奪
・安全の確保
・復讐の機会
などが考えられます.

 これらから内戦が起こりやすい条件として次のことがわかってきます.
・天然資源を持つ国では内戦が起こりやすい
・アイデンティティの違いは原因ではなく,対立構図にすぎない
・貧困,格差が内戦を引き起こしやすい
・人口圧力が内戦を引き起こしやすい
・ガバナンスの悪さ(軍部の独裁,シビリアンコントロール)
・過去に内戦があった

 最後にまとめとして,内戦を防ぐためにはということも考えました.経済学的には「内戦を起こさない方が得」という状況を作ることが答になるでしょうね.

【参考文献】
世界銀行(2003)「戦乱下の開発政策」シュプリンガーフェアクラーク
スティグリッツ,ビルムズ(2008)「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」徳間書店
ポール・ポースト(2006)「戦争の経済学」バジリコ

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第12回(7/1)

 前回に引き続き,限界費用,平均総費用,平均可変費用の図を使って,様々なことを説明しました.

【授業の内容】
 前回は,限界費用と平均総費用が交差する点が損益分岐点であると説明しました.今回は同じ赤字であっても生産する場合としない場合とを分ける,操業停止点を説明しました.

 生産してもしなくても固定費用はすでにかかっています.そのため,企業は生産する前の利潤は赤字なのです.そのため生産するかしないかは,生産したらこの赤字が減るか増えるかで決まります.生産すると収入が発生しますが,逆に可変費用も発生します.そのため,収入が可変費用を上回るのであれば生産します.逆に収入が可変費用を下回れば,生産することにより赤字が増えてしまうので生産しません.
 この収入と可変費用の大小関係について違う見方をしてみましょう.収入(R)は次のように表されます.
R=P×x
 そのためRをxで割ってみると,Pになります.同様に可変費用もxで割ってみると,平均可変費用(AVC)が出てきます.
 つまり,収入と可変費用の大小関係は,それぞれをxで割った価格と平均可変費用の大小関係と等しくなります.価格が平均可変費用を上回るのであれば生産することで赤字は減りますし,下回るのであれば赤字が増えます.この分岐点である価格と平均可変費用が等しい点を操業停止点と呼びます.

 価格と限界費用が等しい点で生産するというのを思い出してみましょう.これに操業停止点の考え方を組み込めば,操業停止点より右上の限界費用が,企業の供給曲線になっていることがわかります.供給曲線とは,与えられた価格に対する企業の生産量を示したものです.この供給曲線を導くために,これまでの説明をしてきたのです.

 続いて,短期と長期の違いを説明しました.生産者理論における短期とは,生産設備を変更できないぐらいの期間のことです.逆に長期では生産設備が変更できます.つまり長期では最も適切な生産規模を選択できるのです.一方,短期では,与えられた生産規模を使って生産するしかありません.

 最後に次回の予習として余剰分析の基礎を説明しました.

【今回出てきた重要語句】
損益分岐点:その価格(あるいは生産量)を上回れば黒字,下回れば赤字となる点.
操業停止点:その価格(あるいは生産量)を上回れば操業をすべき,下回れば操業を停止すべき点.
供給曲線:与えられた価格に対する企業の生産量を示したもの.

経済学A 第11回(6/28)

 今回は少子化と結婚の経済学です.随分更新が遅れてすみません….

【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.

 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.

 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.

 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 現在の将来予測によると,皆さんの世代では1/3~1/4程度の人は生涯に渡って結婚をしないだろうとされています.たかだか数十年前までは(男女で大きく異なるものの),ほとんどの人が結婚していたのですが,現在,そして今後は結婚する人もいれば,結婚しない人もいるのが自然になってくるのでしょうね.
 さて,結婚している割合(有配偶率)をその他の指標(学歴や収入)と比較してみました.もちろんこれが全てではありませんが,ある傾向が見て取れたはずです.そのうち,なぜ収入と有配偶率に相関関係(あるいは因果関係)があるのかを説明する仮説はいくつもありますが,たくさんありすぎてすべてを紹介することはできないので,今回は,その中からイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?