2010年7月12日月曜日

開発経済学 第13回(7/9)

 今回は内戦を取り上げました.前回に引き続き,我々にはなかなか想像しにくい現実です.

【授業の内容】
 授業では,内戦を含めた戦争はなぜ起きるのか.内戦はその国にどのようなダメージを与えるかを中心的なテーマとして話をしました.

 さて,人(国?)はなぜ戦争を行うのでしょう.経済学的にシンプルな答えは,「戦争したら得をすると考えるから」です.ただし,国が得をするという意味ではありません.国全体としては損をするけれど,一部には得をする人がいる場合にも戦争は起こるかもしれません.特にその得をする人が開戦を決定できる場合,もしくは決定できる人に影響力を持つ場合に戦争は起こりえます.逆に言えば,得をする人がだれもいなければ戦争なんてなかなか起こらないでしょう.
 戦争して国が得をすることがあるでしょうか.答えは「ある」です.正確に言えば「あった」です.20世紀の戦争については,朝鮮戦争までは開戦国にとってメリットの方が多かったようです.ただし,開戦時に低成長であり,資源の利用状況が低く,短期間,かつ本土以外が舞台となった場合に限られます.しかしベトナム戦争以降は経済的にペイしなくなったとされています.そのため,戦争に経済浮揚効果があると考える経済学者は現在ではほとんどいないでしょう.
 情報が比較的入手しやすい近年の戦争(イラク戦争)の収支については,スティグリッツとビルムズ(2008)が詳しい試算を行っています.それによると戦争の総コストは3兆ドルにものぼり,将来のアメリカの財政にも大きな傷跡として残り続けるとされています.

 内戦の収支を考える前に,内戦とイラク戦争のような国際戦争(紛争)との違いを理解しましょう.国際戦争の多くは短期間で,戦闘員同士の限定的な戦争です.逆に内戦は長期間にわたり,戦闘員と非戦闘員の区別もあまりないことが多いです.むしろ犠牲者の多くは一般人です.そのため,国にもたらす被害は圧倒的に内戦の方が大きいでしょう.

 内戦のデメリットには次のようなものが想定できます.
・社会資本の損失
・軍事支出の機会費用
・社会的コスト
・資本の海外逃避
・精神的被害

 逆にメリットしては,
(指導者側)
・資産,資源の収奪
・外国からの援助
(兵士側)
・賃金,食糧
・資産,資源の収奪
・安全の確保
・復讐の機会
などが考えられます.

 これらから内戦が起こりやすい条件として次のことがわかってきます.
・天然資源を持つ国では内戦が起こりやすい
・アイデンティティの違いは原因ではなく,対立構図にすぎない
・貧困,格差が内戦を引き起こしやすい
・人口圧力が内戦を引き起こしやすい
・ガバナンスの悪さ(軍部の独裁,シビリアンコントロール)
・過去に内戦があった

 最後にまとめとして,内戦を防ぐためにはということも考えました.経済学では「内戦を起こさない方が得」という状況を作ることが答になるでしょう.

【参考文献】
世界銀行(2003)「戦乱下の開発政策」シュプリンガーフェアクラーク
スティグリッツ,ビルムズ(2008)「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」徳間書店
ポール・ポースト(2006)「戦争の経済学」バジリコ

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