2010年6月29日火曜日

経済学A 第12回(6/29)

 今回は財政と税について説明しました.伝えたいことがたくさんあるので,もう少し時間が欲しかったなぁ.

【授業の内容】
 まず,復習として,大きな政府と小さな政府を思い出してみました.どちらが正しい,というものではなく,私たち1人ひとりがどちらの方が理想的だと思うかです.

 皆さんに現在の日本の財政状況を紹介しました.政府は収入をはるかに超える支出をしており,巨額の赤字をしています.その内訳も円グラフで確認しましたね.歳出(お金の使い途)で重要なのは社会保障費です.その他の歳出の多くは減少傾向にありますが,少子高齢化により社会保障費(年金,健康保険など)は年々増加していますし,これからも増え続けることは間違いないでしょう.借金による収入や,借金の利子の返済などを除いた収入と支出をプライマリーバランスと呼びます.現政権もプライマリーバランスの黒字化を目指しているようですが,そのためには(当たり前のことながら)支出を減らすか(年金の減額,子ども手当の減額など),収入を増やす(増税)のどちらか,もしくは両方をしなければなりません.「税金は払いたくないけど,年金はしっかりもらいたい」などは不可能です.しっかりした社会保障制度を望むのなら増税が,減税を望むのなら社会保障の規模縮小をせざるを得ないのです.

 後半は税について説明しました.皆さん,所得税と消費税がどう違うか,普段の生活ではあまり意識しないでしょう.所得税を減税して消費税を上げようと,所得税を上げて消費税を下げることとでは,同じように見えますが,どちらを選ぶかで国のかたちを大きく変わります.
 さて,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.
 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.
 現在,参院選を控えて,消費税率を上げるかどうかが争点の1つとなっていますね.ちなみに皆さんへのアンケート結果は,
 「消費税率を上げるべき」86.3%
 「上げるべきではない」9.8%
と圧倒的に増税を選ぶ人の方が多いようです.しかし,これまでの日本の政治の歴史では,消費税率を上げた政党は選挙で負けるようですよ.なぜでしょう?

 最後に,日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.

アンケートのアドレス
http://enq-maker.com/1PPIKRi

2010年6月27日日曜日

総合政策演習C 第10回(6/25)

 今回は企業・業界研究2です.

【授業の内容】
 皆さんが書いた企業研究シートを返却し,企業研究のやり方を紹介しました.
 まず基本中の基本として企業名を正確に書くよう注意しました.今回の例ではグリー株式会社を選んだ人が多かったのですが,企業名を「GREE」や「グリー」などと書いた人が目立ちました.前者がサービス名であり企業名ではありませんね.よく間違えやすい例では,×「キャノン」→◯「キヤノン」,×「ブリジストン」→◯「ブリヂストン」などがあります.
 また,「5年後の自分」の欄では特に空白が目立ちました.イメージしづらいのでしょうが,まずは企業のウェブサイトをしっかり利用しつくしましょう.グリー株式会社の場合には,採用情報のページから,先輩社員が具体的にどのような仕事をしているか知ることができます.上場企業の多くは同様の情報を公開しているので,具体的な仕事のイメージができない人はチェックしましょう.
 これらを始めとして,学生の多くは企業研究が十分とは言えません.自分が働きたい会社のことをあまり知らないのでは,相手(人事)にその熱意は伝わらないでしょう.まず知りうる限りの情報を集めましょう.ウェブサイトでの情報収集は当然のこととして,それに平行して,次のような情報源から,情報収集が可能です.
・日本経済新聞や業界専門紙
・経済誌(東洋経済やダイヤモンドなど)
・OB,OG訪問や店舗見学
 特に一番下のOB,OG訪問がおすすめです.なぜなら,自分が知りたいことを聴けるだけでなく,自分しか知らない情報を入手できる可能性があるからです.ライバルと差をつけるにはライバルと同じ情報ではダメでしょう.ライバルが知らない情報を得てこそ,より深い企業研究が可能になるはずです.
 しかし,ほとんどの学生はOB,OG訪問をしません.なぜなら「周りもしないから」なのでしょうが,その考えが決定的に間違っています.「周りがしないから」すのです.就活のため,早めに意識を改革しましょう.

開発経済学 第11回

今回は貧困と教育でした.

【授業の内容】
 途上国における教育の現状をデータで見ると,世界の15-24歳の識字率は,男性で91%,女性で85%です.これをサハラ以南のアフリカに限れば,男性76%,女性64%に過ぎません(UNICEF).
 今回は教育の拡充をメインのテーマにしましたが,その理由は以下の通りです.
1.そもそも子供には教育を受ける権利がある
 これは子供の権利条約(児童の権利に関する条約)に基づくもので,ソマリアとアメリカ(!)を除くほとんどの国が締約しています.またMDGsでもすべての子供に初等教育を受けさせることが目標とされています.
2.貧困削減の手段として
 以前にヌルクセの貧困の悪循環を説明しましたが,悪循環は一国全体としても捉えることができますし,家計単位でも教育を通じて貧困が連鎖してしまうと捉えることも可能です.つまり貧しい家庭では子供に与える教育の水準が低くなり,その子供も人的資本蓄積が少ないために高い収入を得ることができず,まさに教育を通じて貧困が子々孫々と遺伝してしまうのです.
 その連鎖を断ち切るためには,政府が十分な教育を供給することが大きな役割を果たすはずです.また,各家計単位で見ても,教育は収益率の高い投資先であることがわかっています(私的収益率).また教育は正の外部性を持つため,社会的収益率はさらに高くなります.
 しかし,現実には資金制約(就学させる余裕がなく,かつお金を借り入れできない),機会費用(児童労働),物理的制約(通学が困難),ジェンダー格差など様々な原因により,必ずしも初等教育が普及しているとは言えない状況です.

 貧困を削減するためにも教育が重要であることはわかりますが,現実には様々な,途上国に特有の問題もあるために教育は十分に普及していません.より多くの人に,より質の高い教育を目指して,世界中で様々な取り組みが存在します.授業ではその中から,バングラデシュのFFE(Food for Education)と,ニコラス・ネグロポンテのOLPCプロジェクトを紹介しました.

【参考文献】
UNICEF(2008)「世界子供白書」
OLPCウェブサイト
http://laptop.org/en/

【第3回レポート】
提出期限7月23日12:00
テーマ:1~13回の授業で取り上げたテーマ1つを選んで論述
文量などはこれまでと同様です.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第11回(6/25)

 今回は生産者理論の山場として,損益停止点と操業停止点を説明しました.

【授業の内容】
 前回わかったこととして,(限界費用が逓増する場合には,つまり費用逓減産業では)価格と限界費用が等しくなるように生産すると利潤を最大化できることがわかりました(最適な生産).
 ただし最適な生産をしたとしても黒字になるかどうかはわかりません.また場合によっては生産自体を止めたほうが赤字が少なく済む場合もあります.それを今回は具体的な例を使って説明しました.その説明のために,新たに平均総費用(ATC)平均可変費用(AVC)という2つの費用を取り入れました.
 平均総費用とは,総費用を生産量で割ったものであり,生産量1単位あたりにどれだけ総費用がかかっているかを示すものです.そのため,価格と平均総費用を比較することで利潤が黒字なのか赤字なのかがわかります.なぜなら,価格とはその財を1単位生産したときに入ってくるお金であり,平均総費用は財1単位を生産するのに出て行ったお金だからです.財を1単位生産して入ってくるお金より出て行くお金の方が大きければ赤字になりますよね.逆なら黒字です.このことから,価格と平均総費用が等しくなる点を損益分岐点と呼びます.この点よりも高い値段で販売できるなら黒字になり,安いと赤字になります.
 平均可変費用とは,可変費用を生産量で割ったものであり,生産量1単位あたりにどれだけ可変費用がかかっているかを示すものです.この平均可変費用を価格と比べることで企業が生産すべきかどうかがわかります.そのために,まず可変費用と固定費用を復習しましょう.例として,皆さんが移動販売のメロンパン屋を始めたとしましょう.この場合の総費用を可変費用と固定費用に分類しましょう.生産を開始する前にまず固定費用がかかります.これは生産量に関係なく発生する費用であり,この例では,移動販売に必要な車の取得や,メロンパンを焼くためのオーブン,開業に必要な事務手続きなどの費用がこれにあたります.これらに100万円がかかったとしましょう.この時点での利潤は-100万円です.ここから生産を開始します.メロンパンを生産すれば1個あたり150円のお金が入ってきます.ただし,それがすべて儲けになるわけではなく,メロンパンを生産することで新たに発生する費用があります.それが可変費用です.この例では小麦粉などの材料費や燃料代がそれにあたります.1ヶ月経って,パンが1000個売れたとします.収入は1000×150=15万円です.その間の可変費用が10万円(平均可変費用が100円)であれば,利潤は15万円-(100万円+10万円)=-95万円となり赤字です.ではこの企業は生産を止めたほうが良いのでしょうか?そうではありません.固定費用は仕方ないものとして,生産することによって赤字が減少したからです.価格が150円に対して平均可変費用が100円と,平均可変費用が価格を下回るため,生産すればするほど赤字は少なくなるので,この企業は生産すべきです(ただし,この儲けでは生活できない,あるいは機会費用と比べて割りに合わないという意味で言えば生産すべきではないのでしょうが…).

 このような関係は図示することもできました.配布した問題をやって理解を深めましょう.

2010年6月23日水曜日

経済学A 第11回

 今回は前回の為替に関連して,貿易とグローバル化について説明しました.貿易はともかくグローバル化は,皆さんの将来にとって重要なテーマです.

【授業の内容】
 前回も少しふれた貿易ですが,貿易は国全体としてみると非常に良いものです.それを絶対優位,比較優位の説明と共に紹介しました.
 絶対優位の例として,漁師と農家を挙げました.魚釣りの得意な漁師,米作りの上手い農家は,それぞれ魚,米の生産に関して絶対優位を持っています.魚釣りについては漁師に絶対優位があり,米作りについては農家に絶対優位があるといいます.逆に漁師は米作りに絶対劣位にあり,農家は魚釣りに絶対劣位にあります.このようなケースでは,両者は絶対優位にある財(モノやサービスのこと)の生産に集中し(特化),それを相手と交換することで,自給自足の場合より,両者とも豊かになれます.それを数値例で確認しました.つまり分業は効率的なのです.
 また,経済学的に良い状態の目安として,パレート最適(パレート改善)という概念を紹介しました.やや消極的な判断ですが,パレート改善が良い変化であることには多くの人が賛成するでしょう.それぞれが絶対優位を持つ場合,分業・交換することでパレート改善が可能でした.

 続いて,上のケースと異なり,一方の国はなんでも得意だけど,もう一方の国はすべて苦手,というケースを考えました.それぞれ得意な分野があればよいのですが,それがない場合です.
 この場合,一方の国に絶対優位がなくても,(クローンのような国同士でない限り)必ず比較優位はあります.比較優位とは,どちらの財の生産も得意だけど,より得意なもの,あるいは,どちらも苦手だけど,まだましなものを示しています.絶対優位がない場合でも,それぞれの国が比較優位にある財の生産に特化して,それを輸出しあうことで,両国とも豊かになれます.パレート改善が可能なのです.これが貿易の持つ素晴らしい力です.戦争とは違い,勝者と敗者は生まれません.貿易に関与した両国がともに勝者になれる(Win-Win関係)のです.
 僕は大学時代,この話(リカードの比較生産費説と言います)を聞いて,目から鱗が落ちるように驚いたのですが,皆さんも少しは驚いてくれましたか?

 このように自由な貿易は素晴らしいものですが,なぜか世の中には自由な貿易に反対する人たちがいます.遠い世界のことではなく,日本も完全に自由な貿易をしているわけではなく,特に農作物については強固な輸入障壁(海外から商品が入ってこないような仕組み,関税など)を築いています.なぜなら,上記で説明したように,自由貿易が行われるとすべての国は国際競争力がある産業に特化します.言い換えれば,国際競争力を持たない産業は縮小してしまうのです.そのため,その国の中で国際競争力が弱い産業にある業界の人々は自由貿易に反対します.そのような人たちは少数派ですが,一丸となって行動するため政治的には強い影響力を持つこともあるようです.多くの人々は関税にあまり関心がありませんしね.

 さて,このようなグローバル化(ヒト,モノ,情報の自由な国際間移動)が進んでいくと何が起きるのでしょう?皆さんにとって重要なことは,労働の国際競争が激しくなることがあります.これまでは日本の企業は日本で労働者を雇い,日本で生産し,海外に輸出するというパターンが多かったかもしれませんが,企業は急速に多国籍化(無国籍化)しています.必ずしも日本人を雇わなければならないわけではありません.利潤の最大化を目的とする企業は,より優秀な人材がより安い賃金で雇えるなら,別に日本人にはこだわらないでしょう.皆さんは中国,インド,アメリカなどなど世界中の労働者と仕事を奪い合うようになる可能性があります.つい最近のニュースでも,パナソニックの新卒採用の8割が外国人になるというニュースが流れました.ファーストリテイリングなどでも外国人の採用を増やすということも聞きます.外国人と仕事を奪い合うというのは決して夢物語ではないようです.
http://www.j-cast.com/2010/06/20069022.html?p=2
 ではどうすれば国際的な競争を勝ち抜けるのでしょう?皆さんも外国に行ってみるとわかりますが,日本の学生の基礎学力は世界的に見て低くありません.むしろ優秀な方だと思います.後は大学時代にどれだけ専門的な能力を身に付けられるが勝負でしょう.グローバル化は世界と競争しなければいけないという困難でもありますが,世界中を相手に商売ができるチャンスでもあります.学生時代にしっかりと10年,20年先の世界について考えてみてください.
 そのための参考文献を紹介します.図書館にもあるのでぜひどうぞ.本当にオススメです.
トーマス・フリードマン(2006)「フラット化する世界」日本経済新聞社

総合政策演習C 第9回(6/18)

 今回は自己分析の第2回目です.

【授業の内容】
 以前にも自己分析を行い,自分,そして周りから見た自分の長所と短所をまとめました.今回は就活のネタである「大学時代にがんばったこと」を考えてみましょう.面接までに各自に考えてもらいましたが,それを実用的(企業から見て魅力的)になるよう磨き上げましょう.
 同時に企業分析が必要だと言いましたが,それは志望動機に一貫性を持たせるためです.「コミュニケーション能力に自信があり,初対面の人とすぐに打ち解けられる」ことを長所と言っておきながら,企業でやりたいことが経理というのは,どこかちぐはぐです.もちろん経理をする上でもコミュニケーション能力は役立つでしょうが,経理をしたいのならそのためのアピールをすべきでしょう.
 志望動機に一貫性を持たせるためにも,「企業選びの軸」という考え方を紹介しました.どんな企業で働きたいのか,仕事に何を求めているのか自分の内面を探ってみましょう.

 今回説明したことで,多くの場合に応用可能なものとして「なぜ?を繰り返す」というのがあります.自己分析や志望動機を薄っぺらいもので終わらせず,より深いものにするために有効です.自分が根源的に何を求めているのかを探りましょう.

 今回の課題は,次の2つです.
1.日経キーワード重要500のトレンド⑤金融⑧労働を熟読してくる
2.就活ネタ,企業選びの軸を言語化してくる

開発経済学 第10回(6\18)

 今回は人口と教育についてでした.

【授業の内容】
 以前にもマルサスの罠については説明しました.農業は収穫逓減産業であるため,農地が一定なら,子どもの数が増えれば,1人あたりの収穫量はどんどん減少してしまいます.つまり子沢山ゆえに貧乏になってしまいます.では,彼らはどうして子どもをたくさん産むのでしょう?

 長期と超長期における人口推移を見てみました.50年という長期でみても,人口はおよそ倍にまで増えています.しかし,過去数千年という時間軸で見てみると,人口はこのわずか数世紀の間に,まさに爆発的に増加していることがわかります.ここ数十年の人口増加については,前回学んだように緑の革命による食糧増加が実現できたので,飢餓に苦しむ割合は少なくなってきました.しかしこれからはどうなのでしょう?緑の革命がもう一度起きて,人口増加を上回るように食糧生産が増加するのでしょうか…?それとも人類は食糧をめぐって争いを始めるのでしょうか?
 そもそも人口爆発はなぜ起きたのか,講義では人口転換というものを紹介しました.人類誕生からつい最近まで,子どもがたくさん生まれるけれど,幼い内にたくさん亡くなってしまうという,高出生・高死亡の状況が続いてきましたが,16Cあたりから,食糧生産の増加に従って,国によっては高死亡から低死亡へと変わってきました.それにもかかわらず高出生であれば人口爆発が起きます.たくさん産まれた子供の多くが成人になり,次世代の親となりたくさん子どもを産むからです.途上国の中には,このような高出生・低死亡の状況にある国もありますが,現在の先進国の多くは,低出生・低死亡という新たなフェイズに入っています.日本,韓国,イタリアなどがその典型ですが,もはや超低出生というべき状況ですね.

 さて,出生率はどうやって決まるのでしょう.どんな場合に女性はたくさん子供を産み,どんな場合にはあまり産まないのでしょう.人口学の祖であるマルサスは2つの原理を唱えました.1つは増殖原理で,人間は大きな妨げがない限り子供を増やすものだ,と考えています.もう1つは規制原理,人口規模は生存資料(食糧など)によって制限されるというものです.つまり特に妨げさえなければ人間はどんどん増え続けると考えたのでした.しかし現実には,食糧に苦しむ貧困国で人口成長率が高い反面,食糧にあまり困らない先進国では出生率は低くなっています.マルサスはこのような未来を想像していなかったかもしれません.
 なぜ先進国では出生率が低いのか,説明する仮説をいくつか紹介しました.まずライベンシュタインの費用―便益仮説,つづいてベッカーの質・量モデルです.

 人口増加にはメリットがないわけではありませんが(クズネッツの才能原則,ボズラップの人口圧力),途上国にとってはデメリットの方が大きいと考えられがちです.そのため,中国は一人っ子政策という,究極の政策を実現しました.日本やアメリカと言った民主主義国ではとても実現できない政策です.中央集権的でトップダウンな中国ならではでしょう.一人っ子政策は人口増加を食い止めるという意味では大きな役割を果たしているのでしょうが,子供を何人産むかという完全にプライベートな決定に政府が介入することの弊害も大きいです.短期的には,「失われた女性」の問題があり,長期的には急速な高齢化により社会保障制度が揺らぐという問題があります.どちらも非常に深刻な問題である一方,一人っ子政策を採らなかった場合の中国は,今のような経済成長を達成できていなかったかもしれません.

 さて,途上国ではどうして子供が多いのかについて,かつては貧しい人々は非計画的に子どもをつくるからという偏見もありましたが,現在は様々な研究から,子供の数を増やすことが合理的な選択であることがわかってきました.そのため政府には,強制的に子供の数を制限する政策ではなく,人々が子供の数を増やしすぎないようなインセンティブを高める政策が望ましいと考えられます.

2010年6月21日月曜日

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第10回(6/18)

 今回も生産者理論です.いろんな費用が出てきてわかりにくいから,1つ1つをよく確認しましょう.

【授業の内容】
 前回に引き続き,企業の目的である利潤や,収入,そして費用の内訳などを確認しました.
 前回との違いは,新たな概念である限界費用を説明したこと,そして利潤や費用などの計算を,具体的な関数を使って行ったことです.
 限界費用とは,新たに財をもう1単位生産するときに,追加的に発生する費用のことです.可変費用と紛らわしいですね.可変費用も同じく生産を増加したときに発生する費用です.例えば生産していない時と比べ,10個生産したときに発生する費用の総額は可変費用です.対して10個生産したときの限界費用とは,10個目,その1つを生産したことで,これまでより余分にかかったコストのことです.「限界」という言葉がついたら,新たに1個を何かしたときに発生する何かを意味します.限界費用は,新たにもう1単位消費したときに発生する効用の増加分でしたね.
 さて,計算についてはここで文章で説明するのは難しいのでエッセンスだけ確認しておきましょう.まず,限界費用を出すときには,もとの総費用(もしくは可変費用)を微分することで導出されます.また,企業が利潤を最大化する時には,価格と限界費用が等しくなるように生産すべきでした.ただしこれは,限界費用が逓増する(収穫逓減)企業の場合です.そうでない場合,つまり収穫逓増産業については後期で説明します.

経済学A 第10回(6/15)

 今回は為替と貿易について説明しました.円高・円安というのは結構紛らわしいかもしれませんね.最近はギリシャの財政悪化で,ユーロがよく話題になっていますね.

【授業の内容】
 まず,為替レートの見方を説明しました.円高・円安というのはわかっているようで間違えやすいですからね.ポイントは1ドル=100円が意味する100円は,1ドルを買うために必要な金額である,ということです.だから1ドル=80円になれば,1ドルの値段が安くなった(ドル安)ことであるし,80円で買えるようになったということは円の価値が上がった(円高)ことでもあります.
 つまり円高とは(通常はドルと比べ)円の価値が高まったことであり,相対的に他国の通貨が安くなったことを意味しています.

 さて,円高不況という言葉を聞いたことがあるかもしれません.どうして我々が持っているお金の価値が高まることが不況(景気悪化)につながるのでしょう.実は私たち家計にとっては円高は(直接的には)それほど悪いことではなく,むしろ海外の商品を安く買えるため,メリットの方が大きいようです.海外旅行に行くときには,特に円高のありがたみがわかるでしょう.
 しかし日本経済の屋台骨とも言える自動車や家電などの輸出企業にとってみれば,円高は恐ろしいものです.なぜなら1ドル=100円の時,日本で3万円のデジカメはドルに直すと300ドルです.つまりアメリカでは300ドルで販売されているとしましょう.ここで円高になり,1ドル=80円になれば,このデジカメは375ドルです.25%も値上がりしてしまいました.すると,アメリカでは日本製のデジカメは割高となり,売上も落ちてしまうでしょう.
 また,少し見方を変えて,アメリカに進出し,現地で生産し,現地で販売している日本企業のことを考えてみましょう.ある年には現地で300万ドルを稼いだとします.このお金は,1ドル=100円の時(円安)には日本円に直すと3億円ですが,1ドル=80円の時(円高)には2億4000万円になります.つまり円高になったせいで,海外で稼いだお金が日本円に直すと減少してしまうのです.

 このように円高は我々消費者にはメリットがありますが,輸出企業にとってはデメリットになります.ただし,企業の利益が減ると,我々家計の所得も減るでしょうから,間接的には消費者にとっても望ましくないことかもしれません.

 さて,この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.

 来週はこの関連で,貿易について説明したいと思います.

2010年6月12日土曜日

総合政策演習C 第8回(6/11)

 今回は企業研究について説明しました.

【授業の内容】
 まず前回提出してもらった履歴書を返却し,多い間違いや,改善点を紹介しました.僕が言うことが絶対正しいわけではありません.自身の頭で判断しましょう.

 続いて企業研究するためのステップを説明しました.学生が知っている企業は限られます.特に最終消費財の生産企業や小売はある程度知っているかもしれませんが,それ以外の業界・企業についての知識は少ないことが多いです.まずは自分が知らないどんな企業があるのかを考えましょう.その手段の1つとして,いくつかのテレビ番組を紹介しました.僕が知らない企業もしばしば出てきます.番組をきっかけにその企業を知り,同じ業界にはどんな企業があるのか,とどんどん知識を広げていきましょう.
 次のステップとしては,サイトを調べることです.上場会社であれば,企業のサイトを見ることで主な情報を入手することができます.ただし消費者目線でサイトを見ても得られるものは少ないので,投資家目線で見てみましょう.注目すべきはIR情報(投資家向け情報)です.ここには企業の現状と将来像がわかります.財務内容はそこの企業のものだけを見ても強みや弱みがわかりにくいので,同業他社のものと比較すると良いでしょうね.
 最後のステップは,自分しか知らない情報を入手することです.その手段はインターンシップ,OB・OG訪問,企業訪問,店舗見学などがあります.この情報は他の人は持っていないことが多いので,自分を他の学生と差別化するために重要な情報です.そのためにもインターンシップはぜひ行っておくべきです.

 さて,授業で言い忘れましたが,先輩による就職指導ですが,今月末ぐらいから開始予定だそうです.また来週の授業で詳しく説明しますね.

開発経済学 第9回(6/11)

 今回はマイクロファイナンスを取りあげました.

【授業の内容】
 主にマイクロファイナンスとは何なのか,既存の金融機関とは何が違うのかを説明しました.ユヌス氏は海外留学から帰国し,母国バングラデシュで貧困層が貧しさから抜け出せない原因を探ります.その過程で,ほんのわずかなお金がないために,高利貸しから借りざるを得ず,商売の利益のほとんどが利子の支払いになってしまうケースに出くわします.それがきっかけとなり,グラミン銀行が設立されます.マイクロファイナンスは今では世界中に普及し,貧困撲滅の一助となっています.

  グラミン銀行の特徴として,融資額が小さい,金利が(我々が考えるほど)低くない,返済率が高い,などがあります.グラミン銀行が成功した背景には,いかに返済させるか,どうやって(貧しい人々に)お金を稼がせるか,についての数々の工夫が存在します.単なる無担保融資では,返済するつもりのない人に貸すことになりかねません.グラミン銀行が拡大した一番のポイントは,返済しようというインセンティブを持たせる仕組みづくりができていることなのかもしれません.

 一部にはグラミン銀行に対する批判もあります.中には明らかな誤解や言いがかりのようなものもあります.連帯保証制に対する批判(最貧層が排除されている)もありましたが,連帯保証制は必ずしも高い返済率の必要条件ではないということがわかってきたため,最近は廃止になったという話も聞いています.

 また,我々先進国にいる人も簡単に途上国のマイクロファイナンスに関わることができる仕組みとして,KIVAを紹介しました.2~3000円程度の小額から,目に見える形で世界の誰かに融資することができます.
KIVAウェブサイト http://www.kiva.org/

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第9回(6/11)

 今回はスルツキー分解を利用して,労働供給と,異時点間での消費最適化を説明し,その後,生産者理論の基礎知識を説明しました.

【授業の内容】
 前回までスルツキー分解を,2財の消費に適用していましたが,今回はそれを労働供給や,異時点間の消費に適用しました.

 まず,所得と余暇から効用を得る個人を想定することで,個人がどれだけ働くか(労働供給)を理解しました.賃金というのは労働者が労働力を売る際の値段であり,1単位の余暇を持つために失うお金(機会費用)でもあります.そのため,賃金率(例:時給)の上昇は,余暇時間を増やす際のコストの増加と捉えることができます.そのため,余暇を減らし,労働時間を増やして所得を増やそうという代替効果が生まれます.また,賃金率の上昇は個人を豊かにするため,所得効果も発生します.所得の増加により,余暇を増やそうという気持ちが生まれてくるでしょう.
 余暇について注目すると,代替効果では減少しますが,所得効果では増加します.これのどちらが大きいかは断言できません.みなさんに手を上げてもらったときも,「時給が上がるとバイト時間を増やす」,「減らす」,「変えない」というように実際に意見がわかれましたよね.

 さて,続いてスルツキー分解を異時点間の消費にも応用しましょう.こちらは今期の消費と来期の消費をどのような組み合わせで選ぶかを考えました.ただし,そこに貯蓄というシステムを入れたのでやや複雑になりました.今期に貯蓄したお金には利子がつくため,来期には貯蓄額より多くのお金を使えます.今期の消費と来期の消費の組み合わせを予算線として図示することが可能です.この場合も利子率の変化は相対価格の変化と同様に予算線の傾きを変化させます.

 最後に,来週への予告編として,生産者理論の前提条件や基礎的な記号や概念を紹介しました.これまでは消費者の立場(普段の我々ですね)でモノを考えましたが,これからは企業(あるいは経営者)の立場で考えなければなりません.
 企業の目的はなんでしょうか.異論はあるかもしれませんが,とりあえず利潤の最大化であると定義しました.つまり今後は利潤を最大化するためにどうすべきかを考えるのです.さて,利潤(π:profit)とは?ここでは単純に収入(R:Revenue)から総費用(TC:Total Cost)を引いたものとします.

 π=R-TC

 続いて収入(R)も考えてみましょう.企業はなんらかの財を生産し,それを販売することで収入を得るため,財の価格(P:Price)に生産量(x:quantity)をかけたものが収入になります.

 R=P×x

 また総費用ですが,こちらを可変費用(VC:Variable Cost)と固定費用(FC:Fixed Cost)に分解しました.

 TC=VC+FC

 可変費用とは生産量が変化すると増減する費用です.例としてお弁当屋さんを想定しましょう.お弁当屋さんは当然ながらお弁当を生産します.お弁当を普段は1日50食作っているとして,翌日が運動会のためお弁当の生産を倍の100食に増やすとします.すると材料費は普段よりも多くかかるでしょう.そのため材料費は可変費用だと考えられます.逆に,店舗のテナント代はお弁当をたくさん作るかどうかに(短期的には)関係ありません.お弁当を作らなくてもたくさん作っても家賃は一定です.そのためテナント代は固定費用だと言えます.
 ここで「短期的には」と言いましたが,経済学では「短期」とは多くの場合,生産設備を変更できないぐらいの期間であり,「長期」は生産設備を変更できるぐらいの期間のことです.もしこのお弁当屋さんが一気に規模を拡大し,1日10万食のお弁当を作ろうと思うと,現在の店舗ではとても無理で,工場を建設したりする必要がありそうです.このような工場建設まで考えれば,テナント代も可変費用と言えなくもありませんが,短期的には固定費用と考えてよいでしょうね.

2010年6月9日水曜日

経済学A 第9回(6/8)

 今回はゲーム理論入門です.

【授業の内容】
 これまでの話とはちょっと変わってますが,ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.

 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.この定義ではジャンケンもゲームですね.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.最初のゲームではちょっと説明不足でしたが,他のプレイヤーの利得は無視してください.相手よりどうすれば利得を高くできるか,という勝ち負けではないのです.

 最初のゲームとして,有名な「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.
 ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,ホテリングゲームも解いてみました.中には答えが分かっていた人もいたのではないでしょうか?

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2010年6月5日土曜日

総合政策演習C 第7回(6/4)

 今回は自己分析について少し説明しました.

【授業の内容】
 小テストをした後,前回の復習をしました.初めてのグループディスカッションでの失敗を踏まえ,「どうすれば上手なGDができるのか?」,「GDの基本的な流れとは?」という点を説明しました.
 GDは暗黙のルールがあります.自己紹介をして,役割分担,ここまではみんなすぐできるのですが,ここからがGDの成否が分かれるところです.今後は,配布した資料のチェックポイントを意識してやりましょう.

 続いて,自己分析のやり方を少しだけ説明しました.しかし,自己分析の正しいやり方などありません.あくまでも参考だと思ってください.紹介したのは,
・企業の視点から見てその人物は魅力的か?
・志望動機との一貫性があるか?
といった点です.前回,「主体性があり」,「コミュニケーション能力がある」人材を企業は欲しがると皆さんは結論づけたので,もちろんそれを意識すべきでしょうね.

 今回の課題は以下の通り.
・自己分析シートを埋めてくる.
・テキストのトレンド①,②を熟読してくる.

 来週6/10にはキャリアガイダンス「インターンシップへいこう」が開催されます.インターンシップの重要性は前回説明した通りです.今回もぜひ参加しましょう.

開発経済学 第8回(6/4)

 今回は農業です.途上国の貧困を考えるなら,農業についても知る必要があります.

【授業の内容】
 まずマルサスの予言を紹介しました.食糧生産は算術級数的にしか増えないのに対して,人口は幾何級数的に爆発的に増える,というものです.これにより近い将来,食糧不足,飢餓が訪れる(マルサス的悪夢)と,マルサスは考えたのですが….

 なぜ開発経済学として農業を学ぶのかというと,途上国の多くは農業国であり,途上国の貧困層の多くは農業に従事しているためです.貧困を無くすためには,農業に取り組まなければならないのです.
 とはいえ,我々にはなかなか農業は身近ではありませんので,まず農法と同じ面積での扶養可能人数を紹介しました.焼畑農業,陸稲に比べ,灌漑施設を整備した水稲は,桁違いの収量を得られることがわかりました.しかし今でも東南アジアなどでは焼畑農業は少なくありません.なぜでしょう.

 続いて農業の経済学的側面を紹介しました.まず農業は他の産業とどこが違うのか紹介しました.また,農業をマクロ,ミクロの両面から考察しました.
 マクロ的には,プレビッシュ=シンガー命題を改めて紹介しました.これは一次産品の工業製品に対する交易条件は長期的に悪化の傾向を辿る,というものでした.つまり農業を中心とした経済発展は不可能だという悲観的な結論です.
 ミクロ的には,二重経済のところでも紹介した,労働の限界生産力が逓減することから,どうすれば農家が豊かになるか(貧しくなるか)を説明しました.

 さて,マルサスの予言ですが,幸いにも(今のところ)外れました.なぜなら1960~1980年代にかけて,緑の革命と呼ばれる,食糧生産の急増が起きたからです.
 緑の革命が起きた理由は,次の3つです.
1.高収量品種(品種改良)
2.灌漑設備の普及
3.化学肥料

 結果として,人口爆発に負けないペースで食糧生産も増加したため,世界規模での飢餓は起きませんでした.しかしこれからも人口はまだまだ増加するようです.第二の緑の革命は起きるのでしょうか?それは遺伝子組換え作物により起きるのでしょうか?

 さて,授業で紹介したように,農業はリスクのある産業です.天候などの一時的ショックにより,貧しい農家はいともたやすく,更なる貧困へと転げ落ちてしまいます.一時的ショックが起きた場合,誰かがちょっとした援助をしてくれれば助かるのかもしれません.
 ということで,次回はこれに関連してマイクロファイナンスを紹介します.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第8回(6/4)

 今回もスルツキー分解の続きです.またギッフェン財についての説明もしました.

【授業の内容】
 前回小テストをしてわかったことは,予想通りスルツキー分解は理解しづらいということでした.そのため,今回も改めてスルツキー分解をゆっくり説明しました.それでもなかなかわかりづらかったと思います.特にグラフの意味はなかなか理解するのは困難でしょう.まぁそういうものだと思ってください.テキストや,図書館にあるミクロの入門書を読んでみてください.どこかに自分にとってわかりやすいものがあるでしょう(たぶん).

 また,ギッフェン財についても説明しました.ギッフェン財とは,下級財の仲間ですが,下級財の中でも所得効果が非常に強い財のことです.このような財は,価格が上がると消費が増える,という非常に奇妙な特徴を持っています.スルツキー分解してみると,なぜこのようなことになるのかわかるはずです.また,ギッフェン財の具体例も説明しましたが,設定が強引ですよね.まぁそれぐらいなかなか存在しない財なんですよ.

 さて,ギッフェン財の場合,需要の価格弾力性はどんなものになると思いますか?考えてみてください.

 次回は労働供給の理論を説明します.

経済学A 第8回(6/1)

 前回に引き続き,資産運用の知識として株式について説明です.

【授業の内容】
 前回の復習として,ギャンブルを期待値で考えてみました.期待値からすると,宝くじは非常に割りの悪いギャンブルです.宝くじするぐらいなら,公営ギャンブルをした方がまだマシだと思いますが,なぜか宝くじは人気があります.僕の自宅の近くにも宝くじ売り場がありますが,いつも賑わっているような気がします.なぜ人は宝くじを好むのでしょう?
 僕の推測では,人々は宝くじが当たる確率を過大に評価しているからだと思います.宝くじの1等が当たる確率はおよそ1000万分の1だそうです.1年間に交通事故に遭う確率が0.9%(国交省),1年間に窃盗の被害に遭う確率が約1.4%(警察庁)ですから,それぞれ3年連続で被害に遭うよりも低い確率ですね.わかりにくいか…?9つのサイコロを一斉に振って,すべて1が出る確率がだいたい1000万分の1です.ありえませんね.しかし多くの人は,自分に1等が当たる確率を(頭ではもっと低いとわかっていても)なんとなく1000分の1ぐらいの確率で当たると思っているんじゃないですかね.
 というわけで,金儲けの手段として宝くじを選ぶことは実に馬鹿馬鹿しいのですが,「ひょっとしたらお金持ちになれるかも?」という夢を買っているのだと思えば300円は妥当かもしれません.「じゃあパチンコの方が得だ!」と思う人は,機会費用も考えてください.宝くじと違ってパチンコの機会費用は高いですよね?合理的に考えるとギャンブルはしないのが正解でしょうね.ちなみに違法なのでやってはいけませんが,仲間内での麻雀は期待値が100%なので,平均的には損でも得でもありません.(仲間内でお金が移動しているだけなので当たり前ですね)

 今回はやや実践的な内容として,「毎年1万円もらえる魔法のカード」をいくらで買うかを考えてもらいました.実はこれを考えてもらったのは株価の分析方法の1つであるファンダメンタル分析を理解するためです.ファンダメンタル分析とは,将来受け取れるであろう配当の現在価値の合計が株価であるという考えです.そのため将来受け取れる配当が多くなると予想されれば株価は高くなります(魔法のカードで言えば,毎年もらえる額が増えれば,このカードの購入希望価格も上がるでしょう).また配当の現在価値であるので,利子率が関係することもわかります.
 結論としては,このファンダメンタル分析が重視するのは,その企業の将来の配当,そしてそれを決めるであろう,将来の利潤,売上げ,今後の新商品,研究開発など多岐にわたります.このため,ファンダメンタル分析で株価を予想しようと思えば,その企業について詳しくなることが第一条件です.
 一方,テクニカル分析という分析方法もあります.こちらはファンダメンタル分析とは異なり企業業績は重視せず,その企業の株価の過去の推移であるチャート図から,将来の値動きを予測するというものです.過去を見れば将来がわかる,というとなんとなくそれらしいですが,特に理論的な裏付けはありません.むしろ「こういう動きをした後は,こうなることが多かった」という経験則の集合体と言うべき分析方法です.この分析法のメリットとしては,なんと言っても「わかりやすく,とっつきやすい」ということでしょう.デメリットとしては,「テクニカル分析に従えば儲けられるという実証結果が得られていない」という点です.分かりやすく言うと,テクニカル分析の言うとおりに売買するのも,サイコロの出た目で適当に売買するのも似たようなもんだ,ということです.致命的ですね….つまり将来の予測には使い物がならないということです.しかし「テクニカル分析で儲けた」という人は後を絶ちません.実際,「テクニカル分析 万円稼いだ」というキーワードで検索するとたくさんヒットします.それもそのはず,株というものは全体の株価の平均が下がっているのでなければ,適当に買っても半分ぐらいの人は儲かるからです.そのためテクニカル分析で儲かった一握りの人が「テクニカル分析は正しい」というのでしょう.

 さて,株というのはリスクのあるものですが,そのリスクを減らすこともできます.リスクヘッジの例として,猛暑になるか冷夏になるかという気象リスクを考えてみました.猛暑になったら,自分が持っているすべての株が下がってしまった,というのではリスク対処になりません.猛暑の時,ある株は下がったが,あの株は上がった,となるような組合せをする必要があります.最大のリスクヘッジは分散投資です.ケインズは「卵は分けて持て」と言いました.ただし,分散投資をするとリスクが減る代わりにリターンも下がります.

 結論としては,リスクとリターンは比例します.リスクの低い金融商品はリターンも低く,リターンが高い金融商品はリスクが高い,というのが一般的な結論なのです.そのため,リスクが低くリターンが高い商品(「確実に儲かりますよ!」という商品)はありません.甘い話には騙されないように.

総合政策演習C 第6回(5/28)

 今回から演習Cの担当が僕になりました.

【授業の内容】
 竹村先生から引き継いで初回ですが,今回は「エントリーシートと履歴書の違い」,「インターンシップ」について説明し,「グループディスカッション(以後,GD)」を実際にやってみました.

 今回の課題として履歴書を書いてくるよう指示しました.エントリーシートと違い,履歴書で問われる内容は今からわかっているので,就活シーズンに自信を持って履歴書を書けるようにこれから書く内容を実行していきましょう.つまり適当にこれから過ごして,慌てて履歴書のネタを探すのではなく,書くことを決めておき,それに合わせて日々の生活を目標を持って送ろうということです.

 続いてインターンシップについて説明しました.大学からの推薦でインターンシップに行くこともできますが,僕が勧めたいのは,公募型のインターンシップに自ら応募し,選考を受けることです.結果として落ちても構いません.なぜなら,選考を受け,企業は学生に何を求めているか,自分には何が足りないかを確認することも重要な目的だからです.6/12に大阪で早速,インターンシップについてのイベントがあります.意識を就活モードにするために重要です.ぜひ行きましょう.

 最後にGDをやってみました.やり方も説明せずやってもらいました.テーマは「人事担当者の立場から考えた学生の採用ポイント3つとその理由」です.これはGDの練習であるとともに,人事担当者は皆さんに何を求めているかを考えるトレーニングでもあります.学生の視点と企業人の視点は異なります.自分が伝えたいこと,アピールしたいことは,必ずしも人事が聴きたいこととは限りません.
 8チームに分かれて行いましたが,結果としては「積極性」,「コミュニケーション能力」などは多くのチームが共通していましたね.まさにその通りでしょう(おそらく).また多くの学生に欠けているのが,この「積極性」だと思います.

開発経済学 第7回(5/28)

 今回は講師として稲井由美様をお迎えし,「多民族社会グァテマラのくらしと貧困・開発」という論題で講演をしていただきました.普段は理論的なことばかりなので,馴染みのない途上国の暮らしについてなかなか実感が抱けないと思いますが,今回の稲井さんのお話で,途上国で生きるということがどんなものなのか,イメージが膨らんだのではないでしょうか.

 グァテマラという国の話でしたが,これまでに講義してきた内容と関連があることに気づいたと思います.二重経済,余剰労働力と都市への移住,リスクへの脆弱性,プレビッシュ=シンガー命題などです.
 また今後のテーマとして扱う予定の農業,疾病・保健などの話もありました.

 せっかくグァテマラについての基礎知識を得たので,次回のレポートにグァテマラを取り上げるのもおもしろいと思いますよ.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第7回(5/28)

 今回はスルツキー分解です.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,ある財の価格が変化したときに,消費がどのように変化するかを,代替効果と所得効果に分解するものです.このミクロの内容でもっとも抽象的で理解しづらい(説明しづらい)ところです.

 まずは復習として,予算線の傾き,そしてシフトがそれぞれ,相対価格の変化,(実質)所得の変化を表すことを確認しました.特に実質所得という概念は今回初めて出てきました.実質所得に対する言葉として名目所得があります.名目所得とは,我々が普段の生活で認識する所得のことだと思って良いです.それに対して,実は,所得が何万円というのは豊かさとあまり意味がありません.本当の豊かさとは,そのお金でどれだけ財を購入できるかで判断できるはずです.そのため,所得だけでなく,物価にも注目して,そのお金がどれだけ購買力を持っているかを示すのが実質所得と考えてください.
 例として,もしあなたがチョコレートしか買わない人だとします.その時,一ヶ月のおこづかいが30000円で,チョコレートは300円としましょう.するとあなたの所得はチョコレート100枚分の豊かさです.数年後,もしおこづかいが60000円に増えたとするとあなたは豊かになったのでしょうか?2倍に豊かになったと考えがちですが,本当の豊かさ(実質所得)は,チョコレートの物価も考慮しなければなりません.もしその時チョコレートが600円にまで値上がりしていたとすれば,実質所得はチョコレート100枚分であり,まったく豊かさに変化はありません.

 スルツキー分解に行く前に,上級財と下級財についても説明しましょう.上級財とは,所得が上がると(下がると)消費が増える(減る)財のことです.例として,高級料理があるかもしれません.僕ももっと給料が増えれば,もっと高級な料理を食べる回数が増えるはずです.これだけでなく,我々の周りのかなり多くの財は上級財でしょうね.そのため,上級財は普通財と呼ばれることもあります.
 一方,所得が上がると(下がると)消費が減る(増える)財もあります.例えばインスタントラーメンです.僕が職を失い失業保険で暮らすようになれば,今よりきっとカップラーメンを食べる回数は増えるでしょう.つまり下級財とは廉価品(やすもの)のことですね.下級財は劣等財とも呼ばれます.

 さて,ようやく難関のスルツキー分解です.授業ではバーベキューを想定しました.限られた予算のもと,牛肉と豚肉を買うことにします.ここでは牛肉は上級財,豚肉は下級財だと仮定します.つまり予算がたくさんあれば牛肉が多くなりますが,あまり予算がなければ豚肉ばかりのバーベキューになるということです.
 ここでもし牛肉の値段が上がったら牛肉と豚肉の消費はどうなるでしょう.まず値上がりした牛肉を買わなくなるでしょうね.それだけでなく,牛肉が高くなったことで相対的に豚肉がまずます割安に感じられるようになるため(相対価格の変化),豚肉を買おうという気持ちが出てきます.この変化を代替効果と呼びます.代替効果とは,相対価格の変化による消費の変化のことです.
 また上記のような変化以外にも,牛肉が値上がりしたことで,実質所得が下がります.牛肉が値上がりしたので,買うことができる牛と豚の組み合わせが減ってしまい,少し残念なバーベキューになりそうです.このように実質所得が下がることで,牛肉と豚肉の消費はどうなるでしょう.牛肉は上級財であると仮定しているので実質所得の減少により消費が下がるはずです.逆に豚肉は下級財なので消費は増えそうです.この効果を所得効果と呼びます.
 最終的な消費は,この代替効果と所得効果を合わせたものになります.

 以上がスルツキー分解なのですが,わかりにくいですよね….

経済学A 第7回(5/25)

 またまたしばらく更新していませんでした….今回は資産運用のための基礎知識として,リスクと期待値の説明でした.

【授業の内容】
まず,利子と現在価値の関係を説明しました.現在,手元にある100万円を銀行に預ければ(利子率1%とする),1年後には101万円になります(税金や手数料は無視しておく).つまり,この場合,現在の100万円と1年後の101万円が同じ価値であると言えます.お金は時間が経つと増えると考えても良いかもしれません.
 さて,では逆に考えることも可能です.つまり1年後の101万円を現在の価値に直すと100万円です.このような考え方を,現在価値(現在割引価値)と言います.将来受け取るお金を現在の価値に直すときには利子率で割り引かねばなりません.きちっとした計算式は講義中に書きました.

 つづいて,期待値とリスクの説明をしました.期待値とは,(すでに起きたことではなく)これから起こるであろう事の確率的な平均値です.つまり未来の平均値ですかね.期待値の計算は,結果として起きること(事象と言います)とそれが起きる確率をかけ合わせたものを,すべての事象について足しあわせたものです.期末試験でも確実にこの計算を出すのでできるようにしておきましょう.

 さて,リスクですが,これは世間の人が使っている意味と,経済学の世界で使う意味が異なるので要注意です.世間では「リスク=危険性」と考えられがちですが,経済学では「リスク=結果のバラツキ」です.そのため,確実に大損をする挑戦にはリスクはありません.なぜなら結果が決まっているからです.

 最後に,「もし株を売ってはいけないとしたら,株を買うか?」という質問をして終りました.