2010年12月22日水曜日

経済学A 第13回(12/21)

 今回は少子化と結婚の経済学という,まあ息抜きのようなテーマでした.

【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.

 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.

 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.

 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 まず結婚している割合(有配偶率)をその他の指標(学歴や収入)と比較してみました.もちろんこれが全てではありませんが,ある傾向が見て取れたはずです.そのうち,なぜ収入と有配偶率に相関関係(あるいは因果関係)があるのかを説明する仮説はいくつもありますが,たくさんありすぎてすべてを紹介することはできないので,今回は,その中からイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?

 次回はこれまでほとんど扱ってこなかった金融の話をしたいと思います.

経済数学入門 第12回(12/20)

 今回も数列です.等比数列を説明しました.

【授業の内容】
 今回説明したのは,3,6,12,24,48,・・・のように,ある数と次の数の比が一定になっている数列です.このような数列は,初項と公比(ある項は直前の項の何倍になっているか)で表現できます.この場合は初項a=3で公比r=2の等比数列と呼びます.このような数列の一般項はどのように表現できるでしょう.それを考えるため,上記の数列を次のように表現してみます.
a1=3
a2=6=3×2
a3=12=3×2×2
a4=24=3×2×2×2
 すると,このように,どの項も初項に公比を何回かけたかで表現できることがわかります.ここから予想するに,第50項は3に2を49回かけたものだろうとわかりますし,第n項(一般項)は初項に公比をn-1回かけたもの(つまり公比のn-1乗)であるとわかります.
 まとめとして一般項は次のようになります.
an=a×r^(n-1)
(注)r^(n-1)はrのn-1乗を示しています.
 このような等比数列は金利の計算に必要なので,金融を学ぶ上ではよく出てくるでしょう.

 後半は等比数列の和の導出です.授業では最後に説明しましたが,等比数列の和の計算はマクロ経済学においてはケインズの乗数効果の計算に出てきます.2年の前期の割と早い時期だと思います.
 さて,その等比数列の和の計算ですが,なぜそのようになるのかは,「こうすると上手く計算できるから」としか言えませんが,とりあえず手を動かして計算しました.やりかたは,まず,等比数列の和Snから,それに公比をかけたものr×Snを差し引きます.それによりほとんどの項が相殺されて消え,2つの項のみが残ります.そこからあとは一次方程式のように計算することで等比数列の和を導けました.公式として結論を覚えても問題ないのですが,それよりはやり方自体を覚えたほうが忘れにくいと思います.今回は有限の等比数列の計算でしたが無限数列にも応用できますしね.

 さて,そろそろこの講義も終わりに近づきました.期末試験対策をしっかりしておきましょうね.

2010年12月17日金曜日

総合政策演習C 第12回(12/16)

 今回も引き続き企業プレゼンです.

【授業の内容】
 まず玉有先生のHRと竹村先生からの就職活動についてのアドバイスがありました.

 その後,前回に引き続き企業プレゼンを行いました.前回のプレゼンを見て,そこから学んで良いプレゼンをしたな,という人もいますが,前回何を見てたんだろう,という発表もありました.もう就職シーズンに入っているのに,他人に何かを伝えるということについての意識が低いのかなと心配になりました.

 次回も引き続き企業プレゼンです.

総合政策演習BⅠ 第13回(12/15)

 今回は前回に説明が不十分だった点を説明し,その後前回配った問題を解きました.

【授業の内容】
 まず,前回,ラーナーの独占度がなぜ需要の価格弾力性の逆数に等しいのかという質問について,全微分ができないと説明できないから,と後回しにしましたので,全微分の直感的な理解と具体的計算方法についての資料を用意してきました.それを用いて証明をしたのですが,まあ知らなきゃ知らないで全然問題ありません.全国の経済学部でも学部生が全微分まで使うことはあまりないと思いますし,少なくとも公務員試験では必要ありません.
 続いて,独占の共謀のパターンですが,前回は僕がやや混乱していたため,新しい問題を用意し,それを使って説明しました.

 テストについては主にくもの巣理論の確認をしましたね.右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線という通常の需要と供給ではないケースでは,いかにくもの巣理論を使うかを説明しましたね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第13回(12/15)

 今回と次回に渡ってミクロ貿易理論の説明です.

【授業の内容】
 今回はまずリカードの比較生産費説の説明をしました.両国がそれぞれ絶対優位にある財を持つ場合は,両国とも絶対優位にある財の生産に特化し,それを輸出し合うことで,両国とも豊かになれることがわかりました.これは直感的な予想と合致することでしょうから,あまり驚きはないでしょう.
 続いて,一方の国(A国)があらゆる財の生産に絶対優位を持ち,他方の国(B国)はあらゆる財の生産で絶対劣位にある場合を想定しました.この場合,A国はすべての財について他国より効率的に生産できますが,その中でもより効率的に生産できる財もあれば,B国より少し効率的なだけの財もあるでしょう.A国はこの場合,B国と比較して最も効率的(比較優位)な生産が可能な財の生産に特化し,B国は,A国と比べて劣っている中でも,最も効率性が近い(まだマシな)財の生産に特化します.それぞれが比較優位にある財の生産に特化して,輸出し合うことで,この場合でも両国とも豊かになれることがわかりました.
 つまり両国とも貿易によりパレート改善できるのです.唯一パレート改善できない場合は,両国がどんな財の生産に関しても,双子のようにまったく同じ効率性を持つ場合です.

 ただし,上記の比較生産費説は輸送費の問題や,技術進歩の可能性を排除しています.それらを導入すると結論はどんなふうに変わってくるでしょうか?

 最後に比較生産費説の中身をグラフで表現する貿易三角形を説明しましたが,わかりにくかった気がするので,次回の講義で改めて説明します.

経済学A 第12回(12/14)

 今回は日本の財政と税について説明しました.ちょうど今,税制が大きく変わったところなので,これから税についてのニュースを聞く機会は多いでしょうね.

【授業の内容】
 最初に「消費税を上げるべきか?」と質問してみました.上げることに「反対」という人の方が多いようでしたが,「賛成」という人も結構いましたね.さて,授業が終わって,意見は変化したでしょうか.
 復習として,大きな政府と小さな政府を思い出してみました.どちらが正しい,というものではなく,私たち1人ひとりがどちらの方が理想的だと思うかです.

 皆さんに現在の日本の財政状況を紹介しました.政府は収入をはるかに超える支出をしており,巨額の赤字をしています.その内訳も円グラフで確認しましたね.歳出(お金の使い途)で重要なのは社会保障費です.その他の歳出の多くは減少傾向にありますが,少子高齢化により社会保障費(年金,健康保険など)は年々増加していますし,これからも増え続けることは間違いないでしょう.借金による収入や,借金の利子の返済などを除いた収入と支出をプライマリーバランスと呼びます.現政権もプライマリーバランスの黒字化を将来的には目指しているようですが,そのためには(当たり前のことながら)支出を減らすか(年金の減額,子ども手当の減額など),収入を増やす(増税)のどちらか,もしくは両方をしなければなりません.「税金は払いたくないけど,年金はしっかりもらいたい」などは不可能です.しっかりした社会保障制度を望むのなら増税が,減税を望むのなら社会保障の規模縮小をせざるを得ないのです.

 後半は税について説明しました.皆さん,所得税と消費税がどう違うか,普段の生活ではあまり意識しないでしょう.所得税を減税して消費税を上げようと,所得税を上げて消費税を下げることとでは,同じように見えますが,どちらを選ぶかで国のかたちを大きく変わります.
 さて,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.
 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.

 最後に,日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.日本は低負担高福祉だから財政赤字が多いんでしょうかね?

経済数学入門 第11回(12/13)

 今回と次回は数列です.今回は等差数列の説明です.

【授業の内容】
 まず等差数列とはどのようなものかを説明しました.等比数列とは,その名のとおり差が一定,つまりある数から次の数を引いた時の値が一定であるような数の並びです.例えば,1,4,7,10,13・・・という数列は等差数列です.1から始まり,以降は3ずつ増加しています.この最初の数を初項と呼び,aで表現します.またその後の変化である3のことを公差と呼び,dで示します.つまりこの数列はa=1,d=3の等差数列と言えます.また記号の使い方ですが,第1項(初項)はa1(上手く表現できないけど,"1"は小さな添字です)とも表現します.第2項以降も,a2,a3,・・・で表され,特に一般項として第n項をanで表現します.

 この一般項,第n項であるanの求め方ですが,初項に公差をn-1回足したものなので,an=a+(n-1)dで表現できます.具体的な数値例を見て,先の式にaとdをそれぞれ代入すれば良いだけです.

 さて後半はガウス少年の話をしましたね.幼い頃,先生から1,2,3,・・・,50をすべて足しなさいと言われたガウス少年は一瞬で答えを出してしまいます.個別に教えるならともかく,こんな天才が教室にいると先生も教えにくいでしょうね….
 ガウス少年の考えでは,1,2,3,・・・,50を,50,49,48,・・・,1と逆から並べ,それぞれ初項と初項,第2項と第2項というように同じ項を足し合わせると,51が50個並ぶことになります.51×50=2550ですね.1,2,3,・・・,50を2回数えると2550になるので,1,2,3,・・・,50が1つだと,それを2で割った1275が答えになりますね.
 まさにこのやり方で等差数列の和(Sn)を計算することができます.先程のやり方を言い換えれば,初項と末項(最後の項)を足して2で割ります.これにより各項の数字の平均が出せます.平均の数字が項数分だけあるので,平均値と項数をかければ等差数列の和がわかります.記号で表記すれば,
 Sn=(a1+an)n/2
となります.

 最後に,1,3,9,27,81,・・・と並ぶ数列,等比数列を紹介して終りました.次週は等比数列からです.

2010年12月11日土曜日

総合政策演習C 第11回(12/9)

 今回は皆さんに企業プレゼンをしてもらいました.

【授業の内容】
 1人が1社をプレゼンするわけですが,その企業を選ぶ上での条件が4つありました.以下のとおりです.
①国内に株式市場に上場している
②業界研究,企業研究を始める前は,その企業の存在を知らなかった
③将来性や魅力があり,その企業に就職したいと思える
④就活サイトを通じてエントリーしている

 時間がある限りやろうと思ったのですが,今回できたのは10人でした.発表を聴く人にはプレゼンした人に対してコメントを記入してもらい,10人のうち上位3人の名前を書いてもらいました.コメントはコピーして,発表者に次回の演習で渡したいと思います.
 今回わかったと思いますが,良いプレゼンとそうでもないプレゼンははっきりしています.
魅力的でないプレゼンの特徴
①事前に準備した文章を読み上げてしまう
 皆さんは教員がテキストをずっと読み上げる講義を寝ないで聴き通す自信はありますか?僕はあまりありません.語りかける講義の方が(中身が同じなら)確実に聴き手を惹きつけることができるはずです.
②相手の反応を見ない
 話すペースが適当かどうかは相手の反応をみればわかります.相手の反応を見てるだけで,ペースが適切かどうかだけでなく,相手が関心を持っているか,など様々な情報が手に入ります.
③1枚のシートに文字が多すぎる
 口頭で伝える内容とシートの文章が同じ場合,おそらく聴衆は文章を読むことに集中し,話を聴かないでしょう.シートには重要なキーワードだけを示し,後は口頭で補足するようにすれば,話に耳を傾けてくれるでしょう.
④発表する練習が不十分
 このようなパワーポイントでのプレゼンの場合,多くの学生はファイル作成にほとんどの時間を費やし,ファイルが完成したら準備ができた気になります.そのため発表する練習をほとんどしないので,本番であたふたすることになります.この最後のポイントは非常に重要です.

 次週はHRやアンケートもしますが,余った時間で今回の続きをします.またランダムに当てるので,いつ当たっても良いように準備しておきましょう.今回当たったのに発表できなかった人は,次回5分以上発表するように.

総合政策演習BⅠ 第12回(12/8)

 今回は不完全競争市場と市場の理論の問題を解説しました.

【授業の内容】
 色々質問してもらって,それに答えるという形でやったので,特に統一性はなかったですね.

 共謀の問題が分かりにくかったでしょうから,改めて次回もやります.またラーナーの独占度が需要の価格弾力性の逆数になる証明ですが,わかりやすい説明ができるかどうかが僕の課題として残りました.

 来週はテキストの全範囲の質問&解説ですね.今回配布した問題は一応テストなのでやってきてください.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第12回(12/11)

 今回は費用逓減産業について説明しました.

【授業の内容】
 費用逓減産業とは,財の生産の増加に伴って平均総費用が低下するような産業です.このような形状の費用関数を持つ産業の特徴としては,初期投資として膨大な固定費用が必要であることがあります.例としては,電力業界やテレビ局などがあるでしょうね.またコンテンツ産業もそうだと思います.

 さて,資源配分の効率性について理想的な状況である完全競争市場では,企業は価格と限界費用が等しくなるように生産しました.今回の費用逓減産業でそのように生産すると何が起きるでしょう.限界費用よりも平均総費用の方が高いため,価格と限界費用が等しくなるように生産すると(限界費用価格形成原理),赤字が発生してしまいます.そのため,自立経営ができないので,政府から補助金をもらう必要があるかもしれませんね.
 この赤字の問題を解決するためには,価格と平均総費用が等しくなるように生産する(平均費用価格形成原理)必要があります.この場合赤字はなくなりますが,効率的な資源配分の場合と比べ,生産量が過小となり価格が過大になってしまいます.

 ちなみに限界費用価格形成原理でも赤字をなくす方法として二部料金制があります.携帯電話や電力などは,使用料に応じて加算される料金の他に,基本料金を設定する場合が多いようです.赤字を加入者の数で割り,それを基本料金とすれば赤字はなくなりますね.

経済学A 第11回(12/7)

 今回は貿易とグローバリゼーションについての説明でした.

【授業の内容】
 今回は珍しくパワーポイントを使いました.今回は表を描くのが大変なのです.まず,パレート改善という良い変化の定義を説明しました.パレート改善とは,他の人の幸せを損なうことなく,誰かが幸せになれるような変化のことです.では貿易をするとパレート改善になるのでしょうか?
 貿易について理解するため,リカードの比較生産費説を紹介しました.まずは絶対優位の説明です.例として,漁師と農家で考えました.漁師は魚釣りに絶対優位があり(農家より効率よくできる),農家はお米作りに絶対優位がある(漁師より効率よくできる)というように,互いに相手より得意なものがある場合の説明です.この場合,それぞれが自分の得意な物に特化し(集中して生産すること),それを相手と交換することで,両者とも豊かになれる,つまりパレート改善できます.
 続いて,なんにも得意なものがない国と,その国に比べてなんでも得意な国との貿易を考えました.事前に皆さんに予想してもらうと,ほとんどの人は貿易により両国とも不幸せに,もしくはどちらかの国が不幸せになると考えたようです.しかし,具体的に数値を入れて見てみると,わずかではありましたが,両国とも貿易をする前よりも豊かになれ,またしてもパレート改善できています.ただし,何に特化して輸出するかと言えば,なんでも得意な国はその中でも他国と比べより効率的に生産できるものを,そして何でも苦手な国は,他国と比べ,まだマシな物の生産に特化します.

 後半はグローバル化について説明しました.グローバル化は貿易のようにモノが自由に移動するだけではありません.それ以外に,ヒトやカネ,そして情報が国境を越えて移動することを指します.ヒト,つまり労働力が国境を越えて自由に移動できるようになると何が起こるでしょう?日本人が外国人と同じ仕事をめぐって競争をするようになるでしょうね.EUではずいぶん前から,比較的貧しい東欧から西欧に向かって労働者が流入し,西欧の労働者の失業率が上がり社会問題化しましたが,日本でも現在積極的に移民を受け入れようという動きがあります.ただ,実際に外国人労働者が日本にこなくても,企業が日本を捨て,海外に会社の機能や工場を移すことになれば,日本人が国内で働く機会は減りますね.つまり,今後は皆さんは同じ日本人だけでなく,外国人とも競争をすることになるのです.その競争を勝ち抜くためには,労働力の「差別化」が必要です.わかりやすく言うと,他の人が持っていない能力(専門的能力)を身に付けることが必要です.誰でも持っている能力しか持っていなければ,安い賃金で働くしかありません.

2010年12月8日水曜日

経済数学入門 第10回(12/6)

 今回は平行移動と傾きの変化でした.おまけに円もやりました.

【授業の内容】
 経済学ではグラフの経済学的意味を読み取ることが求められます.ただの直線にも,その裏には様々な背景が意図されています.今回はその例として,ミクロ経済学でよく用いられる予算線というものを色々変化させてみました.予算線とは,限られた予算(所得やバイト代など)の下で,2つの商品をどのような組み合わせで買うことができるかを示したものです.その予算線が,商品の価格が変化すると,また予算が変化すると,それぞれどのような変化をするかを確認しました.もちろん現在の皆さんは直線を描くのに悩むことはないでしょうが,グラフを見て,そこから価格や予算にどんな変化があったかを想像するのは初めての経験でしょう.

 上記のような具体例に続いて,直線や放物線の一般的なシフトの方法を説明しました.かなりワンパターンなので,それほど難しくないはずです.
 また,直線の傾きの変化についても説明しましたが,「今さら…」という感じかもしれませんね.

 最後に円の描き方を説明しました.方程式を見て,それを変化させ,円として読み取る作業です.久々に出てきた平方完成を使いました.

 「おまけ」プリントの答えは近々HP上にアップしておきます.

2010年12月1日水曜日

総合政策演習BⅠ 第11回

 今回は主に消費者理論の復習でした.

【授業の内容】
 質問がなければテストをしようと思っていたのですが,せっかく質問があったので,まずは損益分岐点と操業停止点の説明をしました.それらについては,平均総費用,平均可変費用,限界費用それぞれの曲線を描いた図についてはベイシックで説明したのですが,今回説明したのは,総費用曲線だけが描かれたケースだったので,戸惑ったと思います.しかし,基本に忠実に要点を押さえていけば,実はそれほど難しくはありません.

 また,期待効用についての質問もあったので,そちらも説明しました.ベイシックでは最後の方で,リスクの説明の所で出てきた内容です.効用の期待値,リスクプレミアムの概念がわかれば大丈夫です.大体ワンパターンな問題ばかりだと思いますし.

 さて,来週は第3,4章について予習(復習?)しておいてください.もし質問がなければ今回の範囲のテストをしましょう.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第11回(12/1)

 今回もリスクの続きです.

【授業の内容】
 前回少し説明したリスクに対する選好の分類(リスク回避者,リスク中立的,リスク愛好家)から始めました.

 多くの人は(多くの場合)リスク回避者であると考えられます.だからこそ自動車に乗るほとんどの人は強制保険だけでなく任意保険にも入っているのでしょう.
 リスク回避者を前提に,A(50%の確率で年収が1000万円だが,50%の確率で年収0円)という仕事と,B(確実に年収500万円)という仕事について考えました.
 どちらも年収の期待値は同じく500万円です.違いはリスクが存在するかどうかです.リスク回避者の効用曲線からは,Aの仕事から得られる効用の期待値(年収の期待値ではない)が,Bの仕事から得られる効用よりも低いことがわかりました.逆にリスク愛好家の効用曲線は,Aの仕事から得られる効用の期待値が,Bの仕事から得られる効用よりも高いことを示しています.
 リスク回避者の効用曲線についてもっと考えてみると,Aの仕事と同じ効用を持つのは,確実に何万円をもらえる仕事なのか,ということもわかってきます.言い換えれば,リスクを避けるために年収をどれぐらい下げられるかです.この金額はリスク・プレミアムと呼ばれます.逆にリスク愛好家が,リスクを背負うために犠牲にできる金額は負のリスク・プレミアムと呼ばれます.

 我々,リスク回避者は,リスクを避けるために様々な保険に入ることがあります.先ほどの自動車保険もその例ですね.これも確率的に考えれば平均的な個人は,保険に入ってももとがとれません.つまり平均的には受け取る金額より支払う金額の方が大きいのです.ではなぜそのような保険に入るかというとリスクを避けるためです.リスクプレミアムより安い金額であれば,人は保険に入ることで効用を高めることができます.その理由を図を使って説明しました.また,保険に入ることは,保険会社にとっても利潤が増えるので,加入者,企業どちらにとっても喜ばしいことです.保険の発明はまさにパレート改善ですね.

 ただし,前回も少し触れたように,問題は我々が確率をきちんと把握できていない点です.我々はめったに起きない事象の確率を過剰に高くとらえる傾向があるようです.事故を起こすことも確率から考えると,必要以上に高い保険に入っているのかもしれません.
 怖がりすぎるのではなく,また怖がらなさすぎるのでもなく,確率通りに適切に怖がるというのはなかなか難しいものです.

経済学A 第10回(11/30)

 今回は為替です.来週(場合によっては再来週も)まで連続したテーマです.

【授業の内容】
 為替というのはある通貨と他の通貨との交換比率のことです.円高,円安というのはよく聞く言葉ですし,円高不況という言葉があるように,円高は悪いことのようですが,なぜ?誰にとって?悪いのでしょうか.

 まず確認として円とドルを例に,円高,円安の例を説明しました.1ドル=80円が1ドル=100円になると,「円が増えたから円高?」というように混乱しがちですが,80円,100円というのは1ドルの値段なので,ドルが80円から100円へと値上がり,つまりドル高になったということです.またドルが値上がりしたのは,その比較対象である円と比べてのことなので,この場合はドル高は円安と同じことです.

 円高不況という言葉を聞いたことがあるかもしれません.どうして我々が持っているお金の価値が高まることが不況(景気悪化)につながるのでしょう.実は私たち家計にとっては円高は(直接的には)それほど悪いことではなく,むしろ海外の商品を安く買えるため,メリットの方が大きいようです.海外旅行に行くときには,特に円高のありがたみがわかるでしょう.
 しかし日本経済の屋台骨とも言える自動車や家電などの輸出企業にとってみれば,円高は恐ろしいものです.なぜなら1ドル=100円の時,日本で3万円のデジカメはドルに直すと300ドルです.つまりアメリカでは300ドルで販売されているとしましょう.ここで円高になり,1ドル=80円になれば,このデジカメは375ドルです.25%も値上がりしてしまいました.すると,アメリカでは日本製のデジカメは割高となり,売上も落ちてしまうでしょう.
 また,少し見方を変えて,アメリカに進出し,現地で生産し,現地で販売している日本企業のことを考えてみましょう.ある年には現地で300万ドルを稼いだとします.このお金は,1ドル=100円の時(円安)には日本円に直すと3億円ですが,1ドル=80円の時(円高)には2億4000万円になります.つまり円高になったせいで,海外で稼いだお金が日本円に直すと減少してしまうのです.

 このように円高は我々消費者にはメリットがありますが,輸出企業にとってはデメリットになります.ただし,企業の利益が減ると,我々家計の所得も減るでしょうから,間接的には消費者にとっても望ましくないことかもしれません.

 さて,この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.

 最後に為替制度について説明しました.今回説明したように,日本円は,為替レートが刻々と変化する変動相場制なのですが,中には為替レートを固定している通貨もあります.かつては日本も1ドル=360円の時代がありました(僕は生まれてませんが).また,固定相場制を基本として,上下数%の変動を認めるペッグ制を採る通貨もあります.

 来週はこの関連で,貿易について説明したいと思います.

経済数学入門 第9回(11/29)

 今回は微分の締めくくりとして,最大化・最小化問題を解き,また偏微分について説明しました.

【授業の内容】
 最大化・最小化問題というと大げさですが,基本は2次関数のグラフをきちんと描けるかどうかです.ただし,その前になんらかの制約がある場合を考えました.
 皆さんが服を買えば買うほど幸せになれる人間だったとします.その場合,もし何も制約がなければ,幸せを最大にするため(目的)には服を無限に買うことが合理的な答えです.しかし皆さんが服を無限に買うことはありません.なぜなら様々な制約が存在するからです.制約の代表例はお金です.皆さんが持っている,あるいは服に使うことができるお金は限られているので,無限に買えません(予算制約).また,お金があってもクローゼットが一杯なら買うことができないかもしれません(空間的制約).また,1日は24時間しかないので服を無限に買う時間もないでしょう(時間的制約).
 このように制約がある場合には,それらを無視して単純に最大化・最小化することはできません.では数学的にはどうやって制約を守りながら目的を達成するのでしょう?他のやり方もありますが,今回説明したのは制約の式を目的の式に代入した上で最大化・最小化問題を解くやりかたです.

 最大化・最小化問題は経済学で非常によく出てくるので,必ず期末試験でも出題します.配布した課題をしっかりやってください.(そしてできることなら来年まで覚えておいて欲しい…)