2009年5月30日土曜日

開発経済学 第7回

 今回は人口経済学と教育について説明しました.

【授業の内容】
 以前にもマルサスの罠については説明しました.農業は収穫逓減産業であるため,農地が一定なら,子どもの数が増えれば,1人あたりの収穫量はどんどん減少してしまいます.つまり子沢山ゆえに貧乏になってしまいます.では,彼らはどうして子どもをたくさん産むのでしょう?

 長期と超長期における人口推移を見てみました.50年という長期でみても,人口はおよそ倍にまで増えています.しかし,過去数千年という時間軸で見てみると,人口はこのわずか数世紀の間に,まさに爆発的に増加していることがわかります.ここ数十年の人口増加については,前回学んだように緑の革命による食糧増加が実現できたので,飢餓に苦しむ割合は少なくなってきました.しかしこれからはどうなのでしょう?緑の革命がもう一度起きて,人口増加を上回るように食糧生産が増加するのでしょうか…?それとも人類は食糧をめぐって争いを始めるのでしょうか?
 そもそも人口爆発はなぜ起きたのか,講義では人口転換というものを紹介しました.人類誕生からつい最近まで,子どもがたくさん生まれるけれど,幼い内にたくさん亡くなってしまうという,高出生・高死亡の状況が続いてきましたが,16Cあたりから,食糧生産の増加に従って,国によっては高死亡から低死亡へと変わってきました.それにもかかわらず高出生であれば人口爆発が起きます.たくさん産まれた子供の多くが成人になり,次世代の親となりたくさん子どもを産むからです.途上国の中には,このような高出生・低死亡の状況にある国もありますが,現在の先進国の多くは,低出生・低死亡という新たなフェイズに入っています.日本,韓国,イタリアなどがその典型ですが,もはや超低出生というべき状況ですね.

 さて,出生率はどうやって決まるのでしょう.どんな場合に女性はたくさん子供を産み,どんな場合にはあまり産まないのでしょう.人口学の祖であるマルサスは2つの原理を唱えました.1つは増殖原理,人間は大きな妨げがない限り,子供を増やすものだ,と考えています.もう1つは規制原理,人口規模は生存資料(食糧など)によって制限されるというものです.つまり特に妨げさえなければ人間はどんどん増え続けると考えたのでした.しかし現実には,食糧に苦しむ貧困国で人口成長率が高い反面,食糧にあまり困らない先進国では出生率は低くなっています.マルサスはこのような未来を想像していなかったかもしれません.
 なぜ先進国では出生率が低いのか,説明する仮説をいくつか紹介しました.まずライベンシュタインの費用―便益仮説,つづいてベッカーの質・量モデル,最後にイースタリンの相対所得仮説です.

 人口増加にはメリットがないわけではありませんが(クズネッツの才能原則,ボズラップの人口圧力),途上国にとってはデメリットの方が大きいと考えられがちです.そのため,中国は一人っ子政策という,究極の政策を実現しました.日本やアメリカと言った民主主義国ではとても実現できない政策です.中央集権的でトップダウンな中国ならではでしょう.一人っ子政策は人口増加を食い止めるという意味では大きな役割を果たしているのでしょうが,子供を何人産むかという完全にプライベートな決定に政府が介入することの弊害も大きいです.短期的には,「失われた女性」の問題があり,長期的には急速な高齢化により社会保障制度が揺らぐという問題があります.どちらも非常に深刻な問題である一方,一人っ子政策を採らなかった場合の中国は,今のような経済成長を達成できていなかったことも推測できます.

 さて,途上国ではどうして子供が多いのかについて,かつては貧しい人々は非計画的に子どもをつくるからという偏見もありましたが,現在は様々な研究から,子供の数を増やすことが合理的な選択であることがわかってきました.そのため政府には,強制的に子供の数を制限する政策ではなく,人々が子供の数を増やしすぎないようなインセンティブを高める政策が望ましいと考えられます.

 次週はマイクロ・ファイナンスです.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第7回

 今回から企業行動の分析です.

【授業の内容】
 まず,完全競争市場の復習をしました.今後の話はすべて完全競争市場を舞台としています.またしばらくは,短期における企業行動を分析します.

 短期とは,生産設備の変更ができない期間のことです.例えば,これまで1日100食ぐらいを作っていたお弁当屋さんに大手コンビニチェーンから1日3000食作って欲しいという依頼が来た場合,現状のままの設備ではとても無理でしょうから,新しく工場を用意しなければならないでしょう.完成までにかかる期間は半年でしょうか?1年は必要でしょうか?それぐらいの期間は長期です.しかし1週間とか10日とかいう期間は明らかに短期でしょうね.長期の話はもう少し後で取りあげます.しばらくは短期について考えましょう.

 まず企業の目的を考える必要があります.経済学はとかく,「目的は何か?」を最優先に考えます.目的が決まってなければ行動できませんもんね.
 ここでは企業の目的は利潤(Π)の最大化であるとします.またその利潤は収入(R)から総費用(TC)を引いたもので表されます.つまり,
 Π=R-TC
ということです.このうち収入は価格(P)と生産量(X)を掛け合わせたものです.つまり,
 R=P×X
です.生産したものが売れ残ったらどうするんだ?という疑問も出てきそうですが,完全競争市場の条件より,他の企業と同じ価格で売っている限り,どれだけ生産してもすべて売ることができると考えています.
 総費用は固定費用(FC)と可変費用(VC)に分けることが可能です.
 TC=FC+VC
固定費用とは,生産量に関係なく発生するコストのことです.つまり生産してもしなくても発生するものです.例えばパン屋さんであれば,パンを売るためのテナント代や,生産に必要な設備の購入代金がそれにあたるでしょう.一方,可変費用は,生産量が増えるに従って増加するものです.パン屋であれば,原材料費や,バイト代などがそれにあたるでしょう.

 さて,企業は生産に必要なもの(労働力や原材料など)を投入し,財を生産します.その際の効率性については,生産規模が大きくなるに従って生産効率が悪くなるような収穫逓減,生産規模が大きくなるに従って生産効率が良くなる収穫逓増,生産規模に関係ない収穫一定という3パターンに分類されます.このうち,収穫逓増は,世間ではスケール・メリットが働く,という呼び方をされることが多いようです.ここでは,長い目で見ると収穫逓減の企業を想定しています.

 ようやく舞台の説明がすべて終わったので,具体的な数値で考えていきます.配布した資料のような,小規模の生産者を例に,どうすれば(どこに着目すれば)利潤が最大になるかを考えました.
 実際に手を動かして,色々計算をした結果,唯一の投入財である労働の価格,つまり賃金とその限界生産力のバランスが重要であることがわかりました.

経済政策論 第7回

 今回からテーマは観光です.観光は日本では数少ない成長産業であり,昨年には観光庁が設立されるなど近年注目されている分野です.

【授業の内容】
 今回は,「なぜ観光に注目すべきか?」を話した後,日本の観光についての現状,近年のキーワード,徳島の観光についての現状,という順に説明しました.

 なぜ観光なのか?というとなかなか難しいのですが,1つには日本において今後も成長が見込まれる分野だから,と言えるかもしれません.実際,日本を訪れる外国人観光客の数は,(他国と比べるとまだまだ少ないとしても)年々増加しています.政府はビジット・ジャパン・キャンペーンと称して,2022年までに外国人観光客を倍増させようとしています.おそらく,近隣の途上国が順調に成長していけば十分達成可能な目標でしょうね.観光庁の統計によると,2007年の観光客数は835万人で,前年比+13.8%と大幅に増加しています.

 近年注目されているキーワードとしては,サステナブル・ツーリズム,エコツーリズムがあります.どちらも似たようなものですが,環境に配慮し,自然に負荷をかけないような旅行のあり方が模索されています.

 徳島の観光についてまず言及すべきは,全国でも最下位クラスの観光による恩恵を受けていない県です.徳島での宿泊者数は奈良よりわずかにマシなワースト2です.奈良県同様,観光客は来るけれど素通りされてしまう(宿泊してもらえない)県のようです.また外国人観光客は,日本に来る外国人の約400人に1人しか来ません.
 それでもトータルとしては徳島に来る観光客数はわずかながらも増加を続けています.
 徳島は観光客の少ない県ですが,逆に言えば伸びしろのある県だと思います.問題点は,徳島の一番の売りである阿波踊りによる観光客の増加は見込めないという点です.阿波踊りの時期は観光客が多いのですが,その期間はすでにホテルはどこも一杯ですが,だからといって客室数を増やしてしまうと,他の時期の稼働率が低くなってしまいます.つまり阿波踊りに頼らず,他の時期の観光客数を増やすことが課題です.

 ということで,次回までの課題として以下の4点を考えてもらいます.
・阿波踊り以外の観光の目玉を探す
・海外からの観光客数をどうやって増やすか
・徳島県内にエコツアーはあるか?なければ考える
・長野県の観光客数はなぜ多いのか

経済学Ⅱ 第7回

 今回は損益分岐点と操業停止点についての説明でした.

【授業の内容】
 これまでは主に表に具体的な数値を書き込んで,どうすれば最も利潤が大きくなるかを考えてきましたが,今回は図を用いて,企業の最適な生産量,その時の収入,費用,利潤などを確認しました.また,その中で,損益分岐点と操業停止点というものを説明しました.
 損益分岐点とは,その価格を下回ると(どんなにがんばっても)利潤が赤字になってしまう価格のことです.逆にこれを上回れば(うまく生産すると)利潤は黒字になります.具体的には,限界費用と平均総費用が等しくなる点でした.この点では,価格と平均総費用が同じになります.つまり,販売する財の1個あたりの得られる金額(価格)と,生産にかかる1個あたりの費用(平均総費用)が同じなので,利潤は0になります.
 操業停止点とは,その価格を下回ると(どんなにがんばっても)利潤が赤字であるだけではなく,その赤字は生産を一切停止した時に発生する費用(固定費用)よりも大きいため,生産(操業)を停止すべきです.逆にこれを上回れば利潤は黒字,もしくは赤字であっても操業を停止した際の赤字よりはまだマシ,というものです.つまり操業すべきかどうかを決定するような価格のことです.具体的には,限界費用と平均可変費用が等しくなる点です.この点では,生産したことにより得られるお金(収入)と,生産することにより発生するお金(可変費用)が等しくなります.そのため,操業してもしなくても,固定費用分だけの赤字が発生します.

 このように,限界費用,平均総費用,平均可変費用の3つがわかれば,どれだけ生産すべきか,赤字か黒字か,操業すべきかすべきでないか,が一瞬でわかるようになります.今回の内容は必ずテストでも出します.そのため,次回は練習問題を用意しておきます.

2009年5月26日火曜日

経済学A 第7回

 今日は株式について学ぶための基礎知識として,現在価値,期待値,リスクについて学びました.

【授業の内容】
 まず,利子現在価値の関係を説明しました.現在,手元にある100万円を銀行に預ければ(利子率1%とする),1年後には101万円になります(税金や手数料は無視しておく).つまり,この場合,現在の100万円と1年後の101万円が同じ価値であると言えます.お金は時間が経つと増えると考えても良いかもしれません.
 さて,では逆に考えることも可能です.つまり1年後の101万円を現在の価値に直すと100万円です.このような考え方を,現在価値(現在割引価値)と言います.将来受け取るお金を現在の価値に直すときには利子率で割り引かねばなりません.きちっとした計算式は講義中に書きました.

 つづいて,期待値とリスクの説明をしました.期待値とは,(すでに起きたことではなく)これから起こるであろう事の確率的な平均値です.つまり未来の平均値ですかね.宝くじやギャンブルを例に説明しました.期待値で考えると,宝くじは非常に割りの悪いギャンブルです.宝くじするぐらいなら,公営ギャンブルをした方がまだマシだと思いますが,なぜか宝くじは人気があります.僕の自宅の近くにも宝くじ売り場がありますが,いつも賑わっているような気がします.なぜ人は宝くじを好むのでしょう?
 僕の推測では,人々は宝くじが当たる確率を過大に評価しているからだと思います.宝くじの1等が当たる確率はおよそ1000万分の1だそうです.1年間に交通事故に遭う確率が0.9%(国交省),1年間に窃盗の被害に遭う確率が約1.4%(警察庁)ですから,それぞれ3年連続で被害に遭うよりも低い確率ですね.わかりにくいか…?9つのサイコロを一斉に振って,すべて1が出る確率がだいたい1000万分の1です.ありえませんね.しかし多くの人は,自分に1等が当たる確率を(頭ではもっと低いとわかっていても)なんとなく1000分の1ぐらいの確率で当たると思っているんじゃないですかね.
 というわけで,金儲けの手段として宝くじを選ぶことは実に馬鹿馬鹿しいのですが,「ひょっとしたらお金持ちになれるかも?」という夢を買っているのだと思えば300円は妥当かもしれません.「じゃあパチンコの方が得だ!」と思う人は,機会費用も考えてください.宝くじと違ってパチンコの機会費用は高いですよね?合理的に考えるとギャンブルはしないのが正解でしょうね.ちなみに違法なのでやってはいけませんが,仲間内での麻雀は期待値が100%なので,平均的には損でも得でもありません.(仲間内でお金が移動しているだけなので当たり前ですね)

 さて,リスクですが,これは世間の人が使っている意味と,経済学の世界で使う意味が異なるので要注意です.世間では「リスク=危険性」と考えられがちですが,経済学では「リスク=結果のバラツキ」です.そのため,確実に大損をする挑戦にはリスクはありません.なぜなら結果が決まっているからです.

 では,基礎知識は終わったので,次週から現実的な株の話をしましょう.今回話した,魔法のカードの話を覚えておいてくださいね.

2009年5月24日日曜日

経済学Ⅱ 第6回

 1日空けて,また経済学Ⅱです.ややこしい所なので集中して説明できて良かったです.

【授業の内容】
 前回同様,企業行動についての分析です.今回は大企業をイメージして,短期においてどのように生産するのか考えました.

 短期における大企業では,少量しか生産しない場合は非効率的です.どんどん生産量を増やしていくほど,効率的に,つまり安く生産できるようになります.このように大量生産することで,安く生産できることは,スケール・メリット(規模の経済)と呼ばれます.スケール・メリットは身近な所にも存在します.例えば,皆さんがお弁当を作る時もそうでしょう.自分のお弁当だけ作ろうとすると,1つ当たり500円ぐらいかかってしまうかもしれません.しかし同時に兄弟の分も作れば,1つ当たりのコストはもっと安くできるでしょう(300円ぐらい?).あるいは家族全員のお弁当を作ればもっと効率的に(安く)できるはずです.
 さて,いつまでもこのスケール・メリットが続くわけではありません.なぜなら短期,つまり生産設備が一定であるという仮定をしているからです.皆さんのおうちの台所も,何十人分のお弁当を作れるほど巨大ではありませんよね.最適な規模を超える量の生産をしようとすれば,どうしても非効率的にならざるを得ません.

 このような想定の下に,今回も地道に計算しました.今回もポイントは,価格と限界費用の関係でした.価格よりも限界費用の方が低い場合,新たに1個生産すると,その差額が儲け(利潤が増える)になりますし,逆の場合に生産すると利潤は下がってしまいます.つまり,価格と限界費用が等しくなるまで生産するのが最適な行動でした.
 さて,次回は「赤字なのに生産する」という不思議な現象を解明しましょう.そのための道具として,平均総費用平均可変費用を前もって説明しておきました.

2009年5月22日金曜日

経済政策論 第6回

 今回は健康保険・介護保険の締めとして,徳島県の医療問題を考えました.

【授業の内容】
 まず,前回取りあげた企業別の健康保険組合の保険料についての記事があったので,それを読んでみました.中には協会けんぽより割の悪い組合も出てきているようでした.

 前回の課題である「徳島県の医療に対する方針・・・医療費削減に向けた取り組み」,「徳島県の医療全般に対する問題点」の2点について発表してもらいました.
 僕も県のHP等をいろいろ探しました.いろいろ取り組みが掲載されてはいましたが,具体的な目標(数値目標)が書かれているものは稀でした.また数値目標を掲げたものでも,どうやってそのような目標を達成するのか,なぜその取り組みに効果があると考えられるのかについては明確な説明がなく(少なくとも我々には見つけられませんでした),計画の体裁は整えられているけど,実効力があるのかについては疑問が残りました.
 徳島に住んでいると,「糖尿病による死亡率が全国ワースト(だった)」という話をよく聞くのですが,これについても調べてみると,人口10万人あたりの数値に過ぎず,年齢構成についての調整がされていないようなので,どれだけ意味があるものなのかもよくわかりません.実際徳島県は高齢化も進んでいるので,人口当たりで言えば首都圏などに比べ死亡率が高くなるのは当たり前のはずです.こうしたまっとうな議論がないまま,「ワースト」という言葉が県内で一人歩きしているのだと感じました.(もちろん年齢調整をしても全国トップクラスなのでしょうけどね)

 さて,医療全体に対する問題点としては,なんといっても医者の偏在でしょう.人口当たりの医師数は少なくありませんが,多くが徳島市などの一部地域に集中しており,南部や山間部では医師不足が深刻な問題となっています.対策として,医師バンクといったものも作られているそうです.
 また,高齢化が進んでおり,人口当たりの受療率が入院,外来ともに高いことから考えても,医療費が高い県である可能性があります.(ひょっとしたら予防にお金を使っているので,低く押さえられているのかもしれませんが)

 今回で健康保険については終わりです.次回は観光を取りあげることにしました.高速のETC割引も始まったことだし,タイムリーな話題ですね.

経済学Ⅱ 第5回

 今回から企業行動の分析に入ります。

【授業の内容】
 まず企業の目的を確認しました.ここでは企業の目的は利潤の最大化である,と仮定しましょう.あくまで仮定です.実際,いろんな企業のサイトを見てみると「地域貢献」や「お客様の幸せ」などと書いてありますしね….

 さて利潤とは何でしょう?ここでは収入から総費用を引いたものが利潤であるとします.さらに収入は価格と生産量をかけたものであるとします.(つまり生産しただけ全部売れると仮定しているのです.)

 また,しばらく,講義ではいずれも分析は,短期のことだけを考えます.ここで言う短期とは,生産設備が変更できないぐらいの期間です.

 このような条件(仮定)のもとで,小さな企業と大企業がどのような行動を取るか考えました.配布した表を用いて,小企業と大企業のいずれにおいても,どれだけ労働者を雇えばもっとも利潤が大きくなるのかを確認しました.
 以下の言葉が出てきました.中身を確認しましょう.

  • 限界費用
  • 限界収入
  • 総費用
  • 固定費用
  • 可変費用
  • 限界利潤

経済学A 第6回

 今週は学生の面接があったため(まだ終わってないけど),更新が遅れてしまいました.

【授業の内容】
 今回は年金を取りあげました.年金は誰もが近いうちに係わることになるものですし,いつかは知らなければならない知識なのでやりました.

 といっても,僕は年金の実務上の話については詳しくないので,主に社会保障としての年金の話をしました.社会保障制度とは,安定的な生活を営めない人を社会全体で助けようという仕組みです.
 社会保障はその方法により,保険的方法と扶助的方法に分けることができます.今回の年金(保険)や失業保険,健康保険など~保険とつくものは,いずれも保険料を払った人のみが受け取れる保障であり,保険的方法に分類されます.受益者負担の原則に沿ったものですね.一方の扶助的方法には,児童福祉,生活保護,災害援助など,受益者が事前に負担しているかどうかに関係なく受け取れるものです.

 さて年金とはどのような仕組みなのでしょう?保険的方法であるので,原則的には年金保険料を事前に納めていた人だけが年金を受け取れます.日本の年金システムは修正積立方式と呼ばれます.一見積立方式っぽいですが,事実上は賦課方式です.この積立方式と賦課方式の違いを理解しておきましょう.積立方式は名前の通り,自分で年金を積み立て,それを将来受け取るという貯金のようなものです.賦課方式は,支払った保険料を,同時代の高齢者が受け取り,自分が高齢者になった時にはその時代の現役世代が払った保険料をもとにした年金を受け取ります.
 現行の制度が事実上賦課方式であるために,かつては大きなメリットがありましたが,現在は大きなデメリットに直面しています.賦課方式のメリットとはインフレに強いことであり,デメリットは少子高齢化に弱いことです.その理由は講義で説明しました.

 ややこしい年金ですが,もっともややこしいのは,職業により加入する年金が異なることではないでしょうか?厚生年金,共済年金,国民年金基金など,わかりにくいですね.

 後半は年金の問題点と学生納付特例制度について説明しました.
 いくつか問題を指摘しましたが,それでも僕は(例外的な少数派を除いて)年金制度を受け入れるべきだと思います.また,まだ入るかどうか迷っている人も(それはそれでアリだと思いますが),学生納付特例制度の申し込みだけはしておきましょう.少なくとも申し込んでも損はありませんからね.

2009年5月16日土曜日

開発経済学 第6回

 今回は農業でした.農業をミクロ・マクロの両面から捉え,緑の革命が何をもたらしたのかを紹介しました.

【授業の内容】
 かつてマルサスは,食糧は算術級数的にしか増えない(つまり1次関数的に直線)のに対して,人口は幾何級数的に増える(つまり二次関数的に放物線)ため,将来,必然的に食糧不足が起きると予言しました.なぜなら農業は土地がなければ生産できませんが,土地は有限であるため,農地を増やすには限界があるからです.一見,説得力のありそうなこの予言ですが,その後どうなったか見てみましょう.

 まず,農業を経済学的に眺めてみます.マクロ的には,先週の工業との対比で捉えました.ヌルクセやプレビッシュたちは輸出ペシミズム論を唱えました.一次産品の輸出に依存した経済開発は困難であるというのが,その内容です.その背景には,一次産品の工業製品に対する交易条件は長期的に悪化傾向を辿るというプレビッシュ=シンガー命題があります.
 もう少し詳しく言うと,先進国(工業国)で技術革新が起きると,それは所得の増加をもたらすのに対して,途上国(農業国)で技術革新が起きると,それは所得の増加ではなく,農作物価格の下落を引き起こすとされています.そのため,先進国は所得も増え,さらに食料品を海外から安く買うことができるという二重の恩恵を受けますが,途上国は生産物価格が下落するため所得はあまり増えないので輸入品(工業製品)を手に入れるのにさらに苦労するというひどい目に遭います.

 一方,ミクロ的側面からは農業はどんな風に捉えられるでしょう.食糧を土地と労働の投入からできる生産物と捉えれば,(土地面積が一定であるという条件のもとでは)労働投入量が増えれば増えるほど,1人あたりの耕作面積と1人あたり生産量は減少します(限界生産力逓減).つまり,人口が増えれば増えるほど貧しくなるのです.
 実際,インド,パキスタン,バングラデシュなどアジアのほとんどの国では,1人あたりの耕作面積が減少しています.
 農家が貧困から脱却するには,人口減少(制限),余剰労働力を都市への流出,収穫効率の改善が考えられます.緑の革命はこの3つ目,農業における収穫効率の改善,しかも驚異的な改善でした.

 緑の革命は1960年代までにメキシコと東南アジアで,1980年代までには南アジアでも起こりました.高収量品種,灌漑設備,肥料という3つの要因により,世界の食糧生産は急増しました.マルサスの予言とは異なり,この革命により,人口成長を上回るペースで食糧生産量が増加したのです.
 現在,アフリカでも緑の革命が起きようとしています.その武器の1つがネリカ(New Rice for Africa)です.アジアイネの高い収量性とアフリカイネの乾燥に強く,病虫に強いという性質を併せ持ったイネです.UNDPや各国政府がその導入に向けて活動しています.今後,人口爆発が予想されるアフリカの未来は,このネリカがアフリカに根付くかどうかによって大きく変わるかもしれません.

 さて,来週は人口問題かマイクロ・ファイナンスのどちらかをやります.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第6回

 今日は家計行動のまとめです.前半はスルツキー分解のつづき,後半は労働供給について説明しました.

【授業の内容】
 前回,スルツキー分解について説明しました.しかし,例が少なく,わかりにくかったと思うので,改めてスルツキー分解を説明しました.
 また,これまで簡単に紹介しただけだったギッフェン財が下級財であるということも,スルツキー分解で説明しました.

 労働供給ですが,我々個人や家計は消費者であるだけでなく,労働者としても市場にかかわっています.簡単にではありますが,労働市場の売り手である家計について説明しました.
 皆さんのうち何割かはバイトをしていますね.さて時給(賃金率)が上がると,皆さんの労働時間は増えるでしょうか?減るのでしょうか?おそらく全員が一致した答えにはならないでしょう.その理由を,無差別曲線と予算線という,これまでに習得した道具を使って説明してみようというのが今回の狙いです.
 所得と余暇という2つを増やすことで効用を得る個人を想定し,その無差別曲線を描き,そこに,限られた時間と賃金率から得られる予算線を描き加えると,最適な労働時間(余暇時間)と所得がわかります.その図から,賃金率と労働時間との関係が浮かび上がってきました.

 来週からは企業の行動について学びます.

総合政策演習D 第5回

 えー,先週はどうもすみません….今週が一応,僕が担当する最後の回になります.次回からは橋本先生が担当されます.そして僕は後期に復帰します.

【授業の内容】
 今回は業界研究・企業研究について話しました.「企業研究て,何を研究するんだ?」という人もまだ多いと思います.簡単に言うと,志望する企業の面接官から「(同じ業種の)Q社じゃなくて,なぜうちを選んだの?」と聞かれた時に,まともな回答をするためです.そのためには,その企業のことを深く理解するのは当然として,同業他社(つまり業界)のことを理解しておく必要があります.
 さて,必要性はわかったとして,どうやって研究するのか?色々やり方はあると思いますが,僕なら株式の長期投資をするつもりで研究します.就活でその企業を選ぶということは,卒業から数十年に渡ってその企業と運命を共にしたい,ということなので,将来性があり,長期にわたって発展していきそうな企業を選びたいと思います.さらにそこで自分が成長できれば言うことないでしょう.僕は,少なくとも将来性がなくこれからどんどん縮小していきそうな業界をわざわざ選びたいとは思いません.(みなさんもそうですよね?)
 総合政策学部で学んでいる皆さんは,企業の見方を少しは身につけているはずです.上場企業であればサイトのIR情報を見ることで投資家にとって必要な情報の多くを手に入れられます.
 後は,アンテナを張ることです.就活ノートに行きたい企業を書いておけば,新聞などでその名前をチラッと目にしたら,気になって記事を読むようになるでしょう.大事なのは,いつ,このアンテナを張るかです.なるべく早くアンテナを張って,多くの情報を手に入れましょう.

 さて,演習Dの本題であるSPIについては,今回までが非言語問題でした.次回から言語問題です.予習範囲は次の通り.
テキストpp.18-25,「同意語」,「反意語」

2009年5月15日金曜日

経済政策論 第5回

 前回に引き続き健康保険・介護保険です.

【授業の内容】
 今回は課題について発表してもらいました.

・誰がどの健康保険に入るのか?それぞれの保険には違いがあるか?
 これは大雑把に言うと,独自で保険組合を持つ企業(主に大企業)に入社すればその保険に,そうでない企業であれば協会けんぽに,自営業,あるいは無職などの場合は国民健保に入るようです.
 それぞれ保険料率に違いがあるようでした.

・医療費の保険診療点数について調べる
 さまざまな治療,作業?毎に決められた点数が加算され,その合計点数を1点=10円に治したものが医療費になるようです.ただし保険が効くため3割負担で良いということでした.
 診療が時間内か外か,休日か,深夜か,幼児か,初診か再診かなど,様々な条件で点数は異なるようです.

・健康保険が抱える問題点について調べる
 「赤字の保険組合が増えている」,「医療費が削減されている」,「後期高齢者に予算枠が設定されている」など多くの問題が見つかりました.

 そこから,身近な話になり,徳島県の医療の問題へとテーマが変わりました.

 ということで,次回の課題は次のようになりました.
・徳島県の医療に対する方針・・・医療費削減に向けた取り組み
・徳島県の医療全般に対する問題点
・次のテーマを(ぼんやりと)考えてくる

経済学Ⅱ 第4回

 今回でまだ4回なんですね.今回は2財のケースの効用である無差別曲線と,労働市場について説明しました.前半と後半で別の話でした.

【授業の内容】
 まず無差別曲線ですが,この曲線は,効用の水準が一定であるようなある財(A財)とある財(B財)の様々な組合せを集めたものです.例えば,あなたが1週間にサンドイッチを5個とプリンを5個食べているとしましょう.この時の効用の水準を仮に100とすると,同じ効用(100)を得られるようなサンドイッチとプリンの組合せにどんなものがあるでしょうか?例えばサンドイッチ3個にプリン8個,サンドイッチ1個にプリン20個などがあるかもしれません(人によって違いますけどね).
 この無差別曲線にはいくつかの特徴があります.無差別曲線はいくらでも(何本でも)描くことができます.またそれらは右上にある無差別曲線ほど高い効用を表しています(サンドイッチとプリンをたくさん食べると幸せになりますよね).また無差別曲線同士は決して交わりません.
 さて,2財のケースの効用は無差別曲線により図にすることができました.非常に高い効用を得られれば良いのですが,現実にはなかなか難しいです.その原因の1つは予算制約です.限られた予算内でしか財を購入できないという当たり前の制約です.これを予算線として図に描き入れることで,予算内でもっとも効用が大きい点を図で表現することができました.
 また応用として,無差別曲線の形状が財と財の組合せを示すことも説明しました.その例が補完財と代替財です.補完財とは右足の靴と左足の靴のように両者が揃って初めて効用を生み出す財のことです.代替財とは,水とお茶のようにそれぞれが互いの代わりになりうる財のことです.

 後半は家計行動の締め括りとして,労働供給についても簡単に説明しました.与えられた条件の中で(例:1日24時間,時給800円),いかにして効用を最大化するかを図にしてみました.
 わかったことは,時給(賃金率)が上がれば労働量が増えるという単純なものではないということでした.かなり高い給料で長時間働いている人は,それ以上給料が上がっても,もっと働こうという意欲はあまり湧かないでしょう.おそらく所得による限界効用よりも,余暇の限界効用の方が高いのでしょうね.
 さて現実ですが,学生のバイトであれば時給を考えて働く時間を選べますが,正社員の場合はどうなのでしょうね?また考えてみてください.

2009年5月12日火曜日

経済学A これまでのアンケートまとめ

 これまでの第2~4回アンケートで記述してもらった「あなたの興味のあること」のうち,今後取りあげてみたいものと,これまでに取りあげたものをまとめてみます.

【今後,ほぼ確実に取りあげるもの】

  • 年金:圧倒的に多いです.来週説明しようと思います.健康保険も.
  • 税金:これは第12回(財政の回)ぐらいに取りあげます.
  • 金融危機(サブプライムローン問題):今日やろうと思ったのですが,また折を見てやります.
  • 円高・円安,世界経済,IMF:為替の回(来月初め?)にやります.
  • 株式:これも今回の名目値,実質値に絡んでくるので,今後やります.
【すでに取りあげたもの】
  • 定額給付金
  • 仕事(就職):第2回でもやりましたが,また機会があれば説明します.

【できれば取りあげたいもの】

  • 食パンはなぜ4, 5枚切りより6枚切りの方が高いのか?

 この他にもいくつかおもしろそうな質問があります.授業で取りあげられなければ,このブログで取りあげたいと思います(予定).

経済学A 第5回

 今日は名目値と実質値の違いを説明しました.

【授業の内容】
 最近,またデフレのニュースを耳にするようになりました.昨年までは原油高騰によるインフレが懸念されていましたね.インフレとは持続的な物価上昇,デフレとは同じく物価下落のことです.
 今日の名目値と実質値の違いをテーマとして取りあげたのは,このような物価の変動に惑わされない目を持つためです.

 まず,物価とは何かを説明しました.「景気とは何か?」の時と同様に,「これが物価だ!」というものはなく,様々な指標を使って物価を測定します.今回はそのうち代表的な指標である消費者物価指数(CPI)を説明しました.
 CPIは平均的な家庭が生活していく上でどれだけお金がかかるのかに注目した指標です.総務省統計局による詳しい説明はこちら.http://www.stat.go.jp/data/cpi/index.htm
 紙オムツからPTAの会費まで,実に様々な支出(585品目)が調べられています.
http://www.stat.go.jp/data/cpi/zuhyou/hinmokuc.xls(品目一覧,Excel)

 さて,この物価ですが,時間によって,地域によって大きな差があります.実は最近,マクドナルドでも地域別で価格に差をつけるようになりました.知っていましたか?同じ日本でもビッグマックセットの値段は560~640円と差があります.そのため,最近はマクドナルドのウェブサイトを見ても値段が載っていません(前は載っていたんですが…).
 物価はどうして変動するのでしょうか?僕が子どもの頃(20数年前)は週刊少年ジャンプが170円,カルビーのポテトチップスが100円ぐらいだったような記憶があります.調べてみると,今はジャンプも240円ぐらいするんですね.ポテトも150円ぐらいではないでしょうか.意外と値上がりしてないような気もしますね.逆に電化製品の多くは値下がりしています.僕の父親が1980年代に初めてパソコンを買ってきた時は50万円ぐらいしたそうですが,今はそれとは比べものにならないぐらい高性能のものが数万円で手に入ります.皆さんもご両親に昔の値段について聞いてみてください.きっと色々語ってくれるのではないでしょうか.
 物価が変動する要因は,価格の決まり方について思い出してみるとわかります.ダイヤモンドの値段は需要と供給で決まりましたよね.それから考えると,需要が高まることで物価が高くなるということもありますし,生産するための費用が(供給側)高くなることで物価が高くなることも考えられます.前者をDemand Pull Inflation,後者をCost Push Inflationと呼びます.

 ようやく名目値と実質値です.
 名目値とは我々が普段目にする値です.具体的には学生が受け取るバイト代や僕の給料は名目所得です.しかし名目所得は必ずしも豊かさを反映していません.なぜなら名目所得が同じでも物価が下がれば豊かになりますし,物価が上がれば貧しくなります.高度経済成長期の日本は物価も上がっていましたが,それを上回るペースで賃金が上がっていました.そのため,物価が上がっても豊かになっているという実感が得られたのでしょうね.現在は,物価が下がっている(あるいはあまり上がっていない)ので,実際にはあまり貧しくなっていないのかもしれませんが,賃金カット,ボーナスカットというニュースをよく聞くせいで非常に貧しくなっているような気がしますね.
 授業では,名目所得と実質所得,名目GDPと実質GDPを計算しました.ポイントは所得やGDPから物価の変動を差し引いてやることでした.

 ちなみにインフレによる犠牲者(デフレにより恩恵を受ける人)は皆さんではなく,年金やこれまでの貯蓄で暮らしている高齢者です.なぜだか考えてみてください.

2009年5月9日土曜日

開発経済学 第5回

 今回は工業化と貿易,特に輸入代替工業化政策と輸出指向工業化政策の違いについて説明しました.

【授業の内容】
 意識しなければなかなか気づきませんが,近年,各国はFTA呼ばれる自由貿易協定を競うように結んでいます.なぜ自由な貿易を目指すのでしょう?ミクロ経済学ベイシックではリカードの比較生産費説を学びましたが,どうやら理由はそれだけではないようです.

 第二次世界大戦後,独立したてのアジア諸国の多くはモノカルチャー経済というスタート地点から経済成長を目指しました.かつてはモノカルチャー経済から経済成長を進め,先進国へと仲間入りした国々もありましたが(アメリカやカナダなど),その当時と異なり合成品・代替品の発明により必ずしも特産品が国際市場で高く取引されるとは言えません.また先進国の保護貿易主義もあり,モノカルチャー経済を押し進めての経済成長は困難でした.
 いくつかの国々は保護貿易主義的な工業化である輸入代替工業化政策を採ることで,経済成長を目指しましたが,輸入代替工業化政策には思わぬデメリットがありました.保護貿易を採ることにより幼稚産業の育成を目指したのですが,為替を自国通貨高に誘導したことで輸出条件は悪化したため,国内で生産した財の販売先が国内市場に限定されます.ある程度の中流階層がおり,購買力のある国ならそれでも良いのかもしれませんが(現在の日本の携帯電話のように),当時のアジア諸国は貧しく,さらに貧富の差もあったため,国内市場だけを相手にして生産していたのではスケールメリットが生まれません.また輸入品をシャットアウトしていたため,海外の優れた財との競争も生まれませんでした.そのため,なかなか輸入代替工業化は進みませんでした.
 一方,シンガポール,韓国,台湾,香港などは,自由な貿易による輸出指向工業化政策を採りました.これらの国々が高い経済成長を成し遂げたことにより,その他の国々も多くは1980年代には輸出指向工業化政策へと転換しました.
 輸出指向工業化政策はどこが良かったのでしょうか?輸入代替とは逆に競争が促進されたことに加え,技術伝播による学習効果もあったと考えられます.
 技術移転に関連しては,ヴァーノンのプロダクト・ライフ・サイクル論も紹介しました.これは様々な財で実現していますね.日本もかつては繊維産業が隆盛を極めましたが,日本の前はイギリスでした.しかしイギリスが豊かになり労働者の賃金が高くなると,より賃金の低い日本へと生産の中心が移ってしまいました.しかし,日本も経済成長するに従って,安い賃金を売りにできなくなりました.より賃金の安い国(中国など)へと仕事を奪われました.そして中国の労働者の賃金が高くなると,さらに賃金の安い周辺国へと移っていくのは必然とも言えます.ちょうど前回の二重経済の所で,中国の余剰労働が枯渇してきて賃金が上昇してきた,という話をしましたね.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第5回

 今回はミクロ経済学ベイシックⅠでは,教える側の僕にとって一番の鬼門であるスルツキー分解を説明しました.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,家計による消費を,所得効果と代替効果に分解してとらえるという考え方です.話はだいたいイメージできるかもしれませんが,図の説明は難しいんですよねぇ….

 与えられた予算のもとで,2つの財(AとB)のうち一方の価格が変化したら,それぞれの財の消費はどうなるかを様々な例で説明しました.
代替効果
 代替効果とは,相対的に安くなった方の財の消費を増やそう,そして相対的に高くなった方の消費を減らそうという気持ちのことです.ポイントは"相対的に"という点です.ある財(A)が値上がりしたら,この財を減らそうという気持ちはあるでしょう.それだけでなく,この財(A)が値上がりしたことで,相対的にもう一方の財(B)が値下がりしたように(実際には変わっていませんが)感じられるので,消費を増やそうという気持ちになるはずです.牛肉が値上がりすれば豚肉を買おうと思いますよね?それが代替効果です.
所得効果
 所得効果は,実質所得が変化したことによる消費の変化に注目します.こちらのポイントは"実質"所得であるという点です.つまり所得が実際に変化していなくても,実質的に豊かになったり,貧しくなったりすることによる変化も考慮しているのです.
 実質的に豊かになるとはどういうことでしょう?例えばあなたが普段,米だけを食べているとしましょう.その時,生活費が先月と同じでも,米の値段が安くなると,今月は実質的に豊かになった気がしますよね.これが実質所得です.
 というわけで,上の例のように,ある財(A)が値上がりしたら,その人にとって購入することの出来る財の組合せが減ってしまうので,実質的に貧しくなっています.では,実質所得が減ると,それぞれの財の消費は増えるのでしょうか?減るのでしょうか?それはそれぞれの財が上級財なのか下級財なのかによって変わってきます.

 なかなかややこしい話なので,来週も説明します.

 今回配ったプリントは自習用ですので提出する必要はありません.

経済学A 第4回

 前回に引き続き,マクロ経済学について学びました.

【授業の内容】
 今回は,前回説明した経済の仕組みを前提に,経済学の変遷(進化?)の歴史を説明しました.
 18C後半の古典派から,世界大恐慌後のケインズ派の台頭,そして新古典派の台頭に至るまでの歴史的経緯とそれぞれの学派のエッセンスを説明しました.ポイントは,市場に対する信頼と介入の大きさです.民間側の税負担が重い代わりに政府が大きく介入する大きな政府と,税負担は軽い代わりにあまり介入しない小さな政府という比較もしました.
 日本はそういう分類では小さな政府の国です.税金の負担が重いように感じるかもしれませんが,国際的な比較ではかなり税率が低い国です.

 また授業の後半では,財政政策と金融政策の基礎についても説明しました.

 時間に余裕があればマルクス経済学も(一応,歴史的知識として)説明したかったのですが,無理でした….

経済政策論 第4回

 今回から健康保険・介護保険について取りあげます.

【授業の内容】
 初回なのでまず健康・介護保険の基礎的知識をレクチャーしました.まず,社会保障制度とは何かを説明しました.社会保障は保険的方法と扶助的方法の2つに分類できますが,今回は保険的方法である健康保険・介護保険についてがテーマです.

 続いて,健康保険制度とはどのような仕組みなのか説明しました.我々は普段,健康保険と一括りにすることが多いですが,実際には様々な種類の保険を総称して健康保険と呼んでいます.それぞれに保険料や医療費負担の割合が異なるようです.
 また,関連して後期高齢者医療制度についても簡単に説明しました.

 後半は,介護保険制度について説明しました.保険料,利用できるサービス,財源などについて紹介しました.

 今回は健康保険と介護保険についての表面的な知識を説明しただけです.次週までに次の点について調べてきてもらいます.
・誰が,どの健康保険に入るのか?それぞれの保険にはどのような違いがあるか?
・医療費の保険診療点数について調べる.
・健康保険が抱える問題点について調べる.