2009年12月20日日曜日

経済数学入門 第13回

 前回に引き続き数列でした.

【授業の内容】
 前回は等差数列で終わりました.今回も馴染みのある等比数列です.

 等比数列とは,1,2,4,8,16,・・・などのように,一定の割合(公比:r)で変化していく数列のことです.等比数列は,金融において利子率の計算などで,またマクロ経済学で,財政政策の乗数効果,あるいは貨幣の信用創造などで必要となる知識です.今は何のことかわからなくても,2年次以降に役立ってくるはずです.

 さて,その等比数列の一般項(an)は次のように表されます.
an=a×r^(n-1)  ←rのn-1乗のつもりです.うまく表現できませんでした.
 つまり,第n項目は,初項にrをn-1回かけたものです.

 続いて等差数列の和(Sn)の計算ですが,こちらは公式を暗記するよりも導出方法を覚えてもらいたいものです.そんなに難しくありませんしね.とは言え,ここで文章で説明するのは大変なので省略します.

 なお,中間テストの結果による呼び出しですが,ほとんどの学生が(滑り込みも含め)全学共通教育センターに来ました.

経済学Ⅰ 第11回

 今回は授業の振り替えで,全学共通教育センターの数学のテストを受けてもらいました.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第13回

 今回はリカードの比較生産費説,貿易のミクロ理論について説明しました.

【授業の内容】
 まず絶対優位と比較優位について説明しました.絶対優位とは,他国に比べ,ある財をより効率的に生産できることです.逆にある財の生産が他国より苦手な場合は絶対劣位と呼びます.例としては,日本はアメリカと比べ自動車の生産に関して絶対優位を持っているでしょう.しかし多くの農作物については絶対劣位にあるはずです.

 さて,このように絶対優位はわかりやすい概念ですが,次の比較優位はややわかりにくいかもしれません.
 比較優位とは,ある国が他国に比べ,A財の生産についても,B財の生産についても絶対優位(絶対劣位)にある場合,より効率的に生産できるのはA財とB財のどちらか,というものです.逆により非効率的な生産しかできない財は比較劣位にあるといいます.

 世界中の多くの国は他の国と比べ絶対優位にあるなんらかの財を持っているでしょう.その場合,その国は絶対優位にある財の生産に集中します.これを特化と呼びます.その財の生産に特化して,それを輸出する.また,絶対劣位にある財は国内で生産することを諦め海外から輸入します.
 そうすることで,貿易前に比べ自国が豊かになるだけでなく,貿易の相手国も豊かになります.まさにパレート改善です.
 また絶対優位にある財がなくても,比較優位にある財の生産に特化し,貿易することでもパレート改善できることを数値例で確認しました.
 ただし,今回の話は海外への輸送にコストがかからないという仮定で話しました.日本から南米やアフリカに輸出するよりも,アジアに輸出する方が多いのはこれで説明できます.

総合政策演習B1② 第13回

 今回はミクロ貿易理論でした.

【授業の内容】
 リカードの比較生産費説および貿易三角形についての説明をしました.貿易三角形については,図の見方を知っておけば,難しいものではないでしょう.

 また需要の価格弾力性についての質問があったのでそれに答えました.僕は見たことない形式の問題でしたが,需要の価格弾力性の定義式を変形してあてはめることで答えを導けました.テキストの解説には解法となる公式を暗記するように書いてありましたが,その必要はないと思います.定義式を変形してもほとんど手間は変わりません.

 とりあえずテキストの範囲は一通り終わりました.残りの2回は皆さんからの質問を受け付けることにしましょう.それでミクロは完璧にして,本番までは他の科目に集中できると良いですね.

2009年12月19日土曜日

経済学A 第12回

 今回は日本の財政と税について説明しました.日本ではちょうど国債発行額,あるいは財政規模について議論されていますね.


【授業の内容】
 この授業で理解してもらいたいのは,
・何のために税があるのか?
・日本の財政状況
・税の種類と特徴
 の3点です.特に最後は,税金はただ単にお金を取られるだけではなく,国の性質を作り上げるものだということを理解してほしいです.

 以前に,大きな政府と小さな政府について説明しました.大きな政府とは,市場を信頼しておらず,積極的に市場に介入する政府であり,小さな政府は対照的に最低限の介入しか行いません.そのため,当然ながら,大きな政府は大きな財政規模(政府の収入と支出のこと)を必要とするし,小さな政府の財政規模は小さくなります.

 さて,現在の日本の財政を見てみると,いびつな状況になっていることがわかります.収入をはるかに超える支出をしているため,膨大な収入不足を借金(国債発行)でなんとかまかなっている状況です.一般家庭なら,お金を借りられないような状況ですが,国にはまだ信頼があるため,市場からお金を借りることができています.
 余談ですが,「このような膨大な借金総額(国債発行残高)を抱えて大丈夫なのか?」ということについて,以前から論議されています.楽観的な人は,「日本には国債発行残高をはるかに超える資産がある(国民の預貯金などの資産です)ので,まだまだ借金より資産の方が多いから問題ない.また借金の貸し手も日本の企業,あるいは日本の個人がほとんどなので,子供が自分の親にお金を貸してるようなものだから心配ない」と言います.確かにもっともらしい話ですが,では「国債発行残高はいくらまでなら大丈夫」なのでしょうか?おそらく今の10倍になれば誰も日本政府にお金を貸さなくなるでしょうが,2倍なら大丈夫なのか?3倍なら大丈夫なのか?はっきりとはわかりませんが,どこかに臨界点があるはずです.それを超えると,一気に市場は日本政府を見放し,日本政府は誰からもお金を借りられず破産してしまうでしょう.
 それはまだ先の話かもしれませんが,少なくとも日本の財政状況の未来には明るい兆しはありません.思っているほど先ではないかもしれません….

 さて,余談がながくなりましたが,本題に戻ります.国の収入の根幹は税金です.基本的に,政府は,国民,あるいは国内の企業から税金を集めて,それを使っています.例えば一般道路は無料ですが,無料であるので儲かりません.そのため民間企業は作ろうとしません.それでも道路は必要なので政府が代わりに作ります.警察や消防なども同じですね.

 その重要な税ですが,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.

 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.

 最後に,日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.

経済数学入門 第12回

 先週の授業でしたが,すっかり書くのを忘れてました.この回から数列です.

【授業の内容】
 この回から数列ですが,まずは一番基本的な等差数列を説明しました.数列は,他の範囲との絡みが少ないためか,数学が得意な学生も結構忘れてることが多いところです.しかし,数列は金融,あるいはマクロ経済学でも出てくる重要な分野です.

 さて,等差数列とは,0,3,6,9,12,・・・というように,ある項と次の項との差が等しい(等差)数列のことです.言い換えれば,ある数に同じ数字をどんどん足していく,もしくは引いていくことで出来上がる数列です.ちなみに最初の項を初項(第1項)と呼び,aa1)で表します.また,ある項と次の項との差を公差と呼び,dで表します.
 このような等差数列の一般項an,n列目の項)は次のように表わすことが可能です.
 an=a+(n-1)d

 また,等差数列の和の計算もしました.かのガウスが少年時代にしたように,等差数列の和(Sn)を求めるには,その数列の和と,数列の並びをひっくり返したものを足すことで計算できました.公式を覚えるのではなく,授業で説明したようなやり方で良いと思います.なぜなら手間もほとんど変わらず,公式を間違えて覚えるリスクを避けられるからです.とはいえ,一応公式も書いておくと,
 Sn=n(a+an)/2

 次回は等比数列を説明しました.

2009年12月10日木曜日

経済学Ⅰ 第10回

 前回に関連して貿易の話です.リカードの比較生産費説,そして自由貿易について説明しました.

【授業の内容】
 貿易は国全体としてみると非常に良いものです.それを絶対優位,比較優位の説明と共に紹介しました.
 絶対優位の例として,漁師と農家を挙げました.魚釣りの得意な漁師,米作りの上手い農家は,それぞれ魚,米の生産に関して絶対優位を持っています.魚釣りについては漁師に絶対優位があり,米作りについては農家に絶対優位があるといいます.逆に漁師は米作りに絶対劣位にあり,農家は魚釣りに絶対劣位にあります.
 このようなケースでは,両者は絶対優位にある財(モノやサービスのこと)の生産に集中し(特化),それを相手と交換することで,自給自足の場合より,両者とも豊かになれます.それを数値例で確認しました.つまり分業は効率的なのです.

 続いて,上のケースと異なり,一方の国はなんでも得意だけど,もう一方の国はすべて苦手,というケースを考えました.それぞれ得意な分野があればよいのですが,それがない場合です.
 この場合,一方の国に絶対優位がなくても,(クローンのような国同士でない限り)必ず比較優位はあります.比較優位とは,どちらの財の生産も得意だけど,より得意なもの,あるいは,どちらも苦手だけど,まだましなものを示しています. 絶対優位がない場合でも,それぞれの国が比較優位にある財の生産に特化して,それを輸出しあうことで,両国とも豊かになれます.これが貿易の持つ素晴らしい力です.戦争とは違い,勝者と敗者は生まれません.

 このようにすばらしい自由貿易ですが,現実には自由な貿易を妨げる様々な障壁が存在します.関税や輸入割り当てなどです.なぜ輸入障壁が存在するのかというと,自由貿易を行うと国際的に優位にある財の生産規模は大きくなりますが,逆に劣位にあり,他国より生産効率の悪い産業は衰退してしまうからです.

 ただ,国全体としてみると自由貿易により豊かになれることはわかっているため,各国はFTA(自由貿易協定)を競って結んでいます.

 次週は全学共通教育センターのテストのためお休みです.

2009年12月9日水曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第12回

 今回は前回から続いてリスクの話です.特にリスクの計測,リスクプレミアムの話が中心です.

【授業の内容】
 まず個人のリスクに対する好みを調べました.様々な所得と,それに対応する効用の水準を調べることで,自分がリスク回避者(risk-averter)なのか,リスク中立的(risk-neutral)なのか,それともリスク愛好家(risk-lover)なのかがわかります.
 それ以外にも,その効用曲線の形状は実にいろいろな情報を伝えてくれます.

 続いて,A(50%の確率で年収が1000万円だが,50%の確率で年収0円)という仕事と,B(確実に年収500万円)という仕事について考えました.
 どちらも年収の期待値は同じく500万円です.違いはリスクが存在するかどうかです.リスク回避者の効用曲線からは,Aの仕事から得られる効用の期待値(年収の期待値ではない)が,Bの仕事から得られる効用よりも低いことがわかりました.逆にリスク愛好家の効用曲線は,Aの仕事から得られる効用の期待値が,Bの仕事から得られる効用よりも高いことを示しています.
 リスク回避者の効用曲線についてもっと考えてみると,Aの仕事と同じ効用を持つのは,確実に何万円をもらえる仕事なのか,ということもわかってきます.言い換えれば,リスクを避けるために年収をどれぐらい下げられるかです.この金額はリスク・プレミアムと呼ばれます.逆にリスク愛好家が,リスクを背負うために犠牲にできる金額は負のリスク・プレミアムと呼ばれます.

 我々,リスク回避者は,リスクを避けるために様々な保険に入ることがあります.例えば自動車保険です.これも確率的に考えれば平均的な個人は,保険に入ってももとがとれません.つまり平均的には受け取る金額より支払う金額の方が大きいのです.ではなぜそのような保険に入るかというとリスクを避けるためです.リスクプレミアムより安い金額であれば,人は保険に入ることで効用を高めることができます.その理由を図を使って説明しました.また,保険に入ることは,保険会社にとっても利潤が増えるので,加入者,企業どちらにとっても喜ばしいことです.保険の発明はまさにパレート改善ですね.

 ただし,前回も少し触れたように,問題は我々が確率をきちんと把握できていない点です.我々はめったに起きない事象の確率を過剰に高くとらえる傾向があるようです.事故を起こすことも確率から考えると,必要以上に高い保険に入っているのかもしれません.
 怖がりすぎるのではなく,また怖がらなさすぎるのでもなく,確率通りに適切に怖がるというのはなかなか難しいものです.

総合政策演習B1② 第12回

 今回は,情報の非対称性の問題,所得配分の問題とミクロ貿易理論の説明をしました.

【授業の内容】
 情報の非対称性も,市場が完全競争市場(つまり最適な資源配分)となるのを妨げる要因の1つです.情報の非対称性が存在すると,逆選択という,特定の取引ばかりがなされる現象が発生します.よく出てくる例としては,中古車市場(レモン市場)における情報の非対称性により,品質の悪い中古車(レモン)ばかりが流通するとか,生命保険における情報の非対称性により,健康に不安のある人ばかりが保険に入る,といった話があります.
 逆選択と混同されやすいのがモラルハザードです.モラルハザード(道徳的危険)とは,ある取引により,その経済主体の行動が変化してしまうことを指します.例としては,生命保険に入った人が,健康に注意を払わなくなるような変化があります.
 なお,情報の非対称性による問題をなくすためには,情報を対称的にすること,つまり情報が少ない経済主体に情報をなんらかの方法で伝えることがあるでしょう.学歴が能力のシグナル(能力そのものではない)として使われるのもこの理由によるものです.

 続いて,ローレンツ曲線およびジニ係数の説明をしました.これは,所得の不平等度などを調べるときに使われます.貧しい人から豊かな人を一列に並べ,その累積所得比率を縦軸にあらわしたものです.ジニ係数は0から1の値をとり,不平等度の目安となります.

 最後に残った時間でミクロ貿易理論の手始めとしてリカードの比較生産費説を説明しました.次回はこの続きをやりましょう.

2009年12月8日火曜日

経済学A 第11回

 今回は前回との関連で貿易について説明しました.

【授業の内容】
 まず前回のアンケートの質問に答えました.「大臣のコメントが為替に影響を与えることはあるか?」ですが,あります.外国為替市場で売買しているのは,投機目的の機関投資家が多く,彼らは常に市場の動向を探り,将来を予想できるヒントを探しています.一国の大臣のコメントは,政府による介入があるかどうかを占うかなり重要なヒント(あるいは答えそのもの)だからです.

 続いて,前回も少しふれた貿易ですが,貿易は国全体としてみると非常に良いものです.それを絶対優位,比較優位の説明と共に紹介しました.
 絶対優位の例として,漁師と農家を挙げました.魚釣りの得意な漁師,米作りの上手い農家は,それぞれ魚,米の生産に関して絶対優位を持っています.魚釣りについては漁師に絶対優位があり,米作りについては農家に絶対優位があるといいます.逆に漁師は米作りに絶対劣位にあり,農家は魚釣りに絶対劣位にあります.
 このようなケースでは,両者は絶対優位にある財(モノやサービスのこと)の生産に集中し(特化),それを相手と交換することで,自給自足の場合より,両者とも豊かになれます.それを数値例で確認しました.つまり分業は効率的なのです.
 また,経済学的に良い状態の目安として,パレート最適(パレート改善)という概念を紹介しました.やや消極的な判断ですが,パレート改善が良い変化であることには多くの人が賛成するでしょう.それぞれが絶対優位を持つ場合,分業・交換することでパレート改善が可能でした.

 続いて,上のケースと異なり,一方の国はなんでも得意だけど,もう一方の国はすべて苦手,というケースを考えました.それぞれ得意な分野があればよいのですが,それがない場合です.
 この場合,一方の国に絶対優位がなくても,(クローンのような国同士でない限り)必ず比較優位はあります.比較優位とは,どちらの財の生産も得意だけど,より得意なもの,あるいは,どちらも苦手だけど,まだましなものを示しています.
 絶対優位がない場合でも,それぞれの国が比較優位にある財の生産に特化して,それを輸出しあうことで,両国とも豊かになれます.パレート改善が可能なのです.これが貿易の持つ素晴らしい力です.戦争とは違い,勝者と敗者は生まれません.貿易に関与した両国がともに勝者になれる(Win-Win関係)のです.
 僕は大学時代,この話(リカードの比較生産費説と言います)を聞いて,目から鱗が落ちるように驚いたのですが,皆さんも少しは驚いてくれましたか?

 今回もアンケートです.携帯からアクセスできない場合は次のリンクを選んでください.
http://enq-maker.com/ard4Zxy

2009年12月4日金曜日

経済数学入門 第11回

 今回は数学というより,経済学に近い内容でした.1次関数,2次関数の平行移動,そして1次関数の傾きの変化がどのような意味を持っているかを説明しました.

【授業の内容】
 今回,説明のため,予算線というものを紹介しました.自身の所得で買うことができる商品の組み合わせを示すものでした.この予算線はどのような時に傾きが変わるか,そしてどのような時に平行移動するのか,を説明しました.

 数値例で確認したとおり,傾きの変化は実は相対価格の変化を示しています.また平行移動は(実質)所得の変化を示していました.これらの内容は2年次配当のミクロ経済学ベイシックⅠで改めて説明することになります.

 また,平行移動のやり方も説明しましたね.1次関数でも2次関数でもやり方は同じでした.ワンパターンだし,覚えやすいですね.

 最後に円の描き方もすこし説明しました.経済学では別に出てこないのですが,まぁ教養として知っておいてもよいでしょう.

注意!
 何度も言いますが,呼び出しを受けた人は全学共通教育センターに通い,年内に担当教員から「OK」を受けてください.本当に苦手な人は複数回になるので,早めにいきましょう.「OK」が年内に得られなければ期末試験の受験資格を失います.

経済学Ⅰ 第9回

 今回は日経新聞を題材に,前回まで説明してきた金融政策を復習し,その後,為替について説明しました.こちらも実は金融政策と大きなかかわりがあることがわかりました.

【授業の内容】
 ちょうど今,日銀は貨幣供給量を急増させています.貨幣供給量の増加は経済にどのような効果を持つのか,これまでの説明を振り返ってみます.
 大きく分けて,その効果は2つです.1つは物価上昇です.現在のようにデフレ傾向がある場合には,デフレを止める効果があるかもしれません.
 もう1つの効果は,利子率を低下させ,それにより民間投資を増やし,結果として景気を回復させることです.前回までの話ではこのような効果がありました.しかし,今回,新たな第3の効果について説明しました.それはまた後ほど.

 為替レートとは,ある国の通貨と他の国の通貨を交換する時の比率(レート)です.テレビのニュースでは,最後に日経平均と並んで,1ドル=100円とか,説明していますね.あれが為替レートです.最近は急激に円高になったとよく報道されています.さて円高とはどのような変化でしょう.
 円高・円安というのはわかっているようで間違えやすいです.ポイントは1ドル=100円が意味する100円は,1ドルを買うために必要な金額である,ということです.だから1ドル=80円になれば,1ドルの値段が安くなった(ドル安)ことであるし,80円で買えるようになったということは円の価値が上がった(円高)ことでもあります.
 つまり円高とは(通常はドルと比べ)円の価値が高まったことであり,相対的に他国の通貨が安くなったことを意味しています.

 さて,どうして円高,つまり我々が持っているお金の価値が高まることが不景気につながるのでしょう.実は私たち家計にとっては円高は(直接的には)それほど悪いことではなく,むしろ海外の商品を安く買えるため,メリットの方が大きいようです.海外旅行に行くときには,特に円高のありがたみがわかるでしょう.
 しかし日本経済の屋台骨とも言える自動車や家電などの輸出企業にとってみれば,円高は恐ろしいものです.なぜなら1ドル=100円の時,日本で3万円のデジカメはドルに直すと300ドルです.つまりアメリカでは300ドルで販売されているとしましょう.ここで円高になり,1ドル=80円になれば,このデジカメは375ドルです.25%も値上がりしてしまいました.すると,アメリカでは日本製のデジカメは割高となり,売上も落ちてしまうでしょう.
 また,少し見方を変えて,アメリカに進出し,現地で生産し,現地で販売している日本企業のことを考えてみましょう.ある年には現地で300万ドルを稼いだとします.このお金は,1ドル=100円の時(円安)には日本円に直すと3億円ですが,1ドル=80円の時(円高)には2億4000万円になります.つまり円高になったせいで,海外で稼いだお金が日本円に直すと減少してしまうのです.

 このように円高は我々消費者にはメリットがありますが,輸出企業にとってはデメリットになります.ただし,企業の利益が減ると,我々家計の所得も減るでしょうから,間接的には消費者にとっても望ましくないことかもしれません.

 では為替と金融政策にはどのような関係にあるのでしょう.実は金融政策は為替レートにも影響を与えます.
 例として,今回のように日銀が貨幣供給量を増加させると,日本では様々な金利が低下するでしょう.すると,海外の投資家にとっては,日本の銀行に預けてもあまり利子が増えないので,魅力がなくなります.そのため,円を売り,他国の通貨(たとえばドル)を買って,その国の銀行に預けるようになるでしょう.この過程で円が売られ,ドルが買われるため,円安ドル高が進むでしょう.そうすると,日本の輸出企業にとっては条件が良くなります.いいことづくめですね.

 来週は貿易について説明します.

2009年12月2日水曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第11回

 今回から,リスクと不確実性です.本題は次回なのですが,今回は必要な知識の確認として,期待値,リスク,不確実性などの説明をしました.

【授業の内容】
 我々の生活は様々なリスクや不確実性に囲まれています.リスクとは,期待値とは,不確実性とは?それらの定義をきちんと確認しました.

 まず期待値ですが,期待値と平均値は紛らわしいですが別物です.平均値とは,すでに起こった事象についての平均をとったものです.例えば国民所得の平均値は,国民が受け取った所得の平均ですよね.最新のものであっても,過去の値です.
 対して期待値は,まだ起きていない事象の確率的な予測値と言えます.これから起こりうる事象と,その事象が起きる確率がわかっている場合に計算することができます.計算は簡単だし,経済数学入門でもやったので,みんな大丈夫ですよね?

 続いてリスクですが,日常で使う意味とは違うので要注意です.リスクとは,危険性のことではなく,結果のばらつきの大きさのことです.確率・統計の知識がある人には,分散(あるいは標準偏差)の大きさのことだと言えばわかりやすいでしょう.
 またリスクヘッジの方法についても少し説明しました.

 最後に不確実性についてですが,不確実性とは,何が起こりうるのか,またどんな確率で起こるのかもわからないことです.例えば,「あなたは将来,50代の10年間でどんな病気にかかると思いますか?」という設問は僕にとって不確実性です.病気に関する知識が少ないので,どんな病気にかかるのか,またその確率はどれぐらいなのかがまったくわかりません.ただしお医者さん,あるいは病気に関する知識が豊富な人にとっては不確実性というよりリスクに近いのでしょうね.

 おまけとしてモンティーホール問題を紹介しました.僕の説明で十分に納得できなかった人は,Wikipediaを参考にどうぞ.
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%95%8F%E9%A1%8C

総合政策演習B1② 第11回

 今回は,前回中途半端な説明になったコブ=ダグラス型生産関数です.

【授業の内容】
 コブ=ダグラス型を説明していて思ったのですが,事前に指数法則を少し復習しておけばよかったですね.あんまり出てこないので,ややこしい計算はわすれてしまったかもしれません.

 コブ=ダグラスの計算問題を解く上では,偏微分の知識,そして指数法則をきちんと理解していることが要求されます.後は,規模に関して収穫一定(逓増,逓減),資本(労働)に関して収穫一定(逓増,逓減)ということが,数式としてどのように表現されるかの見方を覚えておけばよいでしょう.
 コブ=ダグラスを説明するのが慣れてないので,今回も我ながらいまいちだったかなぁ,と反省しています.

 来週はテキストに戻って,情報の非対称性です.

経済学A 第10回

 今回は為替について学びました.ちょうどタイムリーな話題ですので,今後もニュース等でよく耳にすると思います.

【授業の内容】
 まず,為替レートの見方を説明しました.円高・円安というのはわかっているようで間違えやすいですからね.ポイントは1ドル=100円が意味する100円は,1ドルを買うために必要な金額である,ということです.だから1ドル=80円になれば,1ドルの値段が安くなった(ドル安)ことであるし,80円で買えるようになったということは円の価値が上がった(円高)ことでもあります.
 つまり円高とは(通常はドルと比べ)円の価値が高まったことであり,相対的に他国の通貨が安くなったことを意味しています.

 さて,最近,円高で景気が悪化しているというニュースをよく聞きますが,どうして我々が持っているお金の価値が高まることが不景気につながるのでしょう.実は私たち家計にとっては円高は(直接的には)それほど悪いことではなく,むしろ海外の商品を安く買えるため,メリットの方が大きいようです.海外旅行に行くときには,特に円高のありがたみがわかるでしょう.
 しかし日本経済の屋台骨とも言える自動車や家電などの輸出企業にとってみれば,円高は恐ろしいものです.なぜなら1ドル=100円の時,日本で3万円のデジカメはドルに直すと300ドルです.つまりアメリカでは300ドルで販売されているとしましょう.ここで円高になり,1ドル=80円になれば,このデジカメは375ドルです.25%も値上がりしてしまいました.すると,アメリカでは日本製のデジカメは割高となり,売上も落ちてしまうでしょう.
 また,少し見方を変えて,アメリカに進出し,現地で生産し,現地で販売している日本企業のことを考えてみましょう.ある年には現地で300万ドルを稼いだとします.このお金は,1ドル=100円の時(円安)には日本円に直すと3億円ですが,1ドル=80円の時(円高)には2億4000万円になります.つまり円高になったせいで,海外で稼いだお金が日本円に直すと減少してしまうのです.

 このように円高は我々消費者にはメリットがありますが,輸出企業にとってはデメリットになります.ただし,企業の利益が減ると,我々家計の所得も減るでしょうから,間接的には消費者にとっても望ましくないことかもしれません.

 さて,この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.

 来週はこの関連で,貿易について説明したいと思います.

2009年11月28日土曜日

経済数学入門 第10回

 今回は,最大化・最小化問題と偏微分です.

【授業の内容】
 授業ではあっさりと「最大化・最小化問題」と言いましたが,授業で解いた問題は詳しく言うと「制約付き最大化・最小化問題」と呼びます.ある制約の下で,どのようにして何かを最大化・最小化するかを考えます.

 授業は予算という制約の下での効用(幸せ)最大化問題から始めました.皆さんもそうでしょうが,煩悩の多い我々には欲しいものがたくさんあります.しかし,それらをすべて買うこと(消費すること)はできません.なぜなら様々な制約があるからです.そのうち最も妨げとなるのは予算制約,つまり持っているお金に限りがあることでしょう.そのような場合,どうすれば幸せが最大になるのかを,具体的な数値例で確かめました.
 問題を解くうえでの手順は以下のとおりです.
1.目的と制約の式を区別する(必要であれば定式化する).
2.制約の式を変形して,X=2Y+5,Y=-2X+10,などのように,ある変数を他の変数で表現します.これにより,使用する変数の種類を減らすことができるのです.
3.(2.)で変形した式を目的の式に代入し,変数の種類を減らします.
4.目的の式の最大値(もしくは最小値)を探すため,微分して0と置く.これにより求める答えの1つが出てきます.
5.(4.)で得られた答えを制約の式に代入します.これで残る答えも出てきます.

 大学学部の経済学のレベル,あるいは公務員試験ぐらいのレベルであれば,以上のような手順でほとんど解くことができるでしょう.

 後半は偏微分のやり方について説明しました.偏微分とは,2つ以上の変数からなる関数の微分する方法の1つです.他の変数が一定である(固定されている)ものとして,微分するという方法です.これに対して全微分というのもありますが,社会科学系の学部で必要となることはあまりありません.
 やり方としては,ある変数で偏微分するときは「他の変数を,ただの数字であるように扱ってやる」ことに注意して,普通に微分すればよいだけです.特に新しいルールも出てきません.簡単ですね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第10回

 今回は市場の失敗の例である情報の非対称性について説明しました.

【授業の内容】
 みんな覚えていると思いますが(思いたい),完全情報市場の条件の1つとして,「完全な情報」というものがありました,今回はその条件が守られない場合には何が起きるかを考えます.

 まず今回の分析対象である財がどのようなものかを理解するため,財を3種類に分類しました.
・探索財:購入前に財についての情報を入手可能な財
・経験財:購入後に財についての情報を入手可能な財
・信用財:購入後も財についての情報を入手不可能な財
 今回はこのうち経験財について考えました.

 財についての情報の非対称性がある場合,取引はどのようになるのでしょう.最初にレモン市場(中古車市場)の例を説明しました.
 中古車の売買では,多くの場合,売り手である中古車屋は財である中古車についての情報を多く持っていますが,買い手である消費者はそれほど多くの情報を持っていません.まさに非対称的です.このような場合,情報を多く握っている売り手は,それぞれの車の品質が良いのか悪いのかをきちんと把握しており,品質の良い車と悪い車をそれぞれ希望する価格で販売しようとします.
 一方の消費者は,よい車は高く,悪い車は安く買いたいと思っていますが,目の前の車が良い車なのか悪い車なのか判断できません.そのため,その車をいくらで買うかを決める際には,確率的な期待値に頼るしかありません.経験的にその車が何割の確率で当たり(品質が良い)なのか,外れ(品質が悪い)なのかが分かっていれば,自ら期待値を計算できます.車の価格が期待値を下回っていれば買いますが,上回っていれば買いません.
 このような売り手と買い手の気持ち(供給と需要)が一致する点で取引が行われますが,今回授業で用いた数値例では,財の一部が取り引きされるものの,そこで売買されたのはすべて品質の悪い財でした.消費者はレモンばかりつかまされたわけです.一方の中古車にとっても品質の良い車がまったく売れないという,あまりありがたくない結果になりました.このような不幸の原因は情報が非対称的で,消費者が品質についての知識・情報をあまり持っていないことです.
 そのため,解決策としては,情報を対称的にすること,つまり消費者に品質についての情報を与えることです.現実に見られる対策としては,中古車に保障をつけることがあります.これは中古車屋にとっては負担ですが,品質が良い車だというシグナルを消費者に伝えることができ,結果として高く買ってくれることにつながります.

 逆に売り手の持つ情報が少なく,買い手の持つ情報が多い例として,生命保険市場を取り上げました.

 これらの例のように情報の非対称性が原因となり,特定の売り手や買い手ばかりが集まってしまうような現象を逆選択と呼びます.

 逆選択と間違われやすいのがモラルハザードです.これは,取引の成立後に経済主体の行動自体が変化してしまうものです.例えば自動車の損害保険に入ると,保険に入る前に比べ,比較的安全に注意しなくなる恐れがあります.これがモラルハザードです.モラルハザードという言葉は,なんとなく賢そうだから?テレビなどでもしばしば使われますが,多くは誤用です.

 さて,情報の非対称性についての対策には,シグナリングと評判などがあります.シグナリングとは,品質を知るヒントを知らせることです.例えば学歴はシグナリングの1つです.大卒という学歴は,その人の労働者としての品質を知るヒントになります(あくまでヒントです.大卒の人は全員能力が高いわけではなく,大卒の人には能力が高い人が多い,ということでしょう.).
 評判の例としては年功序列があります.新卒を採用する際の面接では,その学生の能力がどれぐらいなのかを正確につかむことはできません.そのため,日本の多くの企業では,全員一律の安い給料で新入社員を雇い,その後の仕事ぶりを見て,徐々に給料に反映させるという仕組みを採っています.

総合政策演習B1② 第10回

 今回は費用逓減産業について,そして少しだけコブ=ダグラス型生産関数についても説明しました.コブ=ダグラスは説明が不十分だったので改めてやります.

【授業の内容】
 費用逓減産業は市場の失敗の例の1つです.電力や通信など初期投資(固定費用)が非常に大きく,限界費用が逓減するような業界は完全競争になりにくく,結果として効率的な資源配分も実現されないことになってしまいます.そのため,政府自らが財を供給することがよく見られます.

 このような費用逓減産業において政府が財を供給している場合,生産量,および価格の決定方法は2種類あります.それが限界費用価格形成原理と平均費用価格形成原理でした.
 限界費用価格形成原理は,P=MCとなるように生産量を決定します.こちらはパレート最適が実現できるというメリットがありますが,費用の構造上,どうしても赤字が発生することになり,その赤字分を政府が補填することになってしまいます.
 平均費用価格形成原理は,P=ATCとなるように生産量を決定します.こちらは財1つあたりの価格と平均総費用が等しいので利潤は0です.赤字ではないので,独立採算で経営していけるというメリットがありますが,パレート最適は実現されません.限界費用価格形成原理と比べ,生産量は少なく,価格は高くなってしまいます.

 次回はコブ=ダグラスについて,そして時間があれば情報の非対称性や所得配分についての問題も解いていきます.

経済学A 第9回

 今回は一部の学科がインフルエンザで学級閉鎖(大学でも学級閉鎖っていうのかな?)のため,予定を変更してゲーム理論をやりました.本来は貿易と為替の話の予定でしたが,これは皆さんに聞いてほしいので,改めてやります.

【授業の内容】
 今回のゲーム理論は駆け引きの分析についての分野です.

 まずは囚人のジレンマというプレイヤーが同時に戦略を決定するゲーム(同時手番ゲーム)を例に,ゲームとは何かを説明しました.
 ゲームとは複数のプレイヤーが存在し,あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーに影響を及ぼすような状況のことです.囚人のジレンマゲームでは相手がどのような行動を取るかを予想しなければなりません.プレイヤーが選ぶことができる選択肢のことを戦略,またその結果にもたらされる状況を利得と呼びます.
 続いて,少しややこしくなった利得表で,支配される戦略の逐次消去を学びました.自分が持つ戦略のうちで,使い途がないもの(正確に言うと,どんな状況においても,他のある戦略と比べて同等以下の結果しかもたらさないような戦略)をどんどん捨て去ることでした.
 さて,この戦略の逐次消去でも解けない問題もあります.そんな問題を解決してしまう考え方がナッシュ均衡です.ナッシュ均衡とは,「あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応になっており,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているような戦略の組合せ」です.直感的に分かりやすく言えば,「お互い,これ以上相手の裏をかけないような状況」と言えます.
 最後にやったホテリング・ゲーム(立地ゲーム)は,そのルールは単純ながら,ナッシュ均衡の考え方をつかむのに適当なゲームだと思います.

 ゲーム理論およびナッシュに関心が出たという人は次の文献等を参考に.
渡辺隆裕「図解雑学ゲーム理論」ナツメ社
神戸伸輔「入門ゲーム理論と情報の経済学」日本評論社
ロン・ハワード監督「ビューティフルマインド」

2009年11月24日火曜日

経済数学入門 第9回

 今回は中間テストでした.範囲はこれまでのすべての内容です.採点しましたが,結構良かったですよ.

【呼び出し】
 中間テストの結果が20点満点中12点未満の人には,ポータルサイトを通じて呼出をしています.呼出を受けた人は,全学共通教育センターに通い,年内に担当教員の了解(「これでもう大丈夫!」というもの)を得るようにしましょう.年内に了解を得られなければ期末試験の受験資格を失います

2009年11月20日金曜日

経済学Ⅰ 第8回

 今回も金融の話です.みんな真剣に聴いていたから,きちんと理解できたのではないでしょうか.


【授業の内容】

 前回,貨幣供給量の具体的な調節方法として,3つ紹介しました.そのうち,支払準備率(預金準備率)というものが出てきました.今回は,この支払準備率を使って,信用創造の説明から始めました.

 第6回に貨幣の定義をした際に,現金は70兆円ぐらいしかないが,貨幣(M3)は約1000兆円もあるという話をしました.なぜ現金が70兆円しかないのに,その10倍以上のお金があるのでしょう?どうやって増えたのでしょう?それを理解するために,我々が銀行に預金をすると,そのお金がどこに行くのかを考えてみましょう.

 まずあなたが100万円を持っているとします.それを銀行に預けると,あなたの手元の現金はなくなりますが,代わりに預金が100万円増えます.つまりあなたの持っているお金は現金から預金に変わっただけで100万円のままです(当たり前ですね).しかし銀行にとっては,単純にお金(現金)が100万円増えました.これで貨幣は2倍に増えました(あなたの預金100万円と銀行が持っている現金100万円).ただし,厳密に言うと,銀行は預金の一部を日銀に預けなければならないので,手元の現金は100万円を少しだけ下回ります.ここでは10%引かれて90万円が残るとしましょう.

 次に,銀行は手元の現金90万円を持っていても仕方ないので,企業に貸し付けます.すると現金は企業の元へと移りますが,企業はそのお金を一旦銀行に預けます.するとそれを預かった銀行は,一部を除いてまたもや誰かに貸付けます.こうすることで,どんどん貨幣(現金+預金)が増え続けます.この過程で貨幣が増えることを信用創造と呼んでいます.

 さて,貨幣供給についてはこれでわかりましたが,貨幣の需要についても考えてみましょう.実は以前に貨幣の需要は,取引需要と投機的需要に分類できること,そして投機的需要は利子率が下がるほど増えることを確認しています.
 この貨幣の需要と供給によって利子率が決定されます.中央銀行は貨幣供給量を増加させることによって利子率を低下させることができます.利子率が低下すると企業は投資を増やすため,国内の財に対する需要が高まり,結果としてGDPは増加,つまり景気は回復します.ただし,貨幣供給量が増加することでインフレを起こしてしまう可能性もあります.
 では,現在のように景気が悪ければ(さらにデフレ傾向にあれば),貨幣供給量をどんどん増やして景気回復すれば良さそうに思えますが,流動性の罠という問題があります.これは,利子率がかなり低い水準では,貨幣供給量を増やしても利子率がそれ以上下がらないという現象のことでした.

 さて,これまで話してきた利子率ですが,実は1つではなく,様々な利子率が存在します.我々が銀行に預金するとき,銀行が企業に貸し付けるとき,日銀と市中銀行の間,そして市中銀行同士の取引などで大きく異なりますし,また期間の長さ,担保の有無などによっても異なってきます.
 この中でも,政策金利である無担保コール翌日物については覚えておいても良いですね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第9回

 今回は「市場の失敗」の1つである公共財について説明しました.

【授業の内容】
 我々が普段必要とするものは(技術的に不可能なものは別として),だいたい売っています.需要さえあれば,民間企業はその財を生産して儲けようというインセンティブが働くからです.しかし例外もあります.それが公共財です.公共財の多くは,民間企業によって生産されません.民間企業は公共財を生産しようというインセンティブを持っていません.なぜなのか?それは公共財の定義を理解するとわかってきます.

 公共財とは「非競合性」と「非排除性」という2つの性質を兼ね備えた財のことです.   
 非競合性とは,複数の人が同時にそれを利用(消費)することが可能であり,また複数で利用しても価値が落ちない財のことです.例えばライブなどがそれにあたります.100人で聴こうが1000人で聴こうが,ライブから得られる効用は(ほとんど)変わらないでしょう.
 非排除性とは,特定の人の利用を妨げることができない財です.つまり誰でも無条件で利用できる財のことです.例えば我々は誰でも一般道を利用することができます.税金を滞納していても,外国人であっても,利用を拒まれることはありません.非排除性を持つ財は,無条件で消費される,つまりお金を払っていない人にも利用されてしまうので,民間企業は採算がとれません.そのためわずかな例外を除けば,ほとんど民間企業は生産しません.

 このような非競合性と非排除性という性質を持つ財の例としては,灯台,法律,ラジオ放送などが挙げられます.繰り返しますが,これらの多くは,儲からないので民間企業は供給しません.しかし,灯台,法律,ラジオ放送がないと我々の生活は不便になるでしょう.そのため,民間企業の代わりに営利目的外の活動もできるプレイヤーである政府が供給するのです.
 しかしそこには問題がないわけではありません.民間企業が生産し,市場で取引される場合には,非効率的な生産など(少なくとも長期的には)起こりません.企業は全然売れない(需要のない)財を生産しないからです.生産してしまうと利潤が減るため,利潤の最大化を目的とする企業はそのような行動をとらないでしょう.また常に売り切れてしまい在庫が空っぽになるようなことも長期的にはあり得ません.作れば作るほど売れるのであれば,生産能力を徐々に拡大して,利潤を増やそうとするでしょう.このように市場では企業は消費者との取引を通じて,消費者の需要を鋭く感じ取り,本当に必要とされている財を,必要とされているだけ生産するのです.
 一方,政府が生産する公共財の場合は,市場メカニズムは働きません.警察を例にとると,警察の治安維持サービスは我々に必要な財ですが,我々は1回のパトロールに何円を支払う,というような取引はしていません.そのため,警察にとっては,我々住民がどれぐらいの水準の治安を求めていて,その需要はどれぐらい大きいのか(金銭的評価はどれぐらいか)ということがわからないので,自分たちのルールでパトロールするしかないでしょう.結果として,私たちは「パトロールに全然来てくれないせいで不安だ」,あるいは「しょっちゅうパトロールしてるけど無意味だ」などと感じることになります.
 ダムが必要なのかどうか,橋は必要か,道路は,とよく問題になるのは,いずれも政府が供給している財だからです.政府は時として必要のない財を供給してしまうことがありますが,その理由の1つはそれらが公共財の性質を持っていることにあるようです.

総合政策演習B1② 第9回

 今回はエッジワース・ボックスの復習と,外部性についての問題を解きました.

【授業の内容】
 外部性の問題を解く上で必要な知識はほぼすべて説明しました.以下のキーワードを確認しましょう.
・外部性
・外部経済(正の外部性)と外部不経済(負の外部性)
・金銭的外部性と技術的外部性
・ピグー税(⇔補助金)
・内部化
・コースの定理

 外部性もその1つですが,市場の失敗が起きると,効率的な資源配分(パレート最適)が実現できません.そのために,政府による何らかの介入が必要となります.今回の外部性の場合は,政府が課税する(もしくは補助金を与える)ことで,効率的な資源配分を実現します.

2009年11月18日水曜日

経済学A 第8回

 今回は株についての続きです.

【授業の内容】
 前回,現在割引価値という考え方,そしてその計算方法を学びました.今回はそれを使って,株価の分析方法の1つであるファンダメンタル分析について説明をしました.ファンダメンタル分析とは,ある企業の株価は,その株を持ち続けることによって将来得られる配当の現在価値の合計である,というものです.この考え方によれば,将来,利潤が増えて,結果として配当が増える企業の株価は高いと推測できます.逆に不祥事により企業の存続も危うい企業の株価は非常に低くなるでしょう.
 ファンダメンタル分析に関連して配当について説明しましたが,そもそも我々個人投資家が株を買う目的は次の2つに大別できます.
インカムゲイン:受け取る配当のこと(株主優待を含む)
キャピタルゲイン:株価の売買による儲けのこと

 株価の主な分析方法はもう1つあります.それがテクニカル分析です.テクニカル分析とは,それまでの株価の推移や取引量から,今後の株価を予測するものです.メリットとしては初心者にとって取っつきやすいことがあります.しかしデメリットは,確たる根拠がないことです.「今までこういうことが多かった」という経験則を基とした分析なので,これまで起きたことが将来も同じように続くのであればテクニカル分析も役立つかもしれませんが,株取引のプレイヤーである人間は過去を学んで行動を変化させていくので,必ずしも過去の経験が今後も使えるとは言えないでしょう.またテクニカル分析では,過去になかったことは予想できない,という欠点もありますね.
 どちらが良いかは皆さん自身で判断してください.

 続いて効率的市場仮説について説明しました.効率的市場仮説とは,「ある時点における株価は,その株式に関する様々な情報を織り込んでいる」というものです.そのため,誰もが知っている情報は,今後の株価の予測にまったく使えない,というものです.逆に誰もが知らない重要なニュースが発表されれば株価は大きく変動します.

 さて,このように株価の分析方法を学んできましたが,「やっぱり株は怖い」と思う人もいるでしょう.リスクがあり,銀行預金と違って損をする可能性がありますからね.しかし,買い方によっては,リスクを小さくすることが可能です.そのようなリスクヘッジの説明も少ししました.重要な大原則は「卵は分けて持て」,つまりリスクを減らす基本であり究極は分散投資です!

 あとは細かい株の話をいくつかしました.話したいことはもっとあったのですが,時間の制約もあり,できませんでした.
 株に興味が出てきた人は,次の「野村證券のバーチャル株式投資倶楽部」をオススメします.架空の100万円を,実際の株式で運用するものです.習うより慣れよで,身に付くこともあると思いますよ.
http://my.nomura.co.jp/virtual/app

2009年11月14日土曜日

経済数学入門 第8回

 今回は微分を使って3次関数の図形を描きました.

【授業の内容】
 3次関数とは言え,微分の練習みたいなもんで,前回やった2次関数とほとんど変わりなかったですよね.ポイントは,「微分をしたら傾きが出てくる」,「頂点は傾きが0の点である」という2点です.
 一応,新しい知識としては,増減表と言うものを描きました.別に描かなくても図形は描けるのですが,イメージを膨らませるためだと思って良いでしょう.

 さて,今回はそれほど重要な回でもなかったのですが,来週は中間テストです!6割なかったら強制的に全学共通教育センターまでお誘いします.がんばってくださいね.
 ちなみにこれまでの課題の解答については,HP上に公開しています.確認しましょう.
http://wwt.bunri-u.ac.jp/mizunoue/filedl.html

経済学Ⅰ 第7回

 前回に引き続き金融政策です.今回は具体的な金融政策について説明しました.

【授業の内容】
 皆さんが手元にお金を置いておきたい(貨幣需要)と思うのはどんな時でしょうか.例えば,物を買う予定がある時かもしれません.人々は物を買う,言い換えれば取引を行う場合には貨幣を手元に置きたがるようです.では,どんな時に取引が活発に行われるのでしょう.それは景気が良く,所得も多い時でしょう.このことから,人々は所得が多いときは(取引を行うことが多いので)貨幣需要が高まります.このような貨幣需要を,取引需要と呼びます.
 また我々家計だけではなく,企業の貨幣需要についても考えてみましょう.企業が手元に多額のお金を必要とするのは,投資をする時であるでしょう.では,どんな時に企業は投資をするのか考えてみると,利子率が低い時でしょう.利子率はお金のレンタル代なので,利子率が低い,つまり安くお金を借りられるとき,企業は様々なプロジェクトに投資をすると考えられます.このような貨幣需要を投機的需要と呼んでいます.

 さて,人々の貨幣需要はわかりましたが,貨幣はいったいどうやって供給されるのでしょう?日銀がお札を印刷していることはわかりますが,どういったルートで我々の手元にお金が届くのでしょうか?
 前回確認したとおり,貨幣の供給量が増えると物価は上がりますが(インフレ),利子率が下がるために民間投資は増え,景気が回復します.これを金融緩和と呼びます.逆に貨幣の供給量が減ると物価の伸びは抑えられる,もしくは下がります(デフレ).そして利子率が上がるために民間投資が減少し,景気は落ち込むでしょう.これは金融引き締めと呼ばれます.日銀の主たる目的は物価の安定です.さらに景気の安定,金融システムの透明性を高めることも目的としています.
 日銀は貨幣の供給量を次の3つの方法で行います.
1.公定歩合(現在は,基準割引率および基準貸付利率)の操作
2.公開市場操作
3.支払準備率の操作
 順に説明しましょう.

1.
 (現在は日銀では使われていない言葉ですが公定歩合という言葉で説明します.)公定歩合とは,市中銀行が中央銀行に預け入れ,借り入れする際の利子率です.
 公定歩合が下がれば,市中銀行は有利な条件で借り入れができるので,貨幣供給量は増加します.対して,公定歩合が上がれば,市中銀行は借り入れしにくくなります.

2.公開市場操作
 公開市場操作とは,中央銀行が金融機関に国債などを売る(売りオペ),国債などを買い入れる(買いオペ)の総称です.
 売りオペをすれば,貨幣は市中銀行から中央銀行へと流れるために,貨幣供給量は下がります.買いオペはその反対です.

3.預金準備率
 預金準備率とは,市中銀行が顧客からお金を預かった場合,その一定割合を日銀に預けなければならないというものです.預金の規模,種類によりその割合は異なりますが,大体1%ぐらいです.
 この準備率が上がれば,当然ながら貨幣供給量は下がりますし,下がれば逆のことが起きます.

 実際の金融政策でもっともよく使われているのは公開市場操作(売りオペ・買いオペ)です.

2009年11月12日木曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 中間テストの結果

 今回の中間テストの結果は以下の通りです.

満点:30点
平均点:18.2点
最高点:29点

 ゲーム理論の所がちょっと悪かったような印象です.独占の計算は多くの人ができていました.
 また独占的競争をきちんと理解していない人が多かったようです.

 期末テストでは,中間テストの範囲も含むので確認しておきましょう.

2009年11月11日水曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第8回

 今回は中間テストでした.テストの前にちょっとした復習をしましたが,やはりテスト前は効率良く説明できますね.皆さんの真剣さが違います.やりやすい….

 テストの結果をどう伝えるかは次回の授業で説明します.

総合政策演習B1② 第8回

 今回はエッジワース・ボックスを使って,パレート最適についての問題を解きました.

【授業の内容】
 エッジワース・ボックスとは,2者の間での効率的資源配分を説明するものです.どのように再配分,あるいは取引するとパレート改善するか,パレート最適の状態に移行できるかを確認しました.

 時間がなくなったのでDB02054の途中で終わりました.来週は続きからやります.皆さんはテキストでわからない問題がないか確認しましょう.

経済学A 第7回

 今回と次回は株式と資産運用について説明します.皆さん,思っていたのと違ったかもしれませんね.

【授業の内容】
 僕は株のトレーダーではありませんし,ここは大学なので,株のコマゴマとした話や,具体的なテクニックではなく,骨格とも言うべき理論的な話をしました.今回説明した,現在割引価値,期待値とリスクという3つの概念は,株,そして資産運用について真っ当に学ぶのであれば,必要不可欠な知識だと思います.

 まず現在割引価値について説明しました.これは,現在の100万円と10年後の100万円の価値は異なる,というものでしたよね.なぜなら,わずかな利子であっても,100万円を預けておくと,年々金額は増えていきます.仮に1%の利子でも100万円を10年間預ければ110万4622円になります.つまり,現在の100万円は(銀行に預ければ)ほっといても110万円余りになるんですよね.ということは,現在の100万円は10年後の110万円とほぼ同じ価値を持っていることになりますし,言い換えれば10年後の110万円は現在の価値に直すと100万円になってしまうということです.これが現在割引価値という考え方で,未来のお金の現在の価値に直すときには,利子率を使って割り引く必要があるのです.
 なぜこの現在割引価値という考え方が必要となるのかは,来週のファンダメンタル分析についての説明を待ってください.

 続いて期待値ですが,これは数学で習ったことがあるかもしれません.期待値とは,(まだ起きてない事柄について)確率的な平均値を求めたものです.具体的に宝くじで言うと,1枚の宝くじは1等があたるかもしれませんが,ほとんどは外れます.では,1枚当たり,平均を考えると,どれぐらいの金額がもらえるのか,という考え方が期待値なのです.300円の宝くじの期待値は150円を少し下回るぐらい,と言われています.つまり宝くじは買えば買うほど(確率的には)損をするギャンブルなのです.そしてギャンブルの中でも,宝くじの期待値の低さは際立っています.平たく言うと,割りの悪いギャンブルです.
 さて,授業ではギャンブルと株はどこが違うのか,という話をしました.どちらも運が良ければ一攫千金,ただし運が悪ければ大損をする,という意味で「似たようなもんだ」と思っている人もいるかもしれませんが,それは間違いです.株による資産運用は,長期的に見ると期待値はプラスです.そこがギャンブルとの違いです.ギャンブルは,わずかな例外を除いて,期待値はマイナスです.つまりやればやるほど損をします(統計の話では「対数の法則」と言います).

 さて,残るはリスクの説明ですが,上記2つに比べてなじみがある言葉ですが,誤用が多い言葉でもあります.経済学やファイナンスで用いるリスクという用語は,(世間で使われているような)危険度という意味ではなく,結果のバラツキのことを指します.つまり吉と出るか凶と出るか,と結果が分かれることがリスクであって,確実にひどい目に遭うことがわかっている場合にはリスクはありません.また,株を買って,50%の確率で10万円儲けられ,残りの50%で30万円を儲けられるような場合でも,結果にバラツキがあるため,リスクはあります.つまり「損をしないこと=リスクなし」ではないのです.

 期待値とリスクですが,この2つのモノサシを使うと,様々な金融商品を比較することができます.例えば銀行預金はリスクが低いけど期待値も低い商品ですし,株は(次回説明するように)期待値はほどほどに高いですがリスクも割と高いです.

【お知らせ】
 今回は携帯を使ってアンケートを取りました.結果は今後の授業に活かしていきます.

2009年11月10日火曜日

経済学A 今日のアンケートについて

 今日のアンケートですが,皆さんには携帯用のQRコードを配りました.携帯を持っていない,機種が対応していないという人は,パソコンから次のアドレスのアンケートに答えてください.設問はまったく同じものです.

http://enq-maker.com/ard4Zxy

 授業については改めて書きます.

2009年11月7日土曜日

経済数学入門 第7回

 今回も微分でした.微分の意味,そしてどのように使うかを説明しました.

【授業の内容】
 前回は微分の計算方法だけを説明しました.今回は微分という作業はどんな意味を持っているのか説明しました.微分をすると,もとの関数の傾き(変化率)を知ることができます.経済学において,傾きは非常に重要な意味を持っていますし,そのため微分も非常に重要で頻繁に出てきます.例としては,所得が増えたら消費がどれぐらい増えるか,定額給付金を増やしたらどれぐらい景気が上がるのか(上がらないのか),これらはすべて傾きで表現できそうです.
 もう一度言います.非常に重要です.「微分=傾き」,「傾き=微分」と何度も唱えてください.

 また,この微分を使うと,これまで2次関数の放物線を描くときには,平方完成をしなければなりませんでしたが,微分を使って簡単に計算することができます.なぜなら2次関数の頂点は傾きが0である点なので,「微分して出てきたもの(傾き)=0」という式を立てれば簡単に頂点となるxの座標がわかるからです.
 次回も微分をしますね.

中間テストについて
 以下の要領で中間テストを行います.
日時:11月20日の経済数学入門の授業中
範囲:次回の範囲まで
配点:20点満点
持ち込み:一切不可

 なお,この中間テストの点数が12点未満の学生は全学共通教育センターに呼び出します.そこで中間テストの内容をきちんと理解できるようになるまで勉強しましょう.僕が「もう大丈夫だな」と判断すれば,その時点で中間テストの点数を12点に修正します.必ず今年中に来るように.

経済学Ⅰ 第6回

 今回から金融について説明します.今回はその基礎として,「お金って何か?」,「金融政策って何か?」を説明しました.

 お金のことを,以後は貨幣と呼ぶことにします.我々は普段,「お金=現金」と考えがちですが,実際には現金は貨幣の供給量の1割にも満たない量しかありません.現在では貨幣の定義として,マネーストックという概念が用いられています.貨幣とは「これは貨幣だけど,これは貨幣ではない」ときっちり区別できるものではなく,「貨幣らしさ」をどこまで認めるかでその範囲が変わってくるあやふやなものです.どこまでを貨幣として認めるかを定義するモノとして,今日はM3というものを説明しました.
 まずマネタリーベースと呼ばれる現金通貨があり,現金通貨と普通預金を合わせたM1があります.これはほとんどの人が貨幣として納得できるものでしょう.現金が貨幣であるのは自明として,普通預金もすぐ引き出して貨幣として使えるので,貨幣に非常に近い性格を持っています.
 M3とはこれらの現金通貨,預金通貨に準通貨とCDを加えたものです.それらはM1ほどの「貨幣らしさ」はないけれど,「まぁ貨幣として認めても問題ないだろう」というものです.M3はM1より少し「貨幣らしさ」の基準を甘くしたものと言って良いでしょう.
 この貨幣の量(マネーストック)を調整することで,物価や景気の安定を図るものが金融政策であり,それを実施するプレイヤーは中央銀行(日本では日銀)です.

 後半は,なぜマネーストックを増減すると,景気あるいは物価に影響があるのかを簡単に説明しました.
 まず,貨幣供給量と物価の関係ですが,貨幣供給量が増える,つまり世の中にあるお金の量が増えるとどうなるのでしょう?わかりやすく極端な例として,日本に住んでいる全員に1人あたり100億円ぐらい配ることにしましょう.すると人々は一気に物を欲しがるようになるでしょうが,同時に急激に物不足になるでしょう(超過需要と呼びます).そのままの値段で販売していては売り切れになってしまいますね.つまり,もっと高い値段でも消費者は欲しがるでしょう.すると,お店側は値段をつり上げるのではないでしょうか.少々高くてもみんながお金をたくさん持っているので買うからです.このようにして,貨幣供給量の増加は物価を上げること(インフレ)になるでしょう.逆に貨幣供給量が減少すれば物価は下がると推察できますね.
 続いて,貨幣供給量と景気の関係ですが,貨幣供給量が増えることは,人々が豊富に貨幣を持っていることを意味しています.すると,お金を借りる時のレンタル代である,利子率は低くなるのではないでしょうか?なぜならお金が不足していて誰もが借りたがっているのであれば高い利子率でも借りたがる人もいるでしょうが,お金が豊富にある状況ではわざわざ高い利子率を払ってお金を借りる人は少ないからです.というわけで,貨幣供給量が増加すると利子率は下がるでしょう.では利子率が下がると何が起こるのでしょう?これは以前の回で説明しましたが,利子率が下がると民間投資が増えます.民間投資は需要の一部ですから,需要が増えることを意味しています.また需要の増加は,有効需要の原理から供給,つまりGDPを増やします.このようにして貨幣供給量の増加は間接的に景気を回復させることにつながります.

 次回は貨幣供給量を具体的にどうやって調節するかを説明します.

2009年11月6日金曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 課題の解答について

 先日アップした,独占についての課題の解答が一部誤っていました.ごめんなさい.現在は,修正したものを掲載しています.確認してください.

2009年11月4日水曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第7回

 今回は,寡占と独占的競争について説明したので,とりあえずこれにて独占市場は終わりです.

【授業の内容】
 寡占市場とは,売り手の数が少数である市場です.また仮定として,財が同質的である,つまりどの生産者も似たような財を生産していると考えます.
 例としてビール業界を挙げました.ビール業界では何が起きるのでしょう.売り手が少数である場合,ある企業が1社だけビールの価格を上げたとします.するとライバル企業たちは,その値上げに追随しません.なぜなら,現場の価格のままであれば,値上げした企業の顧客を奪うことができるからです.一方,値上げした企業に対する需要は急激に落ちるでしょう.そのため,互いに牽制し合い,値上げするのは難しくなります.
 逆に1社だけが値下げをした場合はどうでしょう.ライバル企業が追随せず,自社だけが値下げできれば,他の企業の顧客を奪って,売上げを大きく伸ばすことができそうです.しかし現実には,そう上手く行きません.なぜなら,値上げの時には追随しなかったライバルたちも,顧客を奪われまいと,値下げには俊敏に反応して追随するからです.結果として,最初に値下げした企業は,せっかく値下げしたのにライバル企業も追随してきたため,思ったように需要を伸ばすことはできませんでした.このため,値下げするメリットは小さそうです.
 このような状況では,企業は値下げ・値上げともに自ら率先して動きづらいです.その状況は,屈折需要曲線のグラフで表現することができました.またそのグラフから,限界費用が少しぐらい変化しても,生産量や価格に影響を及ぼさないことがわかりました.

 後半は独占的競争について説明しました.独占的競争の舞台は,売り手が多数で,新規参入・退出も自由という,企業にとっては儲けにくい状況です.このような状況では企業は財の差別化を図ることによって,一時的な独占状態を作り出して利潤を得ようとします.ただし,新規参入が可能なため,長期的にはライバル達も似た似たような財を真似して作るため,個別企業に対する需要は小さなものになってしまい,結果的に利潤はなくなってしまいます.言い換えれば,既存企業の利潤がゼロになってしまうまで新規参入は続くのです.
 僕はこの状況はファッション業界を上手く表現できているのではないかと思います.毎年,あるいは季節毎に,新たな流行を作り出す先行企業は一時的に独占利潤を得ることができますが,売れている・儲けているのがわかると,すぐにライバル達も同じような財を生産しようとします.
 またもっと長期的な視点で見ると,世界の家電業界も独占的競争に近いかもしれません.日本を始めとする先進国が高付加価値の財を開発し,一時的に独占状態を作り,高い利潤を得ますが,生産コストの安い中国や台湾などが同じような財を安く作るようになると財の価格は下がり,競争的な市場になってしまうため,あまり儲からなくなります.

 このように後期の内容というのは,現実の経済を反映したものが多いため,前期に比べると得るものが多いと思います.授業でも言いましたが,皆さんは来年の就職活動時に「有名な企業,知っている企業」を狙うのではなく,利潤の高い(結果として給与も高い)「独占状態により近い企業」を狙うべきだと思うんですけどね.

【中間試験について】
 次回は中間試験です.第6回の課題の解答をアップしておいたので参考にしてください.
http://wwt.bunri-u.ac.jp/mizunoue/filedl.html

総合政策演習B1② 第7回

 今回も余剰分析です.これまでとは異なり,開放経済(貿易を含む経済)の余剰を分析します.とはいえ,それほど難しくなかったはず.

【授業の内容】
 開放経済の余剰分析は,ミクロ経済学ベイシックで取り上げていませんでしたが,そんなに目新しいものではないでしょう.これまで通りの余剰の考え方で十分対応できると思います.

 注意点は「小国の仮定(モデル)」という文言ですが,これは分析対象が世界市場に影響を及ぼすことのない(経済的な)小国であり,世界市場で決まる価格で,いくらでもその財を購入できるということを示しています.公務員試験には(おそらく)出てきませんが,反対に,大国の仮定は,その国による需要が増えると世界市場に影響を及ぼし,世界市場で決まる価格も上昇するというものです.

 問題はいずでも小国の仮定のもとで,封鎖経済(貿易しない経済,鎖国状態の経済)から開放経済に変化すること,つまり自由貿易をすることによって余剰にどのような変化が出るか,あるいは自由貿易の状態から関税を課すと余剰にどのような変化が出るかを問うものが多いようです.

 さて,来週は資源配分について,エッジワース・ボックスを用いた問題を解いていきます.エッジワース・ボックスの見方,パレート改善・最適の概念などを復習しておきましょうね.

【課題】
 テーマ19の必修問題と練習問題の3番です.

2009年10月31日土曜日

経済数学入門 第6回

 今回は前回の続きである指数と,新たに微分の説明をしました.

【授業の内容】
 指数法則は前回説明していたのですが,今回はルートの説明です.ルートは指数としては1/2乗で表現できました.その理由も簡単に説明しましたね.

 さて,このように指数についてある程度理解もした上で,n進法を紹介しました.デジタル化,デジタル社会という言葉を聞きますが,デジタルとは2進数のことです.というわけで,皆さんが携帯からメールを打つときも,文字は一旦デジタル化,つまり2進数に翻訳されて送信されます.そして着信先で2進数から文字へと復元されるのです.ほんの一例ですが,我々の生活のあらゆる場面に2進数は忍び込んでいます.そのため,どんなものかぐらいは知っておいて良いでしょうし,実利的な話をすると,公務員試験や民間企業の筆記試験でもn進法が問われる場合もありますし,知っておきましょう.
 授業ではn進法の数え方,そして10進法からn進法へ,n進法から10進法へと,それぞれ変換するやり方を説明しました.非常に簡単ですよね?

 そして授業の後半は,経済数学入門でもっとも重要な微分を少しだけ説明しました.経済数学入門は,もともと微分をみんなにわかってもらいたい,ということで生まれた科目です.微分を知っておかないと経済学を理解するのにかなり遠回りをしなければなりません.そして遠回りであるだけでなく,曖昧な理解になってしまうのです.
 今回はとりあえず微分の意味はわからなくても,とりあえず微分の計算ができるようになることを目的としました.全然難しくないでしょ?

 今回配った課題は再来週に提出してもらいます.なくさないようにね.

経済学Ⅰ 第5回

 今回は失業についてです.マクロ経済学の目的の1つは失業を減らすことです.最近,失業率が上がっていると報じられていますが,果たしてあの失業率は何を意味しているのでしょう?

【授業の内容】
 現在の完全失業率は5.5%です(2009年8月,厚生労働省「労働力調査」).「ふむふむ5.5%の人が失業しているのだな」とわかりますが,果たして失業者とはどんな人なのでしょう?学生の皆さんは失業者ですか?フリーターは?家事手伝いは?おじいさんやおばあさんは?ニートは?
 厚生労働省の定義によると,完全失業者とは次の3つの条件を満たした者のことです.(厚生労働省「労働力調査」http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/definit.pdf
①仕事がなく調査期間中に少しも仕事をしなかった
②仕事があればすぐに就くことができる
③調査期間中に,仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた
 「会社が倒産してしまい,しばらくの間仕事を探していたが,当面の生活費を得るためにコンビニのバイトをしている人」は我々のイメージからすると失業者ですが,完全失業者の定義にあてはめると,条件の①に該当しないため失業者ではありません.このように考えると,完全失業率における失業者とは,我々が考える失業者のほんの一部のようです.実際には5.5%よりずいぶん多い割合の人々が仕事を探していると考えられます.
 ちなみに完全失業率の計算は,上記の完全失業者数を労働力人口で割り,%で表示したものです.

 さて,どうして失業が発生するのでしょう?古典派とケインズ派それぞれの主張をまとめてみましょう.
古典派:(労働)市場は完全に機能している.そのため失業者は自発的失業者だ(働きたくないから働いていないのだ).より低い賃金を受け入れさえすれば失業者はいなくなる.
ケインズ派:(労働)市場は不完全である.失業者が多くても賃金が下がらないため,失業は減らない.つまり非自発的失業が発生している(働きたくても仕事がない人がいる).
 ケインズ派の賃金が下がらない(下がりにくい)という主張は,賃金の下方硬直性と呼ばれています.

 賃金の下方硬直性を説明する仮説はいくつかあります.授業では次の4つを説明しましたね.
・労働組合の存在
・相対賃金仮説
・効率賃金仮説
・インサイダー・アウトサイダー仮説

 しかし,現実には近年,賃金が下がっているような気がします.といっても,正社員の賃金ではなく,労働者全体の賃金が,です.なぜならフリーター,パート,派遣社員といった非正規労働者の割合が増加しているからです.総じて,非正規労働者は正社員に比べ賃金が低いため,非正規労働者の割合が増加すると,日本全体として労働者の平均賃金が下がることに他なりません.
 なぜこのような非正規労働者が増えたのかについては諸説ありますが,僕の見る限り,少なくとも「正社員として縛られたくないので自由な派遣社員・フリーターを選んだ」のではなく,「正社員としての採用を得られないので,仕方なく派遣社員・フリーターをやっている」人が多いように思います.つまり労働者のニーズによるものではなく,企業側の都合のように思えます.
 背景には1999年の法改正により,以前は専門的な一部の業種にのみ認められていた派遣が,一部の業種を除いて全面的に派遣が可能になったという,法的な側面があることは間違いありません.結果として雇用する企業側,そして人材派遣会社は儲かったでしょうが,日本にワーキング・プアー,貧困という問題を発生させる一因となったと考えられます.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第6回

 今回は複占におけるクールノー均衡の説明をしました.

【授業の内容】
 複占とは,ある財の売り手が2社のみである状態のことです.今回はこのような市場を,同時手番,非協力ゲームとして解く方法を説明しました.2社による駆け引きなので,ゲーム理論におけるゲームとして捉えるとクールノー均衡もより深く理解できるでしょう.クールノー均衡とは,2社がそれぞれ自社の利潤を最大とするように生産量を決定する場合のナッシュ均衡です.そのため,クールノー均衡は,クールノー・ナッシュ均衡とも呼ばれます.クールノー均衡がナッシュ均衡であるということは,両企業は相手の戦略(生産量)に対する最適反応を持っており,それぞれの最適反応が一致する点(相手の裏をかくことができない均衡点)で生産を行う,ということを意味しています.

 さて,理屈はこれぐらいにして,取りあえず計算問題を解きましょう.計算問題は,背後にあるメカニズムに比べれば簡単です.これまで通り,自社のMRとMCが等しくなるように生産量を決定するのです.そのため,均衡を導くまでのステップとしては,
Step.1 両企業のMR,MCを導出する.
 これについては特に説明は必要ないでしょう.完全独占の場合と同様にやりましょう.ただし,企業が2つになったために,それぞれの企業の生産量を示す記号が増えますね.
Step.2 それぞれの企業別に,「MR=MC」の式から最適反応を導く.
 MR=MCの式を立てると,両企業が(相手の生産量を踏まえて)生産量をいくらにすべきかが式の形で出てきます.相手企業の生産量はまだ決まっていませんが,それさえわかれば自社の生産量がわかるところまできました.
Step.3 両企業の最適反応の連立方程式を解く.
 これにより両企業の生産量が具体的な数値として表れます.
(おまけ Step.4 価格も計算する.)
 Step.3で出てきた生産量を需要関数に入れると価格もわかります.

 ちなみに,クールノー均衡は複占を非協力,同時手番ゲームとして解いたときの均衡でしたが,協力,同時手番ゲームである場合や,非協力,逐次手番ゲームとして解くことも可能です.これらについては公務員試験(行政職)で出題される場合があるので,3年次配当科目の総合政策演習B1②で説明します.

 クールノー均衡も慣れればそれほど難しくないので,配った例題で復習しましょうね.ちなみに,次のテキストに複占の詳しい説明があります.わかりにくかったという人はぜひ読んでみましょう.図書館にありますよ.
N.G.マンキュー『マンキュー経済学①ミクロ編』東洋経済新報社

 次回は寡占と独占的競争を説明します.

【中間試験について】
 そうそう,皆さんの希望を尊重して,中間試験をすることになりました.
日時:11月11日(水)4限(ミクロの授業内にて)
範囲:ゲーム理論,独占市場(完全独占,複占,寡占,独占的競争)
配点:30点(期末の配点は70点)
持ち込み:一切不可

総合政策演習B1② 第6回

 今回は余剰分析です.

【授業の内容】
 余剰分析の基本的なパターンとしては,完全競争市場における社会的余剰と,政府による介入(課税,補助金,数量・価格制限)や市場の失敗(独占)が発生した時の社会的余剰を比較するというものがあります.もちろん前者の方が大きく,後者の(前者と比較したときの)社会的余剰の減少分は死荷重と呼ばれます.

 今回はこのような基本的なパターンのうち,特に課税による死荷重の発生についての計算をしました.公務員試験で出題される課税方法は,従量税(ガソリン税のように,量当たりいくら,の税金を課す方式)と,従価税(消費税のように,価格に対して何%,の税金を課す方式)がよく出てきます.どちらの方式であっても,限界費用にある操作をすることで課税を表現できます.
 また,補助金についての問題も少しだけ説明しました.かつての日本では米についてこのような補助金による農家保護政策が採られていましたが,現在は米価は自由化されています.

 来週も余剰分析の続きです.予習・復習を忘れずに.

2009年10月28日水曜日

経済学A 第6回

 今回のテーマは年金です.皆さんの人生で避けて通れない話題なので,きちんと理解しておきましょう.

【授業の内容】
 まず言っておきますが,この授業の目的は年金の具体的な話ではありません.「いくら払うのか?」,「いつからもらえるか?」,「どれぐらいもらえるか?」という話は,社会に出ると知る機会はいくらでもあります.
 この授業ではむしろ大枠を理解してもらうことを目的としています.つまり「社会保障とは何か?」,「年金とはどのような制度なのか?」,「賦課方式と積立方式はどのように違うのか?」を理解することです.もちろん,20歳になると強制的に加入するシステムなので,直近の話として「在学中はどうするべきか?」については具体的に説明しましたね.

 まず社会保障とは何かですが,大雑把に言うと,困っている人を社会全体で助けるシステムと思って良いでしょう.年金もかつては存在しませんでした(全国民が年金に加入することになったのは1961年のことです).「それまでは老人は生きていけなかったのか?」というと,もちろんそんなことはなく,家族あるいは所属する共同体が老人を養っていました.しかし,近代になり核家族化が進み,一人暮らしの老人も増えてきました.そのため,年金などの公的な社会保障システムにより経済的・社会的弱者を救済する必要が出てきたのです.
 社会保障のやり方は2種類あります.保険的方法と扶助的方法です.年金は前者です.というのも,我々は「年金」と呼んでいますが,正確には「国民年金保険」と言います.この他,保険的方法による社会保障の例としては,健康保険,介護保険,失業保険などがあります.いずれも,保険料を支払った人だけが利用できます.つまり受益者負担なのです.一方の扶助的方法の例としては,児童福祉,生活保護,災害援助などがあります.こちらは保険料を支払う必要はなく,(救済すべき人であると認定されれば)誰もが利用できます.年金も社会保障の1つであると考えれば,扶助的方法,つまり保険料収入に頼らず,すべて税金から賄うべきであると考えることもできます.実際,消費税率を上げて社会保障のための目的税にすべきだという意見は以前からあります.

 このように年金保険とは,保険料(+国庫負担)として集めたお金を,高齢者に年金として給付する仕組みになっています.ただ,この保険料の徴収と給付のやり方は,2つのパターンに分けられます.1つは積立方式,もう1つは賦課方式です.
 積立方式とは,積立貯金のように,各自が保険料を将来の自分のために積み立て,老後に給付を受けるというものです.一方の賦課方式は,現役世代が払った保険料をその時代の高齢者にそのまま給付するというものです.
 前者は少子高齢化の影響を受けませんが,デメリットとしてインフレに弱いという特徴があります.わずかなインフレも年金のように,納付から給付まで長期に渡る場合では大きな影響を受けます.そのため積立方式はあまり年金向けとは言えません.また積立方式なら,政府に頼らずとも民間の金融機関で同じサービスを受けることができるので,わざわざ政府がやる必要性は少ないでしょう.
 後者の賦課方式は,インフレの影響を受けませんが,デメリットとして少子高齢化に弱いという特徴があります.そのため,現在の日本のように急速な少子高齢化が進む状況では,現役世代の負担を大きく,もしくは給付を少なくせざるをえません.

 このように年金の仕組みを理解した上で,年金に入るべきかどうかを考えてみましょう.まだ判断できない,という人も,とりあえずは20歳になったら学生納付特例制度を使って,払う意思があることを示しておきましょう.実際に払うかどうかは,就職してからでも考えましょう.

2009年10月26日月曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第5回

 今回は完全独占の復習(および完全独占のケースの余剰分析)と,次回の複占の予備知識として偏微分のやり方を確認しました.

【授業の内容】
 前回とほとんど同じような独占の計算をわざわざしたのには理由があります.それは次回の複占,そしてその先に待ちかまえる寡占や独占的競争においても,同じ考え方が必要となるため,基礎をしっかり固めて欲しいと思ったからです.
 その考え方とは,「利潤を最大にするためには限界収入と限界費用が等しくなるように生産するべき」ということです.これを計算できることが(取りあえず期末テストのことを考えれば)必須です.

 また,このように完全独占の場合,完全競争市場と比べて,どれだけ社会的余剰が減少してしまうのか(死荷重が発生するのか)という計算もしました.わかりにくかった点もあると思うので,また例題を用意したいと思います.

 次回は複占(売り手が2社の場合の独占)を説明します.ここがおそらくこの講義の山場だと思います(難易度の点で).以前に学んだゲーム理論のナッシュ均衡の考え方,そして偏微分も出てきます.

総合政策演習B1② 第5回

 今回はゲーム理論の混合戦略におけるナッシュ均衡の説明をした後,価格メカニズムの問題を解きました.

【授業の内容】
 混合戦略のナッシュ均衡は,「なぜそのような計算をするか」を理解するのは少々ややこしいのですが,取りあえず答えを導き出すことを目的とするのであればそれほど難しくありません.期待値の計算さえできれば大丈夫です.ミクロ経済学ベイシックⅡでは計算の意味について説明しました.もし気になれば,ゲーム理論についての入門的なテキストを読むと良いでしょう.図書館にも何種類かのテキストがあります.

 価格メカニズムは前回の独占市場に比べれば非常に簡単です.ワルラス型,マーシャル型,クモの巣理論の区別さえできれば良いのですが,皆さん,少し説明したら問題なく理解していたようですね.後は定期的に復習さえすれば点を稼ぎやすい分野でしょう.

【課題】
・テーマ15の復習
・テーマ16の必修問題,および設問2と3を解けるように

2009年10月23日金曜日

基礎総合演習B 第3回

 今回は株について少し学びました.また各チームに発表してもらいました.

【授業の内容】
 まず,「はてな」の「グループウェア」の使い方を説明しました.

 続いて,チーム花山に「はてな」の使い方を,チームCocoaに「野村のバーチャル株式投資倶楽部」のルールについて,最後にチーム文理に「(チーム文理が買った株が)なぜ上がるのか?」について,それぞれ発表してもらいました.

 初めての発表であったので,声が小さかったり,文章を読み上げる形になったりで,発表の中身ではなく,そのやり方には改善すべき点がいくつかありました.今後,他のチームの発表を見て,良い点を取り入れていきましょう.

 次回からは毎回の内容は「はてな」の「グループウェア」の方に書くことにします.

【課題】
・(はてなを使う練習として)各自がyoutubeのオススメ動画を紹介する.
・(チーム文理は)トヨタ自動車の過去1年の株価の変動について,なぜ値上がり・値下がりしたのか理由を考えてくる.

【株価について今回わかったこと・考えたこと】
・業界最大手は株価が上がるのでは?
・売上げが増えている企業の株価は上がるのでは?
・サブプライムローン問題(→景気低迷)によって株価が下がった?
 それぞれ本当でしょうか?今後調べていきましょう.

2009年10月22日木曜日

経済学A 第5回

 今回は物価とは何か,そして名目値と実質値の違いを説明しました.最終的には,インフレは良いのか?それとも悪いのか?を理解できるようになったと思います.今回の内容は,次回の年金について理解するためのステップになっています.

【授業の内容】
 まず,物価とは何かを説明しました.「これが物価だ!」というものはありません.というのは,同じ財(モノやサービス)をとっても,我々消費者にとっての価格だけでなく,メーカーが販売するときの価格もありますし,問屋が小売店に売るときの価格,など様々な価格があるからです.そのため,物価を測るためには以下のような複数の指標が用いられます.
・消費者物価指数(CPI, Comsumer Price Index)
・企業物価指数
・GDPデフレータ など

 物価というのは固定したものではありません.場所により,時代により変化しています.場所による違いを横断面の違い,時代による違いを時系列の違い,と呼ぶことがあります.それぞれの具体例をいくつか紹介しました.
 では,なぜそのように物価は変動するのかについて理解するためには,第2回に学んだ「ダイヤモンドはなぜ高いのか?」が役に立ちます.その結論は,需要と供給のバランスにより価格が決まるということでした.そのため,当然ながら,物価の変動の原因は,需要と供給のいずれか,もしくは両方が変動したためでしょう.需要の増加による物価上昇はDemand Pull Inflation,供給側のコスト上昇による物価上昇はCost Push Inflationとそれぞれ呼ばれます.

 さて,本題である名目値と実質値の違いですが,授業では,所得とGDPを例にとり,それぞれの違いを説明しました.我々は普段,名目値に目を奪われがちですが,本質的な理解のためには実質値に目を向けなければなりません.
 名目所得と実質所得の例としては,徳島と東京に住む人のどちらが豊かなのかを考えてみましょう.名目所得で言えば圧倒的に東京です.東京は全国の都道府県の中でも飛び抜けて県民1人あたりの所得が高いです.徳島は全国22位と中位です.(2005年のデータ,総務省統計局「統計でみる都道府県のすがた2009」http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001016650&cycode=0
 しかし,実際に人々の生活が豊かなのかを考えるためには,この比較だけでは不十分です.なぜなら東京と徳島では物価,とくに住宅費が大きく違うからです.そのため,それぞれの地域の物価の違いを考慮しなければ実質的な豊かさ(実質所得)はわかりません.計算してみると,やっぱり東京の方が実質所得も高いのですが,差はある程度縮まります.また,東京は所得格差が大きいと推測できるので,20代のサラリーマンなどで比較すると実質所得にあまり差はないように思います.

 最後にインフレやデフレは良いのか,悪いのかを立場を変えて考えました.働いていて収入がある層にとってはある程度のインフレは害はないでしょう.物価に比例して賃金も増加するためです.ただし,すでにリタイヤしており,過去の貯蓄で生活している高齢者にとってはインフレは貯蓄額を実質的に減らしてしまう(貯蓄の価値を失わせる)というデメリットが大きいです.一方,借金を抱えている人にとってはインフレはありがたい現象です.なぜなら物価の上昇は借金の実質的な価値を減らしてくれるからです.

 来週は年金について説明します.

2009年10月17日土曜日

経済数学入門 第5回

 今回は指数です.

【授業の内容】
 メインは指数だったのですが,前回の残りの,1次不等式と2次不等式のグラフが残っていたので説明しました.とはいえ,1次関数と2次関数が理解できていれば困ることはないはずです.

 さて,指数ですが,2年次以降のマクロ経済学でも出てきますし,指数を利用したn進法は就職活動時に筆記試験で問われることがありますから,全員できてほしいところです.
 まずは素因数分解からいきましょう.指数を理解するためには素因数分解ができることが不可欠です.
 素因数分解ができれば後は指数法則に則って変形していくだけです.慣れると難しくはないのですが,慣れないだけに,勘でやると間違いますよ.

【呼出】
 前回の小テストの件で呼び出された人はきちんと全学共通教育センターに来ましょうね.来なかったら再度呼び出しますよ.

総合政策演習D 第5回

 今回で僕の担当は終わります.みんなのやる気をどこまで起こすことができたのか,やや心配が残っています.

【授業の内容】
 いつも通りに問題を解きました.フローチャートやブラックボックスなどは,慣れないだけに戸惑うかもしれませんが,ひねりがないのですぐに得意になると思います.

 さて,11月3日のリクナビですが,参加希望者は48名になったそうです.そのため,費用は1人あたり3000円を少し上回るぐらいでいけそうです.これについては,また改めてキャリアサポートから連絡があると思います.注意しておいてください.

 好評なようなので,今後もバスを出せたらいいですね.参加者が多ければ,可能性はあると思います.またキャリアサポートと相談してみます.

経済学Ⅰ 第4回

 今回は需要の内訳について説明しました.

【授業の内容】
 まず前回の復習として,名目GDPと実質GDPについて説明しました.名目GDPはその年の物価で測ったものであるのに対して,実質GDPは基準年の物価で測るので,物価変動の影響を受けない,というものでした.

 さて,今日は需要の内訳である,消費,投資,政府支出,輸出入について説明しました.

・消費 
 何が消費を決めるのかについては,以下の3つの仮説を説明しました.
1.ケインズ型消費関数 
2.恒常所得仮説 
3.ライフサイクル仮説
 いずれも所得が増えると消費は増えるのですが,恒常所得仮説は,変動所得と一時所得に分類,ライフサイクル仮説は人生のどの時点にいるかで消費行動が変わる,という特徴がありました.

・投資 
 投資についても,その原因となる3つを説明しました. 
1.利子率 
2.アニマルスピリッツ 
3.将来予測
 このうち,利子率と投資の関係はぜひ覚えましょう.利子率はお金のレンタル代です.お金のレンタル代が安いときは,企業がお金を借りやすいので,様々なプロジェクトに投資するでしょう.一方,利子率が高いときは収益率がよっぽど高くないと投資しないでしょう.つまり利子率が下がると投資は増えるのです.

・政府支出
 政府支出は政府がその大きさを決めるわけですが,果たしてなぜ必要なのでしょう.その理由としてここでは2つを挙げました.
1.市場の失敗による公共財の供給 
2.需要不足
 景気が悪いと政府支出が増えることが多いのですが,絶対ではありません.

・輸出と輸入
 最後に輸出と輸入の大きさを決めるものを考えました.輸出と輸入は立場が異なるだけで,ある国からある国へと輸出することは変わりません.そのため,一方さえわかれば,もう一方は簡単に推測できます.
 というわけで,日本の輸出を決めるものだけ考えれば良いのですが,それは2つありました. 
1.輸出先の景気 
2.為替レート

 このうち,為替レートについては今後,時間を取ってしっかりと説明します.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第4回

 今回から独占市場です.独占市場のうち,複占のところでゲーム理論を使うから,ナッシュ均衡がどんな概念だったか忘れないでくださいね.

【授業の内容】
 独占市場とは,売り手の数(もしくは買い手の数)が少ない市場のことです.授業では売り手独占(売り手の数が少ない場合)をとりあげます.独占市場には様々な形態があり,売り手が1社だけの場合を完全独占(狭義の独占)と呼び,その他,売り手が2社の複占,売り手が数社の寡占(かせん),売り手が多数(だけど一時的な独占である)独占的競争に分類されます.

 今回は上記のうち,基礎となる完全独占について学びました.完全独占と対極にあるのは完全競争市場です.完全独占は売り手が1社だけなので競争はまったくありません.対して完全競争は(その名の通りですが)競争は熾烈です.
 完全競争市場では企業には,価格の決定権はありません(価格受容者).市場で決まる価格を受け入れることしかできません.対して完全独占では売り手が,自分にとって最も都合が良いように(利潤が最大になるように)好きな価格をつけることができます(価格決定者).
 さて,では利潤が最大になる価格とはどんな価格なのでしょう.これを考えるときに必要となるのが限界収入と限界利潤という概念です.限界収入とは「新たにもう1単位生産したときの収入の変化分」のことであり,限界費用は「新たにもう1単位生産したときの費用の増加分」のことです.この2つを比較することで最適な生産量がわかります.なぜなら,限界費用より限界収入が高いのであれば,生産すればするほど利潤が増えるからです.逆に限界費用より限界収入が低いのであれば,生産を減らした方が利潤は増えます.つまり,これらから「限界収入と限界費用が等しくなるように生産する」ことにより,利潤が最大になります.また,独占企業は,この生産量分の需要があるような価格をつけることになります.
 後は,数値例を使って,最適な生産量,そして最適な価格を導き出せるか,ということですが,みんなの様子を見る限りだと,だいたいできてそうでしたね.

総合政策演習B1② 第4回

 今回は複占の続きからです.

【授業の内容】
 複占の解法は,クールノー均衡,シュタッケルベルグ均衡,共謀の3種類が必要となるようです(ベルトラン均衡はあまりでないみたいです).
 クールノーはゲーム理論で言えば,同時手番,非協力ゲーム,シュタッケルベルグは逐次手番,非協力ゲーム,共謀は同時手番,協力ゲームという位置づけです.それぞれ解法が似ていて紛らわしいので,違いに注意しましょう.

 また,独占市場のうち,寡占と独占的競争の問題も解きました.それぞれ,セッティングだけでなく,グラフの意味も理解しましょうね.

基礎総合演習B 第2回

 今回から本格的に演習ですね.

【授業の内容】
 この演習の目的は「自分の頭で考えること」と「コミュニケーション能力を養うこと」です.特に前者は,みんな「自分の頭で考えてるよ」と思いながらも,これまでの教育過程で,どうしても暗記中心になっているきらいがあります.「どこかにある答えを探す」のではダメです.なぜなら現実の多くの問題は本やネットで探しても答えがないからです.

 さて,ではどうやって自分の頭で考えるか,ですが,この演習では株を使いましょう.株価については「確実に上がる株」や「確実に下がる株」なんてありません.(あったら僕ももっと豊かなはずですし…)演習では「野村のバーチャル株式投資倶楽部」を利用して,資金を運用してもらいます.さて,演習内でのルールは,
1.3人1チームとしてエントリーする
2.100万円を演習最終日まで維持することを目的とする
3.常に1万円以上を株式として持つこと
4.演習最終日に100万円を切って,かつ最下位のチームにはペナルティー

 また,チーム間,そして演習メンバー内でのコミュニケーション手段として「はてな」を利用しましょう.というわけで,はてなには全員が登録しました.

【次回までの課題】
Aチーム(チーム文理):買った株のプレゼン「なぜこの株は上がるのか?」
Bチーム(チーム花山):「はてな」をどんな風に利用できるか?どこがおもしろいか?
Cチーム(チームココア):「バーチャル株式投資倶楽部」のルール,使い方の説明

経済学A 第4回

 前回は古典派の誕生,そして古典派が世界大恐慌に直面して有効な政策を提示することができなかったところまで説明しました.

【授業の内容】
 さて,その時に経済学の表舞台に現れたのがケインズ派です.ケインズ派の代表格は,名前の通りケインズです.
 古典派とケインズ派は,経済の根本の理解が大きく異なります.古典派は供給(総生産)の大きさが需要(総支出)を決める「セイ法則」を信じていましたが,一方のケインズ派は需要の大きさが供給を決めるという「有効需要の原理」を信じていました.この違いは現実の政策に大きな違いをもたらします.セイ法則によれば,需要は供給の結果として生まれるので,重要ではありません.経済を成長させるためには,とにかく生産能力を高めれば良いのです.一方,有効需要の原理によれば,需要の大きさは供給の大きさ(つまりGDP)を決めるため,非常に重要です.つまり,経済成長(や景気回復)させるためには需要を大きくしないといけないわけです.この考えの下,アメリカではルーズベルト大統領がニューディール政策を実施し,大不況から抜け出すことに成功します.
 もう1つ,古典派とケインズ派の大きな違いがあります.それは「市場に対する信頼」です.古典派は「神の見えざる手」に象徴されるように,市場の機能を信頼しています.そのため,政府は最小限の介入しかしないことになります.一方のケインズ派は市場を信頼していません.市場は不完全なもの(市場の失敗)であるため,政府が積極的に介入すべきだと考えています.
 大恐慌以来,ケインズ派は経済の主役であったと言っても良いかもしれませんが,一部の国ではその座から引きずりおろされることになります.その国とはケインズを生んだイギリス,そしてアメリカや日本などです.

 ケインズ派の積極的な介入は,経済の下支えの役割を果たすことに成功しましたが,長期的に見ると弊害ももたらします.短期的には有効な薬なのですが,長期的に薬を飲み続けることによって,その薬の副作用である,財政赤字が蓄積され,巨額なものになってしまいました.政府が積極的にお金を使うと景気は回復するかもしれませんが,その財源は税収です.税金が足りない場合には国債を発行して(国の借金)賄います.借金である以上,時期がくれば返済しなければなりませんね.あまりに返済額が多くなると,税金を集めてもその多くは返済に充てられることになり,有効に活用することができなくなります.
 このように巨額の財政赤字を抱えた国々はケインズ派を捨て,改めて古典派(新古典派)に回帰します.つまり,政府の役割を最低限にし,民間の活力に期待するのです.その考えの下,日本でも1980年代には,国鉄,電電,専売の3公社が民営化されました.また規制緩和により,民間同士の競争が促進された時代でもあります.
 新古典派は,市場における競争を重視します.ただし,競争は勝者だけでなく敗者も生み出します.そのため,新古典派的な政策を良しとする小泉政権下で貧困や格差が社会問題として顕在化したのも当然かもしれません.

 さて,結論としてケインズ派と新古典派,言い換えれば大きな政府と小さな政府,これらのどちらが良いのでしょうか?その答えは「何を目的とするか?」によって異なるでしょう.おそらく「あまり経済成長しなくても,とにかく平等な社会が理想的だ」と考える人は大きな政府が良いと考えるでしょうし,「少しぐらい格差が生まれても,自由な競争により経済が成長することが理想的だ」と考えれば小さな政府が良いのかもしれません.
 僕個人としては,大きすぎる政府には反対です.やはり新しい技術やサービスは,自由で公正な競争があってこそ生まれるだろうと考えるからです.結果として貧困が生まれること,格差ができてしまうこと,これらは望ましいことではありませんが許容されると思います(ここは意見が分かれると思いますが).許容してはいけないのは,格差や社会階層が固定してしまうことです.つまり,一度貧困層になってしまうと努力しても抜け出すチャンスがない社会,貧しい家庭に生まれると十分な教育を受けられない社会,このような社会であってはいけません.それは思想の問題ではありません.そのような社会は,全体として効率の悪い,劣った社会であるからです.ただ,残念ながら日本は少しずつ,そのような社会になってしまうのではと危惧しています.

2009年10月11日日曜日

経済数学入門 第4回

 今回も関数です.2次関数のグラフを中心に説明しました.

【授業の内容】
 冒頭に紹介したように,民間企業の筆記試験でも2次関数のグラフの問題が出ることがあります.今からであれば,全員十分に対応できるので,しっかり授業についてきてくださいね.

 前回は2次関数の放物線とx軸との交点の出し方(2次方程式の解)の所まででした.今回は2次関数の頂点の導出方法を説明し,グラフを描いたり,2次関数に具体的な数字を入れてみたりしました.

 そして最後にミニテストをして,わかっていないと思える人は全学共通教育センターに呼び出しました.個別に学習すればすぐ理解できるので,恐れず来てください.

 今回は課題はありません.

総合政策演習D 第4回

 演習Dももう第4回,僕の担当も来週で終わってしまいます.それまでにみんなが積極的に活動を始める姿を見たいものです.

【授業の内容】
 今回も問題を解きました.資料解釈などは社会に出てからも実際に必要となりそうですね.

 今回はAERAの記事にあった「落ちても『いい』会社」を紹介しました.「落ちても特に困らない,どうでもいい会社」という意味ではなく,「たとえ落ちても,受けることにメリットのある会社」という意味です.学生からは「どこを受けて良いかわからない」という声をよく聞きますが,この記事に取り上げられていた全ての企業をまず受けてみてはどうでしょう?

 また,リクナビのイベントのバスの話をしましたが,現在,キャリアサポートで受付中です.また先着50名程度で締め切るので,火曜日にぜひ申し込んでください.

経済学Ⅰ 第4回

 今回は名目値と実質値について説明しました.

【授業の内容】
 前回の後半に物価の話をしましたが,その続きです.物価は時系列に変動しますし,横断面で見ても違いがあります.それらの具体例をいくつか紹介しました.また,物価はなぜ上昇するのかを,ディマンド・プル・インフレーションコスト・プッシュ・インフレーションとに分類しました.

 さて,本題は名目値実質値の違いです.中身の説明の前に,数値を使った具体例で,名目所得と実質所得の違い,名目GDPと実質GDPの違いについて説明しました.それらの具体例からわかったことは,我々はついつい名目値に目を奪われがちですが,所得やGDPの本質をつかむために実質値にも目を向ける必要があります.
 名目所得の例は,労働者が受け取る賃金です.この賃金が10%増えると,労働者は10%豊かになったと断言することはできません.なぜなら賃金が増える間に物価はどのように変動したかがわかっていないからです.賃金が10%増えたとしても,その間に物価が20%増えていたとすれば,賃金の名目値は増えますが,この労働者の生活は貧しくなってしまいます.我々が所得に注目するとき,それは豊かさを測るモノサシにするためでしょう.しかし,名目値の変化を見ても豊かになったかどうかはわかりません.
 同様にGDPについても名目値ではなく実質値に着目する必要があります.名目GDPは物価が変動することで増えたり減ったりするため,名目GDPだけを見ても,その国の本当の経済力がどんなものなのか,昨年と比べて経済成長をしたのか,などについて正確なことがわかりません.そのため,物価変動の影響を受けない実質GDPも併せて見る必要があります.

 今回は確認のためのミニテストとして,実質GDPと物価の関係を問う問題を出しました.正答率はもう少し高いかと思ったのですが….

2009年10月10日土曜日

総合政策演習B1② 第3回

 今回から複占に入ります.ミクロで最も難しい(ややこしい)のがここだと思います.そのため,じっくり時間をかけて説明します.

【授業の内容】
 売り手が少数である独占市場は,売り手の数によって4つに分類されます.
1社:完全独占(狭義の独占)
2社:複占
数社:寡占
多数:独占的競争
 最後の独占的競争は実際には独占ではありませんが,一時的に独占状態になるので,独占市場について考える際に一緒に説明されるようです.

 さて,今回はこのうち,売り手が2社である複占です.この複占が難題で,問題の解き方が複数あります.それぞれの特徴をきちんと理解することが大事になってきます.今回はそのうち,2社が同時に生産量を決定するクールノー均衡と,1社が先に生産量を決定し,それを見てもう1社が生産量を決定するシュタッケルベルグ均衡という2種類の問題と解きました.紛らわしいので,必ず復習しましょう.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第3回

 今回もゲーム理論です.

【授業の内容】
 今回はまず,いきなり難題である混合戦略のナッシュ均衡を説明しました.確率が入ってくるのでややこしくなりますが,これで解ける問題の範囲が飛躍的に増えます.が,ちょっと難しいでしょうから期末テストには出さないことにしましょう.

 続いて,ミニマックス戦略を説明しました.これも同時手番ゲームでした.ただし,以前にやった問題とは異なり,目的は利得の最大化ではなく,最悪の場合にいかに利得を増やすか,です.そのため,ナッシュ均衡とは必ずしも答えが同じになるとは限りません.

 ここまですべて同時手番ゲームの説明でしたが,最後に逐次手番ゲーム(時間の流れがあるゲーム)を説明しました.トランプのババ抜きなども逐次手番ですね.
 逐次手番ゲームでは,最後に行動するプレイヤーの戦略を決定し,そこから時間を遡って戦略を決定していくという「後ろ向き帰納法」という解法を用います.おまけとして1万円配分ゲームもやりましたが,ここでも「後ろ向き帰納法」を使って解きました.

 次回から,ナッシュ均衡の考え方を使って複占(2社による独占)の問題を考えます.かなり手強いので覚悟してくださいね.

基礎総合演習B 第1回

 今回は演習メンバーの顔合わせです.みんな結構話が弾んでいたようなので何よりです.

【授業の内容】
 今回はチーム分けをして,チーム名やリーダーを決めてもらいました.このチーム名で野村のバーチャル株式投資倶楽部にエントリーします.

 というわけで,各チームでエントリーしておいてください.またメンバー全員がはてなに登録しておくように.
 次回からは「はてな」の方に授業の内容を書くことにしますね.

経済学A 第3回

 今回はマクロ経済学をとりあげました.マクロ経済学とは,一国の経済全体を俯瞰して捉える経済学の主要な分野の1つです.なお,来週も引き続き,マクロをやります.

【授業の内容】
 まず,景気や経済成長の指標であるGDPとは何かを説明しました.GDPとは,何をどれだけ作ったかではなく,どれだけ付加価値を産み出せたかを示しています.例として日本の自動車産業を用いました.そんなに難しいものではありませんでしたよね?また日本のGDPの大きさは,約500兆円ということだけは覚えておいてください.マクロ経済の話をしていると,金額の単位が大きすぎてイメージしづらいので,GDPの大きさをモノサシにしましょう.

 続いて,経済学(と経済)の歴史について説明しました.大きな政府と小さな政府や新自由主義って何か?なぜ規制緩和するのか?政府が道路を造るとどんな効果があるのか?など様々な知識を,歴史と一緒に説明します.
 今回は経済学の誕生として,古典派の人たちが何を考えていたかを主に説明しました.古典派の人たちの主張を簡単にまとめると,「市場の働きを信頼しており,政府が市場に介入すると,そのメカニズムが乱されてしまう.そのため,政府は何もしない方が良い」というものでした.政府は最低限だけの役割(警察,国防,消防など)を行い,後は民間に任せるというものです.
 しかし,このような古典派経済学は,1920年代後半に起きた世界大恐慌に際して無力でした.大不況であることがわかっても,有効な解決策がないからです.そこで,このような非常時に有効な薬をケインズたちが提示します.
 ということで,次回はケインズの登場から話します.

経済数学入門 第3回

 第3回について書くのを忘れてました.第3回は関数の続きで,1次関数,2次関数の確認です.

【授業の内容】
 前回は関数とは何かについて説明しましたが,今回は具体的に1次関数と2次関数を取り上げました.といっても,確認程度で,1次関数のグラフの描き方,そして2次関数のグラフを描くために,2次方程式の解の求め方について説明しました.

 今回の内容は「問題ない」と思っている人も多いでしょうが,関数に意味を持たせること,グラフの意味を読み取ること,は高校までの数学ではそれほど重視されてなかったでしょうから,新たに学ぶこともあるのではないでしょうか.
 今回で言えば,特に1次関数の傾きは経済学で非常に重要です.傾きとは,ある変数が1単位変化したときに,もう1つの変数がどれだけ変化したかという割合のことです.これは経済学では「限界」という言葉で表現されます(例:限界費用,限界効用など).
 また,2次関数に関連して,2次方程式の解は何を意味しているのか,2次関数の頂点の導出と2次方程式の解とがゴチャゴチャになっている人が多いので,今回は2次方程式の解の求め方,そしてそれがグラフにおいて何を意味しているかを確認しました.

2009年10月4日日曜日

総合政策演習D 第3回

 今回もテストを行い,解説しました.

【授業の内容】
 というわけで,演習系科目はあまり書くことがないですね.

 ともかく,就活サイトが10月に入ってリニューアルし,全国的に一気に就活モードに入りました.昨日も,3年生対象の説明会の様子をニュースで見ました.みなさん出遅れないようにしましょうね.
 ちなみに後期に入って,これまで行ったテストの平均点ですが,昨年度に比べるとちょうど1点低いです.10点満点ですので,ちょっと心配しています.世間では就職が厳しいからと,気合いを入れ直している3年生が多いなかで,ちょっと危機感に乏しいのではないでしょうか?今できること,やらなければならないことはたくさんあるはずですが,皆さんがそれをやっているようには見えません.何をやるべきか自分で考えましょう.自分で考えても何をやって良いかわからなければ,次はどうするべきですか?

 次回の範囲はテキストのpp.124-155です.

経済学Ⅰ 第3回

 今回は前回に引き続き,経済学の流れを説明しました.また物価についても説明しました.

【授業の内容】
 前回はケインズ派の台頭まで話しましたね.今回はその続き,ですが,せっかくなので復習も兼ねて古典派から振り返りました.
 市場を信頼し,最低限の介入しかしない古典派は世界大恐慌に際して,有効な打開策を見つけることができませんでした.その時,積極的な財政支出を唱えたケインズ(ケインズ派)が脚光を浴びます.ケインズ派は市場を信頼しておらず,市場が上手く働かない場合(市場の失敗)には,政府が積極的に介入すべきだと考えます.有効需要の原理と呼ばれる,需要の大きさが供給(GDP)を決めると考えを持っているので,景気が悪いとき(GDPが伸び悩んでいるとき)は需要が不足していると考えます.そのため,需要が足りないのなら,景気回復策として政府がその需要を補うように支出することになります.
 さて,このようにケインズ派は世界大恐慌以来,経済学の世界のみならず,現実経済にも大きな影響を持っていたわけですが,ケインズ派の積極的な財政支出は,日米などで巨額の財政赤字(政府の借金増大)という副作用をもたらしてしまいました.そこで改めて注目されたのは,市場を信頼する(政府に頼りすぎない)古典派です.復権した古典派(新古典派)によれば,政府による経済活動は効率が悪いだけでなく,民間企業の活力を削いでしまうという欠点があります.そのため,政府は最低限の経済活動だけを行うべきとして,公営企業の民営化を進め,また民間企業の活力を生むべく規制緩和を行って企業間の競争を促しました.日本でも1980年代には,国鉄(→JR),電電公社(→NTT),専売公社(→JT)の3公社が民営化されることになりました.またその後,バブル後の失われた10年を経て誕生した小泉内閣においても,郵政民営化が実現したことは記憶に新しいですね.
 このように,民営化とは民間企業ができることは民間にやらせることです.その根拠は民営化した方が効率的だから,という理由なのですが,実際に鉄道,電信の両分野は民営化後にずいぶん効率が良くなりました.新古典派のもとでは,政府は最低限の経済活動しか行わないので,財政支出が少ない分だけ税金も少なくて構いません.このような低負担・低福祉を基調とする政府は,小さな政府と呼ばれ,税金が高い代わりに福祉水準も高い(高負担・高福祉大きな政府派としばしば比較されます.
 新古典派は経済の活力を重視するため,企業による競争も活発になり,経済全体の成長力も高まるでしょう.しかしデメリットとしては,激しい競争により敗者(貧困層)が生まれることです.日本において,貧困,格差社会,ワーキング・プアーという言葉が目立つようになったのも小泉政権以降のことですね.
 大きな政府と小さな政府はどちらが正しい,間違っているというものではありません.我々がどちらが望ましいと考えるか,我々はどんな世界に住みたいのか,という好みの問題であると言って良いかもしれません.税金は安いけれど,福祉はしっかりしてくれる(低負担・高福祉)政府というのは理想的ですが,現実的ではありません(産油国などの例外は別として…).我々は闇雲に税率アップに反対するのではなく,税金が高くなった代わりに政府は何をしてくれるのか,税金が有効に使われているかに注目すべきだと,僕は考えます.

2009年10月2日金曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第2回

 今回は本格的にゲーム理論に入りました.

【授業の内容】
 今回は,同時手番ゲームを「支配される戦略の逐次消去」と「ナッシュ均衡(純粋戦略)」で解きました.
 前回,少しゲームについて説明しましたが,今回はきちんと定義しました.

用語説明
ゲーム:相手がおり,それぞれの行動が互いに影響を及ぼすような状況のこと.
戦略:それぞれのプレイヤーが選ぶ行動のこと.
利得:ゲームの結果,プレイヤーが得る利益
同時手番:プレイヤーが同時に戦略を決定すること(⇔逐次手番)
逐次手番:プレイヤーが順に戦略を決定すること(⇔同時手番)
完備情報:それぞれのプレイヤーが利得表の中身を知っており,またそれぞれが知っていることもわかっている状態(⇔不完備情報)
完全情報:(逐次手番ゲームにおいて)過去のそれぞれのプレイヤーの行動を知っていること(⇔不完全情報)
非協力ゲーム:それぞれのプレイヤーは利己的であること(協力ゲーム)

 今回は,同時手番,完備情報,非協力ゲームを考えました.まず,このゲームの解き方として,前回の囚人のジレンマゲームで使った,「支配される戦略の逐次消去」という考え方(解法)を説明しました.「相手がどんな戦略を選ぼうとも,戦略Aよりも戦略Bの方が同等以上の利得を得られる」場合には,使い途のない戦略A(これを支配される戦略と呼ぶ)は選ばないはずです.つまりこのような戦略は消去しても構いません.これを繰り返すことで,それぞれのプレイヤーが取るべき戦略が1つに定まることがあります.これを「支配される戦略の逐次消去」と呼びます.
 ただし,「支配される戦略の逐次消去」の力は限的的です.解けるゲームもありますが,解けないゲームもあります.そこで,「支配される戦略の逐次消去」で解けるゲームはすべて解け,さらに「支配される戦略の逐次消去」で解けない問題も(場合によっては)解けてしまうという,よりパワフルな解法が「ナッシュ均衡」です.
 「ナッシュ均衡」の定義は,「プレイヤーAの戦略はプレイヤーBの戦略に対する最適反応であり,プレイヤーBの戦略はプレイヤーAの戦略に対する最適反応であるような状態のこと」です.直感的に言えば,それぞれのプレイヤーが相手の裏をかくことができなくなった状態とも言えます.ずいぶんややこしい説明ですが,問題を解くことに限れば非常に簡単に解けたはずです.

 来週は,ミニマックス原理,ナッシュ均衡(混合戦略)および,逐次手番ゲームについて説明したいと思います.
 今回はゲームの課題がありました.来週の講義で提出してください.

総合政策演習B1② 第2回

 今回は完全独占の確認とゲーム理論の問題を解きました.

【授業の内容】
 完全独占については,前回は計算問題ばかりやりましたが,今回はその計算の中身を図で確認する作業です.

 続いてゲーム理論のうち,支配される戦略の逐次消去とナッシュ均衡(純粋戦略)で解ける問題を解きました.

 次週はゲーム理論のつづきと,複占について少しやりたいと思います.今回配った計算基礎の問題はきちんとやってきてください.またテキストのゲーム理論の問題のうち,必修問題,および問題1,2,3を考えてきてください.

 今回みたいに新しく教えることがない時は,この文章も短くなってしまいますね….

2009年9月30日水曜日

経済学A 第2回

 今回は経済学的な思考を身につけるため,「大学進学は合理的か?」,「ダイヤモンドはなぜ高いのか?」,「どうすれば高い所得が得られるか?」について考えました.

【授業の内容】
 「経済学は選択の学問である」と言われることがあります.みなさんも現実的な問題として様々な選択を迫られる機会があると思いますが,経済学はその際に判断材料を与えてくれます.
 まず皆さんがちょっと前に下した「大学進学」という選択ですが,経済学的に見て合理的なのでしょうか?「大学進学」以外にも「高卒として就職」という選択肢があったはずです.どちらが合理的なのか判断する際には,まずそれぞれの選択肢が持つメリットとデメリットを挙げてみました.
 ここで見落としがちなのは,「大学進学」という選択をしなければ何が得られていたか,という視点です.経済学では,「ある選択をした際に,それを選択しなければ(次善の選択肢から)得られたもの」を機会費用と呼んでいます.大学進学の場合,機会費用は高卒として働いた場合に得られる賃金です.つまり大学進学によって発生する費用(コスト)は,学費や生活費といった実際に払う費用だけではなく,高卒として働くことで得られたはずの賃金も含めるべきなのです.

 続いて,「ダイヤモンドはなぜ高いのか?」を考えてみました.「ダイヤは希少だから高い」と考えがちですが,希少なモノはすべて高いのでしょうか?これには簡単に反例が見つかります.僕が描いた油絵は非常に希少ですが,そもそも需要がないので高い値段はつきません.価格というのはあくまで,需要と供給のバランスによって決まるので,希少であれば高い,豊富であれば安い,と一概には言えません.ここから,ある商品やサービス(財と呼びます)を高く売りたければ,需要を増やすか,供給を減らす,あるいはそれらを同時に行うべきでしょう.ダイヤについては,需要を増やすように広告が打たれていますし,供給量もきちんと管理しているはずです.企業はこうして財の価格を高く保つような努力をします.

 さて,実は皆さんが将来受け取るであろう賃金というのは,価格です.正確に言うと,あなたの労働力(労働時間)を企業に売る時の価格が賃金であると捉えることができます.そのため,上記のダイヤモンドが高く売れる理由を応用して,あなたの労働力を高く売る(高い賃金を得る)方法も見つかるのではないでしょうか?授業でも少しだけ説明しましたが,皆さんでも考えてみてください.

2009年9月25日金曜日

総合政策演習D 第2回

 今回から前期の形に戻りました.といっても,問題は前期の復習がメインなので,むしろみんなを焦らせることが目的だと思っています.

【授業の内容】
 「公募のインターンシップを取りあえず受けろ」とあれだけ言ったのに,ほとんどの人が受けてないようです.学部から推薦されて行く場合とは違ったことが学べるので,ぜひ行くべきだと思っているのですけどね.1dayのインターンシップなら,まだ受け付けている企業もあるので,めんどくさがらずに行って欲しいものです.

 とにかくみなさんの最大の短所は「積極性に欠けること」です.というより,同年代の多くの学生がそうなのかもしれません.それだけに積極的に行動することで他の学生よりも明らかに有利になると言えるでしょう.周りが動き始めたら動こう,ではなく,周りが動いていないうちに動きましょう

 次週のテスト範囲は,pp.94-123です.テーマ番号で言うと,7-13です.説明会などで忙しくなってから泥縄的に勉強しなくて済むように,今の間にやっておきましょう.

2009年9月24日木曜日

経済学Ⅰ 第2回

 今日から本格的に講義をしました.今日はGDP,三面等価の原則を学んだ後,マクロ経済学の主要なプレイヤーの紹介,そして最後に経済学の流れを少しだけ説明しました.大事な点なので次週復習します.

【授業の内容】
 まずGDPとは何かを説明しました.GDPとは国内総生産の略です.国内総生産という名前ではありますが,実態は「どれだけモノを作ったか?」ではなく,「どれだけ価値を生み出したか?」を測る指標です.例えば日本のGDPの場合だと,1年間に日本国内で発生した付加価値の合計です.GNPとの違いにも注意しましょう.

 続いて三面等価の原則ですが,これは一国の経済力は総生産だけでなく,総所得,総支出という三つのどの面からみても同じだというものです.またそのうち,総支出の内訳についても説明しました.

 たったこれだけですが,理解しておくと経済政策(厳密に言うと財政政策)が我々の生活にどんな影響を与えるのかがなんとなくわかってきます.

 さて,マクロ経済学ですが,主要なプレイヤーは4つです.特に重要なのは,民間側の家計企業です.この2つによる経済活動がその国の経済の基盤になってきます.また家計と企業が経済活動を行う場のことを市場(しじょう)と呼びます.さらにそれらを補助する役割として,公側に政府中央銀行という2つのプレイヤーがいます.この2つは,市場がうまく働かないときに市場に介入してきます.その介入のスタンスに関して経済学は大きく2つに分類することができます.

 1つは,古典派です.名前の通り,もっとも古い経済学と言えるでしょう.古典派の基本的な考え方は,「神の見えざる手」という言葉に象徴されます.市場は,誰もが自分勝手に,自分の儲けだけを考えて行動していますが,トータルとしては不思議なことに上手く機能しています.みんながお米を欲しがってるのにお米がスーパーに並んでいないなんてことはめったにありませんね.不思議です.古典派はこの現象を「まるで見えない神がいて,取引に支障がないようにすべてを動かしているようだ」と考えたのです.別に本当に神様が実在して働いてくれていると考えたわけではありません.このように古典派は基本的には市場を信頼しているため,市場への介入には消極的です.「レッセフェール(なすにまかせよ)」,つまり「ほっとけ」というスタンスなのです.
 しかし,古典派が行き詰まる事態が発生しました.それが約80年前の世界大恐慌です.大恐慌を目の前にした古典派はどうやって対処してよいか途方にくれます.なぜなら,古典派のスタンスは「市場に任せること」だったからです.
 そこで経済学の檜舞台に躍り出たのはケインズ派です.ケインズ派は市場を信頼しておらず,積極的に市場に介入します.さて,このケインズ派も完璧だったわけではありません.1970年代以降,ケインズ派の欠点が少しずつ明らかになってきます….(というところで来週に続く)

2009年9月23日水曜日

経済数学入門 第1回

 経済数学入門は,主に2年次以降の経済学系で必要となる数学的な知識を身につけることを目的としています.数学は経済学で必要となるのは当然として,民間企業の筆記試験や公務員試験でも必要となるので避けて通ることはできません.

【授業の内容】
 今回は初回なので,「そもそも関数とは何か?」について考えてみました.高校までの数学でも1次関数,2次関数を始めとする関数を使ってきたと思いますが,関数って何でしょう?そして方程式とは何が違うのでしょう?
 現在のところの答えとしては,関数は「ある数字の集まり(A)を異なる数字の集まり(B)に変化させるもの」だと理解してくれれば良いです.そんなに特殊なものではなく,時給800円のバイトをしていると考えれば,働いた時間(A)が決まるとバイト代(B)はすぐに計算できます."働いた時間"×800="バイト代" ですよね.このようにある数字を入れると,なんらかの数字が出てくる箱のようなものだと考えましょう.
 さて,関数と方程式の違いですが,関数については因果関係が重視されていると思ってください.Aという数字を入れたらBが出てきた,という因果関係が重要です.労働時間とバイト代の場合は因果関係はそれほど大事ではありません.労働時間が決まればバイト代が決まるし,ある額のバイト代を手に入れようと思えば,働くべき時間もわかるからです.ただし,因果関係が重要となる場合,向きを逆だとまったく意味がわからなくなる場合もあるので注意しましょう.例えば,景気が良くなると銀行強盗などの犯罪が減るかもしれませんが,(警察が努力して)銀行強盗を減らしても景気は(たぶん)良くならないからです.

 今回の講義での確認したかった点は,「関数とは何か」と「1次関数の復習」です.しばらく数学をやってない,という人は全学共通教育センターを利用するなどして,基礎をきっちりと確認しましょう.
 今回は課題があります.できるところはやっておきましょう.

【授業のルール】
・次回からチーム毎に座席指定あり
・中間,期末試験,課題の提出により成績を評価する
・数式のミスなどを指摘してくれたら成績に加点する
・(当然ながら)私語禁止
・チーム内で教え合う
・授業の内容が理解できなければ,その日の5限に全学共通教育センターに行く

2009年9月17日木曜日

総合政策演習D 第1回

 初回の今日は,皆さんに予習を指定していなかったので,普段と違ってゲストに来てもらいました.ゲストはすでに内定をもらった4年生の3人です.

【授業の内容】
 というわけで,ゲストに来てもらったので,彼らに自身の就職活動(と公務員試験)について色々尋ねてみました.

 僕は司会をしていたためメモを取る暇がなかったのですが,印象に残っているのは,「大学生活に(単に)これをやった!」だけではアピールにならず,「その過程で,どんな問題に直面したか,そしてそれにどのように対処したか,その経験を企業でどんな風に活かせるのか」を相手に伝えることが必要だ,ということでした.彼らはいずれも目的に向かって努力をしたことが3年生に伝わったのではないでしょうか.

 一番反応があったのは,「就職活動に30~40万円かかった」という話でしたね.彼らぐらい力を入れて活動しようと思うと,どうしてもお金がかかってしまうようです.やはり地方の大学のハンデだと思います.ただし,関西に友人とシェアしてマンションを借りたりすると,コストは半分ぐらいになるのではないか,というアドバイスもありました.
 また,本命に落ちたときにどれだけ辛いか,という話では,建前じゃなくて本音の部分がこちらにも伝わってきました.ああいう部分は僕たち教員がいくら言葉で伝えても無駄で,彼らの表情だけで多くのことが伝わったのではないでしょうか.

 最後に質疑応答があったのですが,やはりああいう場面で積極的に質問できる人は強いと思います.逆に質問できなかった人,そして質問が思い浮かばなかった人はちょっと焦った方が良いと思います.授業中,そして授業終了後に質問をした人もやはり女性が多かったですね.全国的な傾向だと思いますが,なぜか女性の方が就職活動はしっかりしている印象です.男の子にはもう少し積極性が必要かもしれません.

 ちなみに昨年も4年生(今春卒業した学年)に来てもらい話を聴きました.その内容は,文章にしているので,こちらも参考に.
http://wwt.bunri-u.ac.jp/mizunoue/DL%20file/practiceD/zadankai.pdf

経済学Ⅰ 第1回

 みなさん初めまして.1年間に渡って,経済学Ⅰ・Ⅱと経済政策論を担当する水ノ上です.

【授業の内容】
 経済学Ⅰの中身はマクロ経済学です.そして経済学Ⅱではミクロ経済学を学びます.マクロ経済学とは,経済全体の動き,成り立ちを理解する分野です.例としては,日本全体の景気,物価,失業率などが分析対象です.一方のミクロ経済学は,経済を構成する最も小さな要素である,家計(や個人)や企業の動きに焦点を当てます.僕はどちらかというとミクロ経済学が好きなのですが,マクロ経済学も経済学Ⅰの範囲ぐらいは理解しておくと良いでしょう.なぜなら,学ぶ内容のほとんどが社会に出てから知っておいて損はないような経済の常識だからです.景気とは何か?年金のシステムとは?デフレって悪いの?などなど,社会に出たら人にはちょっと聞きづらいような話ばかりです.(まぁ,結構堅い話もするんですが)

 今回もいきなりかっちりと授業をしようかと思っていたのですが,皆さんの負のオーラに負けてしまい,短めに切り上げました.来週からはきっちりやります.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第1回

 後期のミクロは不完全競争市場について学びます.不完全競争市場というのは,(誤解を恐れずに言うと)現実の世界です.前期の理想的な完全競争市場に比べて,現実の世界はどこが違うのか,なぜ社会的に望ましい状態でないのか,について学んでいきます.

【授業の内容】
 まず前期の内容を復習しました.完全競争市場についてきちんと理解していないと,今,何を学んでいるのかわからないと思ったからです.
 後期は完全競争市場の5つの条件をどんどん崩していきます.まず最初の山場として,独占市場を学びます.独占市場とは市場に売り手(あるいは買い手)が少数しかいない場合です.売り手が少ないと財の価格は高くなります.しかし売り手の数が増えてくれば(企業にライバルが増えてくると)財の価格はどんどん下がってきます.例として,マイクロソフトのOSとOffice,それぞれの価格を挙げました.有力なライバルがいない前者はいまだに高い価格をつけていますが,安価な(あるいは無料の)ライバルが出てきた後者は,ついにタダになってしまいましたね.

 さて,初回からあんまり堅い話ばかりもどうかと思ったので,細かいルールや厳密な定義は無視して,とりあえず次回のテーマであるゲーム理論の簡単な例をちょっとだけ紹介しました.有名な「囚人のジレンマ」ゲームです.合理的な考えかたというのが理解できましたか?ゲーム理論を難しいと感じる人のほとんどは利得表の見方をしっかり理解していないのだと思います.利得表の見方を次回の講義までに復習しておきましょう.

総合政策演習B1②

 演習が始まりましたね.公務員試験まですでに1年を切っていますし,ガッチリやっていきましょう.

【授業の内容】
 僕の担当は不完全競争市場です.今回は完全独占について説明ついでに,基礎的な計算の確認も行いました.
 独占については,何も考えずににMR=MCの式を導出するまでしっかり復習しましょう.完全独占もそうですし,複占,寡占のところでも出てきます.今回は計算ばっかりでしたが,次回は図による説明も行います.

 次回までに,問題集の必修問題,およびNo.1,2,7の問題をやっておきましょう.計算は決して難しくありません.慣れるか慣れないか,だけです.

2009年9月15日火曜日

経済学A 第1回

 後期の講義が始まりましたね.久々の講義だったので,ちょっとペース配分が上手くできませんでした.
 さて,経済学Aを取った皆さんとはおそらく「初めまして」だと思います.半期だけですが,楽しくやっていきましょう.

【授業の内容】
 初回の今日は,「経済学とは何か?」,授業のルール,評価方法についてに説明した後,経済学的な考え方を少しだけ説明しました.今回特に伝えたかったのはインセンティブという概念です.理解できたでしょうか.わかりやすく言うと「アメとムチ」ですね.人々の行動を変えたい時には,お願いしたりするよりも,「行動を変えた方が得みたいだな」と思わせるべき,という考え方です.

 さて,初回なのでルールを確認しておきましょう.
評価について
 評価は基本的には期末試験で決まります.ただし,大学の決まりとして,授業回数の3分の1を超えて欠席すると期末試験が受けられないので,当然単位は取れません.
 基本的には期末試験(100点満点)の一発勝負ですが,皆さんの意見を聞くために,発表点を加算します.発表点は,1回発表すると5点加算します.ただし,上限は4回(20点)までです.また,発表点による加点をする場合,評価は最大で90点までとします.90点以上の評価がどうしても必要だ,と言う場合は加点に頼らず期末試験でがんばってください.

受講について
 周り(と僕)に迷惑をかけなければ基本的にはなんでもアリです.聴く価値がないと思えば退室しても,寝ても,他の勉強をしても構いません.飲食も控え目であれば構いません(僕もお茶や水を飲みますしね).
 私語などが目立つ場合は,退室するように言うのでそれに従いましょう.受講者数の多い授業なので,静かにしましょう.
 次週から出欠確認は,学生証を使って行います.そのため学生証を忘れずに持ってきましょう.特別な理由がない限り忘れたら欠席として扱います.また出欠確認時にいない場合(遅刻の場合)も同じく欠席として扱います.

おまけ告知
・柔道部では新入部員を募集しています(特に女性部員).経験の有無にかかわらず,興味があれば金曜日の4時半に柔道場まで来てください.新入部員を紹介してくれた人にはささやかなお礼をします.
・同じく,国際教育支援サークルPapuPapuでもメンバーを募集しています.興味がある人は金曜日の4時半に23号館9Fに見学に来てください.学園祭にも参加します.

2009年7月25日土曜日

開発経済学 第15回

 今回で最後です.3年生が多いので「貧困開発という仕事」というテーマで,開発に携わるにはどのような仕事があるかを紹介しました.

【授業の内容】
 大きく分けると次のような職業があります.
・国際公務員
・国家公務員および独立行政法人
・NGO, NPO
・開発コンサルタント
・民間企業(CSR業務)

 国際公務員と開発コンサルタントは4大卒の新卒ではまず無理でしょう.前者は修士号以上が必要となりますし,後者は即戦力が求められるので中途採用ばかりです.
 国家公務員は主に外務省です(他の省庁からの出向も多いようですが).独立行政法人としては,JICA,JETROがあります.どちらも採用人数が少ない割に(30名前後?),どうしても入りたいという希望者は比較的多いので,倍率は高くなります.

 NGOやNPOは数も多く,比較的入りやすいかもしれませんが,デメリットとして,雇用が不安定で収入も比較的低いことが挙げられます.特に日本のNGOは「NGOはボランティア」という見られるためか,どうしてもプロのNGOとしてきちんとした所得を得ることに抵抗があるのかもしれません.

 最後に民間企業のCSR業務ですが,企業で大規模なCSRをやっているところは大企業が多く,収入も安定していると思いますが,当然ながらCSRそのものは本業ではないため,その企業に入ったとしても必ずしもCSRに携われるとは限りません.むしろ確率はかなり低いでしょう.

 このようにどれを選ぶのも簡単ではありません.軽い気持ちではなかなかこの世界には進むことができません.ですが,それでも「どうしても開発に関わりたい」という強い気持ちがあれば道は開けてくると思います.

 さて,レポート題材の最後の選択肢は「NGOの役割と限界」です.これも一般論だけでなく具体例を交えると良いでしょう.

ミクロ経済学ベイシックⅠ補講

 最終回にテストを行うので補講を行いました.

【授業の内容】
 補講は一般均衡の問題を説明した後,これまでに配布した例題の質問を受け付けました.

経済学Ⅱ 第15回

 経済学Ⅱもこれで終わり.最後は復習とテスト対策をしました.

【授業の内容】
 昨年の過去問を使ってこれまでの復習をしました.これまで,みんな真剣に授業を聞いていたと思うのであんまり心配していません.がんばってくださいね.

 テストは自筆のA4用紙1枚のみ持ち込みありということになっています.

経済学A 第15回

 今回でこの講義も終わりです.最後は僕の趣味である「開発経済学」を採りあげました.

【授業の内容】
 開発経済学とは,途上国がどうすれば成長できるか,どうすれば貧困はなくなるのか,について取り組む,経済学の一分野です.普通の経済学も経済成長について研究するのですが,なぜわざわざ開発経済学が生まれたのかと言うと,日本やアメリカ,欧州などの先進国の経済と,アフリカや南アジアなどの途上国の経済は様々な面で異なっているため,先進国では有効な政策が途上国では通用しない恐れがあるからです.言うなれば,先進国は経済的に成長した大人であり,途上国は成長前の子供と言えるかもしれません.もしそうであるなら,大人と子供に同じ薬(政策)を使うわけにはいきません.大人にはちょうど良い薬も,子供には劇薬かもしれないからです.

 さて,では途上国と先進国はどう違うのでしょう.まずは様々なデータをみてもらいました.平均寿命,識字率,1人あたり所得やHIV感染率などです.最もHIVが猛威を振るっている国では,成人の感染率が約4割にあたるなど,我々からは想像もつかない状況です.またデータから見ると,世界の貧困はサハラ以南のアフリカと南アジアに集中していることがわかります.
 特に貧困が問題となっているのはサハラ以南のアフリカ(サブサハラ)ですが,昔から(相対的に)貧しかったのかと言うとそうでもないようです.60年前は東アジアよりはるかに豊かでした.しかし,サブサハラでは1人あたり所得が60年間伸び悩んでいるのに対して,東アジア諸国は特に80年代以降,急速に成長しました.

 ではなぜサブサハラは豊かになれないのでしょうか.授業ではその原因をいくつか紹介しました.途上国について調べていると,我々の常識では考えられない不運や失政などがたくさん見つかります.決してアフリカの人々が怠惰だから貧しいわけではなく,その彼らを取り巻く状況が悪すぎることに気づくはずです.
 こういった話に興味ある人は次の本が参考になります.たぶん大学の図書館にも入っています.
ロバート・ゲスト「アフリカ 苦悩する大陸」東洋経済

2009年7月21日火曜日

開発経済学 第3回レポートについて

 開発経済学の第3回レポートのテーマは,以下のうちから1つを選ぶこと.ただし,まったく同じタイトルではなく,少しぐらい変えることも可能です.

・「教育と貧困」
・「援助は経済成長に有効か」
・「ガバナンスは経済を成長させるか」
・「天然資源は国を貧しくするのか」
・「HIVの被害は止められるか」

 一般論でも構いませんが,国を想定して具体例を挙げるとレポートは書きやすくなるでしょうし,説得力も出るかもしれません.
 それぞれ毎回の講義の内容とリンクしているので,各回の講義内容を前提としてレポートを展開するようにしましょう.つまり浅い基礎的知識の羅列をせず,テーマを掘り下げるように.

2009年7月20日月曜日

開発経済学 第14回

 今回は保健・疾病として,主にアフリカにおけるHIVの蔓延について説明しました.

【授業の内容】
 HIV/AIDSについては知ってるような気になっているけれど,意外と知らないことが多いのではないでしょうか.まず,HIVについて説明しました.その感染方法,症状,世界中に蔓延した経緯などです.1980年代になって謎の怖ろしい病気として,先進国では大きな問題とされましたが,現在では日本という例外を除き,先進国のほとんどではHIVについての理解もすすみ,感染者数も減少しています.むしろ現在ではアフリカ,南アジアなど貧困国での感染者数の増大が大きな問題となっており,また中国やロシアでの感染者数も増えています.
 続いてAIDSですが,AIDSはHIVの感染後に発症します.あくまでHIVは原因であり,AIDSは結果です.

 HIV/AIDSが問題となっているのはなぜでしょう.まず第一に,健康な生活を営めないという問題があります.サハラ以南のアフリカ諸国のいくつかではHIVにより平均寿命が10年以上短くなっています.
 次に,健康を損なうため,貧困を招くという問題もあります.患者の多くは10代後半以降の労働者として働き盛りであるため,働き手の1人を失うことで,家計収入は減少します.また,AIDS患者が家族内にいることで,介護する人も必要になります.結果として,AIDS患者を抱えた家庭では収入が減る一方で医療費は増大し,食費,教育費が減少します.医療費については,かつて感染したら死を待つだけと思われていたHIV/AIDSですが,現在ではAIDSの発症を抑える抗レトロウィルス剤があり,年間300~400ドルのようです.しかし,1日約1ドルという我々からすれば安価なこの薬も,1日の所得が2ドル以下の人々の多いサブサハラでは,大きな負担になります.
 続いて,偏見による社会的孤立,母子感染,AIDS孤児など日本にいる我々にはなかなか想像しにくい問題があります.また,授業では言い忘れましたが,HIV/AIDSにより,家計が教育を通じて人的資本蓄積を行っても,それが収入を生まない可能性があるため,結果として国レベルでは教育水準が下がる可能性もありそうです.

 さて,HIV/AIDSはなぜアフリカで猛威を振るっているのでしょうか.かつては,「アフリカでは不特定多数との性的交渉が多いから」,「割礼を受ける男性が多いから」などの仮説がありましたが,前者はデータから仮定そのものが否定され(多いわけではない),後者は逆に「割礼を受けた男性の方がHIV感染率が低い」ということがわかりました.やはり一見非合理的に見えても,その地域で長期的に継続してきた風習・慣習にはなんらかの合理性があるのでしょうね.
 では,本題に戻ると,原因としていくつか考えられます.「教育水準の低さ,HIVについての基礎的知識が広まっていない」,「先進国とHIVのサブタイプが異なる」,「ジェンダー格差により女性が予防しにくい」,「売春」,「内戦」,「性に関する慣習」などについて説明しました.どれが決定的な原因なのかは判断しづらいところですが,それぞれそれなりの説得力があると思います.

 このような問題に対し,どのような対策が立てられているのでしょう.成功した例としてウガンダ,失敗した例として南アフリカを紹介しました.

 アフリカで問題となっているHIV/AIDS以外の疾病について,マラリア,下痢,眠り病などを紹介しました.我々にはなじみがない病気が多いために,新しい発見も多かったのではないでしょうか.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第14回

 前回に引き続き一般均衡です.今回まででテストの範囲はすべてカバーしました.

【授業の内容】
 前回はボックス・ダイアグラムの見方ぐらいまでで終わりました.今回はそこに相対価格を取り入れ,どのようにして価格が調整されるかを見ていきました.

 消費者理論のところですでに学んだ内容ですが,予算線の傾きは相対価格を意味していました.傾きが緩やかになるとX軸側の財の価格が相対的に安く(Y軸側は高く),逆に急になるとX軸側の財の価格が相対的に高く(Y軸側は安く)なることを確認しました.
 ボックス・ダイアグラムに,初期賦存量である点を取り,そこを通る予算線を描くことで,ある相対価格において,各プレーヤーはどのような取引をし,結果としてどのように消費をすると効用が最大になるかがわかります.消費者理論のところでもそうでしたが,結局,予算線と無差別曲線が接するような点(効用が最大になる点)を選ぶのです.しかし,適当に決めた相対価格のもとで,各プレーヤーがそれぞれ効用を最大にするよう行動すると,財によって超過供給や超過需要が発生する可能性が高いです.そのような不均衡が発生すると,市場メカニズム(ワルラス型メカニズムを確認しよう)により,相対価格は調整されるはずです.超過供給が発生した財の価格は安く,超過需要が発生した財の価格は高くなるため,不均衡は解消される方向に進みます.この調整は,両者の無差別曲線が接するまで行われ,結果的にパレート最適が達成されます.
 ボックス・ダイアグラムを使うことで,初期賦存量の基での不均衡が,市場の価格調整メカニズムにより均衡へと調整されることがわかります.大事なポイントは,各プレーヤーは自分の効用を最大にするよう利己的に行動するだけで,パレート改善が行われ,パレート最適へと導かれるような仕組みが市場には備わっている点です.凄くないですか?わかりにくい?

 さて,このように完全競争市場では,市場は最適な資源配分を実現するのですが,現実の世界は完全競争市場ではないケースがほとんどです.現実の経済にはどのような問題があるのでしょう?それは後期のベイシックⅡで学んでいきます.

【テストについて】
 期末試験は持ち込みなしです.

【補講についてのお知らせ】
 この講義の最終回(金曜日)にテストを行うため,授業が1回分減るので補講を行います.補講は7月21日(火曜日)5限に23202で行います.

経済政策論 第14回

  次週の木曜日は月曜の授業が行われるため今回が最終回です.

【授業の内容】
 今回は地球温暖化(温室効果ガス)問題の続きです.

 まず,スマートグリッドというシステムについての説明をしてもらいました.アメリカでは送電網が老朽化しており,よく停電も起きているから送電網の改善は有効だけど,日本ではあまり効果がないという意見もあったようです.ただ,スマートグリッドというシステムは送配電網だけでなく,蓄電池,スマートメーターも同時に導入することを前提としているので,充分考慮すべきシステムだと思います.
 大阪の堺市ではシャープや関西電力により,太陽光発電の電力を路面電車などへ供給する計画があるそうです.その他,九州の離島などでもスマートグリッドの実験が行われているようです.

 続いて,太陽光発電に関するドイツの取り組みについて説明してもらいました.キーワードはFIT(フィード・イン・タリフ)という仕組みのようです.現状では太陽光発電は経済性(発電のためのコスト)の点で既存の発電手段より劣っており,普及のための障害となっています.そのため市場に任せておいては普及しないので,ドイツ政府はFITを取り入れました.FITは電力会社に対して,自然エネルギーによる電力を長期間,固定価格で買い取ることを義務づけました.高い価格で確実に買い取ってもらえるため,一般家庭,そして企業が安心して太陽光発電を導入しました.これによりドイツでは急速に太陽光発電が普及しました.その副産物としてQセルズというドイツの新興の企業が太陽光発電パネルの生産で日本勢を抜き去り世界一のメーカーになりました.やはり「環境を守ろう」と政府が掛け声をあげても,反応してくれるのは環境意識の高い一握りの人たちだけで,市場全体は反応しません.そうではなく,環境を守るインセンティブを高め,「環境を守った方が儲かるのか」と人々に思わせるシステムを作る方がはるかに現実的です.政府が人々の善意に頼った目標設定をするのは間違いだと僕は思っています(楽観的すぎる).

 最後に二酸化炭素の貯留についても発表してもらいました.実際に調べてもらうと,油田など一部では実用化されているものの,まだまだ研究段階の域を出ておらず,これに頼るのは危険かもしれませんね.

 今期の経済政策論は例年に比べ,様々なトピックについてより深く学べたような気がします.お疲れさまでした.

 今回のトピックについてのレポートは木曜日までに出してください.

経済学Ⅱ 第14回

 今回はパレート改善についてです.効率的な資源配分について考えました.

【授業の内容】
 まずこれまでの復習をしました.消費者理論と生産者理論です.

 さて,その後,2人のプレーヤーの間でいかにして2種類の財を分けるかを考えました.そのために,まず「どんな変化が良い変化なのか?」を考えました.その基準として絶対的なものはありませんが,とりあえず多くの人が同意してくれそうなパレート改善という考え方を紹介しました.パレート改善とは,他の人の効用を下げないまま,ある人が効用を上げることができるような変化のことです.つまり人を不幸せにすることである人が幸せになっても,それは社会全体にとって良い変化とは認めないことです.
 ではこのパレート改善を良い変化の目安にするとどんなことがわかるのでしょう.授業では,ボックス・ダイヤグラム(エッジワース・ボックス)という図を使って,2人のプレーヤーの間での効率的な資源配分を考えました.ある配分割合からスタートして,どのように変化すればパレート改善になるのかを考えました.またどんどんパレート改善をしていけば,そのうちに,これ以上パレート改善できないような点に行き着くことがわかりました.この点はパレート最適と呼ばれています.パレート最適となる点は1つではなく,無数にあります.パレート最適となる点の例としては,Aさん,BさんがXとYという2つの財を分配する際では,AさんがX,Yをどちらもすべて所有するような分け方もパレート最適です.なぜなら,この状況からAさんがBさんに,少しでもどちらかの財を渡すような変化は(Bさんの効用はかなり改善するかもしれませんが)Aさんの効用は少しだけ下がるからです.これはパレート改善ではありません.このような1人がすべての財を独占してしまう状況はパレート最適ではありますが,経済学はこの状況が理想的だと言っているわけではありません.あくまで最も効率的な配分方法の1つだと言っているだけです.繰り返しになりますが,パレート最適となる点は無数にあるので,その中からどれが社会的に望ましいのかについてはまた別の基準が必要になりそうです.
 経済学Ⅱの範囲はこれで終わりです.次週は練習問題を用意しますので,復習をしましょう.

2009年7月17日金曜日

経済学A 第14回

 この講義もそろそろ大詰めですね.今回は財政と税について説明しました.リカードの等価定理なんて知っておくと役に立つ考え方ではないですか?

【授業の内容】
 冒頭に,「政府は消費税を上げるべきか?」という質問をしたところ,8~9割の学生が「上げるべきではない」と否定的な意見でした.果たして,今回の授業を受けた現在,その意見は変わったでしょうか?

 まず,復習も兼ねて「大きな政府」と「小さな政府」の違いを確認しました.簡単に言うと,大きな政府派の国では,税率が高い(負担が大きい)けれど,その分だけ社会保障などがしっかりしています.問題点は,政府が積極的に介入するために市場メカニズムに歪みが出るでしょうし,民間企業の活力が失われるかもしれません.
 一方,小さな政府派の国では,社会保障は十分とは言えないでしょうが,その分だけ税率も低く(負担が小さく)なっています.こちらは民間企業による競争を重視しているため活力はあるでしょうが,競争が激しいだけに当然,勝つ人(豊かな人)もいれば負ける人(貧しい人)も出てきます.つまり格差,そして貧困という問題が発生します.
 どちらも一長一短であり,どちらが優れていると簡単には判断できませんが,それでも皆さんは「自分がどちらの世界を望ましいと思うか」を決める必要があるでしょう.

 さて,日本は大きな政府なのでしょうか?それとも小さな政府でしょうか?今回時間が足りなかったので十分に説明できませんでしたが,小さな政府の国と言って良いでしょうが,日本は税率が低く,その割に政府支出が多い国です.収入より支出が多いので当然ながら借金をしています.政府は国債と呼ばれる借用証書を発行してお金を借り入れることができます.その額は戦後徐々に増え,バブル崩壊後に急激に増えました.日本が大きな借金を抱えていることは多くの人が認識しているとおりですね.
 それにも関わらず,現政権は,定額給付金やエコポイントなどいろんな政策で我々の生活を支えてくれています.しかし,そのお金はどこから来ているのか考えてみると,喜んでばかりはいられないかもしれません.政府による借金はいつか,誰かが返す必要があります.それは将来の皆さんであり,皆さんの子孫です.政府が支出を抑えて,抜本的に財政状況が改善しない限り,必ず将来増税する必要があります.(意図的にインフレを起こすという手段もありますが割愛します).

 さて,政府の主な収入は税収です.皆さんは税金との関わりは少ないでしょうが,世の中には様々な種類の税金があります.それらを,国税と地方税,直接税と間接税と言う区分をしてみました.
 直接税の代表は所得税です.所得税のポイントは累進課税制を採っている点です.このおかげで,所得税は貧しい人に優しく(非課税,あるいは低税率),豊かになるに従い税率が高くなっていくため,結果的に豊かな人と貧しい人の格差が縮小します.このように所得税は公正な税金であると言えます.このような利点がある一方,所得税は職業によって脱税しやすい・しにくい,という不公平が存在します.興味があればクロヨンとかトーゴーサンという言葉について検索してみてください.
 一方,間接税の代表は消費税です.消費税の利点はなんといっても税の負担者が脱税できない点です(納税者はできるかも…?).しかし,公平に老若男女,貧富の差も無視して,みんなに一律の5%という税金を課すため,相対的に貧困層に負担が重い税金であると言えます.
 「税金はどれもイヤなもの」と考えるのではなく,それぞれの税金の種類について理解を深め,そしてその税金が我々のところにどのように返ってくるのか,ということを考えると,必ずしも増税が悪いことばかりとは言えないのではないでしょうか.しかし,冒頭のアンケートのように,増税のイメージは悪いので選挙前にはどの政治家も良いことばかり言っているような気がします.僕はむしろ「歳出の無駄を省いても財源が足りなければ増税します.そしてこういうことに使います.」とはっきり言ってくれる人に投票したい気がしますが,そんな候補者は選挙には負けそうな気がしますねぇ….

【テストについて】
 期末テストは必修問題と選択問題の部分からなります.そして選択問題は,学科により選択できる問題が異なるので気をつけましょう.
 基本的に出題範囲は,初回から第15回(次回)までのすべてについて満遍なく出すつもりです.ノート等の持ち込みはできません.

2009年7月11日土曜日

開発経済学 第13回

 今回は内戦についてだったのですが….来週もう一度するかもしれません.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第13回

 今回は一般均衡ですが,最後まで説明できませんでした.

【授業の内容】
 一般均衡の説明では,消費者A,Bが財X,Yをどのように分配すれば,効率が良いか(社会的に望ましい状態になるか)を理解します.
 まず,これまでの復習をしました.消費者理論では,相対価格=限界代替率という点で消費を行いました.生産者理論では相対価格=限界変形率という点で生産を行うことを確認しました.

 さて,望ましい変化とはどんな変化でしょう.世界にはAさんとBさんの2人きりだとして,Aさん,Bさんの効用がどのように変化するときに望ましい変化とみなすべきでしょうか.人によって様々な考え方があると思いますが,ここではパレート改善という基準を使うことにしました(つまり絶対正しい,というわけではなく,便宜的に使います).パレート改善とは,他の人の効用を下げることなく,ある人の効用を上げることができるような変化のことです.まぁ多くの人が納得してくれるような定義だとは思います.また,これ以上パレート改善できないような状態をパレート最適と呼ぶことにします.

 さて,Aさん,Bさんで財X,Yをどのように分配すべきかを直感的に理解するため,エッジワース・ボックスという図を用いることにします.エッジワース・ボックスは,Aさん,Bさんのそれぞれの無差別曲線の図を組み合わせたものです.これを使うと,財の配分の変化がパレート改善であるかどうかがわかります.今回,いくつかの例で,パレート改善になったかどうか説明しました.
 次回はこのつづきからやります.

経済学Ⅱ 第13回

 今回も市場の失敗です.市場の失敗の例として,独占市場を説明しました.

【授業の内容】
 以前に完全競争市場の条件を説明しました.その条件のうち,「多数の売り手と多数の買い手の存在」,「自由な参入と退出」という条件が破られる場合を今回は採りあげます.このような場合,社会的に見て望ましくない資源配分となってしまいます.

 独占とは,財の売り手が1社(狭義の独占,完全独占),あるいは少数しか存在しない場合を言います.売り手が少ない場合はどんなことが起きるのでしょう.

 自由な参入と退出が可能な市場に,もし1社しか企業が存在しなかったらどうなるでしょう.その場合,ライバルがいないので,その企業は財を高い値段で売りつけることができます.自分たちで価格を決め,高い利潤を得ることができるでしょう.
 しかし,参入が可能な場合,(潜在的な)ライバル達はその状況を見て,「あんなに儲かるんなら,我々も参入しよう」と思うはずです.新規参入が起きれば,生産量が増えるため,自動的に価格は安くなります.かつては高い値段で売ることができた財も,ライバルがそれより安い値段で販売してしまうと,それに対抗して値下げせざるを得ないでしょう.もしその状況でも利潤があるならば,さらなる新規参入を生むでしょう.こうして,どんどん価格は下がり,生産量は増加します.結果として市場で価格が決定されるため,各企業は価格を決定できません.当然ながら利潤も減っていき,最終的には0になります.
 まとめてみると独占市場では(完全競争市場と比べ),価格は高く,生産量は少なく,利潤は多くなりますが,社会的余剰は少なくなります(死荷重が発生する).
 実際に,NTTの民営化前後(民営化前は日本電信電話公社)の通話料を比較すると,大きく下がっていることがわかりました.

 さて,独占はなぜ生まれるのでしょう.授業では3つに分類しました.
・資源独占
・政府による独占(の認可)
・自然独占

 独占は社会的余剰を減少させてしまうため,基本的に望ましいものではありません.そのため多くの国では独占を禁止する法律があります(日本:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律).

経済政策論 第13回

 今回から新たなトピック「環境」です.

【授業の内容】
 環境問題と一口に言っても,その範囲は非常に広いです.地球温暖化はもとより,大気・水質・土壌汚染,水不足,種の多様性など数多くの問題がありそうです.今回はそのうち,地球温暖化に焦点を絞ることにしました.

 地球温暖化の原因は何かについて,これまで様々な説がでてきたようですが,IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では,「地球は温暖化している」こと,そして「(それには)人類の活動が直接的に関与している」と結論づけられています.
 というわけで,人類の活動である温室効果ガスの排出により地球が温暖化している,ということを前提として解決策を考えることにします.

 環境問題は経済学的に捉えると,外部性の問題であると言って良いでしょう.外部性とは,経済主体AとBの取引により,第三者であるCになんらかの影響を及ぼすことです.その影響が悪い影響であれば外部不経済,あるいは負の外部性と呼ばれます.地球温暖化問題も,まさにこの外部不経済の問題です.ツバル共和国を例に取れば,この国は(主に)先進国がこの100年以上に渡って,石油由来のエネルギーを消費してきたこと,そして温室効果ガスを排出してきたことによる地球温暖化が引き起こす海面上昇により,国土の一部が海に沈んでしまいました.まさに,外部不経済の典型例です.
 ではこの外部性をどうすれば解決できるのでしょう.経済学からは,①ピグー税(課税,補助金),②内部化,③交渉,という3つの解決策が導き出されています.現在,イタリアで行われているサミットでは,まさに③交渉が行われているのでしょう.

 地球温暖化を止めるための手段は,大きく2つに分類できます.
【温室効果ガス排出量の削減】
 こちらは,排出量を減らすという手段もありますし,二酸化炭素を排出しないエネルギーを利用する手段(排出しない)もあるでしょう.
 前者の例としては,燃費の良い車を使う,省エネをする,という身近な方法もありますが,現在,スマートグリッドというシステムの研究も進んでいます.
 後者の例としては火力発電から,太陽光発電,風力発電などの再生可能エネルギーへと移行するという方法があります.根本的な解決のためにはこちらの方法の方が良いかもしれません.あるいは,両者を一緒に使うべきかもしれませんね.
【温室効果ガスを吸収(固定)する】
 排出量を減らすのではなく,空気中の二酸化炭素を減らすという考えもあります.二酸化炭素を地中深くに埋めて,温暖化させないという方法です.なかなか画期的ですが現実的なのでしょうか?オーストラリア政府はこの方法を推しているようです.

 いずれにせよ,地球温暖化は外部性を持っており,ある1人が努力して排出量を削減しても,他の人がそれ以上排出を増やしてしまえば意味がありません.そのため,1人1人の良心に訴えかけるよりも,規制や課税により,国レベル,地球レベルで排出量をコントロールする必要がありそうです.

 次回までの課題は次の3つです.
・スマートグリッドについて調べる
・ドイツで太陽光発電が急増した理由
・二酸化炭素を地中に固定する方法

経済学A 第13回

 今回は価格メカニズムについて説明しました.第1回にダイヤモンドと水の価格の話をしましたが,それを掘り下げた内容ですね.

【授業の内容】
 以前のアンケートで,「4枚切り食パンより5,6枚切りの方が高いのはなぜか?」という質問がありました.容量は同じだろうし,コストはほとんど変わらないはずですが,どうして5,6枚切りの方が高いのでしょう?そこには合理的な理由があるのでしょうか?

 さて,以前に価格は需要と供給のバランスによって決まると説明しましたが,それぞれの意味については深く追求しませんでした.需要とは,モノやサービス(総称して財と呼ぶ)を欲しがる気持ちのことですが,ただ単に「欲しいなぁ(けどお金がない…)」と思うだけでは需要ではなく,実際の購入につながるような場合に限ります.
 ほとんどの財の場合,価格が下がると需要が高まります.しかし,価格が下がらなくても需要が高まるケースもあります.この前者は「同じ需要曲線上の移動」であり,後者は「需要曲線そのもののシフト」であると,明確に区別されます.
 繰り返しになりますが,財の価格が下がると(上がると)需要は増えます(減ります).ただし,ちょっと値下げしただけで大きく需要が増えるケースもあれば,かなり値下げしたのにあまり需要が増えないケースもあるでしょう.こういった価格の変化に対する需要の反応の度合いを,需要の価格弾力性と呼びます.前者は弾力性が高い場合であり,後者は弾力性が低い場合です.需要の価格弾力性は,価格が1%変化すると,需要が何%変化するかを示したもので,具体的な数値として計算することができます.この弾力性が1より大きい場合は弾力性が高い,1より低い場合は弾力性が低いとしています.弾力性が高い場合には値下げをすることで財を売ることで得られる収入を増やすことができますし,逆に弾力性が低い場合は値上げをすることで収入を増やすことができます.学園祭で売る商品の価格決定に使えるかもしれませんね.企業の中には実際にこの弾力性を計算して価格を決めているところもあるそうです.

 最後に,価格決定メカニズムを紹介しました.このメカニズムにはいくつかの仮説があるのですが,その中のワルラス型価格調整メカニズムというものを説明しました.これは企業が決めた価格に応じて需要量,供給量が決まります.需要が供給より高い場合は超過需要が発生すると呼ばれます.この時,企業は価格を下げます.逆に超過供給が発生した場合は価格を上げます.これを何度か繰り返すことで,財の需要と供給は均衡するでしょう.これが絶対に正しい,というわけではなくあくまで仮説です.ただ,なかなか説得力はありますね.

 さて,なぜ4枚切りの方が5,6枚切りの方が高いのでしょう.弾力性から考えると5,6枚切りの方が弾力性が低いのかもしれませんね.あるいはそもそも5,6枚切りの方が需要が高いのかもしれません.あなたはなぜだと思いますか?

2009年7月4日土曜日

開発経済学 第12回

 今回は貧困と教育でした.

【授業の内容】
 途上国における教育の現状をデータで見ると,世界の15-24歳の識字率は,男性で91%,女性で85%です.これをサハラ以南のアフリカに限れば,男性76%,女性64%に過ぎません(UNICEF).
 今回は教育の拡充をメインのテーマにしましたが,その理由は以下の通りです.
1.そもそも子供には教育を受ける権利がある
 これは子供の権利条約(児童の権利に関する条約)に基づくもので,ソマリアとアメリカ(!)を除くほとんどの国が締約しています.またMDGsでもすべての子供に初等教育を受けさせることが目標とされています.
2.貧困削減の手段として
 以前にヌルクセの貧困の悪循環を説明しましたが,悪循環は一国全体としても捉えることができますし,家計単位でも教育を通じて貧困が連鎖してしまうと捉えることも可能です.つまり貧しい家庭では子供に与える教育の水準が低くなり,その子供も人的資本蓄積が少ないために高い収入を得ることができず,まさに教育を通じて貧困が子々孫々と遺伝してしまうのです.
 その連鎖を断ち切るためには,政府が十分な教育を供給することが大きな役割を果たすはずです.また,各家計単位で見ても,教育は収益率の高い投資先であることがわかっています(私的収益率).また教育は正の外部性を持つため,社会的収益率はさらに高くなります.
 しかし,現実には資金制約(就学させる余裕がなく,かつお金を借り入れできない),機会費用(児童労働),物理的制約(通学が困難),ジェンダー格差など様々な原因により,必ずしも初等教育が普及しているとは言えない状況です.

 貧困を削減するためにも教育が重要であることはわかりますが,現実には様々な,途上国に特有の問題もあるために教育は十分に普及していません.より多くの人に,より質の高い教育を目指して,世界中で様々な取り組みが存在します.授業ではその中から,バングラデシュのFFE(Food for Education)と,ニコラス・ネグロポンテのOLPCプロジェクトを紹介しました.

【参考文献】
UNICEF(2008)「世界子供白書」
OLPCウェブサイト
http://laptop.org/en/

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第12回

 前回に引き続き余剰分析です.

【授業の内容】
 今回は課税をした場合と,補助金を与えた場合について説明しました.

 まずは税金を3つに分類しました.従量税,従価税,固定税です.従量税とは,酒税やタバコ税のように,量に応じて税金が決まるものです.つまり1単位あたりいくらの税額が課せられています.今回はこの従量税が課せられた場合の余剰について説明し巻いた.次に,従価税は,価格に応じて税金が決まります.例としては消費税があります.消費税は価格の5%が税金であり(厳密に言うと消費税と地方消費税が合わせて5%なのですが),何個売買したかは関係ありません.最後に固定税ですが,コレは経済活動の規模に関係なく,個人や法人などに一定期間にいくらの税金を課すものです.具体的には現在の日本では何かあるんですかね…?公務員試験ではたまに出てくるようですが,古代ローマ,中国では人頭税があったようですが,それらも現在はなくなっていますしね.
 さて,この従量税ですが,生産者の供給曲線を上方にシフトさせます.供給曲線は限界費用なのですが,従量税は生産にかかる費用を増加させるため,この限界費用を増やすことに他なりません.そのため,需要曲線に変化がない場合,供給曲線のシフトアップは価格の上昇と生産量の減少を招きます.また税収が発生しますが(税収は社会的余剰に含まれる),課税前と比べると社会的余剰は減少することになります(死荷重が発生する).

 後半は補助金を与える場合を考えました.その中でも,ある財を政府が高く買い付け,安く売るケースです.こうすることで生産者余剰,消費者余剰ともに増加しますが,政府は補助金を出すことになり(マイナスの税とも考えられるので,補助金は社会的余剰から差し引かなければならない),トータルでは社会的余剰は減少します.
 さて,この補助金のケースの死荷重は,図ではどのように表現されるかは説明しませんでした.各自で考えてくださいね.

経済政策論 第12回

 今回は少子化の3回目です.

【授業の内容】
 これまでにかなりポイントが絞れてきたので,課題を中心に話を進めました.

 まず最初に,企業の子育て支援にどのようなものがあるかを説明してもらいました.徳島県の企業についての発表でしたが,県により表彰された子育て支援企業の名前がいくつか挙がりました.ただし,この表彰は制度を導入しているかが中心となっており,実際にどれだけ子育て支援制度が利用されているかについての数値的な言及がないため,やや物足りないものに思えます.特に中小企業では,育児休業制度があっても,ある人が制度を利用した場合,その人がやっていた仕事を誰が補うのかが大きな問題となりやすいようです.そのため制度があっても名ばかりで使えないということになりがちです.

 続いて,幼稚園の延長保育の状況ですが,延長保育を実施している幼稚園は徳島県内には公立・私立合わせて44カ所あるようです.その公・私の内訳は発表されませんでしたがおそらくほとんどが私立ではないでしょうか.実際,徳島市のHPを見ても,公立幼稚園の延長保育についての記述は見つかりませんでした.延長保育が利用できないとすると,祖父母のサポートがあれば別ですが,そうでなければ保護者のうち少なくとも一方は正規の仕事に就くことは困難でしょう.やはり現在の幼稚園は,夫が働き,妻は専業主婦という家庭を想定したものなのでしょう.しかし現実には自発的な選択として専業主婦を選べる家庭は裕福な一部に限られており,現在のシステムが時代の変化に対応できていないように思えます.

 最後の課題は,若年層の失業率・所得の推移でしたが,これはデータの収集はやや難しかったようです.徳島県のHPからは入手不可能で,中央省庁を当たる必要がありました.発表してくれたのは,全国の失業率でした.僕が手に入れることができたデータは四国の若年層(15-24歳)の失業率の推移でしたが,これを見ると若年層の失業率は全体の失業率と比較すると,男性で約2~3倍,女性では約2~4倍も高いことがわかります.また長期的には男女とも失業率が高くなっていることもわかります.所得に関するデータは入手できなかったので推測に過ぎませんが,(失業率から考えて)おそらく若年層の平均的な所得は下がっているのではないでしょうか.そうであれば,雇用状況・所得の低迷が晩婚化・非婚化,そして少子化につながっているのではないか,という前回出た意見が裏付けられるかもしれませんね.

 次週からはおそらく最後のトピックになるであろう,環境問題を採りあげます.

経済学Ⅱ 第12回

 今回も市場の失敗です.市場の失敗が発生するケースのうち,外部性がある場合です.

【授業の内容】
 前回確認したとおり,競争的な市場で価格や量が決まることが最も望ましいのですが,なんらかの原因で市場が上手く働かないことがあります.今回は,財の取引に外部性が発生することによって財が過剰に生産されたり,過小にしか生産されない,つまり最適な規模の生産がされないことを見ていきます.

 外部性とは,経済主体同士の経済活動が,その取引とまったく関係のない第三者に与える影響のことを指します.その影響が良い影響であれば外部経済(あるいは正の外部性),逆に悪い影響であれば外部不経済(負の外部性)と呼びます.外部経済の例としては,果樹園と養蜂や,教育を紹介しました.外部不経済の例としては,環境汚染や公害などがあります.環境問題は経済学の視点から捉えると,まさしく外部性の問題です.例え空気を汚染したとしても,もしそれが密閉された自宅の部屋で起きたのであれば問題はありません.空気の汚染を自分で起こして,自分で被害を受けるだけです.そういうケースでは,過剰に空気が汚染されることはないでしょう.しかし,現実の環境問題では,ある国が環境を汚染すると,その国はもちろん,周辺の国,あるいは世界全体が悪影響を受けてしまいます.そのため自分が受ける被害は世界全体の被害のほんの一部に過ぎないので,ついつい環境汚染を軽視しがちです(過剰に環境が汚染される).
 また,外部性は,その影響が市場を通じて波及するかどうかで,金銭的外部性技術的外部性に分類されます.金銭的外部性の例としては,鉄道の駅ができたことで周辺の土地が値上がりすることが挙げられます.また技術的外部性の例としては,自宅の前に高層マンションが建てられたことで日当たりが悪くなったことなどが挙げられるでしょう.

 さて,このような外部性が存在するとき,それが外部経済なら,財は社会的に見て過小に生産されます.逆にそれが外部不経済なら社会的に見て過剰に生産されます.そのため経済全体の厚生は低くなってしまうため,なんらかの是正措置が必要になります.その方法として授業では3種類を挙げました.まずはピグー税です.これは外部性を発生させている経済主体に課税,もしくは補助金を与えることで最適な生産をさせようというものです.続いて,経済主体自身による内部化があります.最後に交渉を挙げました.この交渉については,当事者間の交渉に取引コストがかからないのであれば,外部性により発生する非効率性を改善できるというコースの定理が知られています.

 最後に消費における外部性として,スノッブ効果とバンドワゴン効果を紹介しました.どちらも普段の消費で少しは心当たりがあるのではないでしょうか.

2009年6月30日火曜日

経済学A 第12回

 今回はゲーム理論入門です.

【授業の内容】
 これまでの話とはちょっと変わってますが,ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.

 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.そのためジャンケンもゲームであると言えます.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.

 最初のゲームとして,有名な囚人のジレンマと呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.
 ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,ホテリングゲームも解いてみました.中には答えが分かっていた人もいたのではないでしょうか?

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2009年6月28日日曜日

開発経済学 第11回

 今回はガバナンスです.

【授業の内容】
 前回,援助が有効に働くか否かはガバナンスによって決まるという研究を紹介しました.これまでもガバナンスという言葉は度々出てきましたが,ガバナンスとは何でしょう?

 ガバナンスとは何かについて,UNDP,世界銀行の定義を紹介しましたが,それらをまとめて僕は,「資源配分の効率性」と「意思決定のシステム」という2点に集約できるのではないかと考えます.また,ガバナンスに関連する様々な指標がありますが,そのうち世銀のガバナンス指標,トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の実感汚職指数などを紹介しました.授業では紹介しませんでしたが,国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」もガバナンスに関連する指標と言えるでしょう.
世銀:http://info.worldbank.org/governance/wgi/sc_country.asp
TI:http://www.ti-j.org/TI/CPI/index.htm
国境なき記者団:http://www.rsf.org/Only-peace-protects-freedoms-in.html

 さて,ガバナンスが悪いと何が問題なのでしょう?ガバナンスは上記の通り,資源配分の効率性と意思決定のシステムを意味しています.これらに問題があると,政府の政策や公共サービスが非効率であったり,特定のグループだけを優遇したり,汚職が横行したりと,様々な問題を引き起こしますし,それは結果として社会的厚生を下げてしまいます.
 ガバナンスが所得や乳幼児の死亡率に影響を与える,汚職が経済成長率を鈍化させるなど,様々な研究がガバナンスと社会的厚生との関係を指摘しています.

 後半は移行経済について解説しました.学生の皆さんにとって,社会主義国が資本主義の現実的なオルタナティブであった時代は想像しにくいかもしれません.僕も経済学を学び始めた時にはすでにソ連はロシアになっていましたし,ベルリンの壁も崩壊後でしたし,言わば歴史によって,経済システムとしては大きな欠陥があるという審判が下されていたので,学びたいと思える環境にはありませんでした.
 さて,社会主義経済にはどんな欠陥があるのでしょう.いくつかありますが,1つは市場経済とは異なり,情報の流れが上から下へと一方通行であり,効率的な資源配分が実現できないことがあります.もう1つは,物事を改善したり,新たな商品・技術を発明したりしようというインセンティブを持ちにくい点です.シュンペーターは経済成長における重要なファクターとして,創造的破壊を指摘しています.社会主義経済では,既製品を大量生産することには向いているかもしれませんが,このような創造的破壊が起きにくいのではないでしょうか.

 来週は教育と貧困削減について考えます.ぜひOLPCについて調べてみてください.

第3回レポート
 締め切り:8月6日20:00
 分量:図表などを除いてA4で3枚以上
 テーマは次のうちから1つを選ぶ(ただし選択肢は増える可能性あり).

  • 援助は経済開発に有効か?
  • ガバナンスと経済成長
  • 教育と貧困

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第11回

 今回は余剰分析でした.次週も余剰分析をします.

【授業の内容】
 余剰分析は,ある変化が国全体にとって望ましいものであるかどうかについて判断するための材料を与えてくれます.
 まず消費者余剰と生産者余剰から説明しました.消費者余剰は,消費者が払っても良いと思っている価格と実際の価格とのギャップ,生産者余剰は,生産者が売りたいと思っている最低価格と実際の価格のギャップで表されます.それぞれが大きくなればなるほど,消費者にとって,生産者にとって望ましい状況です.またその2つを合わせたものを社会的余剰と呼びました.この大きさで,社会全体にとって望ましい変化であるかどうかを判断します.(注:今回の講義の範囲では,社会的余剰=消費者余剰+生産者余剰,として良いのですが,厳密に言うと,社会的余剰=消費者余剰+生産者余剰+税収-補助金,です.)
 これらの消費者余剰,生産者余剰,社会的余剰は,需要と供給が直線で表されるときには,簡単な計算で求めることができました.

 厚生経済学の第一基本定理より,競争的な市場で価格と生産量が決まれば,社会的余剰が最大になることがわかりました.では,そうじゃない場合(社会的に望ましくない場合)とはどんな状況なのでしょう?

 今回は数量制限と価格制限によって社会的余剰がどれだけ減るか(=死荷重がどれだけ発生するか)を考えました.

 次回は税金を課すケースを考えます.

経済政策論 第11回

 前回に引き続き少子化問題です.

【授業の内容】
 まず前回の課題である「晩婚化対策の現状」について説明してもらいました.徳島では,県による「とくしま出会いきらめきセンター」というものがあるようです.こういった結婚相談所的なものの一番の問題点は,参加するための心理的なハードルが高いことだと思います.特に若い人にその傾向が強いように思われます.富山国際大学の樋口康彦氏の「崖っぷち高齢独身者 30代・40代の結婚活動入門」光文社新書を読んでみると,年齢が上になるほど結婚相手を見つけづらくなる現状がわかります.若い間は「そのうちなんとかなる」,「自分で探せる」と思っていて,そのままずるずると年齢を重ねるケースが多いようです.
 その点,上記センターは,企業単位で登録する点が興味深いです.独身の男女が上司に勧められ,顔を立てるため,という理由で参加できるからです.言わば上司が(昔で言う)お見合いおばさん的役割を果たしているのでしょう(ひょっとしたら僕の勘違いで,そのような動きはないかもしれませんが…).実際にやっていることは民間のお見合いパーティーと大差はないと思いますが,参加のための心理的ハードルに目をつけているのだとするとなかなか鋭いなぁと思います(本当の所はどうなのでしょう?).

 少子化の原因の1つは晩婚化・非婚化によるものであり,その対策は上記のように細々と各自治体によって始まっているようです.もう1つの原因は,結婚した男女の出産・子育て環境にありそうです.ということで,続いて「出産・子育て環境の現状」について発表してもらいました.
 こちらについては僕があまりメモを取れていなかったのですが,一定規模以上の企業には,仕事と子育ての両立を促進するための行動計画を策定することが義務づけられているようです.また徳島県には,徳島県子育て総合支援センターというものがあることもわかりました.

 解決策として,企業内託児所の設置などの案が出ました.実際には企業はどのような子育て支援をしているのでしょう.
 というわけで,次回の課題は次の3つです.
・企業の子育て支援
・保育所による延長保育の現状
・徳島の若年層の失業率や所得の推移

経済学Ⅱ 第11回

 今回から市場の失敗です.そのうち公共財について説明しました.

【授業の内容】
 これまでの授業はすべて完全競争市場という空想上の世界でのお話でした.今回からはそれを少しずつ現実に修正していきます.
 これまでの結論として,前回,厚生経済学の第一基本定理を説明しました.完全競争市場では市場に価格と量の決定を任せておけば,社会的にもっとも望ましい資源配分が実現できるということでした.

 ただしそのように市場は上手く働くばかりではありません.異なった条件では必要なものが生産されない(過剰に生産される),価格が高すぎる(安すぎる)という不具合を引き起こしてしまいます.
 今回の公共財は,市場に任せておいても生産されない財です.

 通常の財(私的財)は市場において,つまり民間側で生産されます.政府などから命令されなくても,利益の追求を目指す企業が自動的に生産します.ただし,企業は,今回採りあげる公共財を作ることはありません.なぜなら公共財はタダで消費されてしまう(ただ乗りされる,フリーライドされる)ため,儲からないからです.
 さて,公共財とはどのような財なのでしょう.公共財は次の2つの特徴を兼ね備えています(どちらか一方だけではダメ).

  1. 非競合性:複数の人が同時に消費しても,その財の価値が低下しないような性質を持つこと.(例:講義,ラジオの放送,国道など)
  2. 非排除性:特定の個人の利用を排除できないこと.つまりどんな人でも利用できること(しかもタダで).(例:公園,灯台の光,警察など)

 公共財はこのような特徴を備えています.逆にこの2つの特徴をどちらも備えていない財(つまり競合性と排除性を持つ財)は私的財と呼ばれ,どちらか一方だけ持つ財は準公共財と呼ばれます.

 これまで説明してきたように公共財はタダ乗りされてしまうため,営利目的である企業によって生産されることはまずありません.しかし道路や公園,警察などは我々の生活に必要不可欠です.そのため,私企業に代わって政府がこれらの財を供給します.そのため公共財と呼ばれるのです.

 公共財についてのもう1つの問題は,どれだけ生産するべきかわからない点です.私的財であれば,市場により自動的に生産すべき量や価格が決まってくるので問題ありませんが,公共財は市場で取引されないため,生産者である政府には,消費者がどれだけ必要としているか,またどれだけお金を負担して良いと考えているかがわかりません.そのため不必要な道路などの公共工事が行われることになる(あるいは必要な道路が建設されない)という問題を引き起こします.

 じゃあどうすればよいか,という話もしましたが,現実にできるかと言うとなかなか難しそうですね….

2009年6月27日土曜日

経済学A 第11回

 今回はグローバリゼーションでした.個人的には,皆さんが将来を考える上で非常に重要なテーマだと思っていますが,それが伝わったでしょうか?

【授業の内容】
 まず前回の補足として,比較生産費説で考えると世界中の国が自由貿易をするべきのように思えるのに,どうして自由貿易が実現しないのかを考えました.自由貿易は,比較劣位にある産業を縮小させます.縮小とは現実経済では,倒産,解雇など様々な痛みを伴うので,当然ながら反対する勢力が出てきます.
 また,かつての日本の自動車産業のように,今は比較劣位にあっても今後は成長が見込める産業を政府が保護することで,比較優位を持つまでに育つ場合もあります.つまり比較優位・比較劣位は固定したものではなく,政策,あるいは民間企業の創意工夫,世界的潮流の変化など様々な要因により変化しうるのです.
 保護貿易をするための手段としては,輸入品に対する関税や,保護したい産業への補助金の交付という例が多いですが,その他にも輸入数量制限などもあります.

 しかし,自由貿易が(個別の産業はともかく)国全体にとって良い影響を持つことは明らかなので,現在では各国が自由貿易に関する協定を他国と結ぼうと積極的に動いています.自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)はしばしばニュースでも採りあげられます.最近は日本とインドネシアのEPAの結果としてインドネシア人の看護師,介護士を受け入れたことは話題になりました.これも言い換えれば,看護サービスや介護サービスの分野において,日本はインドネシアに比べ比較劣位にあるからこそ,日本は看護・介護サービスを輸入することになりました(逆に日本人がインドネシアで介護・看護をするケースはほとんどないでしょう).
 
 さて,本題のグローバル化ですが,授業ではいくつかの具体例を紹介しました.ここではそれらの具体例から見えてくる,一般的な法則を考えてみます.
仕事(産業)は,それを実現できる国のうち,より賃金の安い国へと移動する.
 かつてイギリスでは繊維産業を中心とする産業革命が起きました.イギリスは繊維産業においてもっとも効率良く生産できる国でした.しかし,繊維産業の中心は,イギリスから(当時は)賃金の安かった日本へと移り,さらに賃金の安い中国へ,そして(今後はおそらく)ベトナムやカンボジアなどの低所得国へと移動します.自動車についてもかつてはイギリス,アメリカが中心で,現在は日本が比較優位を持っているようですが,今後は中国やインドなどのより賃金の安い国へと移りそうです.
 このことは結果として,
どこでも,だれでもできる仕事の賃金は下がり続ける.
 ということが推測できます.言い換えれば,今後も高い賃金を得ようと思えば,少数の人しかできない,もしくはできる場所が限定される仕事を選ばなければならないことがわかります.
 世界的に見ると大卒の人口というのは少数派です.そう考えると,大学で専門的な知識を身につけることは,グローバル化する世界では重要です.
・グローバル化は止められない.
 まず間違いなくグローバル化の流れは止められません.皆さんは様々な側面で外国の人々と交流する場面はふえるでしょうし,また競争する場面も増えるでしょう.
・グローバル化は必ずしも先進国(日本)にとって悪いことではない.
 授業では日本人の賃金はこれから途上国と比べると相対的に安くなると言いました.途上国の人々が日本人と同じ仕事を安くできるのであれば,企業は必ずしも日本人を雇うとは限りません.
 しかし,グローバル化は外国人の流入・仕事の流出を引き起こすだけでなく,日本人・日本の企業が外国に進出するためのハードルを下げてくれます.今後人口が減少していくと予測される日本だけで満足するのではなく,世界に打って出ようという企業は沢山あります.先日(2009/6/25)の日経新聞の第一面にも,ユニクロやファミリーマートなど生活関連の大手企業がアジアへの出店を増やし,近い将来,国内よりも国外の売上や店舗数を増やす予定であることが紹介されていました.
 世界に出て挑戦しようという意欲のある人にとっては,グローバル化はチャンスを増やしてくれます.

 以下は,ぜひ今のうちに読んでほしい本のリストです.
トーマス・フリードマン(2006)「フラット化する世界」日本経済新聞社
ドン・タプスコット,アンソニー・ウィリアムズ(2007)「ウィキノミクス」日経BP社

2009年6月21日日曜日

開発経済学 第10回

 今回は国際的な援助についてでした.といっても前回,ODAのうち主に二国間援助を説明したので,それを除く国際的な援助について説明しました.

【授業の内容】
 まず国際援助の実施機関の区分からです.国連(とそのグループ)を始めとする国際機関,二国間援助,そしてNGOです.それぞれ,異なる長所と短所を持っており,互いに補完する性質を持っていると言えるでしょう.
 機関の名前だけ聞いていてもイメージがわかないので,実際にUNHCRで働く日本人の映像をみてもらいました.過酷な現場ですが,笑顔が印象的でしたね.

 援助の現場にいるのは国際機関だけではありません.NGO(NPO)の存在感は年々大きくなっています.NGOは資金・人材が限定されるという欠点もありますが,柔軟できめ細かい援助ができるという利点もあります.

 さて,援助の方法ですが,授業では,次の2つに分類しました.
・資金,物資の援助
・指導
 前者はすぐにイメージできますが,後者はなかなかイメージしにくいでしょう.授業では1980年代にIMFや世銀が行った構造調整を採り上げ,その結果について照会しました.
 それも含め,援助についての理論として,マクロ・ミクロの両面から説明しました.マクロとしてはTwo-Gapモデルの説明と,その評価について,そして構造調整に関して途上国に突きつけられた条件(Conditionality)を具体的にみていきました.

 対するミクロ面として,参加型開発について説明しました.参加型開発は,調査にかかるコストの増加や受益者による利益誘導の恐れというデメリットがありますが,それをカバーする様々なメリットを持っています.

 さて,援助について2回に渡ってみてきましたが,BurnsideとDollarは「受け入れ国のガバナンスが良好である場合にのみ,援助は有効に働き,経済成長に寄与する」という研究を発表しました.これまでもガバナンスという言葉がちょこちょこでてきていたのですが,次週はガバナンスとは何かについて講義したいと思います.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第10回

 今回は価格決定理論です.今回から,ここまでの知識を使って経済全体を見ていきます.

【授業の内容】

 価格決定理論とは,どのようにして財の価格が決定するのかを説明するモノです. まずワルラス型価格調整メカニズムを説明しました.ワルラス型は,まず価格ありき,です.企業が価格を決定し,それに応じて需要あるいは供給が決定するというものです.その際,需要より供給の方が多い場合(超過供給)は価格が下がり,逆に需要の方が多ければ(超過需要)価格は上がります.需要曲線と供給曲線が具体的な関数として与えられれば(授業では直線にしました),ある価格の下で,どれだけ超過需要,もしくは超過供給が発生しているかを計算できます.また,均衡において価格と量がそれぞれいくらになるかも計算できます.授業ではこの計算はちょっと説明を省いてしまいましたので,授業の後に質問も出ました.たしかに経済学として考えると,均衡はどこかはわかりづらかったかもしれませんが,数学的に見ると直線と直線の交点に過ぎないことに気づくと思います.今後も数学的な表現を経済学的に解釈すること,そして経済学的表現を数学的に理解すること,この両方が必要となってきますし,その作業は理解を助けてくれるはずです.

 通常の右上がりの供給曲線と右下がりの需要曲線であれば,価格の初期値がどこであっても,試行錯誤を繰り返して,最終的には必ず需要と供給が等しい点(均衡)に行き着きます.このような動きは安定的である(あるいは収束する)と言います.

 ワルラス型に対して,マーシャル型価格調整メカニズムというものもあります.こちらは,まず生産量ありき,です.企業が生産量を決め,それに対応する供給価格(売りたいと思う値段)と需要価格(買いたいと思う価格)が決まります.供給価格より需要価格の方が高ければ(超過需要価格),企業は生産量を増やします.逆に供給価格の方が高ければ生産量は減少します.

 マーシャル型の場合も最終的には需要価格と供給価格が等しい均衡に無かって安定的に収束します. 皆さんが普段目にする値段で,おそらく一番値動きが激しい財は野菜ではないでしょうか.特に葉物(キャベツや白菜など)は安いときと高いときの差が激しいような気がしませんか?

 このように価格が安定的に収束せず,乱高下を繰り返す財の価格を説明する理論として,クモの巣理論があります.これは,完成までに時間がかかり,かつ保存ができない財(まさに野菜ですね)の価格を説明するものです.図を使って説明しましたが,ポイントは,その財の価格が提示されてから生産者は生産量を決定しますが,生産までに時間がかかるため,できあがったときの価格は想定した価格とは異なるという点です.クモの巣理論は需要・供給価格のほんのわずかな傾きの違いにより収束したり,発散したりとなかなか微妙な代物です.結論としては,需要曲線の傾きの絶対値が,供給曲線の傾きの絶対値よりも小さければ収束しますが,逆であれば発散しました.

 なお,最後に発展的な内容として,ギッフェン財の需要曲線を考えてみました.通常の需要曲線とは異なりギッフェン財の場合は右上がりの需要曲線になります.このように需要も右上がり,供給も右上がりという珍しいケースでは,ワルラス型とマーシャル型で結果に差が出てきます.

2009年6月20日土曜日

経済政策論 第10回

 今回から新しいトピック「少子化」です.

【授業の内容】
 まず少子化とは何かを理解するため,合計特殊出生率の定義を説明し,様々なデータを紹介しました.時系列から見ると日本の出生率がずいぶん下がってきたことがわかりました.また横断面で見ると,同じ日本でも都道府県によってずいぶん出生率に違いがあることがわかりました.
 続いて,少子化のメリットとデメリットを説明しました.デメリットは以前に健康保険の回に確認しましたが,なんと言っても社会保障制度に悪影響があるからです.

 さあ,ではなぜ日本は少子化しているのでしょう.突然の質問でしたが,晩婚化と核家族化を少子化の原因として答えてくれました.晩婚化(非婚化)は,結婚がほぼ出産の前提条件となっている日本では重要な要因です.また核家族化は子育て環境の悪化を示すものととらえることができます.
 さらに,晩婚化(非婚化)と核家族化が進んだ原因について考えてみました.前者については高学歴化による女性の社会進出,結婚相手に求める条件が高くなった,周りからのプレッシャーが小さくなったなどが挙げられ,後者については社会保障制度の充実,職業選択の多様化などが挙げられました.

 今回すでに,かなり少子化の原因について突っ込んだ話ができました.次回は,晩婚化対策の現状,子育て・出産環境の現状について調べてきてもらい,できればオリジナルの解決策を発表してもらおうと思います.

経済学Ⅱ 第10回

 今回は余剰分析でした.

【授業の内容】
 余剰分析は,ある変化が国全体にとって望ましいものであるかどうかについて判断するための材料を与えてくれます.
 まず消費者余剰と生産者余剰から説明しました.それぞれが大きくなればなるほど,消費者にとって,生産者にとって望ましい状況です.またその2つを合わせたものを社会的余剰と呼びました.この大きさで,社会全体にとって望ましい変化であるかどうかを判断します.

 厚生経済学の第一基本定理より,競争的な市場で価格と生産量が決まれば,社会的余剰が最大になることがわかりました.では,そうじゃない場合(社会的に望ましくない場合)とはどんな状況なのでしょう?

 例として,数量制限をした場合,価格制限をした場合,課税をした場合を考えました.それぞれ,競争的な市場で価格が決まる場合に比べ,社会的余剰が小さくなることが図から理解できました.
 タバコやお酒などには税金が課せられていますが,余剰分析からすると望ましいことではありません.しかし,税金を課すことでそれぞれの消費が減少するため,社会的余剰以外の何らかのメリットがあると考えられます.

経済学A 第10回

 今回は貿易とグローバリゼーションの予定でしたが,ほとんど貿易の話になりました.

【授業の内容】
 今回考えてもらったのは,グローバル化は悪いのか?貿易は何をもたらすのか?ということです.先進国が集まる国際的な会議で反グローバルを主張するデモが起きるのは珍しいことではありません.グローバル化に反対している人々はなぜ反対しているのでしょうか?

 まず,貿易とはどんな性質の取引なのか,絶対優位,比較優位という言葉と共に学びました.リカードの比較生産費説からわかることは,どんな国であっても,比較優位にある財に特化し,それを輸出することで豊かになれる可能性があるということです.つまり貿易は他の国を打ち負かしてその富を奪い取るものではなく,他国と自国が共に豊かになれるものなのです.
 皆さんの直感的な予想とは異なり,貿易することで両国とも豊かになれるというこの結論は非常に力強いものです.貿易を通じてWin-Win関係が築けるのであれば,どの国もどんどん貿易をすれば良いはずですが,現実には自由な貿易を妨げる様々な障壁があります.その理由は何なのでしょう?次週はそこからスタートして,グローバル化についてもっと深く学びましょう.

2009年6月13日土曜日

開発経済学 第9回

 今回はODAでした.

【授業の内容】
 ODAとは政府開発援助です.ODAについては悪いイメージが先行しているかもしれませんが,実際はどういうもので,どういう目的のために行われているのか見てみましょう.

 ODAとは次の3条件を満たしたものです.

  • 政府ないしは政府の実施機関によって供与されたもの
  • 途上国の経済開発や福祉向上への寄付を目的として供与される資金
  • 借款はグラントエレメント比が25%以上のもの

(斜線部分は外務省ウェブサイトよりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/nyumon/oda.html

 簡単に言うと政府が他国に対して行う援助のことと考えて良いでしょう.しかし,なぜ援助をするのでしょうか?日本も財政的にはかなり厳しいはずですが….その理由は利他的と利己的の2つに大別できます.

 まず利他的な理由ですが,地球に住む人間に課せられた所得税のようなものと考えれば良いでしょう.豊かな人が所得の一部を提供することで,貧しい人々の生活を大きく改善することができます.また,人道的な立場からも,貧困に苦しんでいる人を助けるべきだと言う人もいるでしょう.僕もどちらかというとこの立場です.ちょっとしたきっかけで貧しい人々の生活が大きく変わる様子は前回のマイクロファイナンスの講義でもわかったと思います.しかし,政府関係者はこういった主張をあまりしません.「皆さんのお金で見返りを求めず援助しました」とはやっぱり言いにくいと思います.「そんな金があるなら税金安くしろ!」という人もいるでしょうからね.

 というわけで,もう1つの理由が必要となるわけです.利己的な理由としては,ODAで恩を売っておけば何らかの見返りが期待できる,というものがあります.特に日本は原油という天然資源を持たない国なので,安定的なエネルギー供給のために,ODAが間接的に役立っていると言えるでしょう.また,国際舞台での発言力が増すということも考えられます.軍事力を行使して紛争解決することができない日本にとってODAは国際的な存在感を高めるために必要と言えるかもしれません.

 この他,グラントエレメント比,ODAの内訳,日本のODAの特徴などを説明しました.

 MDGsを達成するために必要な金額は約2000億ドルとも言われますが,モントレー合意に基づきDACドナー諸国がGNPの0.7%をODAとして拠出するという約束を守れば平均して2350億ドルが拠出できます.つまりMDGsは決して実現不可能ではない,と主張されています.(その試算が正しいとすれば)後は0.7%を拠出するだけですが,日本のODAは0.7%にはほど遠いのが現状です.政府はODAの額を増やすことができるでしょうか?

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第9回

 今回は企業行動のまとめです.

【授業の内容】
 前回に引き続き,企業行動,特に費用に注目しています.今回新しく,平均総費用(ATC)と平均可変費用(AVC)という2つの費用が出てきました.この2つは,限界費用と共に図示することで,様々なことが直感的に理解できるようになります.
 平均総費用は,生産には様々な費用がかかりますが,それらをトータルして,生産量1個あたりにはどれだけの費用がかかっているかを示すものです.そのため,これより価格が高ければ最終的に黒字になるし,逆であれば赤字になる,という目安になるものです.企業は(当たり前ですが)財が高く売れれば儲かるし,安くしか売れないのであれば赤字になるでしょう.そしてそこには,ここより高く売れれば黒字,そうでなければ赤字という境界線があるはずです.それは損益分岐点と呼ばれ,限界費用と平均総費用が交わる点の価格です.
 平均可変費用は,生産量1個あたりにどれだけの可変費用がかかっているかを示すものです.つまり生産したことで発生した費用(これが可変費用ですね)を生産量で割ったものです.平均可変費用が価格よりも低ければ,生産した財1個当たりから得られるお金(価格)の方が,財1個あたりの,生産したことにより発生した費用より高いので,生産しないよりした方が良いことがわかります.ここでも,これ以上の価格で売れるなら生産した方が良いが,そうでなければ生産を停止すべきという境界となる価格があり,それは操業停止点と呼ばれます.図では,限界費用と平均可変費用の交わる点の価格として表されました.
 操業停止点についてはちょっとわかりにくいので,異なる説明をしましょう.総費用は可変費用と固定費用からなります.固定費用は生産しようとしまいと,最初から固定です.親の残した借金のようなものと考えれば良いでしょう(ただし相続放棄はできない).その借金(費用)は仕方ないものとして,ではこれから生産すべきか生産すべきでないかを考えましょう.生産すると,その財を販売することで収入が得られます.これが生産のメリットです.一方で生産することで様々なコストが発生します.これが可変費用です.まとめてみましょう.

生産するメリット:収入(R)が生まれる
生産するデメリット:可変費用(VC)が生まれる

 このメリットとデメリットのどちらが大きいかで生産するかどうかを決定します.収入の方が可変費用より大きいのであれば(R>VC)生産します.この式を両辺ともに生産量(x)で割ってみましょう.左辺のRはR=P×xなのでxで割ればPが残ります.右辺をxで割ってみるとAVCが出てきます.つまりR>VCとはP>AVCと同じものなのです.
 そのため価格が平均可変費用よりも高ければ生産すべきだし,逆であれば生産を停止します.このように,操業停止点というものがあり,その右上の限界費用曲線を見れば,価格がいくらであればどれだけ生産すべきかがわかります.これは企業の供給曲線そのものです.
 この範囲の例題はたくさん配ったのできっちりとやっておきましょう.ワンパターンだから覚えることはそんなに多くありません.

 これまでの範囲はすべて短期における企業について見てきました.最後に,長期の場合の生産についても確認しました.

経済政策論 第9回

 今回は観光の3回目です.

【授業の内容】
 前回の課題として,徳島県によるネットでの広報活動の改善点,観光客の視点で徳島2泊3日のプランを考える,軽井沢の魅力とは何か,の3つを発表してもらいました.

 県のサイトとして阿波ナビがありました.これについては,写真や説明が少ない,動画があるが目玉になっていない,などの意見がありました.僕としては,実際に観光した人の口コミが書き込めるようなシステムになっていれば,情報が常にアップデートされるし,情報量も増えるし,もっと魅力的になると感じました.またグルメ情報が少ないこともマイナス点です.じゃらんやるるぶといった民間企業の観光客向けサイトではグルメ情報が充実しています.民間企業のように,もっと観光客の視点に立つことが必要でしょう.

 2泊3日のプランは魅力的で,実際に行ってみたいと思わせるものでした.しかし,マイカーを利用したものであり,公共交通機関を使うと,このプランの半分ぐらいしか実現できないんだろうなと感じました.

 最後の課題は,軽井沢の魅力の秘密を探ろうというものでした.たくさん挙がりましたが,真似できるものもあればできないものもありました.

 さて,次週は実際に知事宛ての提言にできるように,徳島の観光の問題点・解決策について文章をまとめてきてもらいます.県のサイトを見てみると1000字までの投稿ができるようですね.

経済学Ⅱ 第9回

 今回は価格決定理論です.今回から,ここまでの知識を使って経済全体を見ていきます.

【授業の内容】
 価格決定理論とは,どのようにして財の価格が決定するのかを説明するモノです.

 まずワルラス型価格調整メカニズムを説明しました.ワルラス型は,まず価格ありき,です.企業が価格を決定し,それに応じて需要あるいは供給が決定するというものです.その際,需要より供給の方が多い場合(超過供給)は価格が下がり,逆に需要の方が多ければ(超過需要)価格は上がります.
 通常の右上がりの供給曲線と右下がりの需要曲線であれば,価格の初期値がどこであっても,試行錯誤を繰り返して,最終的には必ず需要と供給が等しい点(均衡)に行き着きます.このような動きは安定的である(あるいは収束する)と言います.

 ワルラス型に対して,マーシャル型価格調整メカニズムというものもあります.こちらは,まず生産量ありき,です.企業が生産量を決め,それに対応する供給価格(売りたいと思う値段)と需要価格(買いたいと思う価格)が決まります.供給価格より需要価格の方が高ければ(超過需要価格),企業は生産量を増やします.逆に供給価格の方が高ければ生産量は減少します.
 マーシャル型の場合も最終的には需要価格と供給価格が等しい均衡に無かって安定的に収束します.

 皆さんが普段目にする値段で,おそらく一番値動きが激しい財は野菜ではないでしょうか.特に葉物(キャベツや白菜など)は安いときと高いときの差が激しいような気がしませんか?
 このように価格が安定的に収束せず,乱高下を繰り返す財の価格を説明する理論として,クモの巣理論があります.これは,完成までに時間がかかり,かつ保存ができない財(まさに野菜ですね)の価格を説明するものです.図を使って説明しましたが,ポイントは,その財の価格が提示されてから生産者は生産量を決定しますが,生産までに時間がかかるため,できあがったときの価格は想定した価格とは異なるという点です.クモの巣理論は需要・供給価格のほんのわずかな傾きの違いにより収束したり,発散したりとなかなか微妙な代物です.