2011年12月17日土曜日

経済学A 第11回(12/6)

今回は貿易とグローバル化です.


【授業の内容】
 まずパワーポイントを使って,パレート改善,絶対優位と比較優位について説明しました.
 パレート改善とは,他の人の幸せを犠牲にすることなく,ある人は幸せになれるような変化のことです.もちろんみんな幸せになることもパレート改善です.この話をしたのは,貿易が良い変化をもたらすのかどうかを理解するためです.
 まず結果が予想しやすい例として,互いに絶対優位がある場合を考えました.例として挙げたのは,魚釣りが得意だけど米作りが苦手な漁師と,魚釣りは下手だけど米作りが得意な農家の取引です.このような相手より得意に生産できることを絶対優位と呼びます.漁師は魚釣りに絶対優位があり,農家は米作りに絶対優位があると言います.漁師と農家がそれぞれ自給自足で生活するよりも(国際貿易で言えば鎖国状態),それぞれが得意な魚釣りと米作りに専念し(これを特化と呼ぶ),作ったものを交換することで両者ともより豊かになれることが確認できました.
 さて,では何でも得意な国(A国)と,何でも苦手な国(B国)があったとすると,さすがにこの両国の間には貿易は起こらないのでしょうか.具体的に数値例を使って,この両国の貿易を考えてみました.両国は2種類の財を作っているとします(XとY).
 A国はB国よりもXとYどちらの財についても効率的に生産できます.しかし,より得意な財があるとします.これをXであるとしましょう.するとB国はどちらも苦手だけど,まだマシなのはYということになります.A国にとってのX,B国にとってのYは,比較優位があると言います.A国はXに比較優位があり,B国はYに比較優位があるのです.
 この場合,両国がそれぞれ比較優位にある財の生産に特化して輸出し合うとどうなるでしょう.この場合も先程の例と同じく両国が豊かになれる可能性があることがわかりました.みなさんに事前に結果を予想してもらいましたが,この結果を予想した人はほとんどいませんでしたね.僕としては狙い通りで,ワクワクしてしまいました.

 後半はTPPやグローバル化する未来についての話です.
 TPPは簡単に言うと,多国間で自由な貿易を進めようという取り組みのことです.ただし,自由な貿易を進めるためには関税の撤廃だけでなく,関税以外の障壁も取り除く必要があり,加盟国間で様々なルールを共通させようというものであるため,幅広い影響が予想されます.
 グローバル化とはヒト・モノ・カネが国境を越えて移動することと定義することができます.ITの普及に伴い,グローバル化は急速に進展しています.グローバル化すると起こり得ることの1つに,同じ仕事を巡って世界中の人々が争うことがあります.少し前までは日本で働く看護師は日本人がほとんどだったわけですが,今ではインドネシアなどからの看護師を受け入れるようになりました(条件は非常に厳しいですけどね).今後もこの傾向は強まるでしょう.特にプログロマーなどの話す言語に関係なく同じ条件で働ける仕事では,すでに国際的な競争は激しく行われていますね.

 というわけで,皆さんも将来,世界市場で外国人と仕事を争うことになるでしょう.その時により有利な条件で働けるよう,専門的な能力を在学中にしっかり身に付けましょうね.

経済学A 第12回(12/13)

今回は少子化と結婚の経済学です.
【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.
 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.
 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.
 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 現在の将来予測によると,皆さんの世代では1/3~1/4程度の人は生涯に渡って結婚をしないだろうとされています.たかだか数十年前までは(男女で大きく異なるものの),ほとんどの人が結婚していたのですが,現在,そして今後は結婚する人もいれば,結婚しない人もいるのが自然になってくるのでしょうね.
 さて,結婚している割合(有配偶率)をその他の指標(学歴や収入)と比較してみました.もちろんこれが全てではありませんが,ある傾向が見て取れたはずです.そのうち,なぜ収入と有配偶率に相関関係(あるいは因果関係)があるのかを説明する仮説はいくつもありますが,たくさんありすぎてすべてを紹介することはできないので,今回は,その中からイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?

経済学A 第10回(11/29)

今回は為替と貿易についてです.
【授業の内容】
 まず円高と円安の説明です.よく考えれば当たり前なのですが,いきなり言われると間違えそうですね.現在はおよそ1ドル=80円ですが,これは1ドルを購入するために80円かかることを示すので,1ドル=100円になると1ドルを購入するために100円かかるようになります.つまりこの変化は,1ドルの価値が上がったことであり(ドル高),もちろんそれは円と比べてのことなので,円の価値が下がったこと(円安)でもあります.つまりこの変化は円安ドル高です.逆に1ドル=60円になれば円高ドル安です.
 さて,一般に,円高は日本経済にとって良くないと言われます.なぜ日本円の価値が上がる円高が悪いことなのでしょう.結論から言うと,私たち消費者にとっては円高は悪いことではありません.むしろメリットの方が多いです.私たちが持っているお金(円)の価値が上がるので,外国の製品を安く買えることになるし,海外旅行も安く行けます.
 しかし,日本経済を支える輸出企業にとっては円高はありがたくないものです.なぜなら円高はドル安であり,ドルの価値が下がることなので,アメリカ人にとっては日本製品を買う時にたくさんのドルが必要になるため,なかなか買いづらくなります.日本の企業の輸出品が売れなくなるのです.日本の企業の国際競争力が落ちると言っても良いでしょう.
 このように為替は企業にとって大きなリスクでもあるのですが,為替はどうやって決まるのでしょう.為替は外貨の価格ですので,これまでも何度も説明してきたように需要と供給のバランスによって決まります.みんなが円を欲しがりドルを売りたがれば円高ドル安になります.
 この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.
 最後に為替制度について説明しました.今回説明したように,日本円は,為替レートが刻々と変化する変動相場制なのですが,中には為替レートを固定している通貨もあります.かつては日本も1ドル=360円の時代がありました(僕は生まれてませんが).また,固定相場制を基本として,上下数%の変動を認めるペッグ制を採る通貨もあります.

 次週はアンケートでみなさんの要望が多かった少子化と結婚の経済学を説明します.

経済学A 第9回(11/22)

前回に引続き資産運用の話です.今回でようやく株の話になりました.


【授業の内容】
 前回は利子,割引現在価値,期待値の計算やリスクについて説明しました.今回はそれらを使って株式について理解を深めました.
 まず,株を買うメリットを皆さんに聞きました.多くの人は「株というものは安く買って高く売ることで儲けるものだ」と考えがちです.もちろんそのような目的でも買うわけですが,それ以外のメリットもあります.「安く買って高く売る」ことで利益を出す取引を裁定(さいてい)取引と呼びます.またそれによる利益はキャピタルゲインと呼びます.日本語で言えば「資本利益」と言ったところでしょうか.
 それ以外のメリットは配当です.ある株を保有することはその企業の一部を所有することになるので,持っている株の数に応じて企業の利益の一部を受け取れるのですが,それが配当です.こちらはキャピタルゲインに対してインカムゲインと呼ばれます.所得利益とでもいうのかな?あまり日本語で言うことはありません.
 さて,今回説明した株価の予測方法のうち1つめのファンダメンタル分析は,この配当こそが株の価値なのだとする考え方に基づきます.ある会社の株を持っていると,この企業が倒産することなく毎年毎年利益を出し続ければ,永遠に配当をもらえます(例外あり,黒字でも配当を出さない場合や,赤字でも配当をだす場合もあります).前回の割引現在価値でわかったように,未来のお金を現在の価値に直すときには割り引かなければなりません.ファンダメンタル分析では,今後受け取れるすべての配当を現在の価値に直したものが株価であるとします.確かに,その株を持っていても配当が貰えそうにない,あるいは近々潰れてしまいそうな企業の株はあまり欲しくありませんね.みんながそう考えれば,みんながその株を売ることになるので,株価は低いでしょうね.実際,東京電力の株価は震災以来ガクンと下がっています.(震災前は2000円ぐらい→今は200円ぐらい).


 ファンダメンタル分析に対してテクニカル分析というものがあります.これはその株の過去の株価推移を見て将来の株価を予測するものです.言うなれば経験則の集合のようなもので,なぜそうなるのかという理論的な裏付けは弱いです.学術的にはあまり信頼されていませんが,株式入門のような本ではよく取り上げられます.

 さて,後半は株以外の資産運用方法について説明しました.なぜなら,株は資産運用の手段の1つであるため,株を始める前に,株以外に自分に合った金融商品があるとわかればそちらを選べば良いのです.

 今回取り上げたのは以下の金融商品です.
・銀行預金,貯金
 皆さんにもっとも身近な金融商品ですね.リスクはほとんどない代わりに,現在の金利は非常に低いです.年に一度でも引き出し手数料を取られたら逆にお金は減りそうなぐらいです.
・投資信託
 投信やファンドとも呼ばれます.信託銀行,証券会社以外にも普通の銀行でも買うことができます.1万円程度から購入できるので,比較的敷居の低い商品です.これは,多くの投資家から集めたお金をプロのファンドマネージャーが運用し,その運用益を投資家に配分するというものです.ファンドによって,リスクの低さ重視,リスク高めで運用益重視など,特徴があります.個人で買うよりも多くの投資先に資金を分散できるので,株を個人で運用するよりはリスクは低いことが多いです.ただし,毎年手数料がかかるため,リターンもやや低めになります.
・債券(国債,地方債,社債)
 (国債を例に取ると)国からの借用証書のようなものです.国にお金を貸し,その利子を毎年払ってもらえます.お金を貸す期間は様々で3,5,10年あたりが多いでしょう.なかには50年というものもあります.最近は個人でも国債を買うことができます.10年物であれば10年は元本を返してもらえないという制約があるため,銀行の普通預金に比べれば金利は多少高めです.個人向け国債は身近な金融機関でも売ってます.
・金(gold)
 こちらは金融商品というより実物商品への投資ですが,金に投資する人もいます.金は価値が比較的安定しているため,どの国の貨幣も信頼できないときには特に人気が高まります.
・外貨預金,FX
 これらについては次回の為替の話の時に説明します.

 さて,ここまでの内容をまとめると,様々な金融商品がありますが,リスクとリターンが比例しています.ローリスクのものはローリターンだし,ハイリターンのものはハイリスクです.例外はありません.ローリスク・ハイリターンのものは存在しません.いえ,正確に言えば,存在はするでしょうが,我々の所にそんな上手い話が来ることはありません.なぜならそんな貴重な情報があれば,人に教えずに自分でお金を借りて投資するでしょうからね.つまり美味い話には気をつけよう,ということです.

経済数学入門 第11回(12/12)

今回も数列です.等比数列を説明しました.


【授業の内容】
 今回説明したのは,3,6,12,24,48,・・・のように,ある数と次の数の比が一定になっている数列です.このような数列は,初項と公比(ある項は直前の項の何倍になっているか)で表現できます.この場合は初項a=3で公比r=2の等比数列と呼びます.このような数列の一般項はどのように表現できるでしょう.それを考えるため,上記の数列を次のように表現してみます.
a1=3
a2=6=3×2
a3=12=3×2×2
a4=24=3×2×2×2
 すると,このように,どの項も初項に公比を何回かけたかで表現できることがわかります.ここから予想するに,第50項は3に2を49回かけたものだろうとわかりますし,第n項(一般項)は初項に公比をn-1回かけたもの(つまり公比のn-1乗)であるとわかります.

 まとめとして一般項は次のようになります.
an=a×r^(n-1)
(注)r^(n-1)はrのn-1乗を示しています.
 このような等比数列は金利の計算に必要なので,金融を学ぶ上ではよく出てくるでしょう.

 後半は等比数列の和の導出です.授業では最後に説明しましたが,等比数列の和の計算はマクロ経済学においてはケインズの乗数効果の計算に出てきます.2年の前期の割と早い時期だと思います.
 さて,その等比数列の和の計算ですが,なぜそのようになるのかは,「こうすると上手く計算できるから」としか言えませんが,とりあえず手を動かして計算しました.やりかたは,まず,等比数列の和Snから,それに公比をかけたものr×Snを差し引きます.それによりほとんどの項が相殺されて消え,2つの項のみが残ります.そこからあとは一次方程式のように計算することで等比数列の和を導けました.公式として結論を覚えても問題ないのですが,それよりはやり方自体を覚えたほうが忘れにくいと思います.今回は有限の等比数列の計算でしたが無限数列にも応用できますしね.

 さて,そろそろこの講義も終わりに近づきました.期末試験対策をしっかりしておきましょうね.

経済数学入門 第10回(12/5)

今回と次回は数列です.今回は等差数列の説明です.


【授業の内容】
 まず等差数列とはどのようなものかを説明しました.等比数列とは,その名のとおり差が一定,つまりある数から次の数を引いた時の値が一定であるような数の並びです.例えば,1,4,7,10,13・・・という数列は等差数列です.1から始まり,以降は3ずつ増加しています.この最初の数を初項と呼び,aで表現します.またその後の変化である3のことを公差と呼び,dで示します.つまりこの数列はa=1,d=3の等差数列と言えます.また記号の使い方ですが,第1項(初項)はa1(上手く表現できないけど,"1"は小さな添字です)とも表現します.第2項以降も,a2,a3,・・・で表され,特に一般項として第n項をanで表現します.
 この一般項,第n項であるanの求め方ですが,初項に公差をn-1回足したものなので,an=a+(n-1)dで表現できます.具体的な数値例を見て,先の式にaとdをそれぞれ代入すれば良いだけです.

 さて後半はガウス少年の話をしましたね.幼い頃,先生から1,2,3,・・・,50をすべて足しなさいと言われたガウス少年は一瞬で答えを出してしまいます.個別に教えるならともかく,こんな天才が教室にいると先生も教えにくいでしょうね….
 ガウス少年の考えでは,1,2,3,・・・,50を,50,49,48,・・・,1と逆から並べ,それぞれ初項と初項,第2項と第2項というように同じ項を足し合わせると,51が50個並ぶことになります.51×50=2550ですね.1,2,3,・・・,50を2回数えると2550になるので,1,2,3,・・・,50が1つだと,それを2で割った1275が答えになりますね.

 まさにこのやり方で等差数列の和(Sn)を計算することができます.先程のやり方を言い換えれば,初項と末項(最後の項)を足して2で割ります.これにより各項の数字の平均が出せます.平均の数字が項数分だけあるので,平均値と項数をかければ等差数列の和がわかります.記号で表記すれば,
 Sn=(a1+an)n/2
となります.

 最後に,1,3,9,27,81,・・・と並ぶ数列,等比数列を紹介して終りました.次週は等比数列からです.

経済数学入門 第9回(11/28)

今回は平行移動と傾きの変化でした.おまけに円もやりました.


【授業の内容】
 経済学ではグラフの経済学的意味を読み取ることが求められます.ただの直線にも,その裏には様々な背景が意図されています.今回はその例として,ミクロ経済学でよく用いられる予算線というものを色々変化させてみました.予算線とは,限られた予算(所得やバイト代など)の下で,2つの商品をどのような組み合わせで買うことができるかを示したものです.その予算線が,商品の価格が変化すると,また予算が変化すると,それぞれどのような変化をするかを確認しました.もちろん現在の皆さんは直線を描くのに悩むことはないでしょうが,グラフを見て,そこから価格や予算にどんな変化があったかを想像するのは初めての経験でしょう.
 上記のような具体例に続いて,直線や放物線の一般的なシフトの方法を説明しました.かなりワンパターンなので,それほど難しくないはずです.
 また,直線の傾きの変化についても説明しましたが,「今さら…」という感じかもしれませんね.

 最後に円の描き方を説明しました.方程式を見て,それを変化させ,円として読み取る作業です.久々に出てきた平方完成を使いました.でもまあ,円はおまけです.あんまり使うことないです.

経済数学入門 第8回(11/21)

今回は中間試験でした.

【授業の内容】
 というわけで中間試験の位置づけの確認.

・配点は中間試験が20点,期末試験が80点.
・点数が6割(12点)未満の人は全学共通教育センターでの学習を義務付け.
・全学共通教育センターには担当者からの「これで大丈夫!」との評価を年内に受けるまで何度か通うこと.
・全学共通教育センターでの評価を得られたら,中間試験の評価は12点に修正.

総合政策演習BⅠ 第11回(12/14)

今回も復習なのであまり書くことがありません….

【授業の内容】
 前回の宿題であった生産者理論の問題をやっていきました.また,コブ=ダグラス型生産関数について質問があったので少し説明しましたが,時間切れになったので次回にプリントを用意して再度説明します.

総合政策演習BⅠ 第10回(12/7)

前回で一通りの範囲が終わったので今回から復習です.小テストは貿易三角形でした.

【授業の内容】
 まず前回やった問題のうち,きちんと説明出来なかった部分(貿易三角形)の説明をしました.
 その後,消費者理論の復習をしました.

総合政策演習BⅠ 第9回(11/30)

今回はミクロ貿易理論です.主に比較生産費説と貿易三角形の説明ですね.小テストは前回やった費用逓減産業です.

【授業の内容】
 ミクロの講義でやった内容の復習ばかりで特に目新しい所は少ないのですが,不完全特化のケースは始めてでした.生産可能性フロンティアが直線であるケースは相対価格と限界代替率が等しい場合を除き,どちらかの財に確実に特化しますが,生産可能性フロンティアが原点に向けて凹となる場合は不完全特化となるケースが多いですね.

総合政策演習BⅠ 第8回(11/16)

今回は費用逓減産業,情報の非対称性と所得の分配です.小テストは外部性でした.

【授業の内容】
 費用逓減産業はミクロ経済学ベイシックでやっていないのですが,まあそれほど難しい話ではないと思います.限界費用が逓減する場合の生産量および価格の決定方法は,限界費用価格形成原理と平均費用価格形成原理の2つがあります.限界費用価格形成原理は,完全競争市場と同様に価格と限界費用が等しくなる点で価格と生産量を決定します.利点は効率的な資源配分が実現できる点です.欠点としては必ず赤字となるため,政府などがその赤字を補助金等で補填する必要があります.平均費用価格形成原理は,価格と平均費用が等しくなる点で価格と生産量を決定します.利点は独立採算,つまり赤字が出ない点です.欠点は最適な生産量に比べ過小となり,効率的な資源配分が実現できない点です.


 情報の非対称性については,逆選択とモラルハザードの違いを理解しているかどうか.公共財は非競合性と非排除性を理解しているかどうかですね.まぁそれほど難しくないので,どんどん問題を解きました.

 所得の分配は不平等についての指標であるジニ係数を説明しました.これはミクロの講義で触れていない部分ですが,まあ定義を覚えるだけですね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第8回(11/16)

今回は中間試験でした.試験範囲はゲーム理論と独占です.期末試験もこれらは出題されるので,できなかったという人は確認しておきましょう.

2011年11月26日土曜日

経済学A 第8回(11/15)

今回と次回は株式を含めた資産運用の基礎について説明します.とはいえ,今回は僕が説明した内容がどのように株とつながるのかわかりにくかったかもしれませんね.


【授業の内容】
 まず,今のお金と未来のお金の関係を考えました.時間がずれるとお金をどのように評価して良いのかわからなくなりそうですね.しかし,利子率で考えてみるとはっきりわかるようになります.
 今現在の100万円は銀行などに預けておけば未来(例えば1年後)には増えますね.それを105万円であるとすれば,現在の100万円と1年後の105万円が同じ価値ということになりますね.現在の100万円が未来になるに従って増えていくというのはみんなイメージしやすいでしょう.でもその逆はなかなか考えた機会はないでしょうね.現在の100万円と1年後の105万円が同じ価値なら,1年後の105万円の現在の価値は100万円ということになりますね.つまり未来のお金を現在の価値に直す場合は,少し減ってしまうのです.これを割引現在価値と呼びます.利子をつける,そして割り引く,それぞれの計算をしてみましたね.
 続いて,期待値の説明をしました.期待値は未来の平均値と考えるとよいでしょうね.確率的にどれぐらいの結果になるのかを計算したものです.計算方法は,結果とそれが起こる確率をかけ合わせたものを,すべての結果について足しあわせたものです.例としてサイコロを1回振った時に出る目の期待値は,1×(1/6)+2×(1/6)+…+6×(1/6)=7/2=3.5となります.
 さらにリスクの説明をしました.リスクとは,皆さんがイメージする「危険」とはあまり関係ありません.正確には結果のばらつきの大きさのことです.統計学の言葉で言えば「分散」あるいは「標準偏差」の大きさのことです.
 この期待値とリスクは次回の内容に大きく関わってきます.

 最後にリスクへの対処を説明しました.
 リスクへの対処の王道は「卵は分けて持て」.つまり資産を分散させることです.皆さんがすべての資産をある1種類の株に投資すると,その企業に不祥事やトラブルが発生して倒産の危機が訪れたら,皆さんは無一文になってしまうかもしれません.そのため,その企業の株価が下落したら,逆に株価が上昇する企業の株も持つべきでしょう.これをリスクヘッジと呼びます.

経済学A 第7回(11/8)

今回のテーマは年金です.皆さんの人生で避けて通れない話題なので,きちんと理解しておきましょう.

【授業の内容】
 まず言っておきますが,この授業の目的は年金の具体的な話ではありません.「どんな年金に加入するのか?」,「いくら払うのか?」,「いつからもらえるか?」,「どれぐらいもらえるか?」という話は,社会に出ると知る機会はいくらでもあります.
 この授業ではむしろ大枠を理解してもらうことを目的としています.つまり「社会保障とは何か?」,「年金とはどのような制度なのか?」,「賦課方式と積立方式はどのように違うのか?」を理解することです.ただし,20歳になると強制的に加入するシステムなので,直近の話として「在学中はどうするべきか?」については具体的に説明しましたね.

 まず社会保障とは何かですが,大雑把に言うと,困っている人を社会全体で助けるシステムと思って良いでしょう.年金もかつては存在しませんでした(全国民が年金に加入することになったのは1961年のことです).「それまでは老人は生きていけなかったのか?」というと,もちろんそんなことはなく,家族あるいは所属する共同体が老人を養っていました.しかし,近代になり核家族化が進み,一人暮らしの老人も増えてきました.そのため,年金などの公的な社会保障システムにより経済的・社会的弱者を救済する必要が出てきたのです.
 社会保障のやり方は2種類あります.保険的方法と扶助的方法です.年金は前者です.というのも,我々は「年金」と呼んでいますが,正確には「国民年金保険」と言います.この他,保険的方法による社会保障の例としては,健康保険,介護保険,失業保険などがあります.いずれも,保険料を支払った人だけが利用できます.つまり受益者負担なのです.一方の扶助的方法の例としては,児童福祉,生活保護,災害援助などがあります.こちらは保険料を支払う必要はなく,(救済すべき人であると認定されれば)誰もが利用できます.年金も社会保障の1つであると考えれば,扶助的方法,つまり保険料収入に頼らず,すべて税金から賄うべきであると考えることもできます.実際,消費税率を上げて社会保障のための目的税にすべきだという意見は以前からあります.
 このように年金保険とは,保険料(+国庫負担)として集めたお金を,高齢者に年金として給付する仕組みになっています.ただ,この保険料の徴収と給付のやり方は,2つのパターンに分けられます.1つは積立方式,もう1つは賦課方式です.
 積立方式とは,積立貯金のように,各自が保険料を将来の自分のために積み立て,老後に給付を受けるというものです.一方の賦課方式は,現役世代が払った保険料をその時代の高齢者にそのまま給付するというものです.
 前者は少子高齢化の影響を受けませんが,デメリットとしてインフレに弱いという特徴があります.わずかなインフレも年金のように,納付から給付まで長期に渡る場合では大きな影響を受けます.そのため積立方式はあまり年金向けとは言えません.また積立方式なら,政府に頼らずとも民間の金融機関で同じサービスを受けることができるので,わざわざ政府がやる必要性は少ないでしょう.
 後者の賦課方式は,インフレの影響を受けませんが,デメリットとして少子高齢化に弱いという特徴があります.そのため,現在の日本のように急速な少子高齢化が進む状況では,現役世代の負担を大きく,もしくは給付を少なくせざるをえません.
 後半は少しですが,具体的な話もしました.まず,年金は2階建てになっていることから説明しました.1階部分には誰もが加入しなければならない国民基礎年金部分があり,その上に,職業によって異なる2階部分の年金(厚生年金,共済年金,国民年金基金など)があります.
 1階部分は全国民が共通した条件ですが,2階部分は収入などにより保険料および受け取ることができる年金額も様々です.まぁこの辺りは就職してからしっかり聞いてください.
 最後に世代間不公平の話もしました,またその背景には,政治家にとって若者よりも高齢者向けの政策をしたほうが合理的であることも説明しました.高齢者に嫌われてでも若者向けの政策(あるいは世代間で公平な政策)を選ぶインセンティブが政治家にはありません.なぜなら若い人は人数としても比較的少ない上に,選挙にもあまり行かないからです.そのためか,現在の年金システムは現在の高齢者世代にとっては払った以上にしっかり給付を受け取れますが,皆さん(僕も)がどれだけ払うかはある程度計算できますが,どれぐらい受け取れるかは不透明です.どう考えても将来財源は不足するので,年金の支給開始年齢を遅らせるか,あるいは支給額を減らすか,またはその両方になるでしょうね.

 このように年金の仕組みを理解した上で,年金に入るべきかどうかを考えてみましょう.まだ判断できない,という人も,とりあえずは20歳になったら学生納付特例制度を使って,払う意思があることを示しておきましょう.実際に払うかどうかは,就職してからでも考えましょうね.

経済数学入門 第7回(11/14)

今回が中間試験前最後の授業です.最大化と最小化の説明をしました.また偏微分についても説明しました.

【授業の内容】
 今回の中心は最大化・最小化問題です.経済学ではしばしば出くわす問題なのですが,今回は公務員試験の専門試験に出てくるタイプまでを取り上げました.経済学の大学院に行こうと思ったら,もうちょっとだけ数学の知識が必要ですが,公務員試験なら国家一種でもこの程度です.

 さて,最大化・最小化問題を見たら,
1.まずはとにかく目的と制約をはっきり見分けましょう.
 どれを最大化・最小化することが目的なのか,そして最大化・最小化を妨げる制約は何かを確認するのです.ここがいい加減だと問題が解けません.
 例えば僕が寝ることが大好きなら,睡眠時間の最大化が目的となるでしょう.しかし,1日は24時間しかない,あるいはずっと寝てるとクビになってしまう,などが制約です.

2.続いて変数を減らそう.
 制約の式を変形させて,ある変数(例:y)を他の変数(例:x)で表現します.例えば,2x+y=10という制約があったとすれば,y=10-2xと変形します.これにより,yの代わりに10-2xを使うことができるのです.なぜこんなことをするのかと言うと,数学というのは(経済学も一緒だけど),変数が1つ増えると飛躍的に問題がややこしくなるからです.そのため,上記のような変形をして,使う変数がxだけで済むようにしたいのです.

3.制約の式を目的の式に代入しよう.
 2.である変数を他の変数で表現する式が得られました.その式を目的の式に代入します.これにより,多変数だった目的の式も,さっぱりとした1変数だけの式に変わります.経済数学入門の授業やミクロ経済学の授業,および公務員試験などでは,この代入により,目的の式が1変数の2次関数となることがほとんどです.こうなれば後は簡単.2次関数の最大化や最小化はこれまでにやってきましたね.グラフを描いて,最大,あるいは最小となる点(頂点や底)を見つければ良いだけです.

4.最後に
 出てきた値を2.で導いた式に代入すると(元々の制約の式でも可),もう1つの答えも出てきます.

 学部で出くわすほとんどの最大化・最小化問題は上記の手順で解けます.

 おまけに偏微分も説明しました.偏微分は2変数以上の関数において微分する方法です.これまでの微分は1変数の関数における微分でした.偏微分のやりかたは,ある変数で偏微分するときは,他の変数をただの数字(係数)であると扱ってやって,普通に微分するだけです.計算自体は簡単です.
 さて,その意味は,となるとなかなかややこしいところです.大雑把に言うと,他の変数が変化せず一定であるとした上で,ある変数について微分するということなんですが,わかりにくいですね.具体的なイメージとして眉山の頂上を求める話もしたのですが,理解できたでしょうか?

2011年11月11日金曜日

総合政策演習BⅠ 第7回(11/9)

今回はワルラスの法則と外部性でした.小テストはパレート改善でした.

【授業の内容】
 前回グダグダだったワルラスの法則ですが,今後の時間的にも余裕があるので,実際にお菓子を使ってワルラスの法則を実験してみました.2チームに2種類のお菓子を配分し,お菓子間の相対価格(交換条件)を提示し,超過需要と価格の積の和が0になることを体感してもらいました.どうなんんでしょう?わかりやすかったのか,わかりにくいのか?

 後半は外部性ですが,こちらは覚えるだけですし,そんなに難しいところはないかもしれませんね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第7回(11/9)

今回は独占的競争の後,外部性の説明をしました.

【授業の内容】
 独占的競争とは売り手の数が多数の場合に,各企業がいかにして利潤を得るかを説明するものです.売り手が多数の場合,同質的な財を生産していては利潤は出ません.なぜなら似た様な財を多数の企業が売っていれば,消費者は価格が最も低い企業の財を選ぶため,結果として価格の値下げ合戦になってしまうからです.それは前期に学んだ内容ですね.そのため,利潤の最大化を目的とする企業は財を差別化し,一時的な独占状態を築こうとします.缶コーヒーのノベルティグッズなども差別化の一例でしょう.またユニクロが暖かい下着(?)などを販売するのも差別化ですね.


 しかしこの独占状態は永遠ではありません.なぜなら新規参入が可能なので,1社が儲けているとわかれば,どんどん他の企業が参入して同じような財を販売し始めるからです.これにより長期的には完全競争市場となり,どの企業も利潤を得られません.ユニクロの下着も1年も経たないうちに,似た様な商品が他の企業から販売されました.

 このように独占的競争においては利潤をだすためには常に新たな差別化をしなければなりません.ファッション業界で毎年新たな流行が生まれ,あっという間に廃れていくのは,上記のような企業の論理が背景にあるのかもしれませんね.

 さて,独占市場はこれで終りですが,売り手の数により,完全独占,複占,寡占,独占的競争と4パターンに分かれます.それぞれの違いを確認しておきましょうね.来週の中間テストの範囲はここまでです.

 後半は外部性です.外部性とはある経済主体による経済活動が,それとは無関係の第3者に与えるなんらかの影響のことです.このような市場の失敗が起こると,最適な資源配分が実現されません.そのため何らかの対策が必要になります.外部性の典型例としては公害や環境破壊が存在します.例えば,先進国がこれまでに100年以上に渡って消費してきた石油燃料のせいで地球温暖化,そして海面の上昇が進んだとすると,海面上昇により国土が小さくなってしまい,大きな被害を受けているツバル共和国のような国にとってはまさにとばっちりです.これが外部性です.外部性は第3者に悪い影響を与える場合だけでなく,良い影響を与える場合もあります.前者は外部不経済(あるいは負の外部性),後者は外部経済(あるいは正の外部性)と呼ばれます.
 また第3者に与える影響が市場を通じたものか,そうでないのか,によって金銭的外部性技術的外部性,というように区別されることもあります.

 良い外部性,つまり外部経済の例としては教育があります.例えば皆さんが受けている大学教育について考えてみると,大学教育は学生(というより学生の保護者?)と大学法人との間の取引です.保護者は学費を支払い,大学は教育サービスを提供します.
 さて保護者(と学生)と大学は取引の関係者なので内部ですが,この取引は外部にも影響を与えています.例えば総合政策学部の卒業生はある程度の法律や経済などの知識を持っているでしょうから,卒業生を雇う企業にとってはそれらの知識を教える必要がありません.企業にとっては人材育成コストがかからないので,大学教育は企業に外部経済を与えていると捉えることができます.

 余談ですが,大学などの高等教育が上記のような効果,つまり労働者としての価値を高めているかどうかについては経済学者の中でもコンセンサスはありません.「高等教育が人的資本(労働者としての能力)を高めるんだ!」という人もいますし,「企業は学歴を能力のシグナルとして使っているだけで,大学で学ぶことに期待などしていないよ」という人もいます.どっちでしょうね?大学関係者としては前者であると期待したいところですが….
 さて,このような教育は学生自身にとって有益であるだけでなく(大卒は給料が高い),企業にとっても有益なので,社会全体から見るとより有益です.そのため,政府がお金を出して教育費を安くして,より多くの人が大学で教育を受けられるようにすることが合理的です.また実際にそれは実現されています.旧国公立大学(現在は独立行政法人ですが)には国からの援助があるので学費は安く設定されていますし,私立大学にも私学助成金という形で(旧国公立大ほどではないにしても)援助されているので,実際にかかっているコストよりも学費は低いはずです.
 まとめると,外部経済がある場合は,社会的収益率の方が私的収益率よりも高いので,社会的に見て最適な水準よりも少なく(過小に)生産されます.そのため政府などが援助する必要があります.
 また逆に外部不経済がある場合は,社会的限界費用の方が私的収益率よりも高いので,社会的に見て最適な水準よりも多く(過剰に)生産されます.そのため政府によるなんらかの規制が必要です.

 さてこのような外部性への対処ですが,3つの方法があります.
1.課税・補助金(ピグー税)
 まず課税や補助金により最適な生産量を実現するという方法があります.導入が検討される炭素税もこれにあたります.またタバコ税もそうなのかもしれませんね.
2.内部化
 外部に効果が漏れるのが問題なら,漏らさないようにしようというのが,この内部化です.授業では駅ビルの建設によって,駅の集客能力を外に漏らさないようにすることを説明しました.
3.交渉
 内部と外部で交渉することでも,最適な資源配分が達成できることもあります.ただしその条件は「取引コストがほとんどかからないこと」です.これはコースの定理と呼ばれています.これについてはテキストに詳しい説明もあります.

経済数学入門 第6回(11/7)

今回は微分の続きです.

【授業の内容】
 前回微分のやり方と意味を説明しました.さて,ではこの微分をどのような時に使うのでしょう.微分を使うと,これまで計算が面倒だった2次関数の放物線の頂点や底が簡単に求められます.
 頂点や底というのは,傾きが負から正に,あるいは正から負に変わるポイントですね.そしてその点はちょうど傾きが0となる点です.さて,元の放物線を微分すると傾きが得られます.「微分=傾き」と覚えておきましょうね.
 このことから,2次関数を微分して,それを0と置くことで頂点(か底)のx座標が出てきます.さらにそのxの値を元の2次関数に代入すると頂点(か底)のy座標も得られます.
 これまでは平方完成をしていたので計算が面倒で,計算ミスも多いのですが,微分の方がはるかに計算が簡単です.

 このやり方は3次関数以上の場合も有効です.授業では3次関数のグラフの描き方も説明しました.2次関数と同様に,
①元の関数を微分して0と置く.
②それを解けば(3次関数の場合は2次方程式になる),極値のx座標が2つ(1つや0の場合もある)出てきます.
③得られたxを元の関数に代入するとそれぞれの極値に対応したy座標が得られます.
④2つの極値を元に増減表を書きましょう.

 さて,11月21日は中間テストです.しっかり復習して準備してくださいね.

総合政策演習BⅠ 第6回(11/2)

今回はエッジワースボックスです.小テストは完全独占の余剰分析でした.

【授業の内容】
 エッジワースボックスとは,2人の間での2財の資源配分について示したものです.2人の無差別曲線を組み合わせたものなんですが,文章では説明に限界がありますね.
 ともかく,パレート改善について確認しましょう.パレート改善とは他者の効用を下げることなく,ある人の効用が改善するような変化のことです.また,これ以上パレート改善できない点をパレート最適と呼びます.さらに,このパレート最適となる点を集めた曲線を契約曲線と呼んでします.

 さて,このエッジワースボックスに相対価格を導入すると,超過需要,超過供給が発生します.そうするとワルラス型メカニズムにより相対価格が調整され,均衡が実現します.

 また,ワルラスの法則について質問があったので,説明したのですがグダグダでした.そのため次週に持ち越しにしました.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第6回(11/2)

今回は独占市場のうち,複占,寡占について説明しました.

【授業の内容】
 前回も説明しましたが,複占は,2社が同時に生産量を決定する同時手番ゲームです.このゲームのナッシュ均衡をクールノー均衡と呼びます.
 さて,企業はどのように生産量を決めるのでしょうか.その決定方法は完全独占と同じく,限界収入=限界費用(MR=MC)です.解法は次の通り.
①MR=MC
 2社を企業A,Bとすれば,まず企業AについてMR=MCを作ります.この式を,企業Aの生産量について解けば,企業Aの最適な生産量がわかります.ただし,企業Bの生産量が未定なので,まだ具体的に決まるわけではありません.ここでわかるのは,企業Bの生産量がわかれば,それに応じて自分がどれだけ作るべきか,という最適反応がわかるのです.クールノー均衡がナッシュ均衡であるというのを実感するためには,ナッシュ均衡の混合戦略の計算方法を思い出してみましょう.
 同様に企業BについてMR=MCを作れば,企業Bの最適反応がわかります.
②最適反応の連立方程式
 ①で得られた両企業の最適反応を連立方程式として解きましょう.ここまで来て,ようやく両企業が具体的にどれだけ生産すべきかというクールノー均衡がわかります.

 続いて寡占です.寡占とは売り手の数が少数である市場です.例としては,ビール業界,携帯電話業界などがありそうですね.このような市場では企業の価格決定に次のような特徴がありそうです.
 例としてビール業界を考えましょう.この市場には5社のビール会社があるとします.財は同質的と仮定します(どの企業も同じようなビールを売っています).現状は,どの企業もビールを200円で売っているとします.もしここで,1社だけが値上げしたらどうなるでしょう.おそらく他の4社は値上げに追随せず傍観するでしょう.なぜなら他の4社にとっては今まで通りの値段で売れば,自然と売上が増えそうだからです.値上げした1社のビールに対する需要が落ち込み,その需要が他の4社に流れると考えられます.
 一方,1社が値下げした場合はどうなるでしょう.この場合は他の4社は値下げに追随するはずです.なぜなら値下げしなかったら,値下げした1社のビールに対する需要が急増し,シェアを奪わるからです.よって全社が値下げに追随するので,先に値下げした1社にとっては残念な結果となります.なぜなら,ライバル企業が追随しないで今まで通り200円で売ってくれれば,需要が急増し,儲かるはずですが,ライバルも値下げしたので,思ったより需要が増えないからです.
 結果,需要曲線は現状を境として,屈折した形になり,もちろんそれに応じて限界収入も2段階に屈折した形になります.寡占市場でも企業はMR=MCに従って生産量を確定するので,限界費用が多少増減しても生産量に変化が出にくいという特徴を持つことになります.

経済数学入門 第5回(10/27)

今回は指数の続きと微分です.

【授業の内容】
 まず,前回やり残したn進数の説明です.n進数で表記された数を10進法に直す方法と,10進法で表記された数をn進法に直す方法を紹介しました.別にn進数は経済学で使うわけではありませんが,n進数は公務員試験でも民間企業の筆記試験でも出てきます.

 さて,メインの微分です.微分の意味は後回しにし,とりあえず微分の計算方法を説明しました.微分の方法は次の通り.
①変数の右肩についている数(指数)を係数にかける.
②指数から1を引く.
 これだけです.例としてxの3乗を微分すると,①3を前にもってきて3xになります.②3乗から1を引いて2乗にする.つまり3xの2乗です.このブログでは数式がかけないから説明しにくいな・・・.

 続いて微分の意味です.微分すると,元の関数の傾きが出ます.傾きとは,横軸(x軸)に+1移動すると,縦軸(y軸)にどれだけ移動するか,という割合を示しています.なぜ傾きを出さなければいけないのか,というと傾きは経済学的に重要な意味を持っているのです.
 例えば,ある人はクッキーを食べると幸せになるとします.1つ,2つと食べる量を増やすと,それに応じて幸せも増えるでしょうね.その幸せの変化量は正に傾きですよね.少し消費量を増やすと,どれだけ幸せが増えるのか,コストとそのリターンを示していますね.最初の1つを食べて幸せが10増えたとします.次の1つを食べて幸せが7増えたとしましょう.これは傾きが10から7に下がったことを示していますね.傾きは下がりましたが2こ目を食べても幸せは増えます.まだまだ食べ続けると幸せは増えるでしょうが,その増え幅(傾き)はどんどん小さくなりますね.そしていつかはこれ以上食べると幸せが下がるという,言い換えれば幸せが最大となるポイントがあるはずです.これまでは傾きはプラスですが,この点を越えると傾きはマイナスになりますね.つまり傾きを利用して幸せが最大になるポイントがわかるのです.

 次回も微分の意味と利用方法を説明します.

総合政策演習D 第5回(10/27)

今回で僕の担当は終りですが,そのまとめとしてテストをしっかりしました.

【授業の内容】
 まず,これまでの授業で説明していなかった「物の流れと比率」,「装置と回路」について説明しました.どちらも高校までの数学ではあまり学ばなかったテーマなので,なかなかとっつきにくいかもしれませんが,どちらも実際に数値例でやってみれば理解できるようになると思います.

 さて,授業の後半の40分を使い,しっかりテストをしました.30点満点のテストでしたが,平均点は20点弱ぐらいですかね.これまでにやった問題もあったので,7割ぐらいは取って欲しいところですけどね.

 僕の担当は終りなので,ゼミの学生以外とはなかなか話す機会もありませんが,皆さん就活がんばってくださいね.何度も言いましたが,スタートダッシュで失敗するとズルズル行ってしまいますよ.

総合政策演習BⅠ 第5回(10/26)

今回は税金と余剰分析です.小テストは価格メカニズムでした.

【授業の内容】
 まず税金ですが,税金の種類は一括税,従量税,従価税に分類できます.
 一括税は企業の生産活動に関係なく,企業に一定の税金が課されます.総費用に課税額がそのまま加わります.
 従量税は生産量に応じて課税されるものです.総費用関数に,生産量×課税額を加える形で表現されます.現実の世界ではタバコ税や酒税が従量税ですね.
 最後の従価税ですが,これは価格の一定割合が税として課されます.限界費用に(1+税率)をかけ合わせたものとして表現されます.

 さて,これらを用いて余剰分析の問題をいくつか解きました.まず社会的余剰の内訳ですが,次のようになります.
 社会的余剰=消費者余剰+生産者余剰+税収-補助金
 もちろん問題によって税収や補助金は出てこないこともあります.
 また,課税や数量制限などの政府による介入や,独占などの利用により社会的余剰が小さくなってしまうことがありますが,それを死荷重と呼びます.

 余剰分析は次週に続きます.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第5回(10/26)

今回も独占市場です.完全独占と複占の話をしました.

【授業の内容】
 完全独占の続きから始めました.完全独占市場における企業は,利潤を最大にするため,限界収入と限界費用が等しくなるように生産量を決定します.完全競争市場における社会的余剰と,完全独占市場における社会的余剰を比較すれば,なぜ完全独占が望ましくないのかがわかります.つまり死荷重が発生しているのです.
 完全競争市場と比較すると,完全独占市場では生産量が少なくなり,価格は高くなります.そのため消費者にとっては良い状況ではありません.ここで政府が課税をするとどうなるでしょう.授業では従量税(生産量に応じて課税する)を課すとどうなるかを確認しました.ちなみに従量税は次の例ように表記されます(財1単位あたり20の課税をするとする).
 課税前の総費用関数: TC=x^2+10x+100 (^2は二乗を示す)
 課税後の総費用関数: TC=x^2+10x+100+20x
 赤字で表現した部分が課税によるコストの増加を示しています.

 完全独占市場に続いて複占について説明しました.複占とは売り手が2社のみである市場のことです.
 ここでゲーム理論について復習しましょう.ゲーム理論では,プレイヤーが同時に行動(戦略)を決定するゲームを同時手番ゲームと呼びます.以前の授業で,同時手番ゲームの解法としてナッシュ均衡を説明しました.これは,各プレイヤーの選ぶ戦略が他のプレイヤーの戦略に対する最適反応である状況のことでした.
 複占市場に分析にはこのゲーム理論の考えを使います.複占市場が同時手番ゲームであるとして生産量を決める状況でナッシュ均衡を導き出します.この場合のナッシュ均衡を特にクールノー均衡(あるいはクールノー=ナッシュ均衡)と呼びます.

 複占における最適反応を導くためには偏微分の知識が必要です.そのため,経済数学入門でもやりましたが偏微分を復習しました.

 複占の計算の途中で終わったので,複占については次回のブログに書きます.

2011年10月30日日曜日

経済学A 第6回(10/25)

 今回はゲーム理論の入門です.入門と言ってもこれで終りです.興味があれば図書館にゲーム理論の本が何冊かあるので読んでみてください.
 ちなみにゲーム理論は,前回のアンケートでもっとも皆さんからの要望が多かったテーマです.
【授業の内容】
 ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.

 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.この定義ではジャンケンもゲームですね.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.他のプレイヤーの利得は無視してください.相手よりどうすれば利得を高くできるか,という勝ち負けではないのです.
 太字にした部分はゲーム理論で最初につまずくポイントです.ゲームと言っても相手のポイントとの大小関係ではない,ということを確認しましょう.
 最初のゲームとして,有名な「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.

 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,利得表を用いないホテリングゲームも解いてみました.もちろんホテリングゲームは物事をかなり単純化していますが,それでもそのエッセンスは現実の謎に対しても十分応用可能だと思います.このホテリングゲームの話はどこで話しても結構興味を持ってもらえるようです.

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.
 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).

渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2011年10月21日金曜日

経済数学入門 第4回(10/20)

 授業回数の関係で今回は変則的に木曜日になりました.

【授業の内容】
 今回は,前回やり残した2次不等式の後,指数です.

 2次不等式ですが,前回説明した1次不等式と同様,まずは不等号ではなく等号として考えます.等号にすることで,単なる2次関数となるので,その放物線を描くことができますね.後は,その放物線で分割された2つの領域のうち,不等式が示すのはどちらなのかをチェックするだけです.簡便な方法も説明したのですが,きっちりやろうと思ったら,前回説明したように,明らかに一方の領域に含まれる具体的な点(原点などが望ましい)を不等式に代入し,矛盾が起きるかどうかで確認できました.詳しくは前回のブログを読んでください.

 さて,本題の指数です.指数はマクロ経済学に出てくるコブ=ダグラス型生産関数などを理解するために必要です.また,指数を説明する過程で出てきた素数と素因数分解,最大公約数と最小公倍数は公務員試験や民間企業の筆記試験(SPI2など)を解く上でも必要ですよ.特に公務員試験の教養試験では,このような数の問題は頻出のようです.
 まずは素数から説明しました.素数は授業でも触れたように皆さんの生活にも欠かせない暗号化の技術にも応用されており,私達の生活を影から支えています.また素因数分解により,整数を素数の積で表現することが可能になりましたね.

 指数は見慣れたものなので,ついつい直感的に計算してしまいがちです.最初は面倒だと思っても,レジュメにある指数法則を確認しながら計算しましょうね.

 さて今回と前回の小テストで引っかかった人はポータルサイトから連絡しています.28日までに課題を持って全学共通教育センターに行きましょうね.

総合政策演習BⅠ 第4回(10/19)

 今回は市場メカニズムでした.

【授業の内容】
 小テストはシュタッケルベルグ均衡でした.

 ベイシックⅠでも説明した価格メカニズムが中心でした.僕の授業ブログから引用すると,
 
 まずワルラス型価格調整メカニズムです.ワルラスは,まず価格が決まると考えました.その価格に応じて需要や供給が決まります.この時,需要が供給を上回れば超過需要,供給が需要を上回れば超過供給と呼びます.超過需要とは品不足のことなので,この場合は価格は上昇します.逆に超過供給は売れ残りを意味するので,当然価格は下落します.いずれにせよ,通常の,右上がりの供給曲線と右下がりの需要曲線の下では,価格がどこから始まっても均衡に向かって収束します.これを安定的と呼びます.
 続いてマーシャル型価格調整メカニズムについてです.マーシャルはワルラスと異なり,まず生産量が決まると考えました.生産量が確定した後,企業が売っても良い価格(供給価格)と,消費者が買いたい価格(需要価格)が決まり,供給価格が需要価格を上回ったら超過供給価格,下回れば超過需要価格が発生します.超過供給価格の発生は,消費者が買いたい値段より生産者が売りたい値段の方が高いので,生産者は次の生産量を減らします.逆に超過需要価格が発生した場合には企業は生産量を増加させます.
 くもの巣理論が取り扱うのは,生産までに時間がかかり,かつ保存が効かない財です.具体的には生鮮食料品,特に野菜がよく当てはまると思います.まず市場の均衡で決まる価格よりも高い値段で始まるとしましょう.すると,高く売れると考えた生産者はいつもより多く生産しようとします.しかし生産までに時間がかかるので,すぐにその値段で売れるわけではありません.実際に生産してみると,供給量が多いため,値段は下がります(豊作貧乏ですね).普段より安くしか売れないので,来期の生産量は減らすでしょう.しかし実際に生産してみると,供給量が少ないために価格は予想よりも高くなります.このように価格が高い,低いと変動を繰り返すのがくもの巣理論の特徴です.実際にスーパーで売られているキャベツなどの値段の変動幅は大きいですよね.それに引き換え,冷凍保存の効く牛肉などはそれほど変動がないはずです.

 ということです.まあ,公務員試験についてはとにかく一目で安定的かどうかを判断できなければなりません.そんなに難しくないので,ここは確実に点を稼ぎたいところですね.次週はこの価格メカニズムを小テストにします.

 また残り僅かな時間で余剰分析も復習しました.余剰は様々なテーマ(独占,貿易など)に絡んで出てくるので要注意!次週は余剰と税金を中心に説明します.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第4回(10/19)

 今回から独占市場です.独占市場が終わったら中間テストを予定しています.

【授業の内容】
 独占市場は売り手の数により次のように分類されます.
完全独占(狭義の独占)…売り手は1社
複占…売り手は2社
寡占…売り手は少数
独占的競争…売り手は多数

 今回はこのうち完全独占について説明しました.まず完全独占について明確に理解するために,完全競争市場と対比して説明しました.
 完全競争市場とは売り手が多数で自由に参入・退出できる市場です.そのため,競争が激しく,どの企業も利潤が出ません.もし利潤が出るようなら,新たに新規参入が起こり,価格が低下するからです.価格は利潤が出ることもなく,赤字も出ることもないようなギリギリのものになります(P=MC).つまり個別の企業は価格を決定できず,市場で決まる価格を受け入れるしかありません.これを価格受容者(Price Taker)と呼びます.
 対して,完全独占市場では,売り手は1社しかないため,企業は自分の好きなように価格を決めることができます.これを価格決定者(Price Leader)と呼びます.

 さて,独占企業はどのように価格と生産量を決定するのでしょうか.もちろん利潤が最大となるように決定します.どこで生産すれば利潤が最大になるか理解するために図を描きました.企業は限界収入と限界費用が等しい点で生産します.限界収入とは,生産量を1つ増加することにより収入がどれだけ変化するかを示すものです.限界費用は,生産量を1つ増加することにより新たに発生する費用のことです.そのため,企業は限界収入が限界費用を上回るのであれば生産すべきです.通常の企業では限界費用は長期的には増加し,限界収入は常に減少し続けるので,必ずいつかは限界費用と限界収入が等しくなります.ここが最適な生産量です.これで生産量が決まれば,それを需要関数に代入することで価格が決まります.
 ここで確認ですが,限界収入は収入を微分したものであり,限界費用は総費用を微分したものです.今回の数値例を使って何度も計算しましょう.

経済数学入門 第3回(10/17)

 今回も関数です.2次関数と,不等式を説明しました.

【授業の内容】
 前回は2次方程式の解法まで確認しました.2次方程式の解は横軸との交点を出すためのものだということを再度確認しましょうね.

 さて,今回説明した2次関数の平方完成は,放物線を描く2次関数の頂点(もしくは底)の座標を求めるために使います.平方完成のやり方は文章で説明しづらいので省略しますが,授業中に説明したStep.1~3のようにやれば,機械的に座標が出てきます.今回確認した程度の2次関数は経済学でも公務員試験でも民間企業の筆記試験(SPI2)でも必要となります.絶対にできるようにしましょうね.

 今回もちょっとしたお遊びでSPI2の問題を解いてもらいました.皆さん数学の問題(非言語問題と呼びます)はできましたが,言語問題(特に敬語)が苦手みたいですね….

 ここまでで1次関数と2次関数について復習しました.あとは1次と2次の不等式です.
 まずは1次不等式からです.不等号(<や>)ではなく等号(=)であるとすれば,見慣れた1次方程式なので,まずは1次方程式の直線を図に描きましょう.不等式はこの直線のどちらかの範囲を示しています.ではどちらなのかを判別するためには,明らかにどちらか一方に含まれる具体的な点(原点などが計算しやすいでしょうね)を不等式に代入してみましょう.もしそれで不等式が矛盾したものでなければ,代入した点を含む範囲が,不等式がの示す範囲です.もし矛盾したら(例:2>5),不等式の示す範囲はその点を含まない,ということがわかります.

 2次不等式も同じなので続けて説明したかったのですが,時間が足りなくなったので次回へ.

経済学A 第5回(10/18)

 今回は物価,名目値と実質値の話をしました.

【授業の内容】

 今回のメインテーマは名目値と実質値の違いです.まずはその前提となる物価について説明しました.

 「物価」とはよく聞く言葉ですが,厳密に言うと物価とは何でしょうか.物の価格が物価なのかもしれませんね.物の例として本を考えてみると,同じ本でも出版社が問屋に卸すときの値段,問屋が本屋に売るときの値段,そして私たちが本屋で買うときの値段と,同じ本に3つの異なる価格があります.物価の指標として最もよく使われる消費者物価指数(CPI)は最後の価格,つまり我々消費者が最終的に買うときの値段に注目しています.
 また,最近ガソリンが高いので物価は上がっていると言って良いのでしょうか.しかし薄型テレビは値下がりし続けていますね.我々が買う財(商品やサービス)はたくさん種類があるので,1つの財の価格だけを見ていてもわかりません.そのため,消費者物価指数では,平均的な家計が1ヶ月生活するのに必要な金額を計算することで,様々な財の価格を総合的に示しています.
 この物価ですが,横断面でも違いがあるし,時系列でも変化します.横断面とは,ある財の価格が,ある一時点に異なる地点でどのような違いがあるかをみたものです.時系列とは同じ財が同じ場所でどのように変化するのかをみるものです.授業では具体例をいくつか示しましたね.

 授業の後半は名目値と実質値の説明をしました.その例として所得,GDP,利子率などを取り上げました.
 所得については,皆さんがもらうバイト代,あるいは僕がもらう給与明細に書いてある金額は名目所得です.つまり名目所得とは世間一般でいう所得のことです.対して実質所得とは,名目所得から物価の変化を差し引いたものです.例えば,皆さんがもらうバイト代が一定なのに,そのバイト代で買う服が値下がりすれば実質的にはバイト代が増えたのと同じですね(より沢山の服が買えるようになったから).逆に値上がりすれば実質所得は下がることになります.
 GDPについては,以前にGDPの回に説明したものは正確には名目GDPです.ただし,名目GDPは必ずしもその国の生産力を示すものとは限りません.なぜなら生産力が同じでも物価が上がれば名目GDPは上がってしまうからです.そのため,物価が一定であるとしてGDPを計算したものが実質GDPです.
 最後の利子率ですが,利子率が3%なら預金の価値が1年間に3%上昇するとは限りません.なぜならその間に物価が上昇するかもしれないからです.例えば100万円が103万円に増えたとしても,その間に物価も3%増えれば預金の価値はまったく変化しません.物価がそれ以上に上がれば逆に預金の価値が下がることになってしまいます.そのため,銀行で提示される利子率(名目利子率)だけにとらわれるのではなく,それから物価の変化を差し引いた実質利子率に注意する必要があります.

 今回は最後にケータイを使ってアンケートをとりました.結果のうち,理解度については以下の通り.
とてもよく理解できた:12.1%
ある程度理解できた:77.6%
あまり理解できなかった:10.3%
まったく理解できなかった:0%

 興味のあるテーマについては,ゲーム理論が最も多かったので,次回はゲーム理論にします.

 個別の質問には今後の授業で答えていく予定です.

2011年10月16日日曜日

総合政策演習D 第4回(10/13)

 今回もいつも通りです.次回は僕の最後の担当なので,非言語問題のテストをがっちりします.予定では45分ぐらいです.

【授業の内容】
 損益算などをやりました.損益算は特に重要なのできっちり確認しましょう.原価(仕入れ値),定価,売価(売値)の3つをゴチャゴチャにしないようにしましょうね.

 さて,今回は皆さんが知らない優良企業についての記事の紹介です.大企業の有効求人倍率は低いのですが,中小は結構高いという情報も紹介しましたね.学生は企業について知らないので有名企業(≠大企業,優良企業)ばかり受けます.有名企業はBtoC企業と言っても良いでしょうね.その企業が優良企業であるかどうかに関係なく有名企業ばかり受けるので,競争倍率が高くなり,多くの学生が失敗するわけです.というわけで,ちゃんと企業研究しましょうね.
 じゃあどうすれば優良な中小企業を知ることができるか,ですね.その方法の1つは前にも言いましたが,日経の地方欄です.多くの人が知らないけれど特徴のある中小企業がよく出てきますよ.また,次のサイトもおすすめです.
中小企業庁「モノ作り中小企業300社」
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/monozukuri300sha/index.htm

総合政策演習BⅠ 第3回(10/12)

 今回も独占です.

【授業の内容】
 独占のうち最もややこしい複占の続きです.

(確認)
クールノー均衡:同時手番,非協力ゲーム.両企業が同時に生産量を決定する.

シュタッケルベルグ均衡:逐次手番,非協力ゲーム.1社が先に生産量を決め,それを見て他社が生産量を決める.
協力ゲーム:同時手番,協力ゲーム.両企業が両企業の利潤の合計が最大になるように生産量を同時に決定する.

 今回は同じ問題をこの3つの解法で解きました.3つの解法をもう少し具体的に説明すると,
・クールノー均衡
 企業A,Bとすると,企業AについてMR=MCを計算し,企業Aの最適反応計算します.同様に企業Bについても計算し,それぞれの連立方程式を解くと,両企業の最適な生産量がわかります.
・シュタッケルベルグ均衡
 企業Aが先行,企業Bが追随するとする.企業BについてMR=MCを計算し,企業Bの最適反応を導出し,それを需要関数に代入した上で,企業AについてMR=MCを計算すると企業Aの最適な生産量がわかります.またそれを企業Bがの最適反応に代入すると企業Bの最適な生産量もわかります.
・協力ゲーム
 企業A,Bとすると,企業A,Bの生産量の合計をXとする.両企業の収入の合計をXで表現し,Xで微分して限界収入(MR)を導出する.また,両企業の費用の合計を同じくXで表現し,Xで微分して限界費用(MC)を導出します.MR=MCから最適なXが得られる.このXは両企業の生産量の合計なので,Xを2で割ったものが企業A,Bそれぞれの生産量です.

 また残りの時間で,寡占と独占的競争についても説明しましたが,これらはベイシックⅡの復習で新しい内容はないので省略します.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第3回(10/12)

 今回もゲーム理論の続きで,ゲーム理論はここでひとまず終りです.混合戦略ナッシュ均衡はなかなか理解するのが難しいかもしれませんね.

【授業の内容】
 まず前回の復習をしました.前回の最後に説明した逐次手番ゲームを,利得表を使わないで考えてみました.最後通牒ゲームと呼びます.ここでもゲームの解法は「後ろ向き帰納法」を用います.つまり最後に行動する人の戦略を確定させ,そこからその1つ前に行動する人の戦略,さらに前の人というように逆順に戦略を確定させていくのです.

 最後通牒ゲームのルーツは次の通りです.
・プレイヤーは2人(AさんとBさん)
・AさんとBさんの目の前に1万円があり,これを2人で分けることになった.
・まず,Aさんが1万円をどのように分けるか,その配分割合を決める.
・その後,BさんがAさんの決めた配分を受け入れるかどうかを決める.
・Bさんが受け入れれば,Aさんの決めた配分通りに分ける.
・Bさんが受け入れなければ,その1万円は没収され,2人とももらえるお金は0円になる.
・AさんとBさんは利己的で,自身が受け取れる金額にしか関心がない.
・完備情報
・完全情報
 この場合,Aさんの合理的な戦略は(A,B)=(9999,1)となります.なぜなら,これを提示されたBさんは受け入れれば1円,受け入れなければ0円となるからです.

 さて,続いて混合戦略ナッシュ均衡を説明しました.話は戻って同時手番ゲームです.前回説明したナッシュ均衡は厳密には,純粋戦略ナッシュ均衡と呼びます.どれか1つの戦略だけを選ぶか場合です.今回説明するのは,複数の戦略に確率を振ることができる場合のナッシュ均衡です.


 混合戦略ナッシュ均衡は計算で解を求めるのでここでは表記しづらいので大まかな流れだけ説明します.プレイヤーAとBがおり,それぞれ(A1,A2),(B1,B2)という戦略を持っているものとします.
 まずプレイヤーAの立場になり,A1を選んだ場合の利得を考えます.しかし,相手がどちらを選ぶかわからないので,相手の戦略それぞれに確率をふります.例えば,B1にp,B2に1-pです.これによりA1を選んだ時の利得の期待値E(A1)が計算できます.同様にA2についても期待値E(A2)を計算し,どのような場合にE(A1)がE(A2)より大きいか小さいかを確認しましょう.
 続いてプレイヤーBの立場でも,最適反応を計算しましょう.
 この両者の最適反応を図示し,両者の最適反応が交差した点が混合戦略ナッシュ均衡です.

経済学A 第4回(10/11)

 前回に引き続き経済の仕組みと経済学の簡単な歴史を説明しました.今回は「大きな政府」と「小さな政府」の違いを理解することが目的です.
 大きな政府と小さな政府という考えが頭にあると,アメリカで今起こっている「99%のデモ」がどんな立場なのか,何を求めているのか,また「ティーパーティー運動」の支持者とどこが違うのかが見えてきますよ.

【授業の内容】
 前回は大恐慌に陥った話まででしたね.世界大恐慌の際,古典派経済学が有効な打開策を提示できなかったのです.この時に古典派に代わって檜舞台に立ったのがケインズ派経済学です.ケインズ派経済学は古典派とは異なり,市場(の機能)をあまり信頼していません.市場は完璧なものではなく,機能が上手く働かない場合(「市場の失敗」と呼ぶ)がしばしばあると考えています.そのため,政府が積極的に市場に介入すべきだと考えています.さて,その介入の仕方を説明する前に,ケインズ経済学が需要と供給の関係をどのようにとらえていたかを確認しましょう.


 古典派はセイ法則を信じていました.つまり供給の大きさが需要を決めると考えていました.しかし,ケインズは逆に需要の大きさが供給の大きさを決めると唱えました.これは有効需要の原理と呼ばれます.これまでの常識をひっくり返したので,ケインズ革命と呼ばれます.この考えに立てば,供給(GDP)を大きくすること,つまり経済成長するためには需要を大きくしなければなりません.不況の場合は需要が小さすぎる(需要不足)のが原因だと考えます.ちなみに需要の内訳は,民間消費,民間投資,政府支出,純輸出(輸出-輸入)です.

 そのため,不景気に対する政府の介入方法は,民間に代わって政府がお金を使うこと,つまり政府支出を増やすことです.需要が足りないので政府がその不足分を支出します.これにより需要が増加し,有効需要の原理によりGDPが増加し,三面等価の原則により所得も同額だけ増加します.所得が増加すると,その何割かの量だけ民間消費が増加します.民間消費の増加は需要の増加を意味しているので,先程と同様にGDP,所得を増加させ,またも民間消費が増えることになります.このループを繰り返すことで,当初,政府が使ったお金以上にGDPが増えることになり,景気回復します.この流れは,政府支出の乗数効果と呼ばれます.この話は重要なので,テスト前にはきっちり復習しておきましょうね.
 実際に大恐慌の際にはアメリカでは民主党のルーズベルト大統領が中心となり,大規模な公共事業を始めとするニューディール政策を採りました.世界史?の授業で習ったのではないでしょうか.
 ケインズ派が主導する政府は国民の負担が大きい代わりに福祉も大きい大きな政府です.積極的に市場に介入するため,結果として慢性的に政府が赤字(財政赤字)となりがちです.また,政府の介入が大きい場合にはもう1つの問題点があります.それは効率性の悪さです.例として郵政民営化を取り上げます.郵便局が行う郵便や郵便貯金などのサービスは国でなければできないものではありません.しかし国がやることのメリットは採算度外視のサービスができることです.ほとんど人のいない離島に郵便局を作ることは営利目的である民間企業にはなかなかできないことですが,国がやる場合には営利目的ではないので,赤字であっても郵便局を作りやすいでしょう.ただし,採算度外視でやる場合は,なんとか効率を良くしよう,無駄を省こう,サービスを向上しようというインセンティブに欠けるため,どうしても非効率的になってしまいがちです.長年赤字でもきちんと給料がでますからね.民間企業であれば赤字続きなら給料削減,もっとひどければ倒産,結果として仕事を失ってしまいます.逆に効率改善すれば給料が増えるでしょうから,がんばろうというインセンティブがあります.

 さて,ともかく1980年代には財政赤字の解消が大きな課題となったため,ケインズ派ではなく,市場の機能を重視する新古典派経済学が力を持つことになります.
 新"古典派"というだけあり,古典派と基本的な考え方は似ています.市場の機能,特に競争による成長を重視しています.そのため新古典派が採る政策は,民営化規制緩和といった競争を促す政策が軸となります.福祉に関する考え方も,国民の負担が低い代わりに福祉水準が低い,いわゆる小さな政府となります.小さな政府のメリットは,競争を重視するため,がんばった分だけ報われる社会になります.そのために活力と競争力のある社会になりそうです.
 1980年代の日本は3公社を民営化しました.それらは現在のJR,NTT,JTです.特に前者2つは分割民営化しました.最近だと郵政公社もそうですね.分割することにより互いに競争することが期待されるのです.
 さて日本は小さな政府でしょうか大きな政府でしょうか.今後紹介する国民負担率で評価すると,日本は国際的には国民の負担が低い,小さな政府です.しかしその割には政府の使うお金(歳出)が大きいです.だから財政赤字が膨らんでいくのでしょうね.
 さあ,「99%デモ」や「ティーパーティー」がどんな立場なのかがわかりましたか?また,皆さんも近いうちに選挙権を持つことになるので,人物の好き嫌いで選択しなくて済むように,どんな社会に住みたいのかを考えておきましょう.

2011年10月8日土曜日

総合政策演習D 第3回(10/6)

 今回もテストです.僕の担当もこれで折り返し,第5回はがっちりテストをします.

【授業の内容】
 まあテストについては目新しい話はないので省略します.

 今回は「落ちてもいい企業」を紹介しました.落ちてもいいとは,「どうせ受かっても行かないから」という意味ではなく,選考を受けること自体に意味があるので落ちてもいい企業ということです.
 企業は学生の落とし方にも気を使っています.なぜなら就活で選考に落とした学生は,特に面接,それも2次,3次,最終と後になればなるほど落とされた企業に悪い印象を持つ可能性が高いからです.学生は今後消費者になる可能性があるので,悪い印象にとって良いことではありません.そのため,落とした学生にも良い印象を持ってもらおう,少なくとも嫌われないように,と色々工夫をしているようです.
 面接の振り返りシートを書かせる企業や,面接時のアドバイスをくれる企業があるようです.僕が今回配布した資料は結構古いものなので,「みん就」などを使って最新の情報を確認しましょう.

 また,「見た目」の話をしました.これに関しては僕もキチンとしていないので人に言えた話ではないのですが,まあ少し人の目を意識してみましょう.特に男の子は外見に無頓着な傾向があるように思います.気をつけても別に急に顔が変わったりするわけではないですが,顔つきは変わります.意識して清潔感があり,好印象を持ってもらえるように努力しましょう.男の子の場合はまず間違いなく長髪よりは短髪の方が爽やかになるし,印象も良くなるでしょう(もちろん坊主頭は別だけど).また,スーツの着こなしも着慣れると変わってくるものです.たまにはスーツを着て,通学してみてはどうでしょう.どんなスーツが良いのかわからなければ,量販店に行って「これから就活なんですが・・・」と言えば相談にのってくれますよ.同じスーツやシャツと言っても,金融を受ける場合とアパレルを受ける場合ではなんとなくドレスコードも違いますからね.

総合政策演習BⅠ 第2回(10/5)

 今回はゲーム理論と独占市場のうち複占を主に説明しました.

【授業の内容】
 まずゲーム理論を少しだけ復習し,その後複占の説明をしました.複占の解法は次のように分類されます.
クールノー均衡:同時手番,非協力ゲーム.両企業が同時に生産量を決定する.
シュタッケルベルグ均衡:逐次手番,非協力ゲーム.1社が先に生産量を決め,それを見て他社が生産量を決める.
協力ゲーム:同時手番,協力ゲーム.両企業が両企業の利潤の合計が最大になるように生産量を同時に決定する.

 今回のようにどんどん皆さんに問題を解いてもらいます.わからない問題があれば言ってくださいね.

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第2回(10/5)

 今回はゲーム理論の続きです.思ったより早く進みました.

【授業の内容】
 まず前回の復習として「支配される戦略の逐次消去」をやりました.ただし,この方法で解ける問題は限られています.この方法で解けない問題を解くためにナッシュ均衡があります.

 ナッシュ均衡とは「あるプレイヤーAの戦略はプレイヤーBの戦略に対する最適反応であり,プレイヤーBの戦略はプレイヤーAの戦略に対する最適反応となっている状態」のことです.互いに裏をかけない状況と考えて良いでしょう.
 利得表を使ってナッシュ均衡を導き出すやり方も説明しましたが,利得表を使わない立地ゲーム(ホテリングゲーム)でもナッシュ均衡の考え方を確認しました.このゲームの結論は一見非現実的に思えるかもしれませんが,実際の経済でもこれに近いケースはあることを紹介しました.

 続いてミニマックス戦略です.これまでのゲームはすべて「利得の最大化」を目的としていましたが,ミニマックス戦略の目的は「被害の最小化」です.
 各戦略は最悪の場合利得がいくらかを考え,そのうち最も利得が高い戦略を選びます.

 最後に逐次(ちくじ)手番ゲームも解きました.逐次手番ゲームとは,じゃんけんのように戦略を同時に決定するゲーム(同時手番ゲーム)ではなく,あるプレイヤーが戦略を決定し,その後他のプレイヤーが戦略を決定するというように時間の流れがあるゲームです.
 このようなゲームはゲームツリーで表現できます.このようなゲームの解法は,「後ろ向き帰納法(Backward Induction)」です.この解法では,まず最後に行動するプレイヤーの戦略を確定し,そこから順に時間を遡って,各プレイヤーの戦略を決定するのです.つまり,現実にはプレイヤーA→B→Cの順に戦略を決定するとすれば,プレイヤーC→B→Aの順に行動を確定させていくのです.

 さて,今回はメモと課題を渡しました.どちらも次回の授業で回収します.

経済学A 第3回(10/4)

 今回はマクロ経済学の入門編として,経済の仕組みの全体像を説明しました.
【授業の内容】
 今週と来週で経済の仕組みを大雑把に理解してもらいます.導入部分として,アメリカのオバマ大統領が掲げた「国民誰もが入れる健康保険」に反対する人がなぜいるのかを考えてもらいました.また,最近アメリカではかなり大規模なデモが起きています.このデモは何を訴えているのか,アメリカとはどんな国なのか,日本はどんな国なのかを学んでいきます.

 今回の話の前提条件として,経済学の目的は何かを説明しました.経済学は人々を幸せにすること,貧困を削減することを目的として誕生し,そのための目標値として,GDP成長率や,1人あたり所得などを用いることを説明しました.ポイントは「お金があることが幸せ」だと考えているのではなく,「幸せを測定するモノサシとして,(とりあえず)お金を使っている」点です.似たようなもんだ,と思うかもしれませんが,そこには大きな違いがあると,僕は考えています.
 というわけで,目標値であるGDPを説明しなければなりません.GDPとは,国民総生産のことですが,どれだけ商品を作ったかを示すものではなく,どれだけ付加価値を発生させたか,を示すものです.簡単な数値例で計算しましたね.
 ここから,経済学(と経済)の歴史について説明しました.今回は経済学の誕生として,古典派の人たちが何を考えていたかを主に説明しました.古典派の人たちの主張を簡単にまとめると,「市場の働きを信頼しており,政府が市場に介入すると,そのメカニズムが乱されてしまう.そのため,政府は何もしない方が良い」というものでした.民間に任せておいても,まるで神の見えざる手が存在するかのように,うまく物事を治まるというものです.政府は最低限だけの役割(警察,国防,消防など)を行い,後は民間に任せるというものです.これはレッセ・フェールと呼ばれます.

 古典派のもう1つの特徴として,セイ法則があります.これは,供給の大きさが需要の大きさを決めるというものです.ある経済を,生産(供給),支出(需要),所得の3つの側面から測っても大きさが同じであると言うことを三面等価の原則と言いますが,古典派はこのうちの生産を重視します.なぜなら生産が大きければ需要は勝手についてくると考えたからです.
 このような古典派経済学は,1920年代後半に起きた世界大恐慌に際して無力でした.大不況であることがわかっても,有効な解決策がないからです.そこで,このような非常時に有効な薬をケインズたちが提示します.ということで,次回はケインズの登場から話します.

 この流れとは接点があまりないのですが,少しだけマルクス経済学の話もしました.今となってはすでに歴史の遺物という感じですが,前世紀,皆さんが生まれる少し前までは一定の影響力のある思想?システム?でした.我々が普段当たり前だと思っている経済システムは市場経済と呼ばれます.財(モノやサービスの総称)の値段や取引される量は市場で決まるからです.対するマルクス経済学の影響下にある国の経済は計画経済です.計画経済では,供給量は市場によって決まるのではなく,政府の計画で決定します.みんなにとって必要と思われる量だけが生産され,平等に分配されます.平等という意味では理想的な社会でありますが,計画経済の最大の問題点はインセンティブが活かせないことでしょう.独創的な発明,効率化,消費者のニーズをつかむこと,これらがあまりメリットをもたらさない仕組みでは,人間はあまり努力しないものです.ほぼすべての財の生産は国や地方の公共団体がやるより,民間がやる方が効率的です.郵便局の窓口も民営化すると決まってから随分愛想が良くなったと思いませんか?

 今回は課題を配布しました.主要国の人口やGDPを調べてきてもらいます.次の授業で回収しますね.

2011年10月7日金曜日

経済数学入門 第2回(10/3)

 今回も関数です.1次関数と2次関数の確認をしました.

【授業の内容】
 どちらも高校までにやった内容ではありますが,経済学においても,公務員試験や民間企業の筆記試験においても,これぐらいがきっちり理解できていればあまり困りません.

 1次関数では,関数を読み取ってきちんとグラフに描けること,2次関数ではグラフを描けることと2次方程式を溶けることを確認しようと思ったのですが,2次関数は,2次方程式の解法をやったところで時間切れでした.

 また,今回からチーム制を始めたので,チーム内で教え合う雰囲気作りのためにクイズっぽい数学の問題をチーム毎に解いてもらいました.

 今回も小テストをしました.呼び出しがあった人は全学共通教育センターに来ましょうね.できれば木曜日に.また,今回も課題を出しました.次回までにやってきましょう.

総合政策演習D 第2回(9/29)

 今回も粛々と問題をこなしていきます.

【授業の内容】
 さて,今回はいつものテストに加えてアンケートをとりました.皆さんが夏休みに就活に向けてどのような活動をしたかを調査したわけですが,残念ながら予想通り皆さんは最低限のことしかしていないようです.周りと同じ事をしているから安心するのはもうやめて下さい.「周りと同じ事をしていたらダメなんだ!」ということを強く意識してください.「周りがしていないからOB・OG訪問してみよう」,「周りがしていないから公募のインターンシップの選考を受けてみよう」と思えるように意識改革しないと貴重な時間がもったいないですよ.
 あと,時事問題っぽいキーワードについてのテストもしましたが,こちらもよくありませんでした.先週僕が紹介したのだから知らなければ調べましょう.「知らないことは恥ずかしいことなんだ」と思えなければダメですよ.

総合政策演習BⅠ 第1回(9/28)

 後期から僕が総合政策演習BⅠを担当します.

【授業の内容】
 今回は独占市場のうち完全独占の確認をしました.独占市場は様々なパターンがあり,公務員試験のミクロでは最も大変なところでしょうね.

 次回から本格的に演習をしますが,今後は各自でテキストの予習範囲をしっかり解いてきましょうね.質問がなければどんどん先に行きます.皆さんのペースでやっていくので,積極的にやれば早くテキストが終わるでしょうね.昨年もそうだったので,テキストを一通り終えたら,テキストの順序にこだわらず様々な問題をやっていく予定です.

 とにかくこの演習は公務員試験に合格することが目的なので,ペースを落としたりしません.しっかり勉強してくださいね.
 

2011年10月4日火曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第1回(9/28)

 今回は前期の復習とゲーム理論の入門編です.


【授業の内容】
 まず前期の内容である完全競争市場を復習しました.前期は完全競争市場の5つの条件をすべて満たした非現実的な市場での家計や企業の行動を学びました.5つの条件により,企業はどんなにがんばっても利潤は出ません.

 一方,後期は不完全競争市場,つまり上述の5つの条件から外れた場合について考えて行きます.まずは「多数の売り手と買い手」ではない場合,つまり独占市場について学ぶのですが,そのための道具としてゲーム理論を説明します.

 さて,ゲーム理論とは,「プレイヤーが2人以上存在して」おり,「互いのプレイヤーの行動が他のプレイヤーに影響を与える」という状況(これをゲームと呼びます)における駆け引きについて学びます.
 まずGame.1として,囚人のジレンマを考えました.互いが利己的に行動すると逆に不幸になってしまう状況でしたね.
 続いてGame.2として,「支配される戦略の逐次消去」という解法を説明しました.

【ゲーム理論で用いる専門用語】
プレイヤー:プレイヤー(そのまま)
利得:ゲームの結果得られるポイント(のようなもの)
戦略:プレイヤーが持っている選択肢
同時手番ゲーム:同時に戦略を決定するゲーム(Ex.ジャンケン)
完備情報ゲーム:全プレイヤーがゲームのルールについて完全に知っていること

2011年10月3日月曜日

経済数学入門 第1回(9/26)

 経済数学入門は,2年次以降の経済学などの科目で必要となる数学的な基礎について学ぶ科目です.数学が苦手(というか嫌い!)という人も対象にしています.

【授業の内容】
 この授業はちょっと変わっているので,まず授業の仕組みから説明しました.
・評価は中間と期末の筆記試験の合計で決まる(ただし例外あり).
・中間試験の成績が6割に満たない場合は全学共通教育センターに通い,年内に担当者の了解を得る.
・チーム制であり,各チームはリーダーとメンバーで構成される.
・(ほぼ)毎回小テストと課題を出す.
・小テストの結果が悪ければ呼び出しがあり,呼び出しを受けたらその週のうちに全学共通教育センターに行く.

 今回は初回なので,チーム制は採りませんでしたが,早速小テストをしました.

 さて授業の内容ですが,今回は「関数とは何か?」を説明しました.
 関数とは,何かの数字を入れると,何らかの数字が出てくる箱のようなものです.今回はご飯の時に使う箸の本数を例に取り上げました.夕食を一緒に食べる人数が4人であれば,必要となる箸の本数は8本ですね.別に僕が計算方法を説明しなくても誰だってわかりますね.これをハシ関数と呼びましょう.するとハシ関数は次のように表現できます.
f(x)=2x
 ここでは人数をxとしています.f(x)のfはfunction,つまり関数を意味しています.f(x)は,xに数字を入れると,何かが出てくる関数だということです.xに4を入れれば,8が出てきます.
f(4)=2×4=8
という感じです.

 さて,続いてこのグラフも描いてみました.文章では表現しずらいので省略します.

 次回は関数のうち,1次関数と2次関数を復習します.

経済学A 第2回(9/27)

 ちょっと締め切りに終われてて更新が遅れてます・・・.さて,今回は,様々な経済学的な考え方を説明しました.

【授業の内容】
 まず課題であった「ダイヤモンドはなぜ高いのか?」を考えてみました.皆さんからも意見を聞きましたが,その過程で,需要と供給という言葉が出てきました.需要とは,消費者がある財(商品やサービスの総称)を欲しがる気持ちのことです.供給とは,生産者(企業)による生産そのものです.
 結論は,ダイヤモンドは供給よりも需要の方が大きいために,価格が高くなります.需要が大きくても,それより供給が多い場合は価格は安く(あるいはタダに)なります.例として,空気や水がありますね.価格は需要と供給,どちらか一方だけで決まるものではなく,両者のバランスで決まるということを覚えておきましょう.今回の授業の最後もこの考え方を応用しましたね.

 続いて,「大学進学は得なのか?」を説明しました.前回同様,それぞれの選択肢のメリットとデメリットを考え,それらを比較します.金銭面に限って言うと,大学進学は将来もらえる賃金が高い反面,高い学費を払わなければなりません.高卒として働く場合は,賃金が比較的低いというデメリットがあるものの,大卒よりも4年も早く働くことができます.
 ここでは機会費用という概念を説明しました.機会費用とは,ある選択肢を選んだことにより,選択を放棄した次善の選択肢から得られるもののことです.今回の例では,大学進学は,高卒として18-22歳の4年間に働いて賃金を受け取る機会を捨てることになります.つまり,大学進学にかかる費用には学費だけでなく,その4年間に受け取れたであろう所得も含めるべきなのです.この考え方は,聞いてみれば当たり前ですが,普段なかなか明確に意識できないことが多いのではないでしょうか.

 最後に,「どんな企業で働くと高い給料がもらえるのか?」を考えました.実はこれは,「なぜダイヤモンドは高い?」の結論が応用できます.ダイヤが高い理由は供給よりも需要が大きいことによる,ということでした.であるとすると,皆さんが労働力を売る時に高い値段で売るためには(高い給料をもらうためには),供給よりも需要が高い労働力を売れば良いのです.つまり欲しがっている企業は多いが,その能力を持っている学生は少ない,そんな学生になる必要があります.皆さんは大学に進学し,これから専門的な学習をしていくわけですが,企業にはどんな能力が求められているのか,という視点を持って勉強するのも面白いのではないでしょうか.

 さて次回は(といっても明日だけど・・・),経済の大まかな仕組みについて説明します.経済はどんな風に成り立っているのか,政策が皆さんの生活にどんな影響が出るのかがわかるようになるはずです.

【重要なキーワード】
・需要と供給
・機会費用

2011年9月25日日曜日

総合政策演習D 第1回(9/22)

 後期も演習Dは筆記試験対策を行います.

【授業の内容】
 今回は初回ということもあり,テスト範囲を指定できなかったのでテキストにないタイプの問題を紹介しました.また,夏休みも終わり,就活シーズンまであと少しなので,現時点でやっておくべきことのチェックをしました.

①インターンシップに行っただけで満足していないか?
 大学からの斡旋で行くのにももちろん意味があるけれど,一般公募のインターンシップに応募し,結果はどうでも良いので,なんらかの選考を絶対に受けるべきだと言いましたが,やはりそれをしたのは少数派でしたね.このように積極的に動く人が少数派であれば,絶対にその少数派になるべきです.その他大勢で良かったのはこれまでで,就活においては「積極的な少数派」にならなければダメです.

②周りが知らない自分だけの企業を見つけたか?
 日本の上場企業だけで数千社あります.周りは知らない隠れた優良企業は必ずあるはずです.ライバルが少ない優良企業を受けるのが最も効率的のはずではありませんか?
 企業研究ができていない人は,まずは2013年度版の業界地図でも見て,どんな業界があるか知りましょう.

③「就活のネタ」は見つかったか?
 就活のネタ(ガクチカ)は絶対に必要です.また,それを将来やりたいことと整合性があるように作り上げましょう.そのためにも次の自己分析が当然必要です.

④あなたは誰か?
 就活は結局のところ自己分析に尽きるのかもしれません.あなたの好きなものは何か?何がしたいか?何ができるか?をしっかり文章にしましょう.言語化できなければ人に伝えることはできません.

⑤実社会,経済に関心を持っているか?
 世の中の社会科学系学部の3年生は夏頃から日経を読むのが普通です.「積極的な少数派」ではなく,当たり前のことです.読んでいれば,「スマートグリッド」,「LCC」,「クラウド(コンピューティング)」,「デフォルト(金融)」について目にしているはずですが,あまり知らないみたいですね….大人と話が合わなければ面接でも会話が続かないんじゃないですか?まずは社会常識の基礎体力を付けましょう.
 また,当然ながら,為替レート,株価はだいたいで良いので知っておくべきです.

 さて,来週のテスト範囲は今回のプリントと,テキストの問題種1,2です.

経済学A 第1回(9/20)

 書くのが遅くなりました.今回は初回なので,わりと柔らかめの話をしました.

【授業の内容】
 まず皆さんが最も気になっているであろう「単位を取れそうか?」という話をしました.昨年度前期のこの講義では本試験(筆記試験)を受けて単位を得られた人は88%です.前期は再試験の対象者が少なかったので筆記用具ではなく,レポートにしました.
 なお評価は基本的に期末試験(100点満点)ですが,ボーナスとして授業での発表点を加算します.出席点は原則としてありません.ただし,皆さんが真剣に受講するよう促すため,後述のインセンティブを用います.皆さんがその回静かに受講し,僕が「静かにしなさい」ということがなければ期末試験の点数の上限を1点上げ,逆にうるさければ1点下げることにします.ただし上限が100点を下回ることはありません.そのため,すべての回を静かに受講すれば期末試験は100+1×15=115点満点です.

 以下は授業についての約束事です.
・出欠は学生証で行います.出欠をチェックする時間内にチェックできなかった人は欠席です.そのため,遅刻というものはありません.また学生証を忘れた人も欠席です.
・私語は,授業の妨げになるので当然ダメです.逆に言えば,授業の妨げにならないことは大体オッケーです.お茶を飲むのも可です.推奨しませんが寝ても文句は言いませんし,授業を受けたくない人は静かに退出してくれれば構いません.

 さて,今回の前半は,経済学とは何かを説明しました.その分析対象は実に幅広く,皆さんがイメージするお金の話(金融,株,為替など)はその一部に過ぎません.経済学にはミクロとマクロという2つの視点があります.マクロは巨視的,つまり巨大なものを望遠鏡で覗いて,その全体像を理解します.逆にミクロは微視的,つまり巨大なものを構成する最も小さなプレイヤーの動きを理解することで全体像を理解します.ミクロとマクロは経済学を支える大きな2つの柱です.僕はミクロの方が好きなのですが,マクロの方が社会常識として役に立ちそうなので,授業ではマクロの話が多くなるでしょう.今回話した賃金の話などはミクロの分野ですが,面白くないですか?僕は面白いと思うのですが,押し付けかもしれませんね.

 後半は経済学において最も重要な考え方であるインセンティブをじっくり説明しました.インセンティブは日本語に直すと「誘因」,つまり人々の行動や選択を動かすものです.わかりやすく言うとアメとムチですね.経済学はアメとムチで問題を解決します.その例として,ゴミの不法投棄や保育所の話をしました.日本人が他国の人々に比べ災害時にマナーを守るのもインセンティブのせいではないかと僕は思います.

 さて来週は次の3つを説明します.「ダイヤモンドはなぜ高いのか?」,「大学進学は得か?損か?」,「儲かる仕事とは?」です.「ダイヤモンドはなぜ高いのか?」については自分で考えてきてください.これが課題です.

 またこの講義では以後3回程度アンケートを取ります.そこで皆さんからの質問や要望などを受付けます.

2011年7月24日日曜日

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第15回(7/22)

 今回で最終回です.一般均衡の続きを説明しました.

【授業の内容】
 ややこしい話なので,まず前回説明したエッジワース・ボックス(ボックス・ダイアグラム)の復習から始めました.

 さて,まず2人のプレイヤーが財を配分された状態から話を始めます.エッジワース・ボックス上に1つの点を打ちます.これで両者の資源の配分を示すことができます.この初期状態の資源配分を初期賦存(ふそん)量と呼びます.プレイヤーがこの資源配分に満足してくれれば,話はこれで終わるのですが,このエッジワース・ボックスに相対価格という情報を加えましょう.相対価格は以前の消費者理論のところで予算線の傾きとして出てきましたね.この予算線は,プレイヤーが市場で売買した時に得ることができる財の組み合わせを示しています.つまり市場で売買することにより,初期賦存量から予算線上の他の点へと移ることができるのです.ではどこが予算線上で最も効用が高い点なのでしょうか.この問題はすでに消費者理論で学んだとおり,予算線と無差別曲線が接する点です.
 この時点では,両者が効用を最大化する点に,思うように移動できるかどうかはわかりません.なぜなら,資源の量は有限かつ一定なので,両者が欲しいと思う量(需要量)の合計が供給量を上回る(超過需要)かもしれないからです.一方,両者の需要量より供給量が多い場合(超過供給)もありえるでしょう.
 しかし,市場は良くできており,この超過需要,超過供給を解消することができます.その手段が価格の変化です.以前に学んだワルラス型メカニズムによれば,超過供給があれば価格は下落,超過需要があれば価格は上昇します.これにより需給は均衡するのです.

 ここでは消費者の話ばかりをしましたが,背景にはもちろん生産者もいます.相対価格の変化が起これば,相対価格と限界変形率が等しくなるように(予算線と生産可能性フロンティアが接するように)生産する財の組み合わせを変化させるのです.これはエッジワース・ボックスの形の変化として現れます.

 さて,次週はテストですね.問題はそれほど簡単ではないでしょうから,しっかり準備してください.説明どおり,試験ではこれまでに皆さんに提出してもらったメモを持ち込みできます(というか,用意しておきます).また,電卓を持ち込んでも構いません.ただし,通信や記憶機能など,計算以外の機能を持った電卓は持ち込み不可です.普通の電卓のみ持ち込み可です.

2011年7月17日日曜日

開発経済学 第14回(7/14)

 今回はODAの話を少しして,次週のプレゼンのためにタンザニアの基礎知識を紹介し,その後,各チームでプレゼンのための話し合いをしてもらいました.

【授業の内容】
 途上国への支援の回では国際機関とNGOの話はしましたが,二国間協力の話はできなかったので,今回はODA,特に日本のODAの現状などを話しました.

 皆さんに事前に調べてもらいましたが,援助がODAであるかどうかを決める条件にグラントエレメント比というものがあります.世間ではODAというと,無償でお金をあげることだと思っている人も多いようですが,必ずしもそうではありません.お金を有利な条件で貸すこともODAです.

 さて,タンザニアの貧困削減のためのプレゼンですが,各チームが15分で発表してもらいます.必ずしもPowerpointを使う必要はありませんが,使わない場合は紙の配布資料を用意してもらいます.その場合は20日までに僕に提出してください.
 内容は,皆さんの立場を明確にした上で,1億ドルを使ってタンザニアの貧困を削減するためのプランを発表してもらいます.立場はタンザニアの大統領でも,日本の首相でも,学生でも何でも構いません.プレゼンの仕方については,これまでの開発経済学の授業を参考にしてください.実は結構気を使っているのだけど,伝わっているかな…?

 こちらからは,どのチームにもムダにはならないであろうタンザニア全般のデータを紹介しました.僕が使ったのは主に世界銀行のデータです.紹介したもの以外にも実に多くのデータがあるので,参考にしてください.
http://data.worldbank.org/country/tanzania
 右上の"DOWNLOAD DATA"をクリックするとExcel形式でダウンロードできます.

 試験前で忙しい時期ということもあり,大変だと思いますが,皆さんのプレゼンに期待しています.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第14回(7/15)

 今週は一般均衡です.とりあえずこれまでの復習と,パレート改善,エッジワース・ボックスの説明をしました.

【授業の内容】
  まず,消費者理論と生産者理論の復習です.消費者理論では,個人は相対価格と限界代替率が等しい点で効用を最大化していました.また生産者理論では,企業は相対価格と限界変形率が等しい点で利潤を最大化していました.これらは来週の内容に関連しているので,頭の中に入れておいてください.

 経済学は人々,あるいは社会全体の幸せを実現するために効率性を追求する学問です.そのため,ここでは,「より良い変化とは何か?」を定義するパレート改善という概念を紹介しました.パレート改善とは,他の人の効用を下げることなく,ある人の効用を増加させるような変化のことでした.また,パレート改善がこれ以上できない状態をパレート最適と呼びます.

 具体的なパレート改善の例を説明するため,エッジワースボックスという,2人のプレイヤーの無差別曲線をくっつけたような図を用いました.エッジワースボックスは,図中のある点が,2人のプレイヤーで2つの財をどのように分配するかを示してくれる便利な図です.
 エッジワースボックス上のある点からある点への移動がパレート改善になっているか,実際に確かめました.

経済学A 第14回(7/12)

今回は日本の財政と税について説明しました.これまでに大きくなった国債残高に加え,未曾有の震災からの復興のためにも,これまで以上に消費税の増税が現実味を増してきました.

【授業の内容】
 最初に「消費税を上げるべきか?」と質問してみました.例年聞いてみるのですが,例年に比べ「賛成」という人が多いように思いました.さて,授業が終わって,意見は変化したでしょうか.
 復習として,大きな政府と小さな政府を思い出してみました.どちらが正しい,というものではなく,私たち1人ひとりがどちらの方が理想的だと思うかです.

 皆さんに現在の日本の財政状況を紹介しました.政府は収入をはるかに超える支出をしており,巨額の赤字をしています.その内訳も円グラフで確認しましたね.歳出(お金の使い途)で重要なのは社会保障費です.その他の歳出の多くは減少傾向にありますが,少子高齢化により社会保障費(年金,健康保険など)は年々増加していますし,これからも増え続けることは間違いないでしょう.財政赤字を減らすためには(当たり前のことながら)支出を減らすか(年金の減額,子ども手当の減額など),収入を増やす(増税)のどちらか,もしくは両方をしなければなりません.「税金は払いたくないけど,年金はしっかりもらいたい」などは不可能です.しっかりした社会保障制度を望むのなら増税が,減税を望むのなら社会保障の規模縮小をせざるを得ないのです.

 後半は税について説明しました.皆さん,所得税と消費税がどう違うか,普段の生活ではあまり意識しないでしょう.所得税を減税して消費税を上げようと,所得税を上げて消費税を下げることとでは,同じように見えますが,どちらを選ぶかで国のかたちを大きく変わります.
 さて,日本にも様々な種類の税があります.それらを分類しました.まずは国税と地方税ですが,これらは単に国に納めるか,地方に納めるかの違いだけでした.もう1つの分類方法は,直接税と間接税です.直接税とは,税の負担者がそのまま納税するタイプの税であり,所得税や住民税,法人税などがこれにあたります.もう1つは間接税です.こちらは税の負担者が直接納めるのではなく,負担者と納税者が異なります.例としては消費税があります.消費税の負担者は我々消費者ですが,納めるのは小売店などです.
 なぜ税が国の性質を決めるのかは,直接税と間接税の違いによります.直接税である所得税は,累進課税性という性質があり,貧しい人には負担は軽く,豊かな人には重い負担を与えます.そのため,貧富の差が縮小するという,公正な税です.相続税なども同じく貧富の差を縮小する直接税です.ただし直接税は脱税できるという欠点を抱えています.サラリーマンなどの給与所得者は所得を把握されやすいため脱税は困難ですが,自営業者などは比較的脱税がしやすくなります.
 一方の間接税の代表である消費税は脱税が不可能です.そういう意味では完璧な税ですが,ただし貧困層と高所得層に同じ税率を課すことになり,相対的に貧困層にとって負担が大きくなります.

 日本が大きな政府か小さな政府かを判断するために,国民負担率と潜在的国民負担率を紹介しました.どちらで見ても,日本は小さな政府であると言ってよいでしょう.日本は低負担高福祉だから財政赤字が多いのかもしれませんね.

 最後に政府による財政再建の取り組みをいくつか紹介しました.市場化テストの話をしたのですが,よく考えたら,皆さんが一番覚えているのは事業仕分けでしょうね.

 さて,テストも間近に迫ってきました.アンケートの結果,持ち込みなし,ということになりました.

2011年7月10日日曜日

開発経済学 第13回(7/8)

 今回はガバナンスについてでした.これまでも所々出てきた言葉ですが,きちんと説明したのは今回が初めてですね.

【授業の内容】
 ガバナンスとは何かについて,UNDP,世界銀行の定義を紹介しましたが,それらをまとめて僕は,「資源配分の効率性」と「意思決定のシステム」という2点に集約できるのではないかと考えます.また,ガバナンスに関連する様々な指標がありますが,まずは皆さんにガバナンスを示す指標としてどのようなものが考え得るかを話しあってもらいました.その上で,世銀のガバナンス指標,トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の実感汚職指数などを紹介しました.授業では紹介しませんでしたが,国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」もガバナンスに関連する指標と言えるでしょう.
世銀:http://info.worldbank.org/governance/wgi/sc_country.asp
TI:http://www.ti-j.org/TI/CPI/index.htm
国境なき記者団:http://www.rsf.org/Only-peace-protects-freedoms-in.html

 さて,ガバナンスが悪いと何が問題なのでしょう?ガバナンスは上記の通り,資源配分の効率性と意思決定のシステムを意味しています.これらに問題があると,政府の政策や公共サービスが非効率であったり,特定のグループだけを優遇したり,汚職が横行したりと,様々な問題を引き起こしますし,それは結果として社会的厚生を下げてしまいます.
 ガバナンスが所得や乳幼児の死亡率に影響を与える,汚職が経済成長率を鈍化させるなど,様々な研究がガバナンスと社会的厚生との関係を指摘しています.
 続いて汚職がなぜ成長を鈍化させるのか,その経路を話しあってもらいました.

 後半は移行経済について解説しました.学生の皆さんにとって,社会主義国が資本主義の現実的なオルタナティブであった時代を想像しにくいでしょうね.僕も経済学を学び始めた時にはすでにソ連はロシアになっていましたし,ベルリンの壁も崩壊後でしたし,言わば歴史によって,経済システムとしては大きな欠陥があるという審判が下されていたので,学びたいと思える環境にはありませんでした.
 さて,社会主義経済にはどんな欠陥があるのでしょう.いくつかありますが,1つは市場経済とは異なり,情報の流れが上から下へと一方通行であり,効率的な資源配分が実現できないことがあります.もう1つは,物事を改善したり,新たな商品・技術を発明したりしようというインセンティブを持ちにくい点です.シュンペーターは経済成長における重要なファクターとして,創造的破壊を指摘しています.社会主義経済では,既製品を大量生産することには向いているかもしれませんが,このような創造的破壊が起きにくいのではないでしょうか.
 それらが原因となるのかどうかはわかりませんが,中国の実質GDP成長率を見ると,開放改革路線以後,成長のばらつきが明らかに小さくなっているようでしたね.UNDPが指摘するように,市場経済は最高の経済パフォーマンスを保証しないとしても,成長のばらつきを小さくするのかもしれませんね.もちろんタダの偶然で,他国のデータを見ると違う結果なのかもしれません.このように仮説を立て検証するとより良いレポートになります.

【第3回レポートについて】
提出期限:8月4日20:00厳守
分量:3枚+α(表紙,図表,参考文献を除く)
テーマ:各テーブルのメンバー内で重複しないように以下のテーマから選択.
A:貧困にあえぐ人を救うために,ジンバブエ政府は何をすべきか?国際社会は何をすべきか?
B:自国の農家保護と途上国の貧困撲滅を両立するためには?
C:(あなたが大統領であるとして)マラリア感染者を減らすための政策は?
D:途上国ではなぜ教育水準が低いのか?どうすれば就学率が上がるのか?
E:途上国にとって望ましい援助とは?最悪の援助とは?どんな援助は貧困を削減できるのだろうか?
F:自由課題

【第15回の授業について】
テーマ:タンザニアの貧困削減プランを立案しよう(予算:1億ドル)
・3チームによるプレゼン
・チーム毎にプレゼン(各15分)
・プレゼン後に質疑応答
・プレゼン方法は自由(Powerpointの場合は2003で保存・作成)

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第13回(7/8)

 今回は余剰分析です.

【授業の内容】
 まず厚生経済学の第1基本定理を紹介しました.これは完全競争市場で財の価格と量が決定された時に,社会的余剰が最大になるというものです.つまり完全競争市場で政府などからの介入もなく,自由に競争した場合に最も社会全体にとって望ましい結果になるということです.

 社会的余剰(SS)は消費者余剰(CS),生産者余剰(PS),税収(T),補助金(S)からなり,次のように与えられます.
SS=CS+PS(+T-S)
 税収や補助金は場合によって出てきます.

 消費者余剰とは,その財に対する評価額から価格を差し引いたものの合計です.分かりやすく言うと私たち消費者にとっての儲けのようなものですね.生産者余剰は,価格から限界費用を引いたものの合計であり,これは利潤の源泉なので,やはり大きければ大きいほど企業にとっては良いことです.(税収や補助金がないとすれば)この2つを合計したものが社会的余剰となります.

 授業では完全競争市場で決まった場合と,①政府が価格統制をした場合,②同じく生産量を限定した場合,最後に③従量税を課した場合を,数値例を使って計算しました.
 いずれの場合も完全競争市場で決まった場合に比べ社会的余剰は小さくなります.この社会的余剰の減少分を死荷重(デッド・ウェイト・ロス)と呼びます.

 今回は従量税を用いましたが,これはその名の通り,取引される財の量に応じて課税するタイプの税です.現実の例では,酒税,たばこ税,揮発油税(ガソリン税)などが従量税にあたります.数式では税額に量を掛け合わせたもので表現されていますね.
 対して従価税というものもあります.従価税とは価格に応じて課税するタイプの税,現実の例では,消費税ですね.消費税はパンを何個買ったかで決まるわけではなく,パンの値段がいくらなのかによって決まりますね.

 次回は一般均衡についてです.ベイシックⅠも総まとめです.

経済学A 第11回(7/5)

 今回は貿易とグローバル化です.

【授業の内容】
 まずパワーポイントを使って,パレート改善,絶対優位と比較優位について説明しました.

 パレート改善とは,他の人の幸せを犠牲にすることなく,ある人は幸せになれるような変化のことです.もちろんみんな幸せになることもパレート改善です.この話をしたのは,貿易が良い変化をもたらすのかどうかを理解するためです.
 まず結果が予想しやすい例として,互いに絶対優位がある場合を考えました.例として挙げたのは,魚釣りが得意だけど米作りが苦手な漁師と,魚釣りは下手だけど米作りが得意な農家の取引です.このような相手より得意に生産できることを絶対優位と呼びます.漁師は魚釣りに絶対優位があり,農家は米作りに絶対優位があると言います.漁師と農家がそれぞれ自給自足で生活するよりも(国際貿易で言えば鎖国状態),それぞれが得意な魚釣りと米作りに専念し(これを特化と呼ぶ),作ったものを交換することで両者ともより豊かになれることが確認できました.

 さて,では何でも得意な国(A国)と,何でも苦手な国(B国)があったとすると,さすがにこの両国の間には貿易は起こらないのでしょうか.具体的に数値例を使って,この両国の貿易を考えてみました.両国は2種類の財を作っているとします(XとY).
 A国はB国よりもXとYどちらの財についても効率的に生産できます.しかし,より得意な財があるとします.これをXであるとしましょう.するとB国はどちらも苦手だけど,まだマシなのはYということになります.A国にとってのX,B国にとってのYは,比較優位があると言います.A国はXに比較優位があり,B国はYに比較優位があるのです.
 この場合,両国がそれぞれ比較優位にある財の生産に特化して輸出し合うとどうなるでしょう.この場合も先程の例と同じく両国が豊かになれる可能性があることがわかりました.

 後半はグローバル化する未来についての話です.グローバル化とはヒト・モノ・カネが国境を越えて移動することと定義することができます.ITの普及に伴い,グローバル化は急速に進展しています.グローバル化すると起こり得ることの1つに,同じ仕事を巡って世界中の人々が争うことがあります.少し前までは日本で働く看護師は日本人がほとんどだったわけですが,今ではインドネシアなどからの看護師を受け入れるようになりました(条件は非常に厳しいですけどね).今後もこの傾向は強まるでしょう.特にプログロマーなどの話す言語に関係なく同じ条件で働ける仕事では,すでに国際的な競争は激しく行われていますね.
 というわけで,皆さんも将来,世界市場で外国人と仕事を争うことになるでしょう.その時により有利な条件で働けるよう,専門的な能力を在学中にしっかり身に付けましょうね.

開発経済学 第12回(7/1)

 今回は内戦についてです.すでに第2回のレポートで内戦について取り上げた人もいますが,新たな発見はあったでしょうか.

【授業の内容】
 授業では,内戦はなぜ起きるのか,内戦を防ぐためには何ができるかを話し合ってもらいました.

 さて,人(国?)はなぜ戦争を行うのでしょう.経済学的にシンプルな答えは,「戦争したら得をすると考えるから」です.ただし,国が得をするという意味ではありません.国全体としては損をするけれど,一部には得をする人がいる場合にも戦争は起こるかもしれません.特にその得をする人が開戦を決定できる場合,もしくは決定できる人に影響力を持つ場合に戦争は起こりえます.逆に言えば,得をする人がだれもいなければ戦争なんてなかなか起こらないでしょう.
 戦争して国が得をすることがあるでしょうか.答えは「ある」,正確に言えば「あった」のです.20世紀の戦争については,朝鮮戦争までは開戦国にとってメリットの方が多かったようです.ただし,開戦時に低成長であり,資源の利用状況が低く,短期間,かつ本土以外が舞台となった場合に限られます.しかしベトナム戦争以降は経済的にペイしなくなったとされています.そのため,戦争に経済浮揚効果があると考える経済学者は現在ではほとんどいないでしょう.
 情報が比較的入手しやすい近年の戦争(イラク戦争)の収支については,スティグリッツとビルムズ(2008)が詳しい試算を行っています.それによると戦争の総コストは3兆ドルにものぼり,将来のアメリカの財政にも大きな傷跡として残り続けるとされています.

 内戦の収支を考える前に,内戦とイラク戦争のような国際戦争(紛争)との違いを理解しましょう.国際戦争の多くは短期間で,戦闘員同士の限定的な戦争です.逆に内戦は長期間にわたり,戦闘員と非戦闘員の区別もあまりないことが多いです.むしろ犠牲者の多くは一般人です.そのため,国にもたらす被害は圧倒的に内戦の方が大きいでしょう.

 内戦のデメリットには次のようなものが想定できます.
・社会資本の損失
・軍事支出の機会費用
・社会的コスト
・資本の海外逃避
・精神的被害

 逆にメリットしては,
(指導者側)
・資産,資源の収奪
・外国からの援助
(兵士側)
・賃金,食糧
・資産,資源の収奪
・安全の確保
・復讐の機会
などが考えられます.

 これらから内戦が起こりやすい条件として次のことがわかってきます.
・天然資源を持つ国では内戦が起こりやすい
・アイデンティティの違いは原因ではなく,対立構図にすぎない
・貧困,格差が内戦を引き起こしやすい
・人口圧力が内戦を引き起こしやすい
・ガバナンスの悪さ(軍部の独裁,シビリアンコントロール)
・過去に内戦があった

 最後にまとめとして,内戦を防ぐためにはということも考えました.経済学的には「内戦を起こさない方が得」という状況を作ることが答になるでしょうね.

【参考文献】
世界銀行(2003)「戦乱下の開発政策」シュプリンガーフェアクラーク
スティグリッツ,ビルムズ(2008)「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」徳間書店
ポール・ポースト(2006)「戦争の経済学」バジリコ

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第12回(7/1)

 前回に引き続き,限界費用,平均総費用,平均可変費用の図を使って,様々なことを説明しました.

【授業の内容】
 前回は,限界費用と平均総費用が交差する点が損益分岐点であると説明しました.今回は同じ赤字であっても生産する場合としない場合とを分ける,操業停止点を説明しました.

 生産してもしなくても固定費用はすでにかかっています.そのため,企業は生産する前の利潤は赤字なのです.そのため生産するかしないかは,生産したらこの赤字が減るか増えるかで決まります.生産すると収入が発生しますが,逆に可変費用も発生します.そのため,収入が可変費用を上回るのであれば生産します.逆に収入が可変費用を下回れば,生産することにより赤字が増えてしまうので生産しません.
 この収入と可変費用の大小関係について違う見方をしてみましょう.収入(R)は次のように表されます.
R=P×x
 そのためRをxで割ってみると,Pになります.同様に可変費用もxで割ってみると,平均可変費用(AVC)が出てきます.
 つまり,収入と可変費用の大小関係は,それぞれをxで割った価格と平均可変費用の大小関係と等しくなります.価格が平均可変費用を上回るのであれば生産することで赤字は減りますし,下回るのであれば赤字が増えます.この分岐点である価格と平均可変費用が等しい点を操業停止点と呼びます.

 価格と限界費用が等しい点で生産するというのを思い出してみましょう.これに操業停止点の考え方を組み込めば,操業停止点より右上の限界費用が,企業の供給曲線になっていることがわかります.供給曲線とは,与えられた価格に対する企業の生産量を示したものです.この供給曲線を導くために,これまでの説明をしてきたのです.

 続いて,短期と長期の違いを説明しました.生産者理論における短期とは,生産設備を変更できないぐらいの期間のことです.逆に長期では生産設備が変更できます.つまり長期では最も適切な生産規模を選択できるのです.一方,短期では,与えられた生産規模を使って生産するしかありません.

 最後に次回の予習として余剰分析の基礎を説明しました.

【今回出てきた重要語句】
損益分岐点:その価格(あるいは生産量)を上回れば黒字,下回れば赤字となる点.
操業停止点:その価格(あるいは生産量)を上回れば操業をすべき,下回れば操業を停止すべき点.
供給曲線:与えられた価格に対する企業の生産量を示したもの.

経済学A 第11回(6/28)

 今回は少子化と結婚の経済学です.随分更新が遅れてすみません….

【授業の内容】
 これまでも社会保障(年金)の回などで説明したとおり,少子化は社会保障制度と大きく関わっています.社会保障制度の問題さえ解決できれば,少子化社会になってもとりたてて困ることはありません.

 「少子化が問題だ」と言うことは誰しも聞いたことはあると思いますが,なぜ問題なのでしょう.少子化の問題点は,「子どもが少ないこと」ではなく「人口バランスが崩れること」なのです.高齢者が少なければ子どもが少なくても問題ありません.なぜ人口バランスが崩れると困るかと言うと,現在の年金システムは,若い世代の保険料がそのまま同時代の高齢者の年金給付となる賦課方式を採用しているためです.そのため,高齢者に比べ若い世代が少なくなると,若い世代1人あたりの負担が大きくなってしまうのです.
 この他にも少子化のデメリットをいくつか紹介し,逆にメリットもいくつか挙げましたね.

 さて,どうなると「少子化」なのでしょう.ここでは,よく用いられる合計特殊出生率(TFR)を紹介しました.誤解をおそれず大雑把に言うと,「女性が一生涯に平均して何人の子供を産むか」を表しています.TFRが2.08程度あれば,日本の人口は減少しません(置換水準).そのため,1つの目安として2.08があるのですが,近年の日本のTFRは1.3程度と,置換水準を大きく下回っており,超少子化時代と呼ぶ人もいます.

 なぜこのように少子化になったのでしょう.なぜ女性は子供を産まなくなったのでしょうか.その原因はいろいろ考えられていますが,最も大きな原因は晩婚化・非婚化です.結婚した夫婦の間に産まれる子供の数(有配偶出生率)はあまり下がっていませんが,結婚している人の割合(婚姻率)は大きく下がっています.日本は結婚しないのに子供をつくってはいけないという社会通念が強いので,結婚しない人が多いことはそのまま出生率の低下につながります.
 そのため,少子化問題は結婚問題と密接にリンクしています.授業の後半は結婚の経済学について話しました.

 なぜ日本人は結婚しなくなったのでしょう.経済学だけでなく,社会学でもその原因について数多くの研究が蓄積されてきました.
 現在の将来予測によると,皆さんの世代では1/3~1/4程度の人は生涯に渡って結婚をしないだろうとされています.たかだか数十年前までは(男女で大きく異なるものの),ほとんどの人が結婚していたのですが,現在,そして今後は結婚する人もいれば,結婚しない人もいるのが自然になってくるのでしょうね.
 さて,結婚している割合(有配偶率)をその他の指標(学歴や収入)と比較してみました.もちろんこれが全てではありませんが,ある傾向が見て取れたはずです.そのうち,なぜ収入と有配偶率に相関関係(あるいは因果関係)があるのかを説明する仮説はいくつもありますが,たくさんありすぎてすべてを紹介することはできないので,今回は,その中からイースタリンの相対所得仮説を紹介しました.女性は生まれ育った生活水準(父親の経済力)と,結婚した場合の生活水準(結婚相手の経済力)を比較し,より豊かになれるのであれば結婚すると考えれば,現在の日本で非婚化が進む理由がみえてきます.高度経済成長期は,男女とも高学歴化が急速に進んでいました.その時代の親世代は中卒,高卒が多かったのですが,社会が年々豊かになっていったため,子供たちには自分たちよりもより多くの教育を与えることができました.そのため,現時点では貧しくても将来は豊かになれるし,子供たちはさらに豊かになれるという期待があり,またそれが実現していました.結婚相手もほぼ父親よりも同等以上の学歴を持っていました.
 しかし現時点では,若い世代の将来展望はそれほど明るくありません.どうがんばっても親世代より豊かになれないと考える人も少なくないでしょう.このような状況下では女性は,将来の生活がどうなるかわからない相手と結婚するよりも,豊かな親と同居しておいたほうが安心だと考えても不思議はありません.
 みなさん「結婚はそんな打算でするものではない」と思われるかもしれませんが,それでも,「結婚したほうが豊かになれる時代」と「結婚したほうが貧しくなる時代」ではどちらが結婚する人が多いと思いますか?

2011年6月25日土曜日

開発経済学 第11回(6/24)

 今回は援助についてです.皆さんにとって新たな発見が多かったのではないでしょうか.

【授業の内容】
 まずLive AidとLive8の画像を見てもらいました.どちらも世界的な貧困救済イベントであり,Live8については知っている人もいるでしょう.これらのイベントは貧困を減らすことに繋がったのでしょうか.

 さて援助ですが,今回はドナーの中でも特に国際機関を中心に取り上げました.国際機関が果たしてきた役割や成果を歴史を追って見ていきました.
 1940年代,ブレトン・ウッズ体制の誕生です.中心人物には皆さんがマクロで学んだケインズもいます.ブレトン・ウッズ体制で欧州は戦争の傷跡から復興しますが,その後,そこでの成功体験をそのままアフリカに期待するという失敗もしています.また当時,アフリカは2大大国のヘゲモニー争いの場にもなっています.
 1960年代,アフリカの時代と呼ばれたこの時期,アフリカの多くの国が独立を果たしますが,独立後も旧宗主国との結びつきは切れておらず,旧宗主国からの援助(特にインフラ等の大規模産業プロジェクト)が特徴的です.
 1970年代,アフリカへの援助は大きな転換を迎えます.これまでのインフラ重視の援助の行き詰まりから,貧困対策が大きなウェイトを占めるようになります.
 1980年代,累積債務問題が深刻化し,IMFや世銀による構造調整政策が行われます.構造調整とは,条件(コンディショナリティー)つきの融資であり,その条件とは,経済の自由化,開放化であり,新古典派的な市場の競争力に重きを置いた政策を理想としています.この構造調整を受け入れたアフリカや東欧の多くの国が経済にブレーキを掛けてしまった一方で,構造調整を受け入れなかった東アジアの諸国は後に「東アジアの奇跡」と呼ばれる急成長を遂げます.

 この構造調整政策が失敗した理由はいくつか指摘されています.スティグリッツは途上国それぞれの発展段階を無視し,画一的な条件を課してしまったためであると批判しています.それ以外にも,ファンジビリティ(資金の流用可能性),コンディショナリティーが破られた場合にも融資が続けられたためにインセンティブが働かなかった等の原因が指摘されています.

 1990年代にはレシピエント側のガバナンスが注目を集めました.Burnside and Dollar (2000)は受入国のガバナンスが良好な場合に限り援助は有効に働くという研究を発表しました.この研究によりガバナンスの重要性がより一層注目されることになりました.

 最後に1990年代以降注目を集める参加型開発についても触れました.これは,ドナーからの一方的な援助ではなく,レシピエント,特に現地住民の意見を開発政策に採り入れるべきであるという考え方です.

 皆さんにはこれまでの知識を踏まえ,「どんな援助は貧困を削減できるのだろうか?」という問いを考えてもらいました.

 

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第11回(6/24)

 今回も引き続き生産者理論です.

【授業の内容】
 前回,価格と限界費用が等しくなるように生産することで利潤が最大となるような生産量がわかることを確認しました.今回はこれを用いて,どのような価格だと利潤が出るかを図で確認しました.

 それを理解するために,平均総費用(ATC)と平均可変費用(AVC)という新たな費用を紹介しました.ATCは生産量1単位当たりにかかる総費用であり,総費用を生産量で割ったものです.式ではATC=TC/xで表されます.ここから,TC=ATC×xも導くことができます.またAVCは生産量1単位当たりにかかる可変費用のことで,可変費用を生産量で割ったものです.こちらも式ではAVC=VC/xで表され,VC=ATC×xが導かれます.

 このATCとMCが交差する点を損益分岐点と呼びます.この点の価格よりも高く売れれば利潤はプラス,つまり黒字になり,この点より価格が低ければ赤字となります.

 ただし,この授業で確認したとおり,赤字だからと言って生産しないわけではありません.赤字でも生産したほうがマシな場合があります.なぜなら生産する前に固定費用(サンクコスト)がかかっているからです.そのため,生産前ですでに赤字は発生しており,生産することによってこの赤字が減るのであれば生産します.逆に生産すると赤字が増えてしまう場合もあるでしょう.この場合には生産自体を止めたほうが良いですね.これを見分けるポイントを操業停止点と呼びますが,その話はまた来週です.
 配布した練習問題をしっかりしておきましょうね.

【今回出てきた重要語句】
平均総費用(ATC):総費用を生産量で割ったもの.生産量1単位当たりの総費用.
平均可変費用(AVC):可変費用を生産量で割ったもの.生産量1単位当たりの可変費用.

経済学A 第10回(6/21)

 今回は為替と貿易についてです.

【授業の内容】
 まず円高と円安の説明です.よく考えれば当たり前なのですが,いきなり言われると間違えそうですね.現在はおよそ1ドル=80円ですが,これは1ドルを購入するために80円かかることを示すので,1ドル=100円になると1ドルを購入するために100円かかるようになります.つまりこの変化は,1ドルの価値が上がったことであり(ドル高),もちろんそれは円と比べてのことなので,円の価値が下がったこと(円安)でもあります.つまりこの変化は円安ドル高です.逆に1ドル=60円になれば円高ドル安です.

 さて,一般に,円高は日本経済にとって良くないと言われます.なぜ日本円の価値が上がる円高が悪いことなのでしょう.結論から言うと,私たち消費者にとっては円高は悪いことではありません.むしろメリットの方が多いです.私たちが持っているお金(円)の価値が上がるので,外国の製品を安く買えることになるし,海外旅行も安く行けます.
 しかし,日本経済を支える輸出企業にとっては円高はありがたくないものです.なぜなら円高はドル安であり,ドルの価値が下がることなので,アメリカ人にとっては日本製品を買う時にたくさんのドルが必要になるため,なかなか買いづらくなります.日本の企業の輸出品が売れなくなるのです.日本の企業の国際競争力が落ちると言っても良いでしょう.

 このように為替は企業にとって大きなリスクでもあるのですが,為替はどうやって決まるのでしょう.為替は外貨の価格ですので,これまでも何度も説明してきたように需要と供給のバランスによって決まります.みんなが円を欲しがりドルを売りたがれば円高ドル安になります.
 この為替相場なのですが,値動きがあるため,投機目的で為替を売買する人も存在します.現在では輸出・輸入で使うお金よりも投機のために売買されるお金の方がはるかに巨大です.1997年のアジア通貨危機の発端も,投機目的のためにタイの通貨バーツが売買されたためです.

 後半は外貨預金について説明しました.外貨預金はその響きから「安全」であると勘違いされがちです.確かに日本の銀行に対する預金は非常にリスクが低いのですが(その分,リターンも低い),外貨預金には為替リスクが存在します.リターンが高い背景には,やはり高いリスクが隠れていました.
 ここ数年よく聞くようになったFX取引についても少し説明しました.「FXは儲かる!」,「FXで大金持ちに!」という甘い話に騙される人も少なくありません.しかし以前に話したように「リターンが高い(大金が稼げる)金融商品はリスクも高い」のです.FXは,高いレバレッジで行えば,あっという間に元本すべてを失い,さらに借金を背負ってしまう可能性もあります.レバレッジにもよりますが,FXは様々な金融商品の中でもリスクの高い商品です.知り合いに「上手くいくから一緒にやろう」と誘われても,簡単に応じてはいけませんよ.

 最後に為替制度について説明しました.今回説明したように,日本円は,為替レートが刻々と変化する変動相場制なのですが,中には為替レートを固定している通貨もあります.かつては日本も1ドル=360円の時代がありました(僕は生まれてませんが).また,固定相場制を基本として,上下数%の変動を認めるペッグ制を採る通貨もあります.

 次週はアンケートでみなさんの要望が多かった少子化と結婚の経済学を説明します.

2011年6月20日月曜日

開発経済学 第10回(6/17)

 今回は研究授業ということで70分に短縮して,貧困と教育について説明しました.

【授業の内容】
 途上国における教育の現状をデータで見ると,世界の15-24歳の識字率は,男性で91%,女性で85%です.これをサハラ以南のアフリカに限れば,男性76%,女性64%に過ぎません(UNICEF).
 今回は教育の拡充をメインのテーマにしましたが,その理由は以下の通りです.
1.そもそも子供には教育を受ける権利がある
 これは子供の権利条約(児童の権利に関する条約)に基づくもので,ソマリアとアメリカ(!)を除くほとんどの国が締約しています.またMDGsでもすべての子供に初等教育を受けさせることが目標とされています.
2.貧困削減の手段として
 以前にヌルクセの貧困の悪循環を説明しましたが,悪循環は一国全体としても捉えることができますし,家計単位でも教育を通じて貧困が連鎖してしまうと捉えることも可能です.つまり貧しい家庭では子供に与える教育の水準が低くなり,その子供も人的資本蓄積が少ないために高い収入を得ることができず,まさに教育を通じて貧困が子々孫々と遺伝してしまうのです.
 その連鎖を断ち切るためには,政府が十分な教育を供給することが大きな役割を果たすはずです.また,各家計単位で見ても,教育は収益率の高い投資先であることがわかっています(私的収益率).また教育は正の外部性を持つため,社会的収益率はさらに高くなります.
 しかし,現実には資金制約(就学させる余裕がなく,かつお金を借り入れできない),機会費用(児童労働),物理的制約(通学が困難),ジェンダー格差など様々な原因により,必ずしも初等教育が普及しているとは言えない状況です.

 貧困を削減するためにも教育が重要であることはわかりますが,現実には様々な,途上国に特有の問題もあるために教育は十分に普及していません.より多くの人に,より質の高い教育を目指して,世界中で様々な取り組みが存在します.授業ではその中から,バングラデシュのFFE(Food for Education)と,ニコラス・ネグロポンテのOLPCプロジェクトを紹介しました.

 皆さんには,World Bankの2009年のデータで初等教育の就学率が世界で最も低いエリトリアの教育政策についてディスカッションをしてもらいました.初等教育と高等教育のどちらを重視すべきか,普通教育か職業教育か,政府予算の少なさをどうカバーするか,教育需要の向上と供給の拡充のどちらを優先すべきか,などの論点に今回も様々な意見が出ましたね.

【参考文献】
UNICEF(2008)「世界子供白書」
OLPCウェブサイト
http://laptop.org/en/

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第10回(6/17)

 今回も生産者理論です.計算が入ってきました.

【授業の内容】
 前回,小規模な企業のことを考えましたが,今回は大規模な工場を考えてみました.その工場は労働者を投入すると,何かしらの財が生産されて出てくるとしましょう.その場合,きっと最適な生産規模があるのではないかという話をしました.労働者が誰もいなければ何も生産されません.そこで労働者を1人投入してもあまり生産量は増加しません.なぜなら工場が大規模なので様々な役割があるのに,労働者が1人しかいなければ,その人がすべてをすることになりますが,それだと効率が悪そうですね.そこでもう1人を投入すれば,少しは役割分担もでき,先程よりは効率がよくなりそうです.ではもう1人,もう1人と投入していけば,どんどん効率が良くなりそうです.しかしそれは無限に効率が良くなるということではありません.工場には最適な労働者の数があり,それに到るまではどんどん効率が良くなりますが,それを超えると少しずつ人が余ることになり,効率性は落ちて行くのでしょう.

 さて,このような場合,労働者の数をどうやって決めたら良いのでしょう.それはその労働者を投入することにより新たに増加した生産量(労働力の限界生産性)と,その労働者を投入するためのコスト(賃金)のどちらが大きいかで決まります.30万円で雇った労働者が50万円分の財を生み出してくれれば雇ったほうが良いでしょうし(材料費などは無視しています),その労働者が20万円分しか生み出さないのであれば雇うと損をしますね.

 続いて最適な生産量について考えてみましょう.上述のとおり,大規模な企業の生産効率は最初は悪く,(労働者を増加して)生産を増やすに従って効率は上がりますが,過剰に生産しようとすると効率は下がっていきます.
 最適な生産規模を考えるためには限界費用(MC)という概念を取り入れる必要があります.これは生産量を1単位増加させることで新たに費用がどれだけ発生するかを示すものです.この限界費用を使うと最適な生産規模がわかります.例えばこの財が100円で売れるとすれば,財を1個生産すると収入が100円分増えます.その際の限界費用が80円だとすれば,80円で作り,100円で売ることになるので,差額の20円が利益になります.つまり限界費用が価格よりも低い限りは生産量を増加すべきなのです.しかし,価格と限界費用が等しくなれば生産をストップしなければなりません.なぜならそれ以上生産すると,限界費用が価格を上回るため,次の1つの生産からの利益はマイナス,赤字なのです.ただし,これは余分に1個作ると今までの利益が消え,突然赤字になるということではなく,その1個だけについて見てみると赤字だということです.そのためこの1個を仮に作ったとしても今までの黒字が少し減るだけで赤字になるわけではありませんが,利益が減るので作るべきではありませんね.
 結論は,限界費用と価格が等しくなるようい生産すれば最適な生産量がわかります.P=MCです.

 さて,この限界費用ですが,何かを少し変化させるとそれによりもう一方がどれだけ変化するかを計るものですね.これは経済数学入門で繰り返しやった微分と同じ意味ですよね.というわけで,限界費用を導き出すためには微分が必要です.総費用(あるいは可変費用)を微分することで限界費用が導出されます.これは簡単だし,非常に重要なので誰もができなければなりません.期末試験でもこれができなければ確実に単位は取れません.
 授業では実際の数値例で最適な生産量,さらにその時の収入,総費用,利潤についても計算してみました.

【今回出てきた重要語句】
限界費用:Marginal cost(MC).生産量を1単位増加させた時に新たに発生する費用のこと.総費用を微分することで得ることが可能.

経済学A 第9回(6/13)

 前回に引続き資産運用の話です.今回でようやく株の話になりました.

【授業の内容】
 前回は利子,割引現在価値,期待値の計算やリスクについて説明しました.今回はそれらを使って株式について理解を深めました.

 まず,株を買うメリットを皆さんに聞きました.多くの人は「株というものは安く買って高く売ることで儲けるものだ」と考えがちです.もちろんそのような目的でも買うわけですが,それ以外のメリットもあります.「安く買って高く売る」ことで利益を出す取引を裁定(さいてい)取引と呼びます.またそれによる利益はキャピタルゲインと呼びます.日本語で言えば「資本利益」と言ったところでしょうか.
 それ以外のメリットは配当です.ある株を保有することはその企業の一部を所有することになるので,持っている株の数に応じて企業の利益の一部を受け取れるのですが,それが配当です.こちらはキャピタルゲインに対してインカムゲインと呼ばれます.所得利益とでもいうのかな?あまり日本語で言うことはありません.

 さて,今回説明した株価の予測方法のうち1つめのファンダメンタル分析は,この配当こそが株の価値なのだとする考え方に基づきます.ある会社の株を持っていると,この企業が倒産することなく毎年毎年利益を出し続ければ,永遠に配当をもらえます(例外あり,黒字でも配当を出さない場合や,赤字でも配当をだす場合もあります).前回の割引現在価値でわかったように,未来のお金を現在の価値に直すときには割り引かなければなりません.ファンダメンタル分析では,今後受け取れるすべての配当を現在の価値に直したものが株価であるとします.確かに,その株を持っていても配当が貰えそうにない,あるいは近々潰れてしまいそうな企業の株はあまり欲しくありませんね.みんながそう考えれば,みんながその株を売ることになるので,株価は低いでしょうね.実際,東京電力の株価は震災以来ガクンと下がっています.

 ファンダメンタル分析に対してテクニカル分析というものがあります.これはその株の過去の株価推移を見て将来の株価を予測するものです.言うなれば経験則の集合のようなもので,なぜそうなるのかという理論的な裏付けは弱いです.学術的にはあまり信頼されていませんが,株式入門のような本ではよく取り上げられます.

 さて,後半は株以外の資産運用方法について説明しました.なぜなら,株は資産運用の手段の1つであるため,株を始める前に,株以外に自分に合った金融商品があるとわかればそちらを選べば良いのです.
 今回取り上げたのは以下の金融商品です.
・銀行預金,貯金
 皆さんにもっとも身近な金融商品ですね.リスクはほとんどない代わりに,現在の金利は非常に低いです.年に一度でも引き出し手数料を取られたら逆にお金は減りそうなぐらいです.
・投資信託
 投信やファンドとも呼ばれます.信託銀行,証券会社以外にも普通の銀行でも買うことができます.1万円程度から購入できるので,比較的敷居の低い商品です.これは,多くの投資家から集めたお金をプロのファンドマネージャーが運用し,その運用益を投資家に配分するというものです.ファンドによって,リスクの低さ重視,リスク高めで運用益重視など,特徴があります.個人で買うよりも多くの投資先に資金を分散できるので,株を個人で運用するよりはリスクは低いことが多いです.ただし,毎年手数料がかかるため,リターンもやや低めになります.
・債券(国債,地方債,社債)
 (国債を例に取ると)国からの借用証書のようなものです.国にお金を貸し,その利子を毎年払ってもらえます.お金を貸す期間は様々で3,5,10年あたりが多いでしょう.なかには50年というものもあります.最近は個人でも国債を買うことができます.10年物であれば10年は元本を返してもらえないという制約があるため,銀行の普通預金に比べれば金利は多少高めです.個人向け国債は身近な金融機関でも売ってます.
・金(gold)
 こちらは金融商品というより実物商品への投資ですが,金に投資する人もいます.金は価値が比較的安定しているため,どの国の貨幣も信頼できないときには特に人気が高まります.
・外貨預金,FX
 これらについては次回の為替の話の時に説明します.

 さて,ここまでの内容をまとめると,様々な金融商品がありますが,リスクとリターンが比例しています.ローリスクのものはローリターンだし,ハイリターンのものはハイリスクです.例外はありません.ローリスク・ハイリターンのものは存在しません.いえ,正確に言えば,存在はするでしょうが,我々の所にそんな上手い話が来ることはありません.なぜならそんな貴重な情報があれば,人に教えずに自分でお金を借りて投資するでしょうからね.つまり美味い話には気をつけよう,ということです.

2011年6月13日月曜日

開発経済学 第9回(6/10)

 今回は疾病・保健と貧困との関係についてマクロ,ミクロの両面から説明しました.特にHIV/AIDSとマラリアを中心に説明しました.

【授業の内容】
 HIV/AIDSについては知ってるような気になっているけれど,意外と知らないことが多いのではないでしょうか.まず,HIVについて説明しました.その感染方法,症状,世界中に蔓延した経緯などです.1980年代になって謎の怖ろしい病気として,先進国では大きな問題とされましたが,現在では日本という例外を除き,先進国のほとんどではHIVについての理解もすすみ,感染者数も減少しています.むしろ現在ではアフリカ,南アジアなど貧困国での感染者数の増大が大きな問題となっており,また中国やロシアでの感染者数も増えています.
 続いてAIDSですが,AIDSはHIVの感染後に発症します.HIVが原因であり,AIDSは結果です.混同しないようにしましょうね.また,AIDSという病気があるわけではなく,カリニ肺炎など,健康な人なら免疫機能のおかげで発症しないようないくつかの病気にかかるとAIDSが発症したとされます.

 HIV/AIDSが問題となっているのはなぜでしょう.まず第一に,健康な生活を営めないという問題があります.サハラ以南のアフリカ諸国のいくつかではHIVにより平均寿命が10年以上短くなっています.
 次に,健康を損なうため,貧困を招くという問題もあります.患者の多くは10代後半以上の労働者として働き盛りであるため,働き手の1人を失うことで,家計収入は減少します.また,AIDS患者が家族内にいることで,介護する人も必要になります.結果として,AIDS患者を抱えた家庭では収入が減る一方で医療費は増大し,食費,教育費が減少します.医療費については,かつて感染したら死を待つだけと思われていたHIV/AIDSですが,現在ではAIDSの発症を抑える抗レトロウィルス剤があり,年間300~400ドルのようです.しかし,1日約1ドルという我々からすれば安価なこの薬も,1日の所得が2ドル以下の人々の多いサブサハラでは,大きな負担になります.
 続いて,偏見による社会的孤立,母子感染,AIDS孤児など日本にいる我々にはなかなか想像しにくい問題があります.また,授業では言い忘れましたが,HIV/AIDSにより,家計が教育を通じて人的資本蓄積を行っても,それが収入を生まない可能性があるため,結果として国レベルでは教育水準が下がる可能性もありそうです.

 さて,HIV/AIDSはなぜアフリカで猛威を振るっているのでしょうか.かつては,「アフリカでは不特定多数との性的交渉が多いから」,「割礼を受ける男性が多いから」などの仮説がありましたが,前者はデータから仮定そのものが否定され(多いわけではない),後者は逆に「割礼を受けた男性の方がHIV感染率が低い」ということがわかりました.やはり一見非合理的に見えても,その地域で長期的に継続してきた風習・慣習にはなんらかの合理性があるのでしょうね.
 では,本題に戻ると,原因としていくつか考えられます.「教育水準の低さ,HIVについての基礎的知識が広まっていない」,「先進国とHIVのサブタイプが異なる」,「ジェンダー格差により女性が予防しにくい」,「売春」,「内戦」,「性に関する慣習」などについて説明しました.どれが決定的な原因なのかは判断しづらいところですが,それぞれそれなりの説得力があると思います.

 このような問題に対し,どのような対策が立てられているのでしょう.成功した例としてウガンダ,失敗した例として南アフリカを紹介しました.

 続いてマラリアについて説明しました.マラリアは我々にはなかなか縁のない病気ですが,世界的に見ると,世界人口の約半数がマラリアのリスク下で生活しています.マラリアはハマダラカにより媒介されるマラリア原虫による感染症です.つまり蚊に刺されるとうつる可能性のある病気です.日本人は蚊に刺されることに慣れてしまっているので,外国に行った場合は注意が必要です.
 皆さんには,自分がサブサハラのある国の大統領であるとして,マラリア対策を考えてもらいました.様々な意見がありましたが,蚊帳を配布するというものが多かったですね.しかし援助は一時的には効果を発揮するかも知れませんが,その弊害があることも今後学んでいきます.
 
 その他にも下痢,肺炎,眠り病などを紹介しました.我々にはなじみがない病気が多いために,新しい発見も多かったのではないでしょうか.いずれも,私たちからみて,ほんのわずかなお金で,これらの病気で死ぬことを防ぐことがわかったと思います.

【第2回レポート】
提出期限:6月23日20:00
文量:3ページ+α(表紙,図表や資料,参考文献を除く)
テーマ:次のうちから1つ選択.
・マイクロファイナンスは貧困を削減しているか?
・(2部門モデルで考えると)中国の成長速度はいつ鈍化するか?
・途上国は人口政策を採るべきか?
・内戦はなぜ起こるのか?
制約:次の2つを満たすこと.
・グラフか表を1つ以上掲載する.
・理論(アイデア)と具体例のどちらも示す.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第9回(6/10)

 今回は労働市場についてと,生産者理論の基礎を説明しました.

【授業の内容】
 まず,労働市場における労働供給について説明しました.これまで財の消費の分析のために用いていた道具(無差別曲線と予算線)を用いて,賃金率が変化したときの労働供給の変化について分析しました.
前提条件
①人々は余暇(L)と所得(I)により効用(U)を得る.
②人々は自分が持っている時間を余暇と労働(l)に割り振る.ここでは1日の労働を考えるため,所有時間は24(h)とする.
③所得は労働時間に賃金率(w)をかけ合わせたものになる.
①を数式で表せば,U=U(L,I)
②を数式で表せば,l=24-L
③を数式で表せば,I=w×l
とそれぞれなります.この他にも余暇や所得が増えると効用が増えるが,その増加率は逓減するなどいくつかの細かい前提条件がありますが省略.

 このような場合,賃金率が変化すると労働時間はどう変化するのでしょう.バイトの時給が上がると労働時間は増えますか?一見増えるように思えますが,どんどん時給を上げていけば余暇を0にするまで労働時間は増えていくのでしょうか.そんなことはありませんよね.ある程度まで時給が上がれば所得は十分多くなるので,余暇の方が重要になってくることでしょう.これもスルツキー分解で考えれば,なぜバイト代が増えると労働時間も増えると単純に言い切れないのかがわかります.皆さん,テキストを参考にスルツキー分解で考えてみましょう.

 後半は次回からしばらくのテーマとなる生産者理論です.今回は生産者(企業)の目的,利潤と収入・費用の関係,そして企業の生産活動のイメージを伝えました.
 まず企業の目的ですが,単純に利潤の最大化です.実際の企業も(短期的にはともかく長期的には)利潤を出せなければ潰れてしまいますもんね.では利潤とはどのように定義されるのでしょう.その説明のために,まず記号を確認しておきましょう.
P:価格
x:量(ここでは生産量)
π(パイ):利潤
R:収入
TC:総費用
VC:可変費用
FC:固定費用

 さて利潤ですが,次のように収入から総費用を引いたものとして定義されます.
π=R-TC
 この収入(R)は,
R=P×x
 で表されます.いくらで何個が売れたか,つまり価格と量をかけたものが収入です.今は基礎なので,税などは無視します.また総費用は,
TC=VC+FC
 で表されます.ここは説明が必要ですね.可変費用(VC)とは生産量が増加することにより増えていく費用のことです.具体的には材料費などが適当ですね.一方,固定費用(FC)は生産量に関係なくかかる費用のことで,埋没費用(サンクコスト)とも呼ばれます.テナント代など,起業のための初期投資はこれに当てはまりますね.

 最後に,これから分析する企業のイメージを持ってもらいました.まずは,個人経営のパン屋さんを想定してみました.職人さん1人で起業し,パン焼きはもちろん,接客や経理もやっています.1人でもなんとかこなすことはできますが,レジを任せられるバイトがいれば,もっとパンの生産量を増やせるはずです.とはいえ,パンを焼くオーブンは1台しかないので,バイトが入ったからといって生産量は2倍までは増えません.ここからバイトを1人,また1人と増やすとどうなるでしょう.もちろん人手が増えれば生産量は増えるでしょうが,重要なのはその増加量です.おそらくバイトを雇えば雇うほど,その人が生産増加に貢献できる量は減っていくのでしょうね.これを労働の限界生産力逓減と呼びます.
 次回は大規模な工場を想像してみましょう.

【今回出てきた重要語句】
利潤,収入,総費用,可変費用,固定費用(上で説明したため,説明は省略)

2011年6月12日日曜日

経済学A 第8回(6/7)

 今回と次回は株式を含めた資産運用の基礎について説明します.とはいえ,今回は僕が説明した内容がどのように株とつながるのかわかりにくかったかもしれませんね.

【授業の内容】
 まず,今のお金と未来のお金の関係を考えました.時間がずれるとお金をどのように評価して良いのかわからなくなりそうですね.しかし,利子率で考えてみるとはっきりわかるようになります.
 今現在の100万円は銀行などに預けておけば未来(例えば1年後)には増えますね.それを105万円であるとすれば,現在の100万円と1年後の105万円が同じ価値ということになりますね.現在の100万円が未来になるに従って増えていくというのはみんなイメージしやすいでしょう.でもその逆はなかなか考えた機会はないでしょうね.現在の100万円と1年後の105万円が同じ価値なら,1年後の105万円の現在の価値は100万円ということになりますね.つまり未来のお金を現在の価値に直す場合は,少し減ってしまうのです.これを割引現在価値と呼びます.
 利子をつける,そして割り引く,それぞれの計算をしてみましたね.

 続いて,期待値の説明をしました.期待値は未来の平均値と考えるとよいでしょうね.確率的にどれぐらいの結果になるのかを計算したものです.計算方法は,結果とそれが起こる確率をかけ合わせたものを,すべての結果について足しあわせたものです.例としてサイコロを1回振った時に出る目の期待値は,1×(1/6)+2×(1/6)+…+6×(1/6)=7/2=3.5となります.
 さらにリスクの説明をしました.リスクとは,皆さんがイメージする「危険」とはあまり関係ありません.正確には結果のばらつきの大きさのことです.統計学の言葉で言えば「分散」あるいは「標準偏差」の大きさのことです.
 この期待値とリスクは次回の内容に大きく関わってきます.

 最後にリスクへの対処を説明しました.
 リスクへの対処の王道は「卵は分けて持て」.つまり資産を分散させることです.皆さんがすべての資産をある1種類の株に投資すると,その企業に不祥事やトラブルが発生して倒産の危機が訪れたら,皆さんは無一文になってしまうかもしれません.そのため,その企業の株価が下落したら,逆に株価が上昇する企業の株も持つべきでしょう.これをリスクヘッジと呼びます.

 次回はアンケートも取るので,きちんと出席しましょうね.

2011年6月4日土曜日

開発経済学 第8回(6/3)

 今回は農業でした.

【授業の内容】
 まず,前回の課題であった「先進国と途上国の農業の違い」を話しあってもらい,発表してもらいました.それらをまとめたものを紹介しましたが,皆さんの意見の集合に僕が新たに付け加えるものはあまりありません.よく考えられていたと思います.

 続いてマルサスの罠の復習をしました.今回の中心となる話は,急増する人口を賄うだけの農業生産が実現できるかという話です.マルサスの予言によれば,人々はそのうち食糧危機に陥ることになりそうですが….ただしこの懸念は最近になってでてきたものではありません.50年前にも食糧危機が発生するのではと考えられていました.しかし,「緑の革命」のおかげで地球全体が飢餓に苦しむという事態にはなりませんでした.

 さて,なぜ開発経済学にとって農業が重要であるかなのですが,まず途上国の人口の大半は農家であることがあります.また貧困に苦しむ人の多くは農家です.つまり途上国の貧困を減らすことは,農家の貧困を減らすことでもあります.さて,農業はほかの産業と比べどんな特徴があるのでしょう.ここでは次の特徴を紹介しました.
・気象リスクの存在
・季節性(季節的失業)
・生産資源の移動が不可能
・土地が有限
です.特にリスクが大きい点は注意すべきですね.

 続いて,農業をマクロ・ミクロの視点から考察しました.マクロ的にはヌルクセ,プレビッシュ,シンガーらの農業ペシミズム論,プレビッシュ=シンガー命題などを紹介しました.ミクロ的視点からは,労働の限界生産力が逓減すること,そのため,貧困から抜け出すためには出生数の減少,都市への人口流出,農業の生産性向上などがあります.

 農業の生産性はこの数十年で大きく向上しました.それは緑の革命と呼ばれています.
 緑の革命とは,高収量品種の開発,灌漑設備と化学肥料の普及による農業生産性の飛躍的向上のことを指します.これに関連してネリカ米,灌漑設備の種類などを紹介しました.授業では紹介し忘れましたが,品種改良により「奇跡の小麦」と呼ばれる小麦を生み出したノーマン・ボーローグはこの貢献で数億人の命を救ったと言われています.後にボーローグはノーベル平和賞も受賞しました.彼の伝記は図書館にも(たぶん)あります.

 さて,最後に「自国の農家保護と途上国の貧困削減の両立」を実現できる政策を考えてもらいました.結構時間をとりました.各チームに具体的な政策を発表してもらいましたが,なかなか面白い案もでましたね.

 次週は疾病についてです.

【レポート再提出】
 第1回の評価がB以下だった人が再提出することができます.Eの人は強制です.提出期限は6月9日(木)20:00です.提出方法は前回と同じくメールで添付です.

2011年6月3日金曜日

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第8回(6/3)

 今回もスルツキー分解です.ただし,前回の内容をグラフで表現しました.まあ,なかなか難しいとこですね.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,ある財の価格が変化した時に,その財とそれ以外の財の消費量の変化を,相対価格の変化による効果と,実質所得の変化による効果に分解するものです.前者を代替効果,後者を所得効果と呼びます.代替効果は所得効果を差し引いた相対価格の変化による影響だけを示すもので,所得効果は代替効果を差し引いた実質所得の変化による影響だけを示すものです.

 グラフ上では,代替効果は元々の最適な消費点(効用最大化となる消費点)を通る無差別曲線上で,元々の消費点(点A)から,価格が変化した後の相対価格を示す補助線と無差別曲線が接する点(点B)への移動として表されます.
 一方,所得効果は点Bから,価格が変化した後の予算線と無差別曲線が接する点(点C)への移動として表されます.
 最終的な消費点は点Cです.つまり価格が変化すると消費点は,点Aから点Cへと変化するのですが,その内訳を相対価格の変化によるもの(点A→点B)と,実質所得の変化によるもの(点B→点C)へと分解しました.
 なかなか文章で説明するのは難しいですねえ.言葉でも難しいですけどね.今回はかなりゆっくり説明しましたが,わからないという人も当然いると思います.後は個別に僕の所に質問に来てください.個人的に説明したほうがわかりやすいと思います.

 最後に異時点間の消費についてのスルツキー分解も説明しました.こちらも中身は同じです.分かりにくいという人はテキストで復習しておきましょう.

【課題】
 前回に配布した練習問題を次回提出してもらいます.

2011年5月31日火曜日

経済学A 第7回(5/31)

今回のテーマは年金です.皆さんの人生で避けて通れない話題なので,きちんと理解しておきましょう.

【授業の内容】
 まず言っておきますが,この授業の目的は年金の具体的な話ではありません.「どんな年金に加入するのか?」,「いくら払うのか?」,「いつからもらえるか?」,「どれぐらいもらえるか?」という話は,社会に出ると知る機会はいくらでもあります.
 この授業ではむしろ大枠を理解してもらうことを目的としています.つまり「社会保障とは何か?」,「年金とはどのような制度なのか?」,「賦課方式と積立方式はどのように違うのか?」を理解することです.もちろん,20歳になると強制的に加入するシステムなので,直近の話として「在学中はどうするべきか?」については具体的に説明しましたね.

 まず社会保障とは何かですが,大雑把に言うと,困っている人を社会全体で助けるシステムと思って良いでしょう.年金もかつては存在しませんでした(全国民が年金に加入することになったのは1961年のことです).「それまでは老人は生きていけなかったのか?」というと,もちろんそんなことはなく,家族あるいは所属する共同体が老人を養っていました.しかし,近代になり核家族化が進み,一人暮らしの老人も増えてきました.そのため,年金などの公的な社会保障システムにより経済的・社会的弱者を救済する必要が出てきたのです.
 社会保障のやり方は2種類あります.保険的方法と扶助的方法です.年金は前者です.というのも,我々は「年金」と呼んでいますが,正確には「国民年金保険」と言います.この他,保険的方法による社会保障の例としては,健康保険,介護保険,失業保険などがあります.いずれも,保険料を支払った人だけが利用できます.つまり受益者負担なのです.一方の扶助的方法の例としては,児童福祉,生活保護,災害援助などがあります.こちらは保険料を支払う必要はなく,(救済すべき人であると認定されれば)誰もが利用できます.年金も社会保障の1つであると考えれば,扶助的方法,つまり保険料収入に頼らず,すべて税金から賄うべきであると考えることもできます.実際,消費税率を上げて社会保障のための目的税にすべきだという意見は以前からあります.

 このように年金保険とは,保険料(+国庫負担)として集めたお金を,高齢者に年金として給付する仕組みになっています.ただ,この保険料の徴収と給付のやり方は,2つのパターンに分けられます.1つは積立方式,もう1つは賦課方式です.
 積立方式とは,積立貯金のように,各自が保険料を将来の自分のために積み立て,老後に給付を受けるというものです.一方の賦課方式は,現役世代が払った保険料をその時代の高齢者にそのまま給付するというものです.
 前者は少子高齢化の影響を受けませんが,デメリットとしてインフレに弱いという特徴があります.わずかなインフレも年金のように,納付から給付まで長期に渡る場合では大きな影響を受けます.そのため積立方式はあまり年金向けとは言えません.また積立方式なら,政府に頼らずとも民間の金融機関で同じサービスを受けることができるので,わざわざ政府がやる必要性は少ないでしょう.
 後者の賦課方式は,インフレの影響を受けませんが,デメリットとして少子高齢化に弱いという特徴があります.そのため,現在の日本のように急速な少子高齢化が進む状況では,現役世代の負担を大きく,もしくは給付を少なくせざるをえません.

 後半は少しですが,具体的な話もしました.まず,年金は2階建てになっていることから説明しました.1階部分には誰もが加入しなければならない国民基礎年金部分があり,その上に,職業によって異なる2階部分の年金(厚生年金,共済年金,国民年金基金など)があります.
 1階部分は全国民が共通した条件ですが,2階部分は収入などにより保険料および受け取ることができる年金額も様々です.まぁこの辺りは就職してからしっかり聞いてください.

 最後に世代間不公平の話もしました,またその背景には,政治家にとって若者よりも高齢者向けの政策をしたほうが合理的であることも説明しました.高齢者に嫌われてでも若者向けの政策(あるいは世代間で公平な政策)を選ぶインセンティブが政治家にはありません.なぜなら若い人は人数としても比較的少ない上に,選挙にもあまり行かないからです.

 このように年金の仕組みを理解した上で,年金に入るべきかどうかを考えてみましょう.まだ判断できない,という人も,とりあえずは20歳になったら学生納付特例制度を使って,払う意思があることを示しておきましょう.実際に払うかどうかは,就職してからでも考えましょうね.

2011年5月29日日曜日

開発経済学 第7回(5/27)

 今回は人口の話でした.教室を変更してマイクが使えなくなったので僕はしんどいですが,グループディスカッションはしやすくなりましたね.来週以降もこちらでやりましょう.

【授業の内容】
 まず,みなさんに「なぜ途上国では出生率が高いのか?」を考えてもらいました.8チームそれぞれ様々な意見を出してくれましたね.

 続いて,課題で調べてきてもらった「マルサスの罠」と,マルサスの考えた人口増加についての理論を説明しました.マルサスの罠とは,食糧生産は算術級数的にしか増加しないが,人口は幾何級数的に増加するので,どんどん貧しくなるというものです.農業は収穫逓減産業であるため,農地が一定なら,子どもの数が増えれば,1人あたりの収穫量はどんどん減少してしまいます.

 長期と超長期における人口推移を見てみました.50年という長期でみても,人口はおよそ倍にまで増えています.しかし,過去数千年という時間軸で見てみると,人口はこのわずか数世紀の間に,まさに爆発的に増加していることがわかります.ここ数十年の人口増加については,前回学んだように緑の革命による食糧増加が実現できたので,飢餓に苦しむ割合は少なくなってきました.しかしこれからはどうなのでしょう?緑の革命がもう一度起きて,人口増加を上回るように食糧生産が増加するのでしょうか…?それとも人類は食糧をめぐって争いを始めるのでしょうか?
 そもそも人口爆発はなぜ起きたのか,講義では人口転換というものを紹介しました.人類誕生からつい最近まで,子どもがたくさん生まれるけれど,幼い内にたくさん亡くなってしまうという,高出生・高死亡の状況が続いてきましたが,16Cあたりから,食糧生産の増加に従って,国によっては高死亡から低死亡へと変わってきました.それにもかかわらず高出生であれば人口爆発が起きます.たくさん産まれた子供の多くが成人になり,次世代の親となりたくさん子どもを産むからです.途上国の中には,このような高出生・低死亡の状況にある国もありますが,現在の先進国の多くは,低出生・低死亡という新たなフェイズに入っています.日本,韓国,イタリアなどがその典型ですが,もはや超低出生というべき状況ですね.

 さて,出生率はどうやって決まるのでしょう.どんな場合に女性はたくさん子供を産み,どんな場合にはあまり産まないのでしょう.人口学の祖であるマルサスは2つの原理を唱えました.1つは増殖原理で,人間は大きな妨げがない限り子供を増やすものだ,と考えています.もう1つは規制原理,人口規模は生存資料(食糧など)によって制限されるというものです.つまり特に妨げさえなければ人間はどんどん増え続けると考えたのでした.しかし現実には,食糧に苦しむ貧困国で人口成長率が高い反面,食糧にあまり困らない先進国では出生率は低くなっています.マルサスはこのような未来を想像していなかったかもしれません.
 なぜ先進国では出生率が低いのか,説明する仮説をいくつか紹介しました.まずライベンシュタインの費用―便益仮説,つづいてベッカーの質・量モデルです.

 人口増加にはメリットがないわけではありませんが(クズネッツの才能原則,ボズラップの人口圧力),途上国にとってはデメリットの方が大きいと考えられがちです.そのため,中国は一人っ子政策という,究極の政策を実現しました.日本やアメリカと言った民主主義国ではとても実現できない政策ですね.中央集権的でトップダウンな中国ならではでしょう.一人っ子政策は人口増加を食い止めるという意味では大きな役割を果たしているのでしょうが,子供を何人産むかという完全にプライベートな決定に政府が介入することの弊害も大きいです.短期的には,「失われた女性」の問題があり,長期的には急速な高齢化により社会保障制度が揺らぐという問題があります.どちらも非常に深刻な問題である一方,一人っ子政策を採らなかった場合の中国は,今のような経済成長を達成できていなかったかもしれません.皆さんには,「自分が1979年時点で中国の全人代代表であるとすれば一人っ子政策を採るか?」ということをかなり時間を割いて話し合ってもらいました.

 さて,途上国ではどうして子供が多いのかについて,かつては貧しい人々は非計画的に子どもをつくるからという偏見もありましたが,現在は様々な研究から,子供の数を増やすことが合理的な選択であることがわかってきました.そのため政府には,強制的に子供の数を制限する政策ではなく,人々が子供の数を増やしすぎないようなインセンティブを高める政策が望ましいと考えられます.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第7回(5/27)

 今回はスルツキー分解です.

【授業の内容】
 スルツキー分解とは,ある財の価格が変化した時に,その財とそれ以外の財の消費量の変化を,相対価格の変化による効果と,実質所得の変化による効果に分解するものです.なかなかわかりにくいですね.

 具体的な話をしましょう.皆さんは毎月,バイトで稼いだお金で,ラーメン(1食700円)とお弁当(1食500円)を食べているとします.さて,このラーメンですが,6月から値上がりすることがわかりました.バイト代はいつもと同じだとすると,ラーメンとお弁当の消費量はどのように変化するでしょうか?
 まず,値上げのせいでラーメンの消費を減らし,相対的に安く感じるようになったお弁当の消費を増やそうという気持ちがあるはずです.この相対価格の変化による消費の変化を代替効果と呼びます.これだけだとお弁当の消費は増えることになりますね.しかし必ずしも増えるとは言えませんよね.なぜなら,ラーメンとお弁当がどんなタイプの財なのかわからないからです.

 ここで上級財と下級財,そして下級財の一種であるギッフェン財のことを復習しておきましょう.上級財とは,所得が増えることで消費が増える財のことで,贅沢品と考えて良いでしょう.一方,下級財は,所得が増えることで消費が減る財のことです.廉価品(安物)をイメージすると良いでしょう.
 さて,世の中にあるほとんどすべての財は価格が上がると消費が下がります.値上がりすれば買わなくなりますよね.対して,ギッフェン財は,価格が上がるとなぜか消費が増える財です.
 ここではラーメン,お弁当,ともに上級財であるとしておきましょう.

 話を戻します.来月もバイト代は変わりませんが,ラーメンが値上がりすることによって,皆さんの生活は厳しくなります.好きなラーメンをあまり食べられなくなるためです.また以前と同じようにラーメンを食べようとするとお弁当を以前ほど食べられなくなりますね.つまり,ラーメンの値上げによって,皆さんの実質的な所得は下がっているのです.
 この実質所得の減少により,上級財であるラーメン,お弁当をあまり買えなくなります.どちらの消費も下げなければ,という気持ちになるはずです.この気持ちを所得効果と呼びます.

 最終的な消費は,この代替効果と所得効果を合計したものになります.確認すると,ラーメンの消費は代替効果で下がり,所得効果でも下がるので,最終的に(実際の消費量は)下がることになります.一方,お弁当の消費は代替効果では上がりますが,所得効果ではラーメン同様に下がるので,実際の消費量はどうなるかわかりません.

 来週はこの話を予算線と無差別曲線を用いて再度説明します.こっちが理解しにくい(説明しにくい)んですよね.皆さんはしっかりテキストで復習してきてくださいね.

【今回出てきた重要語句】
スルツキー分解:価格の変化による消費の変化を,代替効果と所得効果に分解すること.

経済学A 第6回(5/24)

今回はガラリと雰囲気が変わってゲーム理論です.前回のアンケートでもっとも皆さんからの要望が多かったテーマです.もっと後でやろうかと思っていたのですが,最近真面目な話が続いていたし,一番人気だからどうせやるだろうから今回やりました.

【授業の内容】
 ゲーム理論は近年,経済学のみならず様々な分野で採りあげられているので,知っておいても良いかと思います.
 さて,このゲーム理論ですが,我々が普段イメージするゲームそのものではありません.ゲーム理論で分析対象となるゲームとは次の特徴を持ったものです.
・複数のプレイヤーが存在する
・あるプレイヤーの行動が他のプレイヤーの利得に影響を与える
 この2つの条件を満たせばすべてが分析の対象となります.この定義ではジャンケンもゲームですね.

 ゲーム理論では,利得というものが出てきます.利得とは,各プレイヤーがそれを最大化しようとする目的です.各プレイヤーが自分の利得を最大化することだけを考えます.そのため,他のプレイヤーの利得が大きいか,小さいか,自分と比べてどうか,ということは無視します.あくまで「どうすれば自分の利得を最大化できるか?」だけを考えます.他のプレイヤーの利得は無視してください.相手よりどうすれば利得を高くできるか,という勝ち負けではないのです.

 最初のゲームとして,有名な「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームを説明しました.共犯者との駆け引きにより,どうすれば自分の懲役が短くなるかを考えます.このゲームでは,「相手がどんな戦略(選択肢のこと)を選ぼうと,この戦略よりはこちらの戦略の方が良い(利得が多い)」という合理的な考え方を身につけました.合理的であれば幸せになれるかどうかは別として(まさに囚人のジレンマ),合理的なモノの考え方を身につけました.
 これを発展させて,支配される戦略の逐次消去という考え方を説明しました.こちらも,使い途のない駄目な戦略(支配される戦略)を消していくことで,自動的に採るべき戦略がわかってきます.ただし,この解法はそんなに力強いものではありません.あるゲームでは通用しますが,通用しないゲームもあります.そのため,どんなゲームに対しても力を発揮する解法が必要となります.

 そこで出てきたのがナッシュ均衡です.ナッシュ均衡は,あるプレイヤー(A)の戦略が他のプレイヤー(B)の戦略に対する最適反応であり,Bの戦略がAの戦略に対する最適反応になっているというものです.このような状態は,まさに均衡,つまり相手の裏をかくことができません.
 と,なかなか抽象的でややこしいですが,実際に問題を解こうと思うと簡単です.相手の戦略に対する最適反応にチェックをつけていくだけですからね.
 このナッシュ均衡の考え方を用いて,利得表を用いないホテリングゲームも解いてみました.これが回転寿司の出店のなぞに対する回答でした.もちろんホテリングゲームは物事をかなりしていますが,それでもそのエッセンスは現実の謎に対しても十分応用可能だと思います.

 最後に逐次手番ゲーム(展開型ゲーム)を説明しました.ジャンケンのような同時手番ゲームではなく,ババ抜きや大富豪のように時間の流れがあるゲームです.
 このような逐次手番ゲームでは,後ろ向き帰納法という考え方が役立ちました.後ろ向き帰納法とは,一番最後に行動する(戦略を決める)プレイヤーの行動から確定していき,徐々に時間をさかのぼって,行動を確定していきます.

 このようなゲーム理論を現実にすぐに応用することはできないかもしれませんが,この新たな考え方を覚えておくことは,皆さんの思考に幅を持たせてくれるのではないかと思います.ゲーム理論に興味がある人は次の本が参考になります(図書館にもありますよ).
渡辺隆裕『図解雑学ゲーム理論』ナツメ社←わかりやすい
神戸伸輔『入門ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社←ちょっとレベルは高いかも?

2011年5月28日土曜日

開発経済学 第6回(5/20)

今回は工業化と貿易,特に輸入代替工業化政策と輸出指向工業化政策の違いについて説明しました.

【授業の内容】
 意識しなければなかなか気づきませんが,近年,各国はFTA呼ばれる自由貿易協定を競うように結んでいます.なぜ自由な貿易を目指すのでしょう?ミクロ経済学ベイシックではリカードの比較生産費説を学びましたが,どうやら理由はそれだけではないようです.

 第二次世界大戦後,独立したてのアジア諸国の多くはモノカルチャー経済というスタート地点から経済成長を目指しました.かつてはモノカルチャー経済から経済成長を進め,先進国へと仲間入りした国々もありましたが(アメリカやカナダなど),その当時と異なり合成品・代替品の発明により必ずしも特産品が国際市場で高く取引されるとは言えません.また先進国の保護貿易主義もあり,モノカルチャー経済を押し進めての経済成長は困難でした.
 いくつかの国々は保護貿易主義的な工業化である輸入代替工業化政策を採ることで,経済成長を目指しましたが,輸入代替工業化政策には思わぬデメリットがありました.保護貿易を採ることにより幼稚産業の育成を目指したのですが,為替を自国通貨高に誘導したことで輸出条件は悪化したため,国内で生産した財の販売先が国内市場に限定されます.ある程度の中流階層がおり,購買力のある国ならそれでも良いのかもしれませんが(現在の日本の携帯電話のように),当時のアジア諸国は貧しく,さらに貧富の差もあったため,国内市場だけを相手にして生産していたのではスケールメリットが生まれません.また輸入品をシャットアウトしていたため,海外の優れた財との競争も生まれませんでした.そのため,なかなか輸入代替工業化は進みませんでした.
 一方,シンガポール,韓国,台湾,香港などは,自由な貿易による輸出指向工業化政策を採りました.これらの国々が高い経済成長を成し遂げたことにより,その他の国々も多くは1980年代には輸出指向工業化政策へと転換しました.
 輸出指向工業化政策はどこが良かったのでしょうか?輸入代替とは逆に競争が促進されたことに加え,技術伝播による学習効果もあったと考えられます.
 技術移転に関連しては,ヴァーノンのプロダクト・ライフ・サイクル論も紹介しました.これは様々な財で実現していますね.日本もかつては繊維産業が隆盛を極めましたが,日本の前はイギリスでした.しかしイギリスが豊かになり労働者の賃金が高くなると,より賃金の低い日本へと生産の中心が移ってしまいました.しかし,日本も経済成長するに従って,安い賃金を売りにできなくなりました.より賃金の安い国(中国など)へと仕事を奪われました.そして中国の労働者の賃金が高くなると,さらに賃金の安い周辺国へと移っていくのは必然とも言えます.ちょうど前回の二重経済の所で,中国の余剰労働が枯渇してきて賃金が上昇してきた,という話と関係がありますね。

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第6回(5/20)

 今回は弾力性の説明が中心です.

【授業の内容】
 前回需要曲線の導出までやりました.この需要曲線の形状(傾き)にも意味があります.需要曲線が急である場合,価格が変化してもあまり需要が変化せず,逆に緩やかな場合,価格が変化すると需要は大きく変化します.
 皆さんの普段の生活でも,「価格が安くなればたくさん買うんだけどな」という財と,「安くなったけどそんなにたくさんいらないな」という財があると思います.前者のように価格の変化に対して敏感に需要が変化することを需要の価格弾力性が高い,後者のように価格の変化に対して需要が鈍感なことを需要の価格弾力性が低い,と言います.需要の価格弾力性は計算によって求めることができます.計算式はここでは書きにくいので省略しますが,その中身は,価格が1%変化したら需要は何%変化するかを示しています.弾力性が1より大きい場合は需要の価格弾力性が高いと言い,この場合は値下げをすることで企業は収入を増やすことができます.逆に1より小さい場合は弾力性が低いと言い,値上げすることで収入を増やすことができます(値上げしても買ってくれるので).

 さて,この弾力性の考えを応用すると,なぜ学割が存在するのかがわかってきます.弾力性の異なるグループを区別できれば,それぞれに異なる価格を設定することで,合計の収入を増やすことができるからです.その他の例として,ディズニーワールドの近隣住民割引などを説明しました.ホットペッパーなどで手に入る飲食店の割引券や,本のハードカバーと文庫の違いもそうですね.割引券を導入することで「こまめに切り抜いて使う価格に敏感な層」と「面倒だから使わない価格に鈍感な層」のそれぞれに事実上異なる価格を設定することに成功しています.この他にどんな例があるか考えてみてください.

 全く話は変わりますが,代替財と補完財の説明もしました.代替財は以前に説明したのですが,2財(AとB)を考えたとき,A財がB財の代わりになりうる場合,この組み合わせを代替財と呼びます.このような組み合わせの場合,無差別曲線は直線になります.
 一方,補完財とはA財とB財がそろって初めて効用を生み出すような組み合わせのことです.例えばブラックコーヒーが飲めない人にとってのコーヒーと砂糖がそうです.このような場合,無差別曲線はL字型になります.

【今回出てきた重要語句】
需要の価格弾力性:財の価格が1%変化したことで,その財の需要が何%変化するのかを示したもの.

経済学A 第5回(5/17)

 しばらく全然更新してませんでした.レポートの採点が忙しかったもので・・・.

【授業の内容】
 今回は名目値と実質値の違いです.まずはその前提となる物価について説明しました.

 「物価」とはよく聞く言葉ですが,厳密に言うと物価とは何でしょうか.物の価格が物価なのかもしれませんね.物の例として本を考えてみると,同じ本でも出版社が問屋に卸すときの値段,問屋が本屋に売るときの値段,そして私たちが本屋で買うときの値段と,同じ本に3つの異なる価格があります.物価の指標として最もよく使われる消費者物価指数(CPI)は最後の価格,つまり我々消費者が最終的に買うときの値段に注目しています.
 また,最近ガソリンが高いので物価は上がっていると言って良いのでしょうか.しかし薄型テレビは値下がりし続けていますね.我々が買う財(商品やサービス)はたくさん種類があるので,1つの財の価格だけを見ていてもわかりません.そのため,消費者物価指数では,平均的な家計が1ヶ月生活するのに必要な金額を計算することで,様々な財の価格を総合的に示しています.

 この物価ですが,横断面でも違いがあるし,時系列でも変化します.横断面とは,ある財の価格が,ある一時点に異なる地点でどのような違いがあるかをみたものです.時系列とは同じ財が同じ場所でどのように変化するのかをみるものです.授業では具体例をいくつか示しましたね.

 授業の後半は名目値と実質値の説明をしました.その例として所得,GDP,利子率などを取り上げました.
 所得については,皆さんがもらうバイト代,あるいは僕がもらう給与明細に書いてある金額は名目所得です.つまり名目所得とは世間一般でいう所得のことです.対して実質所得とは,名目所得から物価の変化を差し引いたものです.例えば,皆さんがもらうバイト代が一定なのに,そのバイト代で買う服が値下がりすれば実質的にはバイト代が増えたのと同じですね(より沢山の服が買えるようになったから).逆に値上がりすれば実質所得は下がることになります.
 GDPについては,以前にGDPの回に説明したものは正確には名目GDPです.ただし,名目GDPは必ずしもその国の生産力を示すものとは限りません.なぜなら生産力が同じでも物価が上がれば名目GDPは上がってしまうからです.そのため,物価が一定であるとしてGDPを計算したものが実質GDPです.
 最後の利子率ですが,利子率が3%なら預金の価値が1年間に3%上昇するとは限りません.なぜならその間に物価が上昇するかもしれないからです.例えば100万円が103万円に増えたとしても,その間に物価も3%増えれば預金の価値はまったく変化しません.物価がそれ以上に上がれば逆に預金の価値が下がることになってしまいます.そのため,銀行で提示される利子率(名目利子率)だけにとらわれるのではなく,それから物価の変化を差し引いた実質利子率に注意する必要があります.

 今回は最後にケータイを使ってアンケートをとりました.質問には今後の授業で答えていく予定です.

2011年5月15日日曜日

学生参加型授業についてのメモ その2:第2回

学生参加型授業についてのメモ その2:第2回

学生参加型授業についてのメモ その1の続きです.

 前回,「かなり厳しいレポートを課すので興味がなければ受講を取り消すように」ということを伝えた結果,当初登録していた学生の約2割が受講を取りやめ,残る約8割の42名が受講することになりました.
 今回は,前回の課題である小レポートを基に「貧困とは何か?」についての理解を深めました.

授業の概要
1.学生の意見の集約・グルーピング
2.レクチャー
3.グループ・ディスカッション①
4.レクチャー
5.グループ・ディスカッション②
6.レクチャー
7.グループ・ディスカッション③


1.学生の意見の集約・グルーピング
 まず,事前に学生が提出した課題の設問のうち,「貧困とは何か?」に記述されていた意見を,こちらでグルーピングしました.

 学生からの意見のうち,前回の授業で出た意見を黒字で,新たに出た意見を赤字で表しました.これにより,前回の内容を復習し,授業にスムースに集中することができたような気がします.

2.レクチャー
 「貧困とは何か?」について学生からは出なかった側面(ショックへの脆弱性)を指摘しました.ここでの結論として,「貧困は多面的なものである」ということを確認しました.

3.グループ・ディスカッション①「貧困を表す指標とは?」
 貧困が多面的なものであるということを踏まえた上で,「幅広い貧困をカバーできる指標を1つ選ぶなら何にするべきか?」について配布したプリントに記述させ,それを基に周りの学生と意見を集約させるように,そして約5分後にグループの意見を発表するように指示しました.ディスカッションに参加する学生としない学生に別れないよう,「前回発表していない人が発表してください」と伝えました.様々な意見を期待していたのではなく「結局,所得で測定することになるよね」という確認をしたかっただけなのであっさり終えました.実際,すべてのグループが所得やGDPなどを答えました.ここへの伏線として,第1回で「貧困状態にあるかどうかを所得で判断して良いか?」という質問をしておくと面白かったかも.

4.レクチャー
 GDPや所得を貧困の指標とすることが良いのか,ミュシャンのピストロジーの紹介や,実際に測定する時の問題点などを説明しました.さらに,貧困についての新たな視点として,センの潜在能力アプローチを紹介しました.

5.グループ・ディスカッション②「機能を示す指標とは?」
 ここで潜在能力アプローチにおける様々な「機能」を示す指標にはどのようなものがあるのか,話しあってもらいました.今回のディスカッションはすべてそれほど時間がかかるものではありません.10分弱話しあって,各グループに発表してもらいました.そこで発表された指標と,センが実際に挙げた機能のリストを比較しました.

6.グループ・ディスカッション③「どこからが貧困なのか?」
 便宜的に貧困を測る指標を所得とした上で,どこからが貧困なのかについて話し合ってもらいました.今度も10分程度は時間を掛けたかったのですが時間が足りなくなってしまいそうだったので,ちょっと早めに切り上げてしまいました.学生からの意見をまとめると,
・生活に必要最低限の金額
・他者との比較
に集約できました.

7.レクチャー
 こちらが期待した通りの意見が学生から出たので,Basic Human Needsや,絶対的貧困と相対的貧困の話にスムースにつなげることができました.
 最後に人間開発指数などの様々な指標を紹介して終りました.今回も課題として小レポートを提出するよう指示しました.

今回の結果
 「学生の満足度」と「議論の深さ」については,ほとんどの学生が積極的に議論に参加していましたが,グループ・ディスカッションが3つ,しかもそれぞれの時間が短かったため,学生にとっては不完全燃焼だったかもしれません.議論の深さについても,時間が長ければもっと良い議論になったはずです.
 反省点としては,昨年度と授業形式が違うにも関わらず講義内容をほぼ同じにしてしまったため,必然的に議論にかける時間が短くなってしまった点です.もっと思い切って講義内容を減らすべきでした.

2011年5月14日土曜日

開発経済学 第5回(5/13)

 最近は理論の話ばかりしてたので,今回はマイクロ・ファイナンスの話をしました.

【授業の内容】
 2006年にグラミン銀行とムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したので,今となっては割と有名となったマイクロ・ファイナンスの話です.

 前回の小レポートで「貧困がなくならない原因は何か?」という問いをだしたところ,何人かの人は貧困の悪循環について記述していました.今回のマイクロ・ファイナンスは貧困の悪循環を打破するための小さなお金を貧しい人に貸す仕組みです.岡本他(1999)によれば,マイクロ・ファイナンスは「貧困層や低所得層を対象とする小規模な金融」と定義されています.
 マイクロ・ファイナンスを行う機関はたくさんありますが,今回はその中でも最も有名なグラミン銀行とその創設者ムハマド・ユヌス氏を取り上げました.ユヌス氏は母国バングラデシュに帰国し,母国に貧困にあえいでいる人が多いことに胸を痛め,どうすれば人々を豊かにできるか考え,近隣の村に住む人々を調査しました.その結果,人々が大金ではなく,ちょっとしたお金に困っているために豊かになれないでいる(貧困の悪循環に捕らわれている)ことを突き止めました.そのため,まずは僅かな自己資金を人々に貸し付けたところ,人々の生活は大きく変化しました.この試みは徐々に規模を拡大し,グラミン銀行の設立へとつながります.

 「貧しい人に小さなお金を貸す」.たったこれだけで人々の生活は目に見えて向上するのです.さて,ではなぜそれまでにこのような仕組みは存在しなかったのでしょうか?まずは皆さんにこの問題を考えてもらいました.前回同様,学籍番号でグループを作り,グループ毎に意見を集約してもらいました.
 すべてのグループに共通する回答は「きちんと返済すると思えないから」というものでしたね.まさにこの常識(?)こそがマイクロ・ファイナンスがなかなか生まれなかった理由でしょうね.しかし,この常識は誤解でした.きちんと返すインセンティブを意識させることで,返済率は高くなりました.

 グラミン銀行の成功した理由は他にもあり,単なる金貸しではなく,人々にお金を稼ぐ手段を教え,生活そのものを改善しようとしたことも理由の1つです.その例としてグラミンフォンや,ユニクロ=グラミンを紹介しました.

 さて,ここでマイクロ・ファイナンスの問題点を考えてもらいました.皆さんからは,(16の決意のために)稼いだお金が消費や教育に消えてしまって貯蓄に回らない,金利が高いのでなかなか元本を返済できずグラミン銀行に依存してしまう,連帯保証制度,国民所得が上がることによるインフレ,マイクロ・ファイナンスの普及により貧困層が減少するので(借り手が減るため)ビジネスとしての将来性がない,など非常に興味深い意見がありました.

 最後に皆さんにもできるマイクロ・ファイナンスとして,KIVAを紹介しました.いつの間にか日本語のページもできていたので,ますます身近になっています.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第5回(5/13)

 今回も消費者理論の続きです.

【授業の内容】
 まず無差別曲線の復習からしました.また,無差別曲線の傾きを限界代替率と呼ぶことを説明しました.消費者理論において消費者の目的は効用を最大にすること,つまりより右上の無差別曲線上の点で消費することなのですが,実際には無限に大きい効用を得ることはできません.なぜなら様々な制約があるからです.
 皆さんが直面する様々な制約のうち,もっとも関心があるのは予算制約でしょう.欲しい物がたくさんあっても,お金がないから買えないことを予算制約と呼びます.さて,2財のケースで,この予算制約を図にしてみました.予算制約は直線で描かれ,これを予算線と呼びます.具体的な数値例を使って,予算線の傾きが相対価格を示しており,予算線のシフトが実質所得の変化を示していることを確認しました.
 続いて,予算制約下での効用最大化を図で確認しました.消費者は予算線と無差別曲線が接する点で消費をします.これは,消費者は相対価格が限界代替率と等しい点で消費すると言い換えることもできます.

 この予算線と無差別曲線を使って個別需要曲線を導き出しました.2財のうち1つの価格を様々に変化させると,その財の消費量がどのように変化するのかをプロットし,それを図示すると個別需要曲線が得られます.また,多くの人の個別需要曲線を足し合わせることで(経済全体の)需要曲線が得られます.
 次週はこの需要曲線の傾きが何を意味しているのかを確認します.というわけで,次回は弾力性について予習しておきましょう.

【今回出てきた重要語句】
限界代替率:無差別曲線の傾き.効用を一定に保つには,一方の財の消費を1単位減らしたことによる効用の減少を,他方の財の消費をどれだけ増やすことで埋め合わせるか,という割合.
予算線:予算をすべて使うことで消費できる財と財の組み合わせの集合.

総合政策演習D 第5回(5/11)

 今回もSPI2です.僕の担当は今回まで.次回からは南先生が言語問題を担当します.非言語問題の続きは,南先生の次の古家先生が担当します.

【授業の内容】
 今回は「代金の精算」,「料金の割引」,「分割払い」について解説しました.こういうお金に関係した計算は社会に出てからもよく使うでしょうから,きっちり理解しましょうね.

 さてパワポでは,「皆さんは情報感度が鈍いのでは?」という話をしました.まず,先日「マイクロソフトが85億ドルで買収すると発表した企業はどこか?」というクイズを出しました.ちょっとニュースに敏感な人であればskypeであるとわかりますね.また,「skypeってどんなことしている企業?」と尋ねました.skypeをまったく知らないという人は,自分がネットに疎いのではないかと心配してください.まぁ,結構多くの人がこのニュースを知っていましたね.
 今回紹介したサイトの1つがみんなの就職活動日記,通称「みん就」です.まともに就活している大学生は誰もが利用するサイトです.今から登録していても損はないでしょう.そこには,6月に開催されるインターンシップフォーラムの情報もありました.チェックしておきましょう.
 また,下記の本も紹介しました.
三田紀房・関達也「銀のアンカー」集英社
AERAムック「就活の新常識2011」朝日新聞出版
石渡嶺司・大沢仁「就活のバカヤロー」光文社
岩崎夏海「もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」ダイヤモンド社
福島文二郎「9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方」中経出版
カーマイン・ガロ「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」日経BP社

 学生と社会人の話が合わない原因の1つは共通の関心事が少ないからです.話が合うように社会人が読んでいる本も読みましょうね.

経済学A 第4回(5/10)

 前回に引き続き,経済学の歴史と同時にマクロ経済学について説明します.

【授業の内容】
 前回,世界大恐慌の際,古典派経済学が有効な打開策を提示できなかった,という所まで話しましたね.この時に古典派に代わって檜舞台に立ったのがケインズ派経済学です.ケインズ派経済学は古典派とは異なり,市場(の機能)を信頼していません.市場は完璧なものではなく,機能が上手く働かない場合(市場の失敗)がしばしばあると考えています.そのため,政府が積極的に市場に介入すべきだと考えています.さて,その介入の仕方を説明する前に,ケインズ経済学が需要と供給の関係をどのようにとらえていたかを確認しましょう.
 古典派はセイ法則を信じていました.つまり供給の大きさが需要を決めると考えていました.しかし,ケインズは逆に需要の大きさが供給の大きさを決めると唱えました.これは有効需要の原理と呼ばれます.この考えに立てば,供給(GDP)を大きくすること,つまり経済成長するためには需要を大きくしなければなりません.不況の場合は需要が小さすぎる(需要不足)のが原因だと考えます.ちなみに需要の内訳は,民間消費,民間投資,政府支出,純輸出(輸出-輸入)です.
 そのため,不景気に対する政府の介入方法は,民間に代わって政府がお金を使うこと,つまり政府支出をすることです.需要が足りないので政府がその不足分を支出します.これにより需要が増加し,有効需要の原理によりGDPが増加し,三面等価の原則により所得も同額だけ増加します.所得が増加すると,その何割かの量だけ民間消費が増加します.民間消費の増加は需要の増加を意味しているので,先程と同様にGDP,所得を増加させ,またも民間消費が増えることになります.このループを繰り返すことで,当初,政府が使ったお金以上にGDPが増えることになり,景気回復します.この流れは,政府支出の乗数効果と呼ばれます.
 実際に大恐慌の際にはアメリカでは民主党のルーズベルト大統領が中心となり,大規模な公共事業を始めとするニューディール政策を採りました.世界史?の授業で習ったのではないでしょうか.

 ケインズ派が主導する政府は国民の負担が大きい代わりに福祉も大きい大きな政府です.積極的に市場に介入するため,結果として慢性的に政府が赤字(財政赤字)となりがちです.1980年代には財政赤字の解消が大きな課題となったため,ケインズ派ではなく,市場の機能を重視する新古典派経済学が力を持つことになります.
 新"古典派"というだけあり,古典派と基本的な考え方は似ています.市場の機能,特に競争による成長を重視しています.そのため新古典派が採る政策は,民営化,規制緩和といった競争を促す政策が軸となります.福祉に関する考え方も,国民の負担が低い代わりに福祉水準が低い,いわゆる小さな政府となります.
 さて日本は小さな政府でしょうか大きな政府でしょうか.今後紹介する国民負担率で評価すると,日本は国際的には国民の負担が低い,小さな政府です.しかしその割には政府の使うお金(歳出)が大きいです.だから財政赤字が膨らんでいくのでしょうね.

2011年5月6日金曜日

開発経済学 第4回(5/6)

 今回は都市と農村でした.

【授業の内容】
 今回で4回目となり,皆さんのグループ・ディスカッションもややマンネリ化してきたかと思ったので,グループをこちらで決めました.普段と違うメンバーだと刺激もあるでしょうね.

 さて,まず日本の戦後から現在に至るまでの産業構造の変化を見てみました.戦後まもなくは第1次産業への従事者が最も多かったのですが,第2次産業,第3次産業への従事者が増加するのに対して第1次産業への従事者数・比率は一貫して減少し続けます.このように,経済発展の過程で,産業の中心が第1次産業から2次,3次へと推移していくことをペティ=クラークの法則と呼びます.
 また,産業の分類に関連して,労働集約的産業と資本集約的産業という分類についても紹介しておきました.

 ここで,高所得国,中所得国,低所得国をいくつかピックアップし,それらの実質GDP成長率の2005-2010年の平均値を紹介しました.高所得国になるに連れて成長率が低くなるように見えます.皆さんには,この原因を考えてもらいました.
 各グループの意見をまとめると次の3つになりました.
・人口の多い国は経済成長率が高いため(ここでは中国とインドのデータを紹介した).
・低所得国には成長の余地があるため.
・低所得国は援助を受けているため.
 さらに,「成長の余地とは何か?」と問いかけた所,新たに出てきたのは以下の意見です.
・教育:貧困国では十分な教育を受けていない子供が多いため
・空間:先進国ではすでに土地などが有効利用されているため
・分業:先進国では産業がすでに発展しており,国際的分業体制が出来上がっているため
・向上心:貧困国の人々はハングリー精神があるため
・模倣:貧困国には模倣すべきロールモデルが存在するため
 どれも説得力のある良い意見ですね.僕が予想しないものも出るのがグループ・ディスカッションの良いところですね.

 さて,今回は所得水準が高まるに従って成長率が下がる原因(「中所得国の罠」と言います)を,ルイスの2部門モデルにより説明しました.ルイスの2部門モデルは経済を伝統部門と近代部門に分けて考えます.議論のスタートは伝統部門に偽装失業が存在することからです.偽装失業とは開発経済学の用語で,途上国では一見して失業率が低いのですが,その内情を調べてみると,実際には仕事がないのに家業に従事する隠れた失業者が多いことがわかります.この余剰労働力を偽装失業と呼びます.
 この余剰労働力が存在するため,近代部門は安価に労働者を雇うことが可能です.近代部門は伝統部門からどんどん労働者を吸収して急激に成長します.しかしこの急成長は,余剰労働力の枯渇とともにストップします.余剰労働力が枯渇すると農村部で賃金が上がり,それは農作物価格を上昇させます.すると,都市の労働者にとって実質賃金が下がることになり,中には都市での生活ができなくなる人もでてきます.その人々は伝統部門へとUターンします.このように農村から都市への流入がストップすることで,経済成長率は低下します.
 この罠から抜け出すためには農業における技術革新が必要となりそうです.これに関連して,また後日,緑の革命について説明します.
 また,ハリス=トダロモデルについても説明しました.しかし時間がなかったのでかなり説明を省いてしまいました.気になる人は開発経済学の入門書を図書館で探してください.

 最後にレポートの書き方についてくわしく説明しました.まぁとにかく「レポート作成マニュアル」を一度は読んでくださいね.

ミクロ経済学ベイシックⅠ 第4回(5/6)

 今回は消費者理論です.

【授業の内容】
 前回(といっても2週間前ですが),少しだけ説明した消費者理論です.まず効用と限界効用の違いを復習しました.また,限界効用逓減の法則も説明しました.限界効用逓減の法則は,簡単に言うと,消費を続ければ飽きるということです.
 限界効用をより理解するために,極端な例として,最初の限界効用は高くても次から限界効用がほぼ0になる財(情報財など)や,消費するに連れて限界効用が増加する財(中毒性のあるもの)を紹介しました.

 この限界効用の図の縦軸,限界効用を金銭表示にすると,需要曲線になります.この需要曲線を用いて,消費者余剰の説明をしました.需要曲線と価格とのギャップが消費者余剰です.例えば,150円分の効用を持つジュースを100円で買うことができれば,50円分得した気持ちがありますね.これが消費者余剰です.

 さらに,この需要曲線を用いて,同一需要曲線上の移動と,需要曲線自体のシフトの違いを説明をしました.値下げしたので需要が増えたのは同一需要曲線上の移動ですが,価格が変化していないのに需要が増減するのは需要曲線自体がシフトしたことを示しています.

 上記の話はすべて1財のケースでしたが,次に2財のケースを説明をしました.
 まず,無差別曲線を説明をしました.無差別曲線とは,2つの財(AとBとします)について,効用の水準が同じになるようなA財とB財の組み合わせを集めたものです.通常は,右下がりで,原点に向かって凸の形になります.しかし例外が多いので要注意です.今回はその例外の1つとして,代替材と呼ばれる財と財の組み合わせや,一方が全く興味がない財の場合,一方の消費により負の効用を得る場合(消費すると嫌な思いをする財)の場合を見てみました.

 最後に無差別曲線を理解しているか小テストをしました.答えはA→B,C→D,Eの順です.

【今回出てきた重要語句】
効用:幸せのこと.
限界効用:消費が1単位変化したときの効用の変化のこと.効用曲線の傾き.
無差別曲線:効用水準が一定となるような財と財との組み合わせの集合.
 

2011年5月4日水曜日

学生参加型授業についてのメモ その1:第1回

「学生参加型授業についてのメモ その0:バックグラウンド」のつづきです.

授業の概要
1.授業の説明
2.レクチャー
3.グループ・ディスカッション


1.授業の説明:講義内容・形式,評価方法など
 開発経済学の第1回です.今回は授業の内容や形式についての説明が中心です.
【振るい落とし】
 予想を上回る50人程が出席していました.授業の前半で,関心のない学生を振るい落としました.最初の20分程度を使って開発経済学とはどのような学問であるかを説明し,理解させた上で,課題であるレポートに求められるハードルがかなり高く,単位を取りやすい授業を探している学生には不向きであることを伝えました.その上で,「ここまで聞いて『取るのをやめよう』と思った人は退室して構いません」と伝えると10人程が退出しました.
【振るい落としの狙い】
 関心のない学生を振るい落とした理由は,この授業が学生参加型(アクティブ・ラーニング)という形式であるためです.授業では学生数人が1グループとなり話し合うことがしばしばあるため,授業の内容に関心が持てず積極的に取り組めない学生が同じグループにいると,真剣にやっている学生のやる気を削ぐのではないかという懸念があったためです.

 後半は,途上国についての基礎知識をレクチャーし,各学生が問題について考える土台を築き,その後,あるテーマについて考え,話しあってもらいました.レクチャーを始める前に,レクチャーの後,それを基礎知識としてグループ・ディスカッションをしてもらうことを伝えておきました.これが講義内容に集中するインセンティブになると考えました.

2.レクチャー:途上国の現状
 まず途上国の所得,栄養不足,教育,健康など様々なデータを紹介しました.これにより途上国について,ある程度イメージさせます.さらに平均化されたデータに加えて具体的な事例も紹介しました.今回はジンバブエが独立以降の約30年でどのような道を辿ったのかを説明しました.

3.グループ・ディスカッション:貧困とはなにか?
 今回は,「貧困とは何か?」について考えさせました.いきなり「さあ,みんなで話し合いましょう!」では上手くいかないとわかっていたので,いくつかの仕掛けをしました.
①授業開始時にプリントを配布しました(配布資料1).そこには「貧困とはどのような状態のことか?」を箇条書きで複数記述するよう指示しました.長文だと時間がかかるため箇条書きにします.また定義付けではなく状態を複数記述させることでより問題に取り掛かりやすくなると考えました.
 このプリントを使って,まずは自分で考えます.この作業に5分ぐらいをかけました.ある程度時間が経過し,ちょっと手が止まったところを見計らって,「幸福な状態とはどのような状態なのか?」も考えてみるように声をかけました.見回してみて,だいたい書き終わったなと感じるぐらいの時間でストップをかけます.
②次にこのプリントを周りの学生と交換させます.これにより直接話し合わせるよりもハードルが下がります.こちらはおおよそ3分程度です.この手順は,学内のFDの一環として,愛媛大学の小林直人先生の講演で学んだことを活用しました.小林先生によれば双方向のアクティブ・ラーニングのために"Think, Pair, Share"が有効であるとのことです.つまり「1人で考え」→「2人で考え」→「複数で考え、意見を集約させる」という手順を踏むわけです.というわけで,①でThinkさせ,②でPairを組ませました.
③座っていた位置で分け,8~10人程度を1グループとしました.グループ毎に意見を集約させ,発表してもらいました.意見の集約に5分程度時間をとりました.また同時に発表者を決定するように伝えました.学生にとってあまり経験のない作業であるので,真剣に議論できるか不安もあったのですが,前半の振るい落としの効果もあってか,また比較的話しやすいテーマであったためか,どのグループも熱心に話し合っているように見えました.
 学生が発表した意見は以下の通りです.
・教育を受けられない状態
・食糧(栄養)不足
・低所得
・粗末な住居,住居がないこと
・モノがないこと
・失業
・医療を受けられない状態
・内戦
・治安が悪い状態
・衣料がないこと
・子供が働かされること
・孤立していること
 後に提出させたプリントを見てみると,これらに含まれないものもいくつかったので,自分の意見をグループ内での議論で伝えられないケースがあったのかもしれません. 

今回の結果
 結果は「学生の満足度」と「議論の深さ」の2点について評価することができると思います.自己評価ではどちらについてもほぼ成功だと思います.修正が必要な点は特に感じませんでした.グループ・ディスカッションに時間を割くため,これまでより説明できる内容がかなり減ると予想していましたが,意外にもさほど変わりませんでした.学生が授業に集中しているため,具体例の提示が少なくて済んだのかもしれません.
「学生の満足度」
 他の講義では積極的に講義に取り組んでいない学生も,意外と楽しそうに議論に参加していました.現時点では,聞き取り調査やアンケート調査を行っていませんが(今後,複数回やる予定です),あくまで実感ではかなり満足度は高いと感じました.
「議論の深さ」
 貧困とは何かへの答えは,衣食住や所得など物質的な要因を挙げる学生が多いのではと予想しましたが,精神的充足に関連した意見も多く,十分に深い議論になっていたと感じました.特に孤立については次週の講義内容でもあったので(学生から出てこないと思っていた),驚きました.

 配布したプリントには,次回の講義内容も含んでおり,それらに記入して後日提出するよう指示しました.次回の学習内容にスムースに移行できる狙いがあります.

学生参加型授業についてのメモ その2 へ続く.