2010年8月9日月曜日

開発経済学 第15回(7/23)

 最終回は「仕事としての開発」を取り上げることが多いのですが,今年度はそちらの方向に興味がある人がいないようなので,国際社会からの援助についての講義にしました.

【授業の内容】
 ODAとは政府開発援助です.ODAについては悪いイメージが先行しているかもしれませんが,実際はどういうもので,どういう目的のために行われているのか見てみましょう.
 ODAとは次の3条件を満たしたものです.
•政府ないしは政府の実施機関によって供与されたもの
•途上国の経済開発や福祉向上への寄付を目的として供与される資金
•借款はグラントエレメント比が25%以上のもの

(斜体部分は外務省ウェブサイトよりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/nyumon/oda.html)

 簡単に言うと政府が他国に対して行う援助のことと考えて良いでしょう.しかし,なぜ援助をするのでしょうか?日本も財政的にはかなり厳しいはずですし,実際に近年かなりの割合は減らされています.援助を行う理由を利他的と利己的の2つに大別してみましょう.

 まず利他的な理由ですが,地球に住む人間に課せられた所得税のようなものと考えれば良いでしょう.豊かな人が所得の一部を提供することで,貧しい人々の生活を大きく改善することができます.また,人道的な立場からも,貧困に苦しんでいる人を助けるべきだと言う人もいるでしょう.僕もどちらかというとこの立場です.ちょっとしたきっかけで貧しい人々の生活が大きく変わる様子はマイクロファイナンスの講義でもわかったと思います.しかし,政府関係者はこういった主張をあまりしません.「皆さんのお金で見返りを求めず援助しました」とはやっぱり言いにくいと思います.「そんな金があるなら税金安くしろ!」という人もいるでしょうからね.

 というわけで,もう1つの理由が必要となるわけです.利己的な理由としては,ODAで恩を売っておけば何らかの見返りが期待できる,というものがあります.特に日本は原油という天然資源を持たない国なので,安定的なエネルギー供給のために,ODAが間接的に役立っていると言えるでしょう.また,国際舞台での発言力が増すということも考えられます.軍事力を行使して紛争解決することができない日本にとってODAは国際的な存在感を高めるために必要と言えるかもしれません.

 この他,グラントエレメント比,ODAの内訳,日本のODAの特徴などを説明しました.

 MDGsを達成するために必要な金額は約2000億ドルとも言われますが,モントレー合意に基づきDACドナー諸国がGNPの0.7%をODAとして拠出するという約束を守れば平均して2350億ドルが拠出できます.つまりMDGsは決して実現不可能ではない,と主張されています.(その試算が正しいとすれば)後は0.7%を拠出するだけですが,日本のODAは0.7%にはほど遠いのが現状です.政府はODAの額を増やすことができるでしょうか?

 さて,国別の援助以外にも,さまざまな機関・団体が援助を行っています.まず国際援助の実施機関の区分からです.国連(とそのグループ)を始めとする国際機関,二国間援助,そしてNGOです.それぞれ,異なる長所と短所を持っており,互いに補完する性質を持っていると言えるでしょう.

 援助の現場にいるのは国際機関だけではありません.NGO(NPO)の存在感は年々大きくなっています.NGOは資金・人材が限定されるという欠点もありますが,柔軟できめ細かい援助ができるという利点もあります.

 さて,援助の方法ですが,授業では,次の2つに分類しました.
・資金,物資の援助
・指導
 前者はすぐにイメージできますが,後者はなかなかイメージしにくいでしょう.授業では1980年代にIMFや世銀が行った構造調整を採り上げ,その結果について照会しました.
 それも含め,援助についての理論として,マクロ・ミクロの両面から説明しました.マクロとしてはTwo-Gapモデルの説明と,その評価について,そして構造調整に関して途上国に突きつけられた条件(Conditionality)を具体的にみていきました.

 対するミクロ面として,参加型開発について説明しました.参加型開発は,調査にかかるコストの増加や受益者による利益誘導の恐れというデメリットがありますが,それをカバーする様々なメリットを持っています.

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