2010年5月17日月曜日

開発経済学 第5回

 開発経済学もしばらく間が空いてしまいましたね.前回は貿易ゲームをやりましたが,そこで実感したことも少し意識しておきましょうね.

【授業の内容】
 今回は都市と農村の二重構造についてです.主に2つのモデルについて説明しましたが,どちらも現実のある側面を見事に描き出しています.

 まず,産業構造についての基礎知識として,Petty-Clarkの法則を紹介しました.おそらく聞いたことはあったのではないでしょうか.経済発展に連れて,その主力となる産業が第1次,第2次,第3次へとシフトしていくことです.例外として,インドは第2次を飛ばしたという話を以前にしたと思います.
 また,こちらも基礎知識兼新たな視点として,産業を労働集約的産業と資本集約的産業に分類しました.この分類から,先進国では資本集約的産業が,途上国では労働集約的産業に強みを持つであろうことが推測できましたね.ミクロ経済学で学んだ比較生産費説が活用できそうです.

 さて今回のメインである2つの仮説のうち1つ目,ルイスの2部門モデルです.
 2部門とは,伝統部門と近代部門です.伝統部門とは,主に農業従事者を中心とした慣習経済です.一方の近代部門は都市労働者を中心とする市場経済です.途上国は,すべて伝統部門というわけではなく,一部には先進国と変わらぬ近代部門を持っていることが珍しくありません(もちろん規模は異なりますが).
 伝統部門の農家は一見,みんな働いているように見えますが,そこには偽装失業が隠れています.偽装失業とは,生産にほとんど貢献していない(限界生産性がゼロ)が,一応従事している労働者のことです.農村部は,このように余剰労働を抱えています.
 一方の近代部門は,農村部から非常に安い賃金で労働者を雇うことができます.なぜなら彼らは余剰な労働力であり,農村部にいてもほとんど価値を生み出すことができないからです.近代部門は余剰労働力がある限り,どんどん生産規模を拡大し,成長することが可能です.人件費が安いため,労働集約的産業では,他国(主に先進国)に比べ市場競争力があるからです.
 しかし,永遠に成長することはできません.人口は有限であり,余剰労働力もいつかは枯渇するからです.余剰労働力の枯渇はどのような影響を与えるのでしょう.まず,農村部での賃金(あるいは限界生産性)が上がります.そのため,農作物の価格は上昇するため,農村部で作られる農作物を消費している都市労働者にとっては,実質所得の減少につながります(所得で買うことができる農作物の減少).そのため,なかには都市部での生活が苦しくなり,農村部へと帰る(帰農)労働者も出始めます.これにより都市で労働力不足となり,都市労働者の賃金が上がります.賃金の上昇は,企業にとってみれば人件費の増加なので,企業家の投資意欲を減少させるでしょう.このような過程を経て,その国の工業化がストップしてしまいます.

 このルイスの2部門モデルは近代部門における完全雇用を前提としていましたが,現実には,急成長している途上国の都市部には多くの失業者と偽装失業が存在します.これを上手く説明するものはハリス=トダロモデルです.

 ハリス=トダロモデルの特徴は,都市部において最低賃金を設定したことです.これにより,都市部では,本来なら賃金率=限界生産性となるまで雇用が増加するべきところが,賃金が下がらないため,雇用が限られてしまうのです.いわば賃金の高止まりです.そのため,農村部では一攫千金(都市部での雇用)を求めて,労働者が都市へと流出します.しかし都市では流入してきた労働者に見合うだけの雇用がありません.そのため,失業が発生します.

 授業では所々,このような問題をいかに解決すべきかをコメントしました.またミニレポートとして,なぜ中国やインドは急成長しているかを,今日の内容を踏まえて論述してもらいました.

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