2010年11月19日金曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第9回(11/17)

 今回は市場の失敗の4つ目の例として,情報の非対称性を説明しました.

【授業の内容】
 完全競争市場の条件の1つに「完全な情報」というものがありましたね.今回はその仮定が崩れたら市場はどうなるのかを見ていきました.

 まず消費者が財の質に関する情報をどれだけ入手可能かという視点から,財を3種に分類しました.
探索財:購入前に財の質に関する情報を入手可能である財.例:視聴できる音楽ファイル,試着できる手袋など.
経験財:購入後に財の質に関する情報を入手可能である財.例:ネットで買った服,新商品のお菓子など.
信用財:購入後も財の質に関する情報を入手不可能である財.例:医療サービスなど.大学教育も?

 さて経験財のように事前に品質に関する情報を入手不可能な財と取引する場合,どんな問題が起きるのでしょう?まずは,中古車市場(レモン市場)を例に説明しました.
 中古車市場では情報の非対称性が発生します.つまり買い手である消費者は中古車の品質についての情報を(相対的に)少ししか持っていませんが,売り手である中古車販売店はたくさん持っているはずです.この中古車市場には,品質の良い車と悪い車という2種類があるとします.売り手はある中古車が良い車か悪い車のどちらなのかを知っていますが,買い手はそのどちらなのかがわからないとします.とはいえ,買い手も市場にはどのぐらいの割合で,品質の良い車と悪い車が流通しているかを知っているとします.
 すると売り手は品質の良い車を高く,悪い車を安く販売しますが,買い手は目の前の1台の価値を正確に判別できないので,確率を使って期待値を求めます.その期待値より売値が安ければ購入し,高ければ購入しません.この両者の行動をグラフに描いて見ると,需給が均衡するところがあることがわかります.
 その均衡点では,品質の悪い車(レモン)ばかりが取引されることがわかりました.まさに「悪貨は良貨を駆逐する」ですね.金貨の流通にも上記の考えは応用可能だと思います.

 続いて,逆に買い手が情報を多く握り,売り手があまり情報を持っていないケースも説明しました.それが生命保険市場です.買い手である契約者(被保険者)は自身の健康に関する情報を多く持っていますが,保険の売り手である保険会社はあまり持っていません.
 この場合には,均衡では,保険に加入する人は自身の健康に自身がない人ばかりとなることがわかりました.保険会社としては大赤字です.この原因は情報の非対称性にあるため,赤字を解消するには保険会社が被保険者の情報をより多く獲得することが必要です.現実には,年齢,過去の病歴や喫煙習慣についての情報により保険料を変更したり,あるいは保険への加入を断ったりすることがあるようです.

 これまで見てきたように,情報の非対称性が存在すると,特定の買い手or売り手ばかりが集まってしまうことがわかりました.経済学ではこの現象を逆選択と呼んでいます.

 逆選択と紛らわしい例としてモラルハザードというものがあります.モラルハザードという言葉自体は,ニュースなどで使われることもあるのですが,そのほとんどは誤用です.
 さて,本来モラルハザードとは情報の非対称性を伴う契約により,行動が変化してしまうことを指します.例としてはこちらも保険業界が良いでしょう.例として損害保険(自動車保険)を考えてみましょう.保険に入る前は,もし事故を起こせばそれを自身で弁償しなければなりません.そのため事故を起こさないよう安全に運転しようというインセンティブが働きます.しかし,一旦自動車保険に加入すると,もし事故を起こしても保険が下りるため事故負担はわずかで済みそうです.そのため安全に運転しようというインセンティブは低下するはずです.以前は安全運転をしていた人もスピードを出しがちになったり,周囲をあまり確認せずに運転したりするかもしれません.この変化をモラルハザードと呼びます.

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