2010年4月19日月曜日

開発経済学 第3回(4/16)

 今回は「なぜ貧困がなくならないのか?」に焦点を当てて貧困の悪循環を説明するとともに,途上国に関するいくつかの成長理論を紹介しました.

【授業の内容】
 以前も紹介した図ですが,東アジアはこの半世紀,貧困を克服し,豊かに国へと成長しました(成長しています)が,アフリカの多くに国々はこの半世紀,ほとんど成長らしい成長をしていません.なぜ貧困から抜け出せないのでしょうか?
 ヌルクセは現在ある人(や国)が貧しい理由を,過去の貧困に見出しました.貧しい(低所得)国は貯蓄が少なく,貯蓄が少ないために将来のための投資ができません.そのため資本が蓄積されず,生産が低いままであり,将来も貧しいという悪循環です.これをヌルクセは貧困の悪循環と名付けました.この罠からどうやって抜け出せば良いのでしょうか?

 ローゼンシュタイン=ロダンは,この罠から抜け出すためにはビッグ・プッシュが必要だと唱えました.一旦,この罠から抜け出せば,今度は豊かであるが故に未来も豊かであるという高水準均衡状態に落ち着けそうです.
 どのようなビッグ・プッシュが望ましいかについて,ヌルクセ均斉成長戦略を主張しましたが,ハーシュマン不均斉成長戦略を主張しました.一見,相反する両者の主張ですが,政府が主導である,輸入代替戦略である,という共通点があります.かつての日本や現在の中国のように政府が主導的な役割を果たさなければ罠から抜け出すことは困難なのかもしれません.
 この他,"take-off"で有名なロストウの経済発展段階理論も紹介しました.

 さて,そもそも経済成長は貧困を削減するのでしょうか?この問いについて,クズネッツは逆U字仮説を主張しました.結論としては,経済成長により最初は不平等を招きますが,さらなる成長によりその不平等は小さくなっていくというものです.しかし,この仮説は後に「一般的ではない(どの国にも,いつでも通用するわけではない)」として棄却されました.
 また,つい最近までいくつかの国では,豊かになるのが一部の人(国)だけであったとしても,そのおこぼれは貧困層(国)にも届くはずだ,というTrickle down仮説が横行していましたが,経済学者たち(Dreze and Sen,1989)は歴史から,それが誤っていることを証明しました.経済成長すれば貧困は削減されるのではなく,経済成長とともに適切な公共政策が実施された時のみ貧困は削減されるのです.

 経済成長を妨げる要因としてついつい見逃しがちですが,地理的要因や偶然も実は国の将来を大きく左右する点も指摘しておく必要があります.

 今回の結論としては,貧困の罠から抜け出すためには,政府主導のBig Pushが必要であるが,「経済成長=貧困削減」ではなく,公共政策も欠かせないこと,また国によって成長を妨げる要因は様々なので,同じ処方箋を複数の国に使い回すことは効き目がないだけでなく,貧困を悪化させる可能性があるということです.

【今回の内容に関連した図書】
ジャレド・ダイヤモンド(2000)「銃・病原菌・鉄」草思社
ウィリアム・イースタリー(2003)「エコノミスト 南の貧困と闘う」東洋経済新報社
いずれも図書館にありますよ.

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