2010年6月23日水曜日

経済学A 第11回

 今回は前回の為替に関連して,貿易とグローバル化について説明しました.貿易はともかくグローバル化は,皆さんの将来にとって重要なテーマです.

【授業の内容】
 前回も少しふれた貿易ですが,貿易は国全体としてみると非常に良いものです.それを絶対優位,比較優位の説明と共に紹介しました.
 絶対優位の例として,漁師と農家を挙げました.魚釣りの得意な漁師,米作りの上手い農家は,それぞれ魚,米の生産に関して絶対優位を持っています.魚釣りについては漁師に絶対優位があり,米作りについては農家に絶対優位があるといいます.逆に漁師は米作りに絶対劣位にあり,農家は魚釣りに絶対劣位にあります.このようなケースでは,両者は絶対優位にある財(モノやサービスのこと)の生産に集中し(特化),それを相手と交換することで,自給自足の場合より,両者とも豊かになれます.それを数値例で確認しました.つまり分業は効率的なのです.
 また,経済学的に良い状態の目安として,パレート最適(パレート改善)という概念を紹介しました.やや消極的な判断ですが,パレート改善が良い変化であることには多くの人が賛成するでしょう.それぞれが絶対優位を持つ場合,分業・交換することでパレート改善が可能でした.

 続いて,上のケースと異なり,一方の国はなんでも得意だけど,もう一方の国はすべて苦手,というケースを考えました.それぞれ得意な分野があればよいのですが,それがない場合です.
 この場合,一方の国に絶対優位がなくても,(クローンのような国同士でない限り)必ず比較優位はあります.比較優位とは,どちらの財の生産も得意だけど,より得意なもの,あるいは,どちらも苦手だけど,まだましなものを示しています.絶対優位がない場合でも,それぞれの国が比較優位にある財の生産に特化して,それを輸出しあうことで,両国とも豊かになれます.パレート改善が可能なのです.これが貿易の持つ素晴らしい力です.戦争とは違い,勝者と敗者は生まれません.貿易に関与した両国がともに勝者になれる(Win-Win関係)のです.
 僕は大学時代,この話(リカードの比較生産費説と言います)を聞いて,目から鱗が落ちるように驚いたのですが,皆さんも少しは驚いてくれましたか?

 このように自由な貿易は素晴らしいものですが,なぜか世の中には自由な貿易に反対する人たちがいます.遠い世界のことではなく,日本も完全に自由な貿易をしているわけではなく,特に農作物については強固な輸入障壁(海外から商品が入ってこないような仕組み,関税など)を築いています.なぜなら,上記で説明したように,自由貿易が行われるとすべての国は国際競争力がある産業に特化します.言い換えれば,国際競争力を持たない産業は縮小してしまうのです.そのため,その国の中で国際競争力が弱い産業にある業界の人々は自由貿易に反対します.そのような人たちは少数派ですが,一丸となって行動するため政治的には強い影響力を持つこともあるようです.多くの人々は関税にあまり関心がありませんしね.

 さて,このようなグローバル化(ヒト,モノ,情報の自由な国際間移動)が進んでいくと何が起きるのでしょう?皆さんにとって重要なことは,労働の国際競争が激しくなることがあります.これまでは日本の企業は日本で労働者を雇い,日本で生産し,海外に輸出するというパターンが多かったかもしれませんが,企業は急速に多国籍化(無国籍化)しています.必ずしも日本人を雇わなければならないわけではありません.利潤の最大化を目的とする企業は,より優秀な人材がより安い賃金で雇えるなら,別に日本人にはこだわらないでしょう.皆さんは中国,インド,アメリカなどなど世界中の労働者と仕事を奪い合うようになる可能性があります.つい最近のニュースでも,パナソニックの新卒採用の8割が外国人になるというニュースが流れました.ファーストリテイリングなどでも外国人の採用を増やすということも聞きます.外国人と仕事を奪い合うというのは決して夢物語ではないようです.
http://www.j-cast.com/2010/06/20069022.html?p=2
 ではどうすれば国際的な競争を勝ち抜けるのでしょう?皆さんも外国に行ってみるとわかりますが,日本の学生の基礎学力は世界的に見て低くありません.むしろ優秀な方だと思います.後は大学時代にどれだけ専門的な能力を身に付けられるが勝負でしょう.グローバル化は世界と競争しなければいけないという困難でもありますが,世界中を相手に商売ができるチャンスでもあります.学生時代にしっかりと10年,20年先の世界について考えてみてください.
 そのための参考文献を紹介します.図書館にもあるのでぜひどうぞ.本当にオススメです.
トーマス・フリードマン(2006)「フラット化する世界」日本経済新聞社

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