2009年11月28日土曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第10回

 今回は市場の失敗の例である情報の非対称性について説明しました.

【授業の内容】
 みんな覚えていると思いますが(思いたい),完全情報市場の条件の1つとして,「完全な情報」というものがありました,今回はその条件が守られない場合には何が起きるかを考えます.

 まず今回の分析対象である財がどのようなものかを理解するため,財を3種類に分類しました.
・探索財:購入前に財についての情報を入手可能な財
・経験財:購入後に財についての情報を入手可能な財
・信用財:購入後も財についての情報を入手不可能な財
 今回はこのうち経験財について考えました.

 財についての情報の非対称性がある場合,取引はどのようになるのでしょう.最初にレモン市場(中古車市場)の例を説明しました.
 中古車の売買では,多くの場合,売り手である中古車屋は財である中古車についての情報を多く持っていますが,買い手である消費者はそれほど多くの情報を持っていません.まさに非対称的です.このような場合,情報を多く握っている売り手は,それぞれの車の品質が良いのか悪いのかをきちんと把握しており,品質の良い車と悪い車をそれぞれ希望する価格で販売しようとします.
 一方の消費者は,よい車は高く,悪い車は安く買いたいと思っていますが,目の前の車が良い車なのか悪い車なのか判断できません.そのため,その車をいくらで買うかを決める際には,確率的な期待値に頼るしかありません.経験的にその車が何割の確率で当たり(品質が良い)なのか,外れ(品質が悪い)なのかが分かっていれば,自ら期待値を計算できます.車の価格が期待値を下回っていれば買いますが,上回っていれば買いません.
 このような売り手と買い手の気持ち(供給と需要)が一致する点で取引が行われますが,今回授業で用いた数値例では,財の一部が取り引きされるものの,そこで売買されたのはすべて品質の悪い財でした.消費者はレモンばかりつかまされたわけです.一方の中古車にとっても品質の良い車がまったく売れないという,あまりありがたくない結果になりました.このような不幸の原因は情報が非対称的で,消費者が品質についての知識・情報をあまり持っていないことです.
 そのため,解決策としては,情報を対称的にすること,つまり消費者に品質についての情報を与えることです.現実に見られる対策としては,中古車に保障をつけることがあります.これは中古車屋にとっては負担ですが,品質が良い車だというシグナルを消費者に伝えることができ,結果として高く買ってくれることにつながります.

 逆に売り手の持つ情報が少なく,買い手の持つ情報が多い例として,生命保険市場を取り上げました.

 これらの例のように情報の非対称性が原因となり,特定の売り手や買い手ばかりが集まってしまうような現象を逆選択と呼びます.

 逆選択と間違われやすいのがモラルハザードです.これは,取引の成立後に経済主体の行動自体が変化してしまうものです.例えば自動車の損害保険に入ると,保険に入る前に比べ,比較的安全に注意しなくなる恐れがあります.これがモラルハザードです.モラルハザードという言葉は,なんとなく賢そうだから?テレビなどでもしばしば使われますが,多くは誤用です.

 さて,情報の非対称性についての対策には,シグナリングと評判などがあります.シグナリングとは,品質を知るヒントを知らせることです.例えば学歴はシグナリングの1つです.大卒という学歴は,その人の労働者としての品質を知るヒントになります(あくまでヒントです.大卒の人は全員能力が高いわけではなく,大卒の人には能力が高い人が多い,ということでしょう.).
 評判の例としては年功序列があります.新卒を採用する際の面接では,その学生の能力がどれぐらいなのかを正確につかむことはできません.そのため,日本の多くの企業では,全員一律の安い給料で新入社員を雇い,その後の仕事ぶりを見て,徐々に給料に反映させるという仕組みを採っています.

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