2009年11月20日金曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第9回

 今回は「市場の失敗」の1つである公共財について説明しました.

【授業の内容】
 我々が普段必要とするものは(技術的に不可能なものは別として),だいたい売っています.需要さえあれば,民間企業はその財を生産して儲けようというインセンティブが働くからです.しかし例外もあります.それが公共財です.公共財の多くは,民間企業によって生産されません.民間企業は公共財を生産しようというインセンティブを持っていません.なぜなのか?それは公共財の定義を理解するとわかってきます.

 公共財とは「非競合性」と「非排除性」という2つの性質を兼ね備えた財のことです.   
 非競合性とは,複数の人が同時にそれを利用(消費)することが可能であり,また複数で利用しても価値が落ちない財のことです.例えばライブなどがそれにあたります.100人で聴こうが1000人で聴こうが,ライブから得られる効用は(ほとんど)変わらないでしょう.
 非排除性とは,特定の人の利用を妨げることができない財です.つまり誰でも無条件で利用できる財のことです.例えば我々は誰でも一般道を利用することができます.税金を滞納していても,外国人であっても,利用を拒まれることはありません.非排除性を持つ財は,無条件で消費される,つまりお金を払っていない人にも利用されてしまうので,民間企業は採算がとれません.そのためわずかな例外を除けば,ほとんど民間企業は生産しません.

 このような非競合性と非排除性という性質を持つ財の例としては,灯台,法律,ラジオ放送などが挙げられます.繰り返しますが,これらの多くは,儲からないので民間企業は供給しません.しかし,灯台,法律,ラジオ放送がないと我々の生活は不便になるでしょう.そのため,民間企業の代わりに営利目的外の活動もできるプレイヤーである政府が供給するのです.
 しかしそこには問題がないわけではありません.民間企業が生産し,市場で取引される場合には,非効率的な生産など(少なくとも長期的には)起こりません.企業は全然売れない(需要のない)財を生産しないからです.生産してしまうと利潤が減るため,利潤の最大化を目的とする企業はそのような行動をとらないでしょう.また常に売り切れてしまい在庫が空っぽになるようなことも長期的にはあり得ません.作れば作るほど売れるのであれば,生産能力を徐々に拡大して,利潤を増やそうとするでしょう.このように市場では企業は消費者との取引を通じて,消費者の需要を鋭く感じ取り,本当に必要とされている財を,必要とされているだけ生産するのです.
 一方,政府が生産する公共財の場合は,市場メカニズムは働きません.警察を例にとると,警察の治安維持サービスは我々に必要な財ですが,我々は1回のパトロールに何円を支払う,というような取引はしていません.そのため,警察にとっては,我々住民がどれぐらいの水準の治安を求めていて,その需要はどれぐらい大きいのか(金銭的評価はどれぐらいか)ということがわからないので,自分たちのルールでパトロールするしかないでしょう.結果として,私たちは「パトロールに全然来てくれないせいで不安だ」,あるいは「しょっちゅうパトロールしてるけど無意味だ」などと感じることになります.
 ダムが必要なのかどうか,橋は必要か,道路は,とよく問題になるのは,いずれも政府が供給している財だからです.政府は時として必要のない財を供給してしまうことがありますが,その理由の1つはそれらが公共財の性質を持っていることにあるようです.

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