2011年4月15日金曜日

開発経済学 第2回(4/15)

 今回も前回に引き続き,貧困について考えました.

【授業の内容】
 前回の授業および課題で考えてもらった通り,貧困というものは多面的な概念です.必ずしも所得の多寡だけではありません.皆さんの意見に欠けていたものは,日本に住む我々には当たり前すぎること,つまり自由です.自由とは,信教・思想の自由など内面的な自由もありますし,政治に参加する自由,あるいは自分の身体の所有権を有していることなどもあるでしょうね.また,ジェンダー格差についての意見もあまり無いようでした.受講者には女性もかなり多いのですが,日本にいるとあまり意識しないのかな.関連して「喪われた女性」の話を少ししました.
 さらに,これは貧困全体に関係することですが,ショックに対する脆弱性にも注目しましょう.本当の貧困とは,ちょっとした経済的,社会的,身体的ショックにより,これまでの生活が一気に崩壊する脆さと言えるでしょう.私たちは幸いにも家族や友人あるいはコミュニティ,また公共により守られています.例え怪我で一ヶ月働けなくなったとしても死ぬことはありません.誰かがセーフティネットとして助けてくれるはずです.本当の貧困とはそのネットがない綱渡りのようなものなのかもしれません.
 また,ルイスは貧困を選択肢の少なさと表現しました.こちらも皆さんのように多すぎる選択肢を抱えた大学生には馴染みがないかもしれませんね.

 とはいえ,皆さんから出た意見で,貧困はかなり多面的に捉えることができました.しかし,あえてここで,「貧困を測る指標を1つだけ選ぶなら?」と問いかけました.いくつか意見が出ましたが,やはり所得が多いように思います.かつては「所得だけで本当の豊かさがわかるものか!」と思った人もいたかもしれませんが,貧困について考えるステップを踏んだ今,所得がベストとは言えないまでも,最も妥当な指標と納得できるのではないでしょうか.

 さて,続いてアマーティア(アマルティア)・センの潜在能力アプローチについても説明しました.センは厚生に関する研究により,アジア出身者で初めてノーベル経済学賞を獲得したインド人です.
 そのアプローチは,通常の経済学と少し違います.通常の経済学では,財の消費が効用をもたらします.しかしセンは,財の消費が機能を生み,その機能が効用(福祉)をもたらすと考えました.教育を受けることが幸せなのではなく,教育により知識を得て,能力を開花させること,それにより幸せになれるのでしょう.

 センはその機能として,「1人あたりGNP」,「平均余命」,「幼児死亡率」,「児童死亡率」,「成人識字率」,「高等教育就学率」の6つを選びました.皆さんが選んだ指標とかなり近いですね.
 また,潜在能力アプローチは机上の遊びではなく,その理念はUNDPの人間開発指数(HDI)へと受け継がれました.

 最後にMGDsの説明と,その実現可能性について少し説明しました.MDGsも皆さんが考える貧困撲滅とかなり近いものです.2000年の国連ミレニアムサミットで合意されたもので,2015年までの貧困撲滅を目指しています.しかし,先進各国はそれに必要とされるODA拠出額を負担しているとは言えないのが現状です.あと4年のタイムリミットまでに事態が大きく変わることはないでしょう.

【第1回レポート】
 テーマ:「◯×国が貧しい原因」(自分で具体的な貧困国を選ぶ)
内容:その国がなぜ貧しいのか,なぜ経済成長できないのかを論じる.
分量:3枚+α(表紙,参考文献,図表は除く)
提出期限:5月19日20:00
提出方法:メールに添付

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