2011年4月23日土曜日

開発経済学 第3回(4/22)

 今回は貧困の悪循環を始め,いくつかの開発に関する仮説を紹介しました.

【授業の内容】
 まずヌルクセが唱えた「貧困の悪循環」です.これは,今現在貧しい家計や国は,低所得ゆえに低貯蓄となり,低貯蓄のため低投資,低資本蓄積となり,資本がないため低生産性のままでいるため,結果として将来も低所得であるという,まさに悪循環です.貧しい理由は貧しいから,ということですね.これは教育についても言えることです.低所得の家計では子供に十分な教育投資ができないため,人的資本が低いままなので,その子供が働くときの賃金も低い,つまり教育という遺伝子を通じて,貧困が遺伝してしまうという現象は貧困国のみならず,先進国においても見られる現象です.ここで「遺伝子」という言葉を使いましたが,当然ながら生物学的な意味ではなく,比喩的表現です.
 では,この「貧困の悪循環」から抜け出すためにはどうすれば良いのか.ローゼンシュタイン=ロダンは,「ビッグ・プッシュ」が必要であると考えました.このビッグ・プッシュ論は,貧困の悪循環から抜け出すためには,外部からのビッグ・プッシュ,つまり大きな一押しがあれば,悪循環を良い循環に変えられるというものです.例えば,貧しい農家が外部からの援助で灌漑設備を整えたとします.すると農業の生産性が高まるので所得も高くなります.所得が高まれば貯蓄・投資に回すことのできるお金も増えるため,資本も蓄積され,好循環が続いていくはずです.この考えは現在でも,経済学者のジェフリー・サックスや,ミュージシャンのボノなどに支持されています(ビッグ・プッシュに反対する人々もいます.理由は今後説明します).

 続いて,貧困国の成長について対照的な2つの戦略を紹介しました.1つはヌルクセの均整成長戦略です.これは,通常のマクロ経済学(ケインズ経済学)が想定する状況と異なり,貧困国は需要不足のために成長しないのではなく,供給不足であることを前提とします.そのため,政府自らが様々な分野に幅広く投資することで成長の土台を整える必要があるとします.均整成長戦略で成長した国の例はオーストラリアです.
 この均整成長戦略に対して,ハーシュマンは「途上国には幅広い分野に同時に投資できる力はない」として均整成長戦略を非現実的なものと考えました.ハーシュマンは,ある一分野にだけ特化して投資することで,その前方・後方にある産業が民間の力で自然に発展すると考えました.前方・後方とは,自動車産業を例にとれば,前方は自動車の生産に必要な部品,工具,資源などの産業であり,後方は自動車を利用した流通業などの産業です.
 皆さんには,架空の国を想定し,その国の政府がどちらの戦略を採るべきなのかを議論し,発表してもらいました.均整成長戦略が多かったですね.

 この他の仮説として,ロストウの経済発展段階理論(テイク・オフ)や,クズネッツの逆U字仮説などを紹介しました.特に逆U字仮説は,「そもそも成長は貧困を削減するのか?」ということについて考えるヒントになります.結果的には,逆U字仮説は実証研究により否定されます.つまり必ずしも経済成長したからといって不平等は無くならない.そのため,国全体としては経済成長しても貧困に苦しむ人が増える可能性を否定できないのです.

【課題】
 配布した小レポートの提出.期限は4/27の17:00までです.

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