2011年5月4日水曜日

学生参加型授業についてのメモ その1:第1回

「学生参加型授業についてのメモ その0:バックグラウンド」のつづきです.

授業の概要
1.授業の説明
2.レクチャー
3.グループ・ディスカッション


1.授業の説明:講義内容・形式,評価方法など
 開発経済学の第1回です.今回は授業の内容や形式についての説明が中心です.
【振るい落とし】
 予想を上回る50人程が出席していました.授業の前半で,関心のない学生を振るい落としました.最初の20分程度を使って開発経済学とはどのような学問であるかを説明し,理解させた上で,課題であるレポートに求められるハードルがかなり高く,単位を取りやすい授業を探している学生には不向きであることを伝えました.その上で,「ここまで聞いて『取るのをやめよう』と思った人は退室して構いません」と伝えると10人程が退出しました.
【振るい落としの狙い】
 関心のない学生を振るい落とした理由は,この授業が学生参加型(アクティブ・ラーニング)という形式であるためです.授業では学生数人が1グループとなり話し合うことがしばしばあるため,授業の内容に関心が持てず積極的に取り組めない学生が同じグループにいると,真剣にやっている学生のやる気を削ぐのではないかという懸念があったためです.

 後半は,途上国についての基礎知識をレクチャーし,各学生が問題について考える土台を築き,その後,あるテーマについて考え,話しあってもらいました.レクチャーを始める前に,レクチャーの後,それを基礎知識としてグループ・ディスカッションをしてもらうことを伝えておきました.これが講義内容に集中するインセンティブになると考えました.

2.レクチャー:途上国の現状
 まず途上国の所得,栄養不足,教育,健康など様々なデータを紹介しました.これにより途上国について,ある程度イメージさせます.さらに平均化されたデータに加えて具体的な事例も紹介しました.今回はジンバブエが独立以降の約30年でどのような道を辿ったのかを説明しました.

3.グループ・ディスカッション:貧困とはなにか?
 今回は,「貧困とは何か?」について考えさせました.いきなり「さあ,みんなで話し合いましょう!」では上手くいかないとわかっていたので,いくつかの仕掛けをしました.
①授業開始時にプリントを配布しました(配布資料1).そこには「貧困とはどのような状態のことか?」を箇条書きで複数記述するよう指示しました.長文だと時間がかかるため箇条書きにします.また定義付けではなく状態を複数記述させることでより問題に取り掛かりやすくなると考えました.
 このプリントを使って,まずは自分で考えます.この作業に5分ぐらいをかけました.ある程度時間が経過し,ちょっと手が止まったところを見計らって,「幸福な状態とはどのような状態なのか?」も考えてみるように声をかけました.見回してみて,だいたい書き終わったなと感じるぐらいの時間でストップをかけます.
②次にこのプリントを周りの学生と交換させます.これにより直接話し合わせるよりもハードルが下がります.こちらはおおよそ3分程度です.この手順は,学内のFDの一環として,愛媛大学の小林直人先生の講演で学んだことを活用しました.小林先生によれば双方向のアクティブ・ラーニングのために"Think, Pair, Share"が有効であるとのことです.つまり「1人で考え」→「2人で考え」→「複数で考え、意見を集約させる」という手順を踏むわけです.というわけで,①でThinkさせ,②でPairを組ませました.
③座っていた位置で分け,8~10人程度を1グループとしました.グループ毎に意見を集約させ,発表してもらいました.意見の集約に5分程度時間をとりました.また同時に発表者を決定するように伝えました.学生にとってあまり経験のない作業であるので,真剣に議論できるか不安もあったのですが,前半の振るい落としの効果もあってか,また比較的話しやすいテーマであったためか,どのグループも熱心に話し合っているように見えました.
 学生が発表した意見は以下の通りです.
・教育を受けられない状態
・食糧(栄養)不足
・低所得
・粗末な住居,住居がないこと
・モノがないこと
・失業
・医療を受けられない状態
・内戦
・治安が悪い状態
・衣料がないこと
・子供が働かされること
・孤立していること
 後に提出させたプリントを見てみると,これらに含まれないものもいくつかったので,自分の意見をグループ内での議論で伝えられないケースがあったのかもしれません. 

今回の結果
 結果は「学生の満足度」と「議論の深さ」の2点について評価することができると思います.自己評価ではどちらについてもほぼ成功だと思います.修正が必要な点は特に感じませんでした.グループ・ディスカッションに時間を割くため,これまでより説明できる内容がかなり減ると予想していましたが,意外にもさほど変わりませんでした.学生が授業に集中しているため,具体例の提示が少なくて済んだのかもしれません.
「学生の満足度」
 他の講義では積極的に講義に取り組んでいない学生も,意外と楽しそうに議論に参加していました.現時点では,聞き取り調査やアンケート調査を行っていませんが(今後,複数回やる予定です),あくまで実感ではかなり満足度は高いと感じました.
「議論の深さ」
 貧困とは何かへの答えは,衣食住や所得など物質的な要因を挙げる学生が多いのではと予想しましたが,精神的充足に関連した意見も多く,十分に深い議論になっていたと感じました.特に孤立については次週の講義内容でもあったので(学生から出てこないと思っていた),驚きました.

 配布したプリントには,次回の講義内容も含んでおり,それらに記入して後日提出するよう指示しました.次回の学習内容にスムースに移行できる狙いがあります.

学生参加型授業についてのメモ その2 へ続く.

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