2007年12月6日木曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第11回

 今日は市場の失敗のうち,情報の非対称性でした.

【授業の内容】
 完全競争市場の条件には完全な情報というものがありましたが,それが満たされない場合が本日のテーマである情報の非対称性です.

 情報の非対称性とは,売り手と買い手が財について保有している情報が異なることを指します.授業の例で言えば,中古車については売り手(中古車屋)の方が買い手(消費者)よりも明らかに情報をたくさん持っていますよね.その中古車を仕入れたときの値段はもちろん,専門的な知識を使って我々消費者にはわからない品質に関する情報を持っているはずです.

 さて,このような情報の非対称性が発生する財には特徴があります.財が持つ品質の情報について次の3つに分類しました.
・探索財
・経験財
・信用財
 このうち探索財については事前に品質に関する情報が明らかなため,情報の非対称性は発生しません.以後の分析対象はすべて経験財もしくは信用財についてです.

 分析の手始めとして中古車市場,いわゆるレモン市場を紹介しました.ここでは上述の通り,売り手と買い手で情報の非対称性が発生しています.売り手は品質の良い自動車と悪い自動車を区別できますが,買い手には区別ができないため,買い手は良い自動車と悪い自動車の存在比率から期待値を計算し,それを下回る価格でしか中古車を購入しません.
 しかし売り手にとって見れば,その価格でも売っても良いと思えるのは品質の悪い自動車(レモン)だけなので,結果として市場には欠陥車ばかりが出回ることになります.まさに悪貨が良貨を駆逐してしまうのです.

 次に生命保険市場を分析しました.ここでは生命保険の購入者として,自身の健康に自信がある人と健康に自信がない人の2種類を想定します.それぞれ自身が病気すると思われる確率から払っても良い保険料を計算します.健康な人は保険料を低く見積もるし,不健康な人は少々高くとも保険に入りたいと思うでしょう.
 一方,購入者の健康に関する情報を持っていない保険会社の営業は,健康な人と不健康な人の区別がつきません.そのため,全員入ってくれた場合に利潤が出るような平均的な保険料を計算して,それを提示するしかありません.
 結果としてその保険料でも保険に入りたいと思うのは,自身が不健康だと認識している人だけなので,保険会社にとっては大赤字になることでしょう.不健康な人にとってみれば,健康な人のおかげで安く保険に入れることになります.
 このように情報の非対称性により特定の売り手or買い手ばかりが集まることを逆選択と言います.先ほどのレモン市場も逆選択の1例です.

 さらにこの保険市場を例に話を進めれば,生命保険に入った人の中には,「これからは病気や怪我をしても保険が下りるから安心だ」と思って暴飲暴食をしたり,危険な行動を取る人がいるかもしれません.このように情報の非対称性を伴う契約により行動が変化することをモラル・ハザードと呼びます.マスコミでモラル・ハザードという言葉が使われている場合には誤用が多いように感じます.皆さんは気をつけましょう.

 最後に情報の非対称性による市場の失敗を防ぐ手段を説明しました.簡単に言えば非対称的だからダメなわけで,情報が対称的になれば良いわけです.まずはシグナリングを紹介しました.これは品質そのものの情報は手に入らなくても,品質を示すシグナルを見つけて品質を推測するというものでした.高卒と大卒の初任給が違うこともシグナリングから説明できました.中古車の1年保障などもシグナルと言えそうですね.
 次に評判(reputation)を説明しました.これは1回限りの契約だと,相手を騙すことができるので継続して契約することで情報の非対称性を無くすということでした.年功序列の合理性もこれで説明できます.

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