2008年11月17日月曜日

ミクロ経済学ベイシックⅡ 第10回

 今日は情報の非対称性についてでした.

【授業の内容】
 完全競争市場の条件の1つに完全情報というものがありました.今回は取引を行う経済主体の一方が不完全な情報しか持っていない場合(情報の非対称性)に何が起こるかを説明しました.

 まず,財についての情報を消費者が入手可能かどうかで,財を3つに分類しました.
探索財:事前に情報を入手可能なもの
経験財:購入後に情報を入手可能なもの
信用財:購入後も情報を入手不可能なもの

 さて,買ってみないと当たりか外れかわからないような財である中古車の市場(レモン市場)では何が起こるのでしょうか.
 売り手は財の品質について十分な情報がありますが,買い手は車の品質の良いのか悪いのかわかりません.ただし,良い車と悪い車がどれぐらいの割合で存在しているかだけは知っているとします.すると買い手は,目の前の車に対し,良い車である確率と悪い車である確率から,車の評価の期待値を計算します.価格がその期待値を下回れば購入し,上回れば購入しません.
 授業の数値例では,結果として品質の悪い中古車しか流通しないことが明らかになりました.

 さて次は,逆に生命保険市場の様に,買い手は十分な情報を持っており,売り手は情報をあまり持っていない場合を考えてみました.
 こちらでは健康に問題のある人ばかりが生命保険に加入するという問題が起こりました.この2つの例のように,情報の非対称性により,特定の売り手,買い手ばかりが集まることを逆選択と呼びます.

 逆選択と混同されやすいものとして,モラルハザードがあります.モラルハザードとは,ある取引の前後で経済主体の行動が変化してしまうことです.例えば,それまでは安全運転をしていた人も,任意の自動車の損害保険に入ったことで安心し,「事故しても保険会社が払ってくれる」と運転する際の危険回避を怠るかもしれません.これは逆選択とはまったく異なる現象です.
 元々事故を起こしやすい人が集まってくるのが逆選択であり,保険に入ったことで危険な運転をするようになるのがモラルハザードです.前者は運転手の行動は変化していませんが,後者では変化しています.

 ちなみに授業で例として出した交通違反保険ですが,ネットで調べて見ると現在も存在するようです.(Googleで「交通違反 保険」で検索)
 ある企業の例だと,保険料は年間6000円だそうです.逆選択の問題をどうやって解決するのだろうかと思い調べてみると,後述の評判(reputation)を使っていました.初年度の会費は高く,無違反だと年々保険料が安くなるようです.採算が取れるんかな?と心配しましたが,あんまり違反を重ねていると,免停になるので,保険金はある程度限られるのでしょうね.それにしても6000円で採算が取れるのかなぁ…?
 ちなみに金融庁から指導が入り廃業というニュースも見つかりましたし,無認可共済ですので,この保険に入りたい人はよく考えてからにしましょう.

 さて,このような情報の非対称性の問題をどうやって解決するのでしょうか.対策としては次の2つがあります.

1.シグナリング
 これは,その財そのものの品質がわからないときは,その財の品質と関係しているであろう手がかりで判断するというものです.例えば,3年間の品質保証が付いている中古車は,付いていない中古車よりも品質が良さそうです.なぜなら,すぐに壊れるかもしれない中古車の修理を保証するにはコストがかかりすぎるからです.
 また学歴別の賃金もこのシグナリングで説明することが可能です.

2.評判
 これは過去の購入,あるいは他者の購入から,その財の品質を予想できるというものです.観光客が来るだけで,地元の常連客が来ない飲食店は,別に美味しい料理を提供する必要はありません.なぜなら美味しかろうと不味かろうと,その客は一度来るだけなので,どっちでも良いのです.こういう戦略はひき逃げ戦略と言います.
 ただし,地元の人が集まる店は(例えば大学近くの定食屋)そうはいきません.不味いとわかれば,もうその客は二度と来ないでしょう.こういう店ではひき逃げ戦略は使えません.
 皆さんは宝石を買う場合,百貨店で買いますか?それとも露店で買いますか?百貨店に店舗を出している店の場合,偽物を売るわけにはいきません.今後の商売に響くからです.ただし,露店では偽物を売っても(法的にはともかく)経済学的に問題ありません.なぜなら,もう二度とその客と会うこともないからです.
 授業では年功序列も,評判を用いた情報の非対称性への対処方法だと説明しました.

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