2009年5月16日土曜日

開発経済学 第6回

 今回は農業でした.農業をミクロ・マクロの両面から捉え,緑の革命が何をもたらしたのかを紹介しました.

【授業の内容】
 かつてマルサスは,食糧は算術級数的にしか増えない(つまり1次関数的に直線)のに対して,人口は幾何級数的に増える(つまり二次関数的に放物線)ため,将来,必然的に食糧不足が起きると予言しました.なぜなら農業は土地がなければ生産できませんが,土地は有限であるため,農地を増やすには限界があるからです.一見,説得力のありそうなこの予言ですが,その後どうなったか見てみましょう.

 まず,農業を経済学的に眺めてみます.マクロ的には,先週の工業との対比で捉えました.ヌルクセやプレビッシュたちは輸出ペシミズム論を唱えました.一次産品の輸出に依存した経済開発は困難であるというのが,その内容です.その背景には,一次産品の工業製品に対する交易条件は長期的に悪化傾向を辿るというプレビッシュ=シンガー命題があります.
 もう少し詳しく言うと,先進国(工業国)で技術革新が起きると,それは所得の増加をもたらすのに対して,途上国(農業国)で技術革新が起きると,それは所得の増加ではなく,農作物価格の下落を引き起こすとされています.そのため,先進国は所得も増え,さらに食料品を海外から安く買うことができるという二重の恩恵を受けますが,途上国は生産物価格が下落するため所得はあまり増えないので輸入品(工業製品)を手に入れるのにさらに苦労するというひどい目に遭います.

 一方,ミクロ的側面からは農業はどんな風に捉えられるでしょう.食糧を土地と労働の投入からできる生産物と捉えれば,(土地面積が一定であるという条件のもとでは)労働投入量が増えれば増えるほど,1人あたりの耕作面積と1人あたり生産量は減少します(限界生産力逓減).つまり,人口が増えれば増えるほど貧しくなるのです.
 実際,インド,パキスタン,バングラデシュなどアジアのほとんどの国では,1人あたりの耕作面積が減少しています.
 農家が貧困から脱却するには,人口減少(制限),余剰労働力を都市への流出,収穫効率の改善が考えられます.緑の革命はこの3つ目,農業における収穫効率の改善,しかも驚異的な改善でした.

 緑の革命は1960年代までにメキシコと東南アジアで,1980年代までには南アジアでも起こりました.高収量品種,灌漑設備,肥料という3つの要因により,世界の食糧生産は急増しました.マルサスの予言とは異なり,この革命により,人口成長を上回るペースで食糧生産量が増加したのです.
 現在,アフリカでも緑の革命が起きようとしています.その武器の1つがネリカ(New Rice for Africa)です.アジアイネの高い収量性とアフリカイネの乾燥に強く,病虫に強いという性質を併せ持ったイネです.UNDPや各国政府がその導入に向けて活動しています.今後,人口爆発が予想されるアフリカの未来は,このネリカがアフリカに根付くかどうかによって大きく変わるかもしれません.

 さて,来週は人口問題かマイクロ・ファイナンスのどちらかをやります.

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