2009年10月31日土曜日

経済学Ⅰ 第5回

 今回は失業についてです.マクロ経済学の目的の1つは失業を減らすことです.最近,失業率が上がっていると報じられていますが,果たしてあの失業率は何を意味しているのでしょう?

【授業の内容】
 現在の完全失業率は5.5%です(2009年8月,厚生労働省「労働力調査」).「ふむふむ5.5%の人が失業しているのだな」とわかりますが,果たして失業者とはどんな人なのでしょう?学生の皆さんは失業者ですか?フリーターは?家事手伝いは?おじいさんやおばあさんは?ニートは?
 厚生労働省の定義によると,完全失業者とは次の3つの条件を満たした者のことです.(厚生労働省「労働力調査」http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/definit.pdf
①仕事がなく調査期間中に少しも仕事をしなかった
②仕事があればすぐに就くことができる
③調査期間中に,仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた
 「会社が倒産してしまい,しばらくの間仕事を探していたが,当面の生活費を得るためにコンビニのバイトをしている人」は我々のイメージからすると失業者ですが,完全失業者の定義にあてはめると,条件の①に該当しないため失業者ではありません.このように考えると,完全失業率における失業者とは,我々が考える失業者のほんの一部のようです.実際には5.5%よりずいぶん多い割合の人々が仕事を探していると考えられます.
 ちなみに完全失業率の計算は,上記の完全失業者数を労働力人口で割り,%で表示したものです.

 さて,どうして失業が発生するのでしょう?古典派とケインズ派それぞれの主張をまとめてみましょう.
古典派:(労働)市場は完全に機能している.そのため失業者は自発的失業者だ(働きたくないから働いていないのだ).より低い賃金を受け入れさえすれば失業者はいなくなる.
ケインズ派:(労働)市場は不完全である.失業者が多くても賃金が下がらないため,失業は減らない.つまり非自発的失業が発生している(働きたくても仕事がない人がいる).
 ケインズ派の賃金が下がらない(下がりにくい)という主張は,賃金の下方硬直性と呼ばれています.

 賃金の下方硬直性を説明する仮説はいくつかあります.授業では次の4つを説明しましたね.
・労働組合の存在
・相対賃金仮説
・効率賃金仮説
・インサイダー・アウトサイダー仮説

 しかし,現実には近年,賃金が下がっているような気がします.といっても,正社員の賃金ではなく,労働者全体の賃金が,です.なぜならフリーター,パート,派遣社員といった非正規労働者の割合が増加しているからです.総じて,非正規労働者は正社員に比べ賃金が低いため,非正規労働者の割合が増加すると,日本全体として労働者の平均賃金が下がることに他なりません.
 なぜこのような非正規労働者が増えたのかについては諸説ありますが,僕の見る限り,少なくとも「正社員として縛られたくないので自由な派遣社員・フリーターを選んだ」のではなく,「正社員としての採用を得られないので,仕方なく派遣社員・フリーターをやっている」人が多いように思います.つまり労働者のニーズによるものではなく,企業側の都合のように思えます.
 背景には1999年の法改正により,以前は専門的な一部の業種にのみ認められていた派遣が,一部の業種を除いて全面的に派遣が可能になったという,法的な側面があることは間違いありません.結果として雇用する企業側,そして人材派遣会社は儲かったでしょうが,日本にワーキング・プアー,貧困という問題を発生させる一因となったと考えられます.

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