2007年6月26日火曜日

経済学A 第12回

 今日は少子化問題を取りあげました.前回は日本の財政でしたが,今後の財政問題は少子化(高齢化)と密接に関係があるのは言うまでもありません.最後に告知があります.

【授業の内容】
 この講義を通じて「なぜ少子化が起きるのか?」,「少子化はなぜ問題なのか?」について自分なりに答えが出せるようになって欲しいと思います.
 まずは,そもそも「少子化はなぜ問題なのか?」について,経済学の立場からメリットとデメリットを紹介しました.

デメリット
・人口バランスが崩れることによるもの
 ・社会保障費の増加と負担 Ex.年金,医療,介護
 ・巨額の国債残高
・労働力人口の減少によるもの
 ・GDPの減少
 ・国際社会での存在感,発言力
 ・税収の減少
 (おまけ:クズネッツの才能原則)
メリット
・1人あたり資本の増加(1人あたり所得増加)
・環境負荷の軽減,人口過密の緩和

 続いて,「なぜ少子化が起きるのか?」を説明するために,合計特殊出生率の推移,女性就労のM字型曲線有配偶率と有配偶出生率などを説明しました.少子化のほとんどは有配偶出生率の低下ではなく,有配偶率の低下により説明できます.つまり,結婚した女性が子どもを産まないのではなく,そもそも結婚が遅い(晩婚化),あるいは結婚しない(非婚化)が原因であるようです.男性の生涯未婚率の高さには驚いたのではないでしょうか?
 また,女性の高学歴化とともに出生率が低下したのを説明する理論として,バッツ=ウォード(Butz and Ward)モデルを紹介しました.紹介と言っても結論だけですけどね.出産の費用には,入院費用から始まり育児,教育などの直接的な費用だけでなく,出産による機会費用も含まれます.女性が高学歴化すると,この機会費用が高くなるので(中卒の女性よりも大卒の女性の方が賃金が高い),女性にとって出産の費用が高くなってしまうのです.内閣府は平均的な大卒女性が出産後にパートとして働く場合と,出産を経ずにそのまま働き続けるケースを比べ,生涯賃金が2億円も違うと推計しています.(内閣府 平成17年度国民生活白書)http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h17/01_honpen/html/hm03010303.html
 もちろんお金だけでなく,女性にとってキャリアを中断してしまうことが,結婚・出産の障害となっているのはよくある話です.みなさんがどのような働き方を望むかわかりませんが,今のうちから理想の働き方を実現するために何が必要なのか,考えておく必要があるでしょう.

 さて個人の話ではなく,国にとっての少子化に話を戻しましょう.少子化は社会保障の面で国の根幹を揺るがす重大な問題です.日本も遅まきながら少子化対策に本腰を入れてきました.考え得る対策には次のようなものがあります.
女性の就労継続支援・・・育児休暇の取得を促進する,あるいは保育施設を整えるなど働く母親をバックアップすることで,出産の機会費用を軽減することができるはずです.
手厚い育児給付・・・フランスには24種類もの子ども手当があるそうで,国家を挙げて少子化対策に取り組んだ結果,合計特殊出生率は10年間で1.6から1.89へと上昇しました.しかし,お金を配るには財源が要るわけで,フランス並みに給付するには10兆円が必要だという試算もあります.
移民の受け入れ・・・これは現在の日本では抵抗が強く,実現しにくいでしょうが,移民を多く受け入れるアメリカでは,移民の出生率の高さが国全体の出生率を押し上げています.ただし,移民以外の出生率も高いのが不思議なところです.なぜなのでしょうか・・・?僕には答えは出ていません.

告知.1
 授業内で告知した通り,試験は持ち込み一切不可です.まぁ,それほど難しい問題はでません.

告知.2
 来週は「開発経済学」についてやります.それに関連して,7月5日(木)4限に23504で,外務省国際協力局国別開発協力第一課 課長補佐・南西アジア専門官の佐藤仁美様をお迎えして,:「南アジアの貧困撲滅に対して日本はどのような役割を果たしているか。また、我々個人には何ができるのか」というテーマで講演をしていただきます.世界の貧困問題,国際貢献,ボランティアなどに関心のある学生はぜひどうぞ.

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