2009年4月18日土曜日

開発経済学 第3回

 今回は,なぜ貧困はなくならないのか?を考えました.

【授業の内容】
 なぜいつまで経っても貧しい国はなくならないのでしょう?逆に,日本のようにかつては貧しかった国でもめざましい経済発展を遂げ,先進国の仲間入りをした国もありますが,貧しいままの国と発展した国の違いはどこにあるのでしょうか?

 まず,なぜアフリカは貧しいままなのかを理解するために,次のようなシチュエーションを想像してもらいました.
・あなたは貧困国の農村部に生まれた.
・家庭は貧しく,教育は受けられなかった.
・現在では一家の大黒柱であり,配偶者と5人の子どもを支えている.
・資産はそれほど大きくない畑だけであり,その収穫のほとんどは自前で消費してしまう.
・子どもたちを学校に通わせる余裕はなく,様々な手伝いをさせている.
 さて,このような状況下であなたにできることは何でしょうか?どんなにがんばっても畑からの収穫量には限界があります.字の読み書きもできないし,権力者とのコネもないので現金収入が得られるような仕事にも就けません.そうなると,今の貧しい状況から抜け出すことはかなり難しそうです.つまり現在貧しいから,将来も貧しいのです.しかもさらに恐ろしいことに,今のままでは子どもたちは大きくなった時にもっと貧しい可能性があります.なぜなら畑を複数の子どもに分けてやらねばならないかもしれないからです.
 このような貧しいが故に貧しいという状況はヌルクセによって貧困の罠と名付けられました.この罠からどうやって抜け出せば良いのでしょうか?

 ローゼンシュタイン=ロダンは,この罠から抜け出すためにはビッグ・プッシュが必要だと唱えました.一旦,この罠から抜け出せば,今度は豊かであるが故に未来も豊かであるという高水準均衡状態に落ち着けそうです.
 どのようなビッグ・プッシュが望ましいかについて,ヌルクセ均斉成長戦略を主張しましたが,ハーシュマン不均斉成長戦略を主張しました.一見,相反する両者の主張ですが,政府が主導である,輸入代替戦略である,という共通点があります.かつての日本や現在の中国のように政府が主導的な役割を果たさなければ罠から抜け出すことは困難なのかもしれません.
 この他,"take-off"で有名なロストウの経済発展段階理論も紹介しました.

 さて,そもそも経済成長は貧困を削減するのでしょうか?この問いについて,クズネッツは逆U字仮説を主張しました.結論としては,経済成長により最初は不平等を招きますが,さらなる成長によりその不平等は小さくなっていくというものです.しかし,この仮説は後に「一般的ではない(どの国にも,いつでも通用するわけではない)」として棄却されました.
 また,つい最近までいくつかの国では,豊かになるのが一部の人(国)だけであったとしても,そのおこぼれは貧困層(国)にも届くはずだ,というTrickle down仮説が横行していましたが,経済学者たち(Dreze and Sen,1989)は歴史から,それが誤っていることを証明しました.経済成長すれば貧困は削減されるのではなく,経済成長とともに適切な公共政策が実施された時のみ貧困は削減されるのです.

 経済成長を妨げる要因としてついつい見逃しがちですが,地理的要因や偶然も実は国の将来を大きく左右する点も指摘しておく必要があります.

 今回の結論としては,貧困の罠から抜け出すためには,政府主導のBig Pushが必要であるが,「経済成長=貧困削減」ではなく,公共政策も欠かせないこと,また国によって成長を妨げる要因は様々なので,同じ処方箋を複数の国に使い回すことは効き目がないだけでなく,貧困を悪化させる可能性があるということです.

【今回の内容に関連した図書】
ジャレド・ダイヤモンド
  「銃・病原菌・鉄」草思社
ウィリアム・イースタリー
  「エコノミスト 南の貧困と闘う」東洋経済新報社
渡辺利夫
  「開発経済学入門」東洋経済新報社
いずれも図書館にありますよ.

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