2008年6月24日火曜日

経済学A 第9回

 今日は,貿易とグローバリゼーションについてです.例年はそれぞれ分けて2回で講義をするのですが,アンケートの結果をもとに短縮版で行いました.

【授業の内容】
 前半は貿易についてです.後半との絡みでいえば,商品の貿易と限定した方が良いかもしれません.
 まず,良い変化とは何かを理解するために,パレート改善という概念を紹介しました.パレート最適とは,「他の人を不幸せにすることなく,誰かが幸せになること」です.これを良い変化と仮定して,貿易により両国の幸せ(豊かさ)はどのように変化するか検証しました.
 今日説明した内容は,リカードの比較生産費説と呼ばれるもので,入門の経済学のテキストを読むとしばしば出てきます.相手国と比較して,ある商品を効率的に生産できることを絶対優位と呼びます.まず,両国が互いに絶対優位を持つ産業を持っているケースを考えました.この場合,両国はそれぞれ自国が得意な産業に特化し,それを交換することで両国ともより豊かになりました.つまり貿易によりパレート改善するわけです.これはまぁ予想通りでしょう.
 次に,どんな産業でも絶対優位を持つ国と,逆にすべてに関して絶対劣位にある国の貿易は成り立つのか?どっちが得をするのか?について考えました.他国と比較して絶対優位にある産業が無くても,比較優位は(ほとんどのケースで)発生します.比較優位とは,「(Aの生産もBの生産も)どちらも苦手だけど,(Bに比べればAの方が)まだマシ」であったり,「(A,B)どっちも得意だけど,(Aに比べれば)こっち(B)が特に得意」というものです.このように比較優位しかない場合でも互いに比較優位にある産業に特化し,貿易することで両国とも豊かになる可能性があることがわかりました.
 ただし,国レベルで見れば豊かになった,で良いのですが,その背景には生産調整という名の下に倒産や解雇が行われていることでしょう.つまり,貿易すると(国際市場に参入すると),他国と比べて非効率的な生産をしている産業は縮小する可能性があります.日本はかつて,アメリカと比べ繊維産業に絶対優位があったので,アメリカの繊維産業は衰退しました.現在の日本の繊維産業は中国などの途上国に比べ絶対劣位にあるので,淘汰されつつあります.

 後半はグローバリゼーションについての説明をしました.先日,自民党内の一部の議員が福田首相に「移民立国」として,1000万人の移民受け入れを提言しました.その先駆けか,7月にはインドネシアから305人の看護師,介護士がやってきます.看護,介護の業界はどちらも重労働であることから,日本では人手不足です.人が足りないから外国から受け入れる,理に適っているような気もしますが,果たして何が起こるのでしょう…?
 今,東京でNTTの番号案内104に電話をかけると沖縄にかかるそうです.アメリカでは一部の企業のサポートセンターはインドに存在します.どうしてそれぞれ,東京,アメリカにコールセンターを作らないのでしょうか?その理由は東京よりも沖縄,アメリカよりもインドで人を雇った方が賃金が安いからです.しかし,20年前はこんなことは不可能でした.なぜなら賃金の差より,通信コストの方が高い,もしくはそもそも技術的に不可能だったのかもしれません.またトーマス・フリードマンの「フラット化する世界」の中では,アメリカ人中学生の家庭教師をオンラインで行うインド人青年の話が取りあげられていました.これまで距離の壁で分断されていたことが可能になりつつあります.
 今回の貿易との関係で言えば,20世紀まではモノのグローバル化であったのに対して,21世紀の現在,サービスのグローバル化が現実のものとなっています.これまで距離の壁で守られていたサービス業が,ネットにより世界市場で競争することを余儀なくされました.日本は幸い(不幸にも?),言語の壁があるため,アメリカほどサービスのグローバル化には晒されていませんが,それも時間の問題でしょう.グローバル化は誰にとっても避けられません.

 最後に不可避であるグローバル化を生き抜くためのテクニックの1つを紹介しました.日本人にとって,国際的な競争での武器は教育水準の高さです.これについては世界中の多くのライバルたちより有利な条件にいます.特に大学に来ている学生のみんなは世界的に見れば本当に恵まれた存在です.
 一方,僕から見たみんなの欠点は,欲の不足です.欲と言っても,食欲や睡眠欲ではなく,意欲や知識欲です.「~になりたい!」,「もっと~が知りたい!」という意欲では圧倒的に負けているでしょう.中国の大学の図書館の話をしましたが,皆さんはどう思いましたか?僕は少し怖くなりましたが,皆さんも同じくらい危機感を持ってくれると,ほとんどの問題は解決されると信じています.

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