2008年6月26日木曜日

開発経済学 第12回

 今回は貧困と教育です.これまでにもしばしば言及してきたテーマですが,今日はしっかりやりました.

【授業の内容】
 まず,国際条約である「子供の権利条約」を紹介しました.これには日本も含め,世界の193の国・地域が締約しています(例外はアメリカとソマリア).この条約には初等教育の義務化,中等・高等教育へのアクセスなどが明記されていますが,現状ではすべての子供が初等教育を受けられるわけではありません.

 子供への教育プロジェクトとして,OLPCプロジェクトを紹介しました.グローバル化したこの世界においてはネットにつながることは,タダで多くの情報に接するだけでなく,収入を得るチャンスでもあります.OLPCプロジェクトには障害も多く,順調とは言えないようですが,がんばってほしいものです.OLPCの詳細は以下参照.
公式HPhttp://www.laptopgiving.org/en/index.php
OLPC(Wikipedia日本語版)http://ja.wikipedia.org/wiki/OLPC

 これまでも教育の重要性については,貧困の連鎖についてなどで説明してきました.今回は,親はなぜ子供に教育を与えるのか,与えないのかを中心に説明しました.

 まず,教育を受けさせる理由ですが,以下の3つに大別できます.
・利他的動機:子供の幸せが親の幸せである.
・利己的動機:投資としての教育,消費としての教育
・義務

 このうち,投資としての教育に焦点を当て,教育の収益率を紹介しました.Psacharopoulos and Patrinos(2002)の推計によれば,初等教育の私的収益率は地域による違いはあるものの,およそ10%程度と結構高いようです.
 しかし,貧困層の多くは就学しません.その理由として,直接的費用と機会費用があります.直接的費用とは,学費,制服・文具代,交通費などのコストのことです.途上国であっても初等教育については学費が無償という国は少なくありませんが,学費以外の費用もバカになりません.また,それと同様に就学の足枷になっているのが機会費用です.日本では小学校に行かずに働き賃金を得ることはほぼ不可能ですが,途上国では子供であっても労働力として家計を支えることは珍しくありません.農村部であれば農業,水汲みなどに,都市部であればインフォーマルな労働に従事する機会があるでしょうし,女の子は子守りなどの役割が期待されることもあります.

 つまり,基礎教育が義務的なものであってもそれをまっとうしない背景には,就学させる余裕がない,就学させるより働かせた方が良い,という合理的な選択である可能性があります.ではその選択を尊重すべきか?というと,そうとも言えません.
 なぜなら投資としてみた教育は外部性を持つという特徴があるからです.つまり私的収益率だけでなく,社会的収益率も考慮しなければ社会的に最適な教育水準は達成できず,資源配分に非効率性が生じます.そのため,国(あるいは援助機関)が教育のコスト低減,あるいは無償化のため支出する必要があります.

 最後に貧困の連鎖を断ち切るプロジェクトとして,バングラデシュのFFEを紹介しました.経済学的に考えれば,親は子供を働かせる場合と,就学させる場合のメリット,デメリットを比較し,有利な方を選択するはずなので,就学するメリットを増やすというのは理に適っていますね.まぁ,親が教育に対して,どれだけ功利的に選択しているかは検証が必要でしょうが.

 来週はガバナンスについてやろうと思っています(未定).

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