2007年5月10日木曜日

開発経済学 第5回

 今日は工業化と貿易についてでした.日本とASEANとのEPAが大筋合意しましたし,先日はオーストラリアと交渉を開始するなど,日本も諸外国との貿易協定に本腰を入れてきたようですね.

【授業の内容】
 さて,日本は自由貿易協定をなぜ今、結ぶのか?というのが今回のテーマです.かつて途上国であった日本も輸入代替工業化戦略により,産声を上げたばかりの自動車業界を保護して育て上げた実績があります(幼稚産業保護政策).しかし,今はどこでも自由貿易,市場の開放,グローバリゼーションを押し進めているようにも見えます.それはなぜか?輸入代替工業化戦略にはいくつかデメリット,あるいは前提条件がありました.前提条件としては,国内市場がある程度大きい必要があります.小さな市場では規模の経済が働かず,効率的な生産ができません.また幼稚産業もある程度大きくなると,国内市場を食い尽くしてしまうため,更なる成長を望めば必然的に輸出へと転換せざるを得ません.また,輸入代替,つまり輸入障壁を設け,外国製品の流入を防ぐ手段の1つとして自国通貨安への誘導があります.しかし,これは貿易収支の悪化を招く恐れがあります.
 赤松要の雁行形態論によれば,輸入代替生産をしていた部門も成長すれば輸出に転じることになります.では,次に輸出指向工業化戦略についてですが,こちらのメリットは,まず,比較生産費説が挙げられます.比較生産費説とは,比較劣位にある産業が淘汰され,生産資源が比較優位にある産業に移るため,国全体として豊かになります.また貿易相手についても同様のことが起こりえるため,貿易により両国が豊かになるというものです.
 次に,貿易により技術が伝播することが考えられます.実は中国は15世紀あたりまでは世界最高峰の文明を誇っていました.製紙法,火薬,羅針盤,印刷術などはすべて中国で発明されています.しかし,その後は西洋との交流が途絶えたため,中国文明の相対的地位は徐々に下がっていきました.産業革命が鎖国した中国ではなく,7つの海を制したイギリスで起こったというのも象徴的です.
 最後になりましたが,なんといっても貿易の自由化は競争を引き起こします.国内企業も安穏とはしていられません.競争は成長にとっては重要な要因なのです.

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